UAE渡航時の医療事情概要
アラブ首長国連邦(UAE)はドバイやアブダビを含む国として、中東地域では医療水準が比較的高く整備されています。しかし日本と異なる医療システムのため、渡航前に基本知識を備えることが重要です。
UAEの医療システムは、公営医療機関と民間医療機関の二層構造になっており、観光客や短期滞在者は民間医療機関の利用が一般的です。英語対応が可能な施設が多いため、コミュニケーション面での大きな障害は少ないと言えます。
UAEの公営医療機関は、ドバイ首長国ではDubai Health Authority(DHA)、アブダビ首長国ではDepartment of Health Abu Dhabi(DoH)がそれぞれ管轄しています。薬局の開設・薬剤師の免許登録もこれらの規制機関が一元的に管理しており、UAE国内で流通する医薬品はDHA/DoHが承認した製品のみです。日本国内で流通している薬品と同一成分であっても、製品名・製造会社・用量規格が異なる場合がほとんどです。渡航前に「成分名(一般名)」を手元に控えておくことが、現地での適切な薬品購入につながります。
医療費については、UAEは日本の国民健康保険制度のような全国一律の公的医療保険がなく、UAE国籍者・長期居住者以外は原則として全額自己負担となります。ドバイ首長国はVisitor Health Insurance(観光客向け医療保険)制度の議論が続いていますが、2025年時点では義務化には至っておらず、渡航者自身が海外旅行保険を手配することが不可欠です。
薬剤師メモ UAEは湿度が高く、特に夏季(6月〜9月)は気温が50℃近くまで上昇します。脱水症状や消化器症状の訴えが増加する時期のため、渡航時期に応じた医療対策が必要です。こまめな水分補給(目安:成人1日2〜3L)と経口補水液の携帯を強く推奨します。
緊急時の対応:救急番号999と搬送体制
救急番号の使い方
UAEの緊急電話番号は以下のとおりです。渡航前にスマートフォンのメモ帳に保存しておいてください。
| 用途 | 番号 | 備考 |
|---|---|---|
| 救急・消防 | 999 | UAE全土共通 |
| 警察 | 999 | 救急と共通 |
| 海岸警備隊 | 998 | 海難救助 |
| ドバイ警察(非緊急) | 901 | 軽微な問題 |
| アブダビ警察(非緊急) | 800-2626 | — |
999に電話すると英語対応のオペレーターにつながります。以下のフレーズを参考にしてください。
-
This is an emergency. I need an ambulance.(ディス イズ アン エマージェンシー。アイ ニード アン アンビュランス) -
I am at [hotel name / address].(アイ アム アット [ホテル名 / 住所]) -
The patient is unconscious.(ザ ペイシェント イズ アンコンシャス)
搬送後の医療費と注意点
救急搬送後は公営病院へ搬送されることが多く、費用は一般的に民間病院より高額になる場合があります。搬送先の確認と保険会社への速やかな連絡が重要です。入院時はパスポート・保険証券を受付に提示してください。
現地での薬局(ファーマシー)の利用方法
薬局の基本情報
UAEの薬局は「Pharmacy」または「Eczane」(一部アラビア語表記: صيدلية / Saidaliya)と表記されます。ドバイ・アブダビなどの主要都市では大手チェーン薬局から個人薬局まで幅広く展開しており、ショッピングモール内・ホテル近隣・空港内にも多数設置されています。
UAEでは薬剤師免許保持者が薬局に常駐することがDHAの規定で義務付けられており、一定水準の薬学的アドバイスが現地でも期待できます。ただし日本の薬剤師と異なり、調剤業務よりもOTC(Over The Counter、処方箋不要医薬品)の販売・相談業務が中心となります。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 営業時間 | 朝8時〜夜22時(多くの薬局)、24時間営業も存在 |
| 処方箋要否 | 軽度な医薬品は不要。抗生物質など一部は処方箋必須 |
| 価格帯 | 日本と同等〜やや高め(目安) |
| 言語対応 | 英語対応が標準。アラビア語併用 |
| 支払方法 | 現金、クレジットカード(Visa/Mastercard主流) |
薬局での購入手順
ステップ1:薬局の場所特定
- ホテルのコンシェルジュに最寄り薬局を確認する
- Google Mapで「Pharmacy near me(ファーマシー ニア ミー)」と検索する
- 空港・大型ショッピングモール内の薬局は営業時間が長く利用しやすい
ステップ2:症状説明と医薬品推奨
薬局スタッフ(薬剤師または薬学卒業者)に英語で症状を説明します。具体的な表現例:
-
I have a headache.(アイ ハヴ ア ヘッドエイク)— 頭痛があります -
I have digestive issues.(アイ ハヴ ダイジェスティヴ イシューズ)— 消化器の不調があります -
I have a runny nose.(アイ ハヴ ア ラニー ノーズ)— 鼻水が出ています -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アラージック トゥ ペニシリン)— ペニシリンアレルギーがあります -
What are the side effects of this medicine?(ワット アー ザ サイド イフェクツ オブ ディス メディシン?)— この薬の副作用を教えてください
ステップ3:医薬品の確認と購入
スタッフから推奨された医薬品の用法用量(Dosage and administration)を確認してから購入してください。特に小児・妊婦・授乳中・高齢者は事前に必ず申告し、適切な製剤を選択してもらいましょう。
薬剤師メモ UAEでは日本と異なる成分名・製品名で販売されている医薬品が大部分です。アクティブ成分(Active Ingredient)を薬局スタッフに確認することで、自分の既往歴や薬物相互作用を防ぐことができます。特に「ラベルに英語で成分名が記載されているか」を購入前に確認する習慣を持ちましょう。
入手可能な一般医薬品と薬学的解説
| 症状 | 推奨医薬品(成分名) | 備考 |
|---|---|---|
| 頭痛・発熱 | パラセタモール(アセトアミノフェン)500mg、イブプロフェン400mg | 処方箋不要 |
| 風邪・アレルギー症状 | セチリジン(cetirizine)、ロラタジン(loratadine) | アレルギー性鼻炎も対応 |
| 胃もたれ・消化不良 | オメプラゾール(omeprazole)20mg、ファモチジン(famotidine)20mg | 市販品あり |
| 下痢 | ロペラミド(loperamide)2mg | 感染性下痢への使用は慎重に |
| 便秘 | ドキュセート(docusate)、センノシド(sennoside) | 用途に応じて使い分け |
| 皮膚トラブル | ヒドロコルチゾンクリーム1%、クロトリマゾール(clotrimazole)1% | 軽度の場合は処方箋不要 |
| 目の充血・乾燥 | 人工涙液(artificial tears)、ヒアルロン酸点眼液 | コンタクト使用者向けも豊富 |
| 乗り物酔い | ジメンヒドリナート(dimenhydrinate)、シクリジン(cyclizine) | 眠気に注意 |
薬学的詳細解説:主要OTC成分
アセトアミノフェン(パラセタモール)
最も使用頻度の高い解熱鎮痛薬です。中枢性に体温調節中枢(視床下部)へ作用してプロスタグランジン合成を抑制することで解熱・鎮痛効果を発揮します。胃粘膜への直接刺激がほとんどないため空腹時にも服用可能で、腎機能が正常な成人であれば比較的安全に使用できます。ただし、過量服用(成人で1日4,000mgを超える量)では肝障害のリスクが高まります。UAE滞在中は食事・衛生環境の変化から消化器不調を起こしやすく、同時に市販の感冒薬・睡眠補助薬にもアセトアミノフェンが配合されていることが多いため、複数製品を同時使用する際は総摂取量に注意してください。
イブプロフェン(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)
シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン合成を抑制し、解熱・鎮痛・抗炎症の三作用を持ちます。アセトアミノフェンより抗炎症作用が強く、筋肉痛・関節痛・打撲痛に適しています。一方、胃粘膜への刺激性があり空腹時服用は避けることが望ましく、腎機能低下者・消化性潰瘍の既往がある方は使用を控えてください。高温環境下では脱水により腎血流が低下しやすく、NSAIDs使用が腎障害を悪化させるリスクがあります。UAE夏季渡航時は特に注意が必要です。
セチリジン・ロラタジン(第二世代抗ヒスタミン薬)
H1受容体を選択的に遮断することでアレルギー症状(鼻水・くしゃみ・皮膚のかゆみ)を緩和します。第一世代(ジフェンヒドラミン等)と比べ脳内移行性が低いため眠気の副作用が軽減されています。UAE特有のアレルゲンとして砂漠地帯の砂塵・特定の花粉が知られており、渡航者がアレルギー症状を呈するケースがあります。セチリジンは一部の人で眠気が出ることがあるため、運転・機械操作前の服用は避けてください。
ロペラミド(下痢止め)
腸管のオピオイドμ受容体に作用し、腸の蠕動運動を抑制して止瀉効果を発揮します。血液脳関門をほとんど通過しないため中枢神経系への影響は最小限です。旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)の対症療法として広く使用されますが、細菌性腸炎や赤痢・コレラなどの感染性下痢症では腸内の病原体・毒素が排出されにくくなるリスクがあるため、血便・高熱・粘液便を伴う場合は使用を中止して医療機関を受診してください。
ヒドロコルチゾンクリーム1%
副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)に分類される外用薬で、皮膚の炎症・かゆみを緩和します。UAE特有の高温多湿環境では汗疹・接触性皮膚炎・虫刺されによる炎症反応が起こりやすく、軽症例にはOTCの1%製剤が有効です。ただし顔面・眼周囲・陰部への使用は避け、同一部位への長期連続使用(目安として2週間を超える使用)は皮膚萎縮などの副作用を招くことがあります。
医療機関(病院・クリニック)の利用方法
受診先の選択基準
UAEでの受診先は、症状の重症度によって判断します。
軽度な症状(風邪、軽い胃痛など)→ クリニック(General Practice Clinic)
- 待時間が短い(15〜30分程度、目安)
- 費用が比較的安い(診察料の目安:100〜300 UAE Dirham程度)
- 24時間営業の施設も多数
中等度〜重度な症状(高熱、激しい腹痛、外傷、意識障害など)→ 病院(Hospital)
- 検査設備が充実
- 専門医による対応
- 救急外来(Emergency Department)への直接受診も可能
以下の症状は迷わず救急999へ:
- 胸痛・呼吸困難
- 意識障害・強い頭痛(くも膜下出血疑い)
- 大量出血・骨折
- アナフィラキシー(全身のじん麻疹+呼吸困難)
- 40℃を超える高熱が続く場合
主要な医療機関の特徴
| 医療機関名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|
| American Hospital Dubai | ドバイ | JCI認定、英語対応完全 |
| Cleveland Clinic Abu Dhabi | アブダビ | 高度な医療設備 |
| NMC Health(複数施設) | ドバイ・アブダビ | 大型チェーン、複数診療科 |
| Aster Hospital(複数施設) | UAE全域 | 観光客向け対応 |
| Mediclinic(複数施設) | ドバイ・アブダビ | 外来から入院まで対応 |
薬剤師メモ UAE公営医療機関は非居住者の費用が高額となる場合が多いため、観光客は民間医療機関を選択することが一般的です。一部の民間医療機関は日本語通訳サービスやトランスレーター手配に対応しています。受診前に施設の公式サイトで確認するか、ホテルのコンシェルジュに問い合わせましょう。
受診までの流れ
1. 医療機関の検索と予約
- ホテルのコンシェルジュに連絡
- Google Map で
Hospital near me(ホスピタル ニア ミー)検索 - 医療機関の公式Webサイトで24時間予約受付
2. 来院時の持参物
- パスポート(必須)
- 旅行保険の証券番号またはカード
- 常用薬の説明書(可能であれば英語版の薬剤情報)
- 既往歴・アレルギー情報を英語でメモしたもの
3. 受付での手続き
- 基本情報(氏名、パスポート番号)の記入
- 症状・既往歴の聞き取り(英語)
- 診察料の前払いを求められる場合あり(クレジットカード可)
4. 診察と処方
- 医師の診察(目安15〜30分)
- 必要に応じて検査(血液検査、尿検査、画像診断など)
- 処方箋(prescription)の受け取り
受診時に役立つ英語フレーズ:
-
I have been taking [medicine name] for [condition].(アイ ハヴ ビーン テイキング [薬品名] フォー [病名])— ○○の治療で△△を服用しています -
I am allergic to [substance].(アイ アム アラージック トゥ [物質名])— ○○にアレルギーがあります -
Can I get a medical certificate in English?(キャン アイ ゲット ア メディカル サーティフィケット イン イングリッシュ?)— 英文の診断書をもらえますか?
5. 薬局での処方箋調剤
- 同一施設内または提携薬局で調剤
- 抗生物質やステロイド薬も処方箋があれば購入可能
- 処方箋は他の薬局でも有効なケースがあるため、提携薬局が遠い場合は薬剤師に確認してください
処方薬に関する薬学的注意点
処方される抗生物質については、UAE国内ではアモキシシリン(amoxicillin)やアジスロマイシン(azithromycin)などが旅行者感染症に多く処方されます。抗生物質の自己判断による服用中止は耐性菌発生の観点から避けるべきで、処方期間を守り飲み切ることが原則です。また、マクロライド系抗生物質(アジスロマイシン等)は心電図QT延長を引き起こす可能性があり、抗不整脈薬や一部の抗ヒスタミン薬との併用には注意が必要です。
持ち込み規制薬品:UAE税関での注意点
規制薬品の取り扱い
UAEは麻薬・向精神薬に対する法規制が非常に厳しい国です。日本国内で合法的に処方された薬品であっても、UAE側の規制に抵触する場合があります。
持ち込みに注意が必要な成分(一例):
| カテゴリ | 該当する主な成分 | 備考 |
|---|---|---|
| 麻薬性鎮痛薬 | コデイン、トラマドール、モルヒネなど | 事前申請が必要となる場合あり |
| 向精神薬 | 一部のベンゾジアゼピン系、睡眠薬など | 少量でも持ち込み制限あり |
| 覚醒剤原料 | 一部の総合感冒薬(プソイドエフェドリン含有) | 含有量・規制は現地法に従う |
原則として:
- 30日以内の滞在であれば、必要量の処方薬を医師の処方箋・英文説明書とともに携行することが推奨されています
- 規制対象薬品は事前にUAE大使館またはUAE Ministry of Healthに事前申請・許可取得が必要となる可能性があります
- 規制違反は刑罰の対象となる可能性があります
薬剤師メモ 日本国内の処方箋のみでは不十分な場合があります。UAE渡航前に在日UAE大使館または日本国外務省のUAE渡航情報を確認し、必要に応じて英文の医師診断書・処方薬の詳細説明書を準備してください。不明点は渡航前に主治医および在日UAE大使館へ直接問い合わせることを強く推奨します。
旅行保険の使用方法
UAE渡航前に準備する保険タイプ
UAE渡航には、必ず海外旅行保険の加入が推奨されます。特に医療費が高額な地域のため、十分な補償額を確認してください。
| 保険種別 | 推奨補償額(目安) | 必須性 |
|---|---|---|
| 医療補償 | 300万円以上 | 必須 |
| 救急車搬送費 | 200万円以上 | 必須 |
| 緊急帰国費用 | 500万円以上 | 推奨 |
| 歯科治療費 | 10万円以上 | 推奨 |
民間病院での入院や手術が必要になった場合、数百万円以上の費用が発生することも想定されます。クレジットカードの付帯保険のみでは補償額が不足するケースが多いため、別途専用の海外旅行保険への加入を検討してください。
保険の事前登録手続き
ステップ1:保険会社連絡先の確認
- 保険証券の「海外アシスタンスセンター」番号をスマートフォンのメモ・スクリーンショットで保存
- 24時間日本語対応の緊急デスクがあるか確認する
ステップ2:UAE到着後の登録(推奨)
保険会社に渡航を伝え、現地のキャッシュレス対応医療機関リストを取得することで、受診時に直接請求を回避できます。
薬剤師メモ 日本の保険会社と提携している民間医療機関では、キャッシュレス診療が可能です。事前にWebサイトで確認するか、保険会社に相談してください。薬剤費(処方薬)も補償対象となる保険が多いですが、保険の種類によって対象範囲が異なります。処方箋受領時に必ず領収書と薬剤明細書を受け取ってください。
受診時の保険利用方法
パターンA:キャッシュレス診療(推奨)
- 医療機関受付で
I have travel insurance.(アイ ハヴ トラベル インシュアランス)と伝える - 保険会社名と証券番号を提示する
- 医療機関が保険会社に直接請求する
- 自己負担は不要または最小限で済む
パターンB:一時立て替え払い後に請求
- 診察料を現金またはクレジットカードで全額支払う
- 領収書(Invoice)と診断書(Medical Report)を受け取る
- 帰国後、保険会社に書類を提出する
- 補償額の範囲内で返金される
保険請求に必要な書類
| 書類名 | 内容 | 取得先 |
|---|---|---|
| 領収書(Invoice) | 診察費・薬代の明細 | 医療機関・薬局 |
| 医師の診断書 | 診断内容・処方医薬品 | 医療機関(英語版必須) |
| 処方箋コピー | 処方医薬品の記録 | 薬局 |
| 診察記録 | 検査結果、治療内容 | 医療機関(要求時) |
| パスポートコピー | 本人確認・渡航事実証明 | 自分で用意 |
薬剤師メモ 保険請求時に「医学的に必要な治療であること」を証明する必要があります。診断書は英語が標準ですが、保険会社から日本語翻訳版の指定がある場合は、医療機関に追加要望してください。薬剤費の請求では処方箋と薬剤明細書の両方が求められる場合があります。
旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)の薬学的対処法
UAE渡航者に多い消化器トラブル
UAE渡航者が経験する健康上の問題として、旅行者下痢症(TD: Traveler's Diarrhea)は最も頻度が高いもののひとつです。原因菌としては腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が最多で、カンピロバクター、サルモネラなども報告されています。
| 対処の方針 | 該当状況 | 使用薬・対応 |
|---|---|---|
| 経口補水療法(ORT) | 軽〜中等度の下痢 | 経口補水液(ORS)、スポーツ飲料 |
| 止瀉薬 | 頻回の水様便で日常生活に支障 | ロペラミド(loperamide) |
| 即時受診 | 血便・38.5℃超の発熱・粘液便 | 医療機関受診(抗菌薬処方) |
経口補水液(ORS)はUAEの薬局でも入手可能で、WHO推奨規格(ナトリウム75 mEq/L、グルコース75 mmol/L)に準じた製品を選ぶとより効果的です。市販のスポーツ飲料は糖質・塩分バランスがORSと異なるため、重症脱水には推奨されません。
熱中症・脱水症の予防と応急対応
UAE夏季に特有のリスク
UAE夏季(6〜9月)の気温は日中40〜50℃に達することがあり、湿度も高く、熱中症リスクは非常に高くなります。熱中症は熱疲労(Heat Exhaustion)から熱射病(Heat Stroke)まで段階があり、意識障害を伴う熱射病は生命に関わる医療緊急状態です。
熱中症の段階的症状と対応:
| 段階 | 主な症状 | 対応 |
|---|---|---|
| 熱けいれん | 手足の筋けいれん・大量発汗 | 涼しい場所で安静・経口補水液 |
| 熱疲労 | 頭痛・吐き気・めまい・脱力 | 涼しい場所で安静・冷却・補水 |
| 熱射病 | 意識障害・皮膚が熱く乾燥・体温40℃超 | 直ちに999へ・全身冷却 |
予防策:
- 日中(特に正午〜15時)の屋外活動を避ける
- 水分は口渇を感じる前からこまめに摂取(目安:30分ごとに150〜200mL)
- 薄い色の通気性の良い衣服を着用する
- アルコール・カフェイン飲料は利尿作用があり脱水を促進するため過剰摂取を避ける
UAE渡航者向けの医療対策チェックリスト
出発前の準備
- 旅行保険の加入(医療補償300万円以上を目安に確認)
- 常用薬の処方箋・英文説明書の取得(主治医に依頼)
- アレルギー情報・既往歴の英文メモ作成
- ワクチン接種状況の確認(A型肝炎、腸チフス等は渡航先リスクに応じて)
- 持ち込む薬品がUAE規制対象でないか確認
- 渡航先の医療機関情報・保険会社緊急連絡先のスクリーンショット保存
- 経口補水液パウダーの携帯(旅行者下痢症・脱水予防)
UAE到着後の行動
- ホテルに最寄り薬局・医療機関の場所を確認する
- 保険会社キャッシュレス対応医療機関リストを確認する
- 緊急番号999をスマートフォンの速番(スピードダイヤル)に登録する
- 体調管理(特に脱水症状の予防:こまめな水分補給)
まとめ
- UAE薬局の利用: 軽度な症状はファーマシーで購入可能。医薬品は成分名(一般名)で確認し、薬物相互作用・副作用に注意する
- 主要OTC成分の知識: アセトアミノフェンは過量に注意、イブプロフェンは脱水時の使用に要注意、ロペラミドは感染性下痢への使用は慎重に
- 医療機関選択: 軽症はクリニック、中等度以上は病院の緊急外来へ。民間医療機関が観光客向け
- 緊急時は999: 意識障害・胸痛・呼吸困難・大量出血は即座に救急要請
- 受診の流れ: 英語での症状説明が基本。パスポート・保険証券番号・服用薬リストを持参必須
- 旅行保険の活用: キャッシュレス診療対応医療機関の事前確認で自己負担を最小化できる
- 診療後の手続き: 領収書・英文診断書・処方箋コピーを必ず保管し、帰国後に保険請求
- 予防策: 脱水症状対策(こまめな水分補給)、食事衛生への留意が最重要
- 持ち込み薬の確認: コデイン・ベンゾジアゼピン系等の規制薬品は事前に在日UAE大使館へ確認
最新情報は、日本国外務省UAE大使館・総領事館のWebサイトで随時確認してください。
参考文献・参考情報
- World Health Organization (WHO). "Diarrhoeal disease." https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diarrhoeal-disease
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Diarrhea." CDC Yellow Book 2024. https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/preparing/travelers-diarrhea
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "United Arab Emirates – Traveler View." https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/united-arab-emirates
- 日本国外務省. 「アラブ首長国連邦 安全情報・医療情報」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_221.html
- Dubai Health Authority (DHA). "Pharmacy Regulations." https://www.dha.gov.ae/en/HealthRegulation/PharmacyReg
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「海外渡航時の医薬品の携帯について」. https://www.pmda.go.jp/
- World Health Organization (WHO). "Heat and Health." https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/climate-change-heat-and-health
監修: 薬剤師(博士(薬学))