【てんかん】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

てんかんは、大脳皮質ニューロンの過剰興奮に由来する反復性の発作を特徴とする神経疾患です。一般人口の約0.5〜1%が罹患し、小児期と高齢期に発症ピークがあります。治療の目標は「発作のない生活」と「副作用最小化」の両立です。薬物治療では抗てんかん薬(AED)による単剤療法の継続を原則とし、第一選択薬はレベチラセタム、ラモトリギン、カルバマゼピン、ラコサミドなど患者の発作型・年齢・併存疾患で決定されます。約70%の患者は単剤で寛解に至りますが、難治例では複数薬の併用や非薬物療法(手術、迷走神経刺激)が検討されます。


治療の基本方針

第一選択薬の位置付け

日本てんかん学会ガイドラインでは、新規診断てんかんに対する第一選択薬として以下の3剤が推奨されます:

  • レベチラセタム:汎用性が高く、薬物相互作用が少なく、妊娠中の使用経験も比較的豊富
  • ラモトリギン:特に女性の生殖年齢層で有用(ホルモン避妊薬との相互作用は限定的)
  • カルバマゼピン:従来の第一線薬で、特に部分発作に高い有効性

第二選択・追加選択肢

単剤療法で発作制御が不十分な場合(難治例)は、同じ機序の薬物を避け、異なる作用機序の第二選択薬を追加または切替します:

  • バルプロ酸ナトリウム(広スペクトラム、強力だが奇形リスク)
  • ゾニサミド(日本発症の薬、多くの発作型に有効)
  • ラコサミド(特に部分発作、電解質異常に注意)
  • ペランパネル(AMPA受容体拮抗薬、新規機序)
  • ルフィナミド、トピラマート(特殊な発作型)

重症度別戦略

重症度区分 対応方針
初発作/軽症 単一薬から開始、8〜12週で効果判定
中等症 第一選択薬の最適用量維持、14日後に効果判定
難治性(2剤失敗) 第二世代AED複数の併用、神経外科紹介検討
重積状態 静注ベンゾジアゼピン+フェニトイン/フォスフェニトイン、ICU管理

薬効群別一覧(6群)

1. レベチラセタム(Levetiracetam)

項目 内容
代表薬 レベチラセタム / イーケプラ
機序 脳脊髄液タンパク質SV2A(シナプス小胞タンパク)への結合、神経伝達物質放出を抑制
適応位置付け 第一選択薬。汎用性最高、全発作型に有効
用量 初期500mg/日10mg/kg/日(分2)まで漸増
主な副作用 行動変化、抑うつ、眠気、協調不全、かゆみ疹
禁忌 重度腎機能障害(eGFR<30)、血液透析中
特記事項 薬物相互作用少ない、肝臓代謝を受けない、妊娠分類C

薬剤師コメント
腎排泄主体のため腎機能モニタリング必須。行動変化は用量依存的で、若年患者で注意が必要です。


2. バルプロ酸ナトリウム(Sodium Valproate)

項目 内容
代表薬 バルプロ酸ナトリウム / デパケン、セレニア(持続放出剤)
機序 GABAの代謝抑制、HDACs阻害によるクロマチン変動、複数の機序を有する
適応位置付け 第二選択薬。全発作型に有効だが、催奇形性リスクあり
用量 初期200〜400mg/日→400〜1200mg/日(分2〜3)
主な副作用 肝機能障害、膵炎、血小板減少、体重増加、脱毛、振戦
禁忌 妊娠可能女性(特に第一三半期)、肝疾患既往、有機アシデミア
特記事項 奇形リスク3〜5倍、妊娠中は最後の手段。血清濃度モニタリング有用

薬剤師コメント
女性への処方は避妊指導の文書化、葉酸補給が必須。肝酵素誘導作用があり、併用薬の効果を低下させるリスクあり。


3. カルバマゼピン(Carbamazepine)

項目 内容
代表薬 カルバマゼピン / テグレトール、コンビタン(徐放)
機序 ナトリウムチャネル遮断、不活性化延長による過剰興奮抑制
適応位置付け 第一選択薬。部分発作・二次全般化に特に有効
用量 初期200mg/日→400〜1200mg/日(分2〜3)
主な副作用 スティーブン・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症(約1/1000)、眠気、運動協調障害
禁忌 HLA-B*1502陽性(アジア系)、房室ブロック、骨髄抑制
特記事項 自己誘導作用により時間とともに血清濃度低下、妊娠分類D

薬剤師コメント
東アジア系患者はHLA検査推奨。開始時2週間で皮膚症状の監視が重要。自己誘導で他剤(経口避妊薬など)の効果低下に注意。


4. ラモトリギン(Lamotrigine)

項目 内容
代表薬 ラモトリギン / ラミクタール
機序 ナトリウム・カルシウムチャネル遮断、グルタミン酸放出抑制
適応位置付け 第一選択薬。特に女性(妊娠計画・避妊併用患者)に推奨
用量 初期25mg/日(バルプロ酸併用時)→25〜100mg/日(分2)
主な副作用 皮疹(3〜8%)、複視、運動失調、頭痛
禁忌 重度皮膚障害既往、急速滴定
特記事項 緩徐滴定が原則(皮疹リスク低減)、バルプロ酸併用で半減期2倍

薬剤師コメント
皮疹は滴定速度と用量依存。緩徐滴定スケジュール遵守が副作用最小化の鍵。女性患者では排卵周期による血清濃度変動を把握すると制御向上。


5. ゾニサミド(Zonisamide)

項目 内容
代表薬 ゾニサミド / エクセグラン
機序 ナトリウム・カルシウムチャネル遮断、炭酸脱水酵素阻害、GABA放出増加(複合機序)
適応位置付け 第二選択薬。部分発作・全般発作に広い適応
用量 初期50mg/日→100〜300mg/日(分1〜2)
主な副作用 無汗症、低体温、認知障害、体重減少、腎結石(1%未満)
禁忌 磺胺アレルギー既往、重度腎機能障害、無汗症の既往
特記事項 日本発症の薬、長い半減期(約60h)で1日1回投与可能

薬剤師コメント
夏場や高温環境での無汗症に注意。汗をかきにくいため、熱中症リスク。腎結石予防のため水分摂取多めを指導。


6. ラコサミド(Lacosamide)

項目 内容
代表薬 ラコサミド / ビムパット(タブレット・シロップ・IV製剤)
機序 電位依存性ナトリウムチャネルのスロー・イナクティベーション安定化
適応位置付け 第二選択薬。部分発作・二次全般化に特に有効
用量 初期100mg/日→300〜400mg/日(分2)
主な副作用 PR間隔延長、房室ブロック、複視、運動協調障害、注射部位反応
禁忌 重度の伝導障害、シックサイン症候群
特記事項 静注製剤あり(急速開始可能)、ECG定期監視推奨

薬剤師コメント
心伝導系への影響に注意。特に高齢患者や併用薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬)がある場合、ECGベースライン取得が必須。


選択のポイント:患者背景別使い分け

高齢患者(65歳以上)

背景 推奨薬 回避理由
認知機能正常 レベチラセタム(行動変化注視)、ラモトリギン バルプロ酸(振戦・認知障害)、カルバマゼピン(自己誘導で他剤相互作用)
軽度認知障害 ラモトリギン(低用量開始)、ゾニサミド レベチラセタム(行動変化リスク)
複数合併症 レベチラセタム(相互作用少)、ラコサミド(独立代謝) バルプロ酸(肝代謝)、カルバマゼピン(複雑な相互作用)

腎機能障害

eGFR範囲 推奨薬・調整 禁止薬
30〜60 レベチラセタム(50%減量)、ラモトリギン(標準)、ゾニサミド(50%減量)
<30 ラモトリギン(標準)、ラコサミド(標準) レベチラセタム、ゾニサミド、バルプロ酸
透析患者 ラモトリギン、ラコサミド レベチラセタム(透析後追加投与要)、ゾニサミド

妊娠・授乳期

時期 推奨薬 相対禁止・慎重 理由
妊娠計画 ラモトリギン、ラコサミド(小児データ限定) バルプロ酸、カルバマゼピン 催奇形性リスク(特にバルプロ酸20-30%)
妊娠中 ラモトリギン継続(血清濃度↑)、レベチラセタム バルプロ酸は最後の手段、カルバマゼピン(三つ組奇形リスク)
授乳 レベチラセタム、ラモトリギン(乳汁移行低)、ゾニサミド バルプロ酸、カルバマゼピン バルプロ酸は乳汁中濃度が血清の10-40%

薬剤師コメント
妊娠中のラモトリギンは血清濃度低下(妊娠因子によるクリアランス増加)のため、月1回の濃度モニタリング推奨。出産後は速やかに減量必要。

肝機能障害

Child-Pugh分類 推奨薬 回避薬
A(軽度) 標準用量で開始、濃度モニタリング
B(中等度) レベチラセタム(標準、肝代謝なし)、ラモトリギン(50%減量) バルプロ酸、カルバマゼピン
C(重度) ラモトリギン(25%のみ)、レベチラセタム 全ての薬剤が相対禁止

併存疾患別

双極性障害

  • 推奨:バルプロ酸(気分安定化作用)、ラモトリギン(うつ状態にも有効)
  • 回避:ペランパネル(攻撃性増加報告)、レベチラセタム(行動変化)

心伝導障害

  • 推奨:レベチラセタム、ラモトリギン
  • 回避:ラコサミド(PR延長)、カルバマゼピン(房室ブロック)

骨粗鬆症

  • 推奨:ラモトリギン(骨代謝への影響少)
  • 回避:カルバマゼピン、フェニトイン(ビタミンD代謝亢進→低カルシウム血症)、バルプロ酸(骨代謝障害)

併用療法・順序(単剤失効時の戦略)

1次失敗時(単剤2週間後に発作継続)

切替スケジュール(相乗効果+毒性軽減)

Week 0-2: 第一選択薬A(標準用量)
→ 発作あり

Week 2-4: 薬A漸減開始、薬A 50%に
         薬B(異なる機序)開始・漸増開始

Week 4-6: 薬A中止、薬B最適用量へ

判定: Week 6-8 効果判定

機序別の合理的切替例

  • カルバマゼピン失敗 → ラモトリギンまたはレベチラセタム(Na/Caチャネル + 異機序)
  • レベチラセタム失敗 → ラモトリギン(SV2A阻害以外の機序)
  • ラモトリギン失敗 → ゾニサミドまたはラコサミド

2次失敗時(2剤失敗=難治性てんかん)

併用療法への移行(Add-on strategy)

  1. 基礎薬(第一選択薬)継続第二剤追加

  2. 推奨併用パターン

    • カルバマゼピン + レベチラセタム
    • ラモトリギン + ゾニサミド
    • レベチラセタム + ラコサミド
    • バルプロ酸 + ラモトリギン(相互作用少)
  3. 避けるべき併用

    • カルバマゼピン + フェノバルビタール(両者自己誘導、濃度予測困難)
    • バルプロ酸 + フェノバルビタール(相互作用複雑)

3次失敗時(3剤以上失敗)

神経外科紹介基準:焦点性発作で画像上病巣同定可能例は手術候補


非薬物療法

生活指導・環境管理

項目 推奨内容
睡眠衛生 毎夜7〜8時間、一定時間の入眠・起床。不規則は発作誘発。不眠時はAED用量確認を
飲酒 禁止。アルコールはAED濃度↓、脳興奮性↑で多重リスク
ストレス管理 瞑想、運動、認知行動療法(認知型発作に有効)
光刺激回避 光感受性てんかんではフリッカー回避(TV/ゲーム制限)
月経周期 女性は周期と発作パターンの記録。ホルモン避妊薬+AEDの相互作用確認
運転 1年以上発作なし、医師の許可後に免許申請

食事療法

ケトン食(Ketogenic Diet)

  • 適応:難治性小児てんかん、特に空腹時発作型
  • 機序:ケトン体→GABA↑、グルタミン酸↓
  • 実施:脂肪:タンパク・炭水化物 = 4:1(栄養士指導下)
  • 効果:50%の患者で50%以上の発作減少

中鎖脂肪酸食(MCT Oil)

  • ケトン食より食べやすい、コンプライアンス向上
  • 小児対象、成人データ限定

運動・リハビリテーション

  • 有酸素運動:週3日、30分程度の軽有酸素運動で発作頻度↓(非薬物エビデンス)
  • 認知リハビリ:難治例での認知機能低下に対する言語聴覚療法

手術的治療

適応基準

  1. 焦点性発作で明確な病巣(MRI/SPECT)
  2. 2剤以上のAED失敗(難治性定義)
  3. 病巣の機能領域外(言語中枢・一次運動野回避)
  4. 患者年齢と認知機能で手術耐容性あり

主な手術法

  • 焦点切除術:海馬硬化症→側頭葉内側切除
  • 大脳半球離断術:Rasmussen脳炎など
  • 脳梁離断術:強直間代発作の強度↓(根治ではない)

効果

  • 焦点切除後の発作寛解率:60〜80%

迷走神経刺激(VNS)

  • 適応:難治性焦点性発作で手術非適応例
  • 機序:迷走神経(CN X)刺激→脳幹網様体→抑制性回路活性化
  • 効果:30〜50%の患者で50%以上の発作減少(完全寛解は15%未満)
  • 施術:胸壁下に刺激装置埋め込み、外部磁石で調整

参考文献・ガイドライン

日本のガイドライン

  1. 日本てんかん学会. 「てんかん診療ガイドライン 2021」. 日本てんかん学会ウェブサイト
    https://www.jes.or.jp/

  2. 日本神経学会. 「てんかんの管理と治療のガイドライン」(推奨度・根拠水準付き)
    https://www.neurology.or.jp/

PMDA添付文書

国際ガイドライン参照

  1. American Academy of Neurology. "Practice Guideline Update" (2021)

  2. European League Against Epilepsy. "EUTOS NG-RES Criteria"


免責事項

本記事は薬学教育・情報提供を目的とした一般向け資料です。医学的診断・治療判断は医師の専権事項であり、本記事の内容は医師の診察・処方に代わるものではありません。患者は必ず主治医・薬剤師に相談してください。記載の用量・副作用は代表的な例であり、個別患者への適用は医師判断により異なります。


監修:薬剤師(博士(薬学))
本記事は2026年7月時点の公式ガイドライン・PMDA承認情報に基づいています。最新情報は各学会・PMDA公式サイトでご確認ください。

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