スイス渡航時の感染症リスク概況
スイスは北ヨーロッパの先進国で、全般的な衛生水準が非常に高く、公開データによれば日本と同等かそれ以上の医療環境が整備されています。しかし、特定の感染症のリスクと季節変動による健康管理には注意が必要です。
スイス連邦公衆衛生局(FOPH: Federal Office of Public Health)が毎年公表する感染症サーベイランスデータによれば、ティック媒介脳炎(TBE)と高地関連疾患は、外国人渡航者が見落としやすい代表的なリスクです。一方でマラリアやデング熱などの熱帯感染症リスクはほぼゼロであり、渡航前に過度に心配する必要はありません。ただし「衛生水準が高い=無策でよい」とはならない点を、薬剤師として強調しておきます。スイス国内でも麻疹のアウトブレイクが過去に複数回報告されており、2023年にもWHOヨーロッパ地域全体での麻疹増加が記録されています。
薬剤師メモ スイスは標高が高い地域(約1,300〜4,800m)が多く、高地順応に伴う一時的な代謝変化が医薬品の効果に影響することがあります。具体的には、低酸素環境下では肝臓のチトクロームP450(CYP)酵素活性が一時的に変動し、一部薬物の代謝速度が変わる可能性が報告されています。事前に医療機関に相談し、個人差に対応した医薬品選択が重要です。
主要な感染症と予防接種
スイス渡航者が事前に確認すべき予防接種は以下の通りです。接種スケジュールには一定のリードタイムが必要なため、渡航が決定した時点で速やかに医療機関へ相談することを推奨します。
| 感染症 | リスク度 | 推奨接種 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 麻疹(はしか) | 中程度 | 推奨 | 1966年以前生まれは特に確認が必要 |
| 風疹 | 中程度 | 推奨 | 妊娠可能年代の女性は必須 |
| ポリオ | 低 | 推奨確認 | 追加接種が必要な場合あり |
| 破傷風 | 低 | 推奨 | 10年ごとの追加接種を確認 |
| インフルエンザ | 中程度(冬季) | 推奨 | 11月〜3月は特に注意 |
| ティック媒介脳炎(TBE) | 中〜高(森林・山岳地帯) | 推奨 | アルプストレッキング予定者は必須 |
| 髄膜炎菌 | 低 | 個別相談 | 学生寮滞在者は推奨 |
事前に日本国内の医療機関で予防接種歴を確認し、渡航2〜4週間前から予防接種を受けることを強く推奨します。麻疹・風疹の混合ワクチン(MRワクチン)は2回接種が基本で、2回目を渡航前に打っていない方は特に注意が必要です。スイスの病院でも接種可能ですが、日本語対応が限定的な場合があるため、出国前の対応が現実的です。また、TBEワクチンは標準的な日本のかかりつけ医では扱いが少ないため、トラベルクリニックや感染症専門外来への受診をお勧めします。
スイスの水道水・食事衛生情報
水道水の安全性
スイスの水道水は、世界保健機関(WHO)の基準を上回る厳格な水質管理下にあります。そのまま飲用可能です。スイスでは国土の約80%がアルプス山岳由来の地下水・湧水を水源としており、硬度は地域によって異なりますが概して軟水〜中硬水です。ただし、以下の点に注意してください。
- 山岳地域の小規模集落:地下水利用の施設では融雪期(4〜6月)を中心に濁度が上昇することがあります。不安な場合はミネラルウォーターを購入してください。
- 古い建物の宿泊施設:建築年が古い建物では配管素材に鉛が使用されている場合があり、特に長時間滞水後の「最初の水」に鉛が溶出するリスクがあります。長期滞在時は宿泊施設に水質を確認するか、朝一番は数十秒流してから使用する習慣を持つとよいでしょう。
- 登山中・山小屋滞在時:山小屋の給水システムは多様です。不安な場合は携帯浄水器(紫外線滅菌式や逆浸透膜式)の利用を検討してください。
薬剤師メモ 活性炭フィルター式の携帯浄水器は、バイオフィルム汚染や一部のウイルスに対しては無効です。ウイルスまで除去したい場合は紫外線滅菌式(UV-C方式)の製品の方が確実性が高く、複合汚染が心配な場合は塩素系の浄水タブレット(次亜塩素酸ナトリウム配合)との併用も選択肢です。浄水タブレットは海外アウトドア用品店や一部薬局で入手できます。
食事衛生と食中毒予防
スイスのレストラン・スーパーマーケットは高い衛生基準を満たしていますが、以下のリスク軽減策を推奨します。
- 生ハム・生チーズ(ソフトチーズ・ウォッシュタイプ等):妊娠中または免疫低下者はリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)のリスクがあるため避けることを推奨します。リステリア症は健康な成人では軽微な症状にとどまることが多いですが、妊婦では早産・流産のリスクがあり、新生児・高齢者・免疫抑制状態の方では重症化することがあります。
- 生卵を使った調理品:サルモネラ菌(Salmonella spp.)対策として、十分に加熱された調理品を選択してください。
- 野菜・果物:スーパーや市場で購入した生食用野菜・果物は、可能であれば流水で洗浄してから摂取してください。
- 未殺菌乳(Raw Milk)表記製品:スイスでは農家直売の未殺菌乳が一定程度流通しています。カンピロバクター(Campylobacter spp.)・大腸菌O157などのリスクがあるため、特に小児・妊婦・高齢者は避けてください。
食中毒予防薬として、以下の常備を推奨します。
| 医薬品成分(一般名) | 製品例 | 用法・用量の目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ロペラミド塩酸塩 | ロペミン 🛒など(成分名で確認) | 初回2mg、その後下痢1回ごとに1mg(上限:1日12mg) | 細菌性下痢・発熱・血便時は使用禁止。腸管内に病原体を滞留させるリスクあり |
| タンニン酸アルブミン/木クレオソート配合製剤 | 整腸を目的とした配合製剤 | 製品添付文書に従う | 軽度の下痢・整腸目的 |
| ジメチコン(ジメチルポリシロキサン) | ガスコンなど成分名で確認 | 添付文書に従う | ガス抜き(消泡)効果。吸収されない安全性の高い成分 |
| 経口補水塩(ORS) | OS-1 🛒粉末など | 脱水時に適宜 | 下痢・嘔吐による脱水予防に最重要。市販スポーツ飲料は糖質が高く代替不可 |
薬剤師メモ(ロペラミドの薬理機序) ロペラミドはオピオイドμ(ミュー)受容体作動薬です。腸管壁の神経叢に作用して腸管の蠕動運動を抑制し、また腸管上皮のクロライドチャンネルを介した分泌を抑制することで止瀉作用を発揮します。血液脳関門を通過しにくいため中枢性の副作用は少ないですが、腸管麻痺(中毒性巨大結腸症)を誘発する可能性があるため、細菌性腸炎が疑われる場合(発熱・血便・激しい腹痛を伴う下痢)には使用しないことが原則です。
気候と季節別の医薬品備え方
春(3月〜5月)・秋(9月〜10月)の気候
スイスの春・秋は変動が激しく、同日内でも気温差が10℃以上になることがあります。特に標高差の大きい移動(都市部から山岳地帯など)では、服装管理が重要です。また、スイスはシラカバ(Birch)やイネ科植物の花粉飛散量が多く、春のシラカバ花粉シーズン(3〜5月)はアレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎症状が増悪する時期でもあります。
必携医薬品:
- 抗ヒスタミン薬(第2世代):セチリジン塩酸塩(1日1回10mg)、フェキソフェナジン塩酸塩(1日2回60mgまたは1日1回180mg)など眠気が少ない製品を選択してください。運転・山岳行動が予定されている場合は、眠気のリスクが低い第2世代を優先します。
- 点鼻薬:フルチカゾンプロピオン酸エステルなどのステロイド系点鼻薬(処方薬)は、スイスでは処方箋が必要なため、日本から持参することを推奨します。
- アセトアミノフェン配合の総合感冒薬:スイスでは「Paracetamol(パラセタモール)」として薬局で広く販売されています。日本のPL顆粒のような多成分配合製剤は入手しにくいため、日本から持参するのが無難です。
- 皮膚保湿クリーム:寒暖差と乾燥によるアトピー性皮膚炎・乾燥性湿疹の悪化対策として、ヘパリン類似物質含有クリームや白色ワセリンを携帯してください。
夏(6月〜8月)の高地トレッキング対策
スイスアルプスは世界有数の高地地帯です。ユングフラウヨッホ(標高約3,454m)やマッターホルン周辺のトレッキングエリアは、急性高山病(AMS: Acute Mountain Sickness)が発生する標高域です。さらにロープウェイ・ゴンドラを使って短時間で高度を稼ぐ観光パターンでは、身体が順応する間もなく高地に到達するため、発症リスクが高まります。
急性高山病(AMS)の症状と対処:
| 症状 | 重症度 | 対処法 |
|---|---|---|
| 頭痛・疲労感・軽度の倦怠感 | 軽症(AMS初期) | 水分補給(1日2〜3L目安)、上昇速度を緩める、安静 |
| 悪心・嘔吐・食欲不振・睡眠障害 | 中等度 | 高度を上げない。症状が改善しなければ下山または医療施設受診を検討 |
| 肺水腫の徴候(安静時呼吸困難・咳嗽・ピンク色泡沫状痰) | 重症(HAPE) | 直ちに下山、救急要請。酸素投与が可能であれば実施 |
| 意識混濁・運動失調・激しい頭痛 | 重症(HACE) | 直ちに下山、救急要請。1分でも早い降下が最優先 |
薬剤師メモ(アセタゾラミドの薬理機序) アセタゾラミド(一般名)は炭酸脱水酵素(Carbonic Anhydrase: CA)阻害薬です。腎臓での重炭酸イオン(HCO₃⁻)再吸収を阻害することで代謝性アシドーシスを誘発し、これが呼吸中枢を刺激して換気量を増加させます。換気亢進により肺胞での酸素分圧が上昇し、低酸素環境への順応を促進します。また、就寝中の周期性呼吸(チェーン・ストークス呼吸)を軽減する作用もあります。標準的な予防投与量は125〜250mgを1日2回、高地到着の1〜2日前から服用開始し、高地滞在中は継続するのが一般的ですが、個人差があるため必ず医師の指示に従ってください。なお、アセタゾラミドはスルホンアミド系(磺胺系)薬に分類されるため、スルホンアミド系薬へのアレルギー既往がある方には原則禁忌です。また、利尿作用があるため電解質(特にカリウム)の補給を心がけることが重要です。
高地対策の医薬品と携行品:
- アセタゾラミド(医師処方必須):規格は製品により異なるため、処方時に医師・薬剤師に確認してください。
- イブプロフェンまたはアセトアミノフェン:AMS軽症時の頭痛緩和に使用します。ただし症状の根本対処にはならず、下山判断を遅らせないよう注意してください。
- 携帯型酸素缶:緊急の一時的補助として有用ですが、根本的な治療は下山であることを忘れないでください。
- 経口補水塩(ORS)・電解質補給飲料の粉末:アセタゾラミドの利尿作用による脱水・電解質異常の補正に役立ちます。
冬(11月〜2月)の対策
スイス冬は長く、特に標高の高い地域では気温が−10℃以下に達することもあります。スキー・スノーボードなどのウィンタースポーツ愛好者も多く訪れる季節ですが、転倒による骨折・打撲への対応と感染症(特にインフルエンザ)対策が重要です。
必携医薬品:
- インフルエンザ治療薬(オセルタミビル等):症状発現後48時間以内の投与が重要です。スイスでは処方箋医薬品のため、日本で事前に処方してもらうか、トラベルクリニックで「スタンバイ処方」を受けることも選択肢です。なお、渡航先で発熱した場合は医師の診察を受けることが原則です。
- 咳止め薬(鎮咳薬):ジヒドロコデインリン酸塩配合製品はスイスでは処方箋が必要な場合があります。デキストロメトルファン臭化水素酸塩配合のOTC鎮咳薬は日本から持参することを推奨します。
- リップクリーム・ハンドクリーム:寒冷乾燥環境による口唇ヘルペス再活性化や手荒れ(皮膚バリア破壊)が起きやすい季節です。ワセリンベースのリップクリームや尿素配合ハンドクリームを携帯してください。
- 消炎鎮痛外用薬(貼付剤・塗布剤):ウィンタースポーツによる筋肉痛・打撲に対して、インドメタシン・フェルビナクなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)配合外用製剤が有効です。ただし開放創には使用しないでください。
凍傷・低体温症のリスクも忘れてはなりません。末梢血管障害のある方やレイノー症候群の既往がある方は、渡航前に医師への相談が必要です。ウィンタースポーツ中の紫外線(雪面からの照り返し)による紫外線角膜炎(スノーブラインドネス)予防には、UVカット機能を持つゴーグルやサングラスが必須です。
ティック媒介脳炎(TBE)と感染症対策
ティック媒介脳炎(TBE)の詳細
スイスの森林・草地・山岳丘陵地帯ではマダニ(主にヨーロッパ木ダニ Ixodes ricinus)が分布しており、このマダニが媒介するTBE(ティック媒介脳炎、Tick-Borne Encephalitis)は、スイスにおける重要な感染症です。スイス連邦公衆衛生局のデータによれば、スイス国内の大部分(平地・丘陵・山岳地帯)がTBEリスク地域に指定されており、リスクが低いのはジュネーブ州の一部とティチーノ州の一部のみとされています(最新のリスクマップはFOPH公式サイトを参照)。
TBEウイルスはフラビウイルス科に属するRNAウイルスで、マダニに刺されてから7〜14日(目安)の潜伏期を経て発症します。典型的な二相性経過をたどり、第1相(インフルエンザ様症状:発熱・頭痛・倦怠感)がいったん軽快した後、第2相として脳炎・髄膜炎症状(激しい頭痛・項部硬直・意識障害・麻痺)が出現することがあります。第2相まで進展した場合の後遺症リスクは無視できません。現時点でTBEに対する特異的な抗ウイルス治療薬はなく、ワクチン接種による予防が最も有効な対策です。
TBEワクチン接種スケジュール(目安):
| 接種スケジュール | 方法 |
|---|---|
| 通常スケジュール | 第1回→第2回(1〜3か月後)→第3回(初回から9〜12か月後)、以降3〜5年ごとに追加接種 |
| 迅速スケジュール | 第1回→第2回(14日後)→第3回(第2回から14日後)で渡航前に2〜3回接種を完了させる方法もある(ワクチン製品・医師の判断による) |
日本国内での接種は、輸入ワクチン対応のトラベルクリニックや一部の大学病院感染症科で可能です。渡航が決まったら早めに問い合わせることを推奨します。
ライム病(Lyme Disease)についても注意
同じマダニ(Ixodes ricinus)はボレリア菌(Borrelia burgdorferi sensu lato)も媒介します。ライム病はTBEと異なり、刺咬部位の周囲に遊走性紅斑(Erythema migrans)が出現することが特徴的な初期症状の一つです。ライム病にはワクチンがないため(現在日本・欧州で承認されているヒト用ワクチンなし)、マダニに刺されないことが最重要の予防策です。
マダニ対策の実践
- 肌を露出させない服装:森林・草地では長袖・長ズボン・靴下の着用が基本です。ズボンの裾を靴下の中に入れる「タックイン」が効果的です。
- 忌避剤(虫よけ)の使用:ディート(DEET)配合製品またはイカリジン(Picaridin)配合製品を露出部位に塗布します。ディートは20〜30%濃度製品が一般的に使用されており、イカリジンは皮膚刺激が少なく小児にも使用しやすいとされています。
- 活動後の全身確認:屋外活動後は衣服を脱いで全身をくまなく確認し、マダニが付着していないかチェックします。刺咬を受けやすい部位は首・耳の後ろ・わきの下・ひざの裏・鼠径部など皮膚が薄く暖かい場所です。
ティック(マダニ)除去の正しい方法:
- 先が細い医療用ピンセット(またはティック専用除去器具)で、マダニの口器と皮膚の接触部分のできるだけ根元に近い部分をつかむ。
- 皮膚に対して垂直に、ゆっくりと引き抜く(ひねる・回転させる・強く引くと口器が残るリスクがあります)。
- 除去後、刺咬部位を70%イソプロパノールまたは消毒用エタノールで清拭する。
- 除去後数日〜数週間は刺咬部位の発赤・拡大する紅斑がないかを観察します。遊走性紅斑が出現した場合は速やかに医療機関を受診してください。
注意:バセリン・アルコールをマダニに塗りつけて窒息させる方法は推奨されません。マダニが唾液腺内容物(ウイルス・菌)を逆流させるリスクがあるとされています。
携帯推奨品:
- 先細り医療用ピンセット(ティック除去用)
- 消毒用エタノール綿(個包装タイプが携帯しやすい)
- ディートまたはイカリジン配合虫よけスプレー
スイス到着後の医療アクセス
スイスの医療体制は極めて充実していますが、医薬品入手に制限があります。また、医療費は非常に高額であり、旅行傷害保険への加入は渡航前の必須事項です。スイスでは「Selbstbehalt(自己負担額)」制度があり、スイス居住者でも医療費の一部を自己負担するシステムです。外国人旅行者は原則として全額自己負担になるため、保険加入は不可欠です。
重要な制限品・現地入手困難な医薬品:
| 成分・製品カテゴリ | スイスの状況 | 対応策 |
|---|---|---|
| コデイン・ジヒドロコデイン含有製剤 | 処方箋必須、入手困難 | 出国前に日本で必要量を常備 |
| ロペラミド塩酸塩 | 薬局でOTC購入可 | 現地購入可能。日本からの持参も可 |
| アスピリン(アセチルサリチル酸) | 薬局でOTC購入可 | 現地購入可能 |
| アセトアミノフェン(Paracetamol) | 薬局でOTC購入可 | 現地購入可能(製品名は異なる) |
| アセタゾラミド(高山病予防) | 処方箋必須 | 日本のトラベルクリニックで処方を受けて持参 |
| インフルエンザ治療薬(オセルタミビル等) | 処方箋必須 | 日本で事前にスタンバイ処方を受けることも選択肢 |
| 医療用医薬品全般 | 処方箋必須 | 医師診察後に薬局(Apotheke/Pharmacie)で入手 |
スイスの薬局について: スイスでは薬局はドイツ語圏では「Apotheke(アポテーケ)」、フランス語圏では「Pharmacie(ファルマシー)」、イタリア語圏では「Farmacia(ファルマチア)」と呼ばれます。薬剤師が常駐しており、OTC医薬品の相談に応じてもらえます。英語が通じる薬局も多く、以下のような英語フレーズが使えます:
-
I have a headache and fever.(アイ ハヴ ア ヘッドエイク アンド フィーバー) -
Do you have any painkillers without a prescription?(ドゥ ユー ハヴ エニー ペインキラーズ ウィズアウト ア プリスクリプション?) -
I need something for diarrhea.(アイ ニード サムシング フォー ダイアリア) -
I'm allergic to aspirin.(アイム アラジック トゥ アスピリン)
夜間・緊急の薬局については、スマートフォンで現地言語で検索すると当番薬局(緊急薬局)が見つかります。大都市(チューリッヒ・ジュネーブ・ベルン・バーゼル)では24時間対応の緊急薬局も存在します。
薬剤師メモ スイスの市販医薬品は日本と比較して価格が2〜3倍程度高いケースもあります。常用薬・慢性疾患治療薬・旅行常備薬は日本から十分な量(滞在日数+予備分)を持参することを強く推奨します。なお、日本からスイスへ医薬品を携行する際は、日本の輸出規制(麻薬・向精神薬・覚醒剤原料等に関する規制)とスイスの輸入規制の両面を確認してください。処方薬は英文の医師診断書・処方箋を携行することを推奨します。
常備医薬品チェックリスト
以下は、スイス渡航時の標準的な医薬品セットです。個人の既往歴・持病・アレルギーに応じて医師と相談の上、追加・変更してください。なお、医薬品はすべて使用期限内のものを持参し、機内・預け荷物への分散格納(特に液状製剤・座薬は機内に保管)を推奨します。
基本セット(成分名を基準に確認):
- アセトアミノフェン配合の解熱鎮痛薬(スイスでも「Paracetamol」として現地購入可能だが日本製品に慣れているなら持参推奨)
- ロキソプロフェンナトリウム水和物またはイブプロフェン配合の解熱鎮痛・消炎薬(注:胃腸障害のある方は注意)
- H₂受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌抑制薬):食べ過ぎ・胃酸過多・逆流性食道炎の症状緩和
- ロペラミド塩酸塩(下痢止め):現地購入も可能だが持参を推奨
- 整腸薬(ビフィズス菌・乳酸菌製剤など):軟便・腸内環境調整
- 経口補水塩(ORS)粉末:脱水補正の基本
- 第2世代抗ヒスタミン薬(セチリジン塩酸塩またはフェキソフェナジン塩酸塩):花粉症・アレルギー対策
- 乗り物酔い薬(ジフェンヒドラミン塩酸塩またはメクリジン塩酸塩配合製品)
- 点眼薬(防腐剤無添加の人工涙液タイプ):乾燥・花粉・紫外線による眼の刺激緩和
- インドメタシンまたはフェルビナク配合の外用消炎鎮痛剤(貼付剤・ゲル剤)
- 絆創膏・滅菌ガーゼ・医療用テープ
- 消毒液(ポビドンヨード製剤またはクロルヘキシジングルコン酸塩配合製剤)
高地トレッキング・冬季スポーツ対象者の追加品:
- アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬):医師処方必須。高山病予防用
- 携帯型酸素缶:緊急補助目的(根本治療は下山であることを忘れない)
- オセルタミビルリン酸塩等のインフルエンザ治療薬:医師処方必須
- 尿素配合ハンドクリーム・ワセリン系リップクリーム:低温・乾燥による皮膚バリア保護
- 防水・防寒のサーマルブランケット(ハイキング・スキー時の緊急低体温症対策)
まとめ
- 予防接種:渡航2〜4週間前に、麻疹・風疹・破傷風・ポリオの接種状況を確認し、必要に応じて追加接種を受ける。アルプストレッキング予定者はTBEワクチンを早めに検討する
- 水・食事:スイスの水道水・レストランは高い衛生基準を満たしているが、生ハム・未殺菌チーズは妊娠中・免疫低下時に注意。登山時は紫外線滅菌式浄水器の持参を検討
- 季節別対策:春秋の花粉症対策(第2世代抗ヒスタミン薬)、夏の高地順応症予防(アセタゾラミドは医師処方を取得してから持参)、冬のインフルエンザ対策(予防接種と治療薬の事前準備)が重要
- 高地・ティック対策:アルプストレッキング予定者はアセタゾラミド処方とTBE予防接種を検討。ディートまたはイカリジン配合虫よけを使用し、帰宅後は全身のマダニ確認を怠らない
- ライム病にも注意:同じマダニが媒介。遊走性紅斑(刺咬部位周囲の拡大する輪状紅斑)が出現した場合は速やかに受診
- 医薬品持参:コデイン含有製品・アセタゾラミド・インフルエンザ治療薬など、スイスで入手困難または処方箋が必要な医薬品は日本から十分に持参する。市販薬も現地は高額なため、常用薬・旅行常備薬は余裕を持って準備
- 旅行傷害保険:スイスの医療費は非常に高額。海外療養費をカバーする旅行傷害保険への加入は必須
- 医療アクセス:スイスの医療体制は充実しているが、医師診察が必須。緊急時は救急番号144(スイス統一救急番号)に電話。夜間緊急薬局(Apotheke Notdienst / Pharmacie de garde)の事前確認も推奨
- 渡航前相談:アセタゾラミド・抗生物質アレルギー・慢性疾患のある方は、渡航前に必ず医師・薬剤師に個別対応を相談する
参考文献
-
Federal Office of Public Health (FOPH), Switzerland. "Tick-borne encephalitis (TBE)." https://www.bag.admin.ch/bag/en/home/krankheiten/krankheiten-im-ueberblick/fsme.html
-
World Health Organization (WHO). "International Travel and Health – Switzerland." https://www.who.int/ith/en/
-
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Travelers' Health – Switzerland." https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/switzerland
-
厚生労働省. 「海外へ医薬品を持参する際の注意事項」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/index.html
-
Luks AM, et al. "Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update." Wilderness & Environmental Medicine. 2019;30(4S):S3-S18. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31248818/
-
European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC). "Tick-borne encephalitis." https://www.ecdc.europa.eu/en/tick-borne-encephalitis
-
外務省海外安全情報. 「スイス」 https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_134.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))