【倦怠感・だるさ】の原因になる薬一覧——薬剤師が機序と対処を解説

概要

倦怠感・だるさとは、身体全体の疲労感や無気力状態であり、医学的には「fatigue」と区別される明確な筋力低下を伴わない症状です。薬剤性の倦怠感は、中枢神経抑制代謝異常電解質変動神経伝達物質の変化など複数の機序で発生します。ただし同じ症状は貧血、甲状腺機能低下症、感染症、睡眠障害など医学的疾患からも生じるため、薬剤性と疾患性の鑑別が重要です。


原因薬候補

以下の12薬剤は、倦怠感・だるさを起こしやすい代表的な医薬品です。各薬について、起こる機序を記載しました。

薬剤(成分名) 分類 倦怠感・だるさの機序
β遮断薬
(アテノロール、メトプロロール等)
心血管薬 β受容体遮断により心拍出量・脳血流低下。中枢疲労感と末梢循環不全による酸素供給減少が複合的に作用。
ARB
(ロサルタンカリウム、オルメサルタンメドキソミル等)
降圧薬 過度な血圧低下による脳血流減少。アンジオテンシンⅡの生理作用抑制により代謝が低下。
ACE阻害薬
(エナラプリル、リシノプリル等)
降圧薬 ARBと同様に血圧低下・脳循環不全。キニン蓄積による異常代謝。
第1世代抗ヒスタミン薬
(クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩等)
アレルギー薬 脂溶性が高く血液脳関門を容易に通過し、中枢のヒスタミンH1受容体を遮断。覚醒中枢の抑制により催眠・鎮静作用が生じる。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
(ジアゼパム、トリアゾラム、フルニトラゼパム等)
睡眠薬・抗不安薬 GABA_A受容体活性化による中枢神経全体の抑制。半減期が長い製剤では翌日への持ち越し効果(hangover)で鎮静が継続。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
(ゾルピデム酒石酸塩、ゾピクロン等)
睡眠薬 ベンゾジアゼピンと同じGABA_A受容体作用。脳の興奮性低下と筋弛緩作用。
三環系抗うつ薬
(アミトリプチリン塩酸塩、イミプラミン塩酸塩等)
抗うつ薬 ノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害による中枢抑制作用。抗ムスカリン作用による体内の生理的調節の変化。
SSRI/SNRI
(セルトラリンHCl、ベンラファキシン塩酸塩等)
抗うつ薬 セロトニン作用の過剰から中枢神経の活性が低下する場合あり。初期治療時の神経伝達物質の再編成期。
抗精神病薬
(クエチアピン、オランザピンなど)
精神科薬 ドパミン・セロトニン受容体遮断による動機低下(apathy)。体重増加・代謝異常に伴う全身倦怠。
強心配糖体
(ジゴキシン等)
心臓薬 過用による中毒状態で消化器症状・神経症状・倦怠感が同時出現。蓄積性が高く、腎機能低下で濃度上昇。
H2受容体拮抗薬
(シメチジン、ファモチジン等)
胃薬 肝代謝酵素(CYP)の阻害による他の薬剤濃度上昇。中枢への影響は軽微だが、シメチジンの高用量で認知機能低下の報告あり。
ステロイド薬(全身投与)
(プレドニゾロン、デキサメタゾン等)
免疫抑制薬 長期使用で筋肉萎縮(ステロイド筋症)、電解質異常(低カリウム)、代謝異常を招く。減量・中止時の副腎不全でも倦怠感が顕著。

好発頻度・発現パターン

倦怠感・だるさの発現パターンは原因薬によって異なります:

  • 用量依存的(多く場合):β遮断薬、ARB、ACE阻害薬、抗ヒスタミン薬、ステロイド

    • 用量の増加に伴い症状が顕著化。減量で改善することが多い。
  • 開始初期(初日〜1週間:ベンゾジアゼピン系・非ベンゾ系睡眠薬、SSRI/SNRI、抗精神病薬

    • 神経伝達物質の急激な変化により、初期数日間は強い鎮静・倦怠感が出現。多くは1〜2週間で耐性が生じて軽減。
  • 長期使用(数週間以上):ステロイド、強心配糖体、抗うつ薬

    • 代謝異常・電解質変動・薬剤蓄積が徐々に進行。
  • 持ち越し効果(翌日):長時間作用型ベンゾジアゼピン(フルニトラゼパム、ジアゼパムなど)

    • 寝る前の服用で、翌朝から昼間にかけても半減期が残存。
  • 離脱時:ステロイド、ベンゾジアゼピン系

    • 急な中止で離脱症候群を起こし、倦怠感・不安・不眠が増悪。

リスク患者・条件

倦怠感・だるさが出やすい患者背景:

条件 理由
高齢者(65歳以上) 薬剤クリアランス低下(肝・腎機能低下)により血中濃度が上昇。神経障害の既往により中枢抑制に敏感。
腎機能低下(eGFR < 60 mL/min/1.73m²) ARB、ACE阻害薬、強心配糖体など腎排泄型薬剤の蓄積。低血圧がより顕著化。
肝機能障害 ベンゾジアゼピン、抗うつ薬、抗精神病薬など肝代謝薬の濃度上昇。
低血圧傾向 β遮断薬、ARB、ACE阻害薬での脳血流さらに低下。
電解質異常(低Na、低K) ARB、ACE阻害薬、ステロイド大量投与で症候が顕著化。
併用薬が多い 相互作用による濃度上昇やQT延長等。特にCYP3A4阻害薬との併用注意。
肥満・睡眠時無呼吸症候群 ベンゾジアゼピン・抗ヒスタミン薬で呼吸抑制のリスク増加→倦怠感悪化。
うつ病・不安障害の既往 抗うつ薬開始初期の症状悪化、または逆に過剰な鎮静感。

対処法(薬剤師視点)

医師相談の推奨タイミング

以下のいずれかに該当する場合は、自己判断で中止せず速やかに医師に相談してください

  1. 新規薬剤開始後3〜7日で倦怠感が強い、または改善しない

    • 初期の有害事象として医師へ報告。変更・減量の検討が必要。
  2. 既存服用薬を変更・増量した直後から倦怠感が悪化

    • 新たな薬剤相互作用や過度な薬物血中濃度が疑われる。
  3. 倦怠感に加え、めまい・頭痛・呼吸困難・むくみなど他の症状が併発

    • 低血圧、電解質異常、肝腎機能悪化の可能性。採血検査が必要。
  4. ステロイド薬を使用中で、倦怠感が日々増す

    • 副腎不全、筋症、低カリウム血症の進行が疑われる。
  5. ベンゾジアゼピン・睡眠薬の翌朝の倦怠感で日常生活に支障

    • 就寝時間の前倒し、用量減少、または別の睡眠薬への変更を検討。

薬剤師が実施できる対応

  • 用量・服用タイミングの確認:夕食後に鎮静性の強い薬を飲んでいないか、朝食前に低血圧誘発薬を飲んでいないかを聴取。改善案を提案。

  • 食事・水分・電解質摂取の指導:ARB・ACE阻害薬使用中は過剰な塩分制限を避け、カリウムを含む食事を推奨。

  • 併用薬の相互作用チェック:CYP阻害薬がないか、重複投与がないかを確認し、医師に報告。

  • 副作用と耐性の説明:抗うつ薬・睡眠薬など「初期は強いが1〜2週間で改善する可能性」を説明し、患者のアドヒアランス維持。

  • 中止・減量のタイミング指導:ステロイド、ベンゾジアゼピンの急中止は危険なため、「絶対に自己判断で中止しない。医師指導下で段階的に減らす」と徹底。


患者自己観察ポイント

倦怠感が薬剤性かどうかを区別するため、以下の記録を患者に勧めます:

「受診すべき」危険信号

  • 倦怠感の発症と薬剤投与のタイミングが明確に一致している

    • 例:新薬開始の翌日から倦怠感が始まった → 薬剤性の可能性が高い。
  • 倦怠感に加え、以下が同時に起きている

    • めまい、立ちくらみ(低血圧)
    • 動悸、息切れ(心拍低下)
    • 手のこわばり、むくみ(電解質異常)
    • 食欲不振、吐き気(薬物中毒)
    • 意識障害、幻覚(中枢神経障害)
  • 倦怠感が日に日に強くなっている

    • 改善傾向がなく悪化し続ける → 医学的疾患(甲状腺機能低下症、貧血など)の除外が必要。
  • ステロイド使用中で、倦怠感と体重増加が同時進行

    • 副腎不全、代謝異常の可能性。
  • 睡眠薬・抗ヒスタミン薬服用の翌日に運転・重機操作をする職業

    • hangover(持ち越し効果)で居眠り運転のリスク。医師に相談し勤務パターン変更を検討。

「様子をみてよい」軽症兆候

  • 新薬開始から3日以内の軽い倦怠感(初期有害事象としては一般的)
  • 用量増加直後の一時的な疲労感が3日以内に自然軽減
  • 冬季限定の軽い倦怠感で、ビタミンD補給・日光浴で改善傾向がある

参考文献

資料名 URL
PMDA — 医薬品の副作用情報 https://www.pmda.go.jp/safety/reports/index.html
医療用医薬品添付文書情報 https://www.info.pmda.go.jp/
DrugBank Online — Drug Information Database https://www.drugbank.com/
厚生労働省 — 医療用医薬品承認情報検索 https://www.mhlw.go.jp/
日本薬学会 — 医薬品情報 https://www.pharm.or.jp/

免責事項

本記事は薬学的知見に基づき、副作用の機序と対処方法を解説することを目的としています。医学的診断・疾患の特定・治療方針の決定は医師の領域です。症状が出現した場合は、医師の診察を受けることなく自己判断で薬を中止しないでください。特にステロイド・ベンゾジアゼピンなど依存性・離脱症候群の可能性がある薬剤は、段階的な減量が医学的に必須です。本記事の情報により生じた損害の責任は負いかねます。


監修:薬剤師(博士(薬学))

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