問題:ロンドン薬局で見かけた「Buscopan」、日本で何という薬?
英国・フランス・ドイツを旅行中、薬局やスーパーマーケットの医薬品コーナーで見かける白と茶色のパッケージ。
Buscopanと書かれている。
用途は「stomach cramps」「腹部痙攣」「腹痛」。処方箋なしで購入できる。日本人旅行者の間でも「お腹が痛いときに現地で買った」という話をよく聞く。
では日本に帰国してから同じ成分を含む薬を買う場合、何という製品名を探せばよいか?
ヒント
- 成分: ブチルスコポラミン臭化物 10mg/錠
- 薬理作用: ムスカリン受容体拮抗薬 → 腸管の平滑筋痙攣を緩和
- 効能: 腹部痙攣・腹痛
- 特徴: 英国ではOTC医薬品として販売 / 日本では同じ成分が医療用医薬品として流通(販売区分が違う)
- 補足: 4級アンモニウム構造のため消化管からの吸収率が低く、中枢(脳)にはほとんど入りません。眠気が出にくい代わりに、飲み薬としての効きは限定的です
答え:日本では「ブスコパン錠」。ただし医療用です
成分でたどると
| 成分 | 日本での製品 | 規制区分 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ブチルスコポラミン臭化物 | ブスコパン錠(および後発品) | 医療用(処方箋) | 英国Buscopanと同一成分 |
| ロートエキス | ロートエキス配合の胃腸薬・止瀉薬 | OTC | ヒヨスチアミン・アトロピン・スコポラミンを含む生薬エキス。作用は似るが同一成分ではない |
| 桂枝加芍薬湯 | 漢方製剤(医療用・OTCの両方あり) | Rx / OTC | 腹部の張りや痛みに用いられる処方 |
よくある誤解として「正露丸が同じ系統」と紹介されることがありますが、正露丸の主成分は木クレオソートで、抗コリン成分は入っていません。 抗コリン系のOTCを探す場合は、箱の成分欄に「ロートエキス」があるかどうかで判断してください。
薬剤師が見た「英国と日本の規制の違い」
薬剤師メモ: 同じ成分が英国ではOTC、日本では医療用に留まっているのは、成分の危険性の差ではなくスイッチOTC化の歴史の差です。英国ではIBS(過敏性腸症候群)の症状緩和という限定した効能でOTC化されており、日本ではブチルスコポラミン臭化物の一般用への切り替えが行われていません。英国で購入したBuscopanを自分用の常識的な量だけ持ち帰ること自体は可能ですが、日本の薬局で同じ成分・同じ規格の製品を買うことはできません。
渡航中に腹痛が起きた時の現地薬局での購入方法
英国・ドイツ・フランスの薬局での英語フレーズ
「お腹の痛みがあります。痙攣性の腹痛です」
I have stomach cramps and abdominal pain.(アイ ハヴ スタマック クランプス エンド アブドミナル ペイン)Do you have Buscopan or similar antispasmodic?(ドゥ ユー ハヴ ブスコパン オア シミラー アンティスパズモディック?)
購入時の注意点
- 小児への使用は製品の表示に従う(英国のOTC版は成人・12歳以上向けの表示が一般的)
- 前立腺肥大・緑内障がある場合は医師に相談(抗コリン薬の禁忌疾患)
- 妊娠中・授乳中の使用は要確認(薬剤師に相談するのが安全)
- 他の抗コリン薬との併用は避ける(鼻水止め等に含まれる場合がある)
ロートエキスとヒヨスチアミンの違い
ロートエキス = ハシリドコロ(ナス科、Scopolia japonica)の根茎から得た生薬エキスで、ヒヨスチアミン・アトロピン・スコポラミンなど複数のアルカロイドを含みます。含量は製品ごとの規格に従います。
ブチルスコポラミン臭化物 = スコポラミンに臭化ブチル基を付けて4級アンモニウム化した合成誘導体。プラスの電荷を持つため脂溶性が低く、消化管からの吸収も脳への移行もわずかです。その結果、腸管に対する鎮痙作用は残しつつ、中枢性の眠気・せん妄は出にくいという性質になります。
→ つまり、**日本のOTCで買えるのは「ロートエキスという生薬の複合物」、英国のBuscopanは「ブチルスコポラミン臭化物という合成単一成分」**です。どちらもムスカリン受容体を遮断しますが、同じ成分ではありません。
帰国後の医薬品情報提供
英国で購入したBuscopanを日本の医師・薬剤師に見せる場合:
- パッケージの写真を撮っておく(成分表示・用法用量が後で確認できる)
- 「Hyoscine butylbromide」と記されていることを伝える(日本では「ブチルスコポラミン臭化物」。この名前で伝えると医療者に確実に通じます)
- 用量を確認(英国版は10mg/錠。日本のブスコパン錠も10mg/錠ですが、医療用のため医師の指示が必要です)
渡航者が渡航先の医薬品を継続使用する場合、帰国後に日本の医師・薬剤師に相談することが重要です。