ベトナム渡航前に必要な予防接種:スケジュール・費用・手続き完全ガイド
ベトナムは東南アジアの人気渡航地ですが、日本よりも蔓延している感染症が複数あります。渡航前の予防接種は、現地での感染症リスクを大幅に低減できる最も重要な予防対策です。本記事では、ベトナム渡航に際して必要・推奨される予防接種、接種スケジュール、費用目安を薬学的観点から解説します。
ベトナムは2023年以降、入国規制が大幅に緩和され、旅行者数が急増しています。一方で、A型肝炎・腸チフス・日本脳炎といった感染症の流行状況は渡航前の情報と大きくかけ離れていることもあります。渡航前に十分な時間をとり、免疫をしっかり獲得することが、現地での安全な滞在の基盤となります。
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ベトナム渡航で推奨される予防接種一覧
必須レベル:ほぼすべての渡航者に推奨
| 感染症 | ワクチン名 | 推奨理由 | 接種間隔 | 費用目安 |
|---|---|---|---|---|
| A型肝炎 | ハブリックス(不活化) | 汚染食水からの感染リスク高 | 初回→6ヶ月後 | 6,000~9,000円/回 |
| B型肝炎 | ビームゲン(遺伝子組換え) | 血液・体液接触のリスク | 0→1ヶ月→6ヶ月 | 5,000~8,000円/回 |
| 腸チフス | チフェリックス(Vi多糖体) | 衛生状態が不安定な地域 | 単回接種 | 4,500~7,000円 |
| 黄熱病 | イエロバックス(生ワクチン) | 第三国経由時の入国要件 | 単回接種(生涯有効) | 8,000~12,000円 |
薬剤師メモ:黄熱病ワクチンの注意点 黄熱病ワクチン(成分:黄熱ウイルス生ワクチン)は生ワクチンであるため、接種後に軽度の発熱・頭痛・筋肉痛が出ることがあります。まれに黄熱病ワクチン関連内臓病(YEL-AVD)や黄熱病ワクチン関連神経疾患(YEL-AND)といった重篤な副反応が報告されています。60歳以上・免疫抑制状態の方は特に接種前に医師と十分相談してください。接種証明書(国際予防接種証明書、いわゆるイエローカード)は接種から10日後に有効となります。第三国(アフリカ・中南米の黄熱病流行国)を経由してベトナムに入国する場合、証明書の提示を求められる場合があります。渡航日を確認した上で逆算して接種スケジュールを立てることが必須です。
各ワクチンの薬学的解説
A型肝炎ワクチン(不活化)
A型肝炎ウイルス(HAV)は糞口感染を主な経路とし、汚染された水や食物を介して広がります。ベトナムでは屋台料理や生野菜・生魚介類を通じた感染が報告されており、旅行者下痢症と並んで最もリスクが高い感染症の一つです。
不活化ワクチンはホルムアルデヒドで不活化したHAVを水酸化アルミニウムアジュバントとともに製剤化したものです。初回接種から2~4週間で防御的な抗体(抗HAV抗体)が産生され、2回接種を完了すると20年以上の免疫持続が期待できます。血清抗体価(抗HAV IgG)が陽性であれば既往感染・既往接種の可能性が高く、抗体検査で確認してから接種計画を立てることも有用です(抗体検査:約3,000円目安)。
副作用は注射部位の疼痛・発赤が最も多く(20~30%程度)、全身症状(発熱・頭痛)は比較的まれです。アルミニウムアジュバント含有製剤のため、アルミニウム過敏症の既往がある方は医師に申告してください。
B型肝炎ワクチン(遺伝子組換え)
B型肝炎ウイルス(HBV)は血液・性行為・非滅菌医療行為を介して伝播します。ベトナムの一般人口における HBsAg 陽性率は約8~10%と高く(WHO 推計)、長期滞在・医療行為・性的接触のリスクがある渡航者には特に推奨されます。
現在日本で使用される遺伝子組換えワクチンは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)で産生したHBs抗原をアジュバントと混合した製剤です。標準スケジュール(0・1・6ヶ月)で3回接種すると、健康成人の90~95%が防御抗体(抗HBs抗体10 mIU/mL以上)を獲得します。40歳以上や免疫低下状態では応答率が低下するため、接種後に抗体価確認が推奨される場合があります。
接種後の抗体陽転が確認された場合、成人では追加接種(ブースター)は通常不要とされています。ただし、医療従事者や免疫抑制患者では定期的な抗体価モニタリングが推奨されます。
腸チフスワクチン(Vi多糖体)
腸チフス(Salmonella typhi)はベトナムを含む東南アジア全域で流行しており、汚染食水・食物を介して感染します。Vi多糖体ワクチン(成分:Vi莢膜多糖体)は単回筋肉内注射で接種でき、接種後7日以内に防御免疫が成立します。有効率は約70~80%、免疫持続期間は約3年とされています。
なお、Vi多糖体ワクチンは2歳未満の小児には有効性が低い(T細胞非依存性抗原のため胸腺非依存的な免疫応答しか誘導されない)という薬学的特徴があります。2歳未満の渡航小児には腸チフス接合型ワクチン(Typbar-TCV など)の使用が国際的に推奨されていますが、日本国内での入手可否について事前に渡航医学外来に相談してください。
生ワクチン型の経口腸チフスワクチン(Ty21a)は日本では未承認のため、国内での接種は行われていません。
薬剤師メモ 腸チフスワクチンはあくまで予防の補助手段であり、有効率は100%ではありません。ワクチン接種後も「加熱した食物を選ぶ」「生水・氷を避ける」「手洗いを徹底する」といった食水衛生管理が必須です。
状況別推奨:リスク要因に応じた追加接種
| 対象者・状況 | ワクチン | 理由 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 農村部・長期滞在(4週間以上) | 日本脳炎 | 蚊媒介、農村部で流行 | 7,000~10,000円/回 |
| バイク利用・アウトドア活動 | 狂犬病 | 野生動物との接触リスク | 4,500~6,500円/回 |
| 医療従事者・密接接触の可能性 | 麻しん・風しん(MR) | 免疫状態確認後の接種 | 4,000~6,000円 |
| 破傷風未接種または10年以上経過 | Td(破傷風・ジフテリア) | 外傷時の二次感染防止 | 3,000~5,000円 |
日本脳炎ワクチンの薬学的解説
日本脳炎ウイルス(JEV:Japanese Encephalitis Virus)はフラビウイルス科に属し、コガタアカイエカを媒介とします。ベトナム全土、特にメコンデルタ・紅河デルタ・中部高原地帯の農村部では水田・養豚場周辺が高リスクゾーンです。致死率は20~30%、生存者の30~50%に神経学的後遺症が残るとされる重篤な感染症です。
日本国内で承認されている不活化日本脳炎ワクチン(Vero細胞由来)は、標準スケジュールで初回・28日後・1年後の3回接種が基本ですが、渡航目的には「急速接種スケジュール(0日・7~28日の2回)」が認められており、2回接種で一定の防御免疫が得られます。幼少期に乾燥ワクチン(マウス脳由来)で接種歴がある成人は、ブースターとして現行の不活化ワクチン1回追加接種が推奨されています。
ワクチンの抗原はVero細胞で増殖させたJEVをホルムアルデヒドで不活化・精製したものです。副作用として接種部位疼痛(約30%)・発熱(10%未満)が報告されており、まれにアレルギー反応が起こることがあります。過去に日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が報告されたことがありましたが、現行の不活化Veroワクチンではリスクは大幅に低減されています。
薬剤師メモ ベトナム農村部の滞在期間が4週間未満でも、雨季(5月~10月)の訪問・屋外活動が多い・蚊に刺されやすい状況ならば接種を検討する価値があります。都市部(ハノイ・ホーチミン市)への短期滞在のみであればリスクは相対的に低いですが、完全にゼロではないため、渡航医学外来で個別評価を受けることを推奨します。
狂犬病ワクチンの薬学的解説
ベトナムでは野良犬・猫・コウモリが狂犬病ウイルス(RABV)のリザーバーとして存在します。WHO の推計では、東南アジア地域で年間数万人が狂犬病で死亡しており、その多くが動物咬傷後の適切な暴露後処置(PEP)を受けられなかった事例です。
暴露前予防接種(PrEP)はVero細胞由来不活化狂犬病ワクチンを0・7・21(または28)日の3回筋肉内接種するスケジュールが標準です。PrEPを完了していると、万一咬傷を受けた場合でも0日・3日の2回追加接種(ブースター)のみで済み、免疫グロブリン(HRIG)投与が不要になります。これは現地医療機関での免疫グロブリン入手困難・偽造品リスクを考慮すると、長期滞在者・農村部訪問者にとって非常に大きなメリットです。
副作用は注射部位疼痛・腫脹(20~74%)が主で、アナフィラキシーは0.002%程度と極めてまれです。
薬剤師メモ 動物に咬まれた場合は、接種歴にかかわらず速やかに石鹸と流水で15分以上の傷口洗浄を行い、現地医療機関を受診してください。狂犬病は発症後の有効な治療法がなく、致死率はほぼ100%です。PrEPはあくまで「PEPを簡略化する」ものであり、咬傷後のPEP受診を免除するものではありません。
不要:ベトナム渡航で接種不要な主なワクチン
- ポリオワクチン:日本で定期接種済み(ただし定期接種未完了者は確認を)
- おたふくかぜ:渡航者向けの推奨なし(必要に応じて個別判断)
- BCG:ベトナムにも結核リスクはあるが、成人追加接種は推奨されていない(免疫低下者を除く)
- コレラワクチン:日本国内で承認されているものは主に経口型で、ベトナムへの一般渡航者への推奨度は低い
効率的な接種スケジュール計画
渡航予定日から逆算した接種スケジュール
複数のワクチンを接種する際は、ワクチン間の間隔・免疫獲得に要する期間・副反応のピーク(接種後24~48時間)を考慮したスケジューリングが重要です。生ワクチン同士(例:黄熱病と麻しん)を同日に接種できない場合は、28日以上の間隔が必要です。不活化ワクチン同士や不活化ワクチンと生ワクチンの組み合わせには間隔制限はありませんが、同日の複数接種は注射部位を別にし、副反応モニタリングを行ってください。
シナリオ1:3ヶ月以上の余裕がある場合(最適)
6ヶ月前~ : 医師・薬剤師に相談、ワクチン計画立案
5ヶ月前~ : 初回接種開始
A型肝炎①、B型肝炎①、腸チフス①、日本脳炎①(必要時)
4ヶ月前~ : B型肝炎②
3ヶ月前~ : A型肝炎②、日本脳炎②(必要時)、狂犬病①②③(必要時)
2ヶ月前~ : B型肝炎③、黄熱病①(必要時)
1ヶ月前~ : 最終確認、追加接種、渡航医学外来での最終チェック
渡航直前 : 接種記録・英文証明書の確認
このシナリオでは、すべてのワクチンを推奨スケジュール通りに完了でき、最大の防御免疫を獲得できます。B型肝炎の3回接種(0・1・6ヶ月)を完了することで、抗HBs抗体の長期持続が期待できます。
シナリオ2:1~2ヶ月の制限時間がある場合
2ヶ月前 : A型肝炎①、腸チフス①、黄熱病①(必要時)
1ヶ月前 : B型肝炎①②(急速接種:0・7日スケジュール)
日本脳炎①(急速接種可)
2週間前 : 日本脳炎②(急速接種)、狂犬病①(必要時)
薬剤師メモ B型肝炎ワクチンの「急速接種スケジュール」(0→7日→21日)も海外では使用されますが、日本国内の添付文書に基づく標準スケジュール(0→1ヶ月→6ヶ月)ほどの長期免疫応答が保証されるわけではありません。短期滞在(2週間以内)でB型肝炎リスクが限定的な場合は、帰国後の完全接種も選択肢です。接種スケジュールの変更は必ず接種医師と相談の上で行ってください。
シナリオ3:渡航まで2週間未満(緊急対応)
- 優先して接種すべき:A型肝炎①(接種後2~4週間で免疫成立)、腸チフス①(接種後7日で免疫成立)、黄熱病①(接種から10日後に証明書有効化)
- 検討対象:狂犬病①(完全な予防には3回接種が必要なため、暴露前予防としては不完全だが「咬傷後のブースター簡略化」効果は部分的に期待できる可能性あり、接種医師に相談)
- この期間では完了が困難:日本脳炎(複数回接種が必要)、B型肝炎(十分な免疫獲得に時間が不足)
- 非ワクチン予防策の徹底:虫よけスプレー(ディート含有・30%以上推奨)の使用、蚊帳、長袖長ズボン着用、食水管理の徹底、海外旅行保険加入
予防接種の費用と支払い方法
接種費用の総額目安(単価×回数)
基本セット(全員推奨)
- A型肝炎:12,000~18,000円(2回)
- B型肝炎:15,000~24,000円(3回)
- 腸チフス:4,500~7,000円(1回)
- 黄熱病:8,000~12,000円(1回)
- 小計:39,500~61,000円
追加セット(状況別)
- 日本脳炎:14,000~20,000円(2回急速接種)
- 狂犬病:13,500~19,500円(3回)
- Td(破傷風・ジフテリア)追加:3,000~5,000円(1回)
- 小計:30,500~44,500円
全接種を受けた場合の総額目安:70,000~105,500円
上記の費用は医療機関・地域によって異なります。同一ワクチンでも診療所と大学病院附属トラベルクリニックでは数千円の価格差が生じることがあります。複数回接種が必要なワクチンを同一医療機関で継続接種すると、接種記録管理の面でも利便性が高まります。
保険・補助金の活用
| 制度 | 対象 | 補助額 | 申請方法 |
|---|---|---|---|
| 健康保険適用 | 定期接種分のみ(B型肝炎など一部) | 数千円~完全補助 | 自治体窓口 |
| 自治体補助 | 市区町村により異なる | 1,000~5,000円/回 | 市町村役場で確認 |
| 企業補助 | 海外出張者(会社経由) | 全額~一部補助 | 人事・総務部に相談 |
| 民間旅行保険 | 保険契約者 | 渡航前ワクチンはほぼ補助なし | 保険会社に確認 |
薬剤師メモ:同時接種と副反応管理 複数ワクチンの同時接種は多くの組み合わせで安全ですが、インフルエンザや新型コロナワクチンとの同日接種を行う場合は医師に全ワクチン名を事前に申告してください。各ワクチンの副反応ピーク(接種後24~48時間)が重なると症状評価が困難になります。同日複数接種後は接種当日の激しい運動・飲酒を控え、異常(高熱・意識変容・呼吸困難)を感じた場合は速やかに医療機関を受診してください。
費用を節約するための具体的な方法
- 抗体検査の活用:A型肝炎・B型肝炎は過去の感染・接種で既に抗体を持っている可能性があります。事前に抗体検査(各約3,000円)を受けることで、不要な接種を省略できます。
- 渡航医学外来のまとめ接種:1回の診察で複数ワクチンを接種すると診察料が1回で済みます。
- 自治体の海外渡航者向け補助制度確認:一部の市区町村では腸チフス・A型肝炎などに独自の補助を設けています。出発前に居住地の保健センターに問い合わせてください。
- 会社の業務渡航費用申請:海外赴任・出張の場合、業務命令に基づく接種費用は会社が全額負担するケースが多くあります。
接種実施上の重要ポイント
1. 渡航医学外来での事前相談
全国の**渡航医学外来(トラベルクリニック)**では、個別の渡航リスク評価に基づいた接種スケジュール提案が可能です。渡航先・期間・目的・基礎疾患・服用薬・既往歴を持参すると、より精度の高い提案が受けられます。
| 主要施設例 | 特徴 |
|---|---|
| 国立国際医療研究センター(東京・新宿) | 渡航外来の専門施設、英文書類対応可 |
| 日本赤十字社各支部 | 全国で渡航医学相談・黄熱接種可 |
| 都市部の民間トラベルクリニック | 予約が取りやすく費用比較が可能 |
| 検疫所(国際空港・港) | 黄熱病ワクチン接種と証明書発行が可能 |
なお、黄熱病ワクチンを接種できる医療機関は指定黄熱病予防接種機関に限られています。厚生労働省検疫所のウェブサイト(FORTH)で全国の指定機関一覧を確認できます。
2. ワクチン接種記録と英文証明書
絶対に持参すべき書類
- 日本語の接種記録票(母子手帳・接種済証)
- 黄熱病ワクチン国際予防接種証明書(ICV:International Certificate of Vaccination)
- 接種から10日後に有効化
- WHO フォーマット準拠(イエローカード)
- 有効期間:生涯(2016年以降の改定により)
- 接種歴の英文サマリー(渡航医学外来で作成可)
英語で接種歴を伝える際のフレーズ:
-
I have been vaccinated against hepatitis A.(アイ ハヴ ビーン ヴァクシネイティッド アゲンスト ヘパタイティス エー) -
Do you need to see my vaccination record?(ドゥ ユー ニード トゥ シー マイ ヴァクシネイション レコード?)
3. 基礎疾患・服用薬がある場合の注意
免疫抑制状態の渡航者
ステロイド長期服用(プレドニゾロン換算で1日2mg/kg以上または20mg以上を2週間以上)・抗がん薬治療中・臓器移植後の免疫抑制剤服用中の方は、生ワクチン(黄熱病・麻しん・風しん等)の接種が禁忌または慎重投与となります。担当医と十分に相談し、渡航の可否も含めて判断してください。不活化ワクチンは免疫抑制状態でも接種可能ですが、免疫応答が低下しているため通常より抗体価が低くなる可能性があります。
卵アレルギーがある場合
黄熱病ワクチンは鶏卵を使用した製造工程を経ているため、重篤な卵アレルギー(アナフィラキシー歴)がある方は接種前に必ず医師に申告してください。皮内テストや段階的接種が必要な場合もあります。インフルエンザワクチンの卵アレルギーへの対応と同様の慎重さが求められます。
ワクチンと薬剤の相互作用
- 免疫グロブリン製剤との間隔:免疫グロブリン投与後は生ワクチンとの間に一定期間(製剤・用量により3ヶ月~11ヶ月)を設ける必要があります。輸血や静注免疫グロブリン(IVIG)を最近受けた方は接種医師に申告してください。
- 抗マラリア薬(クロロキン系)との相互作用:経口腸チフス生ワクチン(Ty21a)は抗生物質・クロロキン系薬と同時服用すると効果が低下するとされています(日本で使用される Vi 多糖体ワクチンは不活化製剤のため影響なし)。
- メフロキン(マラリア予防薬):日本国内での入手可否・処方については渡航医学外来に相談してください。
4. 妊娠中・授乳中の接種について
妊娠中は原則的に生ワクチンを避ける
- 不活化ワクチン(A型肝炎・B型肝炎・腸チフスVi多糖体・日本脳炎不活化)は妊娠中も基本的に接種可能ですが、主治医との相談が前提です。
- **黄熱病ワクチン(生ワクチン)**は原則禁忌。ただしハイリスク地域への渡航が不可避な場合は、医師の判断で接種することがあります。
- 狂犬病ワクチン(不活化)は妊娠中でも暴露後処置(PEP)として使用可能とされています。
授乳中は全ワクチン安全(乳汁への分泌なし、新生児への影響なし)
ベトナム渡航後の留意事項
現地での感染症リスクと非ワクチン予防策
| 感染症 | 現地流行地 | 主な予防策 |
|---|---|---|
| デング熱 | 全域(年通して、雨季に増加) | ディート含有蚊よけスプレー、蚊帳、長袖長ズボン |
| マラリア | メコンデルタ、中部山岳地帯 | 蚊よけ対策+必要に応じて予防薬 |
| 腸チフス/パラチフス | 都市部含む全域 | 加熱食品を選ぶ、ボトル入り水、手洗い |
| A型肝炎 | 全域 | ワクチン接種後も衛生管理を継続 |
| ジカ熱 | 南部を中心に流行報告あり | 蚊よけ対策、妊婦は特に注意 |
| 腸管出血性大腸菌感染症 | 全域 | 加熱食品、生野菜の回避 |
薬剤師メモ:デング熱とマラリアの予防薬について デング熱には現在、日本国内で一般渡航者が使用できる予防薬はなく(国内承認ワクチンは重症化予防目的の限定的使用)、蚊よけ対策が唯一の手段です。 マラリア予防薬(ドキシサイクリン・アトバコン/プログアニル配合剤など)は自己判断での服用は避け、渡航前に渡航医学外来で処方を受けてください。ドキシサイクリン(成分名:ドキシサイクリン塩酸塩)は光線過敏症を起こすことがあるため、服用中は日焼け対策が必要です。また抗菌薬耐性の観点からも、渡航地域のマラリア原虫の薬剤感受性について医師に確認した上で処方薬を選択してください。
現地で使うべき医療英語フレーズ
現地で体調不良になった際に医療機関で使える英語フレーズ:
-
I have a fever and diarrhea.(アイ ハヴ ア フィーヴァー アンド ダイアリア) -
I was bitten by a dog.(アイ ウォズ ビトゥン バイ ア ドッグ) -
I need a rabies post-exposure treatment.(アイ ニード ア レイビーズ ポスト エクスポージャー トリートメント) -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アレルジック トゥ ペニシリン)
帰国後の接種完了スケジュール
B型肝炎やA型肝炎の複数回シリーズを渡航中に完了できなかった場合は、帰国後に続行する必要があります。接種シリーズの途中で中断してしまった場合でも、最初からやり直す必要はなく、中断したところから再開するのが原則です。
| ワクチン | 次回接種の上限期間 | 目安 |
|---|---|---|
| B型肝炎②(1回目から) | 規定なし(可能な限り早めに) | 1回目から1ヶ月前後が推奨 |
| B型肝炎③(1回目から) | 規定なし(遅れても続行) | 1回目から6ヶ月前後が推奨 |
| A型肝炎②(1回目から) | 1回目から12ヶ月以内に接種が理想 | 6~12ヶ月後が推奨 |
| 日本脳炎②(急速:1回目から) | 7~28日後(急速スケジュール) | 接種医師と確認 |
帰国後の医師に前回の接種記録(接種日・製品名・ロット番号が記載されたもの)を必ず提示し、適切な追加接種を受けてください。
ベトナム渡航者が現地で直面する医療事情
ベトナムの医療水準は都市部(ハノイ・ホーチミン市)と農村部で大きく異なります。大都市の国際病院(例:FV Hospital、Vinmec など)では英語対応が可能ですが、地方では英語が通じない場合も多く、医薬品の品質管理や注射器の衛生状態についても一定の注意が必要です。
以下の点を渡航前に確認・準備しておくことを推奨します。
- 海外旅行傷害保険のキャッシュレス医療サービスの確認:ベトナムの国際病院は料金が高く、保険会社の提携病院リストの事前確認が重要です。
- 常備薬の持参:整腸剤(乳酸菌製剤・ロペラミド塩酸塩配合の止瀉薬など)、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン配合製剤)を持参することで、軽度の下痢・発熱への対処が可能です。ただし抗生物質は自己判断で使用せず、医師の処方に基づいて使用してください。
- 緊急連絡先の事前確認:在ベトナム日本国大使館(ハノイ)・在ホーチミン市日本国総領事館の電話番号をスマートフォンに登録しておきましょう。
まとめ
✅ ベトナム渡航前の予防接種チェックリスト
- 必須3種は全員推奨:A型肝炎(2回)、B型肝炎(3回)、腸チフス(1回)
- 黄熱病ワクチンは接種から10日後の有効化を確認し、指定機関での接種・国際証明書取得を
- 農村部・長期滞在(4週間以上) なら日本脳炎、バイク利用・アウトドア なら狂犬病も検討
- 3~6ヶ月前から渡航医学外来で計画立案が理想的(最低2週間前には初回接種を)
- 総費用は70,000~105,500円が目安(抗体検査・自治体補助で削減可能)
- 接種記録と黄熱病国際証明書(ICV)は必ず携行
- 免疫抑制状態・妊娠中は生ワクチン禁忌、接種前に主治医への相談を必須とする
- 現地でもディート含有蚊よけ・食水衛生管理を徹底
- 帰国後も追加接種のシリーズ完了を忘れずに
- 最新の感染症情報は**外務省海外安全ホームページ・厚生労働省検疫所(FORTH)**で随時確認
参考文献
-
厚生労働省検疫所(FORTH)「海外渡航のためのワクチン情報」
https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html -
World Health Organization (WHO). "Japanese encephalitis." Vaccine-preventable diseases / immunization data.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/japanese-encephalitis -
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Vietnam: Traveler Health."
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/vietnam -
World Health Organization (WHO). "Typhoid vaccines: WHO position paper." Weekly Epidemiological Record. 2018;93(13):153–172.
https://www.who.int/publications/i/item/who-wer9313 -
World Health Organization (WHO). "Rabies vaccines: WHO position paper." Weekly Epidemiological Record. 2018;93(16):201–220.
https://www.who.int/publications/i/item/who-wer9316 -
厚生労働省「予防接種法に基づく定期の予防接種の実施について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html -
CDC. "Yellow Fever Vaccine & Malaria Prevention Information, by Country: Vietnam."
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/vietnam#vaccines-and-medicines
監修:薬剤師(博士(薬学))