イスラエル渡航時の感染症リスク概況
イスラエルは中東に位置する先進国であり、医療水準はOECD諸国と概ね同等です。しかし「先進国だから安全」と油断することは禁物で、渡航者が注意すべき感染症は複数存在します。特に春〜夏季の訪問では、蚊媒介感染症や消化管感染症のリスクが顕著に高まります。また、隣接するヨルダン川西岸地区・ガザ地区との往来があるルートでは、ポリオや腸チフスなど衛生環境の差異に起因する感染症リスクも考慮が必要です。
イスラエルの気候は南北で大きく異なります。地中海沿岸のテルアビブは温暖・多湿、エルサレムは高地で冬に積雪もある大陸性気候、南部のネゲブ砂漠は乾燥した酷暑となります。気候帯の違いが感染症の種類・強度に直結するため、訪問地域ごとにリスクを把握することが重要です。
本ガイドは外務省の「海外安全情報」および現地保健当局(イスラエル保健省)・WHO・CDCの公表データに基づき、薬学的視点から予防対策を整理したものです。感染症の病態生理・薬物の作用機序にも触れ、「なぜその薬を持参するのか」を理解した上で旅行準備ができるよう構成しています。
薬剤師メモ: イスラエルへの渡航者は、出発前に厚生労働省検疫所(FORTH)のWebサイトで最新の感染症情報を確認してください。中東呼吸器症候群(MERS)や季節性インフルエンザの流行状況は随時更新されます。また外務省の「危険情報・感染症危険情報」も併せて参照することを強く推奨します。
関連情報 → [[travel-medicine-basics]] [[middle-east-travel-health]] [[packing-medicine-checklist]]
注意すべき主要感染症と予防接種
予防接種の推奨一覧
渡航前ワクチン接種は「出発4〜6週間前」から計画することが理想です。複数回接種が必要なワクチン(B型肝炎・腸チフス経口型など)は特に早めの準備が必要です。
| 感染症 | ワクチン種別 | 渡航者への推奨度 | 接種時期の目安 |
|---|---|---|---|
| ポリオ | IPV(不活化ポリオワクチン) | 強く推奨(必須レベル) | 出発2〜4週間前 |
| A型肝炎 | 不活化ワクチン(2回法) | 推奨 | 出発2週間前(初回) |
| B型肝炎 | 不活化ワクチン(3回法) | 推奨 | 出発6週間前から開始 |
| 腸チフス | 不活化/経口生ワクチン | 推奨(農村部・長期滞在者) | 出発1〜2週間前 |
| 麻疹・風疹・おたふく | MMRワクチン | 推奨(未接種・抗体価低値者) | 出発4週間前 |
| 髄膜炎菌 | MCV4(4価結合ワクチン) | 推奨(長期滞在・宗教施設訪問者) | 出発2週間前 |
| 狂犬病 | 暴露前3回接種 | 長期滞在・野外活動者に推奨 | 出発4週間前から開始 |
ポリオはイスラエル周辺地域(シリア、パレスチナ自治区)での感染報告歴があるため、特に重要です。既往接種歴があっても、中東地域への渡航時は成人ブースター接種(IPV追加1回)が推奨されます。
薬剤師メモ: A型肝炎ワクチンは2回接種で95%以上の防御効果が得られます。初回と2回目(6ヵ月後)の接種が理想的ですが、出発が差し迫っている場合でも初回接種だけで短期渡航には一定の効果があります。2回目接種を帰国後に完了することも可能なので、かかりつけ医や渡航外来に相談してください。
ポリオ(急性灰白髄炎)— 薬学的補足
ポリオウイルスはエンテロウイルス属に分類されるRNAウイルスで、主に糞口経路で伝播します。感染者の99%以上は不顕性または軽症ですが、約0.5%で弛緩性麻痺を生じます。現行のIPV(不活化ポリオワクチン)は3回の基礎免疫で95%以上の抗体陽転率を示します。成人でも最終接種から10年以上経過している場合、中東渡航時は追加接種(1回)が勧められます。経口生ワクチン(OPV)由来のウイルス変異株がパレスチナ自治区環境水で検出された報告があることも、イスラエル訪問者がポリオ対策を軽視できない理由の一つです。
A型肝炎 — 薬学的補足
A型肝炎ウイルス(HAV)は糞口経路で感染し、潜伏期間は平均28日(15〜50日)です。感染後の経過は年齢依存性があり、小児では多くが不顕性感染ですが成人は重症化しやすい傾向があります。特に基礎疾患(慢性肝疾患など)がある渡航者は劇症肝炎のリスクも考慮が必要です。ワクチンによる予防が最も確実な手段であり、日本での接種歴がない成人は渡航前に接種することを強く推奨します。なお、日本では幼少期にHAVへの自然曝露経験がほぼなくなったため、若年世代で抗体を持たない人が増えています。
飲料水・食事の安全性
水道水の利用について
イスラエルの水道水は、テルアビブやエルサレムなどの主要都市では塩素消毒が行われており、一般的に飲用可能な水質を維持しています。イスラエル保健省は都市部の水道水を飲料水として認可しており、WHO飲料水質ガイドラインをおおむね満たしています。ただし以下の点に注意が必要です。
- 主要都市(テルアビブ、エルサレム、ハイファ): 水道水は飲用可能ですが、イスラエルの水は硬水(高ミネラル)であることが多く、腸管が敏感な旅行者では軟便・下痢が起こる可能性があります。これは病原微生物によるものではなく、ミネラル組成の変化によるものです
- 農村部・ベドウィン集落・紛争地域周辺: 水道インフラが不安定な地域ではミネラルウォーター(瓶詰めまたはテトラパック)の使用を推奨します
- ホテル・レストラン: 通常は市販のボトル水が提供されますが、レストランで提供される「tap water(タップ ウォーター)」が必ずしも市販品とは限りません
現地での緊急水消毒の選択肢
| 消毒方法 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| ポビドンヨード液(10%) | 水1Lあたり2〜3滴、30分放置 | 甲状腺疾患・ヨウ素アレルギー者は使用不可 |
| 次亜塩素酸ナトリウム(市販の塩素系漂白剤) | 濃度に応じた希釈が必要 | 適切な濃度管理が必要 |
| 携帯型浄水フィルター | ろ過 + 化学消毒の組み合わせ型が有効 | ウイルスはフィルターのみでは除去不完全 |
| 煮沸(1分間以上) | 最も確実 | 高地では沸点が低下するため時間を延長 |
薬剤師メモ: ポビドンヨードは光・熱によって有効成分(遊離ヨウ素)が分解します。夏季のイスラエルのような高温環境での長期携帯には、アルミ遮光包装タイプの携帯用小分け品が劣化を防ぎやすいです。甲状腺疾患がある方は薬剤師または医師に相談の上、代替消毒法を検討してください。
食事の注意点
イスラエルの外食産業における衛生管理レベルは中東地域では比較的高い方に位置します。しかし旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)の原因となる腸管毒素原性大腸菌(ETEC)や赤痢菌は、食材の取り扱い・調理過程で混入しやすく、渡航者は一定のリスクを負います。
安全な食事の選び方
- 十分に加熱調理された温かい料理(中心温度70℃以上が目安)
- 包装済みの工業製品(菓子・スナック類)
- 自分で皮を剥いて食べる果物(バナナ、オレンジ、スイカなど)
- 認知度の高い飲食チェーンや衛生評価の良いレストラン
避けるべき食品
- 路上の露店で提供される生ジュース(大腸菌・赤痢菌・ノロウイルス汚染リスク)
- 加熱不十分な肉・魚介類(サルモネラ、カンピロバクターのリスク)
- 常温で長時間放置されたサラダやビュッフェ料理
- 路上や衛生状態不明な施設で作られた氷(製氷用水の品質が不明)
- 未殺菌乳・手作りチーズ(ブルセラ症のリスク)
持参推奨の医薬品(消化管対策)
| 医薬品(成分名) | 主な用途 | 薬学的補足 |
|---|---|---|
| ロペラミド塩酸塩 | 急性下痢症の症状緩和 | μオピオイド受容体に作用し腸管蠕動を抑制。細菌性下痢(発熱・血便を伴う場合)では使用を避け医師相談を |
| 次硝酸ビスマス | 旅行者下痢症・消化器不快感 | 腸管粘膜保護・抗菌・分泌抑制の複合機序。アスピリンアレルギー者・腎機能低下者は注意 |
| 乳酸菌製剤(ビフィズス菌・乳酸菌含有製品) | 腸内フローラ調整・下痢予防 | 抗菌薬服用時に腸内菌叢を維持する補助的役割。耐熱性が低いため保管温度に注意 |
| 経口補水液(ORS)/ 電解質パウダー | 脱水補正 | WHO推奨の経口補水塩組成:食塩3.5g+クエン酸ナトリウム2.9g+塩化カリウム1.5g+ブドウ糖20g / 水1L。市販のポカリスエット等は糖分過多なため重症脱水には不向き |
| ジメチコン(消泡剤) | 腹部膨満・ガス | 腸管内のガス気泡を物理的に消泡する界面活性作用。全身吸収はほぼなく安全性が高い |
薬剤師メモ: ロペラミド塩酸塩はP糖タンパク(P-gp)の基質であり、P-gp阻害薬(例:イトラコナゾール、キニジン)との併用で血中濃度が上昇し、中枢神経症状(鎮静、呼吸抑制)が現れる可能性があります。複数の薬を服用している方は薬剤師に相談してください。また、5歳未満の小児への使用は原則禁忌です。
中東特有の蚊媒介感染症
デング熱
イスラエル国内での発症報告は多くありませんが、ヨルダン川西岸地区周辺での局所的な集団発生の記録があります。特に5〜10月の暖季が流行期であり、媒介蚊はヒトスジシマカ(Aedes albopictus)です。デングウイルスは4つの血清型(DENV1〜4)があり、異なる血清型の二度目の感染では重症デング熱(デング出血熱・デングショック症候群)のリスクが高まります。これは「抗体依存性感染増強(ADE)」と呼ばれる免疫学的機序によるものです。
有効な予防策
| 予防手段 | 詳細 |
|---|---|
| 虫よけ剤(ジエチルトルアミド:DEET) | 皮膚露出部位に20〜30%濃度を塗布。2〜3時間ごとに再塗布が目安 |
| イカリジン(ピカリジン)製剤 | DEETと同等の忌避効果で皮膚刺激が少ない。プラスチックを侵さない利点あり |
| 長袖・長ズボン着用 | 蚊の活動が活発な日の出前後・夕暮れ時に特に有効 |
| 宿泊施設のエアコン使用・網戸確認 | 室内への蚊の侵入を防ぐ |
| 蚊帳(permethrin処理品) | エアコンなし宿泊時に有効 |
薬剤師メモ: DEET(ジエチルトルアミド)は高濃度(50%超)でも忌避効果は濃度に比例して大幅に延長するわけではなく、30%前後で効果の上限に近づきます。小児(2歳以上)には10〜30%濃度が適切とされ、2歳未満への使用は避けてください。粘膜・目周囲への使用も禁忌です。
西ナイルウイルス感染症
イスラエル北部(ガリラヤ湖・ヨルダン渓谷周辺)では夏季〜秋季に散発的な感染報告があります。感染者の約80%は無症状ですが、約20%で発熱・頭痛・発疹を伴う「西ナイル熱」を発症します。免疫不全者・高齢者では約1%が脳炎・髄膜炎へ進展する可能性があり、注意が必要です。現時点でヒト用ワクチンは承認されておらず、蚊対策が唯一の予防手段です。
マラリア
イスラエル本国(グリーンライン内)ではマラリアは排除されており、通常渡航ではリスクは極めて低いです。ただし、ヨルダン・エジプト方面への陸路移動を伴う旅程では経由地のリスクを別途確認する必要があります。
気候に応じた医薬品備え
春季(3〜5月)・秋季(9〜11月)
これらの季節は気温が15〜25℃と過ごしやすく、観光に最も適したシーズンです。一方、春季はイスラエル国内でも花粉症の時期に当たります。主にオリーブ・糸杉・イネ科の花粉が飛散し、日本と異なるアレルゲンに暴露されるため、これまで花粉症がない方でも症状が出ることがあります。
必携医薬品(アレルギー対策)
| 医薬品(成分名) | 用法 | 薬学的補足 |
|---|---|---|
| 第2世代抗ヒスタミン薬(ロラタジン、セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩等) | 1日1回 | 第1世代と比較して血液脳関門通過が少なく眠気が少ない。ただし個人差あり。運転・高所作業への影響を事前確認 |
| 鼻噴霧ステロイド薬(フルチカゾンプロピオン酸エステル等) | 朝晩各1回 | 局所投与のため全身的ステロイド副作用は極めて少ない。効果発現まで数日かかるため出発前から開始推奨 |
| 抗アレルギー点眼薬(ケトチフェンフマル酸塩等) | 症状時適宜 | 結膜への直接作用でかゆみ・充血を迅速に抑制 |
薬物相互作用の注意点: 一部の第2世代抗ヒスタミン薬(セチリジン)はCYP3A4にほとんど依存しないため、薬物相互作用のリスクが比較的低いです。一方でフェキソフェナジンはP-gpの基質であり、P-gp誘導薬・阻害薬との併用には注意が必要です。
夏季(6〜8月)
イスラエルの夏は地中海沿岸(テルアビブ・ハイファ)では高温多湿、南部ネゲブ砂漠では気温が35〜42℃に達する乾燥した酷暑となります。紫外線指数(UV Index)は12以上の「極端」に達する日もあり、日本とは比較にならないほどの紫外線強度です。
熱中症の病態と予防の薬学
熱中症は熱疲労(Heat Exhaustion)から熱射病(Heat Stroke)へ進展する連続スペクトルとして捉えられます。体温調節機構が破綻し、深部体温が40℃超に達すると多臓器障害・意識障害・死亡に至ります。予防には「こまめな水分・電解質補給」が最重要で、口渇を感じる前に15〜20分ごとに少量ずつ摂取することが推奨されます。
必携医薬品・用品(夏季)
| 品目(成分名・種別) | 用途・用法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日焼け止め(SPF50+、PA++++) | 外出30分前に塗布、2〜3時間ごとに重ね塗り | UVA(PA)とUVB(SPF)の双方をカバーするものを選択 |
| 電解質パウダー・経口補水液 | 発汗量に応じて適宜補給 | ナトリウム・カリウム・マグネシウムを含むものが望ましい |
| アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬) | 発熱・頭痛の緩和 | 空腹時でも服用しやすい。腎機能低下者でも比較的安全 |
| ヒドロコルチゾン外用クリーム(1%) | 虫刺され・接触性皮膚炎 | ステロイド外用薬。顔面・広範囲への長期使用は避ける |
| アルミニウム含有制汗剤(クロルヒドレート系) | 多汗対策 | 発汗自体は体温調節に必要なため使用量に注意 |
| セラミド含有保湿剤 | 乾燥性皮膚炎予防 | 「乾燥した熱」では皮膚バリア機能が低下しやすい |
薬剤師メモ: イブプロフェン(NSAIDs)は強い解熱作用を持ちますが、脱水状態での使用は腎血流量低下による急性腎障害リスクを高めます。夏季のイスラエルのような高温環境では、脱水を十分に補正してから服用するか、アセトアミノフェンを優先することを推奨します。また、NSAIDs服用中の激しい発汗・下痢は電解質異常を招きやすいため、補水を怠らないようにしてください。
冬季(12〜2月)
エルサレム(海抜約800m)やゴラン高原では気温が0〜5℃以下になることがあり、降雪も起こります。上気道感染症(かぜ症候群・インフルエンザ)のリスクが高まる季節です。加えて、ヒーターによる室内の乾燥は鼻・喉の粘膜を傷つけ、感染への抵抗性を低下させます。
必携医薬品(冬季・感冒対策)
| 医薬品(成分名) | 用途 | 薬学的補足 |
|---|---|---|
| アセトアミノフェン | 解熱・鎮痛 | 成人標準量:500〜1,000mg、1日4回まで(最大4,000mg/日)。アルコール多飲者は肝毒性リスクに注意 |
| デキストロメトルファン臭化水素酸塩 | 鎮咳 | 中枢性非麻薬性鎮咳薬。MAO阻害薬との併用はセロトニン症候群リスクのため禁忌 |
| グアイフェネシン | 去痰 | 気道分泌液の粘性を低下させて排痰を助ける。十分な水分摂取と組み合わせると効果的 |
| ポビドンヨード含嗽液 | うがい薬 | 口腔・咽頭の微生物を殺菌。甲状腺疾患者は長期使用を避ける |
| 塩化亜鉛含有トローチ | 咽頭炎・口腔内殺菌補助 | 亜鉛はウイルス複製抑制効果が示唆されているが、エビデンスの強さは限定的 |
イスラエル国内の医療・薬局事情
医療機関の質と受診方法
イスラエルの医療水準は先進国レベルであり、高度な専門医療・救急医療体制が整っています。テルアビブ・エルサレムの主要病院では英語対応が一般的です。ただし公立病院の救急外来は待ち時間が長い場合があります。
主要な医療機関(参考)
- Hadassah Medical Center(エルサレム): イスラエルを代表する国立大学付属病院。世界クラスの設備を誇る
- Tel Aviv Sourasky Medical Center(Ichilov Hospital): テルアビブ最大の総合病院
- Sheba Medical Center(ラマート・ガン): 中東最大規模の医療センターとされる
受診時に役立つ英語フレーズ
-
I have a fever and diarrhea.(アイ ハヴ ア フィーヴァー アンド ダイアリーア) -
I need to see a doctor.(アイ ニード トゥ シー ア ドクター) -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アレルジック トゥ ペニシリン) -
Do you speak English?(ドゥ ユー スピーク イングリッシュ?)
医療費は极めて高額です(外来初診の目安として数万円〜十数万円相当)。入院・手術が必要になれば費用はさらに大きくなるため、渡航前の海外旅行保険加入は必須です。「キャッシュレス診療」に対応した保険を選ぶと現地での費用立替の負担が軽減されます。
薬局での医薬品購入
イスラエルの薬局(Pharmacy/ヘブライ語:בית מרקחת)では、以下の医薬品が一般的に処方箋なしで購入できます。ただし規制は随時変更される可能性があるため、現地で薬剤師に確認することを勧めます。
- 一般用解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン配合製品、イブプロフェン配合製品)
- 消化器系薬(制酸薬、整腸薬)
- 抗アレルギー薬(第2世代抗ヒスタミン薬)
- 外用薬(ヒドロコルチゾンクリーム、抗真菌薬)
- 虫よけスプレー(DEET・イカリジン配合製品)
薬局での購入時に役立つ英語フレーズ
-
Do you have any painkillers?(ドゥ ユー ハヴ エニー ペインキラーズ?) -
I need something for diarrhea.(アイ ニード サムシング フォー ダイアリーア) -
Is this safe during pregnancy?(イズ ディス セーフ デューリング プレグナンシー?) -
What is the dosage for an adult?(ワット イズ ザ ドーセッジ フォー アン アダルト?)
言語の注意点: 薬のパッケージはヘブライ語表記が主体ですが、英語の成分名(例:Ibuprofen、Paracetamol)を確認することで、日本で使い慣れた薬と同じ成分かどうかを判断できます。渡航前に自分が常用している薬の成分名(一般名)を英語でメモしておくことを推奨します。
衛生用品・その他の備え
必携の衛生用品一覧
| 品目 | 目的・理由 | 薬学的補足 |
|---|---|---|
| アルコール消毒液(エタノール70〜80%) | 手指衛生 | 70〜80%濃度が最も殺菌効果が高い(タンパク変性による)。100%は効果が低下する |
| 抗菌ウェットティッシュ | 食事前・外出先での手指清浄 | アルコール非含有の場合は除菌効果が限定的 |
| 速乾性手指消毒剤(手指用ジェル) | 水が使えない場面での手洗い代替 | アルコール濃度と接触時間の確保が有効性の鍵 |
| 傷薬(ポビドンヨード外用液またはゲル) | 擦り傷・虫刺され後の感染予防 | 点眼・鼻への誤使用を防ぐ旨を携帯品に明記 |
| 防水絆創膏 | 足まめ・切り傷の保護 | 石畳・砂利道での長時間歩行時に必要 |
女性渡航者向けの注意点
- 生理用品: イスラエルの大都市のスーパーマーケットや薬局で購入可能ですが、日本製の薄型・羽付きタイプ等の好みのブランドが入手できない場合があるため、少量を携帯することを推奨します
- 外陰部・膣カンジダ症対策: 高温・多汗・長時間移動の環境では、カンジダ・アルビカンスの増殖が促進されやすくなります。予防策として吸湿性の高い素材(綿素材)の下着着用、トイレ後の前後方向の清拭が基本です。症状(かゆみ・おりもの異常)が出た場合は、現地の薬局でクロトリマゾール膣錠(成分名:clotrimazole)や外用液が処方箋なしで入手できる場合があります
- 経口避妊薬(OC): 服用中の方は十分な量を携帯し、時差による服用時刻のずれに注意してください。イスラエルとの時差は日本時間から約5〜6時間(サマータイム期間による)であり、服用時刻を事前にかかりつけ医・薬剤師に確認することを推奨します
慢性疾患を持つ渡航者への注意
糖尿病・高血圧・喘息などの慢性疾患がある方は、以下の点に注意してください。
- インスリン(糖尿病): 夏季の高温環境ではインスリンの失活リスクがあります。保冷ケース(専用の旅行用インスリン保冷バッグ)の使用が推奨されます。インスリンは通常2〜8℃での冷蔵保管が必要ですが、未開封品は25℃以下の室温で一定期間保管可能な製品もあります(製品添付文書を必ず確認)
- 気管支喘息: イスラエル南部ではハムシン(砂漠からの熱風)発生時に砂塵が増加し、喘息の増悪因子となります。短時間作用型β2刺激薬(サルブタモール等)の吸入器を必ず携帯してください
- 抗凝固薬(ワルファリン等): 下痢・嘔吐による食事変化や、ビタミンK含有食品の摂取量変動でINRが変動しやすくなります。渡航前に主治医と相談し、携帯量・モニタリング計画を立ててください
紛争地域・ガザ地区への渡航について
パレスチナ自治区(ガザ地区・ヨルダン川西岸地域)への渡航については、日本政府が「危険情報」や「感染症危険情報」を発出していることがあります。最新の渡航安全情報は 外務省の海外安全情報で常に確認してください。
感染症リスクの観点からは、紛争・人道危機が続く地域では以下のリスクが同時に発生します。
- 水道・衛生インフラの損壊による飲料水・食品の汚染リスクの著しい上昇
- コレラ・赤痢・ポリオ等の水系感染症の流行リスク
- 医療機関・薬局の機能停止による必要な治療の中断
- 医薬品の供給不足(インスリン・抗てんかん薬等の慢性疾患治療薬を含む)
薬剤師メモ: 紛争地域への渡航を余儀なくされた場合は、処方薬を含む医薬品は可能な限り多めに携帯することを主治医・薬剤師に相談してください。また、IFRCや国境なき医師団(MSF)等の人道支援機関の現地連絡先を事前に確認しておくことが安全上有益です。なお、特定地域への渡航前には日本大使館への在留届(海外在留届)の提出を強く推奨します。
まとめ
- 予防接種: ポリオ・A型肝炎・腸チフスワクチンは出発4〜6週間前から計画。特にポリオの追加接種は必須レベル
- 飲料水: 主要都市の水道水は基本的に安全だが、農村部・紛争地域ではミネラルウォーターを使用。携帯用消毒手段(ポビドンヨード液等)も備える
- 食事: 十分に加熱された料理・信頼できるレストランを選択。路上の生ジュース・常温放置の食品は避ける
- 消化管感染対策: ロペラミド塩酸塩(作用機序:μオピオイド受容体を介した腸蠕動抑制)、経口補水塩、乳酸菌製剤を携帯。下痢発症時は脱水管理を最優先
- 蚊媒介感染症: DEET 20〜30%またはイカリジン配合の虫よけ剤を使用。長袖着用と合わせて5〜10月は特に注意
- 熱中症・紫外線対策: SPF50+・PA++++の日焼け止めと電解質パウダーは夏季の必需品。NSAIDs服用時は脱水に特に注意
- 冬季対策: エルサレム・ゴラン高原の寒冷・乾燥を考慮し、アセトアミノフェン・鎮咳薬・うがい薬を携帯
- 薬局活用: 成分名(一般名)の英語表記を事前にメモ。現地薬剤師への相談時は
I need something for ...(アイ ニード サムシング フォー ...)で症状を伝える - 海外旅行保険: 医療費が高額なため加入は必須。キャッシュレス診療対応の保険を選択
- 慢性疾患者: 処方薬の十分な携帯量、インスリンの保冷管理、抗凝固薬の食事変化への注意を事前に医師・薬剤師と確認
- 最新情報確認: 出発前に厚生労働省検疫所FORTH・外務省の渡航情報を必ず確認。特に紛争地域に関する情報は渡航直前まで継続的にチェック
参考文献
-
厚生労働省検疫所 FORTH「感染症情報(イスラエル)」
https://www.forth.go.jp/ -
外務省「海外安全情報(イスラエル)」
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_032.html -
WHO「International Travel and Health(Yellow Book)」
https://www.who.int/publications/i/item/9789240033986 -
CDC「Travelers' Health – Israel」
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/israel -
CDC「Traveler's Diarrhea」
https://wwwnc.cdc.gov/travel/page/travelers-diarrhea -
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)「医薬品情報」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ -
WHO「Oral Rehydration Salts: production of the new ORS」
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-FCH-CAH-06.1
監修: 薬剤師(博士(薬学))