UAE渡航時に注意すべき主要感染症
アラブ首長国連邦(UAE)は、中東随一の都市インフラと医療水準を誇りますが、渡航者が油断してよいわけではありません。熱帯・亜熱帯性気候の影響を受ける地域特有の感染症リスクに加え、乾燥・砂漠環境ならではの健康障害、そして急成長する都市部の衛生格差が混在しています。本記事では薬学・公衆衛生の観点から、UAE渡航時に実際に起こりやすい健康リスクとその対処法を体系的に解説します。
蚊を媒介とする感染症
UAEの湿度の高い沿岸地域では、蚊を媒介とする感染症が存在します。特にドバイ・アブダビのクリーク(入り江)周辺や大規模建設工事によって生じた水たまりは、ヤブカ(Aedes属)の繁殖に適した環境を形成します。UAE保健・予防省(MoHAP)は毎年夏季に蚊の発生モニタリングを強化しており、デング熱の輸入症例・局地的感染例が報告されています。
| 感染症 | 媒介蚊 | リスク地域 | 症状の特徴 |
|---|---|---|---|
| デング熱 | ヤブカ(Aedes aegypti) | ドバイ、アブダビ沿岸 | 発熱、関節痛、発疹、重症化で出血傾向 |
| チクングニア熱 | ヤブカ(Aedes albopictus) | 湿潤地区、建設現場周辺 | 高熱、関節痛(数週〜数ヶ月の長期化あり) |
| ウエストナイルウイルス | イエカ(Culex属) | 内陸部・農業地帯 | 軽度の発熱〜重篤な神経症状まで幅広い |
予防策:
- 蚊忌避剤(DEET 20〜30%含有)の皮膚露出部への塗布
- 長袖・長ズボンの着用(朝夕の活動時)
- 宿泊施設における窓の網戸・蚊帳の確認
- 水たまりや草木の多い場所への近づきすぎを避ける
薬剤師メモ(薬学的補足):DEET(N,N-ジエチル-m-トルアミド)は現時点で最もエビデンスが蓄積された蚊忌避成分です。濃度が高いほど効果持続時間は延びますが、皮膚刺激性も上昇するため、成人では20〜30%が推奨されます。WHOのガイドラインでも、6ヶ月以上の小児にはDEET 20%以下の製品を医師の指導のもとで使用するよう勧告しています。塗布後は石けんで手を洗い、眼・口への接触を避けてください。また、DEETはポリエステルやプラスチックを溶解する可能性があるため、衣類の素材や時計の樹脂バンドへの付着に注意が必要です。塗り直しの目安は気温・発汗量にもよりますが、概ね4〜6時間ごとです。
腸管感染症と食中毒
UAEは中東地域では衛生基準が比較的高いですが、渡航者下痢症(traveler's diarrhea、旅行者下痢症)のリスクは依然として存在します。食の多様性が高い都市国家であるため、屋台料理から高級ビュッフェまで食事機会の幅も広く、衛生管理のばらつきが課題です。
主な原因病原体:
- 毒素原性大腸菌(ETEC:enterotoxigenic Escherichia coli):旅行者下痢症の最多原因
- カンピロバクター(Campylobacter jejuni):加熱不十分な鶏肉が主な感染源
- サルモネラ(Salmonella spp.):卵・乳製品・生肉
- クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum):水系感染、免疫低下者で重症化リスク
症状対応医薬品(薬学的解説付き):
| 医薬品(成分名) | 主な用途 | 作用機序 | 薬剤師からの注意点 |
|---|---|---|---|
| ロペラミド塩酸塩 | 止瀉薬 | μオピオイド受容体作動により腸管蠕動を抑制、水・電解質の腸管分泌も減少 | 高熱・血便を伴う場合は禁忌に準ずる。細菌性腸炎では腸管内への毒素蓄積を助長する可能性がある |
| ビスマス次サリチル酸塩 | 下痢・消化不良 | 腸管粘膜保護、抗菌・抗分泌作用 | 舌・便が黒変するが無害な副作用。アスピリンアレルギー・腎障害では禁忌 |
| ベルベリン塩酸塩(OTC整腸剤) | 腸内環境改善 | 腸管内の直接抗菌・収斂作用 | 胃腸炎の補助療法として使用可能 |
薬剤師メモ:ロペラミド塩酸塩は腸管のμオピオイド受容体に作動し、腸管の過剰な蠕動を抑制します。中枢への移行はほとんどなく依存性リスクは低いですが、高熱(38.5℃以上)・血便・腹部の強い痛みを伴う場合、細菌性腸炎(サルモネラ・カンピロバクター等)の可能性があり、ロペラミドの使用は腸管内毒素の停滞を招く恐れがあります。このような場合は速やかに医療機関を受診し、医師の判断のもと適切な抗菌薬治療を検討してください。脱水補正のための経口補水塩(ORS)の同時使用が最優先です。
また、ビスマス次サリチル酸塩(米国・欧州では一般的なOTC下痢止め)はサリチル酸塩成分を含むため、アスピリン過敏症の方、腎機能障害のある方への使用は控えてください。服用後に舌・歯・便が黒くなることがありますが、これは硫化ビスマスの生成によるもので、無害です。
呼吸器感染症と砂塵(サンドストーム)リスク
UAEの冬季(11月〜3月)には気温低下・乾燥による呼吸器感染症が増加します。一方で季節を問わず特有のリスクとなるのが「砂嵐(ハブーブ)」と砂漠性砂塵(PM10・PM2.5)です。
冬季に増加する感染症:
- インフルエンザ(特にA型):渡航者や労働移民を介した輸入が多い
- 新型コロナウイルス感染症:現地の最新情報を確認
- RSウイルス感染症・一般的なライノウイルス風邪
砂塵による呼吸器リスク:
UAEでは年間を通じて砂塵(ダスト)が飛散しており、特に春〜初夏にかけてサンドストームが発生します。UAE国立気象センターの観測データでは、ドバイの年間PM10超過日数が相当数に上ることが知られています。砂塵粒子は気管支や肺胞に沈着し、以下の症状を引き起こす可能性があります:
- 気道刺激による咳・くしゃみ・鼻閉
- 喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)の増悪
- アレルギー性結膜炎・鼻炎の悪化
- まれにアスペルギルス症(免疫低下者)
砂塵対策の実践:
- サンドストーム警戒情報発令時は屋内待機
- N95規格(またはFFP2相当)のマスク着用
- コンタクトレンズは使用を避けゴーグルを着用
- 気管支拡張薬(β2刺激薬吸入薬)を持参している喘息患者は携帯を怠らない
- 帰宅後は鼻腔を生理食塩水で洗浄する
予防接種の検討:
- インフルエンザワクチン:渡航2週間前の接種が望ましい(免疫獲得まで2週間が目安)
- 新型コロナウイルスワクチン:現在の状況に応じて確認
- 肺炎球菌ワクチン(65歳以上、基礎疾患を有する方)
UAE内の飲料水・食事の安全性
飲料水の品質と注意点
UAEの水道水は淡水化海水(逆浸透膜RO処理)を主体としており、水質基準は欧州基準に準じる形で厳格に管理されています。一般的には飲用可能な水準です。ただし古い建物(特に1990年代以前に建設されたビルや地方部の宿舎)では、貯水タンクや配管からの2次汚染リスクを完全には否定できません。
飲料水に関する推奨事項:
- 高級ホテル・新築建物の蛇口水:基本的に飲用可能
- 築年数が古い建物や地方宿泊施設:市販ボトルウォーターの使用を推奨
- 屋台・路上販売の氷:氷の製造元が不明のため避けることを推奨
- コーヒー・紅茶・加熱調理された飲み物:沸騰処理されているため安全
- 市販ボトルウォーター:UAE国内大手メーカー(Al Ain、Masafi等)の製品が広く流通している
| 水源の種類 | 安全性評価 | 主な懸念 |
|---|---|---|
| ホテル蛇口水(新築・高級) | ◎ | ほぼなし |
| 一般建物の蛇口水 | ○ | 配管老朽化による汚染リスク |
| 屋台・路上の氷 | △ | 製造・保管環境が不明 |
| 封栓未開封ボトルウォーター | ◎ | ほぼなし |
| 自然水(ワジ等) | × | 汚染・微生物リスク |
食事選択のポイント
| 食べ物カテゴリ | 安全性目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| ホテル・高級レストラン | ★★★★★ | 衛生基準が厳格に管理 |
| 大型モール内フードコート | ★★★★☆ | 比較的安全。回転率の高い店舗を選ぶ |
| 屋台・ストリートフード | ★★☆☆☆ | 生野菜・冷製品は避ける。調理過程が見える店を選ぶ |
| 生野菜・生果物(皮付き) | ★★★☆☆ | 流水でよく洗うか、皮をむいてから摂取 |
| 乳製品 | ★★★★☆ | パスチャライズ(低温殺菌)処理済み製品が主流 |
| 生肉・半生の魚介類 | ★★☆☆☆ | カンピロバクター・サルモネラ・腸炎ビブリオリスク |
薬剤師メモ:食中毒予防の観点から「See it cooked, eat it hot(調理されているのを確認し、熱いうちに食べる)」の原則が有効です。UAEではフェニックスデーツ(なつめやし)やフムス(ひよこ豆ペースト)、シャワルマ(ケバブ系ラップ)が人気ですが、ビュッフェ形式で長時間常温放置された料理は注意が必要です。特に生乳チーズや半生の肉類は、旅行中は控える方が無難です。食前の手洗いには、アルコール濃度60〜80%のハンドサニタイザーが有効です。
UAEの気候と医薬品・衛生対策
気候特性による健康リスク
UAE(特にドバイ・アブダビ)の気候特性:
- 夏季(5月〜9月):気温45℃以上に達する日も多く、湿度50〜80%(沿岸部)
- 冬季(11月〜3月):気温20〜30℃、湿度30〜60%、過ごしやすいが砂塵は継続
- 春・秋(4月・10月):気温上昇と砂嵐の季節、紫外線指数(UV Index)が10超えを頻繁に記録
夏季の医薬品・対策
熱中症(熱射病・熱疲労)の機序と対策:
熱中症は体温調節機構の破綻により生じます。高温環境では汗腺からの蒸散による冷却が主な体温調節手段となりますが、UAE夏季のような高湿度下では蒸散効率が著しく低下し、体内熱蓄積が急速に進みます。特に以下のグループは重症化リスクが高まります:
- 高齢者(汗腺機能・口渇感の低下)
- 小児(体重あたりの体表面積が大きく熱吸収量が多い)
- 循環器・腎臓疾患患者
- 利尿薬・抗コリン薬・β遮断薬服用者(後述)
熱中症・脱水対策の医薬品的アプローチ:
経口補水療法(ORT)に使用する経口補水液(ORS:oral rehydration solution)は、WHO基準においてナトリウム75mEq/L、ブドウ糖75mmol/L、カリウム20mEq/L、塩化物65mEq/L、クエン酸塩10mEq/Lが推奨組成です。市販のスポーツドリンクはナトリウム濃度が低く、電解質補充としては不十分な場合があります。重度の脱水が疑われる場合(尿量の著明な減少、意識の変容、皮膚ツルゴールの低下)は経口補水のみでは不十分であり、医療機関での輸液治療が必要です。
薬物と熱中症リスクの関係(重要):
| 薬効分類 | 代表的成分 | 熱中症リスク増大の理由 |
|---|---|---|
| 利尿薬 | フロセミド、ヒドロクロロチアジド | 脱水・電解質異常を助長 |
| 抗コリン薬 | オキシブチニン、スコポラミン | 発汗抑制により体温放散障害 |
| β遮断薬 | プロプラノロール、メトプロロール | 心拍数増加による代償反応を抑制 |
| フェノチアジン系抗精神病薬 | クロルプロマジン等 | 体温調節中枢への作用、発汗低下 |
| 三環系抗うつ薬 | アミトリプチリン等 | 抗コリン作用による発汗障害 |
処方薬を服用している渡航者は、渡航前に主治医・薬剤師に「UAE夏季渡航に伴う熱中症リスク」について相談することを強く推奨します。
皮膚トラブル対策:
| トラブル | 原因 | 有効成分例 | 予防法 |
|---|---|---|---|
| 汗疹(あせも) | 汗孔閉塞・高温多湿 | ヒドロコルチゾン(低力価ステロイド)外用、カラミンローション | 綿素材衣類、こまめなシャワー |
| 日焼け(サンバーン) | 紫外線(UV-A/B) | SPF50+・PA+++以上のサンスクリーン、アロエベラ含有クーリングジェル | 日中(10〜15時)の外出制限 |
| 乾燥肌 | エアコン乾燥 | ヘパリン類似物質含有クリーム、尿素10〜20%クリーム | 保湿クリーム常時使用 |
| 熱傷(低温やけど) | 車内・金属表面の高温 | 冷却後に抗菌ガーゼ・ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)※医師処方 | 日中放置した車内の金属部分に注意 |
薬剤師メモ:紫外線防御においてSPF(Sun Protection Factor)はUV-Bに対する防御指標、PA(Protection Grade of UVA)はUV-Aに対する防御指標です。UAEは年間を通じてUV IndexがWHO基準の「Extreme(11以上)」に達する日が多く、SPF50+・PA++++製品の使用と2〜3時間ごとの塗り直しを徹底してください。サンスクリーンは外出30分前の塗布が推奨されています(光化学反応による皮膜形成時間の確保)。なお、化学系フィルター(オキシベンゾン等)と物理系フィルター(酸化チタン・酸化亜鉛)ではアレルギーリスクが異なりますので、敏感肌の方は物理系を選択してください。
冬季の医薬品・対策
呼吸器の乾燥対策:
UAE冬季は砂漠性の乾燥が顕著で、相対湿度が20〜30%台まで低下する日もあります。鼻腔・気道粘膜の乾燥は線毛運動を低下させ、ウイルス・細菌の排除能力を損ないます。
- 鼻腔洗浄(生理食塩水によるネティポット・スプレー):粘膜の加湿と異物除去に有効
- 口腔内の保湿:乾燥を感じたらこまめに水分補給
- 加湿器:ホテルのルームに用意がない場合、濡れタオルを部屋に干すだけでも有効
温度差による体調不良:
UAE冬季の特徴として、屋外気温(20〜30℃)と屋内エアコン設定(18℃前後)の温度差が大きく、1日に何度も激しい温度変化にさらされます。この反復する温度変化は自律神経系に負荷をかけ、頭痛・倦怠感・消化不良の原因となります。薄手のカーディガンやストールを常時携帯し、冷気への急激な暴露を緩和することを推奨します。
冬季向け常備薬の補足:
- イブプロフェン配合の解熱鎮痛薬(OTC):発熱・頭痛・筋肉痛に対応
- ロキソプロフェンナトリウム水和物配合の解熱鎮痛薬(日本OTC):同上
- 総合感冒薬(抗ヒスタミン薬+解熱鎮痛薬+鎮咳成分配合):風邪の諸症状に
UAE渡航時の医薬品持参ガイドライン
処方医薬品の持ち込み規制(重要)
UAEは医薬品の持ち込みに関して厳格な規制があります。UAE保健・予防省(MoHAP)が公表する規制リストに基づき、以下の手続きが必要です。
必須手続き:
- 主治医発行の英文診断書(病名・薬剤名・用法用量・処方理由を明記)を持参
- 処方箋のコピー(英語または日本語+英訳)を携帯
- 医薬品は開封済みでも原容器のまま持参(異なる容器への小分けは避ける)
- 入国時の税関申告(申告書に記載)
向精神薬・麻薬性鎮痛薬・睡眠薬のカテゴリについて:
UAEはMOHAP規制下で、麻薬・向精神薬に該当する医薬品の持ち込みに事前許可が必要な場合があります。具体的な手続き要件は薬剤の種類・数量によって異なるため、渡航前に必ず在日UAEアラブ首長国連邦大使館または日本国UAE大使館に最新情報を確認してください。許可なく持ち込んだ場合、現地法律に基づく処分の対象となる可能性があります(罰則の詳細は公式発表・現地法令を参照のこと)。
薬剤師メモ:日本では一般的に処方されるトリアゾラム(睡眠薬)、アルプラゾラム(抗不安薬)等のベンゾジアゼピン系薬や、コデイン配合の鎮咳薬、トラマドール(鎮痛薬)等は、UAEの向精神薬・麻薬規制の対象となり得ます。渡航前に薬剤師と相談し、同等の代替薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非オピオイド系鎮痛薬)への切り替えを検討することを強く推奨します。
常備医薬品リスト(推奨)
| 医薬品カテゴリ | 有効成分(一般名) | 数量目安 | 携帯理由 |
|---|---|---|---|
| 総合感冒薬 | アセトアミノフェン+抗ヒスタミン薬+鎮咳成分 | 10〜15包 | 冬季の呼吸器感染症対応 |
| 解熱鎮痛薬 | ロキソプロフェンナトリウム水和物またはイブプロフェン | 10〜15錠 | 頭痛、発熱、筋肉痛 |
| 止瀉薬 | ロペラミド塩酸塩 | 10〜15錠 | 渡航者下痢症対応 |
| 整腸薬 | ビフィズス菌・乳酸菌(ビオフェルミン等) | 1瓶 | 水・食事変化による腸内環境悪化対応 |
| 消化薬・胃腸薬 | ジアスターゼ・炭酸水素ナトリウム配合 | 1瓶 | 不規則・過食による胃もたれ |
| 経口補水塩(ORS) | ナトリウム・カリウム・ブドウ糖配合(粉末) | 5〜10袋 | 熱中症・下痢時の脱水補正 |
| 低力価ステロイド外用薬 | ヒドロコルチゾン酪酸エステル(OTC規格) | 1本 | あせも・虫刺され・接触皮膚炎 |
| 保湿剤 | ヘパリン類似物質またはセラミド配合 | 1本 | エアコン乾燥・砂塵による乾燥肌 |
| 抗アレルギー薬(第2世代) | フェキソフェナジン塩酸塩またはロラタジン | 10〜15錠 | 花粉症・砂塵アレルギー・蕁麻疹 |
| 鼻腔スプレー(生理食塩水) | 塩化ナトリウム0.9%溶液 | 1本 | 乾燥・砂塵による鼻腔トラブル対応 |
| 蚊忌避剤 | DEET 20〜30%含有スプレー | 1本 | 蚊媒介感染症予防 |
| サンスクリーン | SPF50+・PA++++(酸化チタンまたは有機フィルター) | 1本 | 強烈な紫外線対策 |
| 絆創膏・消毒薬 | ポビドンヨードまたはベンザルコニウム塩化物 | 適量 | 軽度外傷処置 |
| 目薬(人工涙液) | ヒアルロン酸ナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース | 1本 | 砂塵・エアコンによるドライアイ |
薬剤師メモ(抗アレルギー薬の薬学的補足):第2世代抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン塩酸塩、ロラタジン、セチリジン塩酸塩等)は、第1世代と比べて中枢神経抑制(眠気)が少なく、抗コリン作用も軽減されています。UAE夏季の熱中症リスクを考慮すると、抗コリン作用を有する第1世代抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン等)は発汗抑制を介した体温調節障害を引き起こす可能性があるため、第2世代への切り替えが推奨されます。現地(Boots等の薬局チェーン、大型スーパーマーケット)でも抗ヒスタミン薬の購入は可能ですが、成分・用量が日本品と異なる場合があるため、使い慣れた国内製品の持参が安心です。
UAE現地での医療施設利用
医療水準と医療機関の選択
UAE(特にドバイ・アブダビ)の医療水準は中東地域で最高水準に位置づけられており、欧米・インドから招聘された専門医が多数勤務しています。ドバイ保健局(DHA)とアブダビ保健局(HAAD/DoH)によって医療機関のライセンス管理・品質監督が行われています。
主な私立病院(参考):
- American Hospital Dubai(ドバイ):米国JCI認定
- Mediclinic City Hospital(ドバイ ヘルスケアシティ):欧州系医療グループ
- Cleveland Clinic Abu Dhabi(アブダビ):米国クリーブランドクリニック系列
- NMC Royal Hospital(アブダビ):インド系大手医療グループ
受診の流れ(実際の手順):
- ホテルのコンシェルジュまたはフロントへの相談(緊急でない場合)
- 海外旅行保険のキャッシュレス対応医療機関リストを確認
- 保険会社の緊急デスク(24時間対応)に連絡し、受診先・手続きの確認
- 直接受診:保険証書と旅券を持参
- 診察・処方・会計(キャッシュレス対応外の場合は立替払い後に請求)
英語での受診時に役立つフレーズ:
-
I have a fever and diarrhea.(アイ ハヴ ア フィーバー アンド ダイアリーア)(発熱と下痢があります) -
I feel dizzy and nauseous.(アイ フィール ディジー アンド ノーシャス)(めまいと吐き気があります) -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アレルジック トゥ ペニシリン)(ペニシリンアレルギーがあります) -
I am currently taking these medications.(アイ アム カレントリー テイキング ジーズ メディケーションズ)(現在これらの薬を服用しています) -
Do I need a prescription for this medicine?(ドゥ アイ ニード ア プレスクリプション フォー ジス メディシン?)(この薬は処方箋が必要ですか?)
薬剤師メモ:海外旅行保険は必ず加入のうえ渡航してください。UAE私立病院の診療費は高額になる場合があり、入院・手術が必要になった場合、費用が数百万円規模に達することもあります(目安として、保険会社・現地病院の公表する一般的な医療費水準に基づく)。キャッシュレス対応(保険会社が病院へ直接支払う)の保険プランを選択すると、現地でのキャッシュフロー問題を回避できます。処方薬については、UAE保健当局による承認薬リストに掲載のない医薬品は現地で入手困難なケースがあります。慢性疾患を有する方は必ず十分な量の処方薬を持参してください(渡航日数+予備として2週間分が推奨)。
季節別・状況別チェックリスト
渡航時期・目的に応じた健康リスクと対策を以下に整理します。
| 渡航時期 | 主なリスク | 優先的な準備 |
|---|---|---|
| 5月〜9月(夏季) | 熱中症・脱水、紫外線、蚊(デング熱) | ORS・経口補水液、サンスクリーンSPF50+、DEET含有虫除け、帽子・日傘 |
| 11月〜3月(冬季) | インフルエンザ・呼吸器感染症、乾燥、温度差による体調不良 | インフルワクチン接種(渡航前)、総合感冒薬、生理食塩水鼻腔スプレー、薄手の羽織り |
| 3月〜5月(春) | 砂嵐・砂塵、UV指数上昇、アレルギー性鼻炎 | N95マスク、ゴーグル、第2世代抗ヒスタミン薬、人工涙液 |
| 通年 | 腸管感染症・食中毒 | 整腸薬・止瀉薬、経口補水塩、手指消毒薬(アルコール60〜80%) |
| 長期滞在・就労 | 処方薬の継続確保、慢性疾患管理 | 英文診断書・処方箋、主治医との情報共有、現地医療機関の把握 |
まとめ
- 主要感染症:デング熱・チクングニア熱(ヤブカ媒介)、腸管感染症(ETEC・カンピロバクター等)、冬季の呼吸器感染症に注意する
- 飲料水:新築・高級ホテルの水道水は一般的に安全。古い建物や屋台の氷はボトルウォーターへの切り替えを推奨
- 食事:高級レストラン・モール内食事は安全性が高い。屋台の生もの・長時間常温放置のビュッフェ料理は避ける
- 夏季対策:熱中症・脱水・日焼けに備えて経口補水塩、SPF50+サンスクリーン、DEET含有虫除けを必ず持参する。利尿薬・抗コリン薬服用者は熱中症リスクが増大するため事前に主治医に相談する
- 砂塵対策:サンドストーム時はN95マスクとゴーグルを着用し、喘息患者は気管支拡張薬吸入薬を携帯する
- 冬季対策:インフルエンザワクチンを渡航2週間前に接種。乾燥対策として鼻腔洗浄スプレーと保湿剤を持参する
- 医薬品持参:処方薬は英文診断書・処方箋コピーとともに原容器で携帯。向精神薬・麻薬性薬剤は事前に大使館へ確認が必要
- 医療施設:私立病院の水準は高いが費用も高額。キャッシュレス対応の海外旅行保険への加入が必須
- 事前確認:最新の感染症・医薬品規制情報は外務省海外安全情報・在UAE日本大使館・CDC Travel Health Noticesで確認する
参考文献・情報源
-
World Health Organization (WHO). "Dengue and severe dengue." https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue
-
US Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Health – United Arab Emirates." https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/united-arab-emirates
-
厚生労働省. 「感染症法に基づく医師の届出のお願い(デング熱)」. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-040.html
-
外務省. 「海外安全情報 アラブ首長国連邦」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_012.html
-
UAE Ministry of Health and Prevention (MoHAP). "Health Resources." https://www.mohap.gov.ae/en
-
WHO. "Guide to ship sanitation – WHO Technical Report." (参照: 砂漠性砂塵の健康影響に関する記述) https://www.who.int/publications/i/item/9789241548694
-
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「医薬品に関する情報(OTC医薬品)」. https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/0001.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))