【喘息】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

喘息は気道の慢性炎症に基づく可逆的気流制限を特徴とする疾患であり、気道過敏性の亢進により喘鳴・呼吸困難・胸部圧迫感を繰り返します。日本の喘息治療は「ステップ治療」を原則とし、症状と気流制限の程度に応じて吸入ステロイド(ICS)を基本軸に据えています。軽症間欠型では必要時吸入β2刺激薬、軽症持続型以上ではICSを定期使用し、制御不十分例ではICS/LABA配合薬やLAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加します。生物学的製剤はT型ヘルパー細胞(Th2)サイトカインを標的とする中重症例の第一選択として位置付けられています。


治療の基本方針

日本ガイドラインのステップ治療体系

日本アレルギー学会および日本呼吸器学会の喘息治療ガイドラインは、ステップ1~5の5段階治療を推奨しています。

ステップ 症状頻度 第一選択薬 追加・切替選択肢
1: 軽症間欠型 週1回未満 必要時吸入β2刺激薬のみ
2: 軽症持続型 週1~数回 低用量ICS ——
3: 中等症持続型 ほぼ毎日 中用量ICS、またはICS/LABA配合薬 ICS+LTRA、ICS+テオフィリン
4: 高度持続型 1日中、夜間 高用量ICS/LABA配合薬 ICS/LABA/LAMA、ICS+LTRA+LABA
5: 重症・難治性 制御困難 ICS/LABA+生物学的製剤 OMalizumab(抗IgE)、Anti-IL-5製剤、TSLP受容体拮抗薬

治療の基本原則

  1. 吸入経路の徹底: 全ての吸入ステロイドおよび気管支拡張薬は吸入型が第一選択。全身性副作用回避と局所効果最大化が利点。
  2. 段階的増量と定期的評価: 4週間を治療評価期間とし、制御状況に応じて薬物を追加・変更。いきなり多数薬の併用を避ける。
  3. 必要時薬と定期薬の明確化: β2吸入薬を「定期吸入」する患者は既に持続的炎症を示唆。その場合ICSの導入を速やかに判断。
  4. コンプライアンス確保: 吸入手技教育とデバイスの工夫(ドライパウダーインヘーラーvs定量噴霧式 vs ネビュライザー)。

薬効群別の薬物一覧と特性

1. 吸入ステロイド(ICS: Inhaled Corticosteroid)

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
フルチカゾンプロピオン酸(フルタイド)
またはフルチカゾンフロエート(アスマネックス)
気道好酸球浸潤抑制、NF-κB阻害による炎症制御。吸入後数分で気道平滑筋への直接作用ではなく、炎症細胞の制御が主体。 ステップ2以上で必須基本薬。全喘息患者の大多数が使用。 口腔カンジダ症(吸入後うがい必須)、嗄声、声帯炎。全身性副作用は標準用量では稀。高用量・長期使用時は副腎皮質ホルモン抑制リスク。骨粗鬆症は60歳以上・女性で注視。
ベクロメタゾンプロピオン酸(キュバール) 上記と同機序。脂溶性低く、気道選択性がフルチカゾンより高い報告も。 ICS初期選択またはステップアップ時の代替。 口腔カンジダ症、嗄声。用量依存的副作用は少ない傾向。
シクレソニド(オルベスコ) 気道到達後にエステラーゼで活性化される前駆薬。肺外への全身吸収が少なく、肝代謝で不活性化。 全身副作用最小化が必要な患者(高齢、腎機能低下等)。 嗄声、口腔カンジダ症はフルチカゾンより低頻度の報告。
モメタゾン(アズマネックス) 強力なGR(グルココルチコイド受容体)結合親和性。気道沈着率高い。 ステップ2~4。 口腔カンジダ症、副腎皮質ホルモン抑制(高用量長期)。

ICS使用上の注意:

  • 吸入後のうがい: 口腔カンジダ症予防に必須。特に高用量・長期使用時。
  • 生物学的等価用量: 薬局でのデバイス変更時は医師と相談。フルチカゾンとベクロメタゾンは1:1ではない場合がある。
  • 吸入手技: 年1回以上の手技確認を推奨。デバイスの不適切使用により実効用量が50~80%低下する患者も報告。

2. 長時間作用型β2刺激薬(LABA: Long-Acting Beta-2 Agonist)

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
サルメテロール(セレベント)
またはホルモテロール(オーキシス)
β2受容体激動薬。12時間(サルメテロール)または24時間(ホルモテロール)作用持続。気道平滑筋弛緩、気道上皮細胞のムチン分泌抑制。 必ずICS併用(単独使用は禁止)。ICS単剤で制御不十分なステップ3~4。 手指振戦、頻脈、不整脈(特に高用量)、低K血症。LABAの単独使用による死亡報告があるため、ICSとの配合製剤推奨。
フォルモテロール(オーキシス、ジェヌエア) β2激動薬(速達性と12~24時間持続性)。シクレソニドとの配合製剤(ジェヌエア)は吸入直後から気管支拡張効果を発揮。 ICS/LABA配合薬の相棒成分。ステップ3以上の標準治療。 心悸亢進、不整脈、低K血症。単独使用の禁止は必須。

重要: 「LABA Paradox」: LABAを単独使用または不十分なICS用量で使用すると、かえって喘息死亡リスクが上昇する。必ずICSとの併用またはICS/LABA配合製剤を使用。


3. 長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA: Long-Acting Muscarinic Antagonist)

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
チオトロピウム(スピリーバ) M3ムスカリン受容体遮断。気道平滑筋コリン神経による収縮を抑制。LABA+ICSでも制御不十分な患者に追加。 ステップ4~5。ICS/LABA+LAMA三剤併用の形式。 尿閉(前立腺肥大症患者)、閉塞隅角緑内障。ドライマウス、嗄声。

4. ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA: Leukotriene Receptor Antagonist)

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
モンテルカスト(シングレア、キプレス) CysLT1受容体拮抗。ロイコトリエン(LTC4, LTD4, LTE4)による気道平滑筋収縮・粘液過分泌を阻害。 ステップ2~4。特にアスピリン不耐性喘息、運動誘発喘息、アレルギー性鼻炎併存例。 肝機能異常(稀)、行動・気分変化(特に小児)、Churg-Strauss症候群様血管炎(因果関係は不確実だが注視)。
ザフィルルカスト(アコレート) CysLT1受容体拮抗。モンテルカストと同機序。 モンテルカスト耐性例の代替。 肝障害、好酸球増加、肺浸潤(稀)。

使用上の注意: ロイコトリエン拮抗薬単独ではICSを代替できない。ICSに追加して初めて有意な効果を示す。


5. 生物学的製剤(Biologic Agents)

代表薬 標的・機序 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
オマリズマブ(ゾレア) 抗IgE単クローン抗体。IgEとの結合、FcεRI受容体への結合阻害。アレルギー性喘息(IgE高値)。 ステップ4~5、特にアレルギー性喘息でIgE高値(30~700 IU/mL)。 アナフィラキシー(0.1~0.2%)、注射部位反応、悪寒。IgE測定事前必須。
メポリズマブ(ヌーカラ) 抗IL-5単クローン抗体。IL-5受容体α鎖に結合し、好酸球分化・活性化抑制。 重症好酸球性喘息(末梢血好酸球≥150/μL)。ステップ4~5。 感染症リスク上昇(軽度)、HBV再活性化の可能性(スクリーニング必須)。
レスリズマブ(シンガルティ) 抗IL-4受容体α鎖単クローン抗体。Th2分化・IL-4/IL-13シグナル遮断。 重症喘息(ステップ4~5)。好酸球≥300/μLが目安。 感染症、注射部位反応、頭痛。免疫抑制状態の患者は要注意。
ベンラリズマブ(ファセンラ) 抗IL-5受容体α鎖単クローン抗体。IL-5シグナル完全遮断。 好酸球性喘息、難治性喘息(ステップ4~5)。 感染症、注射部位反応、HBV再活性化。好酸球減少による易感染性。
ティスレリズマブ(ルンディビット) 抗TSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)受容体単クローン抗体。Th2細胞分化・活性化抑制。 中等症~重症喘息(ICS/LABAで制御不十分)。好酸球値に関わらず適応。 感染症(軽度)、筋肉痛、関節痛。T細胞分化抑制による免疫低下。

生物学的製剤選択のポイント:

  • 抗IgE(オマリズマブ): アレルギー性喘息が明確、IgE400以上、アレルゲン特異的感作あり。
  • 抗IL-5(メポリズマブ・ベンラリズマブ): 好酸球性喘息、EGPA(好酸球多発血管炎性肉芽腫症)併存例。
  • 抗IL-4R(レスリズマブ): 好酸球型・非好酸球型両方に有効。汎用性高い。
  • 抗TSLP(ティスレリズマブ): 好酸球値に関わらない重症喘息。多ーバー型治療。

6. 短時間作用型β2刺激薬(SABA: Short-Acting Beta-2 Agonist)——必要時薬

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
サルブタモール(ベネトリン、アスモール) β2激動薬。吸入後3~5分で気道平滑筋弛緩。作用時間4~6時間 全ステップで必要時用として常時携帯。定期使用患者に予備として配置。 手指振戦、頻脈、不整脈(高用量)。低K血症(特に高用量・反復使用)。

重要: SABAの頻繁な使用(週2回以上)は症状悪化・喘息死亡リスク上昇の警告信号。ICS導入または増量を医師に相談。


7. テオフィリン(気管支拡張薬——現在は補助的)

代表薬 機序・効果 適応の位置付け 主な副作用・禁忌
テオフィリン(テオドール、ユニフィル) ホスホジエステラーゼ阻害、アデノシン受容体拮抗、気道平滑筋弛緩。免疫調節作用も。 ステップ3~4での補助。ICS/LABA+テオフィリンまたはICS+テオフィリン+SABAという古典的3者併用。現在はLAMA推奨がテオフィリン使用を減らしている。 悪心・嘔吐、頻脈、不整脈、痙攣(中毒時)。狭い治療域(8~20 mg/L)。食物・薬物相互作用多い。

備考: テオフィリンは有効性が確実である反面、血中濃度モニタリング(TDM)が必須。カフェイン含有食品(コーヒー、紅茶)との相互作用により濃度変動が大きい。


患者背景別の使い分け

高齢患者(65歳以上)

選択のポイント:

  • ICS: 標準用量を原則。高用量・長期使用時は骨密度検査とビタミンD補充を検討。
  • LABA/LAMA: β2激動薬は頻脈・不整脈リスク増加。心機能評価後に使用判断。LAMAは尿閉リスク(前立腺肥大症)を事前確認。
  • ロイコトリエン拮抗薬: 肝機能低下患者では用量調整要検討(特にザフィルルカスト)。
  • 生物学的製剤: 感染症リスク上昇に注意。帯状疱疹ワクチン・インフルエンザワクチン接種前使用に関し医師に相談。

推奨レジメン例:

  • ステップ2: 低用量ICS(フルチカゾン100~200μg/日)
  • ステップ3: ICS/LABA(フルチカゾン/サルメテロール 100/25~200/50μg)またはICS+LTRA
  • ステップ4~5: ICS/LABA+LTRA、または生物学的製剤検討(IgE測定後)

腎機能低下患者(eGFR < 30 mL/min/1.73m²)

選択のポイント:

  • ICS吸入薬: 肺での局所効果主体のため、系統的吸収少なく、腎排泄への負荷軽微。用量調整不要。
  • LABA/LAMA: 腎代謝は主ではないが、全身性副作用(低K血症、心律動異常)が顕在化しやすい。電解質・心電図モニタリング推奨。
  • ロイコトリエン拮抗薬: モンテルカストは肝代謝が主のため腎機能の影響は少ないが、高齢・肝機能低下との合併例では注意。
  • テオフィリン: 腎排泄率30~50%。用量低下必須。血中濃度モニタリング(TDM)は腎不全患者では特に重要(7~12 mg/L目標)。
  • 生物学的製剤: 大分子蛋白のため腎からの排泄経路が異なり、腎機能低下による用量調整は不要だが、感染症リスク監視必須。

推奨レジメン例:

  • ステップ2: 低用量ICS (シクレソニド推奨: 全身吸収最小)
  • ステップ3: ICS/LABA または ICS+LTRA(モンテルカスト推奨)
  • ステップ4~5: 生物学的製剤(感染症スクリーニング後)

妊娠患者・授乳婦

ICS: 妊娠中・授乳中のいずれでも安全性確立。推奨される第一選択。ベクロメタゾン、フルチカゾン、シクレソニドは分類Aまたはカテゴリ3(安全)。

LABA: 妊娠中使用実績多く、重篤な奇形報告ないが、妊娠末期での使用は医師と相談(早産・胎児死亡のリスク議論)。授乳中は安全。

ロイコトリエン拮抗薬: モンテルカストは妊娠中・授乳中ともに安全性データが比較的豊富。ザフィルルカストはデータ少なく、使用は医師判断。

生物学的製剤: 妊娠中は避けるべき(大分子蛋白の胎盤透過性は低いが、安全データ限定的)。授乳中は個別評価。

推奨レジメン例:

  • 妊娠中: ICS(シクレソニド or フルチカゾン低用量) + 必要時SABA + LTRA(モンテルカスト)
  • 授乳中: 同上

難治性喘息・ステロイド抵抗性患者

定義: 高用量ICS/LABA + LTRA/テオフィリン/LAMA併用でも症状制御不十分。

選択のポイント:

  1. 吸入手技確認: 50%以上の患者が不適切なデバイス使用により実効用量が低い。吸入指導の再施行。
  2. アドヒアランス評価: 処方からの実際使用率を確認。(例: 1日2回吸入指示でも実際は週数回の患者)
  3. ステロイド抵抗性の機序検討:
    • 好酸球型(末梢血好酸球≥150/μL) → 抗IL-5製剤(メポリズマブ、ベンラリズマブ)
    • 非好酸球型 → 抗IL-4R(レスリズマブ)、抗TSLP(ティスレリズマブ)
    • アレルギー型(IgE高値) → 抗IgE(オマリズマブ)
  4. ICS吸収不良の可能性: 胃食道逆流症(GERD)、便秘(吸入粒子の消化管吸収)の有無確認。

推奨レジメン例:

  • ICS/LABA高用量 + LTRA + 生物学的製剤

併用療法・治療の順序——段階的増量と置換戦略

ステップアップの原則

評価期間: 各薬物変更後、4週間を経て症状制御を評価。

現在のステップ 制御状況 次のステップ 具体的なアクション
ステップ1 (SABAのみ) 制御不十分(SABA週2回以上) ステップ2へ ICS開始(低用量フルチカゾン or ベクロメタゾン or シクレソニド)
ステップ2 (ICS低用量) 制御十分 維持 現用量継続、吸入手技確認、年1回評価
ステップ2 制御不十分 ステップ3へ ICS用量倍増 または ICS/LABA配合薬導入
ステップ3 (ICS/LABA or ICS中用量) 制御十分 維持 現用量継続
ステップ3 制御不十分 ステップ4へ ICS用量増加(高用量へ) または LTRA/テオフィリン/LAMA追加
ステップ4 (高用量ICS/LABA ± LTRA/テオフィリン) 制御十分 維持 現用量継続、定期評価
ステップ4

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