タイ渡航前に知っておくべき感染症・衛生リスクと対策完全ガイド
タイは観光地として人気が高く、毎年多くの日本人が訪れます。しかし熱帯気候と衛生環境の違いから、日本では馴染みのない感染症や衛生リスクが存在します。本記事では、薬剤師の観点から実用的な予防方法と対応策を解説します。渡航前の準備と現地での対策を講じることで、安全で快適な滞在が実現できます。
なお、感染症の予防接種や予防薬の処方は医師の判断が必要です。本記事はあくまで薬学的な情報提供を目的とし、個別の診断・治療判断は医療機関にご相談ください。
タイで注意すべき主要感染症と予防対策
デング熱(蚊媒介感染症)
タイはデング熱の常在流行地域です。タイ保健省(Ministry of Public Health)の報告によれば、年間数万件規模の患者が確認されており、特に雨季(5〜10月)と乾季初期(11〜1月)に患者数が増加します。感染源はネッタイシマカ(Aedes aegypti)およびヒトスジシマカ(Aedes albopictus)で、昼間に活動するため「蚊に刺されないこと」が最重要の予防策です。
デング熱の病態と薬学的注意点: デングウイルスには血清型が4種類(DENV-1〜4)あり、一度感染した血清型以外のウイルスに2回目感染すると、抗体依存性感染増強(ADE: Antibody-Dependent Enhancement)により重症化(デング出血熱)リスクが高まります。この機序から、特に過去にデング熱に罹患した経験がある方は重症化に注意が必要です。
また、デング熱に感染した場合、アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は使用禁忌です。デング熱は血小板減少・出血傾向を引き起こすことがあり、血小板機能を抑制するNSAIDsの使用は出血リスクを増大させます。解熱・鎮痛が必要な場合は、アセトアミノフェン(成人用量の目安:1回500〜1000mg、1日最大4000mg)を選択してください。
予防方法:
- 蚊対策が最優先。長袖・長ズボン着用(特に早朝・夕方)
- 虫除け剤の選択が重要:
- ディート(DEET)濃度10〜30%:子どもから大人まで推奨。30%製品で効果持続時間は目安として3〜4時間
- イカリジン(Icaridin)濃度10〜20%:ディートより皮膚刺激が少なく、衣類・プラスチックへのダメージも軽微
- PIカリオール(PMD: p-メンタン-3,8-ジオール):植物由来成分。ただし3歳未満には使用不可
薬剤師メモ:ディートは経皮吸収されることが知られており、高濃度・長期間の広範囲使用は避けることが望ましいです。特に2歳未満への使用は推奨されません(製品の用法用量を必ず確認)。日焼け止めと併用する場合は、日焼け止めを先に塗布し、乾燥後に虫除け剤を重ねるのが原則です。両者を混合した製品は避けてください。
ワクチン情報: デング熱ワクチン(デングバキシア/Dengvaxia)は、過去のデング熱感染歴が確認された9〜45歳を対象とした製品です。感染歴のない人が接種すると重症化リスクが上がる可能性があるため、接種前に血清学的検査による感染確認が必要です。渡航前6〜8週間前に医師に相談し、適応を慎重に判断してもらってください。
マラリア
タイ全土でのマラリア感染リスクは比較的低いものの、カンボジア国境やラオス国境近くの山間部では存在します。バンコク・チェンマイなどの都市部はリスクが低いとされています。
| 地域 | リスクレベル | 予防薬推奨 |
|---|---|---|
| バンコク・チェンマイ市街地 | 低い | 不要 |
| メコン川流域(ラオス国境) | 中程度 | 推奨 |
| タイ・カンボジア国境地帯 | 高い | 推奨 |
マラリア原虫の種類と薬剤耐性: タイ・カンボジア国境地帯は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のアルテミシニン耐性株が報告されている地域として国際的に注目されています。WHOやCDCもこの地域の薬剤耐性マラリアに対して警告を発しており、予防薬の選択は渡航地域に応じて医師が慎重に判断する必要があります。
予防薬(医師処方が必要):
| 予防薬(一般名) | 用法の目安 | 主な副作用 |
|---|---|---|
| アトバコン・プログアニル配合剤 | 1日1錠、出発1〜2日前〜帰国後7日 | 消化器症状、頭痛 |
| ドキシサイクリン | 1日100mg、出発1〜2日前〜帰国後4週間 | 光線過敏症、消化器症状 |
| メフロキン | 週1回、出発2〜3週間前〜帰国後4週間 | 精神神経症状(不眠・悪夢・めまい) |
薬剤師メモ:ドキシサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬であり、光線過敏症のリスクがあります。タイのような強日射下での使用には日焼け止め・遮光が特に重要です。また、牛乳・制酸剤・鉄剤との同時服用で吸収が低下するため、服用2時間前後は避けてください。メフロキンは精神神経系副作用(不眠、異常な夢、不安感)が報告されており、精神疾患の既往がある方には原則禁忌です。帰国後4週間の継続服用は非常に重要です(血中からの原虫排除に必要な期間)。
狂犬病
タイは狂犬病の常在国です。WHO/CDCのデータでは、タイを含む東南アジア諸国での狂犬病による死亡例が毎年報告されています。感染源は犬が最も多く、猫・コウモリ・猿なども感染源になりえます。
なぜ危険か:薬学的な観点から 狂犬病ウイルス(Rabies lyssavirus)は末梢神経を逆行性に中枢神経へ伝播します。発症後の致死率はほぼ100%であり、有効な治療法は確立されていません。一方、曝露後予防(PEP: Post-Exposure Prophylaxis)を適切に行えば発症を防ぐことができます。この意味で「ワクチン接種と曝露後対応の知識」が命を救います。
渡航前ワクチン接種(曝露前予防): 動物との接触可能性がある場合(動物園・山岳地帯・農村部での活動、子ども連れなど)は、渡航前に3回接種スケジュール(0日・7日・21または28日目)の曝露前予防接種を検討してください。曝露前接種を受けていると、噛まれた後の追加接種が2回で済み、かつ免疫グロブリン製剤(HRIG: Human Rabies Immune Globulin)が不要になります。これは現地でHRIGが入手困難な場合に特に重要です。
動物に噛まれた・引っ掻かれた場合の対応:
- 傷口を石鹸と流水で15分以上洗浄する(ウイルスを物理的に除去)
- 70%エタノールまたはポビドンヨードで消毒する
- 速やかに医療機関を受診し、PEP(曝露後予防ワクチン接種)を開始する
- 曝露前接種未接種の場合は、初回接種時にHRIGの注射が必要になる可能性がある
薬剤師メモ:傷の縫合は、狂犬病感染が疑われる場合には即座に行わないことが推奨されています(ウイルスの神経侵入を促進する可能性)。現地の医師に狂犬病暴露の可能性を必ず申告してください。なお、現地での傷の処置に使用するポビドンヨード消毒液は、渡航時の常備薬として持参することをお勧めします。
腸チフス・パラチフス
汚染された水・食事からの感染リスクがあります。サルモネラ・チフィ(Salmonella Typhi)による全身性細菌感染症であり、高熱・腹痛・比較的徐脈(相対的徐脈)などが特徴です。
予防方法:
- ワクチン接種:渡航前2〜4週間前に不活化ワクチン1回接種(効果は目安として5年程度)
- 水・食事衛生管理(後述の「水と食事の安全性」セクションを参照)
A型肝炎
タイでは一般的な感染症です。特に30代以下の日本人は幼少期の自然感染機会が少なく、抗体保有率が低い傾向があります。
A型肝炎ウイルス(HAV)の感染経路と薬学的注意点: HAVは経口感染(糞口感染)が主な感染経路です。潜伏期間は目安として2〜6週間で、症状は黄疸・倦怠感・発熱・消化器症状です。通常は自然治癒しますが、高齢者や肝疾患を持つ方では劇症化する場合があります。特定の免疫抑制薬を使用中の方は感染後の重症化リスクが高いため、渡航前の接種を強く推奨します。
予防方法:
- ワクチン接種推奨:初回接種後6〜12ヶ月で2回目接種(2回接種で長期免疫が期待できる)
- 効果持続期間:2回接種完了後は少なくとも20年以上の有効性が示唆されており、実質的に終生免疫と考えられています
日本脳炎
タイでの発生報告は稀ですが、農村地帯・水田地帯での感染リスクが存在します。コガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)が媒介します。
予防方法:
- 既に日本で定期接種済みの場合は追加接種不要(ただし接種歴の確認を)
- 未接種の場合は渡航前に接種検討。農村部での長期滞在者はリスクが高くなります
腸管感染症(旅行者下痢症)
旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)はタイ渡航者が経験する最も一般的な健康問題の一つです。原因は大腸菌(特に毒素原性大腸菌: ETEC)・サルモネラ菌・カンピロバクターなど多岐にわたります。
薬学的な対処の考え方: 軽症の水様性下痢(発熱なし・血便なし)は、多くの場合1〜3日で自然回復します。この場合、ロペラミド塩酸塩(腸管蠕動抑制薬)により症状を緩和できます。しかし、高熱(38.5℃以上)・血便・激しい腹痛を伴う場合は細菌性腸炎や赤痢の可能性があり、下痢止めで症状を抑えることで菌の排出が阻害される懸念があるため、医師の判断なく安易なロペラミド使用は避け、速やかに医療機関を受診してください。
常備薬として持参すべき胃腸薬:
- ロペラミド塩酸塩(成分名):腸管のμ(ミュー)オピオイド受容体に作用し、腸管蠕動を抑制。水様性下痢の症状緩和に有効。用量は製品の添付文書に従ってください
- ビスマス製剤(次サリチル酸ビスマス配合製品):一部のOTC製品に含まれる成分で、殺菌・粘膜保護作用を持つとされる。アスピリンにアレルギーのある方は使用注意
- 整腸剤(ラクトバチルス菌・ビフィドバクテリウム菌などの生菌製剤):腸内フローラの回復補助
薬剤師メモ:下痢は身体の防衛反応です。軽症の場合は無理に止めず、水分補給(経口補水塩: ORS)を最優先にしてください。WHO推奨の経口補水塩は、1リットルの安全な水に食塩2.6gとブドウ糖13.5gを溶かしたものが基準組成です。市販のスポーツドリンクは糖濃度が高く、浸透圧的に不適切な場合があるため、本格的な脱水が疑われる場合はORSを使用してください。
水と食事の安全性:現地での対策
飲料水の安全確保
タイの水道水は飲用に適さないと考えてください。水道インフラの整備状況はエリアによって異なりますが、配管内の汚染・老朽化などのリスクがあります。
| 水の種類 | 安全性 | 対策 |
|---|---|---|
| 水道水 | 低い | 飲用しない。歯磨きもペットボトルの水を使用 |
| ミネラルウォーター(ペットボトル) | 高い | 推奨。未開封・蓋の密封を必ず確認 |
| 氷(路上・屋台) | 低い | 原則として避ける |
| ホテル・大手レストランの氷 | 比較的高い | 商業用製氷(丸い穴あき円柱型)は比較的安全とされるが油断しない |
| 熱い飲料(コーヒー・紅茶) | 比較的高い | 沸騰済みであれば一般的に安全 |
薬剤師メモ:コーヒーやお茶であっても、冷めた状態で出される場合や、アイスコーヒーには汚染の可能性があります。注文の際には
I'd like it without ice, please.(アイド ライク イット ウィズアウト アイス プリーズ)(氷なしでお願いします)と明示しましょう。
ウォーターピューリファイアー・浄水タブレットについて: 長期滞在や登山・農村部での滞在では、塩素系浄水タブレット(次亜塩素酸ナトリウム系)やヨウ素系浄水剤を携行する選択肢もあります。ただしヨウ素系製品は甲状腺疾患のある方・妊婦には不向きです。使用は非常時の補助手段とし、基本はペットボトル水を使用してください。
食事時の注意点
避けるべき食べ物:
- 加熱不十分な肉類・魚介類:サルモネラ・カンピロバクターなどの感染リスク
- 生野菜・サラダ(特に屋台):農薬・病原微生物の残存リスク
- 淡水産の魚・エビ・カニ:タイでは肝吸虫(Opisthorchis viverrini)感染が問題であり、特に北部タイの一部地域では感染率が高い。生食・半生食は厳禁
- 冷たいデザート・アイスクリーム:屋台製造品は特に注意
肝吸虫症の薬学的補足: タイ北部・東北部では肝吸虫(Opisthorchis viverrini)感染が公衆衛生上の課題となっています。感染経路は淡水魚の生食・半生食で、慢性感染は胆管炎・胆石・さらには胆管がんのリスク因子になるとされています。治療薬はプラジカンテル(praziquantel)ですが、感染予防が最善であることは言うまでもありません。
推奨される食べ方:
- 熱した調理済み食品を選ぶ(目の前で加熱調理されたものが理想)
- ホテルや大手チェーンレストランでの食事が相対的に安全
- 飲料はペットボトル入りのみ
気候による感染症・衛生リスクと対策
熱帯気候による脱水・熱中症
タイの平均気温は25〜35℃で、湿度は通年で高い(目安として60〜80%)です。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温調節が困難になります。
脱水症状の兆候:
- 口渇感、めまい、頭痛
- 尿の色が濃くなる(濃黄色〜橙色)
- 筋肉痙攣、倦怠感
- 重症では意識混濁(熱射病)
熱中症の段階と対応:
| 重症度 | 症状 | 対応 |
|---|---|---|
| 軽症(熱けいれん・熱失神) | めまい、大量発汗、筋肉痙攣 | 涼しい場所へ移動、経口補水塩摂取 |
| 中等症(熱疲労) | 頭痛、悪心、倦怠感、集中力低下 | 同上+安静。改善しなければ受診 |
| 重症(熱射病) | 高体温(40℃超)、意識障害、無汗 | 直ちに救急受診。冷却(腋窩・鼠径部の冷却)を実施 |
対策方法:
- 十分な水分補給:1日2〜3リットル以上(ペットボトルの水)を目安に
- 電解質補給:長時間の屋外活動では経口補水塩(塩化ナトリウムとブドウ糖を適切な比率で配合した製品)を活用
- 休息の重要性:午後1〜3時の高温時間帯は室内で過ごす
- 服装:通気性に優れた素材、帽子・サングラス必須
薬剤師メモ:熱帯地域での脱水は予想以上に急速に進みます。喉が渇く前の先制的な水分補給が重要です。なお、カフェイン飲料(コーヒー・エナジードリンク等)は利尿作用があり、水分補給には不向きです。水分補給はあくまで水・スポーツドリンク・経口補水塩で行ってください。また、高血圧・心不全・腎疾患などで水分制限がある方は、主治医の指示に従ってください。
紫外線による皮膚ダメージ
タイは赤道に近く、紫外線量は日本(夏の東京)と比較しても大幅に強い傾向があります(紫外線指数UVIは最大12〜14超に達することがある)。日焼けだけでなく、長期的な皮膚がんリスク・眼疾患(翼状片・白内障)予防も重要です。
日焼け止めの選択基準:
- SPF(Sun Protection Factor)30以上、PA+++以上(または海外製品ではUVA protection付き)を推奨
- 2時間ごと、または入水・発汗後は塗り直し
- 成分として「紫外線散乱剤(酸化亜鉛・酸化チタン)」または「紫外線吸収剤(オキシベンゾン・アボベンゾン等)」を確認
対策:
- 日焼け止めの使用(顔・腕・脚の露出部位に)
- ラッシュガード・UVカット素材の衣類着用
- サングラス(UV400表示またはUVA・UVB99%以上カット)
湿疹・皮膚炎の予防
高温多湿の環境は、皮膚の常在菌バランスを乱し、カビ(真菌)感染・汗疹(あせも)・接触性皮膚炎のリスクを高めます。
予防対策:
- 毎日のシャワー:石鹸で丁寧に洗浄(特に指間・鼠径部・体幹のひだ部分)
- 乾燥:入浴後はタオルで丁寧に水分を拭き取る
- 通気性衣類:綿素材など吸湿性の高い素材を選ぶ
- 白癬(水虫)対策:共用スリッパの使用は避け、足を清潔・乾燥に保つ
常備薬(皮膚トラブル対応):
| 症状 | 使用する薬の種類(成分名) | 注意事項 |
|---|---|---|
| 汗疹・接触性皮膚炎 | ステロイド外用薬(ヒドロコルチゾン酢酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル等) | 顔・眼周囲への使用は医師に相談 |
| 白癬・カンジダ | 抗真菌薬外用薬(テルビナフィン塩酸塩、クロトリマゾール等) | 症状消失後も1〜2週間継続が目安 |
| 虫刺され・かゆみ | 抗ヒスタミン薬外用薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩等) | 眠気が出やすい内服薬に注意 |
薬剤師メモ:タイの環境ではカンジダや白癬(水虫)のリスクが高まります。ステロイド外用薬を使用する際、真菌感染が疑われる部位には単独のステロイドを塗布しないでください(真菌の増殖を助長する可能性があります)。感染性か非感染性かを判断するためには医師の診察が必要です。
渡航前の準備チェックリスト
医療機関での相談(渡航前6〜8週間)
推奨される相談内容:
- 滞在期間・滞在地域の確認
- 必要なワクチンの確認
- 腸チフス・パラチフス
- A型肝炎
- 狂犬病(動物との接触予定がある場合)
- 日本脳炎(農村部・長期滞在の場合)
- 医学的な注意点の確認(持病・内服薬がある場合)
- マラリア予防薬の処方(該当地域の場合)
- 帰国後の体調不良に備えたフォローアップ計画(特に発熱時の相談先確認)
常備薬リスト
現地調達が困難または品質確認が難しい医薬品を中心に準備しましょう:
| 医薬品カテゴリ | 成分名(一般名) | 用途 |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン | 発熱・頭痛・筋肉痛(デング熱疑い時はNSAIDs不可のため必須) |
| 下痢止め | ロペラミド塩酸塩 | 水様性下痢症状(発熱・血便なし時) |
| 胃腸薬 | 生菌製剤(ラクトバチルス菌など) | 腸内環境調整 |
| 虫除け剤 | ディート(DEET)またはイカリジン配合 | 蚊対策 |
| 消毒薬 | ポビドンヨード液 | 動物咬傷・擦り傷の消毒 |
| 抗真菌薬外用 | テルビナフィン塩酸塩またはクロトリマゾール | 白癬・カンジダ対策 |
| ステロイド外用薬 | ヒドロコルチゾン酢酸エステル等(OTCランク) | 皮膚炎・湿疹 |
| 経口補水塩(ORS) | 塩化ナトリウム+ブドウ糖配合製品 | 脱水補正 |
| 鎮痛剤 | アセトアミノフェン(解熱鎮痛)またはイブプロフェン(発熱目的外のみ) | 頭痛・筋肉痛 |
| 乗り物酔い止め | スコポラミン臭化水素酸塩またはジメンヒドリナート配合製品 | 乗り物酔い |
| 風邪薬 | 症状別OTC成分配合製品 | 鼻炎・咽頭炎症状 |
抗菌薬について: 細菌性腸炎が疑われる場合に備え、医師から処方を受けてキノロン系(シプロフロキサシン等)またはアジスロマイシンを携行する渡航者もいます。ただし抗菌薬は医師の処方・指示のもとで使用するものであり、自己判断での服用は薬剤耐性菌の発生につながる可能性があります。渡航前に感染症専門医や渡航外来で相談してください。
薬剤師メモ:アセトアミノフェンは肝臓で代謝される薬剤です。アルコール多飲者や肝疾患をお持ちの方は1日最大量に注意が必要です。また、市販の総合感冒薬の中にもアセトアミノフェンが含まれている製品が多いため、重複服用に注意してください。
海外旅行保険への加入
必ず加入してください。以下をカバーする保険を選択:
- 緊急医療費(目安として300万円以上のカバー)
- 歯科治療
- メディカルエスコート(医療上の理由による帰国)
- 24時間日本語対応ホットライン
- 救急搬送費用
現地での医療受診方法
バンコクの医療機関(日本語対応)
バンコクには外国人対応の充実した民間病院があります。緊急時や症状が重篤な場合は迷わず受診してください。
- バムルンラード・インターナショナル病院(Bumrungrad International Hospital):日本語通訳スタッフが常駐していることで知られ、設備が充実
- サミティヴェート病院(Samitivej Hospital):複数院の展開。小児科・産婦人科も充実
- 上記以外にも、滞在するホテルのコンシェルジュに紹介してもらうことも有効な手段
医療機関での会話フレーズ例:
-
I have a high fever.(アイ ハヴ ア ハイ フィーバー)(高熱があります) -
I was bitten by a dog.(アイ ワズ バイトゥン バイ ア ドッグ)(犬に噛まれました) -
I have diarrhea and vomiting.(アイ ハヴ ダイアリーア アンド ヴォミティング)(下痢と嘔吐があります) -
I think I have dengue fever.(アイ シンク アイ ハヴ デング フィーバー)(デング熱かもしれません)
薬局での医薬品入手
タイではOTC薬の範囲が広く、薬局で多くの医薬品が購入できます。しかし偽造医薬品・品質管理が不十分な製品のリスクも否定できません。信頼できる大手チェーン薬局を利用することを推奨します。
現地薬局で薬を尋ねる際の英語フレーズ:
-
Do you have any medicine for diarrhea?(ドゥ ユー ハヴ エニー メディスン フォー ダイアリーア?)(下痢の薬はありますか?) -
I need a rehydration solution.(アイ ニード ア リーハイドレーション ソリューション)(経口補水塩をください) -
Is this safe to take with other medications?(イズ ディス セーフ トゥ テイク ウィズ アザー メディケーションズ?)(他の薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?)
薬剤師メモ:タイで購入した薬に不明な成分が含まれている場合は使用を避け、日本から持参した製品または医師の処方薬を優先してください。特に「痛み止め」として勧められた薬の中に、日本では医療用のNSAIDsに相当する成分が含まれている場合があります。デング熱疑いの場合はNSAIDsを絶対に使用しないでください。
予防接種の必須度別ガイド
| ワクチン(感染症名) | 推奨度 | 対象 | 備考 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 強く推奨 | 全渡航者 | 抗体未保有者。2回接種で長期免疫 |
| 腸チフス | 推奨 | 全渡航者 | 食事・水からの感染予防 |
| 狂犬病(曝露前) | 条件付き推奨 | 動物接触機会がある者・子ども連れ・長期滞在者 | 接種済みの方が曝露後対応が容易になる |
| 日本脳炎 | 限定的推奨 | 農村部・水田地帯での活動者 | 定期接種済みなら通常追加不要 |
| デング熱 | 医師と要相談 | 過去感染歴確認が必要 | 感染歴のない者への接種は推奨されない |
| マラリア予防薬 | 地域依存 | 国境山間部への渡航者 | ワクチンではなく化学予防薬 |
| B型肝炎 | 長期滞在者に推奨 | 医療行為・性的接触の機会がある者 | 日本の定期接種で接種済みの方も多い |
帰国後に注意すべき症状
タイから帰国した後も、潜伏期間中の感染症が発症する可能性があります。以下の症状が帰国後に出現した場合は、渡航歴を医師に必ず伝えてください。
| 症状 | 疑われる感染症 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| 発熱(38℃以上)・頭痛・筋肉痛 | デング熱・マラリア・腸チフス | 帰国後2週間以内なら速やかに受診 |
| 黄疸・倦怠感・食欲不振 | A型肝炎・E型肝炎 | 速やかに受診 |
| 血便・高熱・腹痛 | 細菌性赤痢・アメーバ赤痢 | 速やかに受診 |
| 持続する下痢(2週間以上) | ランブル鞭毛虫症・クリプトスポリジウム症 | 内科・感染症内科を受診 |
| 皮膚の発疹・かゆみ | デング熱・薬疹・疥癬 | 受診して渡航歴を伝える |
薬剤師メモ:マラリアの潜伏期間は種類によって数日から数ヶ月と幅があります。帰国後4週間以上が経過していても発熱が続く場合は、渡航歴を含め感染症専門医または総合病院の内科を受診してください。帰国後の体調不良で渡航歴を伝えることは、適切な診断に直結する重要な情報です。
関連情報
タイを含む海外渡航時の健康管理については、以下の記事も参考にしてください。
- [[travel-medicine-vaccines]]:渡航前ワクチン接種の総合ガイド
- [[mosquito-repellent-guide]]:虫除け剤の成分・選び方・使い方を薬剤師が解説
- [[traveler-diarrhea-otc]]:旅行者下痢症に使うOTC薬の選び方と注意点
参考文献・情報源
-
World Health Organization (WHO). "Dengue and severe dengue." WHO Fact Sheet. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue
-
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Health – Thailand." https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/thailand
-
厚生労働省検疫所(FORTH)「タイの感染症危険情報・感染症発生動向」 https://www.forth.go.jp/destination/asia/thailand.html
-
World Health Organization (WHO). "Rabies." WHO Fact Sheet. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/rabies
-
国立感染症研究所「デング熱とデング出血熱」感染症の話 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/320-dengue-intro.html
-
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Malaria – Choosing a Drug to Prevent Malaria." https://www.cdc.gov/malaria/travelers/drugs.html
-
厚生労働省「トラベラーズダイアリー(旅行者下痢症)について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140-3.html
監修:薬剤師(博士(薬学))