ドラッグストアの棚に並ぶ「総合感冒薬」は、複数の有効成分が一錠にまとまった便利な薬です。しかし"よく効く"理由はそのまま"気をつけるべき理由"でもあります。風邪症状はくしゃみ・鼻水・咳・発熱・痛みと多岐にわたるため、各症状に対応する薬理作用の異なる成分が同居しているからです。
代表的な市販総合感冒薬の成分表を見ると、多いものでは6〜8種類の有効成分が1錠(1包)に配合されています。それぞれが独立した薬理作用を持ち、それぞれに固有の副作用・禁忌・相互作用を抱えています。複数成分の「掛け算」でリスクが積み重なるにもかかわらず、市販薬という気軽さから添付文書を読まずに服用するケースが後を絶ちません。
本記事では、生活者がつまずきやすい7つの成分について、薬剤師目線で「何に注意すべきか」を整理します。単なる成分リストではなく、なぜそのリスクが生じるのかという薬理学的な背景と、どう回避するかという実践的な対策をあわせて解説します。
TL;DR(薬剤師の白衣ノート)
薬剤師の白衣ノート 総合感冒薬の落とし穴は、大きく3カテゴリに分かれます。 ①海外規制系:プソイドエフェドリン(PSE)、コデイン類、メチルエフェドリン。中東・東南アジアの一部で規制対象となる可能性。 ②併用注意系:複数の風邪薬・解熱鎮痛薬の重ね飲み。アセトアミノフェンとNSAIDsの「知らずにダブる」事故が最多。 ③ハイリスク状況系:第1世代抗ヒスタミン薬による眠気での運転、無水カフェインによる不眠・動悸、授乳中のコデイン類。
迷ったら 「単剤」を選ぶのが最も安全です。鼻水だけなら抗ヒスタミン単剤、痛みだけならアセトアミノフェン単剤を組み合わせる方が、症状ごとに切り離せて事故が起きにくい。
評価基準
本記事のランキングは「国内で見落とされやすく、かつ生活影響が大きい順」に並べています。具体的には次の3軸で評価しました。
| 評価軸 | 内容 |
|---|---|
| 海外渡航リスク | 国によって持ち込み制限・刑罰相当の規制がある |
| 国内併用リスク | 他の市販薬・処方薬とぶつかりやすい |
| 状況依存リスク | 高血圧・授乳・運転など特定の人で問題化 |
総合感冒薬に含まれる主な成分カテゴリと役割
本題に入る前に、総合感冒薬の「構造」を把握しておくと理解しやすくなります。
| 成分カテゴリ | 代表的一般名 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン、イブプロフェン | 発熱・頭痛・喉の痛み |
| 鎮咳薬 | コデイン、ジヒドロコデイン、デキストロメトルファン | 咳の抑制 |
| 気管支拡張薬 | メチルエフェドリン | 気道拡張・痰の排出補助 |
| 抗ヒスタミン薬 | クロルフェニラミン、カルビノキサミン | 鼻水・くしゃみ |
| 鼻粘膜収縮薬 | プソイドエフェドリン(PSE) | 鼻づまり |
| 鎮痛補助 | 無水カフェイン | 鎮痛増強・倦怠感軽減 |
| 去痰薬 | グアヤコールスルホン酸カリウム、ブロムヘキシン塩酸塩 | 痰をやわらかくする |
これらが同一製品内に複数組み合わさっているのが総合感冒薬の特徴です。以下では第7位から順に、各成分の落とし穴を詳しく解説します。
第7位:無水カフェイン
総合感冒薬や解熱鎮痛薬に「眠気覚まし・鎮痛補助」として配合されることが多い成分です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な目的 | 鎮痛増強、倦怠感の軽減 |
| 注意点 | 不眠、動悸、緑内障・心疾患のある方 |
| 重複リスク | コーヒー・エナジードリンク・他の鎮痛薬との重ね摂取 |
風邪をひいた日に「治らないからエナジードリンクを飲んで仕事」というパターンで、知らずにカフェイン総量が跳ね上がります。夜服用すると睡眠の質が下がり、回復を遅らせます。
薬理学的解説:なぜ鎮痛を補助するのか
カフェインはアデノシン受容体(A1・A2A受容体)を競合的に遮断することで、中枢神経系の覚醒を促します。鎮痛補助効果の機序は完全には解明されていませんが、脳内のアデノシンが痛みの感知に関与しており、その受容体を遮断することで痛み閾値を上げると考えられています。また、アセトアミノフェンやアスピリンとの併用で鎮痛効果が増強されることは複数の臨床試験で確認されています。
カフェインの過剰摂取と「積み重なり」のリスク
総合感冒薬1回分に含まれる無水カフェインは製品により異なりますが、1日の服用でコーヒー1〜2杯分に相当する量が摂取されることもあります。日本で一般的に摂取量の目安とされる上限は成人で1日400mg程度(目安)とされていますが、これは風邪薬・頭痛薬・コーヒー・エナジードリンクを合算した総量です。感冒薬を服用しながら普段と同じ量のコーヒーを飲んでいると、合計摂取量が想定外に増えることがあります。
特に注意が必要な人
- 緑内障(特に閉塞隅角型):カフェインは眼圧を一時的に上昇させる報告があります
- 不整脈・心疾患のある方:大量摂取で動悸・頻脈が生じやすい
- 妊娠中:カフェインの胎盤通過性があり、過剰摂取は避けるのが望ましい(個別に医師に相談)
- カフェイン感受性が高い方・高齢者:代謝速度が遅く体内に残りやすい
第6位:第1世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン等)
くしゃみ・鼻水を抑える定番成分ですが、眠気・口渇・尿が出にくいという副作用が出やすい古いタイプです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な目的 | 鼻水・くしゃみの抑制 |
| 注意点 | 強い眠気、前立腺肥大、緑内障で症状悪化のリスク |
| 運転 | 「服用後は運転しないこと」と添付文書に記載される製品が多い |
総合感冒薬の添付文書を読まずに服用→翌朝も眠気が残る、というのは典型的なパターン。鼻症状だけなら、眠気の少ない第2世代抗ヒスタミン薬の単剤を選ぶ方が日中の活動には向きます。
薬理学的解説:第1世代と第2世代の違い
第1世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩等)は、末梢のH1受容体だけでなく中枢のH1受容体も遮断します。さらに抗コリン作用(ムスカリン受容体遮断)を合わせ持つため、以下の副作用が生じます。
| 受容体遮断 | 生じる副作用 |
|---|---|
| 中枢H1受容体 | 眠気、集中力低下、認知機能への影響 |
| 末梢抗コリン作用 | 口渇、便秘、排尿困難 |
| 眼の毛様体筋 | 散瞳、眼圧上昇(閉塞隅角緑内障では危険) |
第2世代抗ヒスタミン薬(ロラタジン、セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩等)は血液脳関門を通過しにくく設計されているため、中枢性の眠気が有意に少ない特徴があります。
「翌朝ぼんやり」問題の実態
第1世代抗ヒスタミン薬は半減期が比較的長く(製品・個人差あり)、夜に服用しても翌朝まで効果が残ることがあります。これを「宿酔効果(hangover effect)」と呼ぶことがあります。自動車の運転・機械の操作前には服用を避けるよう添付文書に記載されていますが、「夜飲んだから大丈夫」と思って翌朝運転するケースが問題となります。
前立腺肥大・緑内障への影響
抗コリン作用により排尿筋が弛緩し、前立腺肥大症のある方では急性尿閉を起こすリスクがあります。また閉塞隅角緑内障では眼圧が急激に上昇し、緑内障発作を誘発する可能性があります。これらの疾患を持つ方は、第1世代抗ヒスタミン薬配合の総合感冒薬を避け、必ず医師・薬剤師に相談してください。
第5位:メチルエフェドリン
気管支拡張・鼻づまり改善目的で、咳止め薬や総合感冒薬に配合されている交感神経刺激薬です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な目的 | 鼻閉・咳の軽減 |
| 注意点 | 動悸、血圧上昇、不眠 |
| 海外 | エフェドリン類は国によって規制対象 |
高血圧・心疾患・甲状腺機能亢進症の方は注意が必要。エフェドリン類縁化合物は国際的に規制対象となる場合があるため、海外渡航時に風邪薬を持参する場合は成分表記を確認してください。
薬理学的解説:交感神経刺激の機序
メチルエフェドリン塩酸塩はα受容体・β受容体の両方を刺激する間接型・直接型の交感神経刺激薬です。β2受容体刺激により気管支平滑筋を弛緩(拡張)させ、α1受容体刺激により鼻粘膜血管を収縮させて鼻づまりを緩和します。一方で心臓のβ1受容体刺激により心拍数増加・血圧上昇が起こるため、以下のような方にはリスクが高まります。
| 基礎疾患 | 起こりうる問題 |
|---|---|
| 高血圧 | さらなる血圧上昇 |
| 虚血性心疾患 | 心筋酸素需要の増大 |
| 甲状腺機能亢進症 | 交感神経系の過剰亢進 |
| 糖尿病 | 血糖値上昇(肝グリコーゲン分解促進) |
PSEとの違いと海外規制上の注意
メチルエフェドリンはプソイドエフェドリン(PSE)とは異なる化合物ですが、いずれもエフェドリン類縁体です。国際条約(国連覚醒剤条約・麻向法関連)ではエフェドリンおよびその類縁体が覚醒剤原料に指定されており、国によって輸出入規制が設けられています。日本国内での市販薬配合は合法ですが、持参する国の規制に応じて申告・証明書が必要となる可能性があります。
第4位:NSAIDs同士の重ね飲み(イブプロフェン・ロキソプロフェン・アスピリン等)
総合感冒薬と頭痛薬を別々に持っていて、つい一緒に飲んでしまうケース。NSAIDsを重ねると胃腸障害・腎機能低下のリスクが上乗せになります。
薬剤師の白衣ノート 「総合感冒薬を飲んだのに頭痛が残る」と感じて、別の鎮痛薬を追加する人が一定数います。総合感冒薬の多くにすでにイブプロフェンやアセチルサリチル酸(アスピリン)などのNSAIDsが配合されており、追加すると同系統の二重摂取になる可能性があります。 痛みが残る場合、薬理学的にはNSAIDs重複を避けられるアセトアミノフェン単剤を選ぶという選択肢もあります。ただし総合感冒薬にもアセトアミノフェンが入っている場合が多く(次の第3位の問題)、自己判断せず薬剤師に相談することを推奨します。
薬理学的解説:NSAIDsの共通作用とリスクの積み重なり
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)はシクロオキシゲナーゼ(COX)酵素を阻害することでプロスタグランジン(PG)の合成を抑制し、解熱・鎮痛・抗炎症効果を発揮します。問題は、同一機序の薬を重ねても「2倍の効果」にはならず、副作用リスクだけが上乗せされる点です。
| 副作用 | 機序 |
|---|---|
| 消化管粘膜障害(胃潰瘍・胃出血) | 胃粘膜保護PGの合成低下 |
| 腎機能低下 | 腎臓の血流維持PGの合成低下 |
| 血小板凝集抑制 | TXA2産生低下(特にアスピリン) |
| 気管支痙攣(アスピリン喘息) | アラキドン酸代謝のロイコトリエン側へのシフト |
市販薬に潜む「気づかないNSAIDs」
次の市販薬カテゴリにはNSAIDsが配合されていることが多く、総合感冒薬との併用で重複しやすいため注意が必要です(成分名で確認してください)。
- 頭痛・生理痛向け解熱鎮痛薬:イブプロフェン、アセチルサリチル酸配合品
- 歯痛・筋肉痛向け鎮痛薬:イブプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物配合品
- 湿布・外用鎮痛薬:ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム等(全身吸収は少ないが、経皮吸収あり)
外用のNSAIDsは全身吸収量が少ないとはいえ、腎機能が低下した方や複数の経口NSAIDsと組み合わせる場合は、薬剤師への相談が望ましいです。
第3位:アセトアミノフェン高用量
「比較的安全」と思われがちですが、1日総量を超えると肝障害を起こします。総合感冒薬・解熱鎮痛薬・歯痛薬・生理痛薬と、複数の市販薬に広く配合されているため意図せず重複しやすい成分です。
| 状況 | リスク |
|---|---|
| 総合感冒薬+頭痛薬の併用 | アセトアミノフェン量が倍化する可能性 |
| 飲酒との併用 | 肝障害リスク増大 |
| 慢性肝疾患のある方 | 通常用量でも注意 |
商品名が違っても成分名で重複していないかを必ず確認してください。
薬理学的解説:肝障害が起きるメカニズム
アセトアミノフェン(paracetamol)は通常用量では大部分がグルクロン酸抱合・硫酸抱合によって無毒化されます。しかし過剰摂取になるとこれらの経路が飽和し、チトクロムP450(主にCYP2E1)による代謝経路の割合が増加します。この経路でNAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)という反応性代謝物が生成され、グルタチオンと結合して解毒されます。
問題はグルタチオンが枯渇した時です。NAPQIが肝細胞タンパク質と共有結合し、肝細胞壊死を引き起こします。日本での成人1日最大量は通常4,000mg(添付文書により異なる)とされていますが、飲酒習慣がある方や低栄養状態の方、慢性肝疾患のある方では、より低用量でもリスクが高まることが知られています。
「知らない重複」のパターンを整理する
| よくある組み合わせ | 重複成分 |
|---|---|
| 総合感冒薬(アセトアミノフェン配合)+市販頭痛薬 | アセトアミノフェン |
| 総合感冒薬(アセトアミノフェン配合)+市販生理痛薬 | アセトアミノフェン |
| 処方の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)+市販風邪薬 | アセトアミノフェン |
「成分名をひとつひとつ確認する」という習慣が、この種の事故を防ぐ最も確実な方法です。複数の市販薬を同時に使う場合は、購入時に薬剤師に「一緒に使っても大丈夫ですか?」と成分を見せながら確認することを強くすすめます。
第2位:プソイドエフェドリン(PSE)
鼻づまりに非常によく効く成分ですが、海外渡航時に最大の落とし穴となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な目的 | 鼻閉改善 |
| 国内 | 高血圧・心疾患・前立腺肥大では慎重投与 |
| 海外 | 中東・一部アジア諸国で持ち込み規制・申告対象になり得る |
日本国内では普通に買える総合感冒薬・鼻炎薬に配合されていることが多く、海外でトラブルになりやすい代表格です。海外に持参する場合は、成分名(pseudoephedrine)を確認し、渡航先の大使館・税関の最新案内を事前に確認してください。規制内容は国によって異なり、医師の処方箋・英文診断書を求める国もあります。
薬理学的解説:PSEの作用と依存性問題
プソイドエフェドリン(PSE)はエフェドリンの立体異性体で、主にα1受容体刺激による鼻粘膜血管収縮作用(鼻づまり改善)と、β受容体刺激による気管支拡張作用を持ちます。エフェドリンに比べて中枢神経興奮作用はやや弱いとされますが、化学構造が覚醒剤(メタンフェタミン)の前駆物質として利用されうることが最大の問題です。
この前駆物質としての性質から、国際連合の麻薬に関する条約でも規制対象物質に位置づけられており、各国が輸出入規制や国内販売規制を設けています。日本では薬局での購入時に氏名・住所・購入理由の確認が義務化されています(薬事法関連の運用)。
国内での注意点:高血圧・心疾患の方へ
| 作用 | 生じるリスク |
|---|---|
| α1受容体刺激(末梢血管収縮) | 血圧上昇 |
| β1受容体刺激(心臓) | 心拍数増加、動悸 |
| 中枢神経軽度刺激 | 不眠、不安 |
| 前立腺平滑筋収縮 | 排尿困難の悪化 |
高血圧・虚血性心疾患・前立腺肥大・甲状腺機能亢進症・緑内障のある方は、PSEを含む製品を選ばないのが原則です。
海外渡航時の対処法
国によってPSEの規制状況は大きく異なります。規制内容は変更されることがあるため、渡航前に必ず在外日本大使館または現地の税関当局の公式案内を確認してください。一般的な対策としては以下が有効です。
- 成分名(pseudoephedrine)で日本語・英語両方で記載した薬剤情報シートを用意する
- かかりつけ薬局・医師から英文の薬剤情報書(medication letter)を発行してもらう
- 元のパッケージのまま、必要量のみを携行する
- 渡航先での代替成分(生理食塩水点鼻薬・オキシメタゾリン点鼻薬など)を事前に調べておく
第1位:コデイン/ジヒドロコデイン
咳止め・総合感冒薬に配合される鎮咳成分。日本では市販薬にも配合されていますが、国際的にはオピオイド規制の文脈で扱われる成分です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な目的 | 咳の抑制 |
| 国内・小児 | 12歳未満への使用は原則禁忌(PMDAの2019年添付文書改訂指示による) |
| 授乳 | 乳児への影響の観点から慎重投与 |
| 海外 | 国によっては医師の処方箋・事前申請が必要 |
薬剤師の白衣ノート コデイン・ジヒドロコデイン配合の市販咳止めは、中東・一部アジア諸国ではオピオイド規制の対象とされており、税関で申告・没収の対象となる可能性があります。「お土産・常備薬」として持ち込む前に、成分名と総量、英文の薬剤情報、必要に応じた事前申請を準備してください。 渡航先で代替品を探す方が安全な場合もあります。咳症状だけなら、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物等の非オピオイド系鎮咳成分の単剤の方が、規制リスクは低めです。
薬理学的解説:オピオイドとしての作用機序
コデイン(リン酸コデイン)はモルヒネの前駆体であり、体内でCYP2D6によりモルヒネに代謝されることで主な薬効を発揮します。延髄の咳中枢にあるμオピオイド受容体を抑制し、咳反射を抑えます。同時に腸管のオピオイド受容体にも作用するため、便秘を引き起こしやすい側面もあります。
ジヒドロコデインリン酸塩も同様のオピオイド系鎮咳薬で、コデインより少し強い鎮咳作用を持つとされています。
12歳未満への使用禁忌:なぜ問題になったか
2019年にPMDAがコデイン類を含む市販薬・処方薬について「12歳未満への使用を原則禁忌」とする添付文書改訂を指示した背景には、CYP2D6の遺伝的多型(ultra-rapid metabolizer) の問題があります。
CYP2D6の活性が極めて高い「超高速代謝型」の人では、コデインが通常より速く大量にモルヒネに変換されます。小児はこの代謝型の影響を受けやすく、授乳中の母親がコデインを服用した場合に母乳中のモルヒネ濃度が上昇し、乳児が過鎮静・呼吸抑制を起こした事例が海外で報告されたことが改訂の直接的契機となりました(FDA・EMAも同様の対応を実施)。
| リスクグループ | 問題の内容 |
|---|---|
| 12歳未満の小児 | 原則禁忌(PMDAの改訂指示) |
| 授乳中の母親 | 母乳中モルヒネ濃度上昇→乳児への影響 |
| CYP2D6超高速代謝型 | モルヒネへの変換量増大 |
| 腎機能低下者 | モルヒネ代謝物の蓄積 |
海外規制の具体的な構造
コデインはINCB(国際麻薬統制委員会)のスケジュールに基づき多くの国で規制対象となっています。OTC(一般用医薬品)として購入できる国でも、規制量以上の持ち込みには税関申告が必要なケースがあります。国ごとの規制状況は変わるため、必ず渡航前に現地大使館・外務省の安全情報ページで最新情報を確認してください。
高血圧・授乳・運転前の判定フロー
| あなたの状況 | 避けたい成分 | 代替案(一般論) |
|---|---|---|
| 高血圧・心疾患 | PSE、メチルエフェドリン、無水カフェイン高用量 | 鼻閉は生理食塩水点鼻、症状別単剤 |
| 授乳中 | コデイン/ジヒドロコデイン、第1世代抗ヒスタミン薬 | 医師・薬剤師に相談の上で個別判断 |
| 運転・機械操作前 | 第1世代抗ヒスタミン薬、コデイン類 | 第2世代抗ヒスタミン薬の単剤 |
| 飲酒予定あり | アセトアミノフェン高用量、鎮静系成分 | 服薬中は飲酒を控える |
| 前立腺肥大 | PSE、第1世代抗ヒスタミン薬 | 泌尿器科医・薬剤師に相談 |
| 緑内障(閉塞隅角型) | 第1世代抗ヒスタミン薬、PSE | 眼科主治医に相談 |
| 12歳未満の小児 | コデイン・ジヒドロコデイン | デキストロメトルファン配合の適応製品、または小児科受診 |
最終判断は必ず医師・薬剤師に確認してください。
海外持ち出し時の注意
渡航先の規制は「成分名(一般名)」で判断されます。商品名では検索されないため、日本語・英語の両方で成分名を把握しておくことが重要です。
| 成分名(日本語) | 成分名(英語) | 海外規制リスク |
|---|---|---|
| コデインリン酸塩 | codeine phosphate | 高(多くの国でオピオイド規制対象) |
| ジヒドロコデインリン酸塩 | dihydrocodeine phosphate | 高(同上) |
| プソイドエフェドリン塩酸塩 | pseudoephedrine hydrochloride | 高(覚醒剤前駆物質として規制) |
| メチルエフェドリン塩酸塩 | methylephedrine hydrochloride | 中(エフェドリン類として規制の国あり) |
| 第1世代抗ヒスタミン薬 | chlorphenamine, diphenhydramine | 低〜中(国による) |
| アセトアミノフェン | acetaminophen / paracetamol | 低(多くの国でOTC) |
渡航前チェックリスト
- 成分名(一般名)で確認:商品名でなく中身で規制される
- PSE・コデイン類は要警戒:国によって規制レベルが大きく異なる
- 英文の薬剤情報書:かかりつけ薬局・医師から発行できる場合がある
- 元のパッケージで携行:詰め替えは避ける
- 大使館の最新案内を確認:規制は随時変更される
- 必要量の目安を守る:個人使用として認められる量の上限がある場合がある
- 申告が必要な国では税関フォームに記載する
薬剤師の3つの実用アドバイス
1. 総合感冒薬より「単剤の組み合わせ」を優先する
症状が消えたら個別に減らせるので、不要な成分を体に入れずに済みます。たとえば「咳はないが鼻水と発熱がある」という状態なら、コデイン系の鎮咳成分は不要です。単剤を選んで組み合わせると、リスク成分を自分でコントロールできます。
具体的なアプローチ例:
- 発熱・頭痛のみ → アセトアミノフェン単剤
- 鼻水・くしゃみのみ → 第2世代抗ヒスタミン薬の単剤
- 咳のみ → デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物配合品(非オピオイド系)
- 鼻づまりのみ → 生理食塩水点鼻または医師相談
2. 「成分名」でメモする習慣をつける
商品名は変わっても成分名は変わりません。お薬手帳に成分名を記録しておくと、海外でも代替品を探せますし、薬局での相談もスムーズになります。特に「アセトアミノフェン」「イブプロフェン」「コデイン」の3成分は、他の市販薬との重複確認の際に最重要です。
3. 2〜3日改善しなければ受診する
市販薬は症状緩和のためのものであり、原因を治療するものではありません。以下のサインは市販薬の範囲を超えている可能性を示します。
- 38.5℃以上の高熱が3日以上続く
- 呼吸困難・胸の痛み
- 痰に血が混じる
- 症状が急激に悪化している
- 喘鳴(ヒューヒュー・ゼーゼー)を伴う咳
これらがあれば、市販薬の追加購入より受診を最優先にしてください。
「市販薬相互作用」確認の実践的な方法
処方薬との相互作用が特に問題になるケースも整理しておきます。
| 市販の総合感冒薬の成分 | 相互作用が問題になる処方薬の例 | 問題の内容 |
|---|---|---|
| NSAIDs(イブプロフェン等) | ワルファリン | 出血リスク上昇 |
| NSAIDs | ACE阻害薬・ARB・利尿薬 | 腎機能低下・降圧効果減弱 |
| アセトアミノフェン | ワルファリン(高用量) | INR上昇(出血リスク) |
| 第1世代抗ヒスタミン薬 | 三環系抗うつ薬・MAO阻害薬 | 抗コリン作用の相加 |
| PSE、メチルエフェドリン | MAO阻害薬 | 高血圧クリーゼのリスク |
| コデイン類 | ベンゾジアゼピン系、睡眠薬 | 呼吸抑制・過鎮静 |
処方薬を服用中の方は、市販薬を購入する際に必ず薬剤師に処方薬の名前を伝えて確認することを強くすすめます。薬局窓口での確認は無料で受けられます。
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参考文献・出典
-
医薬品医療機器総合機構(PMDA)「コデインリン酸塩等を含む医薬品の使用上の注意の改訂指示について」(2019年)
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/precautions-for-use/0208.html -
厚生労働省「要指導医薬品及び一般用医薬品の分類その他必要な事項に関する告示」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/topics/tp_121226-01.html -
FDA(米国食品医薬品局)「FDA Drug Safety Communication: FDA restricts use of prescription codeine pain and cough medicines and tramadol pain medicines in children; recommends against use in breastfeeding women」(2017年)
https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-drug-safety-communication-fda-restricts-use-prescription-codeine-pain-and-cough-medicines-and -
WHO(世界保健機関)「WHO Model List of Essential Medicines」(最新版)
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-MHP-HPS-EML-2023.02 -
外務省「海外安全情報・医薬品の持ち込みについて」
https://www.anzen.mofa.go.jp/ -
PMDA「添付文書(一般用医薬品)検索」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcSearch/
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療を代替するものではありません。服薬の判断は必ず医師・薬剤師にご相談ください。
監修: 薬剤師(博士(薬学))