ベルギーの医療システム概要
ベルギーは西ヨーロッパに位置し、医療水準がきわめて高い国です。国民皆保険制度(Ziekteverzekering / Assurance maladie)があり、医療インフラが充実しています。ただし日本とシステムが異なるため、旅行者は事前理解が重要です。
ベルギーの医療制度の特徴
ベルギーの医療は以下の特徴があります:
- 言語対応:フラマン語(オランダ語)、フランス語が主流。ブリュッセルでは英語対応も可能
- 受診方法:原則として一般医(GP: General Practitioner)を通す必要がある
- 診療費:旅行者は全額自己負担が基本。後から保険請求
- 営業時間:多くの診療所は平日8時〜17時。夜間・休日は救急科(Emergency Department)を利用
ベルギーの医療制度は連邦制国家の複雑な構造を反映しており、フランデレン地域・ワロン地域・ブリュッセル首都圏で一部制度が異なります。旅行者が主に利用するのはいわゆる「第一線診療(Eerstelijnszorg / Médecine de première ligne)」であり、GP(一般医)が窓口となって専門医や病院への紹介状を発行するゲートキーパー方式が採用されています。日本のように希望する専門科に直接飛び込み受診することは原則できないため、緊急性のない症状であれば必ずGPの予約から始めてください。
また、EU市民はEHIC(European Health Insurance Card)による医療費の一部免除が受けられますが、日本人を含む非EU市民にはこの制度は適用されません。したがって旅行保険への加入が実質的に不可欠です。
薬剤師メモ ベルギーの医療機関は予約制が一般的です。直接訪問よりも電話やオンライン予約が推奨されます。緊急時でない限り、夜間・休日の救急部門は混雑するため注意が必要です。ブリュッセルではGPオンライン予約プラットフォーム「Doctolib(ドクトリブ)」が普及しており、英語インターフェースでの予約も可能です。
ベルギーの救急番号:112
欧州統一緊急番号 112 はベルギー全土で24時間無料でつながります。日本の119に相当する医療救急と、110に相当する警察(Politie / Police)機能を橋渡しするオペレーターが対応します。
| 緊急番号 | 用途 |
|---|---|
| 112 | 医療救急・火災・重篤な事故(EU統一番号) |
| 101 | 警察(ベルギー国内専用) |
| 1733 | 夜間・休日のGP当直サービス(Huisartsenwachtpost) |
1733はベルギー独自の「一般医当直番号」で、深夜や週末に軽度〜中等度の症状で困ったときに電話するとトリアージを受け、最寄りの当直GP診療所や当番薬局(Wachtdienst / Pharmacie de garde)を案内してもらえます。英語対応可能なオペレーターも配置されており、旅行者でも利用しやすい仕組みです。
現地での医療機関の探し方と受診手順
医療機関の種類と選択基準
| 医療機関 | 対応症状 | 営業時間 | 予約要否 |
|---|---|---|---|
| 一般医院(GP) | 風邪・軽い怪我・処方箋 | 平日8〜17時 | 要予約 |
| 薬局(Apotheek / Pharmacie) | OTC医薬品・医療用医薬品 | 平日〜土曜 | 不要 |
| GP当直診療所(Wachtpost) | 軽度から中等度 | 夜間・休日 | 電話確認推奨 |
| 病院救急科(Spoedgevallen / Urgences) | 重篤・外傷・24時間対応 | 24時間 | 不要 |
| 歯科医院(Tandarts / Dentiste) | 歯痛・歯科処置 | 平日(要確認) | 要予約 |
GP当直診療所(Wachtpost)は、夜間・休日において救急科への不要な集中を防ぐために整備されたベルギー独自のシステムです。重篤でない症状(38度台の発熱、軽い腹痛など)であれば、大病院の救急科ではなくWachtpostへ誘導されるのが一般的です。1733に電話するとその日の担当Wachtpostの場所と受付時間を案内されます。
受診に使える英語フレーズ集
現地の医師・薬剤師と円滑にコミュニケーションを取るため、以下のフレーズを覚えておくと役立ちます。
-
I have travel insurance from Japan.(アイ ハヴ トラベル インシュアランス フロム ジャパン)―― 旅行保険を持っています -
Can I get a detailed receipt for insurance claims?(キャン アイ ゲット ア ディテールド リシート フォー インシュアランス クレイムズ?)―― 保険請求用の詳細領収書をもらえますか -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アラジック トゥ ペニシリン)―― ペニシリンアレルギーがあります -
I take this medication daily.(アイ テイク ディス メディケーション デイリー)―― この薬を毎日服用しています(薬の現物を見せる) -
Where is the nearest pharmacy on duty?(ウェア イズ ザ ニアレスト ファーマシー オン デューティ?)―― 最寄りの当番薬局はどこですか
主要都市の医療機関検索サイト
ブリュッセル:
- Doctolib Belgium( www.doctolib.be):英語インターフェースでGP予約が可能
- 各公立・私立病院の公式ウェブサイト
アントワープ・ゲント・リエージュなど:
- Google Mapsで「General Practitioner 〔都市名〕」と検索し、口コミで英語対応可否を確認
受診時に必要な物
- パスポート(身分確認用)
- 旅行保険証券(写真またはデジタルコピー)
- 医療情報カード(持病がある場合)
- クレジットカード(診療費の自己負担分決済用)
- 常用薬の現物または添付文書(成分名が明記されているもの)
薬剤師メモ ベルギーでは医療機関から直接英語対応を期待できない場合があります。Google翻訳やWi-Fiレンタルサービスを活用し、重要な医療会話は翻訳して対応することをお勧めします。特に処方薬の成分名を英語で確認できるよう、日本で処方されている薬のジェネリック名(一般名)をメモしておくと万全です。
ベルギーの薬局利用ガイド
薬局(Apotheek / Pharmacie)での対応
ベルギーの薬局は医療的相談が可能で、軽い症状であれば薬剤師に相談できます。ベルギーの薬剤師は5年制の大学薬学部を卒業した国家資格者であり、OTC医薬品のカウンセリングだけでなく、ポリファーマシー(多剤併用)の管理や投薬記録の一元管理(Farmaceutisch Dossier / Dossier Pharmaceutique)も担っています。旅行者でも簡単なカウンセリングを受けることができ、医師受診の必要性を判断してもらうトリアージ的役割も期待できます。
主なサービス:
- 医師の処方箋に基づく医療用医薬品の調剤
- OTC医薬品(風邪薬・胃腸薬・痛み止めなど)の販売
- 医療相談(軽い症状に対する助言)
- 予防接種(一部薬局:インフルエンザ・COVID-19など)
- 血圧測定・血糖値測定(一部薬局)
薬局での会話例
英語でのやり取り:
I have a headache and fever. Can you recommend something?(アイ ハヴ ア ヘッドエイク アンド フィーバー。 キャン ユー レコメンド サムシング?)
(頭痛と熱があります。何かお勧めはありますか?)
→ 薬剤師が症状を聞き、OTC医薬品を勧めるか医師受診を勧めます
Do you have anything for diarrhea?(ドゥ ユー ハヴ エニシング フォー ダイアリーア?)
(下痢止めはありますか?)
Is this safe to take with my current medication?(イズ ディス セーフ トゥ テイク ウィズ マイ カレント メディケーション?)
(今飲んでいる薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?)
ベルギーで購入可能なOTC医薬品と薬学的解説
ベルギーではEU共通の医薬品規制(EMA: European Medicines Agency)のもと、処方箋不要のOTC医薬品が薬局で販売されています。以下に主要な成分とその薬学的特性を解説します。
| 症状 | 成分名(一般名) | 代表的商品名の例 | 薬局購入 |
|---|---|---|---|
| 頭痛・発熱 | パラセタモール(アセトアミノフェン) | Paracetamol Actavis® 等 | ○ |
| 頭痛・発熱・炎症 | イブプロフェン | Advil®、Nurofen® 等 | ○ |
| 鼻風邪・鼻づまり | フェニレフリン / キシロメタゾリン | 各種点鼻薬 | ○ |
| 咳止め | デキストロメトルファン臭化水素酸塩 | Robitussin® 等 | ○ |
| 去痰 | アセチルシステイン / グアイフェネシン | ACC® 等 | ○ |
| 胃酸過多・胸やけ | オメプラゾール / パントプラゾール | Losec OTC® 等 | ○ |
| 下痢 | ロペラミド塩酸塩 | Imodium® | ○ |
| 便秘 | ビサコジル / マクロゴール | Dulcolax® 等 | ○ |
| アレルギー・花粉症 | セチリジン塩酸塩 / ロラタジン | Zyrtec®、Claritine® 等 | ○ |
| 乗り物酔い | ジメンヒドリナート | Dramamine® 等 | ○ |
重要: 商品名は国によって異なります。現地薬局では成分名(一般名)を示すと確実です。上記商品名はあくまで代表例であり、在庫状況や流通は変動します。
薬学的深掘り:主要成分の機序・注意点
① パラセタモール(アセトアミノフェン)
中枢性COX阻害を主機序とする解熱鎮痛薬で、末梢組織への抗炎症作用は弱い反面、胃粘膜への直接刺激が少ないため空腹時服用も可能です。EU標準成人用量は通常1回500〜1000mg、1日最大4000mgです(ただし飲酒習慣のある方や肝疾患を有する方は上限を大幅に下げる必要があります)。ベルギーの薬局では500mg錠が一般的に販売されており、日本の市販薬に比べ1錠あたりの用量が高い製品もあるため、用法・用量の確認を徹底してください。グルタチオン代謝経路が飽和する過剰摂取では急性肝壊死を起こす危険があるため、同日に複数のパラセタモール含有製品(総合感冒薬との重複服用など)を服用しないよう注意が必要です。
② イブプロフェン
非選択的NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で、COX-1・COX-2両方を阻害することで解熱・鎮痛・抗炎症作用を発揮します。EU標準成人用量は通常1回200〜400mg、1日最大1200mgです(医師管理下では最大2400mgまで)。胃粘膜のプロスタグランジン産生を抑制するため、空腹時服用は胃粘膜障害リスクを高めます。必ず食後服用を心がけてください。アスピリン喘息(アスピリン過敏性喘息)の既往がある方はイブプロフェンをはじめとするNSAIDs全般が禁忌となります。また、ワルファリンやSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)との相互作用があり、出血リスクが増大するため、これらの薬を常用している方は必ず薬剤師に伝えてください。
③ ロペラミド塩酸塩
腸管の μ(ミュー)オピオイド受容体に選択的に結合し、腸管平滑筋の蠕動運動を抑制することで止瀉(下痢止め)作用を発揮します。脂溶性が高いですが血液脳関門を通過しにくいため、中枢性オピオイド作用(多幸感・依存性)はほぼ示しません。EU標準成人用量は1回2mg、その後1回排便ごとに2mg追加、1日最大16mgです。細菌性下痢(血便・高熱を伴う)の場合は腸管内の毒素排出を妨げる可能性があるため使用を避け、医師診察を優先してください。
④ セチリジン塩酸塩・ロラタジン(第二世代抗ヒスタミン薬)
H1受容体を選択的に遮断し、ヒスタミンによるアレルギー症状(鼻汁・くしゃみ・皮膚掻痒など)を抑制します。第一世代抗ヒスタミン薬と異なり血液脳関門透過性が低く、眠気・口渇などの副作用が比較的少ない点が特徴です。ただしセチリジンは個人差が大きく、眠気を感じる方もいるため、運転前の服用は避けてください。ロラタジンはほぼ眠気を示さないとされ、日中の使用に向いています。
⑤ デキストロメトルファン臭化水素酸塩
中枢性咳嗽反射を抑制する非依存性の鎮咳薬(コデイン非含有)です。μオピオイド受容体への親和性は低く、NMDA受容体拮抗を主な機序とするため依存性リスクは低いとされています。ただし、MAO阻害薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)との併用はセロトニン症候群のリスクがあるため禁忌です。また、去痰が必要な湿性咳嗽(痰がらみの咳)には鎮咳薬より去痰薬(アセチルシステインなど)の方が適切な場合があります。
薬局の営業時間と当番薬局(Wachtdienst / Pharmacie de garde)
- 通常営業:月〜金 8:30〜18:30頃、土 9:00〜13:00頃(店舗により異なる)
- 日曜・祝日:多くの薬局が閉店
- 夜間・休日対応:当番薬局制度(Wachtdienst / Pharmacie de garde)により、各地区で1店舗以上が24時間対応
当番薬局の探し方:
- 最寄り薬局の入口ドア(または窓)に掲示されているリストを確認
- 1733(GP当直番号)に電話して案内してもらう
- ウェブサイト「pharmacie.be」または「apotheek.be」で郵便番号を入力して検索
薬剤師メモ ベルギーはEU加盟国のため、ドイツ製やフランス製医薬品も流通しており、商品名が異なることがあります。成分名(一般名)で相談する方が確実です。また、当番薬局では深夜割増料金(Nachtvergoeding / Supplément de nuit)が加算されることがあります(目安として数ユーロ程度)。
旅行保険の使い方と請求手続き
旅行保険の加入確認
ベルギー渡航前に必ず以下を確認してください:
確認項目:
- 医療費補償額(通常100万円以上推奨。長期滞在や高リスク活動がある場合はさらに高額補償を)
- 歯科治療・眼科の補償対象の有無
- 予防接種・既往症の除外条件
- 救急搬送(医療用チャーター機含む)の補償有無
- 24時間日本語サポート体制の有無
医療機関での受診時の流れ
ステップ1:受診前の準備
保険会社に電話 → 提携医療機関の確認 → 受診予約(緊急時は112へ直接連絡)
ステップ2:受診時
医療機関で I have travel insurance from Japan.(アイ ハヴ トラベル インシュアランス フロム ジャパン) と伝える → 保険証券番号・契約者名を提供 → 領収書(Invoice)を必ず受け取る
ステップ3:帰国後の請求
医療領収書 + 診断書 + 処方箋を保険会社に送付 → 指定銀行口座に補償金が振込(保険会社により日数は異なる)
旅行保険で補償される医療費の例
| 項目 | ベルギーでの目安額 | 補償範囲 |
|---|---|---|
| 一般医院受診(GP) | €50〜100程度 | ○ |
| 処方箋医薬品 | €10〜50程度 | ○ |
| 病院入院(1日あたり) | €500〜1,500程度(目安) | ○ |
| 歯科治療 | €100〜300程度 | △(要確認) |
| 救急車利用 | €500〜1,000程度(目安) | ○ |
※上記金額はあくまで目安です。実際の請求額は症状・医療機関・治療内容により大きく異なります。
領収書取得の際の重要フレーズ
Can you provide a detailed receipt for insurance claim?(キャン ユー プロバイド ア ディテールド リシート フォー インシュアランス クレイム?)
(保険請求用の詳細領収書をいただけますか?)
I also need a diagnosis certificate.(アイ オールソー ニード ア ダイアグノシス サーティフィケイト)
(診断書も必要です)
薬剤師メモ ベルギーでは医療費の領収書が日本と異なる形式のため、保険請求時に明細書(Detailed Invoice)の追加取得が必要な場合があります。受診時に依頼しておくと後の手続きがスムーズです。薬局でも処方箋と購入明細書(reçu / ontvangstbewijs)を必ず受け取り、廃棄しないようにしてください。
主要旅行保険会社のベルギー対応(参考)
旅行保険を選ぶ際は、保険会社の公式サイトで最新の補償内容・提携医療機関情報を必ず確認してください。各社の補償内容・保険料は頻繁に改定されます。選定基準として、①医療費補償上限額、②キャッシュレス受診の可否、③24時間日本語サポートの有無、④既往症・歯科補償の有無を比較することをお勧めします。
ベルギー渡航時の医薬品持参ガイド
日本から持参してよい医薬品
持参OK(自分用に限る):
- 常用薬(3ヶ月以内の処方箋のコピー推奨、英文添付文書または英文医師診断書を用意するとより安心)
- 市販感冒薬・胃腸薬
- 湿布・点眼薬(規定量以内)
- サプリメント(医療成分でないもの)
持参NG・要注意:
- コデインリン酸塩・ジヒドロコデインリン酸塩含有咳止め:ベルギーはシェンゲン協定加盟国であり、オピオイド系成分含有医薬品の持ち込みには制限があります。ベルギー連邦保健省(Federal Agency for Medicines and Health Products: FAMHP)のガイドラインを事前確認してください
- 処方箋医薬品の大量持参(3ヶ月超):通関トラブルの原因になり得ます
- 向精神薬(ベンゾジアゼピン系・睡眠薬など):持参する場合は必ず英文の医師証明書を携帯し、必要に応じて事前に在日ベルギー大使館へ確認を
持参医薬品の税関申告と薬学的注意点
シェンゲン域内の入国審査では日本より持参した医薬品の申告を求められることがあります。特に以下の成分を含む製品は申告・照会の対象になりやすいため事前準備をお勧めします。
| 注意が必要な成分 | 代表的な含有製品カテゴリ | 事前準備 |
|---|---|---|
| コデインリン酸塩 | 鎮咳薬・鎮痛薬 | 英文処方箋・医師診断書 |
| ジヒドロコデインリン酸塩 | 総合感冒薬(一部) | 英文処方箋・医師診断書 |
| ベンゾジアゼピン系薬 | 睡眠薬・抗不安薬 | 英文処方箋・医師診断書 + 在ベルギー大使館確認 |
| メチルエフェドリン塩酸塩 | 気管支拡張薬・総合感冒薬(一部) | 英文処方箋・医師診断書 |
日本国内で広く使用される総合感冒薬の一部には、ベルギー・EU諸国では規制対象となる成分が含まれている場合があります。渡航前に服用中の市販薬・処方薬の全成分を確認し、不明点は渡航専門の薬剤師または在日ベルギー大使館へ問い合わせてください。
薬剤師メモ 英文処方箋は日本の主治医に依頼すれば作成してもらえます。処方箋には成分名(INN: 国際一般名)、用量、適応疾患名、医師の署名・押印を記載してもらうと現地当局や医療機関で信頼性が高まります。
よくある健康トラブルと対処法
症状別対応フロー
軽度(薬局で相談可):
- 風邪症状(軽い鼻水・喉の痛み)・頭痛・軽い下痢・軽い皮膚炎・目の充血 → 薬局でOTC医薬品購入。3日間で改善がなければGP受診を検討
中等度(GP受診推奨):
- 高熱が続く(38.5度以上が3日以上)・激しい腹痛・蕁麻疹・捻挫・耳痛 → 1733に電話してWachtpostを案内してもらうか、GPオンライン予約。処方箋取得後に薬局で処方薬購入
重度(救急対応):
- 呼吸困難・意識障害・大量出血・激しい胸痛・アナフィラキシー疑い・脳卒中症状(突然の顔面麻痺・言語障害・片側脱力) → 112に電話して救急車要請
旅行者に多い健康トラブルと薬学的アドバイス
① 時差ぼけ(Jet Lag)
日本〜ベルギー間は約7〜8時間の時差があります(夏時間適用期間はCEST=UTC+2)。体内時計のリセットには短時間作用型睡眠薬(ベルギーの薬局ではOTC処方不可。GPへの相談が必要)または メラトニンサプリ 🛒メントが用いられます。ベルギーではメラトニンは薬局でサプリメントとして入手できる場合がありますが、成分量・品質は製品により大きく異なります。薬剤師に相談の上で購入してください。
② 旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)
西欧圏でも水・食事の変化や疲労による消化管症状は起こり得ます。軽度の水様性下痢にはロペラミド塩酸塩(前述)が有効ですが、血便・38.5度以上の発熱・激しい腹痛を伴う場合は細菌性腸炎(サルモネラ・カンピロバクターなど)が疑われるため、止瀉薬の使用は控えGP受診を優先してください。口腔補水液(ORS: Oral Rehydration Solution)はベルギーの薬局でも入手可能で、脱水予防に有効です。
③ 深部静脈血栓症(DVT)
長時間フライト(日本〜ベルギー間は12〜14時間程度)に伴うエコノミークラス症候群のリスクがあります。機内では定期的な足首の屈伸運動・歩行、十分な水分摂取が予防に有効です。OTC成分での薬学的予防は限定的であり、リスクが高い方(血栓症既往・経口避妊薬服用中・悪性腫瘍など)は渡航前に主治医へ相談してください。到着後に片側下肢の腫脹・疼痛・発赤が出現した場合は、DVTの可能性を考慮して速やかに医療機関を受診してください。
薬剤師メモ ベルギーで処方される医薬品の効き目は日本と同等ですが、EU標準用量が日本の常用量より高いケース(たとえばイブプロフェン400mg、アモキシシリン875mgなど)があります。薬剤師から受け取った投薬指示(シールや説明文書)を必ず確認し、不明点は何度でも質問してください。
ベルギー主要都市の医療機関連絡先
ブリュッセル
- 緊急車両:112(EU統一番号・24時間)
- GP当直:1733(夜間・休日)
- Saint-Luc University Hospital(Cliniques universitaires Saint-Luc):ブリュッセル・ウォリュウェ地区の大学病院。英語対応可
- CHU Brugmann:ブリュッセル中心部に近い公立総合病院
アントワープ(Antwerpen)
- UZA(Universitair Ziekenhuis Antwerpen):アントワープ大学病院。英語対応可
- ZNA Stuivenberg:市内の公立病院
ゲント(Gent)
- UZ Gent(Universitair Ziekenhuis Gent):ゲント大学病院
リエージュ(Liège)
- CHU de Liège:フランス語圏の大学病院
医療機関の電話番号は変更されることがあります。渡航前に在ベルギー日本国大使館の公式ウェブサイトで最新情報を確認してください。
まとめ
- ベルギーは医療水準が高く、医療インフラが充実しています:受診は予約制が主流で、医療費は旅行者には全額自己負担となる
- 緊急時は112、夜間・休日の非緊急相談は1733:GP当直サービス(Wachtpost)を活用し、不要な救急科の利用を避けることが現地でのスムーズな受診につながる
- 軽度の症状は薬局(Apotheek / Pharmacie)での相談が効果的です:OTC医薬品で対応可能な場合が多く、医師受診より費用・時間の節約になる。薬剤師は成分名で相談する
- 主要OTC成分の薬学的特性を理解しておく:パラセタモールは肝毒性リスク、イブプロフェンは胃粘膜障害リスク、ロペラミドは細菌性下痢への不適切使用リスクがある。用法・用量の確認を徹底する
- 医療機関の受診は英語で対応できる場所を選ぶ:Doctolibや病院公式サイト・Google Mapsの口コミで英語対応の医療機関を事前確認
- 旅行保険は必須:医療費は予想外に高額になり得るため、最低でも医療補償100万円以上の加入をお勧めします
- 領収書・診断書は必ず保管:帰国後の保険請求に必要なため、受診時に詳細領収書(Detailed Invoice)と診断書を取得する
- 常用薬がある場合は英文処方箋・英文医師診断書を用意:コデイン・ベンゾジアゼピン系薬など規制対象成分を含む場合は、渡航前に在日ベルギー大使館へ確認を
- 夜間・休日の薬局は当番薬局制度を活用:1733への電話またはapotheek.be / pharmacie.beで最寄りのWachtdienst(Pharmacie de garde)を確認
- 最新情報は在ベルギー日本国大使館で確認:医療制度の変更や感染症情報は公式ウェブサイトで随時更新されます( https://www.be.emb-japan.go.jp/)
参考文献
- World Health Organization (WHO). International Travel and Health. WHO Press. https://www.who.int/health-topics/travel-and-health
- European Medicines Agency (EMA). Human Medicines: Guidelines. https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory/research-development/scientific-guidelines/multidisciplinary-guidelines/multidisciplinary-good-manufacturing-practice
- Federal Agency for Medicines and Health Products, Belgium (FAMHP). Bringing medicines into Belgium. https://www.famhp.be/en/human_use/medicines/medicines_for_personal_use/travelling_with_medicines
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医薬品に関する情報. https://www.pmda.go.jp/
- 外務省. ベルギー基本情報(危険情報・感染症危険情報). https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_009.html
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Travelers' Health: Europe. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/belgium
- 厚生労働省. 海外渡航者のための感染症予防情報. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/travel-infect/index.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))