ペルーの医療事情概要
ペルーは南米でも医療インフラが比較的整備された国ですが、日本との大きな違いを事前に理解することが重要です。特にリマなどの主要都市では私立病院の水準が高い一方、地方部では医療施設が限定的です。また高地のクスコ(海抜約3,400m)では高山病のリスクが存在します。
主な医療上の課題:
- 水系感染症(赤痢、腸チフス)のリスク
- 蚊媒介感染症(デング熱、ジカ熱)の流行地域
- 高地滞在時の高山病
- 医療費が高額(特に私立病院)
ペルーの医療制度は、公的医療保険(EsSalud)と民間医療に大きく二分されます。EsSaludはペルーの被用者向けであり、外国人観光客が利用できる窓口ではありません。そのため旅行者は原則として私立病院(Clínica Privada)を利用することになります。リマのミラフローレス地区やサン・イシドロ地区には国際基準の私立病院が集中しており、英語対応スタッフが勤務する施設も複数あります。一方でイキトスやプーノなど地方都市の医療水準は首都と大きく異なるため、地方滞在の計画がある場合は緊急時の搬送手段も含めて事前に確認することが欠かせません。
感染症の観点では、ペルーは外務省の感染症危険情報で複数の感染症について注意が呼びかけられています。特にアマゾン地域ではマラリアおよびデング熱の流行が継続しており、渡航前のワクチン接種(黄熱病、A型肝炎、腸チフスなど)と感染症予防薬の準備が推奨されます。
薬剤師メモ:ペルーの医療水準は都市部と地方で差が大きく、クスコやマチュピチュ周辺に滞在予定の場合は事前に医療機関情報を確認し、常備薬を多めに準備することを推奨します。また、ペルーは日本と逆の季節(南半球)であるため、渡航時期によって感染症の流行パターンが異なります。出発前に外務省の海外安全情報とCDCのトラベルヘルス情報を必ず確認してください。
ペルーの医療機関の種類と探し方
医療機関のレベル分け
| 医療機関の種類 | 特徴 | 主な利用場面 | 利用のしやすさ |
|---|---|---|---|
| 公立病院(Hospital Público) | 費用が安い / 混雑 / 衛生管理に不安 | 緊急時以外は非推奨 | 低い |
| 私立病院(Clínica Privada) | 衛生基準高い / 医師の質良好 / 費用が高額 | 一般的な体調不良 | 高い |
| 薬局(Botica/Farmacia) | 薬剤師が常駐 / OTC医薬品豊富 | 軽症対応 | 非常に高い |
| ウォークイン診療所(Consultorio) | 予約不要 / 短時間対応 | 軽症・応急処置 | 高い |
ペルーの公立病院(EsSaludおよびMINSA系列)は、国内住民向けに整備されており外国人が突然受診した場合でも急性期であれば対応は受けられますが、待ち時間の長さ・衛生環境・医療材料の不足が報告されており、旅行者にとって現実的な選択肢とは言いにくい状況です。一方、私立病院は清潔な設備と専門医の体制を備えており、旅行者向けのプライベート窓口を設けている施設も存在します。
救急搬送の場合はペルー全国共通の救急番号 105(SAMU:Sistema de Atención Médica de Urgencia)に電話します。英語対応は限定的であるため、スペイン語での基本的なコミュニケーション(住所・症状)を準備しておくか、ホテルのフロントに依頼することを推奨します。
信頼できる医療機関の探し方
1. 事前登録型サービスの活用
- SOS Peru(ペルー全国で提携医療機関あり)
- SafetyWingなどの海外医療ネットワーク
- 大手ホテルのコンシェルジュへの相談
2. リマ市内の主要私立クリニカ(確認推奨)
- Clínica Anglo Americana(サン・イシドロ地区、国際基準、英語対応実績あり)
- Clínica Internacional(リマ市内複数拠点、総合病院)
- Clínica Ricardo Palma(ミラフローレス地区、設備充実)
3. 現地での探し方
- スマートフォンのGoogleマップで「Clínica privada cerca de mí(クリニカ プリバダ セルカ デ ミー:私の近くの私立病院)」と検索
- 渡航者の口コミを事前に確認
- 電話番号を控えて英語対応可否を出発前に確認
- 在ペルー日本大使館の邦人援護窓口も活用可(緊急時)
薬剤師メモ:ペルーでは医師の直接指示がなくても薬局で多くの医薬品が購入可能ですが、抗生物質や処方医薬品は薬剤師の判断で販売制限される場合があります。重症と判断された場合は必ず医師の診察を受けてください。
ペルーの薬局システムと医薬品購入方法
薬局(ファルマシア)の特徴
ペルーの薬局は日本のドラッグストアと異なり、薬剤師が医療相談に対応する施設として機能しています。薬局は「Farmacia(ファルマシア)」と「Botica(ボティカ)」の2種類に大別されます。Farmaciasは薬剤師(Químico Farmacéutico)が常駐することが法律で義務付けられており、より専門的な相談が可能です。Boticaは規模が小さく薬剤師の常駐義務が緩い場合がありますが、軽症対応の医薬品の入手は十分に可能です。
薬局の営業形態:
- 営業時間:朝7時〜夜22時(チェーン系)
- 24時間営業店:リマ市内の主要地区に存在
- 支払い:現金またはペルー国内クレジットカード(観光客は米ドル利用可能な店も)
- 薬剤師への相談:スペイン語が基本、主要都市の大型チェーン店では英語対応も期待できる
ペルーでは薬局が「一次医療の窓口」として機能している側面が強く、軽症の患者が医師を受診せずに薬局の薬剤師に相談してOTC(一般用医薬品)を入手するスタイルが一般的です。日本の薬局と大きく異なる点は、処方箋の有無に関わらず多くの医薬品(抗生物質を含む一部の薬も含む)が購入できる制度的背景があることです。ただし、2019年以降のペルー保健省の規制強化により、抗生物質の販売には処方箋提示が求められるケースが増えており、旅行者が確実に入手できるとは限りません。
軽症対応フロー
症状が出現
↓
薬局で薬剤師に相談(スペイン語または簡易英語)
↓
OTC医薬品で対応 → 処方箋なしで購入可能
※ 重症と判断 → 医療機関紹介
ペルーで入手可能な代表的OTC医薬品
以下の表では、現地で広く流通している成分名と、知られている主な製品例を掲載します。ブランド名は変更・廃番の可能性があるため、成分名(一般名)で薬剤師に確認することを推奨します。
| 症状 | 主な成分名(一般名) | 用法の目安 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 下痢 | ロペラミド塩酸塩 | 1回2mg、その後1mg/排便 | 細菌性・血便の疑いは医師受診 |
| 吐き気・嘔吐 | メトクロプラミド塩酸塩 | 1回10mg、1日3回 | 錐体外路症状に注意(長期不可) |
| 頭痛・発熱 | アセトアミノフェン(パラセタモール) | 1回500〜1000mg、6時間以上あけて | 最大1日4g以下、飲酒者は注意 |
| 風邪症状(鼻汁・熱) | 複合感冒成分(成分名で確認) | 製品表示用量 | 眠気注意、運転不可 |
| 胃酸過多・胃痛 | オメプラゾール | 1回20mg、1日1回 | 1〜2週間の短期使用、PPIはH.pylori隠蔽の懸念 |
| アレルギー症状 | フェキソフェナジン塩酸塩 | 1回60mg、1日2回 | 眠気少ない、腎機能低下者は注意 |
| 皮膚真菌感染 | クロトリマゾール(外用) | 1日2〜3回塗布 | 足白癬・カンジダに有効 |
| 目の充血 | ナファゾリン塩酸塩(点眼) | 1日3〜4回点眼 | 5日以上の連用は反跳性充血のリスク |
薬学的解説:主要薬剤の機序・副作用・相互作用
ロペラミド塩酸塩(下痢止め)
ロペラミドは腸管のμ(ミュー)オピオイド受容体に選択的に作用し、腸管蠕動の亢進を抑制するとともに腸液・電解質の分泌を抑制します。血液脳関門をほとんど通過しないため中枢性オピオイド作用(眠気・依存性)は最小限ですが、細菌性腸炎や血便を伴う下痢では使用を避けるべきです。腸管内の病原体の排泄を妨げることで症状が遷延する可能性があります。P糖タンパク(P-gp)の基質であり、P-gp阻害薬(キニジン等)との併用で血漿中濃度が上昇し、不整脈リスクが増加する報告があります。旅行者下痢症の軽症例(非血性・非発熱性)での短期使用(2日以内)は適切な選択肢です。
アセトアミノフェン(解熱鎮痛)
アセトアミノフェンは視床下部の体温調節中枢に作用する解熱機序と、中枢性プロスタグランジン合成阻害による鎮痛機序を持ちます。胃粘膜への直接刺激がほとんどなく、消化管に負担をかけたくない下痢中の発熱対応に適しています。最大用量(成人1日4g)を超えると肝細胞壊死のリスクがあるため、飲酒習慣のある方や慢性肝疾患がある方は用量を下げるか使用を避けることが必要です。ペルーの薬局ではアセトアミノフェン(現地表記:Paracetamol)が単剤で広く販売されています。
メトクロプラミド塩酸塩(制吐薬)
メトクロプラミドはドパミンD2受容体拮抗作用により中枢性・末梢性の嘔吐を抑制します。胃腸の運動促進作用(消化管運動改善薬としての側面)も持ちます。若年女性や小児では錐体外路症状(急性ジストニア、アカシジア)が出現しやすく、長期連用は遅発性ジスキネジアのリスクがあります。旅行中の一時的な嘔吐への短期使用(3日以内)であれば多くの場合問題ありませんが、高齢者ではパーキンソン様症状の悪化に注意が必要です。
フェキソフェナジン塩酸塩(抗アレルギー)
フェキソフェナジンは第二世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬であり、脂溶性が低く血液脳関門の通過がほとんどないため眠気のリスクが非常に少ない抗ヒスタミン薬です。食事(特に果汁)と同時服用するとバイオアベイラビリティが低下するため、水で服用することが推奨されます。CYP代謝はほとんど受けず薬物相互作用は少ないですが、腎機能が低下している場合は用量調整が必要です。ペルーでは「Fexofenadina」の名称で複数ブランドが販売されています。
薬剤師メモ:ペルーではセファロスポリン系などの抗生物質が以前はOTCで比較的容易に入手できましたが、現在は規制が強化されています。抗生物質の不適切な使用は薬剤耐性菌の増加につながります。微熱程度なら自然治癒を待つか、医師の診察を優先してください。
薬局での購入時の会話例
スペイン語(最小限):
- 「Tengo diarrea.(テンゴ ディアレア)」=下痢があります
- 「Necesito algo para la fiebre.(ネセシト アルゴ パラ ラ フィエブレ)」=熱を下げる薬が必要です
- 「¿Tiene algo para el dolor de cabeza?(ティエネ アルゴ パラ エル ドロル デ カベサ?)」=頭痛に効く薬はありますか?
英語表現(カナ発音付き):
-
I have diarrhea for 2 days.(アイ ハヴ ダイアリア フォー トゥー デイズ) -
Can you recommend a fever medicine?(キャン ユー レコメンド ア フィーヴァー メディシン?) -
I am allergic to penicillin.(アイ アム アラージック トゥー ペニシリン)=ペニシリンアレルギーがあります -
Is this safe to take with other medicines?(イズ ディス セーフ トゥ テイク ウィズ アザー メディシンズ?)=他の薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?
医療機関への受診手順
受診が必要な症状
以下の場合は必ず医師診察を受けてください:
- 39℃以上の高熱が3日以上続く
- 下痢に血便が混じる
- 激しい腹痛・嘔吐
- 呼吸困難
- 虫刺されの感染が疑われる場合(デング熱の初期症状:急激な高熱、眼窩後頭痛、関節痛の三徴候)
- 高地滞在中の頭痛・嘔吐・運動失調(高山病・重症高所肺水腫の疑い)
- 意識障害・けいれん(緊急搬送を要請)
特にデング熱の初期症状は感冒に類似しており、解熱鎮痛薬の選択が重要です。デング熱が疑われる場合はアスピリンおよびイブプロフェンなどのNSAIDsの使用を避け、アセトアミノフェンのみを使用してください。NSAIDsはデング熱において出血傾向を悪化させる可能性があります(血小板機能抑制・消化管出血リスク)。
私立病院受診の手順
- 事前確認:英語対応可否を電話で確認
- 来院時に持参物:パスポート、クレジットカード(現金でも可)、服用中の薬のリストまたはお薬手帳のコピー
- 初診対応:受付で症状を説明、患者情報用紙(問診票)に記入
- 診察:医師との面談(通訳サービスがある大病院もあり)
- 処方:医師の指示で薬局か院内薬局で医薬品を購入
- 支払い:一般的に診察後の一括精算(旅行保険のキャッシュレス対応がある場合は事前に確認)
受診時には薬物アレルギーの既往と現在服用中の薬(特に血液凝固薬、抗てんかん薬、免疫抑制薬など相互作用リスクの高い薬)を必ず申告してください。ペルーの医師は日本の薬剤名に不慣れな場合があるため、成分名(英語の一般名)で伝えるか、日本のお薬手帳の英訳コピーを準備することを強く推奨します。
受診に必要な基本表現
| 日本語 | スペイン語 | 英語 |
|---|---|---|
| 頭が痛い | Me duele la cabeza | I have a headache |
| 下痢をしている | Tengo diarrea | I have diarrhea |
| 3日前から | Desde hace 3 días | Since 3 days ago |
| 薬アレルギー | Alergia a medicamentos | Drug allergy |
| 既往症:糖尿病 | Tengo diabetes | I have diabetes |
| 妊娠中です | Estoy embarazada | I am pregnant |
| 高血圧があります | Tengo hipertensión | I have hypertension |
| ペニシリンアレルギー | Alergia a la penicilina | Penicillin allergy |
薬剤師メモ:ペルーでは医師の診察後に処方箋(Receta)が発行されます。この処方箋は薬局で医薬品購入時に必要となります。処方箋なしでの購入も一部可能ですが、医師の指示がある場合は必ず従ってください。
旅行保険の活用と医療費について
ペルー医療費の目安
| 医療サービス | 費用(USD目安) | 備考 |
|---|---|---|
| 私立病院初診料 | 50〜80 | 医師による基本診察 |
| 血液検査 | 30〜60 | 一般的な検査セット(CBC、CRP等) |
| 抗生物質処方(7日分) | 20〜40 | セファロスポリン系の目安 |
| CT・X線撮影 | 150〜300 | 画像診断の目安 |
| 夜間・休日診察加算 | +30〜50 | 時間外受診 |
| 薬局でのOTC医薬品 | 5〜25 | 成分・ブランドにより異なる |
| 点滴(入院なし) | 80〜150 | 処置室での1回処置 |
| 救急搬送(SAMU) | 公的費用あり | 外国人への費用請求は状況による |
上記はあくまで目安であり、施設・診察内容・検査の組み合わせにより大幅に変動します。重篤な疾患(虫垂炎・骨折・心疾患)で入院・手術が必要になると数千ドル規模になることも珍しくありません。旅行保険なしでの渡航は極めてリスクが高く、必ず加入してから渡航してください。
旅行保険で重要な確認項目
1. 加入前の確認
- 既契約のクレジットカード付帯保険の海外適用範囲(利用限度・補償上限)
- 自己負担額(免責)の設定
- 高山病・感染症(デング熱・マラリア)が補償対象かどうか
- 提携医療機関のペルーでの有無(キャッシュレス対応の可否)
2. ペルー滞在中の対応
- 緊急連絡先(24時間対応)を携帯電話に保存
- 英文診断書(Discharge Summary)・英文領収書を必ず入手・保存
- 高額医療の場合は受診前に保険会社へ連絡し、事前承認を取ることが推奨される
3. 保険請求の流れ
受診 → 英文診断書・領収書原本を入手・保管
↓
帰国後、保険申請書と書類一式を提出
↓
保険会社による審査(一般的に2〜4週間)
↓
指定口座に保険金振込
主な海外旅行保険会社のペルー対応状況(参考)
| 保険会社 | ペルー対応 | 特徴 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 東京海上日動 | ◎ | 提携病院多数、高山病対応の実績 | 24h緊急ダイヤル確認 |
| 損保ジャパン | ◎ | 医療費キャッシュレス対応あり | 提携医療機関の事前検索 |
| AIG損保 | ○ | リマ対応中心 | 地方部は事前確認推奨 |
| 三井住友海上 | ○ | 基本的な対応、事前登録推奨 | 契約書の補償範囲確認 |
※上記は参考情報です。実際の補償内容は各社の契約条件を必ず事前に確認してください。
薬剤師メモ:ペルーの私立病院の多くはクレジットカード決済に対応していますが、保険のキャッシュレス対応が有効かどうかは医療機関が保険会社と直接提携しているか否かによります。提携がない場合は全額自己負担後に帰国後請求となるため、一定の現金(または高限度額カード)の準備も必要です。
ペルー渡航時の医薬品準備と高地対策
日本から持参推奨の医薬品リスト
| 医薬品カテゴリ | 代表成分名(一般名) | 持参量の目安 | 携行理由 |
|---|---|---|---|
| 整腸・止瀉薬 | ロペラミド塩酸塩 / 天然ケイ酸アルミニウム含有製剤 | 20〜30錠程度 | 水系感染症による下痢への対応 |
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン | 30〜40錠程度 | デング熱疑いでもNSAIDs不使用で対応可 |
| 総合感冒薬 | 複合感冒成分配合製剤(日本OTC品) | 10〜20回分 | 慣れた製品を持参が安心 |
| 消化酵素・胃腸薬 | ジアスターゼ・リパーゼ・プロテアーゼ配合 | 1瓶 | 脂質・タンパク質過多な現地食への対応 |
| 抗アレルギー薬 | フェキソフェナジン塩酸塩 / セチリジン塩酸塩 | 20〜30錠 | 蚊刺されのかゆみ・アレルギー症状 |
| 外用抗真菌薬 | クロトリマゾール / ビホナゾール(外用) | 1本 | 高温多湿地域での白癬・カンジダ対策 |
| 経口補水塩(ORS) | ナトリウム・ブドウ糖・カリウム配合粉末 | 10包 | 下痢・嘔吐時の脱水予防に必須 |
| 日焼け止め | SPF50+・PA++++ | 十分量 | 高地では紫外線量が平地の約2倍 |
処方箋医薬品が必要な場合:
- 渡航前に主治医・かかりつけ医に「海外渡航用に多めに処方してほしい」と相談する
- 英文の薬剤情報書(成分名・用量・適応記載)があると、現地での医師・薬剤師とのコミュニケーションに役立つ
- 持参量は通常、渡航期間+7〜14日分の余裕を設けることを推奨する
経口補水塩(ORS)の薬学的重要性
下痢や嘔吐時の体液喪失では、水だけを補給しても低ナトリウム血症が進行する場合があります。WHOが推奨するORS(経口補水塩)は、ナトリウム(75mEq/L)・グルコース(75mmol/L)・カリウム(20mEq/L)の比率により、腸管のナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT-1)を介した吸収を促進します。市販のスポーツドリンクはナトリウム濃度が低く代替にはなりません。ペルー現地でも薬局でORSに類似した製品が入手できる場合がありますが、成分比率を確認するか、日本から粉末タイプのORSを持参することを強く推奨します。
高地滞在時の高山病対策
クスコ(海抜約3,400m)やマチュピチュ周辺滞在予定者へ:
| 対策項目 | 内容 | 薬剤師による補足 |
|---|---|---|
| 到着初日の安静 | 激しい活動を避け、就寝を早くする | 急性高山病は到着後6〜12時間後に発症することが多い |
| 水分補給 | 1日2.5〜3L以上の水を飲む | 高地では呼気・皮膚からの水分喪失が増加 |
| アセタゾラミド | 医師の処方で到着前夜〜滞在中服用 | 処方箋医薬品、国内での事前準備が必須 |
| 酸素缶の携帯 | 必要に応じて市販品を使用 | ペルー現地(「Oxígeno」)でも入手可能、応急的補助として |
| イチョウ葉エキス | 出発1週間前から服用 | 血流改善の補助的効果、完全な予防効果の科学的根拠は限定的 |
| 段階的な高度順応 | リマ(海抜0m近く)→ クスコへの直行を避け、段階的に高度上昇 | 可能なら1〜2日のAcclimatization(順化)期間を設ける |
アセタゾラミドの薬学的解説
アセタゾラミド(carbonic anhydrase inhibitor:炭酸脱水酵素阻害薬)は、腎臓での重炭酸塩(HCO₃⁻)の再吸収を阻害することにより代謝性アシドーシスを誘発し、呼吸中枢を刺激して換気を増加させます。これにより低酸素血症が改善し、高山病(急性高山病・高所肺水腫・高所脳浮腫)の予防効果が得られます。
一般的な予防投与量は成人で125〜250mgを1日2回、高地到着前日の夜から服用を開始し、高地滞在中継続します。主な副作用は頻尿(利尿作用)・手足のしびれ(知覚異常)・炭酸飲料の風味変化などです。スルホンアミド系薬剤との化学的類似性から、スルファ薬アレルギーのある方は投与禁忌です。また利尿作用があるため脱水に注意し、水分補給を意識することが必要です。登山者や高地長期滞在者には特に重要な薬剤であり、渡航前に内科・旅行医学外来での処方相談を強くお勧めします。
薬剤師メモ:アセタゾラミド(一般名)による高山病予防は医学的エビデンスが確立しており、クスコ滞在予定の場合は渡航前に医師に相談することを強く推奨します。ペルー現地での調達は困難なため、事前準備が必須です。
ペルー特定地域の感染症リスクと対応
リマ周辺
- 感染症リスク: 赤痢・腸チフス・A型肝炎(水系感染症)
- 予防接種推奨: A型肝炎ワクチン(2回接種)、腸チフスワクチン(経口または注射)
- 飲食の注意: 生水・氷・生の野菜・路上の屋台食品を避けることが基本
- 医療インフラ: 私立病院が充実、英語対応施設あり
アマゾン地域(イキトス・プエルト・マルドナドなど)
- 感染症リスク: マラリア(熱帯熱マラリア含む)・デング熱・黄熱病・レプトスピラ症・狂犬病
- 必須対応: 黄熱病ワクチン接種(出発10日前まで)、マラリア予防薬(メフロキン等、医師処方)、蚊対策(DEET含有忌避剤・長袖着用)
- 医療インフラ: 大幅に限定的。深刻な症状の場合はリマへの航空搬送が必要になる場合がある
マラリア予防薬の選択肢(医師の判断が必要):
| 薬剤名(成分名) | 服用タイミング | 特徴 | 主な禁忌・注意 |
|---|---|---|---|
| アトバコン/プログアニル配合 | 渡航1〜2日前〜帰国後7日 | 副作用が比較的少ない | 腎機能低下で禁忌 |
| メフロキン塩酸塩 | 渡航1〜2週前〜帰国後4週 | 週1回服用で利便性高い | 精神科既往・不整脈既往は禁忌 |
| ドキシサイクリン塩酸塩 | 渡航1〜2日前〜帰国後4週 | 安価 | 光線過敏症・妊婦禁忌 |
高地(クスコ・プーノ)
- 主なリスク: 高山病(急性高山病・高所肺水腫・高所脳浮腫)、強烈な紫外線、低湿度による脱水
- 対策: 高地適応(段階的高度上昇)、アセタゾラミド(前述)、SPF50+日焼け止め、経口補水
- 医療インフラ: クスコ市内には私立クリニカが複数存在するが、高所肺水腫・高所脳浮腫の重症例は速やかな下山(降高度)が第一治療
まとめ
ペルー渡航時の医療対応:重要ポイント
-
事前準備の優先度:旅行保険加入 > 必要なワクチン接種 > 常備薬・処方薬準備 の順で必須
-
軽症対応フロー:症状出現 → 薬局(Farmacia/Botica)で薬剤師に相談 → 成分名でOTC医薬品を入手。軽症の多くはこのルートで対応可能
-
薬局の活用:ペルーの薬剤師は一次相談窓口として機能している。スペイン語フレーズと成分名を準備しておくと安心
-
医師診察が必要な症状:39℃以上の高熱が3日以上継続・血便・激しい嘔吐・呼吸困難・デング熱三徴候(急激な高熱・眼窩後痛・関節痛)・高山病の神経症状
-
デング熱疑い時の薬剤選択:NSAIDs(イブプロフェン・アスピリン)は使用禁忌。アセトアミノフェンのみ使用可
-
医療機関選択:公立病院は旅行者には非推奨。私立クリニカ(Clínica Privada)を選択する
-
医療費の相場(目安):初診50〜80USD、血液検査30〜60USD、処方医薬品20〜40USD。重篤疾患では数千ドル規模になることも
-
高地滞在対策:アセタゾラミドの事前処方取得が必須。現地調達困難。経口補水塩の持参も忘れずに
-
保険請求:英文診断書・英文領収書を必ず保管。帰国後2ヶ月以内を目安に申請手続きを行う
-
ORS(経口補水塩)の準備:下痢・嘔吐時の脱水対策として、日本から複数パック持参することを推奨
最新情報は大使館・外務省で確認してください:感染症情報やビザ変更は予告なく更新されるため、出発2週間前に在ペルー日本大使館ウェブサイト( https://www.pe.emb-japan.go.jp/)および外務省の海外安全情報(https://www.anzen.mofa.go.jp/)を必ず確認してください。
参考文献・出典
-
WHO | Traveller's health – Peru https://www.who.int/ith/en/(世界保健機関 国際旅行と健康)
-
CDC Travelers' Health – Peru https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/peru(米国疾病予防管理センター ペルー渡航者向け情報)
-
外務省 海外安全情報 ペルー https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_012.html(外務省 感染症危険情報・感染症スポット情報)
-
厚生労働省 検疫所(FORTH)ペルーの感染症・医療情報 https://www.forth.go.jp/destination/southamerica/peru.html(厚生労働省 海外渡航者向け感染症情報)
-
PMDA(医薬品医療機器総合機構)添付文書情報 – アセタゾラミド https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/(PMDA 医薬品添付文書データベース)
-
Luks AM, et al. "Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update." Wilderness & Environmental Medicine, 2019. https://www.wemjournal.org/article/S1080-6032(19)30060-X/fulltext(高山病の予防・治療に関する国際的ガイドライン)
-
WHO ORS formulation – Oral Rehydration Salts https://www.who.int/docs/default-source/child-growth/ors-production.pdf(WHOによる経口補水塩の組成基準)
監修: 薬剤師(博士(薬学))