ミャンマーの医療事情:渡航前に知るべき基礎知識
ミャンマーは医療インフラが発展途上国水準であり、特に地方部での医療サービスは限定的です。首都ネピドー、最大都市ヤンゴンには国際水準の民間病院が存在しますが、その他の地域では医療施設が不足しています。2021年以降の政治情勢の変化により、公立病院の機能が一部制限されているという報告もあり、渡航前に最新情報を収集することが例年以上に重要です。
医療水準の現状
- 公立病院:医療技術は限定的、衛生管理に課題あり
- 民間病院(ヤンゴン・ネピドー):国際基準に準じた施設あり
- 薬局:処方箋不要で医薬品を購入可能(自己判断のリスク大)
- 言語:医療現場での英語通用度は中程度
ミャンマーの医薬品規制と薬学的背景
ミャンマーの医薬品行政は「Food and Drug Administration (FDA) Myanmar」が管轄していますが、流通管理の網羅性は先進国水準には達していません。WHOの調査では、低中所得国の一部市場において偽造・粗悪医薬品が流通する問題が継続的に報告されており、ミャンマーも例外ではありません。
特に問題となるのは以下の点です。
- 有効成分の含量不足(サブスタンダード製品):表示用量の50%以下しか有効成分が含まれていない製品が流通することがある。抗マラリア薬や抗生物質でこの問題が顕著です。
- 偽造医薬品:外箱・錠剤の外観が正規品と酷似しており、目視での判別が困難。
- 期限切れ製品の再流通:ロット番号や使用期限の改ざんが報告されているケースがあります。
- 保管条件の不備:高温多湿のミャンマーでは、冷所保管が必要な医薬品(インスリン、一部のワクチン等)の品質劣化リスクが高い。
薬学的に見ると、有効成分が不足した抗マラリア薬を服用することは、治療失敗に留まらず薬剤耐性マラリア原虫の選択的増殖を助長するリスクがあります。ミャンマーはメコン地域においてアルテミシニン耐性マラリア(Plasmodium falciparum)の報告が複数ある地域であり、WHO・CDCともに警戒を呼びかけています。
薬剤師メモ
ミャンマーではWHO非推奨医薬品や偽造医薬品の流通が報告されています。特に感染症対策が不十分な薬局が存在するため、渡航前の医薬品の持参が重要です。現地で購入した医薬品には、錠剤の表面・割線・コーティングの均一性を目視確認し、異臭・変色があるものは使用を中止してください。
現地薬局(ドラッグストア)の利用方法
薬局の見つけ方と営業形態
| 特徴 | 説明 |
|---|---|
| 店舗表記 | 「PHARMACY」「DRUG STORE」と英語表記 |
| 営業時間 | 午前8時~午後10時(地域差あり) |
| 処方箋 | 基本的に不要(医薬品が容易に購入可能) |
| 支払い方法 | 現金(MMK)、大型店ではカード対応 |
| 店員の資格 | 薬剤師以外の店員も多い |
ヤンゴン市内では「PHARMACY」と大きく表記された独立型薬局が多く見られます。大型ショッピングモール内にも薬局が入居していることがあり、比較的衛生的な環境で販売されていることが多いため、街頭の小規模薬局より品質管理が期待できる場合があります。ただし、大型店舗でも必ずしも品質保証があるわけではありません。
薬局での買い方:実践ガイド
症状の伝え方
- 簡単な英語で症状を説明(スマートフォン翻訳アプリ推奨)
- 「headache(ヘッドエイク)」「fever(フィーバー)」「diarrhea(ダイアリーア)」など基本的な症状用語を事前に学習
-
I have a stomachache.(アイ ハヴ ア ストマックエイク)のように声に出して伝えることで、翻訳アプリが不調の場面でも対応できます - 可能であれば、多言語対応アプリ「Google翻訳」を使用して正確に伝える
購入時の注意点
- 店員の推奨医薬品がWHO非推奨薬である可能性を認識
- 使用期限を必ず確認(ビルマ暦表記の場合あり)
- 英語の説明書または添付文書を必ず確認
- 疑問点があれば購入を控えることも判断肢として検討
薬局で購入可能な主な医薬品カテゴリと薬学的注意点
ミャンマーの薬局では、日本では処方箋が必要な医薬品を含む幅広い製品が市販されています。代表的なカテゴリごとに薬学的な注意点を整理します。
| カテゴリ | 主な成分例 | 現地入手可否 | 薬学的注意点 |
|---|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン、イブプロフェン | ○ 容易 | アセトアミノフェンは1日4,000mg超で肝障害リスク。飲酒時は1日2,000mg以下が目安 |
| 止瀉薬 | ロペラミド塩酸塩 | ○ 容易 | 細菌性腸炎(発熱・血便あり)では腸内毒素の排泄を阻害するリスクあり。使用条件に注意 |
| 抗生物質 | アモキシシリン、シプロフロキサシン等 | ○ 処方箋不要で入手可 | 自己判断での使用は耐性菌増加の一因。用量・期間不足での服用は治療失敗の主原因 |
| 抗マラリア薬 | クロロキン、アルテメテル/ルメファントリン配合等 | ○(品質保証困難) | 含量不足品の流通リスクあり。渡航前に日本の医師・渡航外来で処方を受けることを強く推奨 |
| ステロイド外用薬 | ベタメタゾン、クロベタゾール等 | ○ | 強力なステロイドが無制限に販売されている場合あり。顔面・眼周囲への長期使用は禁忌 |
| 制酸薬 | 水酸化アルミニウム/水酸化マグネシウム配合等 | ○ | 他の薬剤と同時服用で吸収阻害を起こすことがある(フルオロキノロン系等との間隔に注意) |
薬剤師メモ
ミャンマー薬局では過度な抗生物質の推奨が一般的です。不要な抗菌薬購入は控え、症状に応じた最小限の医薬品購入に留めてください。特にフルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン等)は腱断裂・末梢神経障害等の重大副作用が報告されており、軽症下痢への安易な使用は避けるべきです。
受診先の探し方:ヤンゴンとその他地域別対応
ヤンゴンの国際医療機関
| 施設名 | 診療科 | 特徴 |
|---|---|---|
| Yangon General Hospital (International Department) | 総合診療 | 公立で信頼性高い |
| Central Women's Hospital | 女性疾患・産婦人科 | 実績豊富 |
| American Medical Clinic | 総合・内科 | 英語対応充実 |
| Vista Clinic | 内科・感染症 | 外国人対応経験豊富 |
| Pun Hlaing International Hospital | 総合・救急 | 最新医療機器 |
ヤンゴン以外の地域における医療機関の現状
マンダレー(Mandalay)はミャンマー第二の都市であり、マンダレー総合病院(Mandalay General Hospital)が存在しますが、国際基準のケアを提供できる体制は限られています。バガン(Bagan)、インレー湖周辺、カチン州北部などの観光地・地方都市では、緊急対応可能な医療機関がほぼ存在しない地域も多く、中等症以上の疾患ではヤンゴンへの搬送が前提となります。
マンダレーにはいくつかの私立クリニックが存在しますが、24時間対応や外科的処置については施設によって大きく異なります。地方滞在時は、ホテルの受付スタッフが把握している近隣の医療機関情報を事前に確認しておくことが実用的です。
救急番号と緊急連絡先
ミャンマーの救急体制は地域ごとに異なり、日本の119番のような全国統一番号は整備されていません。参考として報告されている番号を以下に示しますが、電話がつながらないケース・対応が遅延するケースも多いことを念頭に置いてください。
| 緊急種別 | 参考番号 | 備考 |
|---|---|---|
| 救急(ヤンゴン) | 192 | つながらない場合あり |
| 消防 | 191 | — |
| 警察 | 199 | — |
| 駐ミャンマー日本大使館(ヤンゴン) | +95-1-9255 6-482 | 緊急時24時間対応 |
実用的なアドバイス:救急車の到着が遅延することを想定し、ホテルのスタッフに「最寄りの国際病院まで車で連れて行ってほしい」と依頼する手段も重要な選択肢です。
Please take me to the nearest international hospital immediately.(プリーズ テイク ミー トゥ ザ ニアレスト インターナショナル ホスピタル イミーディエイトリー)
病院検索の具体的手順
渡航前の準備
- 旅行保険に記載されている現地提携病院リストを印刷
- 「International SOS」「Medjet Assist」等、海外医療サービスのアプリをダウンロード
- ホテルのフロント連絡先を確認(病院紹介可能)
現地での検索方法
- Google Mapで「Hospital Yangon」「Clinic Myanmar」と検索
- 外務省の安全情報ページで日本人医師の情報確認
- 駐ミャンマー日本大使館に電話相談(緊急時)
薬剤師メモ
ネピドーやマンダレーなど地方都市での医療は限定的です。重症と判断される場合はヤンゴンへの移動を検討してください。
旅行保険の使い方と医療費実態
ミャンマーの医療費概要
| 診療内容 | 推定費用(目安USD) | 補足 |
|---|---|---|
| 外来受診 | 30~80 | 国際病院での初診 |
| 検査(血液検査) | 20~50 | 施設による差大 |
| 医薬品 | 5~30 | 錠剤1種類あたり |
| 入院(1日) | 100~400 | 民間国際病院 |
| 歯科治療 | 50~200 | 根管治療等の高度治療 |
| 医療移送(タイ・バンコクへ) | 5,000~20,000以上 | チャーター機・搬送手段による |
医療移送費用は状況によって大きく変動します。陸路搬送(バンコクまで約600km)から航空機チャーターまで選択肢があり、保険契約に「Medical Evacuation(医療移送)」が含まれているかどうかが費用負担に直結します。
タイ(バンコク)への医療搬送について
ミャンマーで対応困難な重篤疾患(急性心筋梗塞、脳卒中、重篤な外傷、複雑な外科手術が必要なケース等)では、バンコクへの搬送が選択されることがあります。タイ・バンコクにはBumrungrad International HospitalやBangkok Hospital等、JCIA(Joint Commission International Accreditation)認定の高水準国際病院が存在し、ヤンゴンとは医療水準に大きな差があります。
旅行保険の医療移送条項には「現地医師が医療移送を必要と判断した場合」という条件が付いていることが多く、保険会社の提携医師や現地医師の意見書が必要になる場合があります。緊急時に備え、保険会社の24時間緊急ホットラインに事前に電話番号を登録しておくことが不可欠です。
旅行保険の活用ステップ
1. 渡航前の契約確認
- 保険証券のコピーを複数枚準備(デジタル版も携帯)
- 提携病院リスト、キャッシュレス対応施設を事前確認
- 補償限度額、自己負担額(免責金額)を確認
- 緊急連絡先(24時間ホットライン)を記録
2. 受診時の手続き
- 医療機関に「保険証券のコピー」と「保険会社の電話番号」を提示
- キャッシュレス対応か確認(対応していなければ一度自費負担後に請求)
- 診療内容、医薬品の明細書をすべて保管
- 領収書を英語で発行してもらう(日本での請求に必要)
3. 帰国後の請求
- 診療明細書、領収書、処方箋を保険会社に提出
- 保険会社指定の翻訳業者で英訳が必要な場合あり
- 支払い審査に2~4週間要する場合あり
薬剤師メモ
旅行保険は医療費の「実費」をカバーするため、高額な私立病院での治療も対象です。ただし医薬品代が自己負担になる保険も存在するため、契約内容を必ず確認してください。
ミャンマーで体調を崩した場合の対応フロー
軽症(自宅療養で対応可能)の場合
ステップ1:自己評価
- 症状:発熱37.5℃未満、軽い下痢、軽度の頭痛
- 対応:ホテルの部屋で安静
ステップ2:医薬品の使用
- 日本から持参した医薬品を優先(アセトアミノフェン、ロペラミド塩酸塩等)
- 必要に応じて薬局で補充(処方箋不要)
- 水分・電解質の摂取を心掛ける
ステップ3:経過観察
- 24~48時間で改善しない場合は医療機関受診を検討
旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)の薬学的管理
ミャンマーは旅行者下痢症の高リスク地域に分類されます。原因となる主な病原体はEnterotoxigenic Escherichia coli(ETEC)、カンピロバクター、赤痢菌、ノロウイルス、サルモネラ等です。
ロペラミド塩酸塩の適切な使用
ロペラミド塩酸塩はオピオイド受容体(μ受容体)に作用し、腸管蠕動を抑制することで止瀉効果を発揮します。腸管神経叢に局所的に作用し、中枢移行性が低いため習慣性は生じにくい薬剤です。
- 適応:非感染性の急性下痢、または感染性下痢の中でも発熱・血便がない軽症例
- 注意:38℃以上の発熱を伴う下痢、血便がある場合は腸管内の毒素・病原体の排泄を阻害する可能性があり、使用を控えて医療機関を受診すること
- 用法(成人目安):初回2mg、その後下痢1回ごとに1mg、1日最大16mg(規格は製品により異なるため、必ず添付文書を確認)
- 禁忌:2歳未満の小児、重篤な潰瘍性大腸炎、偽膜性腸炎が疑われる場合
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)は下痢・嘔吐時の脱水補正に最も効果的な手段です。WHO推奨の経口補水塩(ORS)は一部の薬局で購入可能ですが、品質が保証されない場合もあるため、日本から経口補水塩パウダー(OS-1粉末等の成分に相当するもの)を持参するか、ペットボトルの水1Lに食塩3g・砂糖18gを溶かす簡易ORS作成法を知っておくと安心です。
中等症(医療機関受診が必要)の場合
ステップ1:医療機関を選定
- ヤンゴン滞在:上表の国際病院に電話予約
- 地方部滞在:ホテルスタッフに医療機関を紹介してもらう
- 言語の不安がある場合:翻訳アプリを用意して受診
ステップ2:受診準備
- 旅行保険の証券(デジタルと紙)を携帯
- パスポート、クレジットカードを用意
- 症状の詳細を日本語→英語で整理(紙に記載)
ステップ3:診療と処方
- 医師に持参医薬品の使用歴を報告
- 処方された医薬品の用法用量を英語・ビルマ語で確認
- 疑問点は遠慮なく質問する
Can you explain the dosage and how to take this?(キャン ユー イクスプレイン ザ ドーセッジ アンド ハウ トゥ テイク ディス?) と尋ねることで、服薬指導を求めることができます。
重症(救急対応が必要)の場合
ステップ1:応急処置
- 救急番号(ヤンゴンは192など、地域で異なる)に電話
- ホテルスタッフに即座に通知
- 旅行保険会社の緊急ホットラインに連絡
ステップ2:搬送
- Pun Hlaing International Hospitalなど大型国際病院への搬送を要求
- 必要に応じて家族への連絡、緊急帰国の手配を旅行保険会社に依頼
薬剤師メモ
重症の場合、医療レベルが不足する可能性があります。「Medical Evacuation(医療移送)」をカバーする保険に加入していることを確認し、タイ・シンガポールへの移送も検討してください。
渡航前に準備すべき医薬品リスト
渡航前に自己判断で携帯できる市販薬(OTC医薬品)を中心に整理します。処方薬が必要な方は、渡航外来(トラベルクリニック)での事前受診を強く推奨します。
| 成分名(一般名) | 代表的な日本OTC例 | 用途 | 薬学的ポイント |
|---|---|---|---|
| アセトアミノフェン | タイレノールA 🛒等 | 発熱・頭痛 | NSAIDsと異なり胃への刺激が少ない。空腹時でも服用可。肝障害患者・大量飲酒者は要注意 |
| ロペラミド塩酸塩 | ストッパ下痢止めEX等 | 急性下痢 | 感染性腸炎(発熱・血便あり)では使用不可。腸管蠕動抑制作用 |
| 次サリチル酸ビスマス配合薬 | 日本では入手困難なケースも | 下痢・腹部不快感 | ビスマスは腸管粘膜保護作用・抗菌作用を持つ。ただし一部製品は日本国内入手が難しい場合あり |
| ジメンヒドリナート(抗ヒスタミン系)または類似成分 | トラベルミン 🛒等(成分確認を) | 乗り物酔い・嘔気 | 中枢抑制作用あり。車両運転後の飲用は避けること |
| ファモチジン(H₂受容体拮抗薬) | ガスター10 🛒等 | 胃酸過多・胸やけ | 食前30分~食後2時間以内に服用。長期連用時は医師相談 |
| クロルフェニラミンマレイン酸塩(第一世代抗ヒスタミン薬) | ポララミン等 | アレルギー・蕁麻疹・虫刺され | 眠気・口渇の副作用あり。運転前の服用に注意 |
| 抗菌成分配合点眼液 | 抗菌目薬(処方品は一般名でスルファメトキサゾール、クロラムフェニコール等) | 急性細菌性結膜炎 | OTC抗菌目薬は日本では一部市販あり。重症の場合は医師受診を |
| 絆創膏・ポビドンヨード外用(イソジン等)または塩化ベンザルコニウム外用 | バンドエイド等・マキロン等 | 外傷処置・消毒 | ポビドンヨードは甲状腺疾患のある方は要注意。広範囲の使用で全身吸収の可能性 |
| 経口補水塩(ORS) | OS-1(経口補水液)等または粉末タイプ | 下痢・嘔吐時の脱水補正 | WHOのORS組成に準拠したもの推奨。糖と塩分のバランスが重要 |
慢性疾患を持つ渡航者への追加アドバイス
高血圧・糖尿病・心疾患等の慢性疾患がある方は、以下の点に特に注意してください。
- 常用薬は渡航日数+余裕分(最低7日分)を日本から持参する。ミャンマーでは日本と同一成分・同一規格の薬が入手できないケースが多い
- インスリン等の冷所保管製剤は機内持ち込みとし、保冷バッグと機内への持ち込み許可書(英語)を準備
- 血圧計・血糖測定器の予備電池・消耗品も持参
- かかりつけ医から英文診断書(病名・使用薬の一般名・用量記載)を作成してもらい、携帯する
ワルファリンカリウム(抗凝固薬)を服用中の方は、感染症罹患時の発熱・抗生物質使用によりINR値が変動しやすくなります。渡航前に主治医とINRコントロールの目標値・万一の対処法について十分に相談してください。
よくある質問と薬剤師の回答
Q1:現地で処方箋なしで強い医薬品が買えるのは本当か?
A:本当です。ミャンマーは医薬品の規制が日本よりも緩く、本来なら処方箋が必要な抗生物質やステロイドも薬局で購入可能です。ただしWHOが非推奨とする医薬品も多く、副作用のリスクが高いため、不必要な購入は避けてください。
Q2:予防的に抗生物質を持参してもよいか?
A:一般的には推奨されません。抗生物質の乱用は薬剤耐性菌を増やし、本当に必要な時に効かなくなるリスクがあります。症状が出た時点で医療機関に相談し、医師の指示で使用してください。ただし、免疫不全者・高齢者・過去に重篤な旅行者下痢症を経験した方等、特定のリスクグループについては、渡航外来専門医が予防的抗菌薬(例:フルオロキノロン系またはアジスロマイシン)を処方するケースがあります。これはあくまで医師の判断に基づくものです。
Q3:旅行保険に加入していない場合の対処法は?
A:強く加入を勧めます。加入していない場合、医療費は全額自己負担(1日の入院で100~400USD目安)となり、想定外の出費が発生します。多くのクレジットカードに付帯保険があるため、事前に補償内容・上限金額を確認してください。なお、付帯保険は補償上限が低い場合が多く、重症例や医療移送には対応していないこともあります。
Q4:ミャンマー特有の感染症への対策は?
A:デング熱、マラリア、腸チフス、狂犬病、A型肝炎等が流行しています。蚊対策(DEETまたはイカリジン配合の虫よけ剤、長袖長ズボンの着用、就寝時の蚊帳または防虫ネット使用)が最優先です。渡航前に予防接種(A型肝炎、腸チフス、日本脳炎等)の接種を検討し、感染症専門医または渡航外来医師に相談してください。マラリア予防薬(化学的予防投薬)については、渡航地域・季節・滞在期間に応じて医師が判断します。
Q5:デング熱が疑われる場合、市販の解熱鎮痛薬を使ってよいか?
A:デング熱が疑われる場合、イブプロフェン・アスピリン・ナプロキセン等のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は禁忌に準ずる扱いです。これらの薬剤は血小板機能を抑制し、デング熱出血熱における出血傾向を悪化させるリスクがあります。解熱にはアセトアミノフェンを使用し、速やかに医療機関を受診してください。 I think I might have dengue fever.(アイ シンク アイ マイト ハヴ デング フィーバー) と医師に伝えることが重要です。
ミャンマー医療機関との言語コミュニケーション
基本的な医療用語(英語)
| 日本語 | 英語 | 発音カナ | 用例フレーズ |
|---|---|---|---|
| 発熱 | Fever | フィーバー | I have a fever.(アイ ハヴ ア フィーバー) |
| 下痢 | Diarrhea | ダイアリーア | I have diarrhea.(アイ ハヴ ア ダイアリーア) |
| 嘔吐 | Vomit / Nausea | ヴォミット / ノージア | I feel nauseous and vomited.(アイ フィール ノージャス アンド ヴォミティド) |
| 頭痛 | Headache | ヘッドエイク | I have a severe headache.(アイ ハヴ ア シビア ヘッドエイク) |
| 喉の痛み | Sore throat | ソア スロート | My throat is sore.(マイ スロート イズ ソア) |
| アレルギー | Allergy | アレルジー | I'm allergic to penicillin.(アイム アレルジック トゥ ペニシリン) |
| 処方薬を飲んでいます | I take prescription medicine | — | I take prescription medicine for blood pressure.(アイ テイク プレスクリプション メディスン フォー ブラッド プレッシャー) |
| 妊娠中です | I'm pregnant | — | I'm pregnant. Please check the safety of this medicine.(アイム プレグナント。プリーズ チェック ザ セーフティ オブ ディス メディスン) |
| アレルギーはありますか | Any allergies? | — | 医師・薬剤師が確認で使用 |
デジタルツール活用
- Google翻訳:リアルタイム翻訳、音声機能対応。オフラインで使用するためのビルマ語パックを事前にダウンロードしておく
- MediBabble:医療専門の多言語翻訳アプリ。ビルマ語対応の確認が必要
- 医師への症状説明は、翻訳アプリで事前に文章を作成しておき、画面を見せる形で提示すると伝達ミスが減少します
薬剤師メモ
現地の医療スタッフに薬について相談する際は、Are there any side effects I should know about?(アー ゼア エニー サイド エフェクツ アイ シュッド ノウ アバウト?)と質問することを習慣付けてください。服薬指導の質が施設によって大きく異なるため、複数の確認を行うことが有効です。
帰国後の医療記録管理
記録すべき情報
- 診療日時、医療機関名(英語と住所)
- 医師の診断名(英語)、処方医薬品の一般名・規格・用量
- 検査結果(血液検査、画像検査等のデータ)のコピー
- 領収書、診療明細書のコピー(英語版)
- 服用した現地購入医薬品のパッケージ(帰国後の医師確認のため保管)
帰国後の相談先
ミャンマーで診断された疾患について、帰国後に日本の医師に相談したい場合は、外来受診時に検査結果と診療記録を持参してください。特に感染症の診断を受けた場合、または説明のつかない発熱・下痢・皮膚症状が続く場合は、帰国後14日以内に感染症専門外来(第一種感染症指定医療機関等)での確認を強く推奨します。
マラリアの潜伏期間は原虫の種類によって異なり(P. falciparumで7~14日、P. vivaxでは数週間から数ヶ月に及ぶ場合がある)、帰国後に発症するケースがあります。ミャンマー渡航後に38℃以上の発熱が生じた場合は、「ミャンマーに渡航した」という情報を必ず医師に伝えてください。
関連記事
- [[travel-insurance-guide]]:海外旅行保険の選び方と医療費補償の仕組みを解説
- [[southeast-asia-medicine-otc]]:東南アジア渡航時に持参すべき市販薬と薬局活用ガイド
- [[dengue-fever-prevention]]:デング熱の予防・症状・現地対応を薬剤師が解説
まとめ
- 医療水準:ヤンゴン・ネピドーの民間国際病院は国際基準に近いが、地方部は限定的。渡航前の医療情報収集が必須
- 薬局利用:処方箋不要だが、WHO非推奨薬・含量不足薬・偽造医薬品のリスク存在。症状に応じた最小限購入を心掛ける。デング熱疑いにはNSAIDs禁忌
- 病院検索:旅行保険の提携病院リスト、ホテルスタッフへの相談で対応。重症時は大型国際病院への搬送を要求し、タイ・バンコクへの医療移送も念頭に置く
- 旅行保険:医療費補償・キャッシュレス対応・医療移送オプションを確認。加入なしは重大リスク
- 医薬品持参:アセトアミノフェン・ロペラミド塩酸塩・経口補水塩・虫よけ剤等を中心に、慢性疾患者は常用薬を十分量携帯
- 感染症対策:デング熱・マラリア・腸チフス等のリスクを認識。渡航外来での予防接種・予防薬相談を推奨
- 帰国後:説明不明の発熱・下痢は感染症専門外来受診を。マラリアは帰国後発症のリスクあり
最新の安全情報は 駐ミャンマー日本大使館および 外務省 海外安全情報で必ず確認してください。
参考文献・引用資料
-
World Health Organization. "Substandard and falsified medical products." WHO Fact Sheet. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/substandard-and-falsified-medical-products
-
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Myanmar – Traveler's Health." CDC Yellow Book 2024. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/myanmar
-
World Health Organization. "World Malaria Report 2023." https://www.who.int/teams/global-malaria-programme/reports/world-malaria-report-2023
-
厚生労働省検疫所(FORTH). 「ミャンマー感染症危険情報・感染症情報」. https://www.forth.go.jp/
-
外務省. 「海外安全情報 ミャンマー」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2024T119.html
-
WHO Regional Office for South-East Asia. "Artemisinin resistance and artemisinin-based combination therapy efficacy." https://www.who.int/docs/default-source/searo/malaria/artemisinin-resistance.pdf
-
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「海外旅行時の医薬品の携帯に関する情報」. https://www.pmda.go.jp/
監修: 薬剤師(博士(薬学))