イギリス渡航前に必要な予防接種ガイド|スケジュール・費用・注意点
イギリスは先進国で衛生環境が整備されているため、熱帯感染症のリスクは低いです。しかし、長期滞在や特定の活動を計画する場合は、事前の予防接種が推奨されます。本記事では、渡航前に確認すべき予防接種の種類、接種スケジュール、費用の目安を薬剤師の視点から解説します。
日本の定期接種スケジュールと英国のNHS(国民保健サービス)の推奨スケジュールには一部ずれがあり、「日本で接種済み」と思い込んでいても実際は1回不足しているケースが散見されます。出発3か月前を目安に、母子健康手帳を引き出してワクチン歴を確認することが最初のステップです。
イギリス渡航に必須・推奨される予防接種一覧
渡航前チェックリスト
イギリス渡航時に確認すべき予防接種を下表にまとめました。接種要件は渡航期間、滞在地域、個人の健康状態によって異なります。
| 予防接種名 | 必須/推奨 | 対象者の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 麻疹・風疹・おたふく風邪(MMR) | 必須 | 1970年以降生まれで未接種・1回接種のみ | イギリスはMMR接種が国防プログラムの中心 |
| ジフテリア・破傷風・百日咳(DPT/Tdap) | 必須 | 全渡航者 | 10年ごとに追加接種が推奨 |
| ポリオ | 推奨 | 全渡航者、特に東欧経由の渡航者 | 複数回接種者も追加1回推奨 |
| B型肝炎 | 推奨 | 長期滞在(6か月以上)、医療職 | シリーズ3回接種が基本 |
| A型肝炎 | 推奨 | 衛生状態が不確実な地域への旅行予定者 | 2回接種(6か月間隔) |
| 帯状疱疹(Shingrix) | 推奨 | 50歳以上 | 国内でも高年齢層向け |
| インフルエンザ | 推奨 | 秋冬の渡航、65歳以上、基礎疾患あり | 毎年秋に更新 |
| 髄膜炎菌(MenACWY・MenB) | 推奨(学生・寮生活者は必須級) | 大学進学・寮生活・長期留学者 | 英国では10代の集団生活で特にリスク上昇 |
| 新型コロナウイルス(COVID-19) | 推奨 | 全渡航者 | 最新ワクチン接種状況を確認 |
薬剤師メモ イギリスは過去にはしか患者が増加した時期があり、MMR接種の追加確認が重要です。特に1970年〜1988年生まれで風疹ワクチン非接種の女性は妊娠前の接種確認が必須です。また英国NHSは、大学入学予定の学生全員にMenACWYワクチン接種を強く推奨しており、日本からの留学生も同様に対応することが望ましいとされています。
各予防接種の詳細と接種スケジュール
1. MMR(麻疹・風疹・おたふく風邪)
必須度:★★★★★
- 接種対象:1970年以降生まれで、2回接種を完了していない者
- 標準スケジュール:
- 1回目と2回目の間隔:4週間(27日)以上
- 両回接種完了後は原則再接種不要
- 注意点:既に麻疹にかかった履歴がある場合でも、ワクチン2回接種完了を確認してください
薬学的解説:MMRワクチンの免疫学的機序
MMRワクチンは麻疹ウイルス・ムンプスウイルス・風疹ウイルスの生きた弱毒化株を含む生ワクチンです。接種後にウイルスが体内で増殖し、液性免疫(中和抗体)と細胞性免疫(T細胞)の両方を誘導します。麻疹に対しては、血清中和抗体価が200 mIU/mL以上で感染防御が期待できるとされており、2回接種完了後の血清陽転率は97〜99%と極めて高い水準です。
生ワクチンであるため、妊婦・免疫抑制患者・ゼラチンアレルギー既往者への接種は禁忌です。接種後少なくとも2か月間は妊娠を避けるよう指導します。また、血液・免疫グロブリン製剤投与後3〜11か月は免疫応答が減弱する可能性があり、接種時期を調整する必要があります。
副反応として接種5〜12日後に軽度の麻疹様発疹・発熱が5〜15%に出現しますが、他者への感染性はないとされています。接種部位の疼痛・腫脹は接種後1〜3日で多くが自然消退します。
2. DPT(ジフテリア・破傷風・百日咳)
必須度:★★★★☆
- 接種対象:全渡航者
- 標準スケジュール:
- 日本で基礎シリーズ(乳幼児時代に3回)を完了している成人が対象
- 最後の接種から10年以上経過している場合:1回の追加接種
- Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳混合)がある場合はそちら優先
- 費用目安:3,000〜4,500円(国内接種)
薬学的解説:トキソイドワクチンの仕組みと追加接種の理由
DPTワクチンのジフテリア・破傷風成分はトキソイド(細菌毒素を無毒化したもの)であり、不活化ワクチンに分類されます。追加接種が10年ごとに推奨される理由は、抗体価が時間とともに低下し(waning immunity)、自然感染によるブースター効果が得られにくい先進国居住者では防御が不十分になるためです。
百日咳成分(acellular pertussis)は、線維状赤血球凝集素(FHA)・百日咳毒素(PT)などの精製タンパク質抗原を含み、接種により気道への菌定着を阻害する分泌型IgA産生を誘導します。ただし百日咳に対する免疫は麻疹ほど長続きせず、成人への追加接種の有効期間は約5〜10年とされています。
3. ポリオ
推奨度:★★★☆☆
- 接種対象:標準シリーズ完了者でも、長期滞在時は追加1回推奨
- 注意点:
- パキスタン、アフガニスタンなどポリオ流行国への経由が予想される場合は特に重要
- 4週間以上前の接種推奨
- ワクチンの種類:
- IPV(不活化ポリオワクチン):日本で一般的
- OPV(経口生ポリオワクチン):一部の国で使用
薬学的解説:IPVとOPVの違い
日本では2012年以降、経口生ポリオワクチン(OPV)から不活化ポリオワクチン(IPV)に切り替えられました。IPVは皮下注射により血清中の中和抗体を誘導し、野生株ポリオウイルスによる麻痺性疾患を高率に予防しますが、腸管粘膜免疫(分泌型IgA)の誘導はOPVより弱いとされています。一方、OPVはワクチン関連麻痺性ポリオ(VAPP)のリスクが100〜150万回接種に1例程度存在するため、日本ではIPVが標準となっています。現在日本で接種可能なIPVは、DPTや他ワクチンとの混合製剤として提供されることが多く、単価製剤の入手はトラベルクリニックへの事前問い合わせをお勧めします。
4. B型肝炎
推奨度:★★★☆☆(長期滞在・医療職は★★★★)
- 接種対象:6か月以上の滞在予定者、医療職、不特定多数との接触可能性がある者
- 標準スケジュール:
- 0日・1か月・6か月(標準スケジュール)
- または0日・7日・21日・12か月(迅速スケジュール)
- 費用目安:5,000〜7,000円/1回(計3回で15,000〜21,000円)
- 効果判定:接種完了2か月後に抗体価測定を推奨
薬学的解説:Non-responderと免疫増強策
B型肝炎ワクチン(HBsAgタンパクを含む組換えタンパクワクチン)は3回接種後に抗HBs抗体価が10 mIU/mL以上であれば防御が成立したと判断します。しかし5〜10%の接種者では抗体産生が不十分(non-responder/hypo-responder)となることが知られており、肥満、喫煙、高齢(40歳以上)、慢性腎疾患、免疫抑制状態がリスク因子です。
Non-responderと判定された場合の対応として、①追加3回シリーズ接種、②高力価製剤(40μg製剤:通常の2倍量)での再接種、③接種部位を前腕でなく三角筋に変更する—などが検討されます。長期にわたり針刺し事故リスクのある医療職や海外での医療行為を予定する場合は、事前の抗体価測定を強く推奨します。
薬剤師メモ B型肝炎ワクチンの有効性は個人差があります。特に高齢者や免疫不全患者では抗体産生が不十分な場合があるため、接種前後の抗体価確認が重要です。
5. A型肝炎
推奨度:★★★☆☆
- 接種対象:衛生環境が不確実な地域への旅行予定者
- 標準スケジュール:
- 1回目接種後、6か月〜1年後に2回目接種
- 短期旅行の場合は1回目接種後2週間以降から免疫獲得開始
- 費用目安:4,000〜6,000円/1回(計2回で8,000〜12,000円)
薬学的解説:A型肝炎ウイルスの感染経路とワクチン効果
A型肝炎ウイルス(HAV)は主に経口-糞口感染であり、汚染された水・食品(生牡蠣・生野菜など)を介して感染します。英国本土では衛生環境が整備されているものの、東欧や中東からの食材輸入ルートにおけるリスクが完全にゼロではなく、また英国国内の特定の集団生活環境での小規模アウトブレイクが過去に報告されています。
不活化HAVワクチンは1回接種後2〜4週間で防御的抗体価に達し、2回完了後は20〜25年以上の長期免疫が期待されます。日本人成人の多くは自然感染歴がなく、ワクチンが唯一の防御手段です。
6. 帯状疱疹(Shingrix)
推奨度:★★★★☆(50歳以上)
- 接種対象:50歳以上
- ワクチンの種類:
- Shingrix(組換えサブユニットワクチン・非生ワクチン):有効率90%以上
- スケジュール:2〜6か月の間隔で2回接種
- 費用目安:8,000〜10,000円/1回(計2回で16,000〜20,000円)
薬学的解説:Shingrixの免疫増強システム(AS01Bアジュバント)
Shingrixは水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の糖タンパクE(gE)を抗原とし、AS01Bというアジュバントシステムを組み合わせた組換えサブユニットワクチンです。AS01Bは**MPL(モノホスホリルリピドA)とQS-21(サポニン誘導体)**を含むリポソーム製剤であり、Th1優位の細胞性免疫応答を強力に誘導します。生ワクチンではないため、免疫抑制患者にも接種が可能である点が旧来の水痘生ワクチンと大きく異なります。
副反応として**注射部位の疼痛(78%)・筋肉痛(45%)・倦怠感(45%)・頭痛(38%)**が比較的高頻度で報告されており、接種後の活動計画に影響が出ることがあります。事前に患者へ十分な説明を行うことが重要です。
7. インフルエンザ
推奨度:★★★☆☆(秋冬渡航時は★★★★)
- 接種対象:9月〜12月の渡航予定者
- 接種時期:出発2週間前までに接種完了
- 費用目安:3,000〜4,500円
英国の流行期は北半球シーズン(10月〜3月)に一致しており、日本国内での接種ワクチン株は概ねWHOの北半球推奨株と同一です。英国NHS自体も65歳以上・妊婦・慢性疾患患者への無料接種プログラムを実施しており、日本人渡航者もNHSに登録後は対象となる場合があります。
8. 髄膜炎菌(MenACWY・MenB)
推奨度:★★★★★(大学進学・寮生活者)
- 接種対象:英国の大学・寮へ入学予定の10代〜20代
- 費用目安:5,000〜8,000円/1回
- 種類:MenACWY(4価ワクチン)とMenB(B群専用ワクチン)は別ワクチン
薬学的解説:MenACWYとMenBの違い
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は血清群により莢膜多糖の構造が異なります。英国ではB群(MenB)が最多を占め、次いでW群・Y群が増加傾向にあります。
MenACWYはA・C・W・Y群の莢膜多糖と担体タンパク(ジフテリアCRM197など)を結合させたコンジュゲートワクチンです。莢膜多糖単独では乳幼児に免疫応答が弱いため、タンパクとのコンジュゲートにより免疫記憶を誘導できます。英国NHSでは14〜18歳時に定期接種として提供されており、日本からの留学生はこの接種を受けていないのが通常です。
MenB(4C-MenB)はB群莢膜多糖は免疫原性が低いため、外膜タンパク抗原(fHbp、NHBA、NadA、OMV)を組み合わせたタンパクサブユニットワクチンです。接種スケジュールは0か月・1か月・6か月(3回)または2回接種の短縮スケジュールもあり、トラベルクリニックで確認が必要です。
薬剤師メモ MenACWYとMenBは同日に異なる部位へ同時接種が可能ですが、両方接種した場合は解熱鎮痛薬(パラセタモール/アセトアミノフェン)の予防投与が英国PHEのガイドラインで推奨されています。特に乳幼児でその傾向が強いですが、成人でも発熱リスクが上がる場合があります。
接種スケジュール立案の実践例
パターン1:出発まで3か月以上ある場合(理想的)
3か月前:B型肝炎1回目、A型肝炎1回目、MenACWY1回目
2か月前:B型肝炎2回目、MMR(未接種の場合)1回目
1か月前:B型肝炎3回目、A型肝炎2回目、DPT追加、MMR2回目
1〜2週間前:インフルエンザ(秋冬渡航の場合)
出発直前:抗体検査結果確認(B型肝炎・MMR)
パターン2:出発まで1か月以内(急な予定)
可能な限り早期に同日接種(複数部位):
- MMR(1回目のみ)→ 2回目は帰国後に実施
- DPT追加接種
- MenACWY
- インフルエンザ(秋冬渡航の場合)
※B型肝炎・A型肝炎は迅速スケジュールで対応を検討
パターン3:出発まで2週間以内(緊急渡航)
| 優先度 | ワクチン | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | MMR(未接種の場合) | 麻疹は渡航後すぐリスク発現 |
| 最優先 | DPT追加(10年超なら) | 破傷風・百日咳の即時リスク |
| 中優先 | MenACWY(寮入居予定者) | 致死的疾患、効果発現に2週間 |
| 余裕があれば | インフルエンザ | 2週間で免疫形成 |
薬剤師メモ ワクチンの同時接種は複数部位への注射で可能です。生ワクチン(MMRなど)同士は同日または27日以上間隔をあけて接種します。不活化ワクチン同士、および不活化ワクチンと生ワクチンの組み合わせには接種間隔の制限がありません(免疫干渉が生ワクチン間で問題になるため)。
予防接種の費用と入手方法
国内(日本)での接種
| 接種種類 | 平均費用目安 | 主な入手先 | 備考 |
|---|---|---|---|
| MMR(1回) | 9,000〜11,000円 | 予防接種外来、トラベルクリニック | 2回シリーズ確認を |
| DPT/Tdap(1回) | 3,000〜4,500円 | 一般的な医院・クリニック | 保険適用外 |
| ポリオ(1回) | 5,500〜7,000円 | トラベルクリニック | 単価IPVは事前確認を |
| B型肝炎(1回) | 5,000〜7,000円 | 予防接種外来、内科 | シリーズ割引あり |
| A型肝炎(1回) | 4,000〜6,000円 | トラベルクリニック | 海外渡航向けクリニックで |
| 帯状疱疹 Shingrix(1回) | 8,000〜10,000円 | 予防接種外来 | 50歳以上が対象 |
| MenACWY(1回) | 5,000〜8,000円 | トラベルクリニック | 国内入手可能か要確認 |
| MenB(1回) | 8,000〜12,000円 | トラベルクリニック | 在庫希少、要事前予約 |
| インフルエンザ(1回) | 3,000〜4,500円 | 一般クリニック・薬局 | 毎年秋に接種 |
| 合計目安(全接種) | 35,000〜55,000円 | — | 必須接種のみなら15,000〜20,000円程度 |
費用削減のコツ:
- トラベルクリニックで複数接種をまとめて予約(同時接種で診察料1回分で済む場合がある)
- 健康保険組合や会社の福利厚生で補助を確認
- 自治体の成人予防接種助成制度(B型肝炎・帯状疱疹など)を確認
- 大学の留学担当部署が渡航前接種の補助制度を持つ場合がある
イギリスでの接種
イギリスに到着後の接種も可能ですが、渡航前接種の方が効率的です。ただし、以下の場合は現地対応も検討してください。
- NHS(国民保健サービス)での接種:
- 長期ビザ(6か月超)保有者はNHS登録後に一部無料接種が可能
- GPへの登録に2〜4週間要することが多く、緊急時には対応が遅れる
- 学生ビザ保有者はMenACWYをGPで無料接種できる場合がある
- 民間クリニックでの接種:
- Travel Health Clinicが主要都市に存在
- 費用はNHSより高いが予約が取りやすい
予防接種証明書と国境越えの注意
国際予防接種証明書(イエローカード)
- COVID-19ワクチン証明書:現時点でイギリス入国時の義務的提示は不要ですが、状況は変化するため外務省の最新情報を確認してください
- 黄熱病ワクチン証明書:イギリス自体では不要ですが、黄熱病流行国(アフリカ・南米)への立ち寄りがある場合は必須
- その他記録の携帯:
- 母子健康手帳やワクチン記録票を英語で翻訳して携帯
- 英語での接種記録は「Immunization Record」または「Vaccination Certificate」として作成可能
渡航中に証明書を求められた場合
現地の医療機関(GP)や大学のStudent Health Centreがワクチン履歴の提示を求める場合があります。日本語の母子健康手帳は英語訳を添付することで代用できますが、正式な証明書(医療機関が発行した英文ワクチン接種証明書)を事前に用意しておくとスムーズです。
薬剤師メモ 黄熱病ワクチンは指定医療機関でのみ接種でき、国際予防接種証明書(イエローカード)が発行されます。アフリカ経由でイギリスに向かう場合は必ず事前に最寄りの検疫所や指定医療機関へ確認してください。
特定の活動・滞在地域別の推奨接種
医療職・社会福祉職の場合
- 追加必須:MMR(2回完了)、B型肝炎(抗体検査含む)、水痘(罹患歴のない場合)
- 結核の曝露リスク:ツベルクリン反応検査(TST)またはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)を推奨
- 英国のガイドライン:NHS England は医療従事者向けにMMR・水痘・B型肝炎・Tdap・インフルエンザの接種証明提出を求める機関が多く、雇用前スクリーニングが標準です
農村部・郊外での長期滞在
- 追加推奨:破傷風追加接種(10年以内未接種の場合)
- ライム病への対応:英国南部・中部の草地・森林でのマダニ咬傷リスクがあります。現在承認されたライム病ワクチンは日本では未承認(2025年時点)のため、忌避剤(DEET配合製品など)の使用と皮膚の露出を減らす服装が主な防御手段です
- ウサギ熱(野兎病):農村で野生動物と接触する場合は個人防護が重要
学生交換プログラム・寮生活
- 追加必須:髄膜炎菌ワクチン(MenACWYとMenBの両方が理想的)
- 英国NHSはすべての大学入学予定者(特に初年度寮生)へMenACWYの接種を推奨
- 日本人留学生もこのガイドラインに準じて接種しておくことを強く推奨します
- 百日咳(Pertussis):寮生活での飛沫感染リスクがあり、Tdap未接種または10年以上経過している場合は追加を検討
妊娠を計画している女性
- MMRの確認:渡航前に必ず風疹抗体価を確認。非免疫者は接種後2か月間の避妊が必要
- 生ワクチン禁忌:妊娠中はMMR・水痘・帯状疱疹(生ワクチン)は接種不可
- インフルエンザ:不活化ワクチンは妊娠中でも安全に接種可能
渡航先での医療機関受診と薬の持参
持参推奨の常備薬
英国のGPは予約制で、初診まで数日〜数週間かかる場合があります。軽症疾患に備えた常備薬の持参が実用的です。
| 症状 | 成分名(一般名) | 備考 |
|---|---|---|
| 解熱・鎮痛 | アセトアミノフェン(パラセタモール) | 英国薬局でも入手可(商品名は異なる) |
| 消化器症状 | ロペラミド塩酸塩 | 下痢止め。OTCで入手可 |
| アレルギー | セチリジン塩酸塩・フェキソフェナジン塩酸塩 | 英国でもOTC入手可能 |
| 虫刺され予防 | DEET(ジエチルトルアミド)配合忌避剤 | 農村・屋外活動時に |
英国の薬局(Boots, LloydsPharmacy など)はOTC医薬品が充実しており、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの一般用医薬品は容易に入手できますが、医師の処方が必要な薬剤(抗生物質、睡眠薬など)は日本から必要量を持参してください。
処方薬を持参する際の注意点
- 英文の処方箋コピーまたは医師の診断書を携帯する
- 薬は機内持込みの場合、液剤は100mL以下の容器に入れ、ジッパー袋に収納
- 麻薬・向精神薬は「患者向け英文証明書」を医師に発行してもらい、税関で提示できるよう準備する
接種前後の注意点と副反応管理
接種前の確認事項
- 既往症(特に免疫不全、アレルギー歴)を申告
- 現在服用中の薬剤を医師に伝える(免疫抑制薬・ステロイド・生物学的製剤使用者は生ワクチン禁忌)
- 妊娠の有無を確認(生ワクチンは妊娠中は禁忌)
- 過去のワクチン接種歴(母子健康手帳)を確認
- 直近のワクチン接種との間隔(特に生ワクチン間は27日以上)
接種後の副反応管理
| 症状 | 頻度 | 対応 |
|---|---|---|
| 注射部位の腫れ・痛み | よくある(20〜50%) | 冷湿布、アセトアミノフェン配合の解熱鎮痛薬 |
| 発熱(37.5℃以下) | ときどき(5〜10%) | 安静、水分補給 |
| 頭痛・筋肉痛 | ときどき(10〜20%) | アセトアミノフェン(成人1回500〜1000mg、規格により異なる) |
| 接種後5〜12日の軽い発疹(MMR) | 5〜15% | 自然消退を確認、他者への感染性なし |
| 蕁麻疹・口周囲浮腫 | まれ(0.1%未満) | 直ちに医師へ。アナフィラキシーは接種後30分以内に発現しやすい |
| アナフィラキシー(重篤) | 極めてまれ | 接種後30分間は医療機関で経過観察 |
薬剤師メモ アセトアミノフェン(パラセタモール)は解熱・鎮痛目的でワクチン副反応に最も安全に使える薬剤です。NSAIDs(イブプロフェンなど)は一部のワクチン抗体応答を減弱させる可能性があるとする研究がありますが、現時点では決定的な臨床的エビデンスは限られており、強い副反応時には使用を否定するものではありません。接種後の予防的投与(症状が出る前からの服用)はワクチン免疫応答に影響する可能性があるため、症状が出てからの服用が推奨されます。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本でMMRワクチンを1回しか接種していません。英国入国前に2回目を打つべきですか?
A. はい、強く推奨します。英国では麻疹の小規模なアウトブレイクが繰り返し確認されており、1回接種のみでは防御が不完全です(1回接種後の麻疹抗体陽転率は約95%ですが、2回接種で97〜99%に上昇します)。出発4週間前までに2回目を接種してください。
Q. 子供を連れてイギリスに旅行します。子供のワクチンで追加すべきものはありますか?
A. 日本の定期接種スケジュールが完了しているか確認してください。MMRは日本では1歳・小学校入学前の2回が定期接種です。英国NHSでは生後12か月・3歳4か月の2回接種が標準であり、スケジュールはほぼ一致します。長期滞在・学校通学予定がある場合は水痘・髄膜炎菌の接種歴も確認してください。
Q. 免疫抑制薬(メトトレキサート、生物学的製剤など)を使用しています。渡航前接種で注意することはありますか?
A. 免疫抑制状態での生ワクチン(MMR・水痘)接種は原則禁忌です。不活化ワクチン(インフルエンザ・B型肝炎・DPTなど)は接種可能ですが、免疫応答が低下している可能性があります。主治医と渡航前に必ず相談してください。
まとめ
- 必須接種:MMR(1970年以降生まれで2回未完了の場合)、DPT追加(10年ごと)
- 留学・寮生活者の必須接種:MenACWY(髄膜炎菌・4価)、MenB(B群髄膜炎菌)
- 推奨接種:ポリオ、B型肝炎(長期滞在者)、A型肝炎、インフルエンザ(秋冬渡航)、帯状疱疹(50歳以上)
- スケジュール:出発3か月前から計画し、生ワクチン間の間隔(27日以上)に注意
- 費用目安:全接種で35,000〜55,000円。必須接種のみなら15,000〜20,000円程度
- 証明書:英文ワクチン接種証明書を事前に準備し、NHSや大学への提出に備える
- 免疫抑制・妊娠中の渡航者は必ず事前に主治医および感染症専門医へ相談
渡航先の感染症リスクは個人の健康状態・活動内容・滞在期間によって大きく異なります。本記事はあくまで一般的な情報提供を目的としており、具体的な接種判断は医師・トラベルクリニックへご相談ください。
参考文献
- World Health Organization. International travel and health – United Kingdom country profile. https://www.who.int/ith/en/
- UK Health Security Agency (UKHSA). Meningococcal disease: guidance, data and analysis. https://www.gov.uk/government/collections/meningococcal-disease-guidance-data-and-analysis
- NHS England. Vaccinations for travel. https://www.nhs.uk/conditions/travel-vaccinations/
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Travelers' Health – United Kingdom. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/united-kingdom
- 厚生労働省. 予防接種情報(渡航者のワクチン接種). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/travel/index.html
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). ワクチン添付文書情報. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
- Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). General Best Practice Guidelines for Immunization. https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/general-recs/index.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))