【ダサチニブ】スプリセルの機序・副作用・相互作用を薬剤師が解説

概要

ダサチニブは、BCR-ABLおよびSrc族チロシンキナーゼを阻害する第二世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。慢性骨髄性白血病(CML)および急性リンパ性白血病(ALL)の治療に使用される。スプリセル(商品名)として日本を含む世界130以上の国で承認されており、イマチニブ耐性例への有効性が特徴である。


機序(作用機序)

BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害

ダサチニブは、BCR-ABL融合遺伝子産物であるBCR-ABLタンパク質のATP結合部位に可逆的に結合し、その自己リン酸化と下流シグナル伝達を阻害する。BCR-ABLは慢性骨髄性白血病(CML)やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の発症に中心的な役割を果たす。

ダサチニブはイマチニブよりも40〜100倍強力なBCR-ABL阻害活性を示し、イマチニブ耐性株に対してもin vitro では活性を保つ。特にT315Iを除く多くのイマチニブ耐性変異株に有効である点が臨床的に重要である。

Src族キナーゼ阻害

ダサチニブはSrc、Lyn、Yes1などのSrc族チロシンキナーゼを強力に阻害する。Src族キナーゼは造血幹細胞の増殖、分化、アポトーシスに関与し、白血病細胞の骨髄ニッチへの細胞接着を制御する。このSrc阻害作用により、イマチニブ耐性CMLの克服につながると考えられている。

下流シグナル経路

BCR-ABL阻害によってERK1/2、Akt/PKB経路など増殖シグナルが遮断される。結果として白血病細胞の増殖停止とアポトーシス誘導が生じる。


薬物動態

項目 詳細
吸収 経口投与後1〜3時間でピーク濃度に達する
分布 タンパク結合率96%、広く組織に分布
代謝 主にCYP3A4により酸化的代謝を受ける。CYP3A4阻害薬と併用時に血中濃度上昇
半減期 3〜5時間(活性成分は3〜6時間)
排泄 主に糞便(85%以上)、尿中(4%未満)

ダサチニブは脂溶性が高く、血液脳関門を透過するため中枢神経系への移行が報告されている。食事の影響は最小限であり、空腹時・食後いずれの投与も可能である。


適応

日本(保険適応)

  • 慢性骨髄性白血病(CML)

    • 慢性期および加速期
    • イマチニブ、ニロチニブ耐性または不耐容患者
    • 新規診断患者(一部)
  • Ph陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)

    • イマチニブ耐性または不耐容患者

海外(代表的な適応)

  • 米国FDA: CML慢性期、加速期、急性期; Ph+ALL(併用療法)
  • 欧州EMA: CML全病期; Ph+ALL
  • 中国・シンガポール: CML、Ph+ALL(適応は国ごとに異なる)

禁忌

絶対禁忌

  • 本剤またはその成分に対する過敏症の既往

慎重投与

  • QT延長または不整脈の既往

    • ダサチニブはQT延長を起こす可能性があり、特にカリウム低下時に注意
  • 肝機能障害

    • CYP3A4代謝が主経路のため、肝機能が著しく低下している場合は用量調整が必要
  • 腎機能障害

    • 重篤な腎不全患者では蓄積のリスク
  • 出血傾向

    • 出血イベントのリスク増加
  • 感染症の合併

    • 免疫抑制により感染悪化の可能性
  • 妊婦・授乳婦

    • 下記「妊娠・授乳区分」参照

主な相互作用

医薬品・物質 機序 対策
CYP3A4阻害薬 (イトラコナゾール、エリスロマイシン、リトナビル等) CYP3A4阻害によるダサチニブ血中濃度上昇 ダサチニブ用量減量を検討
CYP3A4誘導薬 (リファンピシン、フェニトイン等) 代謝促進によるダサチニブ血中濃度低下 併用は避け、必要な場合はダサチニブ用量増加を検討
H2受容体拮抗薬・制酸薬 pHの上昇によるダサチニブの溶解性・吸収低下 時間をあけて投与
QT延長薬 (アミオダロン、スンチニブ等) QT延長相乗効果 併用を避ける、心電図監視
ワルファリン 相互作用機序は完全に明らかでないが、INR上昇報告あり INR監視強化
アザチオプリン 骨髄抑制の相乗効果 併用を避ける
アセトアミノフェン 肝代謝競合 一般的な用量では臨床的に有意でないと考えられる

副作用

頻発(10%以上)

  • 血液毒性

    • 血小板減少、好中球減少、貧血
    • 重篤例(Grade 3/4)は20〜30%
  • 消化器症状

    • 悪心、嘔吐、下痢、腹痛
  • 全身症状

    • 疲労、倦怠感、頭痛

時々(1〜10%)

  • 心血管系

    • 胸痛、動悸、高血圧
  • 皮膚症状

    • 皮疹、皮膚乾燥、爪障害
  • 呼吸器

    • 咳嗽、呼吸困難、肺炎
  • 筋骨格系

    • 筋肉痛、骨痛、関節痛

まれ(0.1〜1%未満)

  • 重篤な出血

    • 消化管出血、脳出血
  • QT延長・不整脈

    • トルサード・ド・ポワン、心房細動
  • 肝機能障害

    • AST/ALT上昇、胆汁うっ滞
  • ニューモシスチス・ジロヴェッチ肺炎(PCP)

    • 免疫抑制により稀に発症

重篤(因果関係関わらず報告)

  • 重篤感染症

    • 敗血症、結核
  • 心不全

    • 特に既往のある患者で注意
  • 肺線維症

    • 稀だが致命的の可能性あり
  • 腫瘍崩壊症候群

    • 高腫瘍負荷患者での初期治療時

妊娠・授乳区分

区分項目 分類・コード
FDA妊娠カテゴリ(旧) D (胎児リスク証拠あり)
PLLR(妊娠と授乳に関する相対的リスク) Class 3 / × (禁忌)
ラクタショナルハザードL値 L5 (ラクテーション中の使用禁止)
日本(添付文書) 妊婦に対する投与は原則禁止、授乳中も原則禁忌

詳細

妊娠

ダサチニブは動物実験で奇形児が報告され、人での十分な知見がない。妊婦への投与は禁止されている。妊娠可能女性に投与する場合は、投与開始前に妊娠の有無を確認し、投与中および投与終了後も確実な避妊が必要である。

授乳

ダサチニブは母乳中への移行が想定される。乳児への安全性が確立していないため、投与中の授乳は禁止されている。


世界規制サマリ

地域・国 入手可否 処方箋要否 備考
日本 ✓ 要(医師処方) 医療用医薬品、保険適応あり
米国(FDA) ✓ 要 1996年初承認、ジェネリック未発売(2026年時点)
欧州(EMA) ✓ 要 2006年承認、中央手続き
英国(NHS) ✓ 要 NHS処方可、がん治療専門施設で処方
カナダ ✓ 要 Health Canada承認
オーストラリア ✓ 要 TGA承認、慢性期CMDが主適応
シンガポール ✓ 要 規制医薬品(Special)、病院処方
香港 ✓ 要 登録医薬品、専門医処方
中国 ✓ 要 NMPA承認、上海・北京等大都市で入手可
インド ✓ 要 承認あり、一般医薬品店でも販売
ドバイ・UAE ✓ 要 湾岸協力会議(GCC)医薬品リスト搭載
イスラエル ✓ 要 MOH承認

※ジェネリック医薬品の入手可否は国・地域ごとに大きく異なる。


類似成分・代替

同じチロシンキナーゼ阻害薬、または同適応で使用される代替薬:

成分名(商品名) 特徴 備考
イマチニブ(グリベック) 第1世代TKI、BCR-ABL選択的阻害 ダサチニブの耐性例が適応
ニロチニブ(タシグナ) 第2世代TKI、強力なBCR-ABL阻害 ダサチニブとの二次治療の選択肢
ボスチニブ(フォサーク) 第2世代TKI、T315I耐性変異に無効 CML加速期・急性期適応あり
ポナチニブ(アイクルシグ) 第3世代TKI、T315I含む耐性変異に有効 より強力だが毒性も大きい
ラディチニブ(オンクリスタ) 第3世代TKI、T315I対応 開発中〜未承認の地域あり

渡航時の注意

海外への持ち込み

事前準備

  1. 英文処方箋・診断書の取得

    • 日本の処方医から英文の処方箋および診断書(CML/Ph+ALL診断)を取得する
    • 用量・処方理由・予定滞在期間を明記させる
    • 医師のサイン・スタンプを取得し、原本を持参
  2. 常備薬証明書

    • JMRA(全日本医師会)の常備薬証明書取得も有効
    • 持ち込み国の大使館に事前確認推奨

持ち込み時の注意

  • 容器・ラベルの確認

    • 元の薬局ラベル(患者名、処方医、用量、処方日など)が見える状態で保管
    • 医薬品の外箱も保持することが望ましい
  • 持ち込み量

    • 滞在期間に必要な量(目安: 3ヶ月分まで許可される地域が多い)
    • 過剰持ち込みは麻薬密輸に疑われるリスク
  • 経由地での注意

    • 経由国でも医薬品規制が適用される
    • 経由時間が長い場合は経由国での手続きが必要な場合もある

規制が厳しい地域・国での対応

ドバイ・UAE

  • ダサチニブは規制医薬品リストに含まれるため持ち込み可だが、事前許可(No Objection Certificate: NOC)取得が推奨される
  • UAE食品医薬品局(FZOUD, 旧ADHA)への申請手続き
  • 英文処方箋は必須

シンガポール

  • 医療用医薬品は通常持ち込み可だが、保健科学庁(HSA)の事前確認を推奨
  • 滞在中の処方箋がある場合、医師から英文証明を取得

香港

  • 医薬品の自己使用目的なら一般的に認められる
  • ただし個人用3ヶ月分目安

中国

  • 医療用医薬品持ち込みは事前許可(中国大使館領事部)が必要な場合あり
  • 地方によって基準が異なる

渡航先での入手

  • 米国: CVS Pharmacy、Walgreensなどで処方箋(US RXまたはUK/Japan処方箋の翻訳)があれば調剤可
  • EU各国: 医師診察後、各国の薬局で処方箋調剤が可能(ただしスプリセルは流通制限あり)
  • シンガポール・香港: 病院薬局またはWatsons等薬局チェーンで対応可(処方箋要)
  • タイ・フィリピン: 大都市の大型病院が対応可だが、事前確認必須

現地医療機関での相談

滞在地で医療が必要になった場合:

  • "I have chronic myeloid leukemia and I'm on dasatinib(ダサチニブ)(アイ ハヴ クロニック ミエロイド ルーケミア エンド アイム オン ダサチニブ). Can you provide a refill prescription?(キャン ユー プロバイド ア リフィル プレスクリプション?)"
  • 日本語医療通訳サービスの利用(AMDA国際医療情報センター、渡航医学研究所など)

参考文献

公式情報源

学術文献・ガイドライン

  • DrugBank Online: Dasatinib

  • 日本血液学会 診療ガイドライン(慢性骨髄性白血病)

    • 公式サイト参照
  • NCCN Clinical Practice Guidelines: Chronic Myeloid Leukemia

  • European LeukemiaNet(ELN) Recommendations

    • 公式ガイドラインドキュメント

一般情報源


免責事項

本記事は薬学的知識の提供を目的とし、医学的診断・治療判断、または個別患者への投与可否判定を代替するものではありません。本記事の記載内容は2026年7月現在の情報に基づくものであり、今後更新される可能性があります。すべての医学的決定は医師・薬剤師などの医療専門家と相談の上、行ってください。副作用や相互作用に関する懸念がある場合は、直ちに処方医・薬剤師に相談してください。海外渡航時の医薬品持ち込みについては、現地の法律・規制を各自でご確認いただき、必要に応じて大使館・領事館に事前確認することを強く推奨します。


監修: 薬剤師(博士(薬学))

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免責事項:本記事は渡航者向けの医薬品情報提供を目的とした薬剤師監修コンテンツです。 診断・治療に関する判断は医師の診察を受けた上で行ってください。 最新の規制・感染症情報は外務省・厚生労働省・現地大使館の公式情報を必ずご確認ください。

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