オーストリアの感染症リスク:渡航前に確認すべき疾患
オーストリアはヨーロッパの先進国の中でも医療水準が高く、一般的な感染症リスクは低いとされています。しかし季節やエリアによっては注意が必要な疾患があります。特にアルプス山岳地帯や森林地帯での野外活動、冬季のスキーリゾートへの訪問、長期滞在などを計画している場合は、事前の感染症リスク評価が渡航準備の核心となります。
オーストリア保健省(Bundesministerium für Soziales, Gesundheit, Pflege und Konsumentenschutz)は毎年、ダニ媒介脳炎(TBE)の感染地図を更新しており、リスク地域は年々拡大傾向にあります。渡航先がウィーンの都市部に限られる場合と、シュタイアーマルク州やチロル州の山岳地帯を訪れる場合では、推奨される予防策が大きく異なります。以下の表でまず全体像を把握してください。
重要な感染症と予防接種
| 感染症 | リスク度 | 予防方法 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 麻疹(はしか) | 中程度 | MMR予防接種 | 1960年代以降生まれで未接種者は要検討 |
| ダニ脳炎(TBE) | 低〜中 | TBE予防接種 | 春〜秋、森林活動が多い場合は推奨 |
| ポリオ | 低 | 定期接種確認 | 渡航前に履歴確認 |
| ライム病 | 低〜中 | DEET含有虫除け | ダニ媒介、山岳地帯で注意 |
| COVID-19 | 低 | 最新ワクチン情報確認 | 渡航直前に欧州疾病予防管理センター(ECDC)確認 |
| インフルエンザ | 季節性 | 季節性ワクチン | 冬季(11月〜3月)が流行期 |
| 高山病(AMS) | 低〜中 | 段階的な高度順化 | 標高2500m超の山岳エリアで発症リスク |
| 百日咳 | 低 | DTaP/Tdap追加接種 | 乳幼児同伴の渡航者は特に確認 |
薬剤師メモ
ダニ脳炎(Tick-borne Encephalitis, TBE)はオーストリアの一部地域で報告されています。特にオーストリア東部(ウィーン周辺)や南部地域での野外活動が予定されている場合、渡航1ヶ月前から予防接種を検討してください。現在日本で使用可能なTBEワクチンとして、FSME-IMMUN(一部医療機関で扱い)などがありますが、取り扱い医療機関が限られるため早めに渡航外来を受診することを強く推奨します。ワクチンは通常3回接種(0・1〜3ヶ月・9〜12ヶ月)が必要ですが、急速接種スケジュール(0・7日目・21日目)でも短期免疫を得ることが可能です。なお急速スケジュールは通常スケジュールより免疫原性がやや低いため、帰国後に追加接種を検討してください。
ダニ脳炎(TBE)の薬学的理解:ワクチンの機序と注意点
TBEウイルスはフラビウイルス科に属するRNAウイルスで、ヨーロッパ亜型・シベリア亜型・極東亜型の3種類が知られています。オーストリアで問題となるのは主にヨーロッパ亜型です。ウイルスは感染したマダニ(主にIxodes ricinus)の唾液腺に存在し、吸血開始後数分〜数時間で宿主への伝播が起こります。ライム病の病原体(Borrelia burgdorferi)は吸血開始から24〜48時間以上経過しないと伝播リスクが高くならないのに対し、TBEウイルスは咬着直後から感染しうる点が重要な違いです。
TBEワクチン(不活化ウイルスワクチン)は筋肉内注射で投与され、中和抗体の産生を促します。免疫記憶が形成されると再暴露時に迅速な抗体応答が起こります。副反応として接種部位の疼痛・発赤・腫脹が20〜30%程度に見られ、発熱・頭痛・倦怠感が5〜10%に報告されています(目安)。卵アレルギーが重篤な場合は製品によって卵タンパク残存の可能性があるため、接種前に医師への申告が必要です。
麻疹対策の重要性
オーストリアを含むヨーロッパでは麻疹の散発症例が報告されています。ECDCのサーベイランスデータでは、欧州域内での麻疹症例は免疫ギャップを持つ成人層で多く報告されており、1960年代以降に日本で生まれた方で以下に該当する場合は出発前の予防接種を推奨します:
- 麻疹の予防接種歴が1回のみ(日本の定期接種が1回だった時代に相当する世代)
- 予防接種歴が不明
- 麻疹への免疫が不確実
MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)またはMR(麻疹・風疹)ワクチンの接種は、渡航の2週間前までに完了することが目安です。麻疹ウイルスは空気感染・飛沫感染し、基本再生産数(R₀)が12〜18と非常に高いため、集団免疫が成立していない環境では容易に広がります。免疫のない成人が感染した場合、小児より重篤化しやすい傾向が知られており、肺炎・脳炎などの合併症リスクも成人で高くなります。
オーストリアの水・食事の安全性
水道水の安全性
オーストリアの水道水は極めて安全で、直接飲用が可能です。ウィーン、グラーツ、インスブルック、ザルツブルクを含むほぼすべての主要都市で、飲料水としての基準を満たしています。ウィーンの水道水は主にシュタイリッシェ・ラアル山系の湧水を水源としており、硬度が比較的低く(軟水〜中硬水)、日本人の消化管にも馴染みやすい水質です。EU指令98/83/ECに基づく厳格な水質基準が適用されており、重金属・微生物・農薬残留物すべてにおいて基準値以下が維持されています。
薬剤師メモ
ただし、渡航直後や消化管が敏感な方の場合、新しい地域の水に適応するまで下痢を起こすことがあります(いわゆる「旅人の下痢」)。これは病原微生物による感染性の下痢ではなく、腸内フローラが新環境の微量ミネラル組成・pH変化に反応する生理的反応です。初日〜2日目は市販のミネラルウォーター(Mineralwasser)を購入することをお勧めします。スーパーマーケット(BILLA、Spar、Hoferなど)で安価に入手できます。炭酸入り(mit Kohlensäure)と炭酸なし(ohne Kohlensäure)の両方が販売されており、胃腸が弱い方は炭酸なしを選んでください。
食事の衛生水準
オーストリアはEU加盟国で食品衛生基準が極めて厳格です。レストラン、カフェ、市場すべてで衛生管理が行き届いています。以下の点に留意してください:
- 生水: 安全です
- 生肉・生魚料理: 衛生的に調理されたものは安全ですが、免疫低下者は加熱食を推奨
- 乳製品: すべてパスチャライゼーション済みで安全
- 街頭販売食: ウィーンのナッシュマルクト(Naschmarkt)など観光地の屋台も衛生基準を満たしています
特に注意が必要なのはキノコ料理です。オーストリアでは秋に森林採集のきのこを使った郷土料理(例:プフィフェルリングのクリームソース)が多く提供されますが、料理自体は安全に調理されています。アレルギー体質の方は初めて食べる食材を一度に多く摂らないよう注意してください。
また、オーストリア料理は脂質・塩分が比較的高い傾向があります(例:ウィーナー・シュニッツェル、グラーシュなど)。消化酵素が少ない方や胆嚢疾患のある方は、胃腸薬(消化酵素配合のOTC薬)を持参しておくと安心です。
旅人の下痢への薬学的対応
旅人の下痢(Traveler's Diarrhea)はオーストリアでの発症リスクは低いものの、渡航初日からの疲労・時差・食事変化が重なる場合に起きやすくなります。
病態と一般名での対応薬:
| 症状の程度 | 対応の方針 | 使用を検討する成分(一般名) |
|---|---|---|
| 軽度(1〜2回/日の軟便) | 水分補給、経過観察 | 経口補水塩(ORS)粉末 |
| 中等度(3〜5回/日) | ORS+止痢薬を検討 | ロペラミド塩酸塩(4mg初回・2mg追加) |
| 重度・血便・発熱あり | 医療機関を受診 | 自己判断での止痢薬は禁忌 |
薬剤師メモ(薬物動態の補足)
ロペラミド塩酸塩はオピオイド受容体(μ受容体)に作用し腸管蠕動を抑制しますが、血液脳関門をほとんど通過しないため中枢性の鎮静作用はほとんど示しません(P-糖タンパクによる排出が主因)。ただし細菌性腸炎・赤痢が疑われる場合(発熱38度超・血便・粘液便)は腸内の毒素・病原体の排出を妨げる可能性があるため使用禁忌です。必ず症状の性質を確認してから使用してください。
高山病(急性高山病・AMS)への対策
オーストリアはアルプス山岳地帯を有しており、チロル州・フォアアールベルク州・ザルツブルク州の山岳エリアでは標高2500mを超える地点へのアクセスが容易です。グロースグロックナー(標高3798m)やダッハシュタイン(標高2995m)などへのハイキング・登山では急性高山病(Acute Mountain Sickness, AMS)のリスクがあります。
高山病の病態と症状
高山病は低酸素環境への不適応により生じます。標高が上がると大気中の酸素分圧が低下し、肺での酸素取り込みが減少します。代償として換気が亢進しますが、過換気によるCO₂の低下がアルカローシスを引き起こし、症状を複雑にします。
AMSの典型症状(レイク・ルイーズスコアによる評価が一般的):
- 頭痛(最も一般的な初期症状)
- 食欲不振・嘔気
- 疲労・倦怠感
- めまい
- 睡眠障害
重症化すると高所肺水腫(HACE/HAPE)に進行する可能性があり、この段階では緊急の高度降下と医療介入が必要です。
高山病の予防と薬物療法
| 対策 | 具体的内容 |
|---|---|
| 段階的順化 | 1日の高度上昇を300〜500m以内に抑える(目安) |
| 水分補給 | 1日2〜3Lの水分摂取(アルコール・利尿薬は控える) |
| アセタゾラミド(一般名) | 医師処方のもとで予防投与を検討(渡航外来で相談) |
| 早期下山 | 症状悪化時は即座に高度を下げる |
薬剤師メモ(アセタゾラミドの薬理)
アセタゾラミドは炭酸脱水酵素阻害薬で、主に腎臓での重炭酸イオン排泄を促進することにより代謝性アシドーシスを緩やかに誘発します。これにより呼吸中枢を刺激して換気を亢進させ、血中酸素飽和度の低下を補正します。副作用として多尿・四肢のしびれ(知覚異常)・炭酸飲料の味覚変化が知られています。スルファ系薬剤(サルファ剤)と構造上の類似性があるため、スルホンアミド系薬剤へのアレルギー既往がある方は使用前に必ず医師に申告してください。また利尿作用により水分・電解質バランスが変動するため、十分な水分補給が前提です。日本では処方箋医薬品のため、渡航外来での事前処方が必要です。
季節別の感染症リスクと医薬品備え
春季(3月〜5月):ダニと花粉症対策
感染症リスク: ライム病、ダニ脳炎の活動期開始
オーストリアのダニ(Ixodes ricinus)は気温8℃を超えると活動を始めます。3月下旬から森林・草地・低木帯での活動が増えるにつれて刺咬のリスクが高まります。ダニに刺されても多くの場合は無症状ですが、TBEウイルスやライム病の病原体(Borrelia burgdorferi)を保有するダニに刺された場合は問題となります。
ライム病(ボレリア症)の特徴: 初期症状は刺咬部位を中心とした遊走性紅斑(erythema migrans)が典型的で、刺咬から3〜30日後に直径5cm以上の環状紅斑として出現します。発見した場合は帰国後に内科・感染症科を受診してください。抗菌薬(ドキシサイクリン・アモキシシリン等)による治療が有効ですが、処方は医師の判断によります。
必携医薬品:
| 医薬品(一般名・成分名) | 用途 | 使用の目安 |
|---|---|---|
| DEET(ジエチルトルアミド)20〜30%含有虫除け剤 | ダニ・蚊予防 | 外出時に露出部分に塗布、数時間ごとに再塗布 |
| ペルメトリン含有衣類用防虫スプレー | 衣類・靴への事前処理 | 出発前に自宅で衣類に処理し乾燥させる |
| ジフェンヒドラミンまたはウレパールやステロイド外用薬(ヒドロコルチゾン低濃度配合) | ダニ刺され後の痒み対策 | 刺された部位に必要に応じて塗布 |
| 花粉症用第二世代抗ヒスタミン薬(ロラタジン・セチリジン・フェキソフェナジン等) | 花粉症対策 | 日本での処方薬または市販薬を持参 |
薬剤師メモ
オーストリアの春は花粉飛散量が多く、特にシラカバ(Birch)花粉症の患者は症状が悪化することがあります。日本のスギ花粉とシラカバ花粉はアレルゲンが異なりますが、交差反応性を示す場合があります。また、シラカバ花粉アレルギーを持つ方はリンゴ・桃・洋ナシ・キウイなどの生の果物・野菜を食べた際に口腔アレルギー症候群(OAS)を起こす可能性があります(花粉食物アレルギー症候群)。加熱調理した果物・野菜では多くの場合症状は軽減されます。日本での処方薬(フェキソフェナジン、セチリジン、ロラタジン等)を携帯することを強くお勧めします。現地薬局での購入も可能ですが、ドイツ語での説明が必要になります。
ダニ除去の正しい手順: ダニを発見した場合は、ピンセットまたは専用のダニ除去器具(Zeckenzange)を用い、皮膚に対してなるべく垂直に引き抜きます。ねじる・アルコールを塗る・熱を当てるなどの方法はダニが消化液を逆流させリスクを高めるため禁忌とされています。除去後は刺咬部位を消毒し、4〜6週間は体調変化を観察してください。
夏季(6月〜8月):紫外線と脱水症状対策
感染症リスク: 食中毒(気温上昇に伴う微生物増殖)、紫外線関連リスク
オーストリアの夏は標高の高い山岳地帯では紫外線指数(UV Index)が都市部の1.5〜2倍に達することがあります。雪面での反射が加わる場合はさらに高くなるため、日焼け止めと紫外線対策用のサングラス・帽子が必須です。
必携医薬品:
- 日焼け止め(SPF 50+・PA+++以上、ウォータープルーフ推奨)
- 経口補水塩(ORS):塩化ナトリウム・塩化カリウム・ブドウ糖配合の粉末型を2〜3包
- 整腸薬(乾燥酵母・耐性乳酸菌・ビフィズス菌などの生菌製剤)
- 下痢止め(ロペラミド塩酸塩配合のOTC薬)
薬剤師メモ(整腸薬の選択)
生菌製剤(プロバイオティクス)は腸内フローラのバランスを整え、旅行中の下痢予防に一定の効果が示されています。ただし製品によって含有菌株・菌数が異なります。抗菌薬を服用中の場合は、抗菌薬の投与終了から2〜3時間後に整腸薬を服用することで生菌の失活を防ぐことができます(服用タイミングに注意)。
秋季(9月〜11月):インフルエンザの流行期突入
感染症リスク: インフルエンザ前駆症状、呼吸器感染症
北半球のインフルエンザワクチンは通常9〜10月に接種開始となります。渡航の2週間前までに接種を完了することで、ウィーンやインスブルックの人混みでの感染リスクを大幅に低減できます。
推奨予防策:
- 渡航の2週間前にインフルエンザワクチンを接種(北半球の秋シーズン)
- KN95またはFFP2規格のマスクを5〜10枚携帯(公共交通機関・医療機関での着用を検討)
- 手指消毒用エタノール製剤(エタノール濃度70〜80%)を持参
冬季(12月〜2月):呼吸器感染症とスキー場での外傷
感染症リスク: インフルエンザピーク、新型コロナウイルス、RSウイルス
オーストリアの冬季はスキーリゾートへの国際的な訪問者が急増します。ゴンドラやレストランなど密閉空間では呼吸器感染症の伝播リスクが高まります。また高地での激しい運動は免疫機能を一時的に低下させる可能性があるため(「オープンウィンドウ」仮説)、スキー直後の体調管理が重要です。
必携医薬品:
| 医薬品(成分名・用途) | 用途 |
|---|---|
| FFP2規格マスク | 公共交通・人混みで着用 |
| エタノール70〜80%含有の手指消毒剤 | 毎回の食事前、トイレ後 |
| オキシメタゾリン点鼻液(血管収縮薬)または生理食塩水点鼻スプレー | ドライエアの鼻詰まり対策(血管収縮薬は連続7日以内) |
| 葛根湯 🛒(漢方)またはアセトアミノフェン配合薬 | 初期症状・発熱対応 |
| 創傷被覆材・ガーゼ・弾性テープ | スキー場での外傷対応 |
| イブプロフェンまたはアセトアミノフェン配合の解熱鎮痛薬 | 頭痛・筋肉痛対策 |
| のど用トローチ(セチルピリジニウム塩化物またはフラジオマイシン配合等) | 喉の違和感・乾燥対策 |
薬剤師メモ
オーストリアの冬は空気が非常に乾燥します。寝起きの喉の痛みや鼻の乾燥が多く報告されています。洗面台に加湿器がない場合、就寝時にベッドの近くに濡れたタオルを干すか、浴室のドアを開けるだけでも有効です。
また血管収縮性点鼻薬(オキシメタゾリン・ナファゾリン等)は連続使用7日を超えると反跳性充血(薬物性鼻炎)を引き起こすリスクがあります。旅行中の鼻詰まりには生理食塩水による鼻洗浄スプレーを第一選択にすることを推奨します。
NSAIDs(イブプロフェン等)は空腹時の服用で胃粘膜障害を起こすリスクがあるため、必ず食後または食事と一緒に服用してください。胃潰瘍の既往がある方やワーファリン(ワルファリン)服用中の方はアセトアミノフェンの使用を優先し、NSAIDsの使用前に医師・薬剤師に相談してください。
現地での医療機関と医薬品入手
医療機関の利用
オーストリアの医療水準は世界最高峰です。以下の窓口を活用してください:
- Apotheke(薬局): 全国に多数の店舗。処方箋医薬品・一般用医薬品両方を扱います。多くのスタッフが英語対応可能です。
- Arzt(医師): 医師の診察が必要な場合は、宿泊先の受付スタッフに紹介を依頼することが最速です。
- Notfallambulanz(救急外来): 緊急時は「141」(医療相談専用)または「144」(救急車)に電話してください。
現地薬局で使える英語フレーズ:
-
Do you have anything for diarrhea?(ドゥ ユー ハヴ エニシング フォー ダイアリア?)→ 下痢薬を探す際 -
I have a fever and sore throat.(アイ ハヴ ア フィーバー アンド ソア スロート)→ 発熱と喉の痛みを伝える際 -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アラージック トゥ ペニシリン)→ ペニシリンアレルギーを伝える際 -
I need medication without a prescription.(アイ ニード メディケーション ウィズアウト ア プレスクリプション)→ 市販薬を求める際
現地で入手しやすいOTC薬の成分例
オーストリアの薬局では以下の成分を含む製品が比較的入手しやすいです(ただし商品名・規格は現地品のため、購入前に薬剤師に確認してください):
| 症状 | 現地で探せる成分(一般名) | 日本からの持参推奨度 |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛 | アセトアミノフェン、イブプロフェン | 持参推奨(用量確認しやすい) |
| 下痢止め | ロペラミド塩酸塩 | 持参推奨 |
| 抗アレルギー | セチリジン、ロラタジン、フェキソフェナジン | 持参推奨(日本語の添付文書で管理) |
| 鼻詰まり | オキシメタゾリン点鼻、生理食塩水スプレー | いずれか持参推奨 |
| 胃もたれ | ファモチジン、オメプラゾール(一部OTC) | 処方薬使用者は持参 |
| 消毒 | ポビドンヨード、エタノール含有ゲル | 持参推奨 |
日本から持参すべき医薬品リスト
絶対必携(処方箋医薬品):
- 慢性疾患の処方薬(全滞在期間分、最低3ヶ月分まで携帯可)
- インスリン・血糖測定器(糖尿病患者)
- 喘息吸入薬(β₂刺激薬・吸入ステロイド等)
- 向精神薬・睡眠薬(事前に在ウィーン日本大使館に相談のこと)
強く推奨(一般用医薬品・成分名で記載):
- 乳酸菌・酵母等配合の整腸薬
- ロペラミド塩酸塩含有の下痢止め
- ファモチジン・スクラルファート等配合の胃薬
- アセトアミノフェンまたはイブプロフェン含有の解熱鎮痛薬
- 花粉症用第二世代抗ヒスタミン薬(季節による)
- ジメンヒドリナート等配合の酔い止め
- 人工涙液(防腐剤フリーの使い捨てタイプ推奨)
薬剤師メモ(向精神薬・麻薬・睡眠薬の携行について)
日本の処方箋医薬品をオーストリアで再取得することは法的に困難です。処方薬は最低3ヶ月分、できれば全滞在期間分を日本の医師から処方してもらい、薬剤師から「英文の薬剤情報」(Drug Information Sheet)をもらうことを強く推奨します。向精神薬(ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬等)や麻薬性鎮痛薬を携行する場合は、オーストリア当局の規制(国際麻薬取締条約)に基づく事前申請が必要な場合があります。渡航前に在日オーストリア大使館または外務省の医薬品携行に関するガイダンスを確認してください。
ウィーン・グラーツ・ザルツブルク別注意点
ウィーン
- 人口密集地のため冬季のインフルエンザリスク:中程度
- ドナウ川畔・プラター公園(緑地帯)での野外活動時はダニ予防を徹底してください
- 地下鉄(U-Bahn)・トラム(Straßenbahn)での感染症リスク:混雑時間帯はマスク着用を検討
- ウィーン市内はほぼ平地のため高山病リスクはありませんが、グロースグロックナーへの日帰りツアー参加者は注意が必要です
グラーツ(シュタイアーマルク州)
- ダニ脳炎の報告地域として知られており、野外活動予定者はTBE予防接種を強く検討してください
- 山岳地帯でのハイキング時はDEET含有虫除け剤の使用が必須です
- グラーツ大学病院(LKH-Univ.-Klinikum Graz)は英語対応可能な総合病院で緊急時に利用できます
ザルツブルク
- バイエルン地域(ドイツ)に近接しており、独オーストリア国境を越えた感染症流行情報も確認が必要です
- アルプス山岳地帯:高地での紫外線対策と脱水症状に注意してください
- ザルツブルク周辺の湖沼(ザルツカンマーグートエリア)での水泳時、夏季には湖水の水質情報を現地掲示板で確認してください(藻類の大量繁殖による水質変化が稀に発生)
渡航前チェックリスト
□ 予防接種歴の確認(麻疹・ポリオ・百日咳)
□ 必要に応じてMMR・TBEワクチンの接種(渡航1ヶ月以上前までに完了)
□ 高山病リスクがある場合、渡航外来でアセタゾラミドの処方相談
□ 慢性疾患がある場合、医師から英文の診断書と処方箋を取得
□ 向精神薬・麻薬系薬剤を携行する場合は事前に大使館・外務省に確認
□ 海外旅行保険(医療費補償・緊急搬送付き)への加入確認
□ 必携医薬品リストの作成と購入(成分名を控えておく)
□ 眼鏡・コンタクトレンズの予備確保
□ 緊急連絡先(在ウィーン日本大使館、保険会社)をスマートフォンに登録
□ 英文薬剤情報(Drug Information Sheet)の取得と印刷
□ アレルギー情報の英文メモ(食物・薬物アレルギーの両方)作成
まとめ
- オーストリアは医療水準が高く、一般的な感染症リスクは低い。ただし麻疹・ダニ脳炎・インフルエンザへの対策は必須
- 水道水と食事は安全。ただし渡航初日〜2日目はミネラルウォーターの購入を推奨
- 高山病対策:標高2500mを超える山岳エリアでは急性高山病のリスクがある。段階的な高度順化と渡航外来での事前相談が重要
- 季節別対策が重要。春はダニ・花粉、夏は脱水・紫外線、秋冬はインフルエンザ対策を優先
- 日本の処方薬は最低3ヶ月分を国内で準備。現地での再取得は困難
- 予防接種は渡航1ヶ月前までに完了。特にMMRとTBEは要検討
- 英文の医療情報を携帯。現地医療機関との意思疎通が円滑になる
- 緊急時は「141」(医療相談)または「144」(救急)に電話。在ウィーン日本大使館(+43-1-531-39-3000)も緊急連絡先として活用
最新情報は 外務省 海外安全ホームページおよび 欧州疾病予防管理センター(ECDC)で出発直前に確認してください。
参考文献
-
European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC). "Tick-borne encephalitis." ECDC Disease Factsheet.
https://www.ecdc.europa.eu/en/tick-borne-encephalitis -
World Health Organization (WHO). "International travel and health: Austria." WHO Travel Advice.
https://www.who.int/ith/en/ -
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Health: Austria." CDC Yellow Book 2024.
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/austria -
厚生労働省検疫所(FORTH).「オーストリアの感染症危険情報・感染症情報」
https://www.forth.go.jp/destinations/europe/austria.html -
外務省.「オーストリア 感染症危険情報」海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_154.html -
Wilderness Medical Society. "Altitude Illness Prevention and Management." Wilderness & Environmental Medicine. 2014;25(4):S4-S14.
https://www.wemjournal.org/article/S1080-6032(14)00257-5/fulltext -
European Commission. "Council Directive 98/83/EC on the quality of water intended for human consumption."
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:31998L0083
監修:薬剤師(博士(薬学))