イスラエル渡航者の予防接種:重要な基礎知識
イスラエルへの渡航を予定されている方は、出発前6~8週間の段階で予防接種の計画を立てることが重要です。イスラエルは中東地域に位置し、医療水準は高い一方で、渡航経路や滞在地域によって推奨される予防接種が異なります。本記事では、薬剤師の視点から必要・推奨される予防接種、接種スケジュール、費用について詳しく解説します。
イスラエルの首都エルサレムやテルアビブなどの主要都市では、欧米並みの医療インフラが整備されており、感染症リスクは一般的に低い部類に入ります。しかしながら、ガリラヤ地方やネゲブ砂漠など地方部への渡航、宗教行事に伴う大規模な集会への参加、あるいは近隣国(ヨルダン・エジプト)への乗り継ぎを予定している場合は、感染症リスクが相対的に高まります。さらに、渡航前に予防接種歴を見直すことで、万一の感染時の重症化リスクを大幅に低減できます。
薬剤師からの重要な注意点として、複数のワクチンを接種する場合は「ワクチンの種類(生ワクチン/不活化ワクチン)」「投与間隔の制約」「同時接種の可否」を正確に把握したうえでスケジュールを設計する必要があります。以下の各セクションでは、薬学的根拠に基づいた詳細な情報を提供します。
【必須】イスラエル渡航時に確認すべき予防接種
1. 黄熱病予防接種(Yellow Fever Vaccine)
イスラエルからの出国時に黄熱病予防接種証明書(イエローカード)の提示を求める国へ渡航する場合、事前の接種が必須となります。特にアフリカ諸国への乗り継ぎを予定している場合は注意が必要です。
接種内容
- ワクチン名:17D株黄熱病生ワクチン
- 接種回数:1回
- 接種時期:渡航10日前までに完了
- 有効期限:生涯免疫(一部国家では10年ごとの再接種を要求)
- 副反応:軽度の発熱、局所反応(5~10%)
薬学的解説:17D株ワクチンの特性
黄熱病ワクチンに使用される17D株は、1937年にMax Theilerらが野生型黄熱病ウイルスを鶏胚で継代培養することで弱毒化した生ワクチンです。接種後は体内でウイルスが限定的に増殖し、自然感染に近い強固な免疫応答を誘導します。中和抗体の産生率は接種後10日で約90%、30日で約99%に達します。
ワクチンの製造過程で鶏胚が使用されることから、卵アレルギーのある方は接種前に医師への申告が必要です。ただし、軽度の卵アレルギー(卵を食べても症状が出ない程度)であれば多くの場合接種可能です。鶏卵アレルギーが重篤な場合(アナフィラキシー既往)は接種の可否について専門医の判断を仰いでください。
また、接種後にまれに「黄熱病ワクチン関連内臓疾患(YEL-AVD)」や「黄熱病ワクチン関連神経疾患(YEL-AND)」が報告されています。いずれも頻度は非常に低い(100万接種あたり数件程度)ですが、60歳以上の高齢者や胸腺疾患のある方では相対的にリスクが高まるとされています。
薬剤師メモ 黄熱病ワクチンは生ワクチンのため、他の生ワクチン(MMR、水痘など)との同時接種は可能ですが、異なる日に接種する場合は4週間以上の間隔が必要です。免疫不全患者や妊婦は接種不可となります。ステロイド長期投与中・生物学的製剤使用中の方も接種前に主治医への相談が必須です。
2. 定期予防接種の確認
麻疹、風疹、おたふくかぜ、ポリオ、破傷風などの定期予防接種が最新の状態であることを必ず確認してください。
確認すべき定期予防接種
| 疾病名 | ワクチン名 | 接種対象 | 渡航前確認事項 |
|---|---|---|---|
| 麻疹 | MMRワクチン | 1975年以降生まれ | 2回接種完了確認 |
| 風疹 | MMRワクチン | 女性(特に重要) | 2回接種完了確認 |
| ポリオ | IPVワクチン(不活化) | 全員 | 4回接種完了確認 |
| 破傷風 | DT/DPTワクチン | 全員 | 10年以内の接種確認 |
| おたふくかぜ | MMRワクチン | 1981年以降生まれ | 2回接種完了確認 |
定期接種の「抜け漏れ」に注意が必要な世代
1972~1978年生まれの方は風疹ワクチンの接種機会が1回しかなかった時代に相当し、免疫が不十分な場合があります。また、ポリオについては2012年以前に経口生ワクチン(OPV)のみで接種を受けた方は、不活化ポリオワクチン(IPV)での追加接種を検討する価値があります。渡航前に母子健康手帳や接種記録を確認し、不明な場合は抗体検査を実施してから接種の必要性を判断する方法もあります。
破傷風トキソイドは一般に10年ごとの追加接種が推奨されており、傷を負いやすい野外活動や建設現場への訪問が予定される場合は特に重要です。
【推奨】イスラエル渡航時に検討すべき予防接種
1. A型肝炎ワクチン(Hepatitis A Vaccine)
中東地域への渡航者にとって、A型肝炎予防接種は非常に重要な推奨接種です。特に衛生環境が限定的な地域への渡航や長期滞在の場合は接種が強く推奨されます。
接種スケジュール
- 有効成分:不活化A型肝炎ウイルス抗原
- 初回接種:渡航の4~6週間前
- 追加接種:初回接種から6~12ヶ月後
- 接種回数:通常2回(1回のみでも感染予防効果あり)
- 効果発現:初回接種後2~4週間で約95%の防御効果
費用目安:1回あたり5,000~7,000円(目安)
薬学的解説:A型肝炎ワクチンの免疫原性と免疫持続性
A型肝炎ウイルス(HAV)は主に糞口経路で感染し、汚染された飲料水・食品(特に加熱不十分な貝類・生野菜)が主要な感染源です。イスラエルでは上下水道の整備が進んでいますが、アラブ系居住区の一部や地方部では衛生環境が都市部と異なるケースがあり、渡航者は注意が必要です。
不活化A型肝炎ワクチンは、アルミニウム塩を免疫補助剤(アジュバント)として使用し、免疫応答を増強しています。初回接種1ヶ月後の抗体陽転率は成人で95%以上であり、2回の接種を完了した場合は20年以上にわたる長期免疫が期待できるとする研究データがあります。
一方で、60歳以上・免疫抑制状態・肝疾患を有する方は抗体産生が低下することが報告されており、必要に応じて抗体価測定(抗HAV-IgG)を実施することが推奨されます。
また、A型肝炎に対する免疫グロブリン(γグロブリン)製剤はワクチンの代替手段として使用されることがありますが、効果持続が1~3ヶ月程度と短く、現在はワクチン接種が標準的な予防法です。渡航直前(2週間未満)での対応が必要な場合に限り、免疫グロブリンとワクチンの同時投与が選択肢となることがあります(接種部位は別にする必要があります)。
2. B型肝炎ワクチン(Hepatitis B Vaccine)
血液接触の可能性がある職業従事者、医療従事者、長期滞在者に推奨されます。
接種スケジュール
- 有効成分:遺伝子組み換えB型肝炎表面抗原(HBsAg)
- 標準スケジュール:0日、1ヶ月、6ヶ月
- 急速スケジュール:0日、7日、21日目(追加接種を12ヶ月後に推奨)
- 接種回数:3回
- 有効期限:抗体価により異なる(通常15~20年程度とされる)
費用目安:1回あたり5,000~6,500円(目安)
薬学的解説:B型肝炎ワクチンの薬物動態と非応答者対策
現在国内外で広く使用されているB型肝炎ワクチンは、酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)を利用した遺伝子組み換え技術によりHBsAgを産生・精製した不活化ワクチンです。アジュバントとしてアルミニウム塩が使用されています。
3回接種完了後の抗体陽転率(抗HBs抗体≧10mIU/mL)は健常成人で約90~95%ですが、「非応答者(non-responder)」として抗体が産生されない方が5~10%程度存在することが知られています。非応答者に対しては追加3回(合計6回)の接種が検討され、それでも応答しない場合は「低応答者・非応答者」として免疫状態を考慮した管理が必要になります。
肥満・喫煙・高齢・免疫抑制状態は非応答のリスク因子とされているため、これらに該当する方は接種完了後に抗体価測定を検討するとよいでしょう。
薬剤師メモ 急速スケジュールを選択する場合、渡航1ヶ月前の相談が必須です。3回すべてを完了できないリスクがあるため、標準スケジュールでの計画立案を推奨します。なお、急速スケジュールで接種した場合も必ず12ヶ月後の追加接種(ブースター)を行うことで、長期的な免疫維持が確保されます。
3. 腸チフスワクチン(Typhoid Vaccine)
衛生環境が限定的な地域への渡航や、屋台・簡易食堂での食事が予定されている場合に推奨されます。
接種スケジュール
- 有効成分:Vi莢膜多糖体(不活化)
- 接種回数:1回
- 接種時期:渡航の2~4週間前
- 効果発現:接種後2~3週間で約70%の防御効果
- 有効期間:約3年(再渡航時は追加接種を検討)
費用目安:1回あたり4,500~6,000円(目安)
薬学的解説:Vi多糖体ワクチンの作用機序と限界
腸チフスはSalmonella enterica serovar Typhiによる全身性細菌感染症で、主に汚染食水・食品を介して感染します。イスラエル国内のリスクは低~中程度ですが、周辺地域への渡航を組み合わせる場合や地方部滞在では留意が必要です。
現在日本で使用されているVi莢膜多糖体ワクチンは、腸チフス菌の莢膜を構成するVi多糖体抗原を精製した不活化ワクチンです。接種後にIgG抗体が産生され、腸チフス菌の侵入を阻害します。ただし、Vi多糖体ワクチンは2歳以下の小児では免疫応答が不十分な場合があります(T細胞非依存性抗原であるため)。
一方、海外ではVi多糖体をキャリアタンパク質と結合させた「腸チフス結合型ワクチン(TCV)」がWHOにより推奨されており、より高い有効率と長期免疫が期待されていますが、2025年現在では日本国内での承認状況に注意が必要です(接種前に医師にご確認ください)。
4. 狂犬病ワクチン(Rabies Vaccine)
野生動物との接触可能性がある地域への渡航、長期滞在、獣医関係者に推奨されます。
接種スケジュール
- 有効成分:不活化狂犬病ウイルス(細胞培養由来)
- 曝露前予防接種(Pre-Exposure Prophylaxis: PrEP):0日、7日、28日(3回)
- 接種時期:渡航の4週間前までに完了
- 有効期間:免疫付与後の再接種(ブースター)時期は個人の抗体価による
費用目安:1回あたり10,000~15,000円(目安)
薬学的解説:曝露前・曝露後対応の違い
狂犬病ワクチンの最大の意義は、曝露前に接種しておくことで「曝露後に必要となる免疫グロブリン(HRIG)の省略」と「追加接種回数の削減」が可能になる点にあります。イスラエルは狂犬病の清浄国ではなく、ジャッカル・コウモリ等の野生動物からの感染報告があるため、自然環境での活動が多い渡航者には曝露前接種が推奨されます。
曝露前接種完了後に動物に咬まれた場合、迅速な医療機関受診のうえ、追加接種(ブースター2回)を行うことで対応可能です。未接種の場合は、曝露後48時間以内に免疫グロブリンの投与と5回のワクチン接種が必要となり、医療機関へのアクセスが限られる地域では対応が困難になることもあります。
5. 髄膜炎菌ワクチン(Meningococcal Vaccine)
年間を通じて髄膜炎のリスクが存在する地域です。混雑した場所への訪問予定がある場合は検討を推奨します。
ワクチンの種類
| ワクチン種 | 対象菌群 | 接種時期 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 4価多糖体結合型ワクチン(MenACWY) | A/C/W/Y | 渡航2~4週間前 | 8,000~12,000円(目安) |
| B群ワクチン(MenB) | B | 渡航2~4週間前 | 12,000~18,000円(目安) |
薬学的解説:髄膜炎菌ワクチンの必要性とイスラエル固有のリスク
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は主に飛沫感染で伝播し、急性化膿性髄膜炎・敗血症を引き起こす細菌です。発症から急速に重症化し、死亡率・後遺症率が高い感染症です。
イスラエルではA・C・B・W群の髄膜炎菌が散発的に報告されており、ハッジ(メッカ巡礼)後の帰国者を含む混雑した宗教的集会(エルサレムでの祭礼など)への参加予定がある場合はリスクが相対的に高まります。4価結合型ワクチン(MenACWY)は接種後7~10日で免疫応答が始まり、1回接種で最低5年間の免疫持続が期待されています。
予防接種スケジュール策定の実践的手順
渡航日から逆算した計画立案
8週間前
- 旅行医学外来(トラベルクリニック)を受診
- 渡航先、期間、活動内容の詳細ヒアリング
- 黄熱病ワクチン接種の必要性判断
- 既往歴・アレルギー確認
6週間前
- 必須ワクチン(黄熱病)の接種
- A型肝炎ワクチン初回接種
- 定期予防接種の不足分接種
4週間前
- 腸チフスワクチン、髄膜炎菌ワクチン接種
- B型肝炎ワクチン初回接種(急速スケジュール選択時)
- 狂犬病ワクチン3回目接種(8週間前から開始した場合)
2週間前
- 最終確認、接種記録の整理
- イエローカード(黄熱病証明書)の取得確認
- 副反応の状態確認
渡航直前
- 携帯する常備薬の確認
- 現地の医療機関情報の確認
- 予防接種記録の携帯
ワクチンの同時接種と接種間隔に関する薬学的解説
| 接種の組み合わせ | 可否 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 不活化ワクチン同士(同日) | ○可 | 免疫干渉なし、別部位に接種 |
| 生ワクチン同士(同日) | ○可 | 同日接種なら相互干渉なし |
| 生ワクチン同士(異日) | △条件付き | 4週間以上の間隔が必要 |
| 生ワクチン+不活化(同日) | ○可 | 免疫干渉なし |
| 免疫グロブリン+生ワクチン | △条件付き | 3ヶ月以上の間隔が必要(MMRなど) |
複数ワクチンを同日に接種する場合は、注射部位を少なくとも2.5cm以上離すことが推奨されています。また、局所副反応の観察や、アナフィラキシー発現に備えた20~30分の院内待機が推奨されています。
薬剤師メモ 複数のワクチン接種が必要な場合、同一日の複数種類接種は可能です(生ワクチン・不活化ワクチンの同時接種OK)。ただし、異なる生ワクチン間の接種間隔は4週間以上必要な場合がありますので、専門医の指導を仰ぎましょう。免疫抑制薬(メトトレキサート、TNF阻害薬など)を使用中の方は、生ワクチン接種の禁忌・慎重投与に該当する場合があるため、必ず主治医に確認してください。
予防接種にかかる費用の目安と医療保険
接種費用一覧
| 予防接種 | 1回当たり費用(目安) | 接種回数 | 合計費用(目安) | 最低所要時間枠 |
|---|---|---|---|---|
| 黄熱病 | 10,000~12,000円 | 1回 | 10,000~12,000円 | 渡航10日前 |
| A型肝炎 | 5,000~7,000円 | 2回 | 10,000~14,000円 | 6~12ヶ月 |
| B型肝炎 | 5,000~6,500円 | 3回 | 15,000~19,500円 | 6ヶ月 |
| 腸チフス | 4,500~6,000円 | 1回 | 4,500~6,000円 | 渡航4週間前 |
| 狂犬病 | 10,000~15,000円 | 3回 | 30,000~45,000円 | 4週間 |
| 髄膜炎菌 | 8,000~18,000円 | 1回 | 8,000~18,000円 | 渡航4週間前 |
| 最小限(推奨) | — | — | 約25,000~35,000円 | — |
| 総合予防 | — | — | 約77,500~114,500円 | — |
※費用はいずれも目安であり、医療機関・地域・ワクチン製品により異なります。消費税込みの実費となります。
医療保険との関係
予防接種費用は、一般的に健康保険の適用対象外(自費診療)です。ただし、一部のクレジットカード付帯保険や海外旅行保険で「予防接種費用補助」のオプションがある場合があります。事前に保険会社に確認することを推奨します。
また、確定申告における医療費控除については、渡航目的が業務上の場合は経費計上できるケースがありますが、観光目的の予防接種は原則として医療費控除の対象外となります。国税庁の最新情報をご確認ください。
イスラエル渡航時の感染症リスク概要
年間を通じてのリスク
| 感染症 | リスク度 | 主な感染経路 | 予防方法 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 低~中 | 汚染食水・食品 | ワクチン+衛生管理 |
| B型肝炎 | 低 | 血液・体液接触 | ワクチン |
| 腸チフス | 低~中 | 汚染食水・食品 | ワクチン+衛生管理 |
| 髄膜炎 | 低 | 飛沫感染 | ワクチン |
| 狂犬病 | 極低 | 動物咬傷 | ワクチン+接触回避 |
| 西ナイルウイルス | 低~中(夏季) | 蚊による媒介 | 防虫対策 |
| 腸管感染症(一般) | 中 | 汚染食品・手指 | 手洗い・食品加熱 |
西ナイルウイルスへの注意
イスラエルは西ナイルウイルス(West Nile Virus: WNV)の流行地域として知られており、特に7~10月の夏季に蚊(イエカ属)を介した感染が報告されています。WNVに対するヒト用承認ワクチンは2025年現在存在しないため、予防には防虫対策(DEETまたはイカリジン(ピカリジン)含有の虫よけ剤の使用、長袖・長ズボン着用、夕暮れ後の外出制限)が主体となります。
防虫剤の有効成分について:
- DEET(ジエチルトルアミド):国際的に広く使用される忌避剤。濃度10~30%製品が一般的。2歳以上から使用可(乳児への使用は医師に相談)。
- イカリジン(ピカリジン):DEETに比べ皮膚刺激が少なく、プラスチック素材への影響も軽微。小児にも比較的使用しやすい。
いずれも汗で流れるため、屋外活動中は2~4時間ごとの再塗布が推奨されます。
食品・飲料水の衛生管理
イスラエルの主要都市では水道水の安全性は比較的高いですが、地域によって水質が異なります。以下の点を渡航者の行動指針として心がけてください:
- 市販のペットボトル入り飲料水を優先的に使用する
- 氷の入った飲み物は飲料水由来か確認する
- 生野菜・生の貝類は衛生管理が確認できる店舗以外では控える
- 食前・トイレ後の手洗い(石けんと流水)を徹底する
- 食品は十分に加熱したものを選ぶ
薬剤師メモ イスラエルの主要都市(テルアビブ、エルサレム)の医療水準は高く、衛生管理も厳格です。ただし地方部や衛生環境が限定的な地域への訪問予定がある場合は、より広範な予防接種と衛生対策が推奨されます。渡航先の状況は外務省「感染症危険情報」でも確認してください。
渡航前の医療相談先
旅行医学外来(トラベルクリニック)の活用
全国の主要都市に旅行医学外来が設置されています。以下の情報提供が診察時に重要です:
- 渡航期間(短期か長期か)
- 訪問予定地域(都市部のみか、地方・紛争地域を含むか)
- 職業(医療関係者、食品取扱者など高リスク職業)
- 既往歴、アレルギー、免疫不全の有無
- 過去の予防接種記録
- 妊娠予定・妊娠中の有無
- 現在服用中の薬(免疫抑制薬・ステロイド等は特に重要)
旅行医学外来では、渡航先のリスク評価から個別の接種プラン立案、イエローカードの発行まで一括して対応できます。日本旅行医学会(JSTAH)の認定医・認定薬剤師が在籍するクリニックを選ぶと、より専門的な情報提供を受けることができます。
外務省・大使館の情報確認
最新の感染症情報は、以下から確認できます:
- 外務省「世界の医療事情」ウェブサイト
- 外務省「感染症危険情報・感染症スポット情報」
- 駐日イスラエル大使館
- CDC(米国疾病予防管理センター)「Travelers' Health」(英語)
薬剤師メモ 感染症の発生状況や入国要件は短期間で変化することがあります。渡航1~2週間前にも最新情報を確認する習慣をつけましょう。ワクチン接種証明書の提示要件なども状況によって変わることがあるため、大使館への問い合わせが確実です。
よくある質問と回答
Q: 出発1週間前でも予防接種は受けられますか?
A: 黄熱病以外のワクチンは接種可能です。ただし、効果発現には時間がかかります(2~4週間が目安)。緊急時の部分的な防御効果は期待できますが、十分な防御には不十分です。可能な限り早めの接種をお勧めします。なお、A型肝炎については初回接種から2週間後に約80%の防御効果が期待できるため、渡航1週間前であっても接種する意義はあります。
Q: 妊娠中にも予防接種は受けられますか?
A: 不活化ワクチン(A型肝炎、B型肝炎、腸チフスVi多糖体、髄膜炎菌結合型など)は妊娠中でも接種可能とされているものが多いです。一方、生ワクチン(黄熱病、MMR、水痘など)は原則として妊娠中は接種不可です。ただし、黄熱病流行地域への渡航が医学的に不可避な場合は、個別にリスク・ベネフィットを評価したうえで接種を検討することもあります。産科医と旅行医学外来の医師に必ず相談してください。
Q: 予防接種を受けても感染することはありますか?
A: はい、可能性があります。ワクチンの有効率は疾患により異なり(A型肝炎:約95%、腸チフス:約70%、B型肝炎:約90~95%など)、100%ではありません。ワクチン接種に加えて、衛生管理(手洗い、安全な飲料水の選択)や防虫対策も重要です。「ワクチンを打ったから大丈夫」と過信せず、複合的な予防策を実践してください。
Q: 子どもにも同じワクチンを接種できますか?
A: 多くのワクチンは小児にも接種可能ですが、推奨年齢・用量が成人と異なります。たとえばA型肝炎ワクチンは多くの製品で1歳以上から接種可能(用量は成人の半量)です。腸チフスVi多糖体ワクチンは2歳以上を対象とする製品が多く、狂犬病ワクチンは年齢制限はありませんが、皮下接種・筋肉内接種の部位が小児では異なります。小児の接種については小児科医または旅行医学外来で個別に相談してください。
Q: 副作用が心配なのですが、特に注意すべき点はありますか?
A: 不活化ワクチン全般に共通する副作用として、接種部位の疼痛・発赤・腫脹(発現率:30~60%程度)、倦怠感・発熱(10~20%程度)があります。これらは通常2~3日以内に自然軽快します。より重篤な副作用としてアナフィラキシー(発現率:数十万接種に1件程度)があり、接種後20~30分は医療機関内で様子を観察するのが原則です。接種後に呼吸困難・じんましん・顔面浮腫などの症状が現れた場合は直ちに医療機関に申し出てください。
まとめ
- 必須接種:黄熱病ワクチン(乗り継ぎ先国により必須)、定期予防接種の確認
- 強く推奨:A型肝炎ワクチン(2回、6~12ヶ月間隔)
- 推奨:腸チフス、髄膜炎菌ワクチン(特に衛生環境が限定的な地域訪問時)
- 検討:B型肝炎、狂犬病ワクチン(個別リスク評価に基づく)
- 計画策定:渡航日から逆算して6~8週間前から準備開始
- 費用目安:最小限の推奨接種で25,000~35,000円、総合予防で77,500~114,500円程度(いずれも目安)
- 専門相談:旅行医学外来(トラベルクリニック)の受診を推奨
- 情報確認:最新の感染症情報・入国要件は大使館・外務省で確認必須
- 複合予防:ワクチン接種に加えて、衛生管理・防虫対策を並行実施
- 記録携帯:予防接種記録(黄熱病証明書含む)を必ず持参
- 薬の持参:腸管感染症対策の経口補水剤、整腸薬、解熱鎮痛薬(有効成分:アセトアミノフェン等)を携帯しておくと安心です
参考文献
-
WHO | Vaccines and immunization: Travel vaccination
https://www.who.int/travel-advice/vaccines -
CDC | Travelers' Health – Israel
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/israel -
厚生労働省 | 予防接種情報(定期接種・任意接種)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html -
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)| ワクチン・血液製剤に関する情報
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/vaccines/0001.html -
外務省 | 世界の医療事情 – イスラエル
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/m_east/israel.html -
国立感染症研究所 | A型肝炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-hepatitis-a-intro.html -
国立感染症研究所 | 腸チフスとは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-typhoid-intro.html
監修:薬剤師(博士(薬学))