【COPD】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙などの有害物質吸入により気流制限を生じる進行性疾患です。気道炎症と肺実質破壊が特徴で、呼吸困難と生活機能障害をもたらします。薬物治療は気管支拡張薬を基軸とし、重症度に応じて長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)、長時間作用型ベータ2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド(ICS)を単剤または複合療法で使用します。急性増悪時には短時間作用型気管支拡張薬、全身ステロイド、抗菌薬を追加します。


治療の基本方針

重症度分類と選択戦略

日本のCOPD診断と治療のガイドライン(日本呼吸器学会)では、GOLD分類に基づいた段階的治療が推奨されています。

重症度 FEV1 症状・増悪 推奨治療
Gold 1(軽度) ≥80% 症状なし/少ない、増悪なし 必要に応じて短時間作用型気管支拡張薬(SABA/SAMA)
Gold 2(中等度) 50-79% 症状あり、増悪あり LAMA または LABA 単剤(第一選択)
Gold 3(高度) 30-49% 症状多い、増悪リスク高 LAMA+LABA 併用 または ICS/LABA(第二選択)
Gold 4(最重度) <30% 重度症状、頻回増悪 LAMA+LABA+ICS または LAMA+LABA+PDE4阻害薬

治療戦略の要点

  1. 第一選択:Gold 2以上は長時間作用型気管支拡張薬の単剤導入を原則とします。LAMA単剤とLABA単剤のいずれでも開始可能ですが、症状の重さと増悪頻度で判断します。

  2. 第二選択:単剤で症状コントロール不良の場合、異なる薬効群の気管支拡張薬を追加します。LAMA+LABA併用が推奨されます。

  3. ICS追加の判定:喘息合併、好酸球高値(≥100/μL)、頻回の増悪歴(年≥2回)がある場合、ICS/LABA または LAMA+ICS/LABAの導入を検討します。

  4. PDE4阻害薬:LAMA+LABA併用でも増悪が続く場合、および気管支炎型COPDに追加。


薬効群別の一覧

1. 長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)

項目 内容
代表薬 チオトロピウム ブロムモノヒドラート(スピリーバ®)、ウメクリジニウムブロミド(エリプタ®)、グリコピロニウムブロミド(セビカル®)
機序 M3ムスカリン受容体をブロック → 気道平滑筋弛緩 → 気流制限改善
適応 Gold 2-4 の第一選択。特に気道可逆性が低く、呼吸困難が主体な患者
利点 1日1回吸入で効果が24時間持続。使いやすさが高い
主な副作用 ドライマウス、排尿困難(前立腺肥大症患者は注意)、眼圧上昇(閉塞隅角緑内障は禁忌)
禁忌 狭隅角緑内障、尿閉リスク患者(前立腺肥大症で排尿困難あり)
注意事項 吸入時に眼に入らないよう指導。抗コリン薬との併用により排尿困難が増強

2. 長時間作用型ベータ2刺激薬(LABA)

項目 内容
代表薬 サルメテロール(セレベント®)、ホルモテロール(オーキシス®)、インダカテロール(オンブレス®)、ビランテロール
機序 ベータ2受容体刺激 → 気道平滑筋弛緩 → 気流制限改善。抗炎症作用も有す
適応 Gold 2-4 の第一選択。呼吸困難が比較的軽い患者や、喘息様可逆性がある患者
利点 LAMA同様1日1-2回で効果が12-24時間持続
主な副作用 手指振戦、心悸亢進、動悸、不整脈(特に高用量)
禁忌 不安定狭心症、最近の心筋梗塞、重度不整脈
注意事項 LABA単独使用は喘息患者で死亡リスク増加のため、ICSとの併用が推奨。COPD患者でも同原則

3. 吸入ステロイド/LABA併用製剤(ICS/LABA)

項目 内容
代表薬 フルチカゾン/サルメテロール(アドエア®)、ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート®)、フルチカゾン/ビランテロール(エリプタ®)
機序 ICS:気道炎症抑制 + LABA:気管支拡張。相乗効果で増悪抑制と症状改善
適応 Gold 3-4 で喘息合併、好酸球高値、頻回増悪例。または LABA単剤失効時の追加
利点 1製剤で2薬効。増悪頻度低下が多くのRCTで実証
主な副作用 口腔カンジダ症、声がかすれ、咳嗽。全身ステロイド吸収は少量だが注意
禁忌 活動性結核(ICS増悪のリスク。静止性結核は要相談)
注意事項 吸入後に必ずうがいを指導。骨粗鬆症予防(VitD/カルシウム)も配慮

4. 吸入ステロイド/LABA/LAMA三剤併用製剤(ICS/LABA/LAMA)

項目 内容
代表薬 フルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(エリプタ®、海外ではTriple ICS/LABA/LAMA)、ブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(トリプル)
機序 3つの異なる作用機序を統合:ICS(抗炎症)+ LAMA(抗コリン)+ LABA(ベータ2刺激)
適応 Gold 3-4 で症状不十分、増悪が続く患者。ICS/LABA + LAMA併用で改善なし時の選択肢
利点 1製剤で複数薬効。コンプライアンス向上。1日1回製剤も登場
主な副作用 ICSの副作用(カンジダ、声嗄れ)+ LAMA副作用(ドライマウス、排尿困難)
禁忌 ICS禁忌(活動性結核)、LAMA禁忌(緑内障、尿閉リスク)に同じ
注意事項 複数薬効を含むため、各々の副作用フォローが重要

5. ホスホジエステラーゼ4阻害薬(PDE4阻害薬)

項目 内容
代表薬 ロフルミラスト(ダルティオ®)、アプレミラスト(オテズラ®、乾癬適応)
機序 cAMP分解を阻害 → 炎症細胞活性低下 → 気道炎症と粘液分泌減少
適応 LAMA+LABA併用でも頻回増悪が続く患者。気管支炎型COPDに特に有効
利点 非ステロイド系で全身性炎症低下。他剤との相互作用が少ない
主な副作用 消化器症状(下痢、悪心)が強く、初期導入時の30%が中止。体重減少、睡眠障害
禁忌 中等度~重度肝機能障害、中等度~重度腎機能障害(eGFR<30)
注意事項 導入時は低用量から開始し、患者教育が重要。4週間で忍容性判定

6. 短時間作用型ベータ2刺激薬(SABA)

項目 内容
代表薬 サルブタモール(硫酸サルブタモール、ベネトリン®)、テルブタリン
機序 ベータ2受容体急速刺激 → 数分内に気管支拡張
適応 日常の呼吸困難時の頓用。急性増悪時の治療薬
利点 即効性(5-15分)。軽度症状に低コスト
主な副作用 手指振戦、頻脈、動悸。過剰使用で効果減弱(tachyphylaxis)
禁忌 不安定狭心症、重度不整脈
注意事項 1日3回以上の使用が常態化する場合は長時間作用型への切替検討

7. 短時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬(SAMA)

項目 内容
代表薬 イプラトロピウム(アトロベント®)
機序 M3受容体急速ブロック → 気管支拡張(LAMA同様だが作用時間4-6時間
適応 急性増悪時の頓用。SABA無効の患者への追加
利点 SABA単独より効果が大きい場合あり。相乗効果も報告
主な副作用 ドライマウス、排尿困難、視力調節障害
禁忌 狭隅角緑内障、尿閉リスク患者
注意事項 眼への暴露に注意。ネブライザー投与時は眼瞼を守る

選択のポイント:患者背景別の使い分け

高齢患者(≥75歳)

推奨:LAMA単剤導入

  • 理由:1日1回で非常にシンプル。服薬アドヒアランスが低下しやすいため、回数少ないことが有利。
  • 注意:前立腺肥大症が高頻度。ドライマウスへの訴えが多い場合は LABA併用に切替も検討。
  • 緑内障スクリーニングを必須。隅角の狭さが疑わしい患者には眼科紹介前に LAMA導入を控える。

腎機能低下患者(eGFR<30 mL/min/1.73m²)

推奨:LAMA または LABA

  • 理由:吸入薬は全身吸収がほぼゼロに近いため、腎機能の影響は軽微。
  • 禁忌:PDE4阻害薬(ロフルミラスト)は中等度以上腎機能障害で禁忌。
  • その他全身薬(利尿薬、心不全治療薬)との相互作用チェック重要。

喘息合併患者

推奨:ICS/LABA 以上(最低限 ICS配合製剤)

  • 理由:喘息と COPD合併(ACO: Asthma-COPD Overlap)では、ICS単独省略による増悪死亡リスクが高い。
  • LABA単独は絶対に避ける。
  • ハイリスク:ICS外来管理加算の算定条件にもなる。

糖尿病合併患者

慎重薬:LABA高用量

  • 理由:ベータ2刺激がインスリン分泌を阻害し、血糖上昇のリスク。
  • 推奨:LAMA導入後、必要に応じて ICS/LABA併用(ICS自体も軽度血糖上昇あるが許容範囲)。
  • 血糖モニタリング強化。

心疾患合併患者(心不全、冠動脈疾患)

慎重薬:LABA高用量

  • 理由:ベータ2刺激により頻脈、不整脈、心仕事量増加のリスク。
  • 推奨:LAMA単剤またはLABA低用量との併用。
  • 心電図・心拍数モニタリング。

肝機能障害患者

注意:通常吸入薬は影響少ないが、全身治療が必要な患者では PDE4阻害薬禁忌。

  • 中等度以上肝障害:ロフルミラスト非投与。

併用療法・順序:単剤失効時の追加・切替戦略

ステップアップの流れ

Gold 2(軽度呼吸困難)
    ↓ 症状継続 or 増悪
LAMA 単剤 または LABA 単剤(推奨)
    ↓ 症状改善不十分
LAMA + LABA 併用
    ↓ 症状改善不十分 or 増悪あり
1) 喘息合併・好酸球高値・増悪多い → ICS/LABA に切替 or LAMA + ICS/LABA へ
2) 気管支炎型で増悪多い → LAMA + LABA + PDE4阻害薬
3) すべて合致 → ICS/LABA/LAMA(三剤一包化製剤)

具体的な切替例

現状 症状・増悪内容 切替先
LABA単剤失効 呼吸困難持続 LAMA追加 → LAMA+LABA
LAMA単剤失効 呼吸困難持続、増悪なし LABA追加 → LAMA+LABA
LAMA+LABA失効 喘息合併、好酸球≥100 ICS/LABA/LAMA へ切替
LAMA+LABA失効 気管支炎症状多い、好酸球<100 ロフルミラスト追加
ICS/LABA失効 LAMA非併用 ICS/LABA/LAMA へ

急性増悪時の対応

増悪時は短時間作用型気管支拡張薬を頓用としながら、医師と協調して以下を検討:

  • 短時間作用型ベータ2刺激薬(サルブタモール):ネブライザー 1-2時間ごと
  • 全身ステロイド:プレドニゾロン 20-40mg 日1回、5-7日間(医師判断)
  • 抗菌薬:黄色く粘性の痰がある場合。アモキシシリン、マクロライド系など
  • 酸素療法:SpO2<88-90%で開始(医師指示)

非薬物療法

禁煙と喫煙歴

  • 絶対条件:COPD進行を遅延させる唯一の確実な方法。薬物治療は禁煙を補完するもの。
  • 禁煙外来利用、ニコチン置換療法(NRT)、バレニクリン(チャンピックス®)の検討。

肺リハビリテーション

  • 対象:Gold 2 以上、または入院歴のある患者。
  • 内容
    • 有酸素運動(トレッドミル、自転車エルゴメータ):週3日、30分×3ヶ月以上
    • 筋力トレーニング(抵抗運動):脚・体幹機能の改善
    • 呼吸理学療法:腹式呼吸、口すぼめ呼吸の指導
  • 効果:運動耐容能、QOL改善、入院率低下が実証。

栄養管理

  • 低栄養対策
    • 体重減少患者(BMI<21)は予後不良。高タンパク・高カロリー食の相談。
    • 栄養士による栄養スクリーニング。
  • 制限栄養
    • 過食による過栄養(特に炭水化物)は CO2産生増加 → 呼吸困難悪化。

感染予防・ワクチン

  • 肺炎球菌ワクチン(PPSV23):初回接種、その後5年ごと(医師判断)。
  • インフルエンザワクチン:毎年秋に接種(COPD増悪リスク低下)。
  • 新型コロナワクチン:重症化リスク高いため推奨。

在宅酸素療法(HOT)

  • 適応:Gold 4 で安静時 SpO2<88%、または運動時低酸素。
  • 効果:生存期間延長(月15時間以上使用で顕著)。
  • 医師処方に基づき訪問看護・酸素業者と連携。

外科的介入

  • 肺体積減少手術(LVRS):気腫性変化が上肺葉主体で、かつ肺機能の一定基準を満たす患者。
    • 症例数少なく、施設限定的。
  • 気管支鏡的肺減容術:バルブ・コイルシステムなど。臨床治験段階の施設多い。

参考文献・ガイドライン

日本の公式ガイドライン

  1. 日本呼吸器学会「COPD診断と治療のガイドライン(第5版、2022年)」

    • 国内で最も権威ある COPD診療指針。GOLD分類、重症度判定、薬物治療の段階化を掲載。
    • https://www.jrs.or.jp/ (学会HP内で閲覧可)
  2. PMDA医薬品添付文書

  3. 厚生労働省 疾患別医療費データベース

国際ガイドライン(参考)

  • GOLD 2024 Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD
    • https://goldcopd.org/
    • 世界基準。日本ガイドラインと大きな乖離は少ないが、新しい知見の先行配信あり。

主要学会


免責事項

本記事は薬学的な教育・情報提供を目的としており、医学的診断・治療判断は医師の専権です。本記事の内容に基づいて個人が医療行為を行うことを推奨しません。COPD患者の診断、治療薬の選択・用量調整、および急性増悪対応は必ず医師の診察・処方に従ってください。

また、医薬品の最新情報(承認、禁忌、副作用)は頻繁に更新されます。本記事は 2026年7月15日時点の情報に基づきますが、実際の処方・指導時には PMDA添付文書および最新の臨床ガイドラインを必ず参照してください。


監修: 薬剤師(博士(薬学))

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