概要
悪寒・戦慄(おかん・せんりつ)は、筋肉の不随意収縮による寒気と体の震えを指す全身症状です。感染症時の発熱前駆症状として一般的ですが、薬剤性の場合、感染がないにもかかわらず同様の症状が出現します。本症状には複数の機序があり、サイトカイン放出(インターフェロン、生物学的製剤)、真菌体成分への反応(アムホテリシンB)、代謝異常や神経系への直接作用が関与します。ただし、この症状の全てが薬剤性ではなく、基礎疾患や感染症による可能性も常に検討する必要があります。
原因薬候補(12薬剤)
| 薬剤名 | 成分名 | 機序・なぜこの症状を起こすか |
|---|---|---|
| アムホテリシンB | アムホテリシンB | 真菌の細胞膜成分(ベータグルカン)への直接反応およびサイトカイン(IL-1、TNF-α、IL-6)の放出により、発熱と悪寒・戦慄を誘発。輸注時反応として特に初回~数回の投与時に顕著。 |
| インターフェロンアルファ | インターフェロンアルファ(IFN-α) | 直接的なサイトカイン投与であり、エンドジェノスセットポイント上昇を招く。中枢体温調節障害により寒気を感じさせる。投与直後から数時間以内に出現。 |
| インターフェロンベータ | インターフェロンベータ(IFN-β) | IFN-αと同様のメカニズムでTNF-α、IL-6産生を刺激し、体温調節中枢の設定値上昇を誘導。 |
| インターフェロンガンマ | インターフェロンガンマ(IFN-γ) | Th1型免疫応答の強化とサイトカイン放出により、発熱と関連した悪寒・戦慄が発生。 |
| インフリキシマブ | インフリキシマブ(抗TNF-α単クローン抗体) | 輸注反応時にTNF-α系の急激な変動、ならびに補体活性化等による発熱性物質の放出。輸注直中~数時間。 |
| アダリムマブ | アダリムマブ(抗TNF-α単クローン抗体) | インフリキシマブと同様の輸注反応機序。皮下注射でも、まれに遅延型反応(24~72時間後)で出現。 |
| リツキシマブ | リツキシマブ(抗CD20単クローン抗体) | B細胞の急速な破壊に伴うサイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome)。初回輸注時に特に高頻度。 |
| リポポリサッカライド結合蛋白反応(グラム陰性菌用抗生物質群) | セフタジジム、シプロフロキサシン等 | グラム陰性菌の細胞壁破壊時に放出されるLPS(エンドトキシン)への反応。菌血症やエンドトキシン血症の誘発。 |
| ペニシリン系・セファロスポリン系 | ペニシリン、セファレキシン等 | 急速な菌体破壊とエンドトキシン放出、あるいはアレルギー反応(Type I過敏反応の軽度型)による炎症性サイトカイン産生。 |
| パミドロン酸 | パミドロン酸(ビスホスホネート) | 骨吸収抑制に伴う急性炎症反応。初回投与後24~72時間、急性相反応タンパク(IL-6、TNF-α)上昇で発熱・悪寒。 |
| ゾレドロン酸 | ゾレドロン酸(ビスホスホネート) | パミドロン酸と同様の急性炎症反応。より高い反応率で初回投与24時間以内に症状出現。 |
| IL-2(テセウキヌマブ含む免疫チェックポイント阻害薬) | ペムブロリズマブ、ニボルマブ等 | 免疫活性化に伴うサイトカイン放出症候群。T細胞増殖に伴う二次的なIL-6、TNF-α産生。 |
好発頻度・発現パターン
開始時(特に初回~数回の投与時)
- アムホテリシンB輸注:約80~90%の患者で開始数時間以内に発熱、悪寒・戦慄を経験。プレメディケーション(アセトアミノフェン、NSAID、副腎皮質ステロイド)により軽減可能。
- インターフェロン投与:用量依存的。毎回投与直後~2~4時間以内。
- 生物学的製剤(抗TNF-α、抗CD20等):初回輸注反応の一部。反復投与で頻度は通常低下(寛容化)。
用量依存
- パミドロン酸、ゾレドロン酸:高用量ほど急性相反応が顕著。
長期使用
- インターフェロン:長期投与中も各投与時に反復出現可能。
リスク患者・条件
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基礎疾患のある患者
- 感染症(敗血症、菌血症)の既往
- 悪性腫瘍、血液疾患
- 免疫低下状態
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腎機能低下
- 薬物や代謝産物の蓄積により感受性増加
- 特にビスホスホネート系
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肝機能低下
- サイトカイン代謝の遅延
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高齢者
- 生理的体温調節能の低下により症状が増強される傾向
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併用薬
- 他の免疫刺激薬、NSAIDの非併用時に反応が顕著化することがある
- 逆に副腎皮質ステロイドの併用は症状軽減
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遺伝的素因
- IL-6多型等、サイトカイン応答性の個人差
対処法(薬剤師視点)
医師相談のタイミング
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投与前の事前準備
- 患者に「投与後2~4時間は悪寒・戦慄が出ることがある」と事前説明
- 既知の反応型か初回投与かを確認
- 基礎体温、最近の感染症有無を確認
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投与当日~翌日の観察
- 症状の強度、継続時間を記録するよう患者に指示
- 38℃以上の発熱、戦慄が30分以上続く場合は医師へ報告
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中止・減量・変更判断
- 軽度(悪寒のみ、10~15分で寛解):対症療法(アセトアミノフェン)で対応、継続
- 中等度(30分~数時間の戦慄、39℃以上発熱):次回投与時のプレメディケーション追加を医師に提案(ヒドロコルチゾン、ジフェンヒドラミン等)
- 重度(ショック様症状、意識障害、呼吸困難):即座に医師・救急対応。以降の投与中止検討
薬学的対処アルゴリズム
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初回反応が予測される薬剤(アムホテリシンB、リツキシマブ等)
- プレメディケーションプロトコルの確認:アセトアミノフェン500~650mg、メロキシカム等のNSAID、ジフェンヒドラミン25~50mg、時に副腎皮質ステロイド(メチルプレドニゾロン1~2mg/kg)
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速度調整の検討
- 輸注速度を落とし、初期に低速(15~30分間)で投与し、反応を観察してから正規速度へ。
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非薬物対処
- 投与室での十分な保温
- 投与後の安静臥床(最低30分)
患者自己観察ポイント
「これが出たら医師・薬剤師に報告」の明確な指標
| 症状 | 報告タイミング | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 軽い悪寒、身震い | 投与当日中に記録。医師に次回訪問時に報告 | 通常継続、プレメディケーション検討 |
| 明らかな戦慄(全身の激しい震え)30分以上 | 投与中・直後に医師に伝達 | 速度低下・一時中断・プレメディケーション追加 |
| 38℃を超える発熱+悪寒 | 投与中に報告。続く場合は即座に医師呼出 | 解熱薬投与・医学的評価 |
| 寒冷感が強く、患者が苦痛を訴える | 投与中・直後に報告 | 対症療法検討 |
| 呼吸困難、めまい、錯乱、脱力 | 直ちに医師・看護師に報告。救急対応検討 | 投与中止・医学的緊急対応 |
| 投与から数日後の遅延型悪寒・戦慄(ビスホスホネート等) | 24~72時間以内に医師に連絡 | 原因薬の変更・用量低下検討 |
日常的な記録方法
患者に以下の投与ログをつけるよう指導:
- 投与日時・薬剤名
- 悪寒・戦慄の有無、強度(弱・中・強)、継続時間
- 最高体温
- 投与中に取った対応(追加薬、保温等)
- 症状が治まった時刻
薬剤師から患者さんへの説明例
「お調べの薬(例:アムホテリシンB)は、投与後に体が薬に反応して、寒気や身震いが起こることがあります。これは薬が効いている証拠の一つでもありますが、つらい症状です。投与前に予防のお薬をお飲みいただき、投与中は体を温かくして過ごしてください。もし激しく震えたり、気分が悪くなったりしたら、その場で医療スタッフにお知らせください。次回の投与前には、今回の様子をお聞かせいただき、さらに工夫できることがないか、医師と一緒に相談させていただきます。」
参考文献
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厚生労働省PMDA医薬品情報データベース
https://www.pmda.go.jp/ -
アムホテリシンB(添付文書)
https://www.pmda.go.jp/safety/reports/index.html -
インターフェロンアルファ・ベータ・ガンマ製剤
日本薬学会編『薬学大辞典』第5版、南江堂(参考。具体的な添付文書はPMDAで確認) -
単クローン抗体医薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、リツキシマブ等)
各社製品の添付文書( https://www.pmda.go.jp/ より検索) -
ビスホスホネート系医薬品副作用
日本骨代謝学会、日本整形外科学会ガイドライン(参考文献) -
DrugBank Online
https://go.drugbank.com/
(成分名による機序情報の参照用) -
米国FDA Adverse Event Reporting System (FAERS)
https://fis.fda.gov/sense/app/955a7f7f-cc6a-421f-bda4-88d8672ef1a1/sheet/45a2d5ea-6e2a-4ec0-8787-9ceb76f112f6/state/P
(各医薬品の報告症例傾向) -
Dinarello CA. Immunological and inflammatory functions of the interleukin-1 family. N Engl J Med. 2009;360(26):2655-2664.
(サイトカイン・発熱機序の基礎)
免責事項
本記事は薬学的知識に基づいた情報提供を目的としており、医学的診断・治療判断ではありません。記載内容はあくまで一般的な知見であり、個別の患者さんの治療判断は医師の権限と責任において行われるべきものです。
- 悪寒・戦慄の原因は多岐にわたり、薬剤性のみならず、感染症、基礎疾患、環境要因等も関与します
- 本記事の情報を根拠に、処方薬の自己中止・変更は絶対に行わないでください
- 症状が出現した場合は、必ず担当医師・薬剤師に相談してください
- 所属機関・地域の医療ガイドライン、法規を優先します
監修:薬剤師(博士(薬学))
本エントリは医薬品医療機器総合機構(PMDA)ガイダンス、厚生労働省通知、および薬学学術文献を参考に作成されました。