概要
2型糖尿病は、インスリン分泌低下と末梢インスリン抵抗性が複合して血糖管理障害をきたす代謝疾患です。成人糖尿病患者の約90%を占めます。薬物治療では生活指導と併行して、糖化ヘモグロビン(HbA1c)目標値に基づき段階的に薬剤を追加します。第一選択はメトホルミンであり、単剤失効時はGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬などの追加、必要に応じてインスリン導入を検討します。患者の年齢、腎機能、心血管・腎臓病既往など個別背景を勘案した治療の個別化が重要です。
治療の基本方針
診断と治療開始の流れ
日本では空腹時血糖 ≥126 mg/dL、またはHbA1c ≥6.5%で2型糖尿病と診断されます。初期治療は食事療法・運動療法を最低3ヶ月実施し、その後血糖コントロール不良であれば薬物治療を開始します。
第一選択:メトホルミン
**メトホルミン(ビグアナイド薬)**は最初の薬剤として推奨されます。
- 肝での糖新生を抑制し、末梢でのインスリン感受性を向上させる
- 体重増加をきたさない
- 低血糖リスクが低い
- 禁忌:eGFR <30 mL/min/1.73m²の高度腎機能低下では使用不可
目標用量は1500~2000 mg/日(分割投与)ですが、腎機能に応じて用量調整が必須です。
第二選択:単剤失効時の追加戦略
メトホルミン単独でHbA1c目標に達しない場合、以下の薬効群から患者背景に応じて選択・追加します:
- SGLT2阻害薬:心血管保護・腎保護効果が期待でき、特に心不全・CKD合併例で有用
- GLP-1受容体作動薬:体重減少効果、心血管イベント抑制効果あり;HbA1cの低下幅が大きい
- DPP-4阻害薬:低血糖リスクが低く、体重中立的;腎機能に応じた用量調整可
- スルホニル尿素(SU)薬:強い血糖低下作用だが、低血糖・体重増加のリスク;第一・二選択後の段階では限定的
重症度・経過別の治療
| 段階 | HbA1c目標 | 推奨治療 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 軽症(新規診断、HbA1c <8.5%) | <7% | メトホルミン単剤 | 生活指導を最優先 |
| 中等症(HbA1c 8.5~10%) | <7% | メトホルミン+SGLT2/GLP-1/DPP-4より選択 | 患者背景を考慮して追加 |
| 重症(HbA1c >10%、症状あり) | <7%(段階的低下) | メトホルミン+複数薬併用またはインスリン | 速やかな血糖低下が必要;インスリン導入も検討 |
| 高齢者(65歳以上) | <8% | 低血糖リスク低い薬選択;個別化 | SU薬は慎重に;転倒リスク考慮 |
| 腎機能低下(eGFR 30~60) | <7% | DPP-4、SGLT2阻害、インスリン推奨 | メトホルミン用量削減;SGLT2は eGFR <45 で制限あり |
薬効群別一覧
1. ビグアナイド薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | メトホルミン(一般名) / グリコラン®、メテオ®など |
| 機序 | 肝糖新生抑制、末梢インスリン感受性向上 |
| 適応の位置付け | 第一選択;全ての患者が候補(禁忌除外) |
| 主な副作用 | 消化器症状(下痢、悪心)、ビタミンB12欠乏(長期使用時)、稀な乳酸アシドーシス |
| 禁忌・注意 | eGFR <30 mL/min/1.73m²で禁忌;造影検査時は中断が推奨される場合あり |
2. SGLT2阻害薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | ダパグリフロジン(フォルシーガ®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)、カナグリフロジン(カナグル®) |
| 機序 | 近位尿細管のSGLT2阻害→尿糖排泄増加→血糖低下;浸透圧利尿作用 |
| 適応の位置付け | 第二選択;特に心不全・CKD合併患者に優先推奨 |
| 主な副作用 | 性器感染症(女性に多い)、尿路感染症、ケトン体上昇(DKA様)、頻尿・多尿、低血圧 |
| 禁忌・注意 | eGFR <45 mL/min/1.73m²で薬剤により使用制限;妊娠中は避ける;急性膵炎既往 |
心・腎保護効果が大きく注目され、糖尿病なし慢性腎臓病患者への適応拡大も進行中です。
3. GLP-1受容体作動薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | リラグルチド(ビクトーザ®)、セマグルチド(オゼンピック®)、ピオグリタゾン配合なし |
| 機序 | GLP-1受容体活性化→インスリン分泌促進(血糖依存的)、グルカゴン抑制、胃排出遅延 |
| 適応の位置付け | 第二選択;HbA1c低下効果が大きく、体重減少も期待できる;心血管イベント抑制 |
| 主な副作用 | 悪心・嘔吐(初期)、便秘、膵炎(稀)、網膜症悪化(急激な血糖低下時) |
| 禁忌・注意 | 個人/家族歴の甲状腺髄様癌、多発内分泌腫瘍2型(MEN2)では禁忌;妊娠を予定する場合は医師と相談 |
注射製(週1回、または1日1回)であることが特徴。アドヒアランスに配慮した指導が重要です。
4. DPP-4阻害薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | シタグリプチン(ジャヌビア®)、ビルダグリプチン(ガルバス®)、リナグリプチン(トラジェンタ®) |
| 機序 | DPP-4を阻害→GLP-1/GIPの不活化を抑制→血糖依存的インスリン分泌促進 |
| 適応の位置付け | 第二選択;低血糖リスク低く、高齢者・軽症例で有用;体重中立的 |
| 主な副作用 | 上気道感染症、関節痛(稀)、膵炎(極稀) |
| 禁忌・注意 | 薬剤により腎機能に応じた用量調整必要(特にシタグリプチン);重度の肝機能障害は慎重 |
腎機能低下患者でも使用可能な薬剤が多く、eGFR <30でも投与できるものもあります。
5. スルホニル尿素(SU)薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | グリベンクラミド(オイグルコン®)、グリクラジド(グリミクロン®)、グリメピリド(アマリール®) |
| 機序 | 膵β細胞のATP感受性Kチャネル閉鎖→膵インスリン分泌促進 |
| 適応の位置付け | 限定的;第一・二選択後の段階、または他の薬が使用困難な場合 |
| 主な副作用 | 低血糖(重大)、体重増加、ときに溶血性貧血 |
| 禁忌・注意 | 低血糖リスク高く、特に高齢者・腎機能低下患者では避ける;運転従事者は注意が必要 |
近年は使用が減少傾向。新規投与時は患者教育(低血糖対応)が必須です。
6. チアゾリジン薬(インスリン感受性改善薬)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | ピオグリタゾン(アクトス®) |
| 機序 | PPARγ活性化→末梢・肝インスリン感受性向上、脂肪組織分化促進 |
| 適応の位置付け | 第二選択の一部;NAFLD合併例で有用;インスリン抵抗性が強い患者 |
| 主な副作用 | 体重増加、浮腫、心不全リスク上昇(特に基礎心疾患合併時)、膀胱癌リスク(論争継続中) |
| 禁忌・注意 | New York Heart Association(NYHA) III/IV心不全では禁忌;1型糖尿病では禁忌 |
体重増加・浮腫のため、最近は第一選択から遠ざかっています。
7. インスリン
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | ヒトインスリン(ノボリン®R など)、インスリンアナログ(ランタス®, ヒューマログ®, ノボログ®など) |
| 機序 | インスリン補充;血糖直接低下;脂質・蛋白代謝改善 |
| 適応の位置付け | 重症例、経口薬失効時、DKA/HHS時;進行性β細胞機能低下 |
| 主な副作用 | 低血糖(重大)、体重増加、注射部位の脂肪萎縮/肥大 |
| 禁忌・注意 | 1型糖尿病では必須;2型でも進行すればほぼ必要。患者教育(注射手技、低血糖対応)が重要 |
**基礎インスリン(持続型)→強化インスリン療法(速効型+基礎)**への段階的導入が一般的。
選択のポイント:患者背景別の使い分け
高齢者(65歳以上)
- 目標HbA1c: <8.0%(個別化;7%以下は低血糖リスク↑)
- 第一選択: メトホルミン(用量削減)、またはDPP-4阻害薬
- 避けるべき薬: SU薬(低血糖→転倒・骨折リスク)、過剰用量インスリン
- 推奨: 腎機能低下の頻度が高いため、定期的なeGFR・血清クレアチニン測定
腎機能低下患者
| eGFR | 推奨薬 | 注意・用量調整 |
|---|---|---|
| ≥60 | 全薬剤利用可 | 通常用量 |
| 45~59 | DPP-4, GLP-1, インスリン, SGLT2(限定) | メトホルミン用量削減;SGLT2は製品により制限 |
| 30~44 | DPP-4(用量調整), リナグリプチン, インスリン | メトホルミン禁止;SGLT2ほぼ禁止 |
| <30 | インスリン, リナグリプチン(用量調整可) | 経口薬ほぼ禁止;インスリン導入推奨 |
心不全・CKD合併例
- SGLT2阻害薬: 心・腎保護効果があり、第一選択肢に昇格
- GLP-1受容体作動薬: 心血管イベント抑制効果
- メトホルミン: 用量調整のうえ継続可
- 避ける: チアゾリジン薬(心不全悪化リスク)
妊娠を予定・妊娠中
- 推奨: インスリン(最も安全な証拠基盤)
- 慎重: メトホルミン(組織胎盤通過率低く、使用実績あり;医師相談)
- 禁忌: GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬、SU薬、チアゾリジン薬
- 産科医と内分泌科医の連携: 妊娠糖尿病から2型への進行も念頭に
肥満(BMI ≥30)
- 優先: GLP-1受容体作動薬(体重減少)、SGLT2阻害薬
- 回避: SU薬(体重増加)、チアゾリジン薬(体重増加)
- 補助: 生活指導(食事療法・運動療法の強化)が不可欠
併用療法・順序
単剤失効時の追加戦略(段階的治療)
段階1: メトホルミン 1500~2000 mg/日
↓ (3ヶ月でHbA1c目標未達の場合)
段階2: メトホルミン + いずれか1剤を追加
- SGLT2阻害薬(特に心不全・CKD合併)
- GLP-1受容体作動薬(HbA1c低下幅が大きく、体重減少希望時)
- DPP-4阻害薬(低血糖リスク低く、高齢者向け)
↓ (さらに3ヶ月でHbA1c目標未達の場合)
段階3: メトホルミン + 2剤併用
- メトホルミン + GLP-1受容体作動薬 + SGLT2阻害薬
- メトホルミン + DPP-4阻害薬 + GLP-1受容体作動薬
↓ (重症または急速進行例)
段階4: インスリン導入
- 基礎インスリン(夜間1回注射)追加
- 必要に応じて強化インスリン療法(複数回注射)
薬剤切替戦略
SU薬からの切替: 低血糖リスク軽減のため、SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬に切替を優先
チアゾリジン薬からの切替: 体重増加・浮腫があれば、GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬へ
非薬物療法
生活指導の柱
-
食事療法
- 総エネルギー摂取量:体重(kg) × 25~30 kcal/日が目安
- 糖質(炭水化物):全エネルギーの50~60%
- 食物繊維:20 g/日以上
- 塩分:<6 g/日
- 定期的な栄養士による面談推奨
-
運動療法
- 有酸素運動:週3日以上、1回30分程度(中等度)
- 抵抗運動(筋トレ):週2~3日
- 日常生活活動の増加(歩数10,000歩/日が目標)
-
体重管理
- 肥満患者:5~10%の体重減少でインスリン感受性向上
-
禁煙・節酒
- 喫煙は心血管合併症リスク↑
- 飲酒:1日エタノール20~25 g未満
手術的治療
- 肥満外科手術(減量手術): BMI ≥35 かつ標準的治療で効果不十分な場合、検討対象
- 胃バイパス術、袖状胃切除術など
- 術後のインスリン感受性改善が期待できる
- 栄養欠乏リスク管理が必須
治療の位置付け
薬物治療は非薬物療法の補助であり、生活指導なくして薬物単独での長期管理は困難です。初期診断時から3ヶ月を最低として食事・運動介入を実施し、その後の薬物追加を決定するべきです。
参考文献・ガイドライン
日本の主要ガイドライン
-
日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン 2023年版』
- 第一選択薬、段階的治療の根拠
- 患者背景別治療アルゴリズム
-
日本循環器学会/日本糖尿病学会『糖尿病と心血管疾患』ガイドライン
- SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の心保護効果
-
日本腎臓学会『CKD診療ガイドライン 2023年版』
- 腎機能別の薬剤選択
- SGLT2阻害薬の腎保護メカニズム
国際ガイドライン(参考)
- ADA(アメリカ糖尿病学会)『Standards of Medical Care in Diabetes 2023』
- EASD(ヨーロッパ糖尿病学会)ガイドライン
PMDA添付文書(主要薬)
- メトホルミン: https://www.pmda.go.jp/ (個別製品検索)
- ダパグリフロジン(フォルシーガ®): PMDA医医品データベース参照
- シタグリプチン(ジャヌビア®): PMDA医医品データベース参照
- インスリン製剤: 各製造企業の添付文書参照
免責事項
本稿は薬学的・学術的情報提供を目的としており、診断・治療判断は医療従事者の責任です。個別患者への薬剤選択・用量決定は必ず医師・歯科医師の指示に従ってください。本稿に基づく医療行為による損害について、著者は一切責任を負いません。
監修: 薬剤師(博士(薬学))