スイスで吐き気・嘔吐になったら|現地薬局で買える薬と薬剤師による使用法
スイスは世界有数の美しい山岳国家ですが、アルプスの高地移動、長距離フライトからの疲労、ヨーロッパ特有の食文化など、日本人旅行者が吐き気・嘔吐を経験しやすい条件が重なる旅先でもあります。本記事では、薬剤師(博士(薬学))の視点から、スイスで吐き気・嘔吐が起きたときの原因の理解から、現地OTC薬の選択、薬局でのコミュニケーション、医療機関へのアクセスまでを網羅的に解説します。
スイスで吐き気・嘔吐になる原因の解説
高地・気圧変化による消化器症状
スイス最大の特徴は、標高の高い観光地の多さです。ユングフラウヨッホ(標高約3,454m)やゴルナーグラート(標高約3,089m)、マッターホルン周辺のツェルマットなどは、多くの日本人旅行者が日帰りまたは1泊2日で訪れます。平地に住み慣れた日本人が短時間で高地へ移動すると、気圧の低下により消化管のガスが膨張し、吐き気・腹部不快感・食欲低下を引き起こします。これは急性高山病(Acute Mountain Sickness; AMS)の初期症状の一つであり、軽視できません。高地到着後24〜48時間以内に吐き気が生じた場合、高山病の関与を必ず念頭に置いてください。
乗り物酔いとアルプス山岳路の特性
スイスのアルプス地方を走るポストバス(黄色い路線バス)や観光列車は、急カーブ・急勾配が連続します。ゴッタルドルートやグリムゼル峠などの山岳道路は特に前庭感覚への負担が大きく、普段は乗り物酔いをしない人でも症状が出ることがあります。また、氷河急行(グレッシャー・エクスプレス)などのパノラマ列車は車窓景観が素晴らしい一方、揺れと視覚情報のミスマッチが三半規管を刺激します。
食文化・食事内容の変化
スイスの郷土料理は脂肪分・タンパク質が豊富です。チーズフォンデュ(溶けたエメンタールやグリュイエールチーズにパンを浸す)、ラクレット(溶かしチーズをじゃがいもにかける)、レシュティ(ジャガイモのパンケーキ)などは、胃への負担が大きく、食べ過ぎると消化器系のキャパシティを超えて吐き気を誘発します。特に長時間フライト後で胃腸が疲弊した状態でのヘビーな食事は注意が必要です。また、ヨーロッパの食文化では生ハムや熟成チーズに加え、牡蠣・生魚介類を供する機会もあり、食中毒のリスクも存在します。
水の硬度と消化管への影響
スイスの水道水は軟水が多い日本と比べて硬度が高い地域があります(カルシウム・マグネシウムなどの二価陽イオンを多く含む)。硬水を急に大量に摂取すると、日本人の腸内細菌叢が対応しきれず、軽度の消化器症状(吐き気・軟便・腹部膨満)が起きることがあります。これは病的な感染症ではなく生理的な反応であることが多く、数日で落ち着きます。
時差・疲労・自律神経の乱れ
日本からスイスへの飛行時間は経路によりますが、概ね12〜14時間かかり、時差はおよそ7〜8時間(夏時間:7時間、冬時間:8時間)です。時差ぼけによる概日リズムの乱れは自律神経に影響し、胃腸の蠕動運動が低下して吐き気・食欲不振を生じさせます。
ウイルス性胃腸炎・食中毒
スイスは食品衛生水準が高い国ですが、観光シーズン中の混雑した飲食店では調理・衛生管理の品質差があります。ノロウイルス・ロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎は季節を問わず発生し、発症から24〜48時間の潜伏期間を経て突然の嘔吐・下痢を引き起こします。
重症度判定チェックリスト
吐き気・嘔吐の対処法は症状の重症度によって大きく異なります。以下の3段階で自己評価してください。
❶ 緊急受診(今すぐ救急車144番、または救急外来へ)
以下のいずれか1項目でも当てはまれば、OTCでの対応を試みず、直ちに医療機関を受診してください。
| チェック | 症状 | 考えられる緊急病態 |
|---|---|---|
| ☐ | 血液・コーヒー色の液体を嘔吐している | 消化管出血(胃潰瘍・食道静脈瘤破裂など) |
| ☐ | 黒色タール便が出ている | 上部消化管出血 |
| ☐ | 激しい腹痛(動けないほど)を伴う | 急性膵炎・虫垂炎・腸閉塞 |
| ☐ | 24時間以上嘔吐が止まらない | 重度脱水・電解質異常 |
| ☐ | 意識が混濁している・呼びかけに反応が鈍い | ショック・重症脱水 |
| ☐ | 高地(2,500m以上)到着後に頭痛+嘔吐+歩行困難 | 高山病(重症:脳浮腫の可能性) |
| ☐ | 皮膚・眼球が黄色く染まっている | 肝炎・胆嚢炎 |
❷ 準緊急(本日中に医師へ、夜間外来でも可)
| チェック | 症状 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| ☐ | 12時間以上嘔吐が続いている | 脱水の進行前に受診 |
| ☐ | 発熱38.5℃以上と嘔吐が同時にある | ウイルス・細菌感染の疑い |
| ☐ | 尿量が著しく減った・尿が濃い黄色になった | 脱水の中等度以上 |
| ☐ | めまいがひどく立ち上がれない | 低血圧性脱水 |
| ☐ | 乳幼児・高齢者が嘔吐を繰り返している | 脱水進行が早いため早期受診 |
| ☐ | 高地訪問後に嘔吐+頭痛が出現(軽症でも) | 高山病の初期段階の評価が必要 |
❸ 経過観察・OTC対応で可(セルフケア)
以下の条件をすべて満たす場合は、薬局OTCと安静・水分補給で様子を見ることができます。
- ✅ 嘔吐が1〜3回で止まっているか、明らかに軽快傾向
- ✅ 吐き気はあるが嘔吐がない、または軽い
- ✅ 腹痛がない、またはごく軽い不快感にとどまる
- ✅ 体温が正常〜37.5℃未満
- ✅ 水分を少量ずつ摂れている
- ✅ 意識・思考が清明
- ✅ 血便・黒色便・血液を含む嘔吐がない
- ✅ 高地(2,500m以上)にいない(または平地に戻った後)
現地薬局で買えるOTC薬一覧
スイスの薬局(Apotheke/アポテーケ)は薬剤師が常駐しており、OTC薬の相談対応が充実しています。英語が通じる薬局が多く、特に観光地・駅周辺の薬局では問題なくコミュニケーションが取れます。
主要OTC薬(表形式)
| ブランド名 | 有効成分 | 1回用量 | 価格目安 | 入手できる場所 |
|---|---|---|---|---|
| Trawell / ジメンヒドリナート含有製品(各メーカー) | ジメンヒドリナート(Dimenhydrinat)50mg | 1錠、6時間ごと | 概ねCHF 6〜12 | Apotheke(薬局)、駅構内の薬局 |
| Nausicalm(実在が確認されている製品) | ジメンヒドリナート 低用量 | 製品指示に従う | 概ねCHF 5〜10 | Apotheke |
| Vogalib(スイス・独語圏で流通) | ジメンヒドリナート 50mg | 1〜2錠、6時間ごと | 概ねCHF 6〜10 | Apotheke、大型スーパー内薬局 |
| Cocculine(コキュリン) | ホメオパシー製剤(科学的根拠は限定的) | 製品指示に従う | 概ねCHF 7〜12 | Apotheke(ホメオパシー専門コーナー) |
| 経口補水塩(ORS)製品(Apothekeの一般名販売) | 塩化ナトリウム・塩化カリウム・グルコース | 水1L当たり1袋溶解 | 概ねCHF 5〜10(数袋入り) | Apotheke |
| ショウガ(Ingwer)エキス製品 | ジンジャーエキス(6-ジンゲロール等含有) | 製品指示に従う | 概ねCHF 8〜15 | Apotheke、健康食品店 |
| Iberogast(イベロガスト) | 薬草エキス複合(カモミール・メリッサ等) | 1回20滴、水に溶かして服用 | 概ねCHF 12〜18 | Apotheke |
薬剤師注記: スイスでは「Swissmedic(スイス医薬品審査機関)」が医薬品を承認管理しています。Apothekeで販売される製品はSwissmedic認可を受けたものであり、品質は信頼できます。購入前に箱にSwissmedic認可番号の記載があるか確認してください。
各薬剤の薬理学的解説
ジメンヒドリナート(Dimenhydrinat) 第一世代抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミンとクロロテオフィリンの塩です。前庭神経への作用(H1受容体遮断)および延髄嘔吐中枢への抑制作用により、乗り物酔い・吐き気・嘔吐を抑えます。スイスを含むドイツ語圏で最も広く使われている制吐・乗り物酔い薬であり、安全性プロファイルが確立されています。
主な注意点: 眠気が出やすいため、服用後の運転・高所作業は避けてください。緑内障・前立腺肥大症・てんかんのある方は服用前に薬剤師へ相談してください。アルコールとの同時摂取で中枢神経抑制が増強されるため厳禁です。
Iberogast(イベロガスト) ドイツ発祥の植物薬(Phytopharmaka)で、カモミール・レモンバーム・ペパーミント・甘草など9種の薬草エキスを配合します。胃腸の蠕動調整・痙攣緩和・胃粘膜保護作用が複合的に働き、機能性消化不良・吐き気・腹部膨満に使用されます。スイスのApothekeでよく見かける薬草系OTCです。
経口補水塩(ORS) 嘔吐後の脱水予防・回復に不可欠です。WHO推奨の組成(食塩2.6g、塩化カリウム1.5g、クエン酸ナトリウム2.9g、グルコース13.5g/1L)に準じた製品が薬局で販売されています。スポーツドリンクは糖分が多すぎるため代替にはなりません。嘔吐後は5〜10分おきに1〜2口ずつ少量ずつ飲み始めるのが鉄則です。
現地語での症状表現・薬局での買い方フレーズ
スイスは4言語国家(ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語)ですが、観光客が訪れる主要エリアはドイツ語圏(チューリッヒ、ベルン、ルツェルン、インターラーケン、ツェルマット等)が多く、次にフランス語圏(ジュネーブ、ローザンヌ、モントルー等)が続きます。英語は主要薬局で広く通じます。
基本症状フレーズ(日本語/英語/ドイツ語/発音)
| 日本語 | 英語フレーズ(カナ発音) | ドイツ語フレーズ | ドイツ語カナ発音 |
|---|---|---|---|
| 吐き気がします | I feel nauseous.(アイ フィール ノーシャス) | Mir ist übel. | ミア イスト ユーベル |
| 嘔吐しました | I vomited.(アイ ヴォミテッド) | Ich habe erbrochen. | イッヒ ハーベ エアブロッヘン |
| 乗り物酔いです | I have motion sickness.(アイ ハヴ モーション シックネス) | Ich habe Reisekrankheit. | イッヒ ハーベ ライゼクランクハイト |
| 食中毒かもしれません | I might have food poisoning.(アイ マイト ハヴ フード ポイズニング) | Ich vermute eine Lebensmittelvergiftung. | イッヒ フェアムーテ アイネ レーベンスミッテルフェアギフトゥング |
| 高山病の症状があります | I think I have altitude sickness.(アイ シンク アイ ハヴ アルティチュード シックネス) | Ich glaube, ich habe Höhenkrankheit. | イッヒ グラウベ イッヒ ハーベ ヘーエンクランクハイト |
| 吐き気止めはありますか | Do you have something for nausea?(ドゥ ユー ハヴ サムシング フォー ノーシア?) | Haben Sie etwas gegen Übelkeit? | ハーベン ジー エトワス ゲーゲン ユーベルカイト? |
| 妊娠しています | I am pregnant.(アイ アム プレグナント) | Ich bin schwanger. | イッヒ ビン シュヴァンガー |
| アレルギーがあります | I have an allergy.(アイ ハヴ アン アレルジー) | Ich habe eine Allergie. | イッヒ ハーベ アイネ アレルギー |
| 子ども用はありますか | Is this safe for children?(イズ ディス セーフ フォー チルドレン?) | Ist das für Kinder geeignet? | イスト ダス フュア キンダー ゲアイグネット? |
フランス語圏(ジュネーブ・ローザンヌ等)の基本フレーズ
| 日本語 | フランス語フレーズ | カナ発音 |
|---|---|---|
| 吐き気がします | J'ai la nausée. | ジェ ラ ノーゼ |
| 嘔吐しました | J'ai vomi. | ジェ ヴォミ |
| 吐き気止めはありますか | Avez-vous quelque chose contre les nausées? | アヴェ ヴ ケルク ショーズ コントル レ ノーゼ? |
| 乗り物酔いです | J'ai le mal des transports. | ジェ ル マル デ トランスポール |
薬局での実践的な会話例
場面:スイスの薬局でジメンヒドリナート系の薬を購入する
あなた:"Do you have something for nausea and vomiting?(ドゥ ユー ハヴ サムシング フォー ノーシア アンド ヴォミティング?)"
薬剤師:"Is it for motion sickness or a stomach problem?"
あなた:"Motion sickness from the mountain train.(モーション シックネス フロム ザ マウンテン トレイン)"
薬剤師:"I recommend a dimenhydrinate tablet. Take one now and one every 6 hours if needed."
あなた:"Are there any side effects?(アー ゼア エニー サイド イフェクツ?)"
薬剤師:"It may cause drowsiness. Don't drive after taking it."
あなた:"Thank you.(サンキュー)"
避けるべき薬・成分・購入場所
スイスで注意が必要な成分
スコポラミン(Scopolamine) 乗り物酔い予防に使われる抗コリン薬です。経皮吸収型パッチ(耳の後ろに貼る)が海外で販売されていますが、スイスでは一般に処方箋が必要です。緑内障・前立腺肥大症のある方、高齢者は使用禁忌または要注意です。Apothekeのカウンターで「処方箋が必要」と言われた場合は自己判断で入手しないでください。
メトクロプラミド(Metoclopramide) 胃腸の運動促進薬で、スイスでは処方箋医薬品の扱いです。OTCとして一般購入はできません。長期・過量使用により遅発性ジスキネジア(不随意運動)が生じるリスクがあり、EU・スイスでは使用制限が強化されています。
ドンペリドン(Domperidone) EU圏での規制強化を受け、スイスでもOTCとしての販売は一般的ではありません。心臓への副作用リスク(QT延長)から使用量・使用期間に厳しい制限が設けられています。
信頼できる購入場所の選び方
- ✅ Apotheke(薬局):薬剤師が常駐、Swissmedic認可品のみ販売。最も信頼できる
- ✅ Drogerien(ドロゲリー):一部のOTC薬・健康食品を販売。薬剤師不在の場合もあるため、専門的な相談はApothekeへ
- ⚠️ 駅キオスク・コンビニ:限られた種類の薬を販売している場合があるが、成分表示を必ず確認する
- ❌ オンライン通販(非公式):Swissmedic認可外品が混在するリスクあり。旅行中の急場しのぎでの利用は避ける
ホメオパシー製品について
スイスの薬局にはホメオパシー(同種療法)製品が多数陳列されています(Cocculineなど)。これらは科学的エビデンスが確立されておらず、プラセボ効果を超えた治療効果は現時点では示されていません。軽症の気分程度には使用する方もいますが、中等度以上の症状や嘔吐が続く場合は、エビデンスのある薬剤(ジメンヒドリナート等)またはORSを選択してください。
薬剤師の視点:渡航前準備と持参推奨OTC
渡航前に準備すべきこと
スイス旅行で吐き気・嘔吐に備えるために、日本出国前に以下を準備することを強くお勧めします。
① 乗り物酔い薬の事前持参
日本で手に入るジメンヒドリナート含有の乗り物酔い薬(トラベルミン® など)を持参することで、スイス到着後すぐに対応できます。乗り物酔いは症状が出てからでは薬の効果が出るまでに時間がかかるため、山岳列車・バスに乗る30〜60分前に予防服用することが重要です。
② 経口補水塩(ORS)の持参
日本の薬局・ドラッグストアで購入できるOS-1®やソリタT顆粒など(または粉末タイプのORSパウダー)を数袋持参すると、嘔吐後の脱水予防に即応できます。スイスのApothekeでも購入できますが、旅行中に急に必要になることが多いため、先に準備しておく方が安心です。
③ 常用薬リストの英語・ドイツ語訳の準備
持病のある方は、服用中の薬の成分名(一般名)を英語またはドイツ語で書いたリストを準備してください。スイスのApothekeや病院での相談がスムーズになります。
④ 海外旅行保険の加入確認
スイスの医療費は非常に高額です。初診・診察だけでCHF 100〜300(概ね1万5,000〜4万5,000円)以上かかることがあり、入院ともなれば1日CHF 1,000を超えることがあります。必ずキャッシュレス対応の海外旅行保険に加入し、保険会社の緊急連絡先を手元に準備してください。
高山病薬(アセタゾラミド)について
高地観光を計画している場合、医師の判断のもとでアセタゾラミド(ダイアモックス®)を事前に処方してもらうことが有効な場合があります。これは処方箋医薬品であり、日本出発前に内科または旅行医学専門医に相談してください。なお、スルホンアミド系抗菌薬アレルギーの方には禁忌です。
現地入手のリスクと日本持参のメリット
スイスのApothekeは品質管理が高く、基本的に信頼できます。しかし以下の理由から、主要な薬は日本で準備しておく方が旅行の安心感が高まります。
- 観光地・山岳地帯では薬局の営業時間が限られる(日曜・祝日は閉店の場合あり)
- チューリッヒ空港・主要駅の薬局は24時間または深夜まで開いているが、山岳リゾートエリアでは異なる
- 言語の壁(特にドイツ語・フランス語・イタリア語が混在するエリアでは英語が通じにくい薬局も存在する)
- 価格がスイスフランで割高に感じる場合がある
スイスの医療事情
救急・緊急連絡先
| 緊急度 | 機関名 | 電話番号 | 対応時間 |
|---|---|---|---|
| 医療救急全般 | 救急車(Sanitätsnotruf) | 144 | 24時間 |
| 医師案内・電話相談 | Médecin / Arzt(医師案内) | 1811 | 24時間(スイス全土) |
| 中毒・毒物相談 | Toxinfo(毒物情報センター) | 145 | 24時間 |
| 警察(兼救急連絡) | 警察 | 117 | 24時間 |
| 消防・全般救急 | 消防(Feuerwehr) | 118 | 24時間 |
| 欧州統一緊急番号 | European Emergency Number | 112 | 24時間(スイス国内も使用可) |
医療機関の種類と特徴
Apotheke(薬局) 軽症の場合はまず薬剤師に相談することをお勧めします。スイスの薬剤師は高度な訓練を受けており、OTC薬の適切な選択に加え、受診すべきかどうかの判断も助言してくれます。観光地の薬局では英語対応が一般的です。
Hausarzt(家庭医・一般医) 通常は予約制ですが、急病の場合はホテルのコンシェルジュ経由で緊急紹介を依頼することができます。旅行者には特に「Notfallpatient(緊急患者)」として対応してもらえる場合があります。
Notfallpraxis(夜間・休日外来クリニック) 予約不要で受診できる外来クリニックで、主要都市・観光地の駅近くに設置されています。深夜・休日も対応しており、旅行者が利用しやすい施設です。
Kantonsspital / Universitätsspital(州立・大学病院の救急外来) 最重症例に対応する高度救急病院です。スイス主要都市(チューリッヒ:Universitätsspital Zürich、ベルン:Inselspital、ジュネーブ:Hôpitaux Universitaires de Genève = HUG、バーゼル:Universitätsspital Basel)に立地しています。
日本語対応について
スイスの一般医療機関での日本語対応は基本的にありません。チューリッヒやジュネーブなど大都市の大学病院や一部のインターナショナルクリニックでは英語対応が可能です。日本語通訳が必要な場合は、海外旅行保険の緊急連絡センターに電話し、電話通訳サービスを利用することが現実的です。
在スイス日本国大使館(ベルン)や在ジュネーブ日本総領事館では、邦人支援として医療機関の紹介・情報提供を行っています。深刻な状況では大使館・領事館にも連絡してください。
| 機関名 | 所在地 | 電話番号 |
|---|---|---|
| 在スイス日本国大使館 | ベルン | +41-31-300-2222 |
| 在ジュネーブ日本国総領事館 | ジュネーブ | +41-22-716-9100 |
帰国後の観察ポイント:輸入感染症の見分け方
スイスでの吐き気・嘔吐が旅行中に軽快しても、帰国後に再発・悪化・新たな症状が出た場合は注意が必要です。以下に、帰国後に注意すべきポイントをまとめます。
帰国後1〜2週間以内に受診が必要な症状
| 症状 | 考えられる疾患 | 受診先 |
|---|---|---|
| 嘔吐・下痢の再発または持続 | ウイルス性胃腸炎、細菌性食中毒、寄生虫感染 | 内科・消化器内科 |
| 発熱(37.5℃以上)の継続 | 感染性胃腸炎、その他感染症 | 内科 |
| 黄疸(皮膚・眼球の黄変)の出現 | A型肝炎(欧州では稀だが旅行先によって異なる)、E型肝炎 | 消化器内科・感染症内科 |
| 体重減少・慢性的な腹部症状 | 寄生虫感染(ジアルジア症など) | 消化器内科・感染症内科 |
スイス旅行と輸入感染症リスク
スイスはマラリアや腸チフスの流行国ではなく、輸入感染症リスクは欧州諸国の中で相対的に低い国です。しかし以下の点には注意が必要です。
- ダニ媒介脳炎(TBE):スイスの農村部・森林地帯ではマダニによるTBEのリスクがあります。吐き気・頭痛・発熱が帰国後に出現し、スイスの森林や草地を歩いた記憶がある場合は感染症内科を受診してください。
- E型肝炎:欧州産の豚肉・猪肉製品(生ハム、ソーセージなど)からのE型肝炎ウイルス感染が報告されています。帰国後2〜8週間以内の黄疸・全身倦怠・吐き気は肝炎の疑いがあります。
受診時に医師へ伝えるべき情報
帰国後に受診する際は、以下の情報を医師に伝えると診断が迅速になります。
- 渡航先(スイスのどの地域に行ったか、高地への訪問有無)
- 旅行期間と帰国日
- 現地での食事内容(チーズ・生ハム・生魚介類・川の水摂取など)
- 現地での野外活動内容(森林・草地・農村地帯の歩行等)
- 症状の発症時期と経過
- 現地または日本での服薬歴
総括:スイスでの吐き気・嘔吐への対処フロー
- 症状確認 → 重症度チェックリストで緊急度を判定
- 緊急サインあり → 144番または最寄りの救急外来へ直行
- 準緊急サインあり → 夜間外来(Notfallpraxis)またはApothekeで相談し当日受診
- 軽症・経過観察可 → Apothekeでジメンヒドリナート製品または経口補水塩を購入
- 予防段階 → 山岳乗り物に乗る前に予防服用、水分補給を徹底
- 帰国後 → 症状再燃・黄疸・高熱があれば内科または感染症内科を受診
参考文献・情報源
-
Swissmedic(スイス医薬品審査機関)
公式サイト:https://www.swissmedic.ch/
スイス国内で認可された医薬品データベース・安全情報 -
WHO(世界保健機関):Travel and health(旅行者の健康)
https://www.who.int/health-topics/travel-and-health
高山病・旅行者の感染症・経口補水塩に関するガイダンス -
CDC(米国疾病予防管理センター):Travelers' Health – Switzerland
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/switzerland
スイス渡航者向け健康情報・感染症リスク情報 -
外務省:海外安全情報 スイス
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_200.html
スイス渡航者向けの感染症・医療機関情報 -
在スイス日本国大使館:スイスの医療事情
https://www.ch.emb-japan.go.jp/
スイス国内の医療機関情報・邦人向け緊急連絡先 -
Emetrol Drug Information / DimenhydrinATE – European Medicines Agency (EMA)
https://www.ema.europa.eu/
ジメンヒドリナートの有効性・安全性評価 -
Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness(2019年版)
https://wms.org/
高山病の予防・治療に関する国際的ガイドライン -
日本旅行医学会:旅行者の健康管理ガイドブック
https://www.jstah.or.jp/
日本発の旅行者向け医学ガイドライン(高山病・食中毒・時差ぼけを含む)
免責事項
本記事は、薬剤師(博士(薬学))の専門知識に基づいた医薬品・健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。記載した情報は執筆時点のものであり、医薬品の承認状況・規制・価格等は変更されることがあります。症状が重篤な場合や本記事のセルフケア対応で改善しない場合は、必ず現地の医療機関または医師の診察を受けてください。海外での受診・服薬に際しては、加入している海外旅行保険の保険会社の指示にも従ってください。
監修:薬剤師(博士(薬学))
本記事の医薬品情報・薬理学的解説は、薬学博士・薬剤師資格保有者が執筆・監修しています。