ミャンマー渡航前に知っておくべき予防接種の基礎知識
ミャンマーへの渡航を計画されている方へ、薬剤師として予防接種に関する実用的な情報をお伝えします。東南アジアに位置するミャンマーは、日本では見られない感染症が流行している地域です。渡航前の適切なワクチン接種は、現地での健康リスクを大幅に低減させます。
一般的に、海外渡航医学の専門機関では渡航の4〜6週間前からワクチン接種を開始することが推奨されています。複数のワクチンが必要な場合、スケジュール調整に時間を要するためです。
なぜ渡航前のワクチン接種が重要なのか——薬学的背景
ワクチンを接種してから十分な防御免疫(保護抗体)が形成されるまでには、一定の時間が必要です。不活化ワクチンの場合、抗原提示→ヘルパーT細胞活性化→B細胞のクラススイッチ→IgG産生という一連の獲得免疫の誘導過程に通常2〜4週間を要します。生ワクチンは一度の接種で長期免疫が得られやすいものの、ウイルスが体内で増殖する時間が必要なため、やはり10〜14日前後のリードタイムが推奨されます。
さらに複数のワクチンを接種する場合、生ワクチン同士は4週間以上の間隔が必要である一方、不活化ワクチン同士は同日接種が可能という規則があります。これは生ワクチン由来の軽度感染が免疫機構を一時的に占有し、別の生ワクチンの効果を減弱させる可能性があるためです。こうしたスケジューリングの複雑さを考えると、余裕をもった早期受診が重要です。
ミャンマーは現在、政情不安により医療インフラが脆弱な地域があります。現地で万が一感染した際に十分な医療を受けられるとは限らないため、出発前の予防措置がいっそう意味を持ちます。
ミャンマー渡航時の必須予防接種
黄熱病ワクチン
黄熱病はミャンマーの風土病であり、黄熱病ワクチンの接種記録(国際予防接種証明書)が入国時に求められる場合があります。2024年現在の最新情報は必ず大使館・外務省で確認してください。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | 黄熱病ワクチン(17D株弱毒生ワクチン) |
| 接種回数 | 1回 |
| 接種時期 | 渡航10日前まで |
| 効果持続期間 | 生涯免疫(理論値)※2016年改定 |
| 副反応 | 接種部位痛、軽度発熱(3〜7%) |
薬剤師メモ 黄熱病ワクチンは生ワクチンのため、他の生ワクチン(麻疹など)接種から4週間の間隔が必要です。妊娠中の接種は原則禁忌ですが、ミャンマー渡航予定がある妊婦は医師に相談してください。
黄熱病ワクチンの薬学的ポイント
17D株弱毒生ワクチンは、ニワトリ胚細胞で培養・製造されます。そのため卵アレルギー(特にアナフィラキシー歴)のある方は接種可否を事前に医師と確認する必要があります。また、黄熱病ワクチン接種後まれに「黄熱病ワクチン関連神経系疾患(YEL-AND)」や「黄熱病ワクチン関連内臓疾患(YEL-AVD)」といった重篤な副反応が報告されています。発生率は低い(100万回接種あたり数件程度)ものの、60歳以上の高齢者では相対的にリスクが高まるとされており、ベネフィット・リスクを医師と十分に相談したうえで接種を判断することが重要です。
ミャンマー渡航時に強く推奨される予防接種
日本脳炎ワクチン
ミャンマーは日本脳炎の主要流行地域の一つです。特に雨季(5月〜10月)に感染リスクが高まり、農村部・水田地帯に渡航する場合はとりわけ注意が必要です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | 不活化日本脳炎ワクチン |
| 推奨接種回数 | 初回2回(7日以上間隔)+ 追加1回(12ヶ月後) |
| 迅速スケジュール | 初回2回を0日・7日で接種 |
| 効果発現期間 | 2回目接種から2週間後 |
| 費用目安 | 1回あたり6,000〜9,000円 |
短期間での渡航予定の場合は、0日・7日での初回2回接種で対応可能です。ただし完全な長期免疫獲得には12ヶ月後の追加接種が推奨されています。
日本脳炎ワクチンの薬学的解説——免疫機序と抗原設計
現在日本で使用される海外渡航向け日本脳炎ワクチンは、ベロ細胞由来不活化ワクチンです。日本脳炎ウイルス(フラビウイルス科)のエンベロープ(E)タンパク質が主要な抗原であり、これに対するIgG抗体が中和抗体として機能します。
初回2回接種(0・7日)で誘導される抗体価は比較的早期に達しますが、これは主にIgM→IgG のクラスIII スイッチが完了する前後のタイミングです。12ヶ月後の追加接種(ブースター)によって記憶B細胞が再活性化され、IgG抗体価が急激に上昇(追加免疫応答)し、長期にわたる免疫記憶が形成されます。
なお、日本の定期接種(小児期)で日本脳炎ワクチンを受けている方でも、接種から10年以上経過している場合や抗体価が低下している場合には、渡航前の追加接種が推奨されます。接種歴をお持ちの方は記録を医師に提示した上で相談してください。
A型肝炎ワクチン
水や食事が原因の感染リスクが高い地域です。ミャンマー滞在中の衛生環境に関わらず接種を推奨します。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | 不活化A型肝炎ワクチン |
| 推奨接種回数 | 初回1回 + 6ヶ月後追加1回 |
| 初回接種後の効果 | 95%以上の有効性(2週間後) |
| 追加接種の役割 | 長期免疫形成(効果20年以上) |
| 費用目安 | 1回あたり5,000〜8,000円 |
薬剤師メモ A型肝炎は予防接種で完全に防ぐことができるワクチン予防疾患です。短期滞在でも初回接種を受けることで、現地でのリスク低減効果は十分です。
A型肝炎の病態と薬学的背景
A型肝炎ウイルス(HAV、ピコルナウイルス科)は糞口感染が主な感染経路であり、汚染された水・生野菜・貝類などを介して侵入します。潜伏期は15〜50日と長く、発症前の無症候期間にも感染性があります。
ワクチンは不活化HAVを主成分とし、水酸化アルミニウムアジュバントによってTh2応答(液性免疫)が優位に誘導されます。初回接種後2〜4週間で中和抗体(抗HAV IgG)が検出可能となり、2回目接種で抗体価が10〜100倍程度に増強されます。50歳以上や免疫機能が低下している方では抗体価の立ち上がりが緩やかなこともあるため、早めの接種開始が望まれます。
なお、過去にA型肝炎に自然感染した経験のある方は生涯免疫が得られているため、接種の必要がない場合があります。血液検査(抗HAV抗体検査)で免疫保有を事前に確認することも選択肢のひとつです。
B型肝炎ワクチン
現地での医療行為(輸血や医療処置)時の感染リスク対策として推奨されます。医療従事者や長期滞在予定者は特に推奨度が高いです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | 不活化B型肝炎ワクチン(組換えHBsAgワクチン) |
| 推奨接種回数 | 3回(0日・4週・6ヶ月) |
| 迅速スケジュール | 0日・7日・21日(緊急時) |
| 効果 | 95%以上 |
| 費用目安 | 1回あたり5,500〜7,500円 |
B型肝炎ワクチンの薬学的解説——組換えタンパク抗原の特性
現在のB型肝炎ワクチンは酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)の遺伝子組換え技術で産生した**HBs抗原(表面抗原)**を主成分とする組換えサブユニットワクチンです。アジュバントとして水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムが配合されており、自然免疫を活性化することで獲得免疫応答を増強します。
標準的な3回接種(0・4週・6ヶ月)によって95%以上の接種者で抗HBs抗体(10 mIU/mL以上)が産生されますが、肥満・高齢・喫煙・免疫抑制状態では応答率が低下する場合があります。その場合には追加接種や高力価ワクチン(用量倍増)の検討が医師の判断で行われます。
緊急スケジュール(0・7・21日)は標準スケジュールに比べて初期免疫応答は得られますが、長期免疫形成のために渡航帰国後12ヶ月後の追加接種が推奨されます。
腸チフスワクチン
不衛生な食水環境でのリスクが考えられる場合、特に農村部への訪問予定者に推奨されます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | Vi多糖体ワクチン(不活化) |
| 接種回数 | 1回 |
| 効果持続期間 | 2〜3年 |
| 費用目安 | 4,000〜6,000円 |
腸チフスワクチンの薬学的解説——Vi多糖体抗原の機序
腸チフスの原因菌であるSalmonella Typhi(チフス菌)は、莢膜Vi多糖体を持ちます。このVi多糖体に対するIgG抗体が腸管粘膜への定着・侵入を阻害することで感染防御が成立します。Vi多糖体ワクチンは精製Vi多糖体を主成分とする不活化ワクチンであり、1回の筋肉内または皮下注射で接種から2〜3週間後に防御免疫が誘導されます。
ただし、2歳未満の小児では多糖体抗原に対するT細胞非依存性応答が未熟なため、Vi多糖体ワクチンは2歳以上に限定されています。効果持続期間は2〜3年程度であり、継続的に流行地へ渡航する場合は定期的な再接種が必要です。
狂犬病ワクチン(渡航前暴露前予防接種)
ミャンマーは狂犬病が依然として流行している地域であり、犬・コウモリ・サル等の野生動物との接触リスクがある場合には**暴露前予防接種(Pre-exposure prophylaxis: PrEP)**が推奨されます。この点は特に、農村部・動物との接触機会がある職業(獣医・研究者等)・長期滞在者において重要です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ワクチン名 | 不活化狂犬病ワクチン(組織培養由来) |
| 暴露前接種回数 | 3回(0日・7日・21または28日) |
| 暴露後の対応 | 暴露前接種済みの場合:0日・3日の追加2回 |
| 効果持続期間 | 暴露前接種で長期記憶免疫 |
| 費用目安 | 1回あたり8,000〜12,000円 |
薬剤師メモ 狂犬病は**発症後の死亡率がほぼ100%**という致死的感染症です。ミャンマーでは動物に咬まれた際にすぐに適切な医療機関を受診できない地域もあるため、渡航前の暴露前接種は非常に有用です。
狂犬病ワクチンの薬学的解説
狂犬病ワクチンは、狂犬病ウイルス(ラブドウイルス科リッサウイルス属)をヒト2倍体細胞またはVero細胞で培養し不活化した組織培養由来不活化ワクチンです。抗原はウイルスのGタンパク質(糖タンパク)であり、これに対する中和抗体が保護免疫の主体となります。
暴露前接種(3回)を完了した場合、動物に咬まれた際には免疫グロブリン(狂犬病免疫グロブリン)の投与が不要となり、追加接種のみ(0・3日の2回)で対応できます。現地ミャンマーでは高品質の狂犬病免疫グロブリンや適切な暴露後予防処置(PEP)を迅速に受けられる保証がないため、渡航前の暴露前接種は実際的な生命保護につながります。
渡航期間別の推奨接種スケジュール
1ヶ月以上前から渡航準備できる場合(最も推奨)
【初回受診】6週間前
- 黄熱病ワクチン接種(1回)
- 日本脳炎ワクチン第1回接種
- A型肝炎ワクチン第1回接種
【2回目受診】5週間前(1週間後)
- 日本脳炎ワクチン第2回接種
- 狂犬病ワクチン第1回接種(推奨の場合)
【3回目受診】4週間前
- B型肝炎ワクチン第1回接種
- 狂犬病ワクチン第2回接種(推奨の場合)
【4回目受診】3週間前
- 腸チフスワクチン接種(必要に応じて)
- 狂犬病ワクチン第3回接種(推奨の場合)
【5回目受診】2週間前
- B型肝炎ワクチン第2回接種
2〜3週間前からの準備の場合
【初回受診】3週間前
- 黄熱病ワクチン接種
- 日本脳炎ワクチン第1回接種
- A型肝炎ワクチン第1回接種
【2回目受診】2週間前
- 日本脳炎ワクチン第2回接種
- B型肝炎ワクチン第1回接種
【3回目受診】1週間前
- 腸チフスワクチン接種(必要に応じて)
- B型肝炎ワクチン第2回接種(緊急スケジュールの場合)
薬剤師メモ 複数の不活化ワクチンは同日接種が可能です(接種部位を分けて投与)。ただし生ワクチン(黄熱病)と他の生ワクチンを同日接種する場合は接種効果への影響が懸念されるため、同日か4週間以上の間隔を開けることが原則です。医師・薬剤師に必ずスケジュールを相談してください。
同時接種の可否まとめ
| ワクチンの組み合わせ | 同日接種 | 間隔の原則 |
|---|---|---|
| 不活化×不活化(複数) | 可(部位を分ける) | 制限なし |
| 生ワクチン×不活化ワクチン | 可 | 制限なし |
| 生ワクチン×生ワクチン | 同日か4週以上の間隔 | 間隔不十分は効果減弱のおそれ |
予防接種の費用目安と接種機関
各ワクチンの費用相場
| ワクチン | 費用目安(1回あたり) | 推奨コース回数 | 合計費用目安 |
|---|---|---|---|
| 黄熱病 | 10,000〜12,000円 | 1回 | 10,000〜12,000円 |
| 日本脳炎 | 6,000〜9,000円 | 3回(初回2回+追加1回) | 18,000〜27,000円 |
| A型肝炎 | 5,000〜8,000円 | 2回 | 10,000〜16,000円 |
| B型肝炎 | 5,500〜7,500円 | 3回 | 16,500〜22,500円 |
| 腸チフス | 4,000〜6,000円 | 1回 | 4,000〜6,000円 |
| 狂犬病(暴露前) | 8,000〜12,000円 | 3回 | 24,000〜36,000円 |
| 合計(全接種の場合) | — | — | 82,500〜119,500円 |
※診察料は別途(通常2,000〜3,000円/回)。費用は医療機関・地域により異なります。
接種機関の選択
海外渡航医学専門クリニック
- 利点:渡航地別の最新情報提供、複合ワクチンの組み合わせ提案が充実
- 全国主要都市に立地(東京・大阪・名古屋・福岡など)
- 予約制が一般的(2〜3週間先まで予約が埋まっている場合あり)
予防接種専門・渡航外来対応医療機関
- 利点:スケジュール調整の融通性が高く、費用が比較的リーズナブルな傾向
- 事前の電話問い合わせでワクチン在庫確認が重要(特に黄熱病・狂犬病は在庫限定)
一般内科クリニック・かかりつけ医
- 利点:身近で予約が取りやすい場合がある
- 注意点:ミャンマー渡航向けの複合スケジュール対応が限定的な場合あり。黄熱病ワクチンは「指定黄熱病予防接種機関」のみで接種可能
医療機関選びの実用チェックリスト
- 黄熱病ワクチン取り扱い(指定機関かどうか)
- 狂犬病ワクチン在庫の有無
- 同日複数ワクチン接種への対応可否
- 接種証明書の英文発行対応
- 渡航後フォローアップ(帰国後追加接種)への対応
予防接種を受ける際の重要な注意点
予防接種前の確認事項
-
現在の健康状態
- 発熱や急性感染症がないか確認
- 免疫抑制剤服用中(ステロイド・生物学的製剤等)の場合は必ず医師に相談
-
妊娠・授乳の有無
- 妊娠中は原則として黄熱病ワクチン(生ワクチン)は禁忌
- 授乳中でも不活化ワクチンはすべて安全に使用できます
-
アレルギー歴
- 卵アレルギーがある場合、黄熱病・一部の日本脳炎ワクチンについて安全性を医師に確認
- 過去のワクチン接種で重篤な副反応(アナフィラキシー等)があった場合は必ず申告
-
他の予防接種との間隔
- 生ワクチン同士:同日か4週間以上の間隔
- 生ワクチンと不活化ワクチン:制限なし(同日接種可能)
-
常用薬・基礎疾患
- 抗凝固薬(ワルファリン等)を服用中の方は、筋肉内注射時の出血リスクについて事前に医師と相談
- 免疫低下状態(HIV感染症・臓器移植後等)では生ワクチンの接種可否を個別に判断する必要があります
副反応への対応
一般的な副反応(2〜3日で消失)
- 接種部位の痛み・腫れ・発赤
- 軽度の発熱(37.5℃以下)
- 疲労感・倦怠感
対応方法
- 接種当日は激しい運動・飲酒を避ける
- 接種部位を冷やす(氷嚢などで10〜15分程度)
- 必要に応じてアセトアミノフェン(acetaminophen、解熱鎮痛成分)配合の解熱鎮痛薬を服用
薬剤師メモ ワクチン接種直後のアスピリン・イブプロフェン等のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、一部のワクチンで免疫応答を抑制する可能性が指摘されています。発熱・疼痛時の鎮痛・解熱にはアセトアミノフェンの使用が第一選択として推奨されます。
ワクチンと薬物相互作用——特に注意が必要な薬
| 薬剤分類 | 代表的な成分例 | ワクチンへの影響 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 免疫抑制薬(全身) | プレドニゾロン、メトトレキサート等 | 生ワクチンの効果減弱・感染リスク | 医師と要相談 |
| 抗ウイルス薬(一部) | アシクロビル等 | 水痘等の生ワクチン効果に影響の可能性 | 使用期間を考慮 |
| 抗凝固薬 | ワルファリン、DOACs等 | 筋注時の出血リスク | 皮下注射への変更を医師に相談 |
| NSAIDs | イブプロフェン、ロキソプロフェン等 | 一部ワクチンの免疫応答低下の可能性 | 接種前後はアセトアミノフェンを優先 |
ミャンマー渡航中の感染症予防(ワクチン以外)
ワクチン接種と併せて、以下の対策で感染リスクを最小化できます。
蚊媒介感染症対策
ミャンマーはデング熱・マラリア・チクングニア熱・ジカウイルス感染症の流行地域です。特にマラリアは薬剤耐性株(クロロキン耐性・一部でアルテミシニン耐性も報告)の問題があり、抗マラリア薬の予防内服(化学予防)についても渡航医学専門医への相談が推奨されます。
- 虫除け剤:ディート(DEET)20〜30%含有製品、または第2世代の有効成分ピカリジン(イカリジン)配合製品が推奨されます
- 長袖・長ズボンの着用(特に夕方〜夜間のヤブ蚊が活発な時間帯)
- 宿泊施設の蚊帳・網戸の確認
- 屋外では明色系の服を選ぶ(蚊は暗色に引き寄せられる傾向)
水・食物媒介感染症対策
- 未開封のペットボトル水のみを飲料・歯磨きに使用
- 屋台・露店での食事は十分に加熱されたものを選択
- 氷入りの飲料・スムージーは避ける
- 生野菜・生食の魚介類は慎重に判断
- 食事前・トイレ後の手洗いを徹底(アルコールハンドジェルを常時携帯)
衛生用品の持参推奨
- アルコールハンドジェル(エタノール濃度60%以上)
- 経口補水塩(下痢・嘔吐時の脱水対策)
- ロペラミド(loperamide)配合の下痢止め薬(成人用、医師または薬剤師へ相談の上持参)
- 日焼け止め・体温計なども合わせて準備を
渡航時の常備薬については [[travel-medicine-kit]] も参考にしてください。
予防接種証明書について
国際予防接種証明書(イエローカード)
黄熱病ワクチン接種時に**Yellow Fever Vaccination Certificate(国際予防接種証明書)**が発行されます。
- 有効性:黄熱病ワクチン接種から10日後から有効
- 効力期間:生涯有効(2016年改定、WHOの規則改正による)
- 入国要件:ミャンマーでは2024年時点で厳密な提示要件がないが、他国乗り継ぎ時に必要な場合あり
- 保管:パスポートとともに保管し、渡航中常時携帯を推奨
薬剤師メモ 黄熱病ワクチン接種国(アフリカ・中南米の流行国)から乗り継いでミャンマーへ入国する際、あるいはミャンマーからの乗り継ぎ先によっては、接種証明提示を求められる場合があります。最新情報は渡航先の大使館・外務省海外安全ホームページでご確認ください。
英文接種証明書の重要性
黄熱病以外のワクチン(日本脳炎・A型肝炎等)の接種証明書は、ミャンマー入国の公的要件ではありませんが、長期滞在や就労・学業目的の渡航時に提出を求められる場合があります。接種時に英文証明書の発行を求めておくことが推奨されます。接種機関によっては別途発行手数料が必要な場合があります。
よくある質問(Q&A)
Q. 子ども(10歳以下)の予防接種は異なりますか?
A. 基本的なワクチン種類は同じですが、用量・スケジュール・接種回数が異なる場合があります。日本脳炎ワクチンは小児用の用量設定があります。Vi多糖体腸チフスワクチンは2歳未満には使用できません。小児渡航医学の専門家または小児科医への受診を強く推奨します。
Q. 以前日本脳炎ワクチン接種歴がありますが、追加接種は必要ですか?
A. 前回接種から5年以上経過している場合、追加接種1回が推奨されます。接種歴の詳細(接種日・回数・使用ワクチンの種類)を医師に報告してください。小児期定期接種歴がある方も同様に確認が必要です。
Q. ワクチン接種後、すぐに渡航できますか?
A. 不活化ワクチン接種当日からの渡航は医学的に可能ですが、十分な免疫形成の観点から渡航まで余裕をもたせることを推奨します。黄熱病ワクチン(生ワクチン)は接種10日後からの渡航が原則です。また、副反応出現の可能性を考慮し、接種直後の長距離移動は可能であれば避けることが望ましいです。
Q. マラリア予防薬(抗マラリア薬)は必要ですか?
A. ミャンマーではマラリアリスクのある地域(特にカチン州・シャン州・国境地帯など)への渡航時に予防内服が推奨される場合があります。抗マラリア薬はワクチンではなく処方薬(医療用医薬品)であり、渡航医学専門医への相談が必要です。渡航先の具体的な州・地域や滞在期間をもとに医師が処方判断を行います。
Q. ミャンマー渡航後の体調不良にはどう対処すればいいですか?
A. 帰国後2〜4週間以内(マラリアの場合は最大1年以内)に発熱・下痢・皮疹などの症状が現れた場合は、渡航先をかかりつけ医や感染症専門医に必ず伝えてください。特に発熱はマラリアの可能性を念頭に、早急な受診が重要です。渡航後の健康管理については [[post-travel-health]] も参照してください。
渡航目的別・リスク別の接種優先度チェックリスト
渡航の目的や滞在形態によって、リスクプロファイルが異なります。以下の表を参考に、自身の渡航に適した接種を医師・薬剤師と相談してください。
| 渡航目的・形態 | 優先度高 | 検討推奨 |
|---|---|---|
| 短期観光(都市部のみ) | 黄熱病、A型肝炎、日本脳炎 | B型肝炎、腸チフス |
| 長期滞在・就労 | 黄熱病、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス | 狂犬病 |
| 農村部・フィールドワーク | 黄熱病、日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、狂犬病 | マラリア予防薬(医師相談) |
| 医療従事者・ボランティア | 全ワクチン | MMR・水痘の抗体確認 |
| 小児連れ渡航 | 黄熱病、日本脳炎、A型肝炎 | 腸チフス(2歳以上)、B型肝炎 |
| 妊婦(医師相談必須) | 不活化ワクチン(個別判断) | 生ワクチンは原則禁忌 |
まとめ
- ミャンマー渡航時の必須ワクチン:黄熱病(入国要件が変わる可能性あり、大使館で確認)
- 強く推奨されるワクチン:日本脳炎、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、狂犬病(暴露前)
- 準備期間の目安:渡航の4〜6週間前から接種開始が最適
- 複合スケジュール対応:海外渡航医学専門クリニックへの相談が効率的
- 費用目安:全接種で82,500〜119,500円(診察料別途)
- 薬学的ポイント:各ワクチンの抗原設計・免疫機序を理解し、適切な間隔・タイミングを守ることが免疫形成の最大化に直結する
- 重要な注意:妊娠中・免疫低下状態・抗凝固薬服用中の接種は医師に相談必須
- 最新情報確認:外務省海外安全ホームページ・ミャンマー大使館の情報を渡航直前に確認
- ワクチン以外対策:虫除け・食水衛生管理・常備薬の準備と併行実施で感染リスクを最小化
適切な予防接種と感染症対策の組み合わせにより、ミャンマー渡航をより安全で快適なものにしていただけます。ご不安な点は渡航医学の専門家にお気軽にご相談ください。東南アジア渡航全般の予防接種については [[southeast-asia-vaccinations]] も参考にしてください。また、旅行者下痢症の予防・対策については [[travelers-diarrhea]] を合わせてご覧ください。
参考文献
- World Health Organization (WHO). "International travel and health: Myanmar." WHO Global Travel Health. https://www.who.int/publications/i/item/9789240058071
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Destinations: Burma (Myanmar)." CDC Travelers' Health. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/burma
- 厚生労働省. 「感染症法に基づく感染症発生動向調査(海外渡航者の感染症リスク)」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「ワクチン類(予防接種製品)の添付文書・審査報告書」. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
- 外務省. 「海外安全ホームページ:ミャンマー連邦共和国 感染症・衛生状況」. https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_175.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))