イギリスで病院・薬局を使うには|救急999/111・NHSとPharmacy/Bootsの使い方を薬剤師が解説

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イギリス渡航者向け:現地医療事情ガイド|体調不良時の対処法と病院受診マニュアル

イギリスへの渡航を計画されている方の多くが「現地で病気になったらどうしよう」と不安を感じるのではないでしょうか。実は、イギリスの医療制度はNHS(National Health Service)という公的医療制度が整備されており、適切な知識があれば安心して受診できます。本記事では、薬剤師の視点から、現地での医療アクセス方法、体調不良時の対処法、医療保険の使い方まで、実践的な情報を解説します。


イギリスの医療制度:NHS と私立医療の仕組み

NHSの基本構造と日本との違い

イギリスの医療は**NHS(National Health Service)**が中核を担っています。1948年に創設されたNHSは、「必要なすべての人に、支払い能力に関係なく医療を提供する」という理念のもと運営されており、加入登録者(主に居住者)には診察・処方ともにほぼ無料で提供されます。日本の健康保険制度と大きく異なる点を理解することが、スムーズな受診につながります。

項目 イギリス(NHS) 日本
主治医制度 GP(General Practitioner)による紹介制が基本 自由にどの科でも受診可
受診方法 予約が必須(緊急除く) 予約なしの受診も多い
薬局と医師の分離 厳格に分離(医師の処方箋が必須) 医師の指示で薬局で購入可
費用負担 NHS登録者は原則無料※ 保険診療は3割負担
処方箋料 1処方あたり £9.90(2024年度・目安) 処方箋代なし

※観光客や短期滞在者は有料。緊急受診(A&E)は登録なしでも受診可

薬剤師コメント イギリスは「紹介制度」が厳格です。専門医への受診や検査には、GP(かかりつけ医)の紹介状が必須となることがほとんど。日本の「医科大学病院は紹介状があると便利」というレベルではなく、紹介状がなければ専門医受診ができません。観光客の場合、この制限が適用されないことが多いので、相談時に観光客であることを必ず伝えましょう。

NHS における薬剤師(Pharmacist)の役割

イギリスでは薬局の薬剤師が「Pharmacy First」制度のもと、軽症疾患に対して処方箋なしで一定の医薬品を供給・助言する権限を持っています(2024年以降拡充)。対象疾患には急性尿路感染症(女性)、鼻咽頭炎、扁桃炎、副鼻腔炎、インペティゴ(とびひ)、帯状疱疹、耳感染症などが含まれ、薬剤師が一次対応の入口となっています。日本では薬剤師はあくまでも調剤・服薬指導が主務ですが、イギリスでは臨床的な一次判断機能を担っている点が大きく異なります。渡航者にとっても、まず薬局で薬剤師に相談するというアプローチは理にかなっています。


体調不良時の対処フロー:軽症から緊急まで

ステップ1:軽い症状の場合

軽い風邪、頭痛、軽度の胃痛などの場合、以下の順序で対応します。

1. コンビニ・薬局での市販医薬品購入

イギリスの薬局(Pharmacy)では、日本よりも多くの一般用医薬品を購入できます。主要チェーンとしてはBoots(英国最大の薬局チェーン)が全国に店舗を持ち、スーパーマーケット内のPharmacyコーナー(Tesco Pharmacy、Sainsbury's Pharmacyなど)も広く利用されています。

症状 推奨成分・代表製品例 購入場所 価格目安
頭痛・解熱 アセトアミノフェン(Paracetamolパラセタモール500mg Tesco, Boots, Co-op £1〜2
鼻風邪・鼻づまり プソイドエフェドリン塩酸塩配合の鼻炎薬(Sudafedスーダフェドなど) Pharmacy(P指定) £2〜3
喉の痛み・咳 アンバゾン・ジクロロベンジルアルコール配合ロゼンジ(Strepsilsストレプシルス 大型薬局 £1.50〜2.50
下痢 ロペラミド塩酸塩(Imodiumイモジアム相当品)/経口補水塩(Dioralyte) Pharmacy £2〜4
胃痛・胸やけ アルギン酸ナトリウム配合の制酸薬(Gavisconガビスコン相当品)/炭酸カルシウム系(Rennieレニーなど) 薬局・スーパー £2〜3
筋肉痛・関節痛 イブプロフェン配合の解熱鎮痛薬 Boots・スーパー £2〜3

薬剤師コメント(薬学的解説) Paracetamolパラセタモール(アセトアミノフェン)はイギリスで最もポピュラーな解熱鎮痛薬であり、COX非選択的阻害ではなく中枢性の痛覚閾値上昇・体温調節中枢への作用が主な機序とされています(詳細な機序は現在も研究中)。最大用量は成人1回1,000mg・1日4,000mgですが、飲酒習慣のある方や肝機能低下者では代謝産物NAPQIの蓄積により肝障害のリスクが高まるため、1日2,000mg以下に抑えることが推奨されます。

イブプロフェン(NSAID)は抗炎症作用が強い反面、空腹時服用による胃粘膜刺激、腎血流量低下、喘息誘発(アスピリン過敏症合併者)のリスクがあります。食後服用を徹底し、腎機能低下・消化管潰瘍既往のある方は使用を避けてください。

また、プソイドエフェドリン配合の鼻炎薬はP(Pharmacy only)指定であり、薬局の薬剤師から直接購入する必要があります。血圧上昇・不眠・動悸の副作用があるため、高血圧・甲状腺機能亢進症・MAO阻害薬使用中の方は禁忌です。渡航前に自身の服用薬との相互作用を確認しておくことを強く推奨します。

2. 薬局薬剤師への相談:英語フレーズ集

薬局で薬剤師に相談する際に役立つ英語フレーズを以下にまとめます。

場面 英語フレーズ カタカナ発音
症状を伝える "I have a headache and mild fever."(アイ ハヴ ア ヘッドエイク アンド マイルド フィーバー)
薬を探す "Do you have anything for a sore throat?"(ドゥ ユー ハヴ エニシング フォー ア ソア スロート?)
子どもへの安全性確認 "Is this safe for children?"(イズ ディス セーフ フォー チルドレン?)
服用中の薬との相互作用 "I'm taking this medicine. Is it okay to take it together?"(アイム テイキング ディス メディスン。イズ イット オーケー トゥ テイク イット トゥゲザー?)
アレルギーを伝える "I'm allergic to aspirinアスピリン."(アイム アラージック トゥ アスピリン)
用量を確認する "How many should I take and how often?"(ハウ メニー シュッド アイ テイク アンド ハウ オーフン?)

薬剤師コメント イギリスの薬局では薬剤師に相談することが標準的な文化として定着しており、「Minor ailment service(軽症相談サービス)」として積極的に活用が推奨されています。遠慮なく症状を説明して市販薬をすすめてもらいましょう。服用中の薬がある場合は、実物またはパッケージの写真をスマートフォンに保存しておくと、相互作用の確認がスムーズになります。

3. NHS 111 サービスへの電話相談

症状が改善せず、医師の診察が必要か判断に迷う場合はNHS 111に電話します。

  • 電話番号: 111(無料)
  • 対応時間: 24時間年中無休
  • 応対: 医療専門家(看護師・薬剤師など)が症状を聞き、受診の必要性を判断
  • 言語: 翻訳サービス利用可(電話冒頭で"Japanese, please"と伝えると通訳が介入)

NHS 111での一般的な流れ:

  1. 症状の詳細を質問される
  2. 緊急性のスコアリング(Clinical Assessment Tool使用)
  3. 受診の必要性判断(自宅療養/薬局受診/GP予約/A&E直行)
  4. 必要に応じてGPの予約仲介やウォークイン・クリニック情報提供
  5. 緊急性が高い場合は999救急車の手配も行う

NHS 111はウェブサイト( https://111.nhs.uk)からオンラインで症状入力も可能で、英語に不安がある場合はテキスト入力で対応できることもあります。


ステップ2:中程度の症状・医師の診察が必要な場合

39℃以上の発熱が2日続く、嘔吐が続く、強い腹痛、皮疹の拡大など、医師の診察が明らかに必要な場合は以下の選択肢があります。

GP(General Practitioner)の受診

GPを見つけるには:

  • Google Maps で "GP near me"(ジーピー ニア ミー) 検索
  • NHS公式サイト( www.nhs.uk) から郵便番号で検索
  • 宿泊先のホテル・ゲストハウスに相談(多くが医療機関情報を持つ)
  • 日本大使館・総領事館の邦人支援窓口

受診の流れ:

  1. GP診療所に電話(または受付窓口に直接訪問)
  2. 症状を簡潔に説明(観光客であることを伝える)
  3. 予約を取得(通常1〜2日後、緊急性が高い場合は当日対応あり)
  4. 診察当日、受付で保険情報・パスポートを提示
  5. 診察(1回あたり約10〜15分)
  6. 必要に応じて処方箋を受け取り、最寄り薬局で調剤

料金(目安):

  • GP診察料:観光客は£20〜50程度(診療所により異なる)
  • 処方箋料:1処方につき£9.90(NHS処方箋の場合・2024年度目安)
  • NHS登録者の場合は診察・処方ともに無料

ウォークイン・クリニック(Walk-in Centre)の活用

都市部を中心に「予約不要で受診できるクリニック」が設置されています。GP受診より早い対応が期待でき、旅行者には特に利便性が高いです。ロンドン、マンチェスター、バーミンガム、エジンバラなどの大都市には複数存在します。NHS 111のウェブサイトやGoogle Mapsで "Walk-in Centre near me"(ウォーク イン センター ニア ミー) と検索するのが最も確実です。

薬剤師コメント イギリスのGP診察時間は一般的に朝8:00〜17:30です。土日や夜間の緊急対応は「Out of hours service(アウト オブ アワーズ サービス)」という別窓口が担います。NHS 111に電話すると適切な窓口へ誘導してもらえます。また、私立クリニック(Private clinic)はNHS登録なしで受診でき、待ち時間が短い傾向がありますが費用は高額です。


ステップ3:緊急の場合

**40℃以上の高熱、胸痛、呼吸困難、意識喪失、重度外傷、脳卒中症状(FAST:顔の歪み・腕の麻痺・言語障害・突然発症)**など、危機的症状の場合は迷わず救急対応を取ります。

1. 救急車を呼ぶ

  • 電話番号: 999(無料)
  • 対応: イギリス全土で24時間対応
  • 言語: 英語が基本だが、翻訳サービス利用で複数言語対応可
  • 電話したら「Ambulance please(アンビュランス プリーズ)」と伝えると救急車を手配してもらえます

2. A&E(Accident & Emergency)へ直行

  • イギリスの救急外来。日本の「救急外来(ER)」に相当
  • 緊急性に応じてトリアージ(優先度判定)が実施される
  • 診察から検査、薬物療法、入院手配まで対応

受診時に役立つ英語フレーズ:

場面 英語フレーズ
胸の痛みを伝える "I have severe chest pain."(アイ ハヴ スィビア チェスト ペイン)
呼吸困難 "I can't breathe properly."(アイ キャント ブリーズ プロパリー)
アレルギーを伝える "I have an allergy to penicillin."(アイ ハヴ アン アラージー トゥ ペニシリン)
服用薬を伝える "I'm taking these medications."(アイム テイキング ジーズ メディケーションズ)

A&E受診時の費用(目安):

  • EU/EEA国籍者:EU医療保険があれば無料
  • その他国籍(日本人含む):原則有料
    • 外来処置のみ:£100〜300程度
    • 入院・手術が必要な場合:数百ポンド〜数千ポンドに及ぶこともある(海外旅行保険でカバーされることが一般的)

薬剤師コメント A&E利用時は「EHIC(European Health Insurance Card)」を持っていないか確認されます。日本国籍者の場合は対象外ですが、EU/EEA国籍で保険カードを持つ方は提示すると費用が減額されることがあります。また、薬のアレルギー情報(特にペニシリン系抗生物質・NSAIDsへのアレルギー)は英語で書いたメモをスマートフォンに保存しておくと、緊急時に医師へ的確に伝達できます。


イギリスで入手しやすい医薬品:持参・購入ガイド

事前に日本から持参すべき医薬品

イギリスでは多くの医薬品が入手可能ですが、製品名が異なる・英文の添付文書しかない・慣れていない成分配合といった点から、以下の常備薬は日本から持参することを推奨します。

医薬品 代表成分 理由 持参量の目安
総合感冒薬(ルル・パブロンなど) アセトアミノフェン・ジヒドロコデインリン酸塩・クロルフェニラミンマレイン酸塩等 慣れた配合、説明書が日本語 1〜2箱
整腸薬・下痢止め(ビオフェルミン等) ラクトバチルス菌・ビフィズス菌 軟便・腸内環境調整に有用 1箱
目薬(防腐剤フリー・単回使い捨てタイプ) ヒアルロン酸ナトリウム等 機内・乾燥した室内での眼乾燥対策 1箱(30包程度)
湿布(ロキソプロフェンテープ・フェルビナクテープ等) ロキソプロフェン・フェルビナク 歩き疲れ・筋肉痛対策、現地で類似品は限定的 10〜20枚
ビタミンB群・ビタミンC サプリ チアミン・アスコルビン酸等 長距離移動・疲労回復補助 渡航日数分

持参時の注意事項:

  • 処方薬(抗生物質・向精神薬・麻薬性鎮痛薬など)は英文診断書があると、入国時のトラブルを回避できます
  • 医療用医薬品は原則として1ヶ月分以内を目安に持参(過剰な量は商業目的と判断されるリスクがある)
  • 規制薬物(コデイン含有製品は一部の国で制限あり)は出発前に在日イギリス大使館または外務省のページで最新規制を確認してください

薬剤師コメント コデインリン酸塩含有の市販薬(一部の咳止めや複合感冒薬)はイギリスでも規制強化が進んでいます。12歳未満への使用禁止、18歳未満への市販販売制限が設けられています。持参する際は成分表を確認し、コデイン含有の場合は英文の薬局領収書または薬剤師作成の服用証明書を携行することを検討してください。


イギリスで購入可能な医薬品:薬学的詳細解説

医薬品の販売区分(GSL・P・POM)

イギリスの医薬品は以下の3区分に分類されます。渡航者が入手できるのはGSLとPのカテゴリーです。

区分 英語名 購入場所
GSL General Sales List スーパー・コンビニ含むすべての店舗 アセトアミノフェン(小容量パック)、一部制酸薬
P Pharmacy-only Medicine 薬局(薬剤師のいる店舗)のみ イブプロフェン(高用量)、プソイドエフェドリン配合鼻炎薬、ロペラミド
POM Prescription Only Medicine 処方箋+薬局 抗生物質、ステロイド内服薬、降圧薬

Pharmacy(調剤薬局)で購入できる主な一般用医薬品

成分名(製品カテゴリー) 主な用途 薬学的注意点 価格目安
アセトアミノフェン(Paracetamolパラセタモール 解熱・鎮痛 肝障害リスク:飲酒者・肝疾患者は1日2,000mg以下に £1〜2
イブプロフェン(NSAID系鎮痛薬) 解熱・鎮痛・消炎 空腹時禁止・腎機能低下者注意・喘息既往者注意 £2〜3
プソイドエフェドリン塩酸塩配合鼻炎薬 鼻づまり緩和 血圧上昇・不眠・頻脈の副作用あり。高血圧・MAO阻害薬との相互作用に注意 £2〜3
アルギン酸ナトリウム配合制酸薬(Gavisconガビスコン相当品) 胃酸逆流・胸やけ 腎機能低下者はナトリウム負荷に注意 £2〜3
センノシド配合便秘薬 便秘 大腸刺激性下剤。7日以上の連用は避ける £2〜3
ロペラミド塩酸塩 急性下痢 感染性下痢(血便・発熱伴う)への使用は避ける £2〜4
ジクロロベンジルアルコール・アンバゾン配合ロゼンジ 咽頭痛・口腔内殺菌 局所作用・全身性副作用は少ないが、長期連用は控える £1.50〜2.50
塩化ベンザルコニウム配合のどスプレー 喉の殺菌 局所刺激に注意 £3〜5

薬剤師コメント(NSAID系薬との相互作用) イブプロフェンを含むNSAIDsは、以下の薬との相互作用に注意が必要です。①ワルファリン・DOAC(抗凝固薬):出血リスク増加。②ACE阻害薬・ARB(降圧薬):腎機能低下リスク。③アスピリン低用量(抗血小板薬):消化管出血リスク増加。これらを服用中の方は、アセトアミノフェンを選択するか、必ず医師・薬剤師に相談してください。

また、ロペラミド(下痢止め)は腸管蠕動を抑制するμオピオイド受容体作動薬です。発熱・血便を伴う感染性腸炎(細菌性赤痢、腸チフスなど)に使用すると、毒素の腸管内滞留を促進し重症化する可能性があります。海外旅行中の下痢では必ず感染性下痢の可能性を考慮し、発熱・血便がある場合は医師受診を優先してください。


医療保険:観光客が知るべき制度

イギリスの医療保険利用者別ガイド

1. 日本の海外旅行保険に加入している場合

確認すべき項目:

項目 確認ポイント 行動
補償内容 医療費・医薬品費・入院費が含まれるか 出発前に保険証券を精読
キャッシュレス対応医療機関 イギリス内での提携病院か 保険会社に事前確認、リスト入手
保険金請求方法 立替払い必要か、直接支払いか 医療機関受診前に保険会社に連絡
日本語サポート 24時間対応のコールセンターか 渡航前に番号を手帳・スマートフォンに控える
免責金額 医療費のうち自己負担となる金額 保険証券で確認
持病・既往症 補償対象か否か 加入時に告知義務を果たしているか確認

イギリス内での海外旅行保険利用フロー:

  1. 症状が出たら保険会社の24時間コールセンターに電話
  2. 症状・受診希望を伝える
  3. キャッシュレス対応医療機関のリスト提供を受ける
  4. 医療機関に電話で予約(保険会社コードを医療機関に伝える)
  5. 受診時に保険証(または保険会社発行の証明書)を提示
  6. キャッシュレスの場合:医療機関から保険会社へ直接請求
  7. 立替払いの場合:診断書・領収書・処方箋を全て保管し帰国後請求

立替払い時に必要な書類(帰国後請求):

  • 医療機関発行の診断書(英文)
  • 支払い領収書(原本)
  • 処方箋コピー(薬代の請求に必要)
  • 渡航を示すパスポートのスタンプコピー
  • 保険会社指定の請求書

2. EU/EEA国籍者向け:EHIC(European Health Insurance Card)

  • 加盟国の医療を本国と同条件で受ける権利がある
  • イギリス在住のEU/EEA国籍者のみ対象
  • ブレグジット後は**GHIC(Global Health Insurance Card)**への移行が進んでいる
  • 日本国籍者はEHIC/GHICの対象外

3. 日英社会保障協定について

日本とイギリスの間には社会保障協定(年金保険料の二重払い防止)が締結されていますが、医療保険の相互利用には対応していません。短期渡航者は必ず民間の海外旅行保険に加入してください。


イギリス渡航者が知っておくべき感染症・健康リスク

渡航前の予防接種確認

イギリスは先進国であり、日本と比較して特別な渡航前予防接種が必須となることは少ないですが、以下は確認推奨です。

ワクチン 推奨度 備考
インフルエンザ 推奨(特に秋冬渡航) 現地でも接種可能だが費用がかかる
麻疹・風疹(MMR) 確認推奨 2回接種歴がない場合は接種を検討
新型コロナウイルス 確認推奨 最新のブースター接種状況を確認
破傷風(Td) 10年以内に接種歴があれば追加不要 アウトドア活動が多い場合は確認

旅行者下痢症への対策

ヨーロッパでも水質や食品衛生の違いから旅行者下痢症は発生します。イギリスの水道水は一般的に飲用可能ですが、体調不良時は以下を実践してください。

  • 水分補給: 経口補水塩(ORS:Oral Rehydration Salts)を現地薬局で入手。DioralyteなどORS製品は薬局で購入できます(成分:塩化ナトリウム・塩化カリウム・クエン酸ナトリウム・ブドウ糖)
  • ロペラミドの使用判断: 前述のとおり、発熱・血便を伴う場合は使用せず医療機関を受診
  • プロバイオティクス: ラクトバチルス属・ビフィドバクテリウム属含有製品を渡航前から継続服用することで下痢の頻度低下効果が報告されています(エビデンスレベルはメタアナリシスで支持)

慢性疾患・持病がある渡航者へのアドバイス

持参薬のチェックリスト

持病のある渡航者は以下のチェックリストを出発前に確認してください。

  • 渡航日数プラス3〜5日分の予備薬を持参
  • 英文処方箋または服薬証明書(医師作成)を携行
  • 薬剤の一般名(成分名)を英語で確認済み
  • 保冷が必要な薬(インスリン等)の保管方法を確認済み
  • 時差による服薬時間調整を主治医・薬剤師と相談済み
  • 機内持ち込みが可能か(液体・注射器類のルール)確認済み
  • 渡航先での緊急連絡先(保険会社・大使館)を控え済み

時差による服薬時間調整(薬学的解説)

日本とイギリスの時差は夏時間(BST)期間で約8時間、冬時間(GMT)期間で約9時間です。この時差は特に「投与間隔の厳守が重要な薬剤」で問題になります。

薬剤カテゴリー 時差対応の考え方
抗てんかん薬(バルプロ酸・レベチラセタム等) 突然の時間変更は発作リスク。出発前に神経内科医に相談し、徐々に移行するスケジュールを立てる
インスリン 食前投与であれば現地の食事時間に合わせる。持効型は就寝前固定でずれを最小化
ワルファリン 食事内容(ビタミンK摂取量)の変化がPT-INRに影響。食事パターンが大きく変わる場合は注意
経口避妊薬(OC) 服用時間の大幅なずれはリスクとなる。8時間以上のずれが生じる場合は追加避妊措置を検討
一般的な抗生物質 投与間隔(例:8時間ごと・12時間ごと)を現地時間で維持すれば問題なし

薬剤師コメント ワルファリン服用者はイギリス滞在中、食事内容の変化(野菜・ハーブ類のビタミンK量の違い)によってPT-INRが変動する可能性があります。滞在が2週間以上に及ぶ場合は、帰国後早期にPT-INR測定を行い、必要に応じてワルファリン用量調整を主治医と相談することを推奨します。


まとめ:イギリス渡航時の医療アクセス早見表

症状・状況 まず取る行動 連絡先・場所
軽い頭痛・風邪 薬局で市販薬購入・薬剤師相談 Boots、スーパー内Pharmacy
症状が2日以上続く NHS 111に電話 111(無料・24時間
医師の診察が必要 GP受診またはWalk-in Centre www.nhs.uk で検索
夜間・土日の緊急相談 NHS 111またはOut of hours 111
生命の危機・重篤な症状 救急車または A&E 999(無料)
医療費の相談 海外旅行保険コールセンター 保険証券記載の番号
日本語での医療支援 在英日本大使館 https://www.uk.emb-japan.go.jp

イギリスの医療制度は階層的に整備されており、適切な窓口を選択することで、渡航者でも安心して医療サービスを受けることができます。出発前に保険証書の確認、持参薬の準備、緊急連絡先の控えを行い、万全の準備で渡航してください。


参考文献・参照リンク

  1. NHS. "NHS 111 online." National Health Service (England). https://111.nhs.uk(2024年確認)
  2. NHS. "Pharmacy First." NHS England. https://www.england.nhs.uk/primary-care/pharmacy/pharmacy-first/(2024年確認)
  3. World Health Organization. "International travel and health." WHO. https://www.who.int/health-topics/travel-and-health(2024年確認)
  4. 外務省. 「海外安全情報:イギリス」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_005.html(2024年確認)
  5. 厚生労働省. 「海外渡航者のための感染症情報」. https://www.forth.go.jp/(2024年確認)
  6. MHRA (Medicines and Healthcare products Regulatory Agency). "Buying medicines online." https://www.gov.uk/guidance/buying-medicines-online(2024年確認)
  7. NHS. "Medicines A to Z." https://www.nhs.uk/medicines/(2024年確認)

監修:薬剤師(博士(薬学))

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