フランス渡航前の予防接種ガイド:必須・推奨ワクチンと接種スケジュール
フランスへの渡航を計画している方は、渡航前2〜3ヶ月以内に予防接種の検討が必須です。フランスは先進国で医療水準が高いため、多くの感染症は流行していませんが、定期接種の確認と数種類の追加接種が重要です。本記事では薬剤師の視点から、必要な予防接種、接種時期、費用の目安を実用的に解説します。
フランス本土は「先進国だから安心」と思われがちですが、実際にはアルザス・ロレーヌ地方の森林地帯でのダニ脳炎リスク、欧州全土で散発する麻しんの輸入例、大学都市における髄膜炎菌の集団感染など、見落としやすいリスクが存在します。また日本出国前の接種歴確認を怠った渡航者がフランス滞在中に麻しんを発症し、帰国後に国内二次感染の原因となった事例も報告されています(国立感染症研究所感染症発生動向調査より)。「確認」と「予防」の二段構えで渡航準備を進めることが、薬学的見地からも強く推奨されます。
フランス渡航時に必要な予防接種一覧
必須接種(ほぼ全渡航者)
フランスへの渡航では以下の基本的な予防接種の確認が重要です。
| 予防接種 | 対象者 | 必要性 | 最後の接種から |
|---|---|---|---|
| 麻しん・風しん(MR) | 全員 | 必須 | 2回接種の確認 |
| ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT) | 全員 | 必須 | 10年以内に1回追加推奨 |
| ポリオ(IPV) | 全員 | 必須 | 3回接種確認 |
| B型肝炎 | 全員 | 推奨 | 3回接種確認 |
| 新型コロナウイルス(COVID-19) | 全員 | 推奨 | 最新情報は大使館で確認 |
麻しん・風しん(MR)ワクチン
フランスでの麻しん感染報告は近年減少していますが、渡航者からの輸入例は依然として報告されています。欧州疾病予防管理センター(ECDC)の監視データによれば、EU域内での麻しん報告数は年によって数百〜数千件規模で推移しており、ワクチン接種率が低い地域では散発的なアウトブレイクが起きています。日本生まれの方は1966年以前の出生者で接種歴がない可能性があり、また1990年代以前に1回のみ接種した世代では2回目接種が未完了のケースもあります。
麻しんウイルスの感染力(基本再生産数R₀≒12〜18)は非常に高く、免疫が不十分な状態でのフランス渡航は周囲への二次感染リスクを生む点も忘れてはなりません。
- 接種回数の確認方法:母子手帳を確認、2回接種(定期接種の2回目は2006年以降)が基本
- 追加が必要な場合:接種してから56日以上間隔をあけて2回目を接種
- 費用の目安:1回5,000〜8,000円(目安)
薬剤師メモ MRワクチン(麻しん・風しん混合、成分:弱毒生麻しんウイルス+弱毒生風しんウイルス)は生ワクチンのため、接種後は他の生ワクチン(黄熱、水痘など)との同時接種は可能ですが、異なる日に接種する場合は27日以上の間隔が必要です。不活化ワクチンであれば同日接種可能です。また、MRワクチンはゼラチンを含む製品が多く、ゼラチンアレルギーの方は事前に医師・薬剤師へご相談ください。
ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチン
国内での流行はありませんが、DT(ジフテリア・破傷風2種混合)またはDPT(3種混合)の追加接種が推奨されます。特に百日咳については、ワクチン接種後の免疫が10〜15年で低下することが知られており、成人の再感染・保菌が乳幼児への二次感染源となる「コクーン戦略(繭戦略)」の観点からも定期的な追加接種が重要視されています。
フランスの農村部、特に土壌との接触機会が多いガーデニング・ハイキング・登山などのアクティビティでは、傷口からの破傷風菌(Clostridium tetani)感染が問題となります。破傷風毒素(テタノスパスミン)は神経筋接合部でのアセチルコリン放出を阻害し、強直性けいれんを引き起こします。致死率は高く、医療が整ったフランスでも治療は困難です。最後の接種から10年以上経過している場合は追加接種を強く推奨します。
- 最後の接種から10年以上経過している場合は追加接種を検討
- 特に破傷風:外傷のリスクが高い活動(ハイキング、農村部訪問)を予定している場合は優先
- 費用の目安:3,000〜5,000円(DT2種混合)、6,000〜9,000円(3種混合、目安)
破傷風の発症機序(薬学的補足):破傷風毒素は傷口で産生され、末梢神経を逆行性に伝わり中枢神経へ到達します。脊髄・脳幹での抑制性シナプスを遮断するため、強直性けいれん(開口障害、後弓反張など)が生じます。トキソイドワクチンはこの毒素を無毒化したものであり、抗毒素抗体を産生させることで毒素を中和します。
B型肝炎ワクチン
- 対象:医療従事者や肝臓疾患患者は優先度高
- 一般渡航者:接触感染のリスクは低いが、予防接種推奨
- 接種スケジュール:0日、1ヶ月、6ヶ月(3回接種)
- 費用の目安:5,000〜7,000円/回(計15,000〜21,000円、目安)
B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスであり、血液・体液経由で感染します。フランスでは医療処置、タトゥー、ピアス、性的接触などがリスク経路として挙げられます。現行の不活化ワクチン(HBs抗原ワクチン)は、組換えDNA技術で製造されたHBs抗原を3回接種することで防御的抗体価(抗HBs抗体≧10 mIU/mL)を誘導します。過去に3回接種を完了し、抗体保有が確認されていれば通常は追加接種不要ですが、免疫低下者(透析患者、HIV感染者等)では抗体価の確認が推奨されます。
フランス渡航時に推奨される予防接種
条件付き推奨ワクチン
| 予防接種 | 推奨対象 | 理由 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| ダニ脳炎(TBE) | アルザス・ロレーヌ等の森林ハイキング予定者 | フランス北東部でのダニ媒介性脳炎リスク | 10,000〜15,000円/回 |
| 黄熱 | サハラ以南アフリカ経由の渡航者 | 黄熱の証明書が入国時に求められる国への乗り継ぎ | 10,000〜11,000円 |
| チフス(経口不活化ワクチン) | 衛生状態が不確実な地域に長期滞在 | フランス本土ではリスク低い | 6,000〜8,000円 |
| A型肝炎 | 30歳以上で過去感染歴なし | 食べ物・飲み水経由 | 7,000〜9,000円/回 |
| 水痘(帯状疱疹) | 過去感染歴なし・50歳以上 | 高齢者の予防に有効 | 7,000〜10,000円 |
| 髄膜炎菌ワクチン | 学生・寮生活予定者 | 大学寮での集団感染報告あり(欧州全体) | 25,000〜30,000円 |
薬剤師メモ フランスは先進国であり、公共の水道水は安全です。ただし高齢者や免疫低下患者は念のためA型肝炎ワクチンの接種を検討する価値があります。特に農村部での食事時に生野菜を多く摂取する場合。
ダニ脳炎(TBE:Tick-borne Encephalitis)ワクチン【重点解説】
フランス本土でのダニ脳炎は「あまり知られていないが実在するリスク」として、渡航医学の分野で近年注目されています。特にアルザス地方(グラン・テスト地域圏)、ロレーヌ、アルデンヌ地方の森林・草地はTBEウイルスを保有するマダニ(主にIxodes ricinus)の生息地であり、欧州疾病予防管理センター(ECDC)のリスクマップでも流行地として指定されています。フランス保健機関(Santé publique France)も、同地域へのアウトドア活動を伴う渡航者に対してTBEワクチン接種を推奨しています。
TBEウイルスの病態生理:TBEウイルス(フラビウイルス科)はマダニの吸血により経皮感染し、局所リンパ節で増殖後に血流に乗って中枢神経系へ到達します。二峰性の発熱経過(第1相:インフルエンザ様症状、第2相:髄膜炎・脳炎症状)が特徴的です。欧州型TBEウイルスの脳炎移行率は約30%とされており、致死率は1〜2%、後遺症(認知障害、けいれん発作、麻痺)を残すことがあります。
TBEワクチンの薬学的特性:
- 製剤の種類:不活化全ウイルスワクチン(アジュバント:水酸化アルミニウム)
- 接種スケジュール(通常法):0日、1〜3ヶ月後、5〜12ヶ月後の計3回
- 急速免疫スケジュール:0日、7日後、21日後の3回(渡航直前でも対応可能)
- ブースター接種:初回3回完了後、3年ごとに追加接種
- 防御免疫の確立:2回目接種後14日以降から有効とされるが、3回接種完了が望ましい
- 副反応:接種部位の疼痛・発赤(頻度高)、発熱・疲労感(頻度中程度)、まれに重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)
| 接種スケジュール | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 防御効果 |
|---|---|---|---|---|
| 通常法 | 0日 | 1〜3ヶ月後 | 5〜12ヶ月後 | 95%以上 |
| 急速法 | 0日 | 7日後 | 21日後 | 2回終了後〜(3回完了が理想) |
| ブースター | 3年ごとに1回追加 | — | — | 継続的な防御維持 |
薬剤師メモ TBEワクチンは日本国内での承認薬として流通しておらず、一部の渡航医学専門外来・検疫所で入手可能な輸入ワクチンとなる場合があります。接種施設が限られるため、渡航3ヶ月前には問い合わせを開始してください。また、同じダニ媒介感染症であるライム病(ボレリア症)にはワクチンが存在しないため、長袖・長ズボン着用・虫除けスプレー(DEET含有製品またはイカリジン含有製品)の使用が併用推奨されます。
黄熱ワクチンについて
フランス本土では黄熱のリスクはありませんが、カリブ海領土(グアドループ、マルティニークなど)への渡航予定がある場合は検討が必要です。黄熱ワクチン(弱毒生ウイルスワクチン)は1回の接種で生涯有効な免疫を付与します(WHOの2013年改訂に基づき、従来の10年毎更新ルールは廃止)。ただし免疫不全患者や特定の基礎疾患を持つ方には接種禁忌・慎重投与の条件があるため、専門医への相談が必須です。
- 接種可能施設:黄熱ワクチン接種実施機関に限定(全国に約200ヶ所)
- 有効期限:生涯有効(2020年規則改正前の接種は10年ごと更新が必要な場合あり)
- 接種時期:渡航の10日以前に接種完了
髄膜炎菌ワクチンの詳細
フランスの大学都市(パリ、リヨン、ボルドー、グルノーブルなど)では、学生寮・キャンパス内での髄膜炎菌性髄膜炎(主にB群・C群)のアウトブレイクが欧州全土で報告されており、フランス政府も大学生に対するワクチン接種を奨励しています。髄膜炎菌性髄膜炎は発症から24〜48時間で致死的経過をたどる場合があり、早期診断・治療と予防接種が生命を左右します。
現在流通している主なワクチンは4価(A・C・W・Y群)結合型ワクチンと、B群専用ワクチンがあります。B群はフランスを含む欧州で最も多い血清型であることから、特にフランス長期滞在者は渡航医学専門外来でB群対応ワクチンについても確認することが推奨されます。
予防接種のスケジュール計画
最適な接種時期
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| 渡航3ヶ月前 | 母子手帳確認、必要な予防接種を医師・薬剤師に相談、抗体検査の実施(必要な場合) |
| 渡航2ヶ月前 | 1回目の接種(複数必要な場合を考慮)、B型肝炎1回目 |
| 渡航1ヶ月前 | 2回目以降の接種、B型肝炎2回目、TBEワクチン2回目など |
| 渡航2週間前 | MRワクチン(生ワクチン)は最低2週間前、理想は1ヶ月前に完了 |
| 渡航直前 | 接種履歴確認、英文の予防接種記録を用意 |
渡航スケジュールが急に決まった場合でも、**「今からでも遅くない」**ことを強調したいと思います。渡航まで1ヶ月しかない場合でも、DPT・A型肝炎・ポリオ・B型肝炎の1回目は接種可能であり、接種しないよりは部分的な防御でも意味があります。TBEワクチンの急速スケジュール(0・7・21日法)も渡航直前の選択肢として有効です。
複数ワクチン接種時の注意点と薬学的解説
- 不活化ワクチン同士(DPT、A型肝炎、チフス、B型肝炎など):同日接種可能
- 生ワクチン同士(MR、水痘、黄熱など):同日接種可能、または27日以上の間隔が必要
- 生ワクチン+不活化ワクチン:原則として同日接種可能
なぜ生ワクチン間に27日間の間隔が必要か(薬学的機序):生ワクチンはウイルスが体内で限定的に増殖することで免疫を惹起します。異なる生ワクチンを同日接種せずに日をずらして接種した場合、先行して接種したワクチン由来ウイルスが増殖する際に産生されるインターフェロン(特にI型IFN)が、後続ワクチンのウイルス増殖を抑制し、免疫誘導を妨げる可能性があります。27日(4週間)の間隔を設けることで、先行ワクチンの増殖・免疫応答が完了してから次のワクチンが接種されるため、干渉を回避できます。
同時接種時の注意:複数ワクチンを同日接種する場合、副反応の重複(発熱、局所反応)が起きる可能性があります。発熱に対してはアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)の使用が可能ですが、NSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェン等)の使用については、一部の研究で抗体産生への影響が示唆されており、医師・薬剤師に確認のうえ使用することが望ましいです。
免疫抑制患者への特別配慮:ステロイド薬(経口プレドニゾロン換算で2mg/kg/日以上、または20mg/日以上を2週間以上使用中の成人)、抗TNF-α製剤、メトトレキサートなどの免疫抑制薬使用中の方は、生ワクチンの接種が禁忌または慎重投与となる場合があります。また免疫応答が低下しているため不活化ワクチンの効果も減弱する可能性があります。渡航前に主治医・渡航医学専門医に必ず相談してください。
薬剤師メモ 新型コロナウイルスワクチンとの併用:mRNAワクチンは不活化ワクチン扱いのため、COVID-19ワクチンと他のワクチンの同時接種が可能です。ただし、抗体産生を最大化するため、渡航3週間以上前にCOVID-19ワクチンを完了しておくと理想的です。
ワクチン副反応への対処法(薬学的アドバイス)
渡航前接種では複数のワクチンを短期間に接種するため、副反応への備えも重要です。
| 副反応の種類 | 頻度 | 対処法 |
|---|---|---|
| 接種部位の痛み・腫れ・発赤 | 非常に多い | 冷湿布・安静(揉まない) |
| 発熱(37.5℃以上) | 中程度 | アセトアミノフェン500〜1000mg経口投与 |
| 全身倦怠感・筋肉痛 | 中程度 | 安静・水分補給 |
| アナフィラキシー(重篤) | まれ | 接種後15〜30分は医療機関内で待機 |
アナフィラキシーについて:いずれのワクチンも接種後にアナフィラキシーが起こる可能性があります(頻度は100万回に数回程度)。主な症状は蕁麻疹・喉の腫れ・喘鳴・血圧低下・意識消失などで、接種後15〜30分以内に発症することがほとんどです。このため接種後は必ず医療機関内で待機し、症状出現時はすぐに医療スタッフに申し出てください。エピネフリン(アドレナリン)自己注射薬(一般名:アドレナリン)を処方されている方は必ず持参してください。
予防接種の費用と保険適用
費用の概算
必須接種の合計:20,000〜30,000円(目安)
- 麻しん・風しん(MR):5,000〜8,000円
- DPT追加接種:3,000〜5,000円
- B型肝炎(3回):15,000〜21,000円 ※初回のみ
条件付き推奨接種追加:10,000〜40,000円(目安)
ダニ脳炎(TBE)ワクチン追加:3回完了で30,000〜45,000円(目安)
保険適用と助成
- 定期接種(MR、DPT):市町村の予防接種事業で無料(20歳未満が対象の場合が多い)
- 成人の追加接種:基本的に自費診療(5,000〜9,000円程度)
- 旅行健康相談:渡航医学専門外来で実施(相談料:2,000〜5,000円)
薬剤師メモ 一部の自治体では成人の予防接種費用を助成しています。事前に住所地の保健センターに確認を。また、勤務先の健康保険組合が渡航者向けの予防接種補助制度を持つ場合もあります。TBEワクチンは輸入ワクチンのため保険適用外が多く、費用が高くなりがちです。接種施設によって費用が異なりますので、複数の渡航医学専門外来への問い合わせをお勧めします。
ダニ(マダニ)刺咬の予防と対処(非薬物的措置)
TBEワクチンを接種していても、ダニ刺咬リスクを行動面から減らすことが二重の防御策として重要です。
行動上の予防策:
- 森林・草地への立ち入り時は長袖・長ズボン・足首まで覆う靴・帽子を着用
- 肌の露出部に虫除け製剤を塗布する(成分:DEET 30〜50%または イカリジン20%の製品が欧州では広く使用される)
- 服にも虫除けスプレーを噴霧(成分:ペルメトリン配合製品は衣類への処理で有効、ただし皮膚への直接塗布は不可)
- 屋外から戻ったら全身のダニチェック(特に頭皮・耳の後ろ・わきの下・膝裏・鼠径部など)
ダニを発見した場合の正しい除去法:
- 先の細いピンセットまたはダニ除去専用の器具を使用し、皮膚のできるだけ近い部分をつかむ
- ひねらずにまっすぐ引き抜く(ひねると頭部が残ったり体液が逆流するリスクがある)
- 引き抜いた後は傷口をアルコール消毒
- 除去後2〜4週間は体調変化(発熱、頭痛、皮疹)を監視し、異常があれば医師へ
注意:ダニに火を近づける・ワセリンや油を塗るなどの民間療法は推奨されません。ダニが吐き戻しをして感染リスクが上がる可能性があります。
フランス到着後の医療サポート
予防接種の英文記録
フランスの医療機関で予防接種歴を証明するため、英文の予防接種記録を用意してください。
| 記載項目 | 形式 |
|---|---|
| ワクチン名(英語) | 例:Measles, Mumps, Rubella (MMR) |
| 接種日 | YYYY年MM月DD日 |
| 接種医療機関 | 医師名・施設名 |
| 次回接種予定日(必要に応じて) | YYYY年MM月DD日 |
日本の自治体で取得可能な「予防接種記録」は多くの場合、日本語のみです。必要に応じて医療機関で英文翻訳を依頼しましょう(翻訳料:1,000〜3,000円が目安)。
国際的な予防接種証明書(イエローカード)形式での記録を渡航医学専門外来で発行してもらえる場合もあります。複数の渡航・乗り継ぎがある場合は特に有用です。
フランスの医療体制と薬局活用
- 緊急時:SAMU(15番通報)またはSOS医師サービス
- 医療保険:EU圏内の社会保障協定により、日本の健康保険証の保障は限定的。旅行保険加入を強く推奨
- 薬局(Pharmacie):フランスの薬局は日本と異なり、予防接種実施施設として機能している場合があります(近年は薬剤師によるインフルエンザワクチン接種などが普及)。緑色の十字マークが目印。
フランス薬局での基本会話フレーズ:
-
I need to see a doctor.(アイ ニード トゥ シー ア ドクター)= 医師に診てもらいたいです -
I have a fever and headache.(アイ ハヴ ア フィーバー アンド ヘッドエイク)= 発熱と頭痛があります -
I was bitten by a tick.(アイ ウォズ ビトゥン バイ ア ティック)= ダニに刺されました -
Do you have a painkiller?(ドゥ ユー ハヴ ア ペインキラー?)= 鎮痛薬はありますか? -
Is this safe during pregnancy?(イズ ディス セーフ デュアリング プレグナンシー?)= 妊娠中に服用しても大丈夫ですか?
フランスの薬局では、処方なしで購入できるOTC(Over The Counter)医薬品として、アセトアミノフェン(paracétamol)やイブプロフェン(ibuprofène)配合の解熱鎮痛薬が広く販売されています。成分名を覚えておくと現地での購入がスムーズです。
よくある質問と回答
Q. 予防接種後、いつからフランスに渡航できますか?
A. 生ワクチン(MR、水痘など)接種後は1週間程度、不活化ワクチン(DPT、A型肝炎など)接種後は翌日からの渡航が可能です。ただし、免疫応答が確立するまで2週間を目安に考えてください。TBEワクチンは2回目接種後14日以降から有効とされますが、3回完了が望ましいため、できるだけ早期から計画的に接種することが重要です。
Q. 過去の予防接種記録を失くしました。どうすればよいですか?
A. 接種医療機関に問い合わせて記録確認を依頼するか、抗体検査(麻しん・風しん・水痘)を実施して現在の免疫状態を確認できます。抗体検査は3,000〜5,000円が目安です。記録がない場合、再接種は安全に行うことができます(過剰接種による重大な害は基本的に報告されていません)。ただし、生ワクチンは免疫不全者には禁忌のため、基礎疾患がある方は事前に医師へ相談が必要です。
Q. フランス到着後に追加接種が必要になった場合は?
A. フランスの医療機関(かかりつけ医やクリニック)で接種可能です。ただし英語対応の可否を事前確認してください。国際運転免許証やパスポートなどの身分証明書が必要な場合があります。フランスの薬局(Pharmacie)でも一部のワクチン(インフルエンザなど)の接種が可能になっていますが、渡航医学向けの特殊ワクチン(TBEなど)は専門医療機関を受診する必要があります。
Q. 妊娠中・授乳中ですがワクチン接種は可能ですか?
A. 妊娠中は生ワクチン(MR、水痘、黄熱)の接種は原則禁忌です(胎児への感染リスクがあるため)。不活化ワクチン(DPT、A型肝炎、B型肝炎、TBE等)は妊娠中でも接種可能な場合がありますが、個別のリスク・ベネフィット評価が必要です。授乳中は多くのワクチンが接種可能ですが、黄熱ワクチンについては授乳中の乳児への移行(ウイルスが母乳経由で乳児に感染するリスク)が報告されているため慎重な判断が必要です。必ず産婦人科医・渡航医学専門医に相談してください。
Q. ダニに刺されたかもしれません。病院に行くべきですか?
A. ダニを自分で除去できた場合でも、除去後2〜4週間以内に発熱・頭痛・皮疹(遊走性紅斑など)が出現した場合は速やかに医療機関を受診してください。特に遊走性紅斑(刺咬部を中心に広がる赤い円形の皮疹)はライム病の特徴的な初期症状であり、早期の抗菌薬治療(ドキシサイクリンまたはアモキシシリン)で治癒率が高まります。渡航保険に加入している場合は、帰国後の受診でも補償対象となる場合があります。
まとめ
フランス渡航前の予防接種について、以下の要点をご確認ください。
✅ 必須確認事項
- 麻しん・風しん(MR)が2回接種されているか母子手帳で確認
- ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)が最新状態か確認、10年以上前なら追加接種
- B型肝炎の過去接種歴確認
✅ フランス特有の注意点
- アルザス・ロレーヌ地方など北東部の森林地帯へのアウトドア活動予定者:ダニ脳炎(TBE)ワクチンを優先的に検討
- 学生・寮生活予定者:髄膜炎菌ワクチン(特にB群含む)の接種を渡航医学専門外来で相談
- カリブ海領土(グアドループ・マルティニーク)への立ち寄りがある場合:黄熱ワクチン
✅ 渡航3ヶ月前に実施
- 渡航医学専門外来で個別相談(最新情報確認)
- 必要なワクチンの接種計画作成
✅ 費用目安
- 必須接種:20,000〜30,000円
- 条件付き推奨接種:10,000〜40,000円追加
- TBEワクチン(3回):30,000〜45,000円追加(目安)
✅ 接種後の準備
- 英文の予防接種記録をフランス到着時に持参
- 旅行医療保険加入確認
✅ 渡航前の最終確認
- 外務省・フランス大使館のウェブサイトで最新情報確認
- 接種医から英文の処方箋・診断書を入手
最新の推奨接種情報については、必ず日本の渡航医学専門外来または厚生労働省ウェブサイトで最新情報を確認してください。 フランス到着後も現地医療機関のサポートを受けられるよう、旅行医療保険への加入を強く推奨します。
参考文献
-
世界保健機関(WHO)渡航者向けワクチン情報(International travel and health)
https://www.who.int/publications/i/item/9789241580472 -
米国疾病予防管理センター(CDC)フランス渡航者向け健康情報
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/france -
欧州疾病予防管理センター(ECDC)ダニ媒介性脳炎リスクマップ
https://www.ecdc.europa.eu/en/tick-borne-encephalitis/surveillance-and-disease-data/tick-maps -
厚生労働省 予防接種情報(定期接種・臨時接種一覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobousesshu/index.html -
国立感染症研究所(NIID)感染症発生動向調査(麻しん・風しん等週報)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idsc.html -
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)ワクチン添付文書情報
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ -
フランス公衆衛生庁(Santé publique France)ワクチン接種カレンダー
https://www.santepubliquefrance.fr/determinants-de-sante/vaccination
監修:薬剤師(博士(薬学))