DEETとイカリジン、子供は何歳から?成分で見る虫除けの選び方

TL;DR(先に結論)

  • 日本のドラッグストアで買える虫除けの主成分は、ほぼ DEETディート(ディート)イカリジン(ピカリジン) の2つ。
  • 乳児(生後6ヶ月未満)にはDEETディートは使えない(添付文書記載)。イカリジンには年齢制限がないため、赤ちゃんから使いやすい。
  • 海外渡航・感染症予防(デング熱・ジカ熱など)にはDEETディート 30%が第一選択(CDC・WHO推奨)。
  • 日焼け止めが先、15分あけて虫除けが原則。逆だと虫除け効果が落ちる。
  • 「天然ハーブ系」は効果が短く、感染症リスク地域では推奨されない。
  • DEETディートは合成繊維やプラスチックを溶かす可能性があるため、衣類や眼鏡への注意が必要。
  • 妊娠中・授乳中の方は使用前に必ず医師または薬剤師に相談する。

1. なぜ「DEETかイカリジンか」を知っておく必要があるのか

蚊取り線香や腕に貼るシールを選ぶとき、多くの人はパッケージの謳い文句(「赤ちゃんにやさしい」「6時間効く」)で判断しがちです。しかし有効成分とその濃度を見れば、効果の持続時間も使える年齢も一目でわかります

近年、蚊媒介感染症のリスクが国内でも顕在化しています。2014年には約70年ぶりに代々木公園を中心にデング熱の国内感染例が確認されました。さらに東南アジア・南米への渡航者にとっては、デング熱・ジカウイルス感染症・チクングニア熱・マラリアといった蚊媒介疾患が依然として重大な健康リスクです。「虫除けはどれも同じ」という認識は、こうしたリスク環境では通用しません。

成分を知ることで、自分や家族の状況(年齢・行き先・皮膚感受性)に合った製品を合理的に選べるようになります。これは単なる知識の話ではなく、感染症予防という公衆衛生上の実践につながります。

日本で承認されている代表的な虫除け(忌避剤)成分は以下の3系統です。

成分 分類 主な用途
DEETディート(ディート) 合成忌避剤 蚊・ブユ・マダニ・ヤマビル等。世界標準
イカリジン(ピカリジン) 合成忌避剤 蚊・ブユ・マダニ。低刺激
シトロネラ・ユーカリ等 天然精油 一般的な蚊。短時間

このほか欧米ではIR3535(イカリジンとは別の合成忌避剤)も広く使われていますが、日本では虫除け用途での一般的な市販品は限られているため、本稿ではDEETディートとイカリジンを中心に解説します。


2. DEETの作用機序と特徴

どうやって虫を寄せ付けないのか

DEETディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)は1946年に米軍がジャングル戦での兵士保護を目的として開発した世界で最も使用実績のある忌避剤です。70年以上の使用歴があり、安全性・有効性のエビデンスは他の忌避剤と比べて群を抜いて豊富です。

作用機序は長年「皮膚臭をマスクする」と説明されてきましたが、近年の研究ではより複雑な機序が明らかになっています。蚊の**嗅覚受容体(odorant receptor: OR)および匂い結合タンパク質(odorant binding protein: OBP)**に直接作用し、ヒトの汗や呼気に含まれるCO₂、1-オクテン-3-オール、乳酸などのアトラクタント物質を「検知できなくする」または「DEETディート自体を忌避物質として認識させる」二重の作用があるとされています(Dogan ら, 2010; Stanczyk ら, 2010)。

さらに最新の研究では、蚊のイオノトロピック受容体(Ionotropic receptor: IR)を介した経路も関与していることが示唆されており、複数の嗅覚経路を同時に阻害することが高い忌避効果の背景にあると考えられています。

薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)

DEETディート脂溶性の有機化合物であり、皮膚から吸収されます。吸収率は濃度・塗布面積・皮膚の状態・製剤の種類によって異なりますが、一般的な皮膚塗布での経皮吸収率は約5〜17%程度と報告されています。

  • 吸収:皮膚角質層を介して吸収。アルコール基剤はやや吸収を高める傾向あり。
  • 分布:血中に移行後、全身に分布。血液脳関門も一部通過することが動物実験で示されている。
  • 代謝:主に肝臓のシトクロムP450(特にCYP2B6、CYP3A4)によって代謝され、N-脱エチル体や水酸化体などの代謝産物に変換される。
  • 排泄:代謝産物は主に尿中に排泄。半減期は約2〜4時間(個人差あり)。

この薬物動態を踏まえると、乳幼児で吸収率が成人より高い可能性、肝機能低下例での代謝遅延、腎機能低下例での排泄遅延など、使用上のリスクが見えてきます。

安全性プロファイルと副作用

  • 皮膚から微量吸収され、肝臓で代謝・尿中排泄。
  • 高濃度・長期連用では、ごくまれに皮膚炎・接触刺激の報告がある。
  • 動物実験では高用量での神経毒性(振戦・痙攣)が報告されており、これが乳幼児への使用制限の根拠の一部となっている。ただし通常使用量でのヒトへの神経毒性リスクは低いと考えられている。
  • 目・粘膜に入ると強い刺激を生じる。
  • プラスチック・合成繊維(時計バンド、メガネフレーム、化繊衣類)を溶かすことがあるため、塗った手でレンズなどを触らない。ナイロン・レーヨン・スパンデックスは特に注意。
  • アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応はまれだが報告例あり。初回使用時は少量でパッチテストを推奨。

日本の濃度規制

日本では2016年にDEETディート 30%製品が解禁されました(それ以前は12%が上限)。この規制緩和は、WHO・CDCが推奨する海外渡航時の感染症予防に対応するためです。現在の流通は以下の3段階です。

濃度 主な対象 分類
DEETディート 30% 海外渡航・感染症予防 医薬品または防除用医薬部外品(製品により異なる)
DEETディート 12% 国内アウトドア 防除用医薬部外品
DEETディート 10%以下 国内日常使い 防除用医薬部外品

薬剤師メモ:30%製品は「医薬品」扱いとなる場合があり、薬剤師のいる店舗での購入が必要なケースがあります。低濃度品は「防除用医薬部外品」と分類が異なります。購入時は外箱の分類表記も確認するとよいでしょう。「防除用医薬部外品」は医薬品より規制が緩やかですが、虫除け用途として厚生労働省が有効性・安全性を認めた製品です。


3. イカリジン(ピカリジン)の作用機序と特徴

イカリジン(化学名:1-ピペリジンカルボン酸 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル)は1980年代にドイツのバイエル社が開発した比較的新しい忌避剤で、日本では2015年に承認されました。WHOが安全性・有効性ともにDEETディートと同等と評価しており、現在では世界中で広く使用されています。

作用機序と薬物動態

  • 作用機序DEETディートと同様に蚊の嗅覚受容体(OR系)に作用してヒトの存在を認識させない。ただし分子構造がDEETディートと異なるため、DEETディート耐性を持つ可能性のある蚊に対しても有効とされる報告がある。
  • 経皮吸収率DEETディートと比較して経皮吸収率が有意に低い(約6%以下、一部の研究ではさらに低値)。これが皮膚刺激の少なさや安全プロファイルの優位性につながっている。
  • 代謝:肝臓で代謝されるが、代謝産物の詳細なヒトデータはDEETディートほど蓄積されていない。動物実験では腎経由で排泄されることが確認されている。
  • 血液脳関門通過性DEETディートと比べて低いとされるが、ヒトでの詳細なデータは限られる。

特徴と利点

  • 経皮吸収がDEETディートより少なく、皮膚刺激・においもほぼなし。
  • プラスチックや合成繊維を侵さないため、衣類・時計の上から使える。これは旅行者や登山者にとって実用的な大きな利点。
  • 年齢制限なし(添付文書)— これが最大の差別化ポイントであり、乳幼児を持つ家庭で選ばれる主な理由。
  • 無香・低刺激のため、敏感肌の方にも使いやすい。
  • WHOによるペスティサイドの評価において、哺乳類への毒性はDEETディートより低いと評価されている。

日本での濃度規制と持続時間

濃度 持続目安 位置づけ
イカリジン 15% 約6〜8時間 DEETディート 30%相当の持続効果
イカリジン 5% 約4〜6時間 日常使い・子ども向け

薬剤師メモ:イカリジン15%はCDCやWHOが海外渡航での感染症予防において「DEETディート 30%の代替として推奨できる」とする濃度です。DEETディートが使えない乳幼児の海外渡航においては、イカリジン15%が現実的な第一選択となります。ただし、海外製品との濃度表記の差異に注意が必要です(「ピカリジン20%」など海外で流通しているより高濃度製品もあります)。


4. 持続時間・年齢制限の早見表

これが本記事の核です。濃度=持続時間であり、成分=使える年齢を決めます。「高い濃度を塗れば長く効く」のが忌避剤の基本原則であり、より低濃度の製品を頻繁に塗り直すよりも、適切な濃度を選んで正しく使う方が合理的です。

成分・濃度 持続時間(目安) 6ヶ月未満 6ヶ月〜2歳 2〜12歳 12歳以上
DEETディート 30% 6時間 ❌禁忌 ❌不可 ❌不可
DEETディート 12% 約4〜6時間 ❌禁忌 1日1回まで 1日3回まで
DEETディート 10% 約3〜4時間 ❌禁忌 1日1回まで 1日3回まで
イカリジン 15% 約6〜8時間 ⭕制限なし ⭕制限なし ⭕制限なし
イカリジン 5% 約4〜6時間 ⭕制限なし ⭕制限なし ⭕制限なし

※各添付文書の使用上の注意に基づきます。詳細は製品の添付文書を必ず確認してください。

薬剤師メモDEETディートの年齢制限は「生後6ヶ月未満は使用しない、6ヶ月〜2歳は1日1回、2〜12歳は1日1〜3回」と厚生労働省の通知(2005年)に基づいており、現在も多くの製品の添付文書に踏襲されています。これは経皮吸収による神経毒性の懸念が完全には否定されていないためです。特に幼児は体重あたりの皮膚面積が大きく、単位体重あたりの吸収量が成人より多くなる可能性があります。

DEETディートとイカリジンの比較サマリー

比較項目 DEET 30% イカリジン 15%
感染症予防での推奨 CDC・WHO第一選択 CDCの代替推奨品
最短使用年齢 12歳以上(30%品) 年齢制限なし
経皮吸収率 比較的高い 低い
皮膚刺激 やや有り ほぼなし
プラスチックへの影響 溶かすことあり ほぼなし
においの強さ やや強い ほぼなし
長期使用実績 70年以上(豊富) 約30年(良好)

5. シーン別の選び方フロー

使用目的・対象者・環境によって最適な選択は変わります。以下のフローを参考に、ご自身の状況に当てはめてください。

生後6ヶ月未満の赤ちゃんを蚊から守りたい

虫除け塗布剤は使わない。物理的防護を徹底する。

具体的には:ベビーカー用蚊帳・長袖・長ズボンの着用・網戸の点検・室内用蚊取り線香や電気蚊取り(ピレスロイド系)の適切な使用が有効です。ただしピレスロイド系の室内蚊取りも、換気を十分に行った上で使用する必要があります。

6ヶ月〜2歳の乳幼児

イカリジン5%または15%が第一選択(塗り直し回数の制限なし)。

塗布は必ず大人が行い、手・口・目周囲・傷口への塗布を避けます。使用後は必ず石けんで洗い流してください。

国内のキャンプ・公園遊び(小学生以上)

DEETディート 10〜12% または イカリジン 5〜15% どちらでも可。

皮膚が敏感な子ども、衣類への配慮が必要な場合はイカリジンが無難です。汗で落ちやすい夏場は塗り直しの間隔を短めに(3〜4時間ごと)設定しましょう。

海外渡航(東南アジア・中南米・アフリカ等の感染症リスク地域)

DEETディート 30%を推奨(CDC・WHO)。

デング熱・ジカウイルス・チクングニア熱・マラリアの主要媒介蚊(ネッタイシマカ・ヤブカ・ハマダラカ属)に対するエビデンスが最も豊富なのがDEETディート 30%です。渡航先のリスクレベルは厚生労働省検疫所の「FORTH」(海外感染症情報)で事前に確認することを推奨します。乳幼児を連れた海外渡航の場合はイカリジン15%が代替となります。

マダニ予防(草むら・登山・農作業)

DEETディート 30% または イカリジン15%。長袖・長ズボン・明るい色の衣類・ゲイター(靴カバー)の着用を必ず併用する。

マダニはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)・日本紅斑熱・ライム病などの媒介生物です。忌避剤だけでなく、帰宅後の全身チェック(特に頭皮・耳の後ろ・脇・ひざ裏・鼠径部)が不可欠です。

妊娠中・授乳中の方

→ 使用の前に必ず産婦人科医または薬剤師に相談する。

DEETディートについて大規模な疫学研究でヒト胎児への重大な奇形リスクは現在のところ示されていませんが、妊娠初期は特に慎重を期すべきです。WHOはマラリアリスク地域での妊婦に対しても必要最低限の使用は認めており、「感染症リスク>忌避剤のリスク」の原則は成人と同様に適用されます。イカリジンは経皮吸収率が低いためリスクはDEETディートより低いと考えられていますが、十分なデータが蓄積されていない部分もあります。


6. 日焼け止めとの正しい併用順序

夏のレジャーで両方使う場面は多いですが、順序を間違えると効果が落ちます。

正しい順序

  1. 日焼け止めを先に塗る(スキンケア→日焼け止めの順で)
  2. 15分ほど待つ(皮膚に馴染ませ、紫外線吸収剤・散乱剤が定着するまで)
  3. その上から虫除けを塗布

なぜこの順序なのか:薬学的な理由

DEETディートやイカリジンを先に塗ると、後から塗る日焼け止めのオイル・エモリエント成分が忌避成分を皮膚表面から押し流し、忌避効果が低下します。逆に、日焼け止めの上から虫除けを塗ることで、忌避成分が均一に皮膚表面に留まりやすくなります。

また、DEETディートは一部の日焼け止め成分(特にSPF効果に寄与するホモサレートなど)の経皮吸収を高めるという研究報告があります(Ross EA et al., 2004)。これは虫除けと日焼け止めを同時に使うリスクの一つであり、使用量を適切に守ることの重要性をあらためて示しています。

混合製品(コンビネーション製品)についての注意

虫除け成分入り日焼け止め(混合製品)はCDCが推奨していません。理由は以下の通りです。

  • 日焼け止めは汗や水で落ちやすく、2〜3時間ごとの塗り直しが推奨されている。
  • 一方、虫除け(特にDEETディート)を高頻度で塗り直すと、成人でも1日の塗布回数上限を超える可能性がある。
  • すなわち、混合製品を日焼け止めのペースで塗り直すと、虫除け成分の過剰暴露につながりかねない。
  • 逆に虫除けのペース(4〜8時間に1回)に合わせると、日焼け止め効果が不十分になる。

このトレードオフを解消できないため、別製品として順番に使用するのが現時点での標準的な推奨です。


7. 剤形ごとの特徴:スプレー/ローション/シール

製品の剤形によって使い勝手・適した場面が大きく異なります。成分・濃度が同じでも剤形の選択が誤ると十分な効果が得られないことがあります。

剤形 メリット デメリット 向いている人
エアゾールスプレー 広範囲に素早く塗布 顔NG、吸入リスク、ガス火気注意 大人のアウトドア
ミストスプレー(ポンプ式) 顔の近くにも使いやすい やや塗りムラ ファミリー全般
ローション・ジェル ムラなく密着、塗布量を調整可 手が汚れる 子ども、首・耳の後ろ
ウェットシート 携帯性◎、塗布量わかりやすい 範囲が狭い 旅行、外出先での塗り直し
衣類・ベビーカー貼付シール 皮膚に塗らない 忌避効果はシール周辺の数cm程度に限定、虫除けの代替にならない 補助的な使用のみ

エアゾールスプレーを顔に使う場合の注意

エアゾールタイプは顔に直接スプレーしてはいけません。一度手のひらに吹き出してから顔に塗り広げます。また、吸入リスクを避けるため風上に向かって噴霧しない、密閉空間での使用を避けることが重要です。

子どもへの塗布のポイント

子どもへの塗布は必ず大人が手に取って塗布します。自分でスプレーさせると目・口・鼻への誤暴露リスクが高まります。特に幼児では「目に入った」「なめた」という事故が報告されているため、塗布後の手洗いを徹底させましょう。

薬剤師メモ:シールタイプ(ハッカ油系・天然精油系が多い)は皮膚塗布の代わりにはなりません。シールから揮散する成分が虫除けとして機能するためには、虫がシールのごく近くを飛んでいる必要があります。「ベビーカーに貼っているから安心」と過信せず、季節・地域に応じて忌避剤本体を併用してください。


8. 「天然成分」「ハーブ」系はどこまで効くのか

シトロネラ、レモンユーカリ、ハッカ油(メントール)、ゼラニウム精油などのいわゆる「天然系」虫除けは、健康志向・低毒性イメージで人気を集めています。しかし薬学的な視点から客観的に評価することが重要です。

有効性のエビデンス

天然精油系は、短時間(30分〜1時間程度)であれば一定の忌避効果が報告されています(CDCによる評価)。ただし以下の限界があります。

  • 持続時間がDEETディート・イカリジンの1/4〜1/6程度
  • 揮発速度が速く、気温が高い・汗をかく環境でさらに効果が低下
  • 製品ロットや精油の抽出方法によって有効成分の濃度にばらつきがある
  • デング熱・マラリア等の感染症予防には不十分(CDCはDEETディート・イカリジン・IR3535・レモンユーカリ精油〔OLE/PMD〕のみを「EPA登録忌避剤」として感染症予防に推奨)

レモンユーカリ油(OLE・PMD)の特別な位置づけ

レモンユーカリ精油から抽出・精製したパラ-メンタン-3,8-ジオール(PMD)は、CDCがEPA登録忌避剤の一つとして認めている天然由来成分です。濃度によってはDEETディートに近い持続効果を示す報告もあります。ただし3歳未満には推奨されないこと、また「レモンユーカリオイル(精製されていない精油)」とは別物であることに注意が必要です。

「天然=安全」ではない

天然精油だからといって無条件に安全というわけではありません。

  • 光毒性:ベルガモット・ライム・レモンなどの柑橘系精油はフロクマリン類を含み、塗布後に紫外線を浴びると光接触皮膚炎を起こすことがある。
  • 皮膚刺激・アレルギー:ティーツリー、シナモン、クローブなど一部の精油は原液に近い濃度で接触皮膚炎を引き起こす可能性がある。
  • 乳幼児への使用:ハッカ油(メントール)は乳幼児の顔(特に鼻・口周囲)に使用すると呼吸抑制のリスクが報告されており、2歳未満での顔への使用を避けるべきとされている。

使用前にパッチテスト(二の腕の内側に少量を塗布し24〜48時間観察)を行うことを推奨します。


9. 塗り方の実用ポイント

正しい製品を選んでも、塗り方が不適切では十分な効果が得られません。以下の実用的なポイントを押さえてください。

塗り残しが最大の敵:蚊の好発刺咬部位

蚊は露出した皮膚の中でも特定の部位を好みます。

  • 足首・くるぶし周辺:最も刺されやすい部位のひとつ。靴下を履いていても靴と靴下の境目は要注意。
  • 耳の後ろ・うなじ:髪に覆われて見落としやすい。
  • 手首・手の甲
  • ひじの内側・ひざの裏:薄い皮膚で毛細血管が近い部位。

基本的な塗布上の注意

  • 目・口・粘膜・傷口は避ける。特に目への誤暴露は強い刺激を生じる。顔に使うときは一度手のひらに出してから塗り広げる。
  • 子どもには大人が手にとって塗布(自分で顔にスプレーさせない)。
  • 帰宅後は石けんで洗い流す(特にDEETディート)。蓄積した場合の皮膚刺激を防ぐためと、皮膚からの吸収をリセットするため。
  • 塗布量は製品の表示量を守る — 多く塗っても効果時間は伸びません。忌避効果の持続は「皮膚表面の有効成分濃度が閾値を超えている時間」に依存するため、過剰塗布は効果より副作用のリスクを高めるだけです。

衣類への使用に関する注意

  • DEETディートは衣類にも一定の忌避効果を発揮しますが、前述の通りナイロン・レーヨン・スパンデックスなどの合成繊維を傷める可能性があります。
  • イカリジンは衣類への影響がほぼないため、衣類の上からも安心して使えます。
  • マダニ予防目的で衣類に使用する場合は、ペルメトリン(ピレスロイド系殺虫成分)を衣類に処理した専用製品(日本国内でも限定的に流通)がより効果的とされますが、ペルメトリンは皮膚には直接塗布しないことが原則です。

水中・汗による効果減少と塗り直し

水泳・激しい運動後は有効成分が流れ落ちるため、水から上がったら即座に塗り直すことを習慣にしてください。「ウォータープルーフ」をうたう虫除け製品も存在しますが、水への耐性には限界があります。


10. 感染症別の媒介蚊と対策の優先度

虫除けを選ぶ際の「目的」を明確にするため、主要な蚊媒介感染症と対応する媒介蚊・リスク地域を整理します。

感染症 主な媒介蚊 主なリスク地域 推奨忌避剤
デング熱 ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ 東南アジア・中南米・カリブ海・太平洋諸島・一部アフリカ DEETディート 30% またはイカリジン15%
マラリア ハマダラカ属(夜行性が多い) サハラ以南アフリカ・南アジア・東南アジア一部 DEETディート 30%(就寝時は殺虫剤処理蚊帳と併用必須)
ジカウイルス感染症 ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ 中南米・カリブ海・東南アジア・太平洋諸島 DEETディート 30% またはイカリジン15%
チクングニア熱 ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ 東南アジア・インド・アフリカ・中南米 DEETディート 30% またはイカリジン15%
日本脳炎 コガタアカイエカ(夜行性) 東・東南アジア(日本含む農村部) DEETディート使用+ワクチン接種が重要
SFTS(マダニ媒介) フタトゲチマダニ等 西日本を中心に国内全域 DEETディート 30% またはイカリジン15%+長袖長ズボン

重要な補足:日本脳炎については、ワクチン接種が最も効果的な予防手段です。虫除けはあくまで補助的な予防策であり、渡航先のリスクに応じたワクチン接種状況の確認を必ず行ってください。


まとめ

ニーズ 選ぶべき成分
生後6ヶ月未満 虫除け非使用+物理防御(蚊帳・長袖・網戸)
6ヶ月〜2歳 イカリジン5〜15%
国内日常使い DEETディート 10〜12% またはイカリジン5%
キャンプ・登山・マダニ警戒 DEETディート 30% またはイカリジン15%
海外渡航・感染症予防 DEETディート 30%(CDC/WHO推奨)、乳幼児はイカリジン15%
妊娠中・授乳中 必ず医師・薬剤師に相談の上で最低限の使用
皮膚過敏・合成繊維衣類重視 イカリジン15%(プラスチック・衣類への影響なし)

DEETディートとイカリジンは「優劣」ではなく使い分けです。お子さんの年齢、行き先の感染症リスク、皮膚の敏感さ、衣類への影響などから総合的に選んでください。特に海外渡航の場合は出発前に渡航先のリスク情報を確認し(厚生労働省検疫所FORTHなど)、必要に応じてトラベルクリニックや薬剤師に相談することを強くお勧めします。

アレルギー体質の方、妊娠中・授乳中の方、皮膚疾患のある方、持病で複数の外用薬を使っている方は、購入前に薬剤師または医師にご相談ください。製品ごとの使用回数・塗布量は必ず添付文書に従ってください。


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参考文献

  1. 厚生労働省「ディートを含有する医薬品及び医薬部外品の使用上の注意について」(2005年)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/05/tp0512-1.html

  2. CDC "Insect Repellents: Use and Effectiveness" — Travelers' Health
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/page/insects

  3. WHO "Guidelines for efficacy testing of mosquito repellents for human skin" (2009)
    https://www.who.int/docs/default-source/ntds/vector-ecology/guidelines-for-efficacy-testing.pdf

  4. 厚生労働省検疫所 FORTH「感染症危険情報・感染症発生動向調査」
    https://www.forth.go.jp/

  5. EPA (U.S. Environmental Protection Agency) "Find the Repellent that is Right for You"
    https://www.epa.gov/insect-repellents/find-repellent-right-you

  6. Dogan EB, Ayres JW, Rossignol PA. "Behavioural mode of action of DEETディート: inhibition of lactic acid attraction." Medical and Veterinary Entomology. 1999;13(1):99-107.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10194013/

  7. PMDA「防除用医薬部外品(虫除け剤)に関する情報」
    https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/0001.html


監修:薬剤師(博士(薬学))

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