海外で買える経口補水液マップ——Pedialyte/Dioralyte/100Plus/Electral
夏の海外旅行中に急な下痢・嘔吐・熱中症で脱水になったとき、「 OS-1 🛒を買いたいのに見つからない」という経験をした方は少なくないでしょう。しかし世界には、WHO基準に準拠した優れた経口補水液(ORS)が数多く存在します。一方で、「スポーツドリンクを飲めば補水できる」という誤解も根強く、ナトリウム(Na)濃度が不十分な飲料を大量摂取して低ナトリウム血症(水中毒)を起こすリスクも現実にあります。
本記事では、薬剤師(博士(薬学))の立場から、国別の主要ORS製品の成分・浸透圧・入手場所を整理し、旅行前に知っておくべき「補水の科学」をお伝えします。なお、記載する数値は2024〜2025年時点の典型値であり、製品リニューアルや地域差により変動する場合があります。
1. そもそもORSとは何か——WHO基準を理解する
ORS(Oral Rehydration Solution、経口補水液)は、腸管の糖-ナトリウム共輸送体(SGLT1)を利用して、水と電解質を効率よく吸収させる科学的に設計された飲料です。ただの水や糖分だけでは、この輸送体は十分に機能しません。
WHO/UNICEF reduced-osmolarity ORS 基準(2002年改訂版)
| 成分 | 濃度(mmol/L) |
|---|---|
| ナトリウム(Na) | 75 |
| カリウム(K) | 20 |
| グルコース | 75 |
| 塩化物(Cl) | 65 |
| クエン酸塩(Citrate) | 10 |
| 総浸透圧 | 245 mOsm/L |
2002年以前の旧WHO-ORS(浸透圧311 mOsm/L)から低浸透圧設計に改訂されたことで、下痢の持続時間短縮・嘔吐減少・輸液必要性の低下が示されています。現在市販されるORS製品の多くはこの基準を参照しています。
2. 国別ORS製品マップ
米国: Pedialyte
Pedialyte(Abbott Nutrition製)は米国の薬局・スーパーマーケット・Walmartなどで広く入手できる代表的ORS製品です。
- Na: 約45 mmol/L(目安)
- K: 約20 mmol/L(目安)
- 浸透圧: 約250 mOsm/L(目安)
- 特徴: WHO基準よりNaがやや低めですが、低浸透圧設計で小児の下痢・嘔吐時に広く使われています。粉末タイプ・液体タイプ・ゼリータイプなど剤形が豊富です。
注意点として、近年人気の「Liquid I.V.」(電解質パウダー)はNaが1包あたり500mg(約22 mmol/包)と記載製品もあり、溶解量によっては組成がORS基準と大きく異なります。スポーツパフォーマンス向けの製品をORSの代替として使うことは推奨されません。
英国: Dioralyte / Dioralyte Relief
英国の薬局チェーンBootsやスーパーマーケットで入手できます。
- Dioralyte: WHO reduced-osmolarity ORS基準に準拠した粉末製剤。1包を200mLの水に溶解して使用します。
- Dioralyte Relief: 上記に加えてコメデンプン(rice starch)を配合。デンプンは腸管内でゆっくり加水分解されてグルコースを供給し、下痢の回数を減らす効果が期待されています。
英国ではNHS(国民保健サービス)がORSを下痢・嘔吐時の第一選択として推奨しており、薬局スタッフへの教育も行き届いています。
欧州大陸: GES-45(ドイツ)/ Adiaril(フランス)
- GES-45(ドイツ): 名称の「45」はNa 45 mmol/Lを示す目安とされており、小児科領域で使用されてきた製品です。ドイツの薬局(Apotheke)で入手できます。
- Adiaril(フランス): フランスの薬局(Pharmacie)で入手できる粉末ORS製剤です。組成はWHO基準に近い設計とされています(目安)。
欧州では医薬品として分類されている国が多く、スーパーマーケットではなく薬局での購入が基本です。
タイ: Royal D / WHO処方版ORS
タイでは複数のORS製品が流通しています。
- Royal D: タイのコンビニや薬局で入手しやすいスポーツ・補水ドリンク。Na濃度は約23 mmol/L(目安)と低めで、軽度の運動後補水には使われますが、下痢・嘔吐による中等度以上の脱水補正には不十分な場合があります。
- WHO処方版ORS粉末: タイの薬局(Raan Khai Ya)ではWHO基準に準拠した粉末ORSも販売されています。パッケージに「ORS」または「Oral Rehydration Salts」と明記されているものを選んでください。
マレーシア・シンガポール: 100Plus
100Plus(Fraser & Neave製)はマレーシア・シンガポールのコンビニ・スーパーで非常に入手しやすい炭酸飲料です。
- Na: 約18 mmol/L(目安)
- 糖分: 高め(炭酸スポーツドリンクとして設計)
- 浸透圧: スポーツドリンク相当(ORS基準より高浸透圧の可能性あり)
100PlusはもともとスポーツドリンクであってORSではありません。Na濃度がWHO基準(75 mmol/L)の約4分の1以下であるため、下痢・嘔吐による脱水補正に大量使用すると、水と糖分だけが体内に入りNaが相対的に希釈される「低ナトリウム血症(水中毒)」のリスクがあります。詳細は後述します。
両国の薬局(Watsons、Guardian等)ではWHO基準に近い粉末ORS製剤も入手できます。
インド: Electral / Enerzal
- Electral(Franco-Indian Pharmaceuticals製): WHO基準に準拠した粉末ORS製剤として広く知られています。インドの薬局で入手でき、価格も安価です。1包を指定量の水(製品により異なる)に溶解して使用します。
- Enerzal: 電解質・ビタミン配合の運動向け補水製品。Na濃度はORSより低く、スポーツ補水寄りの設計です。
インドでは下痢性疾患が旅行者に多く、Electralは旅行者下痢症(TD)の補水に実績があります。
3. 日本製品との比較表
| 製品名 | 国・分類 | Na (mmol/L) | K (mmol/L) | 浸透圧 (mOsm/L) | ORS適性 |
|---|---|---|---|---|---|
| WHO-ORS基準 | 国際基準 | 75 | 20 | 245 | 基準値 |
| OS-1 | 日本・ORS | 50 | 20 | 約270(目安) | 高い |
| Dioralyte | 英国・ORS | WHO準拠 | WHO準拠 | 約245(目安) | 高い |
| Electral | インド・ORS | WHO準拠 | WHO準拠 | 約245(目安) | 高い |
| Pedialyte | 米国・ORS | 約45(目安) | 約20(目安) | 約250(目安) | 高い |
| Royal D | タイ・スポドリ寄り | 約23(目安) | 記載による | スポドリ相当 | 中程度 |
| ポカリスエット | 日本・スポドリ | 約21(目安) | 約5(目安) | 約326(目安) | 低い |
| 100Plus | マレーシア等・スポドリ | 約18(目安) | 記載による | スポドリ相当 | 低い |
| アクエリアス | 日本・スポドリ | 約17(目安) | 約1(目安) | 約290(目安) | 低い |
※浸透圧・電解質値はすべて2024〜2025年時点の目安値。製品リニューアルにより変動あり。
4. 「100Plusで脱水補正」の落とし穴——低ナトリウム血症リスク
「飲めば何でも補水になる」は医学的に誤りです。補水において最も重要な指標はナトリウム(Na)濃度です。
下痢・嘔吐では水分とともにNaが大量に失われます。この状態でNa濃度の低い飲料(100Plus、アクエリアス等)を大量に摂取すると、以下のことが起こります。
- 体内のNaがさらに希釈される
- 血清Na濃度が低下(低ナトリウム血症)
- 重症化すると頭痛・嘔気・意識障害・けいれんを引き起こす可能性がある
特に注意が必要なのは以下の状況です。
- 乳幼児・小児: 体重あたりの水分量が多く、希釈の影響を受けやすい
- 高齢者: 腎機能低下によりNa調節能が低下している
- 激しい下痢が続く場合: Na喪失量が多く、補充が追いつかない
「現地で手に入るものを飲めばいい」ではなく、「裏面の成分表でNa濃度を確認する」習慣が命を守ります。
5. 緊急時の自家製ORS——WHO推奨レシピ
薬局が閉まっている夜間・僻地でORSが入手できない場合、以下のWHO推奨レシピで自家製ORSを作ることができます。
WHO推奨 自家製ORS(緊急時)
- 清潔な水(沸騰後冷ましたもの): 1リットル
- 食塩: 小さじ1/2(約3g、Na約51 mmol相当)
- 砂糖: 大さじ6(約30g)
よく混ぜて溶かし、少量ずつ(嘔吐がある場合は5〜10mLを数分おきに)飲みます。
注意点は以下の通りです。
- 塩の量を間違えると高ナトリウム血症のリスクがある。必ず計量する。
- 砂糖の代わりにはちみつは使用しない(1歳未満の乳児ではボツリヌス症のリスク)
- 自家製ORSはあくまで緊急措置。医療機関受診が優先される。
- 24時間以内に使い切り、残りは廃棄する。
6. ココナッツウォーターの位置づけ
ココナッツウォーターは「天然の補水飲料」として広く知られていますが、電解質組成はORSとは異なります。
- K: 約250mg/100mL(約6.4 mmol/100mL)と高い
- Na: 約25mg/100mL(約1.1 mmol/100mL)と低い
カリウムが豊富である一方、ナトリウムが不足しているため、下痢・嘔吐による脱水補正には不十分です。軽度の発汗補水や、Naが比較的保たれている軽度脱水の補助飲料としては活用できますが、中等度以上の脱水や下痢性疾患での主要補水手段としては推奨されません。
腎機能低下のある方では高カリウム血症のリスクもあるため、大量摂取には注意が必要です。
7. 旅行前の知識武装——国別入手先マトリクス
| 国・地域 | 推奨ORS製品(目安) | 主な入手先 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 米国 | Pedialyte | スーパー・薬局・Walmart | 液体・粉末・ゼリー各種 |
| 英国 | Dioralyte | Boots・スーパー | WHO基準準拠 |
| ドイツ | GES-45(目安) | Apotheke(薬局) | 医薬品扱いが多い |
| フランス | Adiaril(目安) | Pharmacie(薬局) | 医薬品扱いが多い |
| タイ | WHO粉末ORS | 薬局(Raan Khai Ya) | Royal DはORS代替不可 |
| マレーシア・シンガポール | 薬局の粉末ORS | Watsons・Guardian | 100PlusはORS代替不可 |
| インド | Electral | 薬局 | WHO基準準拠・安価 |
| 日本 | OS-1 | ドラッグストア・コンビニ | Na 50 mmol/L |
8. 現地薬局での英語コミュニケーション
ORS製品が見つからない場合、薬局スタッフに以下のフレーズで尋ることができます。
-
Do you have oral rehydration salts?(ドゥ ユー ハヴ オーラル リハイドレーション ソルツ?) -
I have diarrhea and need electrolytes.(アイ ハヴ ダイアリーア アンド ニード エレクトロライツ) -
Is this suitable for children?(イズ ディス スータブル フォー チルドレン?)
パッケージ裏面で確認すべき表記は「Sodium(Na)」「Potassium(K)」「Osmolarity」です。Naが60 mmol/L以上であればORS用途に近い製品と判断できます(目安)。
9. 子供・高齢者での注意点
小児(特に乳幼児)
- 体重あたりの水分必要量が多く、脱水の進行が速い
- 低浸透圧ORSが推奨(高浸透圧製品は腸管内の浸透圧差で下痢を悪化させる可能性)
- スポーツドリンクの大量投与は低ナトリウム血症リスクがあり、小児科学会でも推奨されていない
- 嘔吐がある場合は少量頻回投与(5〜10mLを5分おき)が基本
高齢者
- 口渇感が低下しており、脱水に気づきにくい
- 腎機能低下によりNaおよびKの調節能が低下
- 高K製品(ORSのK 20 mmol/L)でも、腎機能低下例では高カリウム血症に注意が必要
- 利尿薬・降圧薬服用中の方は電解質バランスが乱れやすく、医師・薬剤師への相談が特に重要
まとめ
- ORSの核心はナトリウム(Na)濃度。WHO基準は75 mmol/L、OS-1は50 mmol/L。
- 100Plus・ポカリスエット・アクエリアスはNaが低く、下痢・嘔吐による脱水補正には不十分。
- 英国のDioralyte、インドのElectralはWHO基準に準拠した信頼性の高い製品。
- 米国のPedialyteはNaがやや低めだが低浸透圧設計で小児に広く使われている。
- タイのRoyal D・マレーシアの100PlusはORS代替として使うべきでない。
- 緊急時は自家製ORS(水1L+塩小さじ1/2+砂糖大さじ6)が選択肢になる。
- ココナッツウォーターはK豊富・Na不足で、主要補水手段にはならない。
- 旅行前に「裏面成分表でNa濃度を確認する」習慣を身につけることが最大の予防策。
個々の症状・基礎疾患・服用薬によって適切な補水方法は異なります。中等度以上の脱水、意識障害、高齢者・乳幼児の脱水は医療機関を受診してください。
監修: 薬剤師(博士(薬学))
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の個人に対する医療アドバイスではありません。記載内容は2024〜2025年時点の典型値・公開情報に基づいており、製品リニューアル・地域差・規制変更により実際の数値と異なる場合があります。脱水症状の治療・管理については、必ず医師または薬剤師にご相談ください。特に乳幼児・高齢者・基礎疾患のある方は自己判断を避け、医療機関を受診することを強く推奨します。
参考文献
- World Health Organization / UNICEF. "Reduced osmolarity oral rehydration salts (ORS) formulation." WHO, 2002.
- World Health Organization. "The treatment of diarrhoea: a manual for physicians and other senior health workers." 4th rev. ed. WHO, 2005.
- Guarino A, et al. "European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition/European Society for Paediatric Infectious Diseases evidence-based guidelines for the management of acute gastroenteritis in children in Europe." J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014;58 Suppl 2:S1-13.
- Hartling L, et al. "Oral versus intravenous rehydration for treating dehydration due to gastroenteritis in children." Cochrane Database Syst Rev. 2006.
- NHS. "Dehydration." National Health Service, UK. ( https://www.nhs.uk/conditions/dehydration/)
- Abbott Nutrition. Pedialyte product information. (米国製品情報, 2024年時点)
- Reckitt Benckiser Healthcare. Dioralyte product information. (英国製品情報, 2024年時点)