タイの水道水と服薬|中硬水・氷の安全性と薬剤師推奨ミネラルウォーター

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タイの水道水は飲めるか?(安全性の実態)

タイの水道水は、バンコクなどの都市部では浄化処理が行われており、微生物学的には基本的に安全です。タイ保健省(Ministry of Public Health)およびメトロポリタン・ウォーターワークス・オーソリティ(MWA)は、水質基準をタイ工業規格(Thai Industrial Standard: TIS)に基づいて管理しており、WHO基準に準拠しています。

しかし、現実的には以下の点に注意が必要です:

  • 配管の老朽化:建物の内部配管が古いと、赤錆や微生物増殖のリスクあり
  • 地域差が大きい:農村部やチェンマイなどの北部では処理水準が異なる
  • 渡航者の消化管適応:地元民には安全でも、来訪者には腸内細菌叢の違いから下痢リスク

WHOおよびCDC(米国疾病管理予防センター)の公式ガイダンスでは、タイ都市部の水道水は理論上飲用可だが、観光客には市販ミネラルウォーターの利用を推奨しています。

水道水の微生物リスクをさらに深掘り

タイの水道局(MWA・PWA)は塩素処理によって病原微生物の多くを不活化しています。ただし、問題となるのは給水管末端(蛇口)に至るまでの二次汚染です。とくに古いアパートやゲストハウスでは配管の鉛(Pb)溶出も懸念されており、WHO飲用水ガイドラインの鉛上限値(0.01 mg/L)を超えるケースが非公式に報告されています。長期滞在者・乳幼児連れの旅行者は、蛇口水への依存を最小限にすることが望ましいといえます。

また、**クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)やジアルジア(Giardia)**などの原虫は塩素耐性を持つため、処理済み水道水でも完全な除去は保証されません。これらは短期渡航者の旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea: TD)の一因となり得ます。CDC のデータによれば、東南アジアへの短期渡航者の旅行者下痢症発生率は渡航2週間あたり20〜50%と推定されており、予防の観点からも市販ボトルウォーターの徹底利用が合理的です。


硬水?軟水? — タイの水の成分プロファイル

タイの水は中程度から硬い硬水が主流です。

硬度の目安

  • バンコク水道水:平均硬度 80〜120 mg/L(CaCO₃換算)
  • チェンマイ・北部:60〜100 mg/L
  • プーケット・南部:120〜180 mg/L(海岸部の塩分影響)

タイでは硬度が ppm(mg/L)および °dH(ドイツ硬度)で表記されることが多く、以下のように分類されます:

分類 CaCO₃ mg/L °dH
軟水 〜60 〜3.4
中硬水 61〜120 3.4〜6.8
硬水 121〜180 6.8〜10.1
非常に硬い 180〜 10.1〜

タイはほぼ全域で「中硬水〜硬水」に分類されます。

ミネラル成分の具体値

バンコク MWA 公式データより(目安値):

項目 濃度 (mg/L)
カルシウム (Ca) 35〜50
マグネシウム (Mg) 8〜15
ナトリウム (Na) 25〜45
塩化物 (Cl⁻) 40〜70
硫酸塩 (SO₄²⁻) 30〜50

ナトリウム含有量は比較的多く、高血圧患者や腎疾患患者には配慮が必要です。

硬度が健康・調理・薬剤に与えるメカニズム総論

硬水中のカルシウムイオン(Ca²⁺)およびマグネシウムイオン(Mg²⁺)は、単に「ミネラルが多い」という問題にとどまらず、薬物の吸収・溶解度・安定性に直接影響を与える化学的活性成分として機能します。

薬学的には、これらの2価陽イオンは以下の3つの経路で問題を生じます:

  1. キレート形成:薬物分子のカルボキシル基・アミノ基・ホスフォネート基と配位結合し、不溶性または難吸収性の複合体を形成する
  2. pH 変動:硬水は炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの加水分解により弱アルカリ性(pH 7.5〜8.5)を示すことがあり、酸性条件で溶解する薬物の溶解度を低下させる
  3. 腸管輸送妨害:難溶性複合体は小腸粘膜の刷子縁(brush border)を通過できないため、能動輸送・受動拡散いずれの経路も遮断される

この3点が組み合わさることで、薬物の経口バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が著しく低下します。次節以降で具体的薬剤ごとに解説します。


服薬時に注意が必要な薬剤(薬剤師が解説)

キレート形成による吸収阻害

タイの硬水に含まれるカルシウムおよびマグネシウムイオンは、特定の薬剤と複合体(キレート)を形成し、薬の吸収を著しく低下させます。

特に注意が必要な薬剤:

テトラサイクリン系抗生物質

  • ドキシサイクリン(一般名: doxycyclineドキシサイクリン
  • ミノサイクリン(一般名: minocycline)
  • 影響:吸収が30〜60%低下し、治療効果が減弱
  • 対策:服用の2時間前後は硬水を避け、蒸留水またはペットボトルのミネラルウォーター(硬度低い製品)で服用

薬動力学的解説:テトラサイクリン系薬物は分子内に複数のカルボニル基と水酸基を持つ「環状多座配位子」構造をとります。Ca²⁺およびMg²⁺はこれらの官能基と1:1または2:1の配位結合を形成し、安定な中性〜弱塩基性条件下で不溶性のキレート化合物となります。このキレートは小腸内腔で沈殿するため、刷子縁膜の輸送タンパク(主に受動拡散および一部の能動輸送系)へのアクセスが物理的に遮断されます。結果として Cmax(最高血中濃度)および AUC(血中濃度時間曲線下面積)がともに有意に低下し、感染症治療域に到達できない可能性が生じます。タイ滞在中にドキシサイクリンをマラリア予防薬として服用している旅行者は特に留意が必要です。

ビスフォスフォネート系薬剤

  • アレンドロン酸ナトリウム(一般名: alendronate sodium)
  • リセドロン酸ナトリウム(一般名: risedronate sodium)
  • 影響:カルシウムとのキレート形成で吸収が90%以上低下
  • 対策:起床時に純水(蒸留水またはRO浄水)で服用し、30分間は食事・他の水分摂取禁止

薬動力学的解説:ビスフォスフォネートは構造中に2つのホスフォネート基(-PO₃H₂)を持ち、Ca²⁺との結合親和性は非常に高く(解離定数 Kd はマイクロモルオーダー)。通常でも経口バイオアベイラビリティはわずか0.6〜1%程度ですが、硬水中のCa²⁺が同時に存在すると不溶性のカルシウム-ビスフォスフォネート複合体が瞬時に形成され、吸収はほぼゼロに近づきます。骨粗鬆症治療目的で服用している患者がタイ旅行中に硬水で服薬を続けた場合、数週間にわたり薬効を失う可能性があります。

キノロン系抗生物質

  • レボフロキサシン(一般名: levofloxacin)
  • シプロフロキサシン(一般名: ciprofloxacin)
  • 影響:カルシウム・マグネシウムとの複合体形成で吸収低下(20〜40%、目安)
  • 対策:蒸留水で服用し、2時間前後のミネラルウォーター飲用を避ける

薬動力学的解説:フルオロキノロン系薬物は分子内の4-オキソキノリン構造のカルボキシル基(3位)とケトン基(4位)がキレート部位となります。テトラサイクリン系ほど強固ではありませんが、Ca²⁺・Mg²⁺・Al³⁺・Fe²⁺と金属キレートを形成します。タイの硬水程度の二価陽イオン濃度でも、AUC の有意な低下が報告されています。旅行者下痢症や感染症の治療薬として処方されるケースが多いだけに、渡航先での服薬管理が治療成否に直結します。

鉄剤

  • 硫酸第一鉄(一般名: ferrous sulfate)
  • 影響:硬水に含まれるタンニン(茶・コーヒー)やリン酸塩でも吸収が阻害される傾向
  • 対策:蒸留水またはペットボトル水(硬度50未満)で服用。ビタミンC(アスコルビン酸)を同時摂取すると吸収促進効果が期待できる

薬動力学的解説:経口鉄剤は主にFe²⁺(第一鉄)として十二指腸・空腸上部の二価金属イオントランスポーター(DMT-1)を介して吸収されます。硬水の炭酸塩・リン酸塩成分はFe²⁺を不溶性のFe₃(PO₄)₂や炭酸鉄として沈殿させ、DMT-1 へのアクセスを妨げます。また、硬水が弱アルカリ性(pH >7)に傾くと Fe²⁺が Fe³⁺(第二鉄)へ酸化されやすくなり、さらに溶解度が低下します。貧血治療中の患者は渡航前に担当薬剤師へ相談し、蒸留水での服薬を必ず確認してください。

ホスホマイシン

  • 一般名: fosfomycin(ホスホマイシン)
  • 影響:吸収が30〜50%低下(目安)
  • 補足:尿路感染症治療薬として渡航先でも処方されることがあるため要注意

薬剤師メモ:

硬水中のマルチバレント陽イオン(Ca²⁺, Mg²⁺)は、テトラサイクリンと安定なキレート複合体 [Ca-Tet]²⁺ を形成し、小腸上皮での能動輸送を完全に遮断します。ビスフォスフォネートではさらに深刻で、水に溶解したアレンドロン酸とカルシウムの複合化により、不溶性のリン酸カルシウム様物質が形成され、腸管吸収がほぼゼロになる症例が報告されています。タイの中硬水〜硬水環境では、これらの薬剤を服用している患者は特に留意が必要です。なお、これらの相互作用は単回服薬で生じるため、「1回くらいなら大丈夫」という判断は薬学的に誤りです。


ナトリウム含有量に注意する薬剤

タイ水道水のナトリウム濃度(25〜45 mg/L)は WHO 飲用水ガイドライン推奨値(20 mg/L)をやや超過しています。1日2L の水分を水道水から摂取した場合、ナトリウム摂取量は最大で90 mg/日(食塩換算:約0.2 g/日)に達します。単独では影響は軽微ですが、食事からの塩分(日本人平均 10 g/日前後)との合計で考えると、循環器系・腎疾患患者では積み重ねが無視できません。

高血圧患者・心不全患者・腎疾患患者で以下の薬剤を服用している場合、1日の水分摂取に配慮が必要です:

  • ACE 阻害薬(エナラプリル、リシノプリル等)
  • ARB(ロサルタン、オルメサルタン等)
  • 利尿薬(フロセミド、ヒドロクロロチアジド等)

目安:調乳、調理、服薬には硬度50未満・ナトリウム15 mg/L 以下のミネラルウォーターを推奨。

甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)との相互作用

一般にあまり認識されていませんが、**レボチロキシン(一般名: levothyroxine)**も硬水・カルシウムとの相互作用が確認されています。カルシウムイオンと甲状腺ホルモンが難溶性複合体を形成し、吸収率が20〜30%低下するとする報告があります(目安値)。甲状腺機能低下症の治療中で毎朝空腹時に服薬しているケースでは、タイ滞在中も蒸留水または硬度50未満の軟水での服薬を心がけてください。

薬剤カテゴリ 主な相互作用機序 吸収低下率(目安) 推奨服薬用水
テトラサイクリン系 Ca²⁺・Mg²⁺ キレート形成 30〜60% 蒸留水または硬度30未満
ビスフォスフォネート系 Ca²⁺ とのリン酸塩様複合体形成 90%以上 蒸留水のみ
キノロン系 Ca²⁺・Mg²⁺ キレート形成 20〜40% 蒸留水または硬度50未満
鉄剤(第一鉄) リン酸塩・炭酸塩による沈殿 30〜50% 蒸留水または硬度50未満
ホスホマイシン Ca²⁺ との複合体形成 30〜50% 蒸留水または硬度50未満
レボチロキシン Ca²⁺ との難溶性複合体形成 20〜30% 蒸留水または硬度50未満

タイで買えるミネラルウォーター主要ブランド

ブランド比較表

ブランド 水源 硬度 (mg/L) ナトリウム (mg/L) 薬剤師コメント
Singha タイ東北部地下水 45〜55 12〜18 軟水〜中硬水。テトラサイクリン系・ビスフォスフォネート服用時に推奨
Nestlé Pure Life 処理精製水 75〜95 28〜35 中程度硬水。服薬時は蒸留水を別途用意推奨
Thai Pure チェンマイ山水 35〜45 10〜15 軟水。キノロン・テトラサイクリン服用者に最適
Vapor(蒸留水) 蒸留処理 〜10 〜2 医薬品グレード蒸留水。ビスフォスフォネート・テトラサイクリン等の服用時に最適
Mama Lemon(飲料水) RO 濾過 15〜30 5〜10 RO 水。軟水。一般的な飲用に安全で経済的。調乳にも適する
C Vit(ミネラルウォーター) 各地地下水 85〜110 40〜55 電解質高めでナトリウム多い。高血圧患者は注意

※各ブランドの数値は公表データおよびラベル表記に基づく目安値です。ロット・製造時期により変動する場合があります。

蒸留水・RO 水・ミネラルウォーターの違いを理解する

タイのスーパーやコンビニには複数カテゴリのボトルウォーターが並んでいます。薬学的に重要な違いを整理します。

種類 製造方法 硬度 ミネラル 薬剤服用時の適性
蒸留水(Distilled Water) 加熱蒸発→凝縮 5 mg/L ほぼゼロ 最適(とくにビスフォスフォネート)
RO 水(Purified/RO Water) 逆浸透膜処理 10〜30 mg/L 極微量 適(蒸留水に次ぐ安全性)
ミネラルウォーター(Mineral Water) 地下水・湧水 30〜200 mg/L 多様 種類による。ラベル確認必須
スプリングウォーター(Spring Water) 地表近くの湧水 変動大 変動大 ラベル確認必須

ラベルに「Distilled」「Purified by Reverse Osmosis」の記載があれば、服薬用として最も安心です。「Natural Mineral Water」の場合はナトリウムと硬度の数値を確認してから購入してください。

ラベルの見方

  1. 背面(Nutrition Information) に硬度(ppm, mg/L, °dH, °f など)の記載がある
  2. 「Mineral Water」「Purified Water」「Distilled Water」 の表記を確認
  3. ナトリウム (Sodium) の mg/L を確認(高血圧患者は 15 mg/L 以下推奨)
  4. タイ語表記の場合、「น้ำแร่(ナーム レー=ミネラルウォーター)」「น้ำกลั่น(ナーム グラン=蒸留水)」「น้ำดื่ม(ナーム ドゥーム=飲料水)」を目印に
  5. 「pH」表記がある場合、pH 6.5〜8.5 が飲用適正範囲。極端なアルカリ水(pH 9以上)は一部の薬物溶解性に影響する可能性あり

入手ルート

  • コンビニ(7-Eleven・FamilyMart・Lawson):小瓶(330mL500mL)。緊急服薬時に最も手軽
  • スーパー(Big C・Tesco Lotus・Central):大容量ボトル(1.5L〜2L)がコスト面で優れる
  • 薬局(Boots・Watsons):蒸留水ブランドを取り扱いあり。服薬専用に小瓶を複数確保可能
  • ホテルフロント:高級ホテルでは無料蒸留水提供あり。チェックイン時に "Do you provide distilled water?(ドゥ ユー プロバイド ディスティルド ウォーター?)" と確認を
  • 大型スーパー付設ウォーターステーション:自動販売機形式でRO水を補充可能(1L 1〜2バーツ程度)。長期滞在者はマイボトル持参で活用できる

氷・歯磨き・調乳水の扱い

氷(アイス)

  • バンコク市内のホテル・カフェ:浄化水から製造で比較的安全
  • 屋台・路上カフェ:水道水直接凍結の可能性あり。避けることを推奨
  • レストラン:高級チェーン店は安全、ローカル食堂は避ける

タイの氷には「管状の氷(ท่อน้ำแข็ง)」と「クラッシュアイス(น้ำแข็งหลอด)」の2種類があります。前者は製氷工場で衛生管理されたものが多く、後者は水源が不明なケースがあります。観光客は氷の識別が難しいため、免疫低下患者・乳幼児連れ・胃腸が弱い方は氷入り飲料を全般的に避ける判断が合理的です。

下痢・腸炎リスクが高いため、観光客は氷の使用を最小限に。

なお、旅行者下痢症の予防薬・治療薬に関しては [[traveler-diarrhea-medicine]] も参照してください。

歯磨き(うがい水)

  • バンコク市内の水道水でのうがいは理論上安全ですが、習慣的でない場合はミネラルウォーター(硬度 50 未満)でのうがいを推奨
  • 入れ歯の浸漬には蒸留水を使用(タンニンなどの沈着予防)
  • 歯磨き粉の使用で一定のリスク軽減は可能
  • コンタクトレンズ保存液の調製・洗浄にも水道水は使用しないこと(アカントアメーバ角膜炎のリスク)

調乳用水(乳幼児)

  • 必ず蒸留水または RO 濾過水を使用
  • 硬度 50 mg/L 以上の水での調乳は避ける(新生児の腎臓負担増加)
  • Mama Lemon(飲料水 RO 濾過・ナトリウム 5〜10 mg/L)を 18 本入りケースで購入が経済的

調乳時の手順(WHO推奨に準拠)

  1. 蒸留水またはRO水を購入・確認
  2. 70℃以上に加熱(電気ケトルで沸騰後5分程度放冷)
  3. 所定量の粉ミルクを投入し溶解
  4. 流水または冷水で体温程度(約37℃)まで冷却
  5. 未使用分は冷蔵保管し、24時間以内に使用。再加熱は1回のみ

乳幼児・妊婦・腎疾患患者への配慮

乳幼児(0〜2歳)

対象 推奨水 理由
生後 0〜6 ヶ月 蒸留水(Vapor 等)または煮沸した蒸留水 バクテリア・ミネラル負荷ゼロ。腎臓未成熟
生後 6〜12 ヶ月 RO 濾過水(硬度 15〜30 mg/L) 少量のミネラル許容。Mama Lemon 等を推奨
1〜2 歳 軟水(硬度 50 未満) Singha・Thai Pure 可。ナトリウム 15 mg/L 以下確認

乳幼児の腎機能は生後1〜2年にかけて徐々に完成するため、それまでの期間はミネラル負荷の低い水が推奨されます。とくに高ナトリウム水(>20 mg/L)を用いた調乳の継続は、乳児期の腎臓への過剰負荷につながるとされており(目安)、海外での滞在中も水の選択を慎重に行う必要があります。

妊婦

  • 妊娠高血圧症候群リスク軽減:ナトリウム摂取を制限。水は硬度 60 未満、ナトリウム 20 mg/L 以下
  • カルシウム補給との兼ね合い:硬水は一見、カルシウム源ですが、妊娠中は栄養補助食品での補給が推奨。飲用水は軟水推奨
  • 浮腫対策:ナトリウムの多い水(C Vit 等)は避ける
  • 推奨ブランド:Singha・Mama Lemon・Thai Pure(すべてナトリウム 15 mg/L 以下)
  • 葉酸・鉄剤服用中の妊婦:前節の服薬注意と合わせ、必ず蒸留水または RO 水で服薬すること

腎疾患患者(CKD ステージ 3〜5)

CKD ステージ eGFR (mL/min) 推奨水 注意点
ステージ 3a 45〜59 硬度 60 未満 ナトリウム 20 mg/L 以下推奨。テトラサイクリン系服用時は蒸留水
ステージ 3b 30〜44 硬度 40 未満 ナトリウム 15 mg/L 以下。リン含有の硬水完全回避
ステージ 4〜5 <30 医療用蒸留水のみ 医師・栄養士と相談。ナトリウム・カルシウム・リン・カリウム厳格管理

ビスフォスフォネートと CKD の併用

  • CKD ステージ 4 以上では原則禁止(腎毒性リスク)
  • ステージ 3 では医師に硬水環境での薬効減弱を告知し、蒸留水使用を指示

腎透析患者:タイ滞在中は透析センターの水質管理を事前確認(逆浸透膜ユニット装備の有無)。持参した蒸留水での服薬を厳守。タイには複数の透析クリニックがあり、一部のインターナショナルホスピタル(バンコク病院・サミティベート病院等)は外国人向けの透析サービスを提供していますが、事前予約・水質確認が必須です。


現地薬局・医師への英語フレーズ集

タイ滞在中に水・薬に関して相談が必要なケースのために、実用的なフレーズを整理します。

状況 英語フレーズ カタカナ発音
蒸留水を求める "I need distilled water for taking my medicine." アイ ニード ディスティルド ウォーター フォー テイキング マイ メディシン
硬水への懸念を伝える "Is this water low in calcium and sodium?" イズ ディス ウォーター ロー イン カルシウム アンド ソディウム?
服薬用の水を確認する "Can I use this bottled water to take my prescription drugs?" キャン アイ ユーズ ディス ボトルド ウォーター トゥ テイク マイ プレスクリプション ドラッグス?
下痢時に薬局で相談する "I have traveler's diarrhea. Do you have oral rehydration salts?" アイ ハヴ トラベラーズ ダイアリア。ドゥ ユー ハヴ オーラル リハイドレーション ソルツ?
薬剤師に処方薬の相互作用を確認 "I am taking this medicine. Can I drink this mineral water with it?" アイ アム テイキング ディス メディシン。キャン アイ ドリンク ディス ミネラル ウォーター ウィズ イット?

タイ渡航前後のチェックリスト(薬剤師推奨)

薬を継続服用している方が渡航前に確認すべき項目をまとめます。

渡航前(出発1〜2週間前)

  • 渡航先の水道水硬度・水質を事前調査(タイは中硬水〜硬水)
  • 服用中の薬剤が硬水・金属イオンと相互作用しないか薬剤師に確認
  • ビスフォスフォネート・テトラサイクリン・キノロン・鉄剤・レボチロキシン服用者は旅行中の水の確保計画を立てる
  • 必要に応じてホテルに「蒸留水の常備」を事前リクエスト
  • 旅行者保険の医療カバー範囲・現地病院リストを確認
  • 処方薬は英語の薬剤情報文書(medication list)を印刷して携帯

現地到着後

  • ホテルのウォーターサービスの種類(水道水か浄水か蒸留水か)を確認
  • 近くのコンビニ・スーパー・薬局の場所を把握し、蒸留水またはRO水を確保
  • 服薬は毎回蒸留水またはRO水で行う(ミネラルウォーターでも硬度確認を)
  • 氷入り飲料・屋台の水・水道水の直接飲用を避ける

まとめ

  • タイ水道水:バンコク市内は微生物学的に基本安全ですが、観光客には市販ミネラルウォーター利用を推奨。地域・建物の配管状態に依存する部分が大きい

  • 硬度は 80〜120 mg/L(中硬水〜硬水):ナトリウムは WHO 基準をやや超過(25〜45 mg/L)

  • テトラサイクリン系・ビスフォスフォネート・キノロン系・鉄剤・レボチロキシンの服用者は蒸留水(硬度 10 未満)が必須。硬水との同時摂取は薬効を 20〜90%以上低下させる

  • 推奨ブランド

    • 一般人:Singha・Thai Pure(硬度 35〜55 mg/L、経済的)
    • 薬剤服用者:蒸留水ブランド(最安全)、RO 濾過水(次点)
    • 乳幼児調乳:RO 濾過水(低ナトリウム)または蒸留水
  • ラベルチェック:背面の「ppm」「mg/L」「°dH」欄で硬度確認。ナトリウム値も必ず確認

  • 入手先:コンビニ(小瓶)、スーパー(大容量)、薬局(蒸留水グレード)

  • 氷・歯磨き・調乳:屋台の氷は避ける。調乳は蒸留水または RO 水必須。うがいは硬度 50 未満推奨。コンタクトレンズ洗浄にも水道水は不使用

  • 乳幼児:0〜6 ヶ月は蒸留水、6 ヶ月〜は RO 水、1 歳以上は軟水で対応

  • 妊婦・腎疾患患者:ナトリウム・カルシウム・リンの厳格管理。医師・薬剤師への事前相談必須

  • 旅行中の服薬:テトラサイクリン・ビスフォスフォネート・キノロン・鉄剤・レボチロキシンは、渡航前に薬剤師に硬水環境であることを告知。蒸留水携帯推奨

  • 長期滞在:1〜2 週間以上の場合、蒸留水ウォーターディスペンサー(大型スーパー付設)の活用も検討。大容量を定期補充できる

タイの水環境と薬物吸収の問題は「知っていれば防げる」リスクです。旅行前の薬剤師相談と現地での適切な水の選択で、服薬の有効性を守ってください。

タイ旅行中の感染症予防薬・下痢止めについては [[traveler-diarrhea-medicine]] および [[thailand-otc-medicine]] も合わせてご参照ください。海外渡航に必要な常備薬の選び方については [[overseas-travel-medicine-checklist]] をご覧ください。


参考文献

  1. World Health Organization. Guidelines for Drinking-water Quality, 4th ed., incorporating 1st addendum. Geneva: WHO; 2017. https://www.who.int/publications/i/item/9789241549950

  2. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Travelers' Health: Thailand. Atlanta: CDC. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/thailand

  3. European Medicines Agency (EMA). Product Information: Fosamax (alendronate sodium). Amsterdam: EMA. https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/fosamax

  4. Neuvonen PJ, Kivistö KT, Lehto P. Interference of dairy products with the absorption of ciprofloxacin. Clin Pharmacol Ther. 1991;50(5):498-502. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1934860

  5. Brouwers JR, de Smet PA. Pharmacokinetic-pharmacodynamic drug interactions with nonsteroidal anti-inflammatory drugs. Clin Pharmacokinet. 1994;27(6):462-485. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7867529

  6. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医薬品インタビューフォーム: テトラサイクリン系抗菌薬. 東京: PMDA. https://www.pmda.go.jp/

  7. Metropolitan Waterworks Authority (MWA), Thailand. Annual Water Quality Report. Bangkok: MWA. https://www.mwa.co.th/en/


監修: 薬剤師(博士(薬学))

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