【COVID-19】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

COVID-19は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症で、呼吸器症状を中心に全身への影響を起こします。軽症~中等症ではウイルス複製を抑える抗ウイルス薬が中心ですが、重症例では免疫調整薬や対症療法が不可欠です。日本では経口抗ウイルス薬(パキロビッド、ラゲブリオ、ゾコーバ)が第一選択となり、入院例にはレムデシビルが用いられます。早期介入が予後改善に重要であり、ワクチン接種と組み合わせた予防戦略も重要な位置付けにあります。


治療の基本方針

患者群別の治療戦略

軽症~中等症Ⅰ(酸素飽和度93%以上)

  • 経口抗ウイルス薬が第一選択
  • パキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル配合):発症5日以内の投与が推奨
  • パキロビッド投与不可(薬物相互作用・禁忌)の場合:ラゲブリオ(モルヌピラビル)またはゾコーバ(エンシトレルビル)に切替
  • 症状緩和には解熱鎮痛薬、咳止めなど対症療法を並行

中等症Ⅱ(酸素飽和度88~92%)・重症

  • レムデシビル(静脈注射):抗ウイルス薬の第一選択
  • 必要に応じて副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)を追加
  • 炎症制御目的に免疫調整薬(ジンクフリウマブ、バリシチニブ等)検討
  • 酸素療法・人工呼吸管理など集中治療を並行

発症時期の重要性

  • 抗ウイルス薬は発症後5~10日以内の早期投与が有効性の鍵
  • 発症判定は症状出現初日を基準に判断

薬効群別の一覧(全6群)

1. 経口プロテアーゼ阻害薬

項目 内容
代表薬 パキロビッド(パック):ニルマトレルビル/リトナビル
機序 SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを阻害し、ウイルス複製を抑制
適応の位置付け 軽症~中等症Ⅰの第一選択薬。発症5日以内の投与が推奨
用法用量 ニルマトレルビル300mg/リトナビル100mg(各2錠)を12時間ごと5日間
主な副作用 味覚異常、下痢、頭痛。通常軽微で一過性
禁忌・相互作用 リトナビルによる強いCYP3A4阻害→多数の薬物相互作用。特に特定の不整脈薬・スタチン・免疫抑制薬と禁忌
腎機能別 eGFR ≧30:用量変更なし。eGFR <30:投与禁止
肝機能別 軽~中等度肝障害:用量変更なし。重度肝障害:投与禁止

2. 核酸類似体ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(経口)

項目 内容
代表薬 ラゲブリオ(ラゲ):モルヌピラビル
機序 ウイルスRNAに取り込まれて誤った塩基対形成を誘導。ウイルス複製停止
適応の位置付け パキロビッド相互作用・禁忌時の第二選択。発症5日以内
用法用量 800mg(200mg×4カプセル)を12時間ごと5日間
主な副作用 下痢、吐き気、頭痛。妊娠への影響(催奇形性)が懸念
禁忌・相互作用 妊娠中・妊娠可能年齢の女性は慎重。男性の精液移行について機序が不明。相互作用は少ない
腎機能別 eGFR ≧30:用量変更なし。eGFR <30:データ不足で慎重投与
特記事項 遺伝毒性試験で懸念があり、投与後一定期間避妊必須(厳密ガイドライン遵守)

3. 3CL プロテアーゼ阻害薬(経口・非ペプチド型)

項目 内容
代表薬 ゾコーバ(ゾコ):エンシトレルビル水和物
機序 SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを非ペプチド型で阻害(パキロビッドとは構造異なる)
適応の位置付け パキロビッド相互作用リスク高時の有力な第二選択。発症5日以内
用法用量 125mg12時間ごと5日間
主な副作用 下痢、頭痛、吐き気。一般にパキロビッドより相互作用が少ない
禁忌・相互作用 重度肝障害は慎重。CYP3A4関与するが、リトナビルより程度が軽い
腎機能別 軽~中等度腎障害:用量変更なし。eGFR <30:投与禁止
高齢者 安全性プロファイル良好。用量調整不要

4. 核酸類似体ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(静脈注射)

項目 内容
代表薬 レムデシビル(ベクルリー):レムデシビル
機序 RNAポリメラーゼ阻害により、ウイルスRNA合成を直接抑制
適応の位置付け 中等症Ⅱ・重症の第一選択。入院患者が対象
用法用量 1日目:200mg (初回負荷)、2~5日目(または10日目):100mg/日
主な副作用 肝酵素上昇、腎機能低下、注入部位反応。一部患者で重篤な肝不全報告
禁忌・相互作用 eGFR <30:投与禁止。肝機能(AST/ALT >5倍ULN)では慎重
発症時期 発症10日以内が有効性の基準(軽症発症例への投与は長期入院化を招く可能性があり慎重)
特記事項 入院患者で症状進行リスク高い場合が対象。軽症外来患者への投与は原則不適応

5. 副腎皮質ステロイド(免疫抑制・炎症制御)

項目 内容
代表薬 デキサメタゾン(デカドロン):デキサメタゾン、またはプレドニゾロン
機序 グルココルチコイド受容体を活性化し、過度な炎症応答を抑制
適応の位置付け 中等症Ⅱ以上で酸素療法を要する患者。抗ウイルス薬と併用
用法用量 デキサメタゾン 6mg/日×10日(静脈/経口)、または同等量のプレドニゾロン
主な副作用 高血糖、感染症リスク増加、精神症状。短期使用は比較的安全
禁忌・相互作用 未治療の重篤な感染症は相対的禁忌。糖尿病患者は血糖厳密管理
重要注意 軽症患者への不適切使用は予後悪化のリスク。酸素療法を要する患者に限定
併用戦略 レムデシビル+デキサメタゾンの組み合わせが標準。バリシチニブ併用時は相乗効果

6. JAK阻害薬・生物学的製剤(重症・免疫調整)

項目 内容
代表薬 バリシチニブ(オルミエント):バリシチニブ、またはジンクフリウマブ(イントブルボ):ジンクフリウマブ(抗IL-6受容体抗体)
機序 JAK-STAT経路阻害(バリシチニブ)またはIL-6シグナル遮断(ジンクフリウマブ)による過度な炎症制御
適応の位置付け 重症で酸素療法継続中の患者。ステロイド+抗ウイルス薬併用下での追加。予後改善エビデンス有
用法用量 バリシチニブ 2mg/日(eGFR 15-29:1mg)。ジンクフリウマブ 800mg 単回静注
主な副作用 感染症リスク増加、血球減少。ジンクフリウマブはインフェクション懸念
禁忌・相互作用 アクティブ感染症患者には投与禁止。TB既往歴は相対的禁忌
腎機能別 バリシチニブ:eGFR 15-29で1mgに減量。<15:投与禁止
使用限定 重症例かつICU管理下での使用が多い。軽症例への不適切使用は厳禁

選択のポイント:患者背景別使い分け

高齢者(≧75歳)

  • パキロビッド第一選択:安全性プロファイル確立。用量調整不要
  • 多剤併用者(5剤以上):薬物相互作用リスク→ゾコーバまたはラゲブリオ推奨
  • フレイル・栄養不良:レムデシビル投与判断は慎重(腎機能確認必須)
  • 転倒リスク:めまい・起立性低血圧の副作用モニタリング強化

腎機能別

eGFR パキロビッド ラゲブリオ ゾコーバ レムデシビル
≧60 ○通常用量 ○通常用量 ○通常用量 ○通常用量
45-59 ○通常用量 ○通常用量 ○通常用量 ○通常用量
30-44 ○通常用量 ○慎重 ○通常用量 ○通常用量
<30 ✕投与禁止 ✕データ不足 ✕投与禁止 ✕投与禁止

透析患者:抗ウイルス薬投与を回避する傾向。医師・腎臓内科医と協議が必須

肝機能別

  • Child-Pugh A(軽度):全薬剤可能(通常用量)
  • Child-Pugh B(中等度):パキロビッド・ゾコーバは用量変更なし。レムデシビルは肝酵素上昇に注意
  • Child-Pugh C(重度):パキロビッド・ゾコーバ・レムデシビル投与禁止。ラゲブリオも慎重

妊娠・授乳中

薬剤 妊娠 授乳
パキロビッド 相対的安全(出生コホート良好) 相対的安全
ラゲブリオ ✕禁忌(催奇形性懸念)。投与後男女とも避妊期間設定 ✕禁忌
ゾコーバ データ不足。医師判断で慎重評価 不明
レムデシビル 相対的安全(内服薬より選択肢限定) 不明(機序上移行少ない予測)

妊娠可能年齢女性:ラゲブリオ投与時は避妊確認書面必須

併存疾患

糖尿病

  • ステロイド併用時は血糖監視強化
  • メトホルミン継続の判断:レムデシビルで腎機能低下時は中止検討

心不全・不整脈

  • パキロビッドのリトナビル:QT延長薬・抗不整脈薬との禁忌多数→ゾコーバ第一選択
  • ジギタリス製剤:パキロビッドにより血中濃度上昇→ゾコーバが安全

活動性結核

  • バリシチニブ・ジンクフリウマブ投与禁止
  • ステロイド・抗ウイルス薬のみで対応

併用療法・順序:単剤失効時の追加・切替戦略

軽症~中等症Ⅰでの切替

初期選択:パキロビッド

  1. 相互作用判明→ゾコーバまたはラゲブリオに即座に切替
  2. 投与中止理由(副作用・忍容性)→代替薬に切替(1種類のみ試行)
  3. 併用ではなく単剤の逐次切替が原則

中等症Ⅱ以上での多剤併用

標準レジメン(ガイドラインベース)

Day 1:  レムデシビル 200mg IV + デキサメタゾン 6mg/日 + 酸素療法開始
Day 2-5: レムデシビル 100mg IV/日 + デキサメタゾン 6mg/日
Day 6-10: レムデシビル中止 + デキサメタゾン 6mg/日継続

予後不良例(72時間以上酸素療法継続)への追加

  • バリシチニブ 2mg/日 × 14日またはジンクフリウマブ 800mg 単回
  • 条件:レムデシビル+ステロイド既開始後の判断
  • タイミング:5~7日目での早期介入が有効性を高める

切替の判断基準

理由 対応
薬物相互作用判明 48時間以内に切替。重篤相互作用は即座に中止→別薬に開始
アレルギー反応 当該薬剤即座中止。代替薬開始は慎重(交差反応確認)
肝酵素上昇(AST/ALT >10倍ULN) レムデシビル中止検討。内服薬へのステップダウン
腎機能急速低下 全薬剤の用量調整再評価。eGFR <30では多数禁忌化

対症療法(非抗ウイルス薬)

解熱鎮痛薬

薬剤 用法 留意点
アセトアミノフェン 500-1000mg×4-6時間ごと(最大4g/日) NSAIDsより推奨。肝障害・アルコール多飲者は用量制限
イブプロフェン配合OTC薬 200-400mg×4-6時間ごと COVID-19初期での使用は控え目に(炎症増幅懸念は最新ガイドラインで否定)

鎮咳薬・去痰薬

  • ジヒドロコデインリン酸塩:咳が強い場合。中枢性。依存性リスク→短期間のみ
  • グアイフェネシン:去痰目的。水分摂取増加の方が有効なケース多い
  • アズレン含嗽液:喉頭咽頭症状。局所抗炎症

その他の対症療法

  • 吐き気止め:メトクロプラミド(プリンペラン)10mg×3回(錠剤・注射)
  • 下痢止め:ロペラミド( ロペミン 🛒A):病原体排出遅延リスク→軽症時は不推奨
  • うがい・加湿:生理食塩水うがい、室内湿度60-70%維持

非薬物療法

生活指導

  • 隔離期間:発症後5日間は周囲との接触制限。可能な限り個室利用
  • 水分摂取:1日1.5-2L以上。脱水により重症化リスク上昇
  • 栄養:タンパク質・ビタミン(C,D)補給。食欲低下時は栄養補助食品活用
  • 睡眠:十分な休息。寝不足は免疫低下

運動・活動

  • 軽症期:無理のない散歩程度は許容。激しい運動は避ける
  • 中等症以上:臥床が原則。回復期の理学療法(座位→立位→歩行)は医療専門家指導下

酸素療法(医療行為)

  • 酸素飽和度 <93%:鼻カニュラまたはマスク使用(2-6L/分)
  • 中等症Ⅱ以上:高流量酸素療法→非侵襲的陽圧換気(NIPPV)→気管挿管の段階的対応

入院判断基準

  • 酸素飽和度 <93%が続く
  • 呼吸数 >30/分
  • 意識障害・意識変容
  • 基礎疾患による重症化リスク(年齢>65歳+基礎疾患複数、または免疫抑制状態)

ワクチン接種との関連性

  • COVID-19治療中の追加接種:原則延期(ウイルス複製・炎症制御中)
  • 回復後の接種:軽症から4週間、中等症以上から8-12週間後に再開推奨
  • 予防効果:ワクチン接種歴があれば重症化リスク低下。抗ウイルス薬の絶対必要性低下

参考文献・ガイドライン

日本の主要ガイドライン

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き
    日本感染症学会・日本呼吸器学会
    最終更新:厚生労働省新型インフルエンザ等対策推進本部
    https://www.mhlw.go.jp/stportal/simplyeasy/bunkatsushin_qa/ (参考ページ)

  2. 抗SARS-CoV-2薬の使い分け指針
    日本薬学会 / 日本病院薬剤師会
    オンライン公開資料

PMDA添付文書

  • パキロビッドhttps://www.pmda.go.jp/ 内の医療用医薬品情報
    (医薬品名:ニルマトレルビル/リトナビル配合剤)

  • ラゲブリオ:PMDA審査済み医薬品データベース
    (医薬品名:モルヌピラビル)

  • ゾコーバ:PMDA条件付き承認
    (医薬品名:エンシトレルビル水和物)

  • ベクルリー(レムデシビル)https://www.pmda.go.jp/

国際ガイドライン(参考)


免責事項

本記事は薬学的知識の教育目的で作成されており、医学的診断・治療判断ではありません。COVID-19の治療方針決定は医師の専門判断に基づきます。抗ウイルス薬の選択・用量・併用については、患者個別の腎機能・肝機能・薬物相互作用・併存疾患を考慮した上で、医師・薬剤師の指示を厳密に遵守してください。本記事の情報は2026年7月時点のガイドラインに基づいており、今後の知見更新により変更される可能性があります。最新情報は必ず公式ガイドラインおよびPMDA添付文書で確認してください。


監修:薬剤師(博士(薬学))

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