香港渡航前に必須!予防接種ガイド|薬剤師が解説する接種スケジュールと費用
香港への渡航を計画されている方へ。東南アジアに位置する国際的な都市・香港でも、渡航前の予防接種は重要な渡航時の体調管理です。本記事では、必須接種と推奨接種、実際の接種スケジュール、費用相場を薬剤師の視点からご説明します。渡航予定日の決定後、できるだけ早くかかりつけの医師や旅行外来で相談することをお勧めします。
香港は国際金融都市として世界中から人が集まる一方、亜熱帯性気候・高密度の都市環境・多様な食文化が組み合わさることで、一部の感染症リスクが日本よりも高まる場面があります。また、近年では香港を経由してASEAN各国へ移動するルートも一般的になっており、経由地としての感染リスク管理も含めた総合的な準備が求められます。本記事では薬学的な機序や免疫学的背景にも踏み込みながら、実用的な接種計画の立て方を詳しく解説します。
香港渡航に必要な予防接種とは
日本から香港への渡航で必須の予防接種
黄熱病ワクチンについて: 香港からの黄熱病リスクは低いため、入国時の黄熱病予防接種証明書(イエローカード)は不要です。ただし、香港経由で他国へ移動する場合は確認が必要です。黄熱病の流行地(アフリカ中央部・南米熱帯雨林地域など)に6日以上滞在した後に香港へ入国する場合、一部の国では入国時にイエローカードの提示を求める場合があります。トランジットを含む旅程がある場合は、WHO発行の国別流行情報を渡航計画段階で確認してください。
現在、香港への渡航で法律上義務づけられた予防接種はありません。しかし、公衆衛生上の観点から、以下の予防接種は強く推奨されます。
推奨される予防接種一覧
| 疾患名 | ワクチン種類 | 香港での必要性 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| 麻疹(はしか) | MMR(麻疹・風疹・おたふく風邪混合) | 推奨 | ★★★ 最優先 |
| 風疹 | MMR | 推奨 | ★★★ 最優先 |
| A型肝炎 | A型肝炎ワクチン | 推奨 | ★★★ 最優先 |
| B型肝炎 | B型肝炎ワクチン | 推奨 | ★★☆ |
| 腸チフス | 腸チフスワクチン(経口/注射) | 推奨 | ★★☆ |
| 日本脳炎 | 日本脳炎ワクチン | 不要(本土) | ★☆☆ |
| 狂犬病 | 狂犬病ワクチン | 推奨* | ★★☆ |
| インフルエンザ | 季節性インフルエンザワクチン | 推奨(冬季) | ★★☆ |
| COVID-19 | mRNA/不活化ワクチン | 推奨 | ★★★ |
*野良動物との接触リスクがある場合
薬剤師コメント 麻疹と風疹は香港でも罹患報告があります。日本でも「風疹の流行」が報告される年があり、両親世代では免疫が不完全なケースが多いため、渡航前の抗体検査(IgG測定)をお勧めします。特に妊娠可能年齢の女性は優先度を高めてください。
香港の感染症疫学的背景
香港は人口密度が非常に高く(1km²あたり6,000人超)、地下鉄・フェリー・空港などの公共交通機関で世界中の渡航者と接触する機会が多い都市です。香港衛生防護中心(Centre for Health Protection: CHP)のサーベイランスデータによれば、麻疹や風疹の散発的な流行は近年も継続しており、特に中国本土から入境する旅行者を介した輸入例が問題となっています。A型肝炎については、香港の上水道は整備されているものの、旺角(Mong Kok)や深水埗(Sham Shui Po)などの繁華街の屋台・海鮮市場では食品衛生管理のばらつきがあり、生食・半生食品を通じた感染リスクは排除できません。これらの疫学的特性を踏まえると、ワクチン接種は「念のため」ではなく「合理的な感染予防措置」として位置づけられます。
各ワクチンの詳細と接種スケジュール
麻疹・風疹(MMR)ワクチン
接種スケジュール:
- 標準的には2回接種が推奨
- 1回目と2回目は4週間以上の間隔
- 渡航予定日の最低4週間前に1回目を接種開始
抗体保有状況の確認: 1978年以降の生まれで2回のMMR接種歴、または麻疹・風疹の罹患歴がない場合は接種推奨。血液検査(IgG抗体価測定)で免疫確認も可能です。
費用目安(日本): 1回 6,000~8,000円 × 2回 = 12,000~16,000円
薬学的解説(MMRワクチンの機序と免疫応答): MMRワクチンは弱毒生ワクチンであり、麻疹ウイルス・風疹ウイルス・ムンプスウイルスの3種の生きた弱毒株を含みます。接種後、これらの弱毒化ウイルスが体内で限定的に増殖することで、自然感染に近い免疫応答(液性免疫+細胞性免疫の両方)が誘導されます。1回接種後の麻疹に対する血清陽転率は約95%ですが、残る5%には免疫が成立しないため、2回接種によって「プライム-ブースト効果」を得て陽転率を99%以上まで引き上げる二段階戦略が標準とされています。免疫記憶(メモリーB細胞・長寿命形質細胞)が形成されると、数十年単位での防御が維持される点が弱毒生ワクチンの特徴です。なお、弱毒生ワクチンであるため、免疫抑制療法中・妊娠中の方は原則禁忌です。渡航計画が確定した段階で医師に相談し、接種可否を確認してください。
副作用プロファイル: 接種後5〜12日目に軽度の発熱・発疹が出現することがあります(ワクチン株由来の一過性反応であり、他者への感染性はありません)。関節痛は風疹成分に由来し、成人女性で比較的高頻度(10〜25%)に報告されています。アナフィラキシーは非常にまれですが、接種後30分は医療機関で経過観察することが推奨されます。
A型肝炎ワクチン
接種スケジュール:
- 初回接種
- 6~12ヶ月後に2回目(長期免疫の確保)
- 短期渡航の場合、初回1回のみでも90%の効果が期待できます
重要ポイント: 香港の水質は世界的に安全基準が高いですが、外食時の衛生管理にばらつきがあります。屋台での飲食や生ものの摂取予定がある場合は必須接種です。
費用目安(日本): 1回 8,000~10,000円 × 2回 = 16,000~20,000円
薬学的解説(A型肝炎ワクチンの機序と特性): A型肝炎ワクチンは不活化ワクチン(ホルムアルデヒド処理で不活化したHAVウイルス粒子を水酸化アルミニウムアジュバントに吸着させた製剤)です。アジュバントである水酸化アルミニウムは抗原提示を強化し、CD4陽性T細胞を介したB細胞への共刺激を促進することで、より強固な液性免疫を誘導します。初回接種2〜4週後には防御的な抗体価が得られますが、長期防御(20〜30年以上)には2回目のブースター接種が必要です。なお、A型肝炎に対する既往感染歴がある場合(50代以上の方では自然感染による免疫保有率が高い)は、HAV IgG抗体を測定してから接種の必要性を判断することで費用対効果が向上します。
感染経路と香港リスクの実際: HAVはヒト-ヒト感染(糞口経路)および食品・水を介した経口感染が主な感染経路です。香港では特に貝類(牡蠣・アサリ)の生食・半生食、生野菜サラダ、氷入り飲料が感染源となりうることが報告されています。潜伏期間が15〜50日と長いため、帰国後に発症するケースも少なくなく、渡航前の接種が最も有効な予防策です。
B型肝炎ワクチン
接種スケジュール(標準スケジュール):
- 0日目、1ヶ月後、6ヶ月後の3回接種
- 急速スケジュール:0日目、1週間後、3週間後、12ヶ月後
対象者:
- 渡航期間が長期(1ヶ月以上)
- 医療施設での業務予定がある
- 血液・体液曝露リスクがある
費用目安(日本): 1回 5,000~7,000円 × 3回 = 15,000~21,000円
薬剤師コメント B型肝炎ワクチンは日本でも1989年以降の乳児は定期接種対象ですが、それ以前の世代では未接種の可能性があります。30代以上の方は接種歴を確認してください。
薬学的解説(B型肝炎ワクチンの抗原と免疫誘導): 現行のB型肝炎ワクチンは組換えDNA技術によって酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)内で産生させたHBs(表面)抗原タンパク質を主成分とする遺伝子組換えサブユニットワクチンです。天然のウイルスを使用しないため、感染リスクは皆無です。3回接種完了後の抗体陽転率は健康成人で95%以上に達しますが、加齢・肥満・免疫機能低下・喫煙は抗体応答を低下させる因子として知られています。接種完了後にHBs抗体価を測定し、10 mIU/mL未満の場合は「ノンレスポンダー」と判定され、追加接種や異なるスケジュールの検討が必要になることがあります。急速スケジュール(0・1・2・12ヶ月法)は3週間で基礎免疫を形成できる利点があり、渡航まで時間が限られる場合に適用されますが、1年後のブースター接種を忘れないよう注意が必要です。
腸チフスワクチン
接種方法と選択肢:
| ワクチン種類 | 接種方法 | 接種回数 | 有効期間 | 費用目安 |
|---|---|---|---|---|
| 不活化注射(Typhoid Vi polysaccharide vaccine) | 筋肉注射 | 1回 | 2~3年 | 7,000~9,000円 |
| 経口弱毒生ワクチン(Ty21a株) | 経口 | 4回(2日おき) | 3~5年 | 15,000~20,000円(目安) |
推奨スケジュール:
- 渡航1ヶ月前の接種が理想的
- 短期渡航なら不活化注射1回でも可
対象者: 衛生状況が不安定な地域への外出、屋台での飲食、自炊なし(食事は外食のみ)などのリスクがある場合。
薬学的解説(腸チフスワクチンの2種類と選択基準): Vi多糖体ワクチン(不活化注射)はSalmonella Typhi菌体表面のVi莢膜多糖体を精製した製剤で、T細胞非依存型の液性免疫を誘導します。1回筋肉注射で2週間後から防御効果が発現し、有効期間は2〜3年です。一方、経口弱毒生ワクチン(Ty21a株)は腸管関連リンパ組織(GALT)に直接作用して粘膜免疫(sIgA)と全身免疫の両方を誘導するため、理論上は腸管での感染阻止に優れています。ただし、経口ワクチンは抗菌薬(キノロン系・テトラサイクリン系等)との相互作用があり、服用前後2時間は抗菌薬を避ける必要があります。また、免疫抑制状態では経口弱毒生ワクチンは禁忌となるため、基礎疾患のある方は注射剤を選択してください。腸チフスワクチンの有効率はおよそ50〜80%であり、食品衛生・手洗いの徹底との併用が前提となります。
狂犬病ワクチン
接種スケジュール(暴露前予防接種):
- 0日目、7日目、21日目の3回接種
- 最後の接種から2週間後に免疫成立
対象者:
- 野生動物研究者
- 長期滞在者(6ヶ月以上)
- 動物との接触が避けられない予定がある
- 医療施設へのアクセスが限定的な山間部での活動予定
重要注記: 香港市内であれば野生動物との接触機会は限定的ですが、新界(New Territories)でのトレッキング予定がある場合は接種推奨。コウモリに接触した可能性がある場合は、たとえ傷がなくても医師に相談してください。
費用目安(日本): 1回 12,000~15,000円 × 3回 = 36,000~45,000円
薬学的解説(狂犬病ワクチンの暴露前・暴露後管理の違い): 狂犬病ワクチンは不活化した狂犬病ウイルス(固定毒株)を培養・精製して製造するもので、暴露前予防接種(PrEP)と暴露後予防接種(PEP)の2つの文脈で使用されます。PrEPを完了しているかどうかで、咬傷後のPEPプロトコルが大きく異なります。PrEP未接種の場合は、咬傷後に狂犬病免疫グロブリン(RIG)の投与+ワクチン5回接種が必要ですが、PrEP完了済みの場合はRIGが不要となり、ワクチン2回(0日・3日)のみで対応可能です。香港で咬傷被害を受けた場合、RIGの現地入手には時間と費用がかかることがあるため、長期滞在者・アウトドア活動予定者は事前のPrEPが実用的な選択肢となります。なお、狂犬病は発症後の致死率がほぼ100%であることを念頭に置き、動物に咬まれた際は傷口の十分な洗浄(石けん・流水で15分以上)を行い、速やかに現地医療機関を受診することが最優先事項です。
COVID-19ワクチン
香港の入国要件(2025年現在):
- 基本的に制限なし
- ただし、渡航時点での最新情報は駐日香港経済貿易代表部または香港入境事務処(Immigration Department)の公式サイトで必ず確認してください
- 国際情勢の変化によって要件が変わる可能性があります
推奨接種スケジュール:
- 出発前1ヶ月以内に接種完了
- 追加接種歴がない場合はご相談ください
薬学的解説(mRNAワクチンと不活化ワクチンの特性比較): 日本国内で承認されているCOVID-19ワクチンにはmRNA型(ヌクレオシド修飾mRNAを脂質ナノ粒子に封入したもの)と組換えタンパク型があります。mRNAワクチンは宿主細胞内でスパイクタンパク質を翻訳・発現させることで免疫応答を誘導します。接種後のmRNAは細胞内のリボソームで翻訳後に速やかに分解されるため、ゲノムへの組み込みは理論上起こりません。接種後の免疫記憶はオミクロン変異株に対しては6〜9ヶ月で中和抗体価が低下しますが、T細胞記憶は比較的長期に維持されることが報告されています。最新の変異株対応ワクチンが利用可能な場合は、渡航前に接種を検討することが望ましいです。
インフルエンザと日本脳炎の補足
インフルエンザワクチン
香港は亜熱帯気候のため、北半球の冬季(11〜3月)と夏季(5〜8月)の年2回流行ピークが観察されます。香港CHPのデータでは、インフルエンザ様疾患の外来サーベイランスが年間を通じて行われており、特に1〜2月と7〜8月に患者数が増加する傾向があります。日本の季節性インフルエンザワクチンは南北両半球型ウイルス株に基づいて製造されますが、香港流行株とのマッチ率は年により異なります。冬季渡航予定者は出発4〜6週前の接種が効果的です。なお、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、他のワクチンとの同日接種が可能です。
日本脳炎ワクチン
香港本土(九龍・香港島)については日本脳炎の感染リスクは極めて低く、接種は原則不要です。ただし、新界北部(落馬洲・文錦渡周辺など)の農村地帯で長期間野外活動を行う場合、または中国本土・東南アジアへの周辺旅行を組み合わせる場合は、旅行外来で必要性を相談してください。日本脳炎ワクチンは不活化ワクチン(Vero細胞培養)であり、標準2回接種(0・28日)後に90%以上の抗体陽転率が期待できます。
渡航予定別の接種スケジュール例
パターン1:渡航予定まで2ヶ月ある場合(推奨)
| 時期 | 接種ワクチン | 備考 |
|---|---|---|
| 予定日 -8週 | MMR(1回目)、A型肝炎(1回目)、COVID-19 | 同日に複数接種可能 |
| 予定日 -6週 | 腸チフス(不活化)、狂犬病(1回目)* | *必要に応じて |
| 予定日 -4週 | MMR(2回目)、狂犬病(2回目)* | 前回から28日以上の間隔 |
| 予定日 -2週 | 狂犬病(3回目)* | 前回から14日以上の間隔 |
パターン2:渡航予定まで4週間以内の場合
限定的な接種に絞る:
- MMR:可能な限り1回以上
- A型肝炎:初回1回のみ(効果率90%程度)
- COVID-19:直前接種も可(2日以上の間隔を確保)
- 腸チフス:早急に検討(接種には1ヶ月以上の準備期間が理想的)
薬剤師コメント 渡航まで2週間以内の場合、新たにワクチン接種するより「渡航中の感染予防対策の徹底」に注力することをお勧めします。緊急の相談は旅行外来で医師の指示を仰いでください。
ワクチン同時接種の原則と注意点
複数ワクチンを同一日に接種する場合の基本ルールを以下に整理します。
| 組み合わせ | 同日接種 | 間隔が必要な場合 |
|---|---|---|
| 不活化ワクチン同士 | ○ 可能(異なる部位に) | 間隔制限なし |
| 生ワクチン同士(MMR同士等) | ○ 可能 | 同日でない場合は27日以上あける |
| 生ワクチン + 不活化ワクチン | ○ 可能 | 特別な制限なし |
| 経口生ワクチン(腸チフス)+ 抗菌薬 | × 不可 | 抗菌薬服用前後は服薬間隔を確認 |
実際のスケジュール設計は個人の接種歴・アレルギー歴・基礎疾患によって異なるため、旅行外来の医師と相談の上で最終決定してください。
予防接種の費用と補助制度
接種費用の相場(日本での接種)
| ワクチン | 1回あたり費用目安 | 必要回数 | 総額目安 |
|---|---|---|---|
| MMR | 6,000〜8,000円 | 2 | 12,000〜16,000円 |
| A型肝炎 | 8,000〜10,000円 | 2(初回のみなら8,000〜10,000円) | 16,000〜20,000円 |
| B型肝炎 | 5,000〜7,000円 | 3 | 15,000〜21,000円 |
| 腸チフス | 7,000〜9,000円 | 1 | 7,000〜9,000円 |
| 狂犬病 | 12,000〜15,000円 | 3 | 36,000〜45,000円 |
| 日本脳炎 | 6,000〜8,000円 | 2 | 12,000〜16,000円 |
| インフルエンザ | 3,000〜5,000円 | 1 | 3,000〜5,000円 |
香港渡航の基本セット(MMR+A型肝炎+腸チフス+COVID-19)の総額目安: 33,000〜45,000円程度
費用補助制度
自治体による旅行予防接種補助: 東京都・大阪市など一部の自治体では、予防接種費用の一部補助制度を設けています。対象ワクチンや補助額は自治体によって異なります。
確認方法:
- お住まいの自治体の保健所に問い合わせ
- 市区町村のホームページで「旅行予防接種 補助」を検索
- 補助対象ワクチンと補助額が決まっているケースが多い
会社・健康保険組合: 海外出張の場合、会社や加入健康保険が費用補助する場合があります。総務部や保健管理室に確認してください。
医療費控除との関係: 旅行予防接種費用は原則として医療費控除の対象外ですが、一部の場合(業務上必要と認められる場合)は会社経費として処理できる可能性があります。詳細は税理士または会社の経理部門にご確認ください。
接種時の注意点と検査
抗体検査(ワクチン不要判定)
麻疹・風疹の抗体価測定:
- 検査名:麻疹IgG、風疹IgG
- 実施可能な施設:旅行外来、内科、保健所
- 検査費用:1項目 2,000~3,000円(目安)
- 結果判定:判定基準は使用するキットや検査機関によって異なります(EIA法・PA法など)。担当医師に解釈を確認してください
B型肝炎の抗体検査:
- HBs抗体(表面抗体)を測定
- 検査費用:2,000~3,000円(目安)
- 過去接種済みで十分な抗体がある場合は追加接種不要
A型肝炎の抗体検査:
- HAV IgG抗体を測定
- 1950年代生まれ以前の方では自然感染による高い抗体保有率が期待できるため、接種前に確認することで不要な接種を回避できます
- 検査費用:2,000〜3,000円(目安)
接種後の注意事項
複数ワクチンの同時接種:
- 異なる部位に同時接種は安全
- 生ワクチン同士:同時接種可能、または27日以上の間隔
- 不活化ワクチン + 生ワクチン:同時接種可能
接種後の副反応対策:
- 接種直後の軽い発熱・痛みは正常反応
- 解熱鎮痛薬の使用:アセトアミノフェンを第一選択として使用可(成人15mg/kg・4〜6時間ごと、1日最大4g以内が一般的な目安です)
- 接種後24時間は激しい運動や飲酒を避ける
- MMRワクチン後の発熱・発疹は接種後5〜12日目に出現することがあり、これはワクチン株由来の一過性反応です
薬剤師コメント ワクチン接種翌日の高熱が出た場合でも、通常は24〜48時間で解熱します。39℃を超える高熱や3日以上続く場合は医師の診察を受けてください。解熱鎮痛薬としてはアセトアミノフェンまたはイブプロフェンを選択してください。アスピリンは、ライ症候群リスク(特に小児・青年期)のほか、ウイルス感染症全般における血小板機能への影響から、ワクチン後の発熱への使用は推奨されていません。
特別な配慮が必要な方
妊婦・授乳中の方: MMR・水痘・黄熱などの弱毒生ワクチンは妊娠中は原則禁忌です。A型肝炎・B型肝炎・不活化腸チフス・インフルエンザワクチンは、ベネフィットがリスクを上回ると判断された場合には妊娠中でも接種可能とされていますが、必ず担当産科医・旅行外来医師に相談してください。また、MMR接種後は4週間の避妊が推奨されています。
免疫抑制療法中・HIV感染者: CD4数やステロイド用量によって接種禁忌・接種間隔が変わります。免疫抑制療法の中止・減量タイミングとワクチン接種の調整が必要な場合があるため、主治医と旅行外来担当医との連携が不可欠です。
卵アレルギーのある方: 現行のMMRワクチンは鶏胚細胞培養由来であり、卵白アルブミンの含有量は極めて微量です。重篤な卵アレルギー(アナフィラキシー歴)のある方は、アレルギー専門医・旅行外来で相談のうえ、医療機関監視下での接種を行ってください。インフルエンザワクチンも同様に確認が必要です。
香港到着後の留意事項
香港での医療施設
プライマリーケア施設:
- Private Medical Clinic(私立クリニック):予約制、高額(1,000〜3,000香港ドル程度、目安)
- Public Hospital(公立病院):安価だが待機時間が長い
- 24時間Emergency Departmentの利用可
医療施設検索:
- Hong Kong Medical Association(香港醫學會)ウェブサイト
- 在香港日本国総領事館ホームページ(医療機関リスト掲載)
英語フレーズ: 現地クリニックで使える基本表現をまとめます。
-
I need to see a doctor.(アイ ニード トゥ スィー ア ドクター)— 「医者に診てもらいたいのですが」 -
I have a fever.(アイ ハヴ ア フィーバー)— 「熱があります」 -
I think I have food poisoning.(アイ スィンク アイ ハヴ フード ポイズニング)— 「食中毒かもしれません」 -
I have a travel insurance card.(アイ ハヴ ア トラベル インシュアランス カード)— 「海外旅行保険証があります」
渡航中の感染予防の基本
ワクチンで予防できない感染症(デング熱・ノロウイルスなど)に対しては、以下の行動予防が有効です。
- 手洗い・手指消毒の徹底: アルコール手指消毒剤(60%以上のエタノール含有)を携帯し、食事前・トイレ後・交通機関利用後に使用する
- 食品衛生管理: 生食・半生食・屋台の切りカット果物は慎重に。「Boil it, cook it, peel it, or forget it(ゆでるか、火を通すか、皮をむくか、さもなければやめておく)」の原則が有効
- 蚊対策: デング熱は香港でも散発的に報告されています。DEET(ジエチルトルアミド)含有の虫除けスプレー使用と、長袖・長ズボン着用が有効
- 日射・熱中症対策: 香港の夏季(6〜9月)は高温多湿で、体感温度が40℃を超えることがあります。経口補水液(ORS)の携帯も検討してください
海外旅行保険の確認
香港での医療費は私立医療機関では高額になる場合があります。渡航前に海外旅行保険の補償内容(疾病治療費用・救急搬送費用・キャッシュレス診療対応の可否)を確認し、不十分であれば追加加入を検討してください。
旅行外来の活用と接種記録の管理
旅行外来でできること
旅行外来(Travel Clinic)は、海外渡航前後の健康管理を専門とする外来です。一般の内科やかかりつけ医でも旅行予防接種を提供している施設はありますが、旅行外来では以下のサービスを包括的に受けられます。
- 渡航先・期間・活動内容に応じた個別リスク評価
- 必要なワクチンの選定と接種スケジュール作成
- マラリア予防薬(一部地域向け)の処方
- 旅行者下痢症予防・治療薬の処方
- イエローカード(国際予防接種証明書)の発行
主要な旅行外来の所在地(主要都市の例): 東京・大阪・名古屋・福岡・仙台などの大学病院・感染症専門病院・一部の一般内科クリニックに設置されています。「旅行外来 + 居住地」で検索すると最寄り施設を見つけやすくなります。
接種記録の管理
ワクチン接種の記録は、将来の渡航時・追加接種判断に重要な参照情報となります。接種後には必ず接種証明書・母子健康手帳・接種記録カードに記録し、紛失リスクに備えてスマートフォンでの撮影保存も推奨します。また、日本では2023年からマイナンバーカードを活用した予防接種記録管理システムが一部自治体で運用開始されており、今後デジタル化が進むことが期待されています。
まとめ:渡航前チェックリスト
最後に、香港渡航前の確認事項を一覧にまとめます。
渡航8週前までに:
- 旅行外来または医療機関を予約
- 接種歴・罹患歴の確認(母子健康手帳の確認)
- 必要に応じて抗体検査(麻疹IgG、風疹IgG、HAV IgG、HBs抗体)
- MMR(1回目)、A型肝炎(1回目)の接種開始
- 必要に応じてB型肝炎・狂犬病の接種開始
渡航4週前までに:
- MMR(2回目)の接種
- 腸チフスワクチンの接種
- COVID-19ワクチンの最新接種確認
渡航直前:
- 海外旅行保険の加入・補償内容確認
- 常備薬・アルコール手指消毒剤の準備
- 香港入境要件(香港入境事務処公式サイト)の最終確認
- 在香港日本国総領事館の緊急連絡先を携帯に保存
香港は医療インフラが整った国際都市ですが、渡航前のワクチン接種は帰国後も含めた健康保護に直結します。費用と手間がかかるように感じますが、一度感染症に罹患した際の医療費・旅行中断のコストはワクチン費用をはるかに上回ります。本記事を参考に、余裕を持った接種計画を立ててください。
参考文献・情報源
- World Health Organization (WHO). "Hong Kong SAR – Country Health Profile." WHO Travel and Health. https://www.who.int/countries/hkg/
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Health – Hong Kong." https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/hong-kong
- 厚生労働省. 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」令和5年改正版. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
- 香港衛生防護中心(Centre for Health Protection, CHP). "Immunisation Programme." https://www.chp.gov.hk/en/healthtopics/content/24/29.html
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「ワクチン添付文書情報(各ワクチン製品情報)」. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
- 国立感染症研究所. 「予防接種に関する情報(定期接種・任意接種)」. https://www.niid.go.jp/niid/ja/vaccine.html
- 外務省. 「海外安全情報 – 香港(渡航・滞在関連情報)」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_009.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))