マレーシアの感染症リスク概要
マレーシアは東南アジア屈指の経済発展国ですが、熱帯・亜熱帯気候に特有の感染症が存在します。特にクアラルンプール以外の地域では注意が必要です。渡航前に正確な情報を確認し、適切な予防対策を立てることが重要です。
マレーシアの感染症リスクを理解する上で重要なのが、地域差と季節性の二つの軸です。半島部マレーシアとボルネオ島(サバ・サラワク州)では気候・生態系が大きく異なり、リスクプロファイルも変わります。さらに、半島部では11月〜3月の北東モンスーン期と5月〜9月の南西モンスーン期で降水パターンが変化し、蚊の発生密度にも影響を及ぼします。雨季は蚊の繁殖地(溜まり水)が増えるため、デング熱やチクングニア熱の流行リスクが高まる傾向があります。
また、マレーシア保健省(Ministry of Health Malaysia)は週次でデング熱症例数を公表しており、渡航前にその数字を確認することが推奨されます。2023年の報告では年間約10万件超のデング熱症例が記録されており、都市部を含む全土での感染リスクが継続して存在することが示されています。
薬剤師メモ
マレーシアは都市部と地方で衛生水準が大きく異なります。クアラルンプール市内は比較的安全ですが、ボルネオ島(サバ・サラワク州)やペナン州の農村部では感染症リスクが高まります。渡航地域を確認した上で予防対策を調整してください。
主要感染症と特徴
| 感染症名 | 主な特徴 | リスク地域 | 予防方法 |
|---|---|---|---|
| デング熱 | 蚊媒介、年間通じて発生 | 全国(市街地含む) | 忌避剤、蚊帳、ワクチン* |
| マラリア | 蚊媒介、夜間活動性 | ボルネオ島、東部地域 | 予防薬、蚊帳、忌避剤 |
| 手足口病(EV71) | ウイルス感染、主に小児 | 全国 | 手指衛生、加熱調理 |
| チクングニア熱 | 蚊媒介、関節痛が特徴 | 全国 | 忌避剤、蚊対策 |
| 狂犬病 | 動物咬傷により感染 | 全国(野犬注意) | 咬傷時の即刻対応 |
| A型肝炎 | 経口感染 | 全国 | 衛生管理、ワクチン |
| レプトスピラ症 | 水・土壌経由感染 | 農村部・洪水多発地域 | 皮膚傷を作らない |
| 腸チフス | 経口感染 | 農村部・衛生環境不良地 | ワクチン、飲食物注意 |
*デング熱ワクチン(デングバキシア)は日本国内では一般流通していません。最新情報は外務省・大使館で確認してください。
蚊媒介感染症への対策
デング熱とチクングニア熱の予防
マレーシアでは**ネッタイシマカ(Aedes aegypti)**がデング熱の主要媒介蚊です。この蚊は昼間活動するため、従来の「蚊帳は夜間のみ」という対策では不十分です。都市部の集合住宅や高層マンションでも、貯水容器(植木鉢の皿、排水溝の溜まり水)が繁殖地となるため、室内外を問わず注意が必要です。
デング熱は血清型(DENV-1〜4)が4種類あり、異なる血清型への2回目以降の感染で重症化(デング出血熱・デングショック症候群)リスクが高まる点が薬学的にも重要です。これは**抗体依存性感染増強(ADE: Antibody-Dependent Enhancement)**と呼ばれる免疫学的機序によるもので、初回感染時に産生された非中和抗体が、次の血清型感染時にウイルスのマクロファージへの侵入を促進してしまうためです。現時点で特異的な抗ウイルス薬は存在せず、治療は対症療法(解熱・輸液)が中心であることからも、予防が最重要となります。
実践的な予防対策:
- 忌避剤選定:DEET(ジエチルトルアミド)20〜30%含有製品を推奨。3〜4時間ごとに再塗布が必要
- イカリジン(ピカリジン)20%製品:DEET同等の忌避効果を持ちつつ皮膚刺激が低く、合成素材への影響も少ない。小児や敏感肌の方に適している
- 衣服の工夫:薄色で長袖・長ズボン着用。ペルメトリン処理済み衣類はさらに効果的
- 蚊帳:ピレスロイド系薬剤(ペルメトリン)加工済み製品を使用。ホテルの部屋でもエアコン稼働中は窓を閉め、蚊の侵入を防ぐ
- 滞在先の環境確認:バルコニーや室内の植木鉢、バケツなどに溜まり水がないか確認し除去する
薬剤師メモ(DEET の薬理と安全性)
DEETは嗅覚受容体を介して蚊の接近を阻害する忌避薬です。濃度が高いほど効果持続時間が延長しますが、30%を超えても持続時間の延長効果は限定的で、皮膚刺激・神経毒性リスクだけが増します。12歳未満には10%以下製品の使用が推奨されており、2歳未満への使用は専門家指導下とされています(米国小児科学会)。塗布後は手洗いし、目・口・傷口への接触を避けてください。
マラリア予防薬の考慮
ボルネオ島奥地やサバ・サラワク州への渡航、特にキナバル山登山やラフレシア観察ツアー参加予定の場合は、事前に感染症外来で予防薬処方を受けてください。マレーシアのマラリアは主に**熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)と三日熱マラリア原虫(P. vivax)**によるものです。近年、サバ州ではサルマラリア(P. knowlesi)の報告も増加しており、重症化例も確認されています。
| 予防薬名(一般名) | 用法 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| アトバコン・プログアニル配合錠 | 渡航前1日〜帰国後7日まで毎日1錠 | 副作用が比較的少ない、食後服用で吸収向上 | コストが高い、食事と必ず一緒に服用 |
| ドキシサイクリン(塩酸塩) | 渡航前1〜2日〜帰国後28日まで毎日100mg | 比較的安価 | 光線過敏症(強い日光暴露に注意)、胃腸障害、テトラサイクリン系抗菌薬として歯・骨発育への影響あり(妊婦・8歳未満禁忌) |
| メフロキン塩酸塩 | 渡航3週前〜帰国後4週まで週1錠 | 週1回服用で利便性高い | 神経精神症状(不安、幻覚、不眠)の報告あり、精神疾患既往者は禁忌 |
薬剤師メモ
アトバコン・プログアニル配合錠はアトバコンがミトコンドリア電子伝達系を阻害し、プログアニルの活性代謝物(サイクログアニル)がジヒドロ葉酸還元酵素を阻害するという二重作用機序を持ちます。食事(特に脂肪分)と一緒に服用することで、アトバコンの経口バイオアベイラビリティが3〜4倍に向上するため、必ず食後服用を指導してください。マレーシア市内(クアラルンプール、ジョージタウン)ではマラリア予防薬不要との判断が一般的ですが、個別リスク評価は必ず医師の指示に従ってください。渡航3〜4週間前の感染症外来受診を強く推奨します。
水・食事の安全性と対策
飲料水の安全性
マレーシアの上水道は都市部で比較的整備されていますが、配管の老朽化や洪水後の汚染など、状況により水質が変動することがあります。旅行者は水道水の直接飲用を避け、市販のミネラルウォーターを利用することが基本原則です。
推奨事項:
- 市街地での飲用:市販のペットボトル入りミネラルウォーターを購入する。封を切る前にキャップが未開封であることを確認する
- ホテル内:フロント提供の水道水をそのまま飲むことは避け、市販ボトル水を利用する
- バックパッカー宿・民泊:水質が不明な場合は絶対に避ける
- 持参物品:ポビドンヨード系または塩素系浄水剤・浄水フィルターを念のため持参(登山・ジャングルトレッキング時に有用)
- 氷への注意:レストランやカフェでの氷は原則として市販浄水から作られていることが多いですが、不明な場合は氷なしを注文する。
No ice, please.(ノー アイス プリーズ)で伝わります
食事時の衛生管理
マレーシアは多民族国家で、食文化が豊かな反面、屋台(ホーカー)での衛生管理にはばらつきがあります。屋台は必ずしも危険ではなく、繁盛していて回転が速い店、調理工程が目の前で確認できる店を選ぶことがリスク軽減につながります。
安全な食事選択の原則(5 Keys to Safer Foodより):
| 食事タイプ | リスク評価 | 推奨対策 |
|---|---|---|
| 屋台・ホーカーセンター | 中程度 | 調理風景が見えるところ選択、十分な加熱を確認 |
| ショッピングモール内飲食店 | 比較的低 | 一般的に衛生管理良好 |
| 生野菜・生サラダ | 高 | 避ける(特に路上販売) |
| 生卵・半熟卵 | 中〜高 | 避ける |
| 屋台ジュース | 中〜高 | 瓶詰め・缶詰のみ利用、氷は注意 |
| 大手チェーンのアイスクリーム | 低〜中 | 大手チェーン店のみ利用 |
| シーフード | 中 | 十分な加熱を確認、生食は避ける |
食中毒・下痢発症時の経口補水療法(ORT)の薬学的根拠:
旅行者下痢(Traveler's Diarrhea)は最も頻度の高い旅行関連疾患の一つです。主な原因菌は毒素産生性大腸菌(ETEC)、カンピロバクター、サルモネラなどです。下痢による脱水は熱帯地域で特に進行が速く、重症化リスクが高いため、早期の**経口補水療法(ORT)**が第一選択です。
WHO推奨のORS(経口補水塩)は、ブドウ糖の腸管ナトリウム共輸送体(SGLT1)を介した吸収機序を利用し、Na⁺とブドウ糖を等モル比で配合することで、腸管からの水・電解質吸収を最大化する設計となっています。スポーツドリンクはNa⁺濃度が低く(約10〜20 mEq/L)、WHO-ORS(約75 mEq/L)の代替としては不適切です。
A型肝炎ワクチンの検討
マレーシアでのA型肝炎リスクは中程度ですが、以下に該当する場合はワクチン接種を推奨します。
- 衛生状況が不確実な地域への滞在(2週間以上)
- 自炊施設のない環境での長期滞在
- 免疫不全者・慢性肝疾患患者
- 初めての東南アジア渡航者
A型肝炎ワクチンの特徴:
- 不活化ワクチン(ウイルス粒子を不活化したもの)
- 初回接種から2〜4週間後に抗体が産生される
- 6〜12ヶ月後の追加接種で長期免疫が確立(20年以上とされる)
- 渡航3週間前までの接種を目標に
薬剤師メモ
消化器症状(下痢・嘔吐)が発生した場合、脱水が重症化しやすい熱帯地域です。ORS粉末を2〜3包持参することを強く推奨します。ロペラミド塩酸塩(OTC品含む)は粘膜侵襲性細菌(血便・高熱を伴う下痢)では使用禁忌です。「少量の血が混じる」「38.5℃以上の発熱が続く」場合はすぐに医療機関を受診してください。
気候別・季節別の医薬品準備
熱帯気候特有の症状と医薬品
マレーシアは年平均気温26〜30℃、湿度70〜90%という高温多湿環境です。この環境では皮膚トラブル・真菌感染・熱中症が旅行者に頻発します。特に冷房の効いた室内と屋外との気温差(10〜15℃)が繰り返し起きる「クールダウン症候群」的な消耗も見られます。
高温・多湿環境でのトラブル対策:
| 症状 | 原因 | 対策・使用成分 | 薬学的注意点 |
|---|---|---|---|
| 痱子(あせも) | 汗腺閉塞による炎症 | 弱〜中程度の効力のステロイド外用薬(ヒドロコルチゾン酢酸エステル等) | 顔・皮膚のひだへの長期使用は避ける。1日2回、入浴後推奨 |
| 蕁麻疹・皮膚炎 | 汗・紫外線・環境アレルゲン | 第二世代抗ヒスタミン薬(セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩等) | 眠気が少なく運転・観光にも使いやすい。腎機能低下者は用量調整要 |
| 足白癬・股部白癬 | 高湿度による真菌(皮膚糸状菌)繁殖 | アゾール系外用薬(クロトリマゾール等)またはアリルアミン系(テルビナフィン塩酸塩等) | 症状消失後も2週間継続塗布。患部を清潔・乾燥に保つ |
| 日光皮膚炎・光毒性 | 赤道直下の強い紫外線(UV-A/B共に高強度) | SPF50+・PA++++の日焼け止め(予防が最重要)。炎症後はヒドロコルチゾン外用 | 2時間ごとの塗り直しが必要。防水タイプをプール・ビーチで |
| 熱中症(軽度) | 高温・多湿環境での体温調節不全 | ORS・電解質補給、体表冷却 | 意識障害・体温40℃超は医療緊急事態。市販薬の対象外 |
| 旅行者下痢 | 細菌・ウイルス・原虫感染 | ORS(経口補水塩)による補液が第一選択 | ロペラミド塩酸塩は粘膜侵襲性感染では禁忌 |
熱帯環境と薬物動態への影響
薬学的に重要な点として、高温・多湿は医薬品の安定性に影響を与えます。
- 保管温度への注意:多くの錠剤・カプセルは「室温(1〜30℃)保存」が指示されていますが、マレーシアの屋外気温はこれを超えることがあります。直射日光・高温を避け、エアコンが効いた室内保管を徹底してください
- 湿度と固形製剤:吸湿性の高い錠剤(発泡錠など)は密閉容器での保管が必須です
- インスリン・生物製剤:糖尿病患者など温度管理が必要な医薬品を携帯する場合は、保冷ケース(2〜8℃維持)を必ず用意してください
携帯すべき医薬品チェックリスト
必携医薬品(個人差あり、医師・薬剤師への相談を推奨):
-
消化器系
- プロバイオティクス製剤(ビフィズス菌・乳酸菌含有OTC製品)
- ロペラミド塩酸塩配合の下痢止め(OTC品):血便・高熱を伴う場合は使用禁止
- ORS粉末(WHO推奨組成に準拠した製品):2〜3包を目安に携帯
- 制吐薬(ドンペリドン等は処方薬のため、渡航外来での事前処方を検討)
-
皮膚・虫刺し対策
- 虫刺され用かゆみ止め(ジフェンヒドラミン塩酸塩またはステロイド外用薬配合のOTC品)
- ヒドロコルチゾン酢酸エステル外用薬(弱ランクのステロイド外用、OTC品)
- テルビナフィン塩酸塩1%外用薬(抗真菌)
- 創傷処置用品(消毒薬・ガーゼ・防水絆創膏)
-
感染症対策補助
- ポビドンヨード外用消毒液(動物咬傷・創傷の第一処置用)
- 抗菌成分配合外用薬(一般細菌による皮膚感染予防補助用)
- 手指消毒用アルコールジェル(60%エタノール以上)
-
全身症状
- アセトアミノフェン配合の解熱鎮痛薬(マレーシアではパラセタモルの名称で流通)
- 抗ヒスタミン薬(セチリジン塩酸塩またはロラタジン:眠気が少ない第二世代)
- 鼻炎薬(気温差・冷房による症状対応)
- 酔い止め(ジメンヒドリナート配合品:長距離バス移動が多い場合)
-
その他・慢性疾患管理
- 常用薬(渡航日数+予備5〜7日分)
- 英文薬歴・アレルギー情報カード(Medical Alert Card)
- ビタミンB群・ビタミンC・亜鉛などのサプリメント(免疫維持補助)
薬剤師メモ(ロペラミド使用時の注意)
ロペラミド塩酸塩はオピオイドμ受容体を介して腸管蠕動を抑制する止痢薬です。血液脳関門を通過しにくい構造ですが、P-糖タンパク質阻害薬(一部の抗菌薬、マクロライド系等)との併用で中枢移行性が高まる可能性が報告されています。腸管蠕動抑制は毒素産生菌や粘膜侵襲菌の体内滞留時間を延長させるため、細菌性下痢疑い(高熱・血便)では絶対に使用しないでください。
狂犬病のリスクと咬傷後対応
マレーシアにおける狂犬病の現状
狂犬病はマレーシアにおいて注意すべき感染症の一つです。半島部では比較的コントロールされていますが、サバ州では野犬・野生動物による咬傷事例が報告されています。狂犬病ウイルスは傷口・粘膜への唾液接触で感染し、発症後の致死率はほぼ100%であるため、予防と咬傷後の迅速な対応が生死を分けます。
渡航前狂犬病ワクチン(曝露前予防接種)の考慮
長期滞在・農村部への渡航・野生動物との接触可能性がある方には、渡航前の曝露前予防接種(PrEP)を検討します。
曝露前接種スケジュール(目安):
- 0日・7日・21〜28日の3回筋肉内注射
- 抗体価の確認が理想的
- 有効期間:血清抗体価により異なる(定期確認が推奨)
咬傷後の対応(曝露後予防:PEP):
- 傷口の即刻洗浄:流水と石けんで最低15分間洗浄(これだけでウイルス量を大幅に減少できる)
- ポビドンヨードによる消毒(入手可能な場合)
- 直ちに医療機関へ:抗狂犬病免疫グロブリン(RIG)および狂犬病ワクチンの投与を開始
- 渡航前接種あり:0日・3日の2回ワクチン接種(RIG不要となる場合が多い)
- 渡航前接種なし:0日・3日・7日・14日(・28日)のワクチン接種+RIG投与
薬剤師メモ
狂犬病の潜伏期間は通常1〜3ヶ月ですが、頭頸部への咬傷では数日〜数週間と短縮します。「少し引っかかれた」程度でも動物由来の傷は即日医療機関へ。帰国後に日本の医療機関での継続治療が必要なため、現地での治療内容を英文で記録・保管してください。
マレーシアでの医療機関・医薬品入手
医療水準と言語対応
マレーシアの医療機関は都市部で高水準であり、英語での診療が一般的です。特に私立病院では日本語通訳サービスを提供している施設もあります。保険証の持参と、海外旅行傷害保険への事前加入(キャッシュレス対応のもの)が強く推奨されます。
主要都市の私立病院(参考):
- クアラルンプール:Sunway Medical Centre, Pantai Hospital Kuala Lumpur
- ペナン:Gleneagles Hospital Penang
- コタキナバル(サバ州):Queen Elizabeth Hospital(公立・規模大)
医療機関受診時の基本フレーズ:
-
I have a fever.(アイ ハヴ ア フィーバー)(熱があります) -
I was bitten by a dog.(アイ ウォズ ビトゥン バイ ア ドッグ)(犬に噛まれました) -
I have a drug allergy to penicillin.(アイ ハヴ ア ドラッグ アレルジー トゥ ペニシリン)(ペニシリンに薬アレルギーがあります) -
Do you have a doctor who speaks Japanese?(ドゥ ユー ハヴ ア ドクター フー スピークス ジャパニーズ?)(日本語を話す医師はいますか?)
処方箋取得時の注意点:
- マレーシアの医師処方箋は日本の調剤薬局では調剤不可
- 処方医薬品を日本へ持ち帰る場合は、英文診断書と処方箋が必要
- 帰国後、日本の医師による再診を推奨
薬局での医薬品購入
大手薬局チェーン(Watsons, Guardianなど)ではOTC医薬品が比較的容易に入手可能ですが、品質や適応の確認が必要です。
| 医薬品カテゴリ | 入手難易度 | 注意点 |
|---|---|---|
| 一般用医薬品 | 容易 | 英語ラベルの確認必要、用法用量確認必須 |
| 抗菌薬(抗生物質) | 薬局により処方不要で販売される場合あり | 自己判断での使用は耐性菌問題・副作用リスクあり、医師相談を推奨 |
| ステロイド外用薬 | 比較的容易 | 高強度製品も入手可能。長期・広範囲使用で副腎皮質機能抑制リスク |
| ORS(経口補水塩) | 容易 | WHO組成に準拠した製品を選択 |
| 処方箋医薬品 | 医師処方が必要 | 医師の処方基準は日本と異なる場合あり |
薬局での確認フレーズ:
-
Which country is this made in?(ウィッチ カントリー イズ ディス メイド イン?)(この薬はどの国で製造されていますか?) -
Is this safe for a pregnant woman?(イズ ディス セーフ フォー ア プレグナント ウーマン?)(妊婦に使用しても安全ですか?)
薬剤師メモ
マレーシアの薬局では、インド・中国・東南アジア製の医薬品も流通しています。WHO認定GMPに準拠した製品かどうかを確認することが理想的ですが、現地では容易でないことも多いです。不明な場合は成分名(一般名)を確認し、信頼できるブランドかを判断してください。未知の製品よりも、日本から持参した医薬品の使用が安全性の観点から優れています。
予防接種と渡航前準備
推奨される予防接種
マレーシアへの渡航前ワクチン接種は、渡航地域・滞在期間・渡航目的・個人の健康状態によって最適化されます。下表を参考に、感染症外来または渡航外来で個別相談を行ってください。
| ワクチン名 | 推奨度 | 接種時期(目安) | 有効期間 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 強く推奨 | 渡航3週間前(初回) | 追加接種後20年以上 |
| B型肝炎 | 推奨 | 未接種者・長期滞在者 | 追加接種で長期免疫 |
| 破傷風・ジフテリア | 推奨(10年未接種者) | 渡航前任意 | 10年 |
| 日本脳炎 | 農村部・長期滞在者に推奨 | 渡航2週間前 | 製品により異なる |
| 麻疹・風疹(MR) | 接種歴・抗体価を確認 | 必要に応じて | 終生免疫 |
| 狂犬病(曝露前) | 長期滞在・野生動物接触リスクある場合 | 渡航4週間前(3回接種要) | 要定期確認 |
| 腸チフス | 農村部・長期滞在者 | 渡航2週間前 | 2〜3年 |
| 黄熱 | 黄熱流行国経由入国時は証明書必要 | 渡航10日前 | 終生免疫(1回接種) |
渡航前3〜4週間のチェックリスト
4週間前:
- 感染症外来・渡航外来の予約
- 既往歴・アレルギー歴・服用中の薬をリスト化
- 渡航先の詳細確認(地域・滞在目的・宿泊環境)
- 海外旅行傷害保険への加入検討(キャッシュレス対応を優先)
2〜3週間前:
- 感染症外来受診、必要ワクチン接種開始
- 処方薬の事前処方を医師に相談
- OTC医薬品の購入・内容確認
- 旅行先の最新感染症情報確認(厚生労働省検疫所FORTHサイト等)
1週間前:
- 医薬品の最終確認・整理
- 英文医療概要(Medical Summary)の作成:氏名・血液型・既往歴・アレルギー・常用薬
- ワクチン接種証明書(特に黄熱証明書)の確保
- 海外旅行傷害保険証券・緊急連絡先の印刷
渡航当日:
- 医薬品は原則として機内持ち込み手荷物に入れる(預け入れ荷物の紛失リスク回避)
- 液体医薬品は100ml以下容器・ジップロック袋に分けてセキュリティを通過
- 日本語の処方箋ラベルが貼付された状態で携帯
- 麻薬・向精神薬を携帯する場合は外務省「医薬品の携帯輸出入手続き」を事前確認
薬剤師メモ(薬物相互作用の観点から)
マレリア予防薬(メフロキン塩酸塩)と抗不整脈薬、抗精神病薬、QT延長リスク薬との併用は心電図変化を起こす可能性があります。常用薬がある方は渡航外来受診時に必ず薬剤師・医師に薬のリストを提示し、相互作用チェックを受けてください。
まとめ
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蚊媒介感染症対策:デング熱予防にDEET 20〜30%またはイカリジン20%の忌避剤を3〜4時間ごとに塗布、昼間の活動中も蚊対策を継続。ボルネオ島訪問時はマラリア予防薬(アトバコン・プログアニル配合錠、ドキシサイクリン等)を医師と相談の上処方してもらう
-
水・食事の安全性:飲用水は封未開封のペットボトルを使用、生野菜・生卵・路上ジュースを回避、調理工程が確認できる屋台を選択。長期滞在・免疫不全者はA型肝炎ワクチン(渡航3週間前)を検討
-
旅行者下痢への対応:第一選択はORSによる補液。ロペラミド塩酸塩配合の止痢薬は血便・高熱を伴う場合は禁忌。ORS粉末を2〜3包持参する
-
皮膚トラブル対策:高温多湿によるあせも(弱〜中強度ステロイド外用薬)、足白癬(テルビナフィン塩酸塩1%外用)、日光皮膚炎(SPF50+・PA++++の日焼け止めを2時間ごと)に対する医薬品を準備
-
狂犬病咬傷後の対応:流水と石けんで15分以上洗浄し、当日中に医療機関でRIG+ワクチン接種を開始。渡航前曝露前予防接種(3回)を検討
-
渡航前準備:感染症外来を渡航3〜4週間前に受診。A型肝炎・破傷風・必要に応じて狂犬病等のワクチン接種。英文医療概要と海外旅行傷害保険(キャッシュレス対応)の準備
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医薬品携帯:すべての医薬品は手荷物に入れ、処方箋ラベルをつけたまま携帯。液体は100ml以下容器に分割。麻薬・向精神薬は事前手続き確認
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最新情報確認:感染症流行状況は常に変動します。出発1週間前に厚生労働省検疫所「FORTH」・外務省海外安全情報・WHO/CDCの最新渡航情報を必ず確認してください
参考文献・情報源
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厚生労働省検疫所 FORTH「マレーシアの感染症情報」
https://www.forth.go.jp/destinations/asia/malaysia.html -
世界保健機関(WHO)「Dengue and severe dengue」
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue -
米国疾病予防管理センター(CDC)「Travelers' Health – Malaysia」
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/malaysia -
外務省「海外安全情報 マレーシア」
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_149.html -
WHO「Rabies – Key facts」
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/rabies -
WHO「Oral rehydration salts: production of the new ORS」
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-FCH-CAH-06.1 -
国立感染症研究所「マラリアとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/519-malaria-intro.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))