アメリカ渡航前の予防接種ガイド:必要な準備と接種スケジュール
アメリカ渡航時の感染症・衛生リスクは日本国内と異なります。特に長期滞在や医療機関へのアクセスが限定される地域への移動を予定されている場合、事前の予防接種準備が重要です。本記事では、渡航前に確認すべき予防接種、推奨接種スケジュール、費用の目安を詳しく解説します。
米国は先進国ですが、麻疹(はしか)の散発的な流行や、大学寮での髄膜炎菌感染、インフルエンザの広域流行など、日本国内では接触頻度の低い感染症リスクが存在します。加えて、米国の医療費は日本と比べて著しく高額であり、感染症によって入院・治療が必要になった場合の経済的負担は甚大です。渡航前のワクチン接種は「感染予防」だけでなく、「医療費リスクの軽減」という経済合理的な意味も持ちます。
薬剤師として強調したいのは、ワクチンは「渡航直前に慌てて打つ」ものではないという点です。多くのワクチンは免疫を獲得するまでに2週間〜数ヶ月を要します。本記事を参考に、余裕をもったスケジュール計画を立ててください。
アメリカ渡航時に必須・推奨される予防接種一覧
アメリカ渡航には特に入国条件として義務的な予防接種はありません。ただし、米国内での疾病流行状況や個人の年齢・既往歴により、以下の予防接種が推奨されます。
| 予防接種名 | 対象者 | 推奨度 | 備考 |
|---|---|---|---|
| MMR(麻疹・おたふく・風疹) | 1968年以降生まれで既感染なし | 必須 | 米国では麻疹患者が散発的に報告 |
| 二種混合(Tdap)破傷風・ジフテリア・百日咳 | 全年代 | 必須 | 10年ごとの追加接種を推奨 |
| インフルエンザ | 全年代(特に高齢者・基礎疾患者) | 推奨 | 秋冬の渡航時は接種必須 |
| 肺炎球菌(PCV13, PPSV23) | 65歳以上・慢性疾患者 | 推奨 | 米国での肺炎リスク上昇 |
| B型肝炎 | 全年代(未接種者) | 推奨 | 3回接種で完全免疫 |
| A型肝炎 | 衛生環境が限定される地域へ | 推奨 | 2回接種で長期免疫 |
| 髄膜炎菌ワクチン(MenB, MenACWY) | 学生寮入居予定者・18〜26歳 | 推奨 | 特に大学進学予定者は重要 |
| 水痘(VZV) | 既感染確認されない者 | 推奨 | 2回接種で95%以上の予防効果 |
| COVID-19 | 全年代 | 推奨 | 基本接種+ブースター推奨 |
| 帯状疱疹(Shingrix) | 50歳以上 | 推奨 | 米国では50歳以上に広く推奨 |
最新情報は米国疾病対策センター(CDC)の公式ウェブサイト(cdc.gov)で確認してください。
日本国内のワクチン接種歴は、個人ごとの記録状況に大きなばらつきがあります。特に1968〜1979年生まれの世代は麻疹ワクチンが1回接種のみの可能性が高く、2回目接種を行っていない方が多く存在します。渡航前に接種記録を必ず確認することが第一歩です。
主要ワクチンの薬学的解説:機序・免疫応答・副反応
渡航前ワクチンを正しく理解するうえで、各ワクチンの作用機序と免疫応答の特性を把握しておくことは重要です。ここでは代表的なワクチンについて、薬剤師の視点から解説します。
MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン)
MMRワクチンは弱毒生ウイルスワクチンです。生ウイルスを体内に取り込むことで自然感染に近い免疫応答を誘導し、液性免疫(抗体)と細胞性免疫の両方を活性化します。1回接種後の麻疹に対する血清陽転率は約95%、2回接種後はほぼ100%に達します。
免疫記憶は長期(数十年以上)にわたって持続すると考えられていますが、抗体価が低下した場合でも、再曝露時の**ブースター効果(記憶免疫細胞による二次応答)**が働くため、重症化リスクは低減されます。
副反応の特性:接種後5〜12日ごろに発熱・発疹が現れることがあります(これは生ウイルスが微弱に増殖することによる免疫応答)。また、接種後の一時的な免疫低下状態が短期間続く場合があるため、他のワクチンとの同時接種タイミングについては医師と相談が必要です。
免疫不全者への注意:生ワクチンであるため、HIV感染者(CD4陽性リンパ球数が著しく低下している場合)、ステロイド長期投与中の方、血液疾患治療中の方などへの接種は禁忌または慎重投与となります。渡航前に必ず医師に免疫状態を確認してもらってください。
妊婦への注意:MMRは生ワクチンのため、妊娠中の接種は原則禁忌です。また、接種後28日間(1ヶ月間)は妊娠を避けることが推奨されています。妊娠を予定している方は、渡航スケジュールを考慮したうえで十分早めに接種を完了してください。
Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン)
Tdapは不活化トキソイドワクチンです。細菌が産生する毒素(トキシン)を無毒化したトキソイドを抗原として利用します。生ワクチンではないため、妊婦・免疫不全者にも比較的安全に使用できます。
破傷風トキソイドに対する免疫応答は、初回免疫後に血中IgG抗体が上昇し、おおむね10年間は防御レベルを維持します。そのため「10年ごとの追加接種」が推奨されています。ただし、汚染した傷を負った場合など、5年以上が経過していれば追加接種を行う場合もあります。
百日咳(Bordetella pertussis)成分であるaPa(無細胞型百日咳抗原)は、免疫持続期間がトキソイド成分より短い傾向にあります。このため、成人の追加接種はTd(破傷風・ジフテリア2種)ではなくTdap(百日咳成分を含む3種)が推奨されるようになっています。特に乳幼児に接する機会がある方(育児中の親・祖父母・保育士)は積極的な接種が重要です。
副反応の特性:接種部位の疼痛・発赤・腫脹が最も頻度の高い副反応で、接種後24〜48時間でピークを迎え、数日以内に消退します。全身症状(発熱・倦怠感)は比較的まれですが、接種後のスケジュールに余裕を持たせることをお勧めします。
B型肝炎ワクチン(HBVワクチン)
B型肝炎ワクチンは組換えタンパクワクチン(酵母菌にHBs抗原遺伝子を組み込んで産生させたHBs抗原タンパク)です。生ワクチンではなく、免疫不全者にも使用可能です。
標準スケジュール(0・1・6ヶ月)では、3回目接種後1〜2ヶ月で約95%の接種者に防御的抗体価(抗HBs抗体10mIU/mL以上)が誘導されます。一方で、肥満・高齢・透析中・喫煙者では免疫応答が低下することが知られており、接種後に抗体検査で確認することが推奨される場合があります。
長期滞在や医療従事者として渡航する場合は、接種完了後に抗体検査(抗HBs定量)を行い、免疫取得を確認することが望ましいです。
水痘(VZV)ワクチン
水痘ワクチンも弱毒生ワクチンです。日本では1歳・3歳の定期接種として広く普及していますが、成人で接種歴不明・罹患歴不明の方は血清抗体検査で確認のうえ、未取得であれば2回(4〜8週間間隔)の接種が推奨されます。
水痘に罹患した人の体内にウイルスが潜伏し、高齢・免疫低下時に帯状疱疹として再活性化します。帯状疱疹ワクチン(Shingrix:組換えサブユニットワクチン)は潜伏ウイルスに対する細胞性免疫を再活性化させる目的で使用され、50歳以上への2回接種が推奨されています。Shingrixは生ワクチンではないため、一定の免疫抑制状態でも適用を検討できる場合があります(医師判断)。
年齢別の接種スケジュール(推奨パターン)
18〜49歳の一般渡航者
渡航3〜6ヶ月前
- MMR(1978年以降生まれで2回未接種者)
- Tdap(10年以上前に接種済みなら追加不要)
- B型肝炎(未接種者:0・1・6ヶ月スケジュール)
- インフルエンザ(秋冬渡航予定者)
渡航1〜2ヶ月前
- A型肝炎(衛生懸念地域:0・6〜12ヶ月間隔)
- COVID-19ブースター(必要に応じて)
薬剤師メモ
B型肝炎ワクチンは標準的に0・1・6ヶ月の3回接種ですが、短期渡航の場合は「加速スケジュール(0・7・21日間隔)」も選択肢として存在します。ただし、この加速スケジュールでは防御抗体の取得率が標準スケジュールと比べてやや低くなる可能性があり、12ヶ月時点での4回目追加接種が必要になるケースもあります。可能な限り標準スケジュールで進めることを推奨します。
50歳以上の渡航者
渡航3〜4ヶ月前
- 肺炎球菌(PCV13):初回接種
- Tdap または Td追加接種
- 帯状疱疹ワクチン(Shingrix):1回目
- インフルエンザ
渡航1〜2ヶ月前
- 帯状疱疹ワクチン(Shingrix):2回目(1回目から2〜6ヶ月後)
- COVID-19ブースター
50歳以上の渡航者では、加齢に伴う免疫応答の低下(免疫老化:immunosenescence)により、一部のワクチンで血清陽転率が若年者より低くなる傾向があります。特にインフルエンザワクチンは、高齢者向けに抗原量を増量した高用量製剤の使用が米国でも推奨されていますが、日本で入手できる製剤の種類については医師・薬剤師に確認してください。
大学進学予定者・学生寮入居予定者
学生寮での髄膜炎菌感染リスクが高いため、MenACWY(四価髄膜炎菌ワクチン)またはMenB(B群髄膜炎菌ワクチン)の接種が強く推奨されます。米国の大学の多くでは、入学条件としてワクチン接種証明の提出を義務付けており、未接種の場合、寮への入居が認められないケースもあります。
渡航4〜5ヶ月前
- MenACWY(または更新が必要な場合は再接種)
- MenB:1回目
- その他基本ワクチン確認
渡航1〜2ヶ月前
- MenB:2回目(1回目から1〜2ヶ月後)
髄膜炎菌性髄膜炎は急速に進行し、発症から24〜48時間以内に死亡または重篤な後遺症(四肢切断・難聴・脳障害など)に至るケースがある、極めて危険な感染症です。集団生活を送る学生は感染リスクが特に高く、接種を強く推奨します。
予防接種実施に必要な準備
1. 接種履歴の確認
渡航前に黄色い予防接種手帳または医療機関の記録から以下を確認してください:
- 過去の接種名・接種日
- MMR、麻疹、風疹の接種状況
- Tdap/Td最終接種日
- B型肝炎、A型肝炎の接種状況
接種記録が見当たらない場合は、かかりつけ医・自治体の保健センターで記録を照会するか、抗体検査(血液検査)を実施して免疫状態を確認する方法があります。麻疹・風疹・水痘については、抗体検査(IgG定量)により感染歴・ワクチン接種歴を代替評価できます。抗体検査は保険適用となる場合もあるため、医師に相談してください。
重要:米国では日本と異なる免疫スケジュールを採用しているため、渡航先の医療機関から追加接種を指示される可能性があります。
2. 実施医療機関の選定
| 医療機関の種類 | 特徴 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 予防接種専門クリニック | ワクチン接種に特化、待ち時間短い | 1種目1,000〜3,000円 |
| トラベルクリニック | 渡航医学専門、複数ワクチン同時接種可 | 1種目2,000〜5,000円 |
| 大学医学部附属病院 | 複雑な既往歴への対応可、記録管理良好 | 1種目1,500〜3,500円 |
| 内科一般診療所 | アクセス良好だが在庫限定 | 1種目1,200〜3,000円 |
同時接種について:複数のワクチンは同一日に異なる部位での接種が可能です。ただし、同一部位に複数のワクチンを接種することは避けなければなりません。また、生ワクチン同士(MMRと水痘など)は同日接種か、間隔を4週間以上空けることが必要です(不活化ワクチン同士の間隔制限はありません)。特に短期間で複数接種が必要な場合は、医師に相談して最適なスケジュールを立案してください。
3. 複数ワクチン同時接種の注意事項
同時に複数のワクチンを接種する場合、各ワクチンの免疫応答に相互干渉は原則として生じません。これは、免疫システムが同時に複数の抗原に応答できる「ポリバレント応答能力」を持っているためです。ただし、副反応(発熱・接種部位の疼痛)が重複・増強することは想定されますので、接種翌日に重要な予定(長距離フライトや重要な会議など)を入れないよう配慮することをお勧めします。
予防接種の費用と補助制度
標準的な費用(2025〜2026年時点の参考目安)
| ワクチン名 | 1回の費用(目安) | 必要回数 | 合計費用(目安) |
|---|---|---|---|
| MMR | 9,000〜12,000円 | 1〜2回 | 9,000〜24,000円 |
| Tdap | 3,000〜4,500円 | 1回 | 3,000〜4,500円 |
| B型肝炎 | 5,000〜8,000円 | 3回 | 15,000〜24,000円 |
| A型肝炎 | 7,000〜10,000円 | 2回 | 14,000〜20,000円 |
| インフルエンザ | 3,000〜4,500円 | 1回 | 3,000〜4,500円 |
| 肺炎球菌(PCV13) | 10,000〜15,000円 | 1回 | 10,000〜15,000円 |
| 髄膜炎菌(MenACWY) | 8,000〜12,000円 | 1回 | 8,000〜12,000円 |
| 髄膜炎菌(MenB) | 9,000〜14,000円 | 2回 | 18,000〜28,000円 |
| 帯状疱疹(Shingrix) | 20,000〜25,000円 | 2回 | 40,000〜50,000円 |
| COVID-19 | 0〜3,000円 | 1〜2回 | 0〜6,000円 |
※上記はすべて参考目安です。医療機関・地域・接種時期により費用は異なります。最新情報は大使館・外務省で確認してください。
これらのワクチンの多くは任意接種(自費)となります。ただし、以下のケースでは公費負担・補助が利用できる可能性があります。
費用補助の活用
-
健康診断・予防接種費用補助(自治体)
- 自治体によっては海外渡航向けワクチン接種費用の一部補助を実施
- お住まいの市区町村保健センターに相談
-
企業研修・出張の場合
- 企業が接種費用を負担する場合が多い
- 人事部門に確認
-
大学進学の場合
- 一部の大学が入学前ワクチン接種の補助を実施
- 入学説明資料で確認
-
海外渡航保険
- ワクチン接種費用を補償する特約がある場合がある
- 保険契約書で確認
-
医療費控除の活用
- 予防接種費用は確定申告の医療費控除の対象外となるケースが多いですが、一部の疾患予防目的として医師が処方・指示した場合は控除対象となる可能性があります。税理士または税務署に確認してください。
ワクチンと薬物相互作用・注意すべき医薬品
渡航前後に薬を服用している場合、ワクチンの効果や安全性に影響が出るケースがあります。薬剤師として特に注意が必要な相互作用を以下にまとめます。
免疫抑制薬・生物学的製剤
メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、TNF阻害薬(生物学的製剤)などの免疫抑制薬を使用中の場合、生ワクチン(MMR、水痘など)の接種は原則禁忌となります。また、不活化ワクチンでも免疫応答が低下し、十分な抗体産生が期待できない場合があります。渡航を検討している場合は、主治医(リウマチ科・消化器内科等)と担当薬剤師を含めて事前に十分な相談を行ってください。
経口ステロイド(プレドニゾロンなど)
プレドニゾロン換算で1日2mg/kg以上または20mg/日以上を2週間以上使用している場合は、生ワクチンの接種を原則避けます。投与量・期間・接種可能時期については医師の判断が必要です。
免疫グロブリン製剤・輸血
免疫グロブリン製剤(IVIG)の投与を受けた場合、受動的に取り込まれた抗体がMMRや水痘などの生ワクチンの抗原と結合し、免疫応答を阻害する可能性があります。投与量によりますが、IVIGの大量投与後は最低3〜11ヶ月の間隔を空けてからMMRを接種することが推奨されています(米国CDCのガイドラインに基づく)。
抗マラリア薬(経口生ワクチンへの影響)
現在日本で渡航前に利用される場面は少ないですが、経口腸チフスワクチン(Ty21a株)が一部国で使用されており、抗マラリア薬のメフロキンやドキシサイクリンと同時服用すると生ワクチンの有効性が低下する可能性があることが報告されています。これはアメリカ渡航では通常関係ありませんが、南米経由で渡航する場合などは留意が必要です。
渡航直前・現地でのチェックポイント
出発1週間前
- 全ワクチン接種完了日を確認
- 予防接種記録カード(黄色い手帳)をコピー
- 英文の予防接種証明書を医師に依頼(必要に応じて)
- 副反応の注意事項を確認
- 常用薬があれば現地での補充可能性を確認
薬剤師メモ
黄色い予防接種手帳は国際的に認識されていません。米国の医療機関に提示する際は、英文の接種記録が必要になる場合があります。渡航が決定した時点で医師に英文証明書発行を依頼することをお勧めします。証明書には接種日・ワクチン名(英語)・製造番号(ロット番号)・接種医師の署名を含めてもらうと、米国の教育機関・医療機関で受け入れられやすくなります。
現地での医療機関受診時に使える英語フレーズ
米国で医療機関を受診する際や、ワクチン接種歴を説明する場面で役立つフレーズです。
-
I have my vaccination records.(アイ ハヴ マイ ヴァクシネーション レコーズ):接種記録を持っています -
I was vaccinated against measles twice.(アイ ワズ ヴァクシネーテッド アゲンスト ミーズルズ トワイス):麻疹ワクチンを2回接種しています -
I'm not sure if I received the hepatitis B vaccine.(アイム ノット シュア イフ アイ リシーヴド ザ ヘパタイティス ビー ヴァクシン):B型肝炎ワクチンを受けたかどうかわかりません -
I have an allergy to eggs.(アイ ハヴ アン アラジー トゥ エッグズ):卵アレルギーがあります -
I am currently taking immunosuppressants.(アイ アム カレントリー テイキング イミュノサプレサンツ):現在免疫抑制薬を服用しています
現地でのワクチン再接種の相談
米国では日本とは異なるワクチンスケジュール(CDC推奨スケジュール)を採用しています。特に長期滞在や学生として入学する場合、米国の医療機関が追加接種を指示することがあります。
- 大学などの教育機関に入学する場合は、事前にワクチン接種要件を確認してください
- 多くの大学では麻疹の2回接種や髄膜炎菌(Meningococcal)ワクチン接種が入学条件となっています
- 入学後に「ワクチン未完了」として留め置かれないよう、渡航前に確認・接種を完了しておくことが理想です
副反応への対処と注意すべき症状
ワクチン接種後の副反応の大多数は軽微で、数日以内に自然消退します。ただし、まれに重篤な反応が起きる場合があります。
一般的な副反応と対処法
| 副反応 | 頻度 | 対処法 |
|---|---|---|
| 接種部位の疼痛・発赤・腫脹 | 非常に高頻度 | 冷罨法(冷やす)、1〜2日で自然消退 |
| 発熱(37.5〜38.5℃程度) | 中程度 | 十分な水分摂取、必要に応じてアセトアミノフェン使用可 |
| 倦怠感・頭痛 | 中程度 | 安静・水分補給 |
| MMR接種後の発疹 | 接種後5〜12日ごろに出現することがある | 通常は自然消退、発疹が広範囲・高熱を伴う場合は受診 |
**アナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)**は接種後30分以内に起こることが多く、医療機関での接種後は30分間の経過観察が推奨されています。接種後に呼吸困難・じんましん・血圧低下・意識消失などの症状が現れた場合は、直ちに接種医療機関または救急に連絡してください。
アセトアミノフェンと免疫応答
副反応対処のため解熱鎮痛薬を使用する場合は、アセトアミノフェンが第一選択となります。NSAIDs(イブプロフェンなど)との比較では、アセトアミノフェンの方がワクチン誘導免疫応答への影響が少ないとする報告があります(特に小児における一部のワクチンで検討されています)。なお、成人での影響は臨床的に大きな差はないとされていますが、予防的(接種前から定時服用)に解熱鎮痛薬を使用することは、一部のワクチン(特に肺炎球菌ワクチン)で抗体価を低下させる可能性が示唆されており、予防的服用は避け、症状が出た後に必要に応じて使用することが推奨されます。
よくある質問
Q1: 日本で接種したワクチンは米国で有効ですか?
A: はい、同じワクチンであれば有効です。ただし接種スケジュールが異なる場合があるため、接種記録を医師に提示してください。日本のワクチンと米国のワクチンは、成分は同等ですが製品名が異なる場合があります。接種証明書には成分名・ワクチン種類を英語で記載しておくと確認されやすくなります。
Q2: 渡航2週間前に気づいた場合はどうしたら良いですか?
A: 緊急接種も可能ですが、免疫形成に時間がかかる場合があります。予防接種専門クリニックに直ちに相談し、優先順位を決定してください。2週間という期限では、MMR(1〜2週で抗体上昇)とTdap(1週間以内に防御抗体獲得可能)は間に合う可能性がありますが、B型肝炎の完全免疫は間に合いません。優先順位は「渡航先での感染リスクが最も高いもの」から判断します。
Q3: 妊娠中・授乳中でもワクチン接種できますか?
A: ワクチンの種類により異なります。生ワクチン(MMR・水痘・帯状疱疹など)は妊娠中の接種は原則禁忌です。不活化ワクチン(Tdap・インフルエンザ・B型肝炎・A型肝炎・肺炎球菌など)は妊娠中でも接種可能とされており、特にTdapは妊娠27〜36週での接種が新生児への百日咳抗体移行の観点から推奨されています。授乳中についても、不活化ワクチンは一般的に安全とされています。いずれも産科主治医に相談のうえ、渡航前に確認してください。
Q4: アレルギーがある場合は?
A: 重篤なアレルギー歴がある場合は、予防接種を行う医師に必ず申告してください。成分確認や代替ワクチンの検討が可能です。特に卵アレルギーについては、従来は一部のインフルエンザワクチン・黄熱病ワクチンで注意が必要とされていましたが、近年のガイドラインでは重篤な卵アレルギーがある場合も医療機関での経過観察のもと接種が認められるケースが増えています。またゼラチンアレルギーはMMR・水痘ワクチンに含まれるゼラチンへの反応を起こすリスクがあるため、必ず申告してください。
Q5: 抗体検査(血液検査)でワクチンの必要性を事前確認できますか?
A: はい。麻疹・風疹・水痘・B型肝炎・A型肝炎については、抗体検査により免疫状態を事前確認することが可能です。既に十分な免疫がある場合は、不必要なワクチン接種と費用を省くことができます。特に麻疹・風疹については、自然感染による強力な免疫がある場合はワクチン不要と判断されます。ただし抗体検査にも費用が発生するため、費用対効果を含めて医師と相談してください。
まとめ
アメリカ渡航時の予防接種準備は、個人の年齢、既往歴、渡航先地域により異なります。以下のポイントを押さえて計画的に準備してください:
✅ 3〜6ヶ月前から準備開始
- 予防接種専門クリニックやトラベルクリニックで相談
- 接種履歴を確認して不足分を把握
- 必要に応じて抗体検査を実施
✅ 必須ワクチン(全年代)
- MMR(麻疹)、Tdap(破傷風等)、COVID-19ブースター
✅ リスク別の推奨接種
- 50歳以上:肺炎球菌、帯状疱疹(Shingrix)
- 学生寮入居:髄膜炎菌ワクチン(MenACWY・MenB)
- 衛生環境懸念地域:A型肝炎
✅ 薬学的注意点
- 生ワクチン同士は同日接種か4週間以上の間隔
- 免疫抑制薬使用中は生ワクチン禁忌
- 副反応対処には予防的解熱剤使用は避ける
✅ 長期滞在・教育機関入学の場合
- 事前に入学要件(Immunization Requirements)を確認
- 英文の予防接種記録を用意
✅ 費用対策
- 自治体・企業の補助制度を確認
- 同時接種で効率化
- 抗体検査で不要な接種を省く
✅ 渡航直前の確認
- 英文の接種記録証明書を携帯
- 副反応の注意事項を確認
- アナフィラキシーへの対応として接種後30分は医療機関近くで待機
最新情報は米国疾病対策センター(CDC)ウェブサイト( www.cdc.gov)、日本の外務省渡航情報サイト、駐日米国大使館の医薬品情報ページで随時確認してください。
不安な点がある場合は、必ず医療専門家に相談の上、渡航計画を立てることをお勧めします。
参考文献
-
CDC - Vaccines for Travelers: United States
https://www.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/united-states -
CDC - Recommended Immunization Schedule for Adults Aged 19 Years or Older, United States, 2024
https://www.cdc.gov/vaccines/schedules/hcp/imz/adult.html -
厚生労働省 - 予防接種情報(定期・任意接種)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html -
外務省 - 感染症危険情報(北米)
https://www.anzen.mofa.go.jp/ -
WHO - Immunization coverage
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/immunization-coverage -
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)- ワクチン情報
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/vaccines/0001.html
監修:薬剤師(博士(薬学))