香港渡航者のための渡航医療ガイド:感染症・食事・気候リスクと対策
香港は国際的な大都市であり、医療水準は高いものの、熱帯・亜熱帯気候による気候的リスクや、長時間の移動ストレスなど独特の健康課題があります。本記事では、薬剤師の観点から、香港渡航前後に知っておくべき感染症対策、食事の安全性確保、気候への適応方法を解説します。香港はWHOが「世界の感染症情報のゲートウェイ」と位置づけるほど国際交通の要所でもあり、SARS・H5N1鳥インフルエンザ・COVID-19など新興感染症の「最前線」に繰り返しなってきた歴史があります。そのため短期観光であっても、渡航前の情報収集と適切な準備が重要です。
香港の感染症リスクと予防策
渡航前に確認すべき感染症
香港への渡航者が注意すべき感染症を以下の表にまとめました。なお各疾患のリスク評価は、香港衛生署(Centre for Health Protection, CHP)および厚生労働省検疫所の公開データに基づきます。
| 感染症 | 流行状況 | 予防接種 | 主な予防策 |
|---|---|---|---|
| インフルエンザ | 通年リスク(ピーク:冬季・春季) | 年1回接種推奨 | マスク、手指衛生 |
| 麻疹 | 散発的発生 | 2回接種確認推奨 | 渡航前確認必須 |
| 日本脳炎 | 低リスク(郊外・農村部) | 必要に応じて | 蚊対策、虫除け |
| デング熱 | 夏季〜秋季の流行 | なし | 蚊対策が最重要 |
| 腸チフス | 低リスク | ワクチンあり | 水・食事衛生 |
| A型肝炎 | 低リスク | ワクチンあり | 水・食事衛生 |
| 手足口病 | 春〜夏に散発的 | なし | 手指衛生 |
| 新興感染症 | 状況依存(H5N1等) | 状況依存 | 最新情報確認 |
香港は過去に高病原性鳥インフルエンザ(H5N1) の生きた家禽からの散発感染が繰り返し報告されています。生きた鳥や家禽市場(「街市」)への不用意な接触は避け、鶏肉・卵類は必ず十分に加熱してから食べることが原則です。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の流行状況についても、渡航直前に香港衛生署の公式サイトで最新情報を確認することを推奨します。
推奨される予防接種
渡航1〜2ヶ月前の予防接種計画立案がポイントです。複数のワクチンを接種する場合、ワクチンの種類(生ワクチン・不活化ワクチン)によって接種間隔のルールが異なるため、必ずかかりつけ医や渡航外来に相談してスケジュールを組んでください。
- 麻疹(MRワクチン):2回接種歴の確認。母子手帳で確認し、不足の場合は渡航1ヶ月前までに実施。生ワクチンであるため、他の生ワクチン(水痘ワクチンなど)と同日接種する場合は同じ日に、日を分ける場合は27日以上の間隔が必要。
- インフルエンザワクチン:毎年10〜11月の接種が理想的。不活化ワクチンのため他のワクチンとの同日接種制限は比較的少ない。
- 日本脳炎ワクチン:ランタウアイランド(離島)やニューテリトリーズ(新界)の農村部・自然公園でのアクティビティを予定している場合は検討。
- A型肝炎ワクチン:効果発現に接種後2〜4週間を要するため、出発の少なくとも2〜4週間前に1回目を完了しておくことが望ましい。
- 腸チフスワクチン:経口生ワクチンと注射不活化ワクチンの2種類が存在。飲食業・長期滞在者はより適切。
医療機関の選択:渡航外来専門クリニック(東京・大阪など主要都市にあり)では、複数ワクチンの同時接種スケジュール管理が効率的です。予防接種証明書(英文)も発行してもらえることが多く、帰国後の記録としても有効です。
デング熱とその他の蚊媒介感染症対策
デング熱の疫学的背景と香港での流行状況
デング熱はデングウイルス(血清型1〜4型)を持つネッタイシマカ(Aedes aegypti)およびヒトスジシマカ(Aedes albopictus)が媒介する感染症です。香港ではネッタイシマカの定着は限定的ですが、ヒトスジシマカは広く分布しており、特に5月〜10月の夏季・秋季に患者数が増加する傾向があります。香港衛生署の報告によれば、ローカル感染例(域内感染)は比較的少ないものの、輸入症例は毎年一定数報告されており、海外(東南アジア・南アジア)からの帰国後発症として確認されるケースが多くあります。
潜伏期間は4〜7日(最大14日)。突然の高熱・関節痛・筋肉痛・頭痛・皮疹が主症状で、重症例(デング出血熱・デングショック症候群)では血小板減少・出血傾向が生じます。現時点でワクチンは日本では未承認(CYD-TDV等は一部国で承認されているが日本国内での使用は限定的)のため、蚊対策が唯一の予防手段です。
蚊対策の三本柱:
| 対策レベル | 具体策 | 推奨例 |
|---|---|---|
| 1次防御 | 肌の露出を避ける | 薄色の長袖・長ズボン(濃い色は蚊を引き寄せやすい) |
| 2次防御 | 虫除け薬の使用 | ジエチルトルアミド(DEET)20〜30%、またはイカリジン(ピカリジン)20% |
| 3次防御 | 室内・宿泊環境の管理 | ピレスロイド系殺虫剤(プラリン、トランスフルトリン等含有製品)、蚊帳 |
DEET(ジエチルトルアミド)製剤の薬学的解説と正しい使用法
渡航者に最も推奨される虫除け成分は**ジエチルトルアミド(DEET, N,N-Diethyl-meta-toluamide)**です。DEETは1950年代に米国陸軍が開発した昆虫忌避剤で、蚊・マダニ・ブユなど多くの吸血昆虫に対して忌避効果を発揮します。作用機序は「蚊の嗅覚受容体(Ir40a等)を阻害することで、ヒトの皮膚から発散される乳酸・二酸化炭素・オクテノールといった蚊誘引物質の感知を妨げる」ことにあります。
使用上の要点:
- 濃度と持続時間の目安:DEET 10%で約2時間、20%で約4時間、30%で約5〜6時間の忌避効果が期待できます(気温・発汗量により変動)。海外渡航時は20〜30%濃度を選択してください。
- 日本の医薬部外品規制:日本国内で販売されるDEET含有製品は医薬部外品であり、最高濃度は12%(小児用は6%以下)と規定されています(2023年現在)。高濃度品は現地購入か日本の薬局で輸入品として購入する方法があります。
- 塗布間隔:発汗・水浴により効果が低下するため、2〜3時間ごと、または水に濡れた後に塗り直してください。
- 適用部位:露出した腕・脚・首・耳後部に重点的に。粘膜・目の周囲・傷口には使用しないこと。
- 衣服への使用:衣服の外側への噴霧も有効ですが、化学繊維(ナイロン・ポリエステル等)を劣化させる場合があります。
- 日焼け止めとの併用:日焼け止めを先に塗布し、完全に吸収・乾燥してからDEETを重ね塗りします。逆の順序にしないよう注意してください(日焼け止め成分がDEETの経皮吸収を増大させる可能性が指摘されています)。
イカリジン(ピカリジン)の薬学的特性と活用
イカリジン(一般名:ピカリジン、化学名:2-(2-Hydroxyethyl)-1-piperidinecarboxylic acid 1-methylpropyl ester)はDEETの代替忌避剤として注目されています。DEETと同等以上の忌避効果を持ちながら、以下の点で優れています。
| 比較項目 | DEET | イカリジン(ピカリジン) |
|---|---|---|
| 忌避効果(蚊) | 高い | 同等〜やや高い |
| 皮膚刺激 | 中程度 | 少ない |
| ベタつき感 | あり | ほぼなし |
| プラスチック劣化 | あり | ほぼなし |
| 小児使用 | 要注意 | より安全(要確認) |
| 日本での入手性 | ○(医薬部外品12%まで) | △(製品が限られる) |
WHOもイカリジン20%をDEETと並ぶ第一選択の忌避剤として推奨しています(WHO Pesticide Evaluation Scheme)。日本から渡航する場合、DEET含有の医薬部外品を持参するか、香港到着後に現地の薬局(Watsons、Mannings等の薬局チェーンで入手可能な場合が多い)で購入する方法もあります。ただし現地製品の成分表記が英語・中国語のみの場合があるため、成分名(DEET: diethyltoluamide / イカリジン: picaridin, icaridin)を確認してから購入してください。
食事と水の安全性管理
香港の飲料水について
香港の水道水は東江(Dongjiang River)から供給・処理されており、飲用基準を満たした水質管理が行われています。しかし以下の点に注意が必要です。
- 古い建物の配管問題:築年数の古いゲストハウスや旧式集合住宅では、鉛管・鉄管の老朽化による水質悪化が問題になったことがあります(2015年に香港で鉛含有水問題が報告されています)。3つ星以上の国際的ホテルでは概ね安全ですが、不安がある場合はミネラルウォーターやボトルウォーターの使用が確実です。
- 氷の安全性:レストランや屋台の氷は水道水から作られることが多く、衛生管理が確認できない場所では氷入り飲料を避けるのが無難です。
食事選択のガイドライン
香港の食文化は豊かですが、露店(大排檔)や屋台では食品衛生管理のばらつきがあります。「煮沸・加熱・皮むき・清潔」(Boil it, Cook it, Peel it, or Forget it)という渡航者向け食事原則を意識してください。
| リスク判定 | 食事の特徴 | 対象飲食店 |
|---|---|---|
| 低リスク | 十分な加熱・提供直後 | 国際基準レストラン、ホテル内 |
| 中リスク | 加熱済みだが長時間室温保管の可能性 | 混雑した大衆食堂、フードコート |
| 高リスク | 未加熱・衛生管理不明確 | 路上露店の冷菜・生もの、非加熱デザート |
特に避けるべき食品:
- 加熱不十分な海産物(生牡蠣・刺身など):腸炎ビブリオ・ノロウイルス・A型肝炎ウイルスのリスク
- 衛生管理が不明な冷菜・生野菜サラダ:腸管出血性大腸菌・サルモネラ菌のリスク
- 常温保管の生菓子・クリーム系デザート:黄色ブドウ球菌(エンテロトキシン)のリスク
- カットフルーツの路上販売品:農薬・細菌汚染のリスク
食中毒・旅行者下痢症対策の常備薬と薬学的解説
旅行者下痢症(TD: Traveler's Diarrhea)は、渡航先で最も頻度の高い健康障害の一つです。原因菌として毒素産生性大腸菌(ETEC)が最多ですが、サルモネラ属菌・カンピロバクター・ノロウイルスなども関与します。下記に渡航時に有用な医薬品を整理します。
| 医薬品(成分名) | 用法・用量(目安) | 薬学的メモ |
|---|---|---|
| ロペラミド塩酸塩 | 初回2mg、以降排便ごとに2mg(1日最大16mg) | μオピオイド受容体作動薬。腸管蠕動抑制・分泌抑制。血便・高熱を伴う場合は禁忌。 |
| ジメチコン(ジメチルポリシロキサン) | 添付文書に準拠 | 消泡作用。腸内ガス排出を助ける。副作用が少なく安全性が高い。 |
| ビフィズス菌・乳酸菌製剤(プロバイオティクス) | 添付文書に準拠 | 腸内細菌叢の正常化を補助。抗菌薬との同時服用時は2時間以上間隔を空ける。 |
| 経口補水塩(ORS) | 下痢・嘔吐量に応じて随時摂取 | WHO推奨組成(ナトリウム75mEq/L、ブドウ糖75mmol/L等)の粉末型を携帯。 |
| タンニン酸アルブミン | 添付文書に準拠 | 収斂作用による止瀉薬。腸粘膜保護作用あり。 |
ロペラミド塩酸塩の薬理機序(薬学的詳細): ロペラミドは腸管壁のμ(ミュー)オピオイド受容体に作動し、アセチルコリン・プロスタグランジンの放出を抑制することで腸管蠕動を低下させます。また、カルモジュリン依存性のCl⁻分泌を抑制し、腸管からの水分・電解質分泌を減少させます。中枢移行性が低いため(P糖タンパクによる脳関門排出)、依存性・鎮痛作用はほぼありません。ただし高熱(38.5℃以上)・血便・激しい腹痛を伴う場合は、侵襲性細菌性腸炎(サルモネラ・カンピロバクター・赤痢菌等)の可能性があり、蠕動抑制により菌・毒素の体外排出を妨げ症状が悪化する恐れがあるため、使用禁忌です。
香港の気候と感染症・衛生リスク
季節別気候と対応策
香港は**亜熱帯気候(ケッペン気候区分:Cwa)**に属し、季節によって感染症・衛生リスクが大きく異なります。
| 季節 | 気温(目安) | 湿度(目安) | 主なリスク | 重点対策 |
|---|---|---|---|---|
| 春(3〜5月) | 15〜28℃ | 60〜80% | 霧・黄砂・アレルギー、デング熱シーズン入り | 虫除け開始、花粉・PM2.5対策 |
| 夏(6〜8月) | 25〜35℃ | 75〜90% | 熱中症・脱水・台風・デング熱 | 水分・電解質補給、冷房対策 |
| 秋(9〜11月) | 18〜28℃ | 60〜75% | デング熱ピーク・台風シーズン | 蚊対策の継続・薬備蓄 |
| 冬(12〜2月) | 10〜20℃ | 50〜65% | インフルエンザ・呼吸器乾燥・低体温 | ワクチン・保湿・防寒 |
熱中症の予防と薬学的対処法
香港の夏季(6〜8月)は気温35℃を超え、湿度も75〜90%に達することがあります。湿度が高い環境では汗の蒸発が妨げられ、体温調節能が著しく低下するため、熱中症リスクが極めて高くなります。
熱中症の病態と段階的対処:
- 熱けいれん(熱性筋けいれん):過度の発汗による低ナトリウム血症が原因。生理食塩水相当の電解質補給が有効。
- 熱疲労:循環血液量の低下による倦怠感・頭痛・めまい。涼しい場所での安静と経口補水。
- 熱射病(重症):体温40℃超・意識障害を伴う。速やかな救急搬送が必要。
予防策:
- 経口補水液(ORS)の携帯:市販のスポーツ飲料(ナトリウム濃度が低い製品が多いため、激しい発汗時は添付塩分補給が必要)よりも、WHO推奨組成のORSが有効です。
- 塩分タブレット・補給剤:塩化ナトリウム(NaCl)含有の塩分補給製品を長時間屋外活動時に携帯。ただし高血圧・腎疾患を持つ方は過剰摂取に注意。
- 冷房対策:室内外の激しい温度差(10℃以上の差が生じることも)による自律神経の乱れを防ぐため、薄手のカーディガン・羽織物を常備。
- アルコール飲料との注意:ビール・カクテル等のアルコールは利尿作用があり脱水を促進します。観光中の飲酒は水分補給と並行して行ってください。
| 補給製品の種類 | 成分の特徴 | 使用場面 |
|---|---|---|
| WHO-ORS(経口補水塩) | Na 75mEq/L、ブドウ糖75mmol/L | 下痢・嘔吐を伴う脱水 |
| スポーツ飲料(市販) | Na 10〜20mEq/L(低め) | 軽度の発汗補給 |
| 塩分タブレット(NaCl製品) | NaCl主体(製品により異なる) | 長時間屋外での予防的補給 |
| 塩飴(市販) | NaCl含有量は製品による | 熱中症軽度予防 |
乾燥対策(冬季)と呼吸器疾患予防
香港の冬(12〜2月)は意外と乾燥します。特にホテルの暖房・冷房による室内乾燥で、口腔・鼻腔・気道粘膜のバリア機能が低下し、インフルエンザ・コロナウイルス等の呼吸器感染症への感受性が高まります。
対策と推奨品:
- マスク(不織布製):飛行機内・地下鉄・混雑した公共スペースでの使用
- 保湿剤(皮膚):白色ワセリン(White Soft Paraffin)・ヘパリン類似物質(ヒルドイド)含有製品。香港の薬局でも入手可能(白色ワセリンは "White Soft Paraffin" または "Petrolatum" で検索)
- 点鼻用生理食塩水スプレー:鼻腔粘膜の保湿に有効。市販の生理食塩水点鼻薬を使用
- USB加湿器:機内・ホテル用に携帯型の超音波式USB加湿器を持参すると便利
渡航前後の体調管理チェックリスト
出発前(1〜2ヶ月)
- 予防接種歴の確認・不足分の計画立案(麻疹・A型肝炎・インフルエンザ等)
- かかりつけ医から常用薬の処方箋・英文処方箋を取得
- 健康診断(必要に応じて)
- 旅行保険の加入(医療費キャッシュレス対応か確認)
- アレルギー・基礎疾患の英文メモを作成(緊急時の医療機関受診に備えて)
出発前(1〜2週間)
- 厚生労働省検疫所(FORTH)の最新感染症情報を確認
- 常備薬の確認・不足分の補充(次項「渡航時常備薬リスト」参照)
- ホテル・滞在地近隣の医療施設リストを作成
- 英文の薬剤リスト・医薬品説明書を準備(税関・医療機関提示用)
- 液体持ち込み規制(100ml超の薬液は預け荷物へ)の確認
現地到着後
- 時差ボケ対策(太陽光を浴びる・水分補給・睡眠リズムの調整)
- 初日は移動・飲食を控えめにし消化管を慣らす
- 2日目以降、外出時の虫除け・日焼け止めを日課にする
- 宿泊施設周辺の水たまり・植木鉢の水受け(蚊の繁殖源)を確認
帰国後の健康観察
- 症状がなくても渡航後2〜4週間は体調を記録
- 高熱・下痢・皮疹・黄疸・強い疲労感が出現した場合は、必ず医師に渡航先と渡航期間を伝える
- デング熱・マラリア等は帰国後数週間で発症することがある(潜伏期間を考慮)
- 必要に応じて血液検査(CBC・肝機能等)を受診
渡航時の常備薬リスト(薬剤師推奨)
渡航先での購入が困難または言語の壁がある場合に備え、日本から持参することを推奨します。
| カテゴリ | 成分名(代表的な日本のOTC製品例) | 用途 |
|---|---|---|
| 止瀉薬 | ロペラミド塩酸塩配合OTC製品 | 旅行者下痢症(血便・高熱時は使用禁止) |
| 整腸薬 | ビフィズス菌・ラクトバチルス菌配合製品 | 腸内細菌叢の調整 |
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン配合製品 | 発熱・頭痛・関節痛 |
| 抗ヒスタミン薬(内服) | d-クロルフェニラミンマレイン酸塩配合OTC製品 | アレルギー・花粉症・蕁麻疹 |
| 胃腸薬 | 炭酸水素ナトリウム・制酸剤配合製品 | 胃もたれ・食べ過ぎ |
| 経口補水塩(粉末) | 塩化ナトリウム・ブドウ糖配合ORS | 脱水・下痢・熱中症 |
| 虫除け剤 | ジエチルトルアミド(DEET)含有製品 | 蚊・ブユ・マダニ等の忌避 |
| 皮膚保護剤 | 白色ワセリン | 乾燥・小傷の保護 |
| 目薬(防腐剤なし) | 精製水・電解質配合の人工涙液 | 乾燥・ほこりによる眼症状 |
| 体温計 | デジタル体温計 | 発熱の早期確認 |
香港での医療機関利用ガイド
緊急時の連絡先
| 項目 | 連絡先 | 備考 |
|---|---|---|
| 救急車・警察・消防 | 999 | 固定電話・携帯電話対応可 |
| 在香港日本国総領事館 | +852-2522-1184 | 緊急時24時間対応あり |
| 旅行保険緊急サポート | 加入保険会社のカードを参照 | 日本語対応窓口が多い |
| 香港衛生署 感染症ホットライン | 2477 2772 | 感染症情報・相談(英語・広東語) |
医療機関の種類と特徴
香港の医療体制は公立(Hospital Authority管轄)と私立に大別されます。旅行者には私立病院が対応しやすい場合が多いですが、費用が高額になります。
私立病院(旅行者向け):
- 国際基準の医療水準を持つ病院が複数あります。英語対応が可能なスタッフが配置されている場合が多く、旅行者にとって利用しやすい環境です。
公立病院(香港病院管理局管轄):
- 費用は安価ですが、待ち時間が長い場合があります。緊急時は公立病院の救急外来(Accident & Emergency)が利用可能で、旅行者でも受診できます(一定の受診料がかかります)。
現地で受診する際の英語表現:
-
I have a high fever.(アイ ハヴ ア ハイ フィーバー):高熱があります -
I have diarrhea and stomach pain.(アイ ハヴ ダイアリーア アンド ストマック ペイン):下痢と腹痛があります -
I visited Southeast Asia recently.(アイ ヴィジテッド サウスイースト エイジャ リーセントリー):最近東南アジアに行きました -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アラジック トゥ ペニシリン):ペニシリンアレルギーがあります -
Do you have a Japanese interpreter?(ドゥ ユー ハヴ ア ジャパニーズ インタープリター?):日本語通訳はいますか?
香港渡航に関連する薬剤の注意事項
持参薬・処方薬の通関について
日本から医薬品を携帯して香港に入国する場合、一般的な常備薬(OTC薬)は問題なく持ち込めますが、以下の点に注意してください。
- 麻薬・向精神薬(モルヒネ、ベンゾジアゼピン系薬等)を含む処方薬を携帯する場合、英文処方箋・医師の診断書の携帯が強く推奨されます。
- 香港の税関・薬物法(Dangerous Drugs Ordinance)では、特定の薬物の無許可所持は厳しく規制されています。主治医から英文処方箋・薬剤師文書を取得してください。
- 錠剤・カプセルは元のパッケージ(PTP包装・バイアル等)のまま持参することが、税関申告の際に成分を説明しやすく安心です。
薬物相互作用の注意(渡航時に多い組み合わせ)
渡航中は普段と異なる食事・医薬品に接する機会が多く、思わぬ相互作用が生じることがあります。
| 組み合わせ | リスク | 薬学的解説 |
|---|---|---|
| ワルファリン+旅行者下痢症による食事変化 | INR変動リスク | ビタミンK摂取量の変化で抗凝固効果が増減。渡航中は定期的なINRモニタリングが理想。 |
| フルオロキノロン系抗菌薬+制酸剤(含Al/Mg) | 吸収低下 | 2価・3価の金属イオンとキレートを形成し、キノロンの吸収を著しく低下させる。服用間隔を2〜4時間空ける。 |
| 抗ヒスタミン薬(第1世代)+アルコール | 中枢神経抑制増強 | 相加的な鎮静作用。観光中の飲酒には注意。 |
| アセトアミノフェン+アルコール多飲 | 肝毒性リスク増大 | CYP2E1誘導によりNAPQI産生増加。飲酒量が多い日は用量に注意。 |
まとめ
香港渡航時の健康管理で押さえるべきポイントを以下に整理します。
感染症対策:
- 出発1〜2ヶ月前に予防接種歴を確認し、麻疹・A型肝炎・インフルエンザ等の不足分を補充
- デング熱ワクチンは日本未承認のため、蚊除け(ジエチルトルアミドDEET 20〜30%またはイカリジン20%)による一次予防が唯一の手段
- 鳥インフルエンザリスクを避けるため、生きた家禽・野生鳥類への接触を厳禁
食事・水の安全:
- 加熱食品・ボトルウォーターを優先。生牡蠣・生野菜・路上の冷菜は避ける
- 旅行者下痢症に備えロペラミド塩酸塩・ORS・整腸薬の3点セットを携帯
- 高熱・血便を伴う場合はロペラミド禁忌、医療機関を受診すること
気候・環境対策:
- 夏季は熱中症リスクが高く、電解質含有の経口補水塩(ORS)を積極的に活用
- 冬季は乾燥による呼吸器・皮膚トラブルに注意し、保湿剤・不織布マスクを準備
- デング熱シーズン(5〜10月)は蚊対策を徹底
医療・保険:
- 旅行保険(医療費補償付き)への加入を出発前に確認
- 常用薬は英文処方箋・薬剤師文書を携帯し、通関トラブルを防ぐ
詳細な渡航前ワクチン計画については [[travel-vaccine-guide]]、東南アジア全般の感染症リスクについては [[southeast-asia-health-risks]]、機内・長時間フライト中の薬の管理については [[flight-medicine-tips]] も参照してください。
参考文献
-
厚生労働省検疫所 FORTH「感染症・予防接種情報 香港」
https://www.forth.go.jp/destination/asia/hongkong.html -
Hong Kong Centre for Health Protection (CHP) – Dengue Fever
https://www.chp.gov.hk/en/healthtopics/content/24/49.html -
World Health Organization (WHO) – Dengue and severe dengue (Fact sheet)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue -
Centers for Disease Control and Prevention (CDC) – Travelers' Health: Hong Kong
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/hong-kong -
WHO Pesticide Evaluation Scheme (WHOPES) – Guidelines on insect repellents
https://www.who.int/tools/who-pesticide-evaluation-scheme -
Briassoulis G, et al. "Toxic encephalopathy associated with use of DEET insect repellents: a case analysis of its toxicity in children." Human & Experimental Toxicology. 2001;20(1):8-14.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11327510/ -
在香港日本国総領事館「緊急・安全情報」
https://www.hk.emb-japan.go.jp/itpr_ja/emergency.html
監修:薬剤師(博士(薬学))