【高血圧】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

高血圧は、動脈の血圧が慢性的に高い状態であり、脳卒中、心筋梗塞、慢性腎臓病などの重篤な心血管疾患へ進展する主要なリスク因子です。日本の高血圧治療ガイドラインでは、140/90 mmHg以上を高血圧と定義しています。薬物治療は生活習慣改善を基盤としながら、降圧薬を段階的に導入します。第一選択薬はARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、サイアザイド利尿薬の4薬効群であり、患者背景に応じて単剤から複合療法へ移行します。

治療の基本方針

診断と初期評価

高血圧の診断・重症度分類は医師の役務であり、薬剤師は処方箋・患者背景から適切な薬学的支援を提供します。一般には診察室血圧が140/90 mmHg以上、または家庭血圧が135/85 mmHg以上で高血圧と判定されます。

第一選択薬の位置付け

日本の高血圧治療ガイドライン(2019年版)では、初期治療に推奨される第一選択薬群は以下の4つです:

  1. ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
  2. ACE阻害薬
  3. カルシウム拮抗薬
  4. サイアザイド系利尿薬

これらは降圧効果が確立されており、心血管イベント抑制エビデンスが豊富です。初期段階では患者の臓器障害有無、腎機能、併存疾患を考慮して選択します。

治療戦略

段階1(軽度高血圧、140〜159/90〜99 mmHg):生活習慣改善を3〜6ヶ月継続し、改善なければ第一選択薬の単剤投与を開始します。

段階2(中等度〜高度高血圧、≥160/100 mmHg):生活習慣改善と同時に、薬物治療を初めから導入します。多くの場合、目標血圧130/80 mmHg未満(年齢・合併症により調整)を目指します。

段階3(単剤失効時):作用機序の異なる第一選択薬を追加し、2剤併用へ移行します。例えば、ARB+カルシウム拮抗薬、またはARB+サイアザイド利尿薬などの組み合わせが推奨されます。

段階4(3剤以上必要な場合):難治性高血圧の可能性を検討し、継発性高血圧の精査や薬物相互作用・服薬アドヒアランスの確認が必須です。

薬効群別の一覧

1. ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) ロサルタン/アバプロ、バルサルタン/ディオバン、オルメサルタン/オルメテック、カンデサルタン/ブロプレス、イルベサルタン/アバプロ、テルミサルタン/ミカルディス、アジルサルタン/エカード
機序の要約 アンジオテンシンⅡ受容体(AT1受容体)をブロック。血管拡張とアルドステロン分泌抑制により降圧。レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系(RAAS)を抑制
適応の位置付け 第一選択薬。高血圧全般、特に糖尿病患者、慢性腎臓病、心不全、左室肥大を伴う患者に優先度が高い
主な副作用と禁忌 高カリウム血症、血清クレアチニン上昇(特に腎機能低下時)、咳(少ないがACE阻害薬より頻度低)、血管浮腫(稀)。禁忌:妊娠(第2・3三半期)、両側腎動脈狭窄

2. ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) エナラプリル/レニベース、リシノプリル/ロンゲス、ペリンドプリル/コバシル、テモカプリル/アセタノール、キナプリル/アッシュ、フォシノプリル/スタプリル
機序の要約 アンジオテンシン変換酵素を阻害。アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を抑制。ARBと同様にRAAS抑制
適応の位置付け 第一選択薬。特に心筋梗塞後、心不全、糖尿病性腎症患者に適応あり。ARBとの交換性あり
主な副作用と禁忌 空咳(10〜15%程度)、高カリウム血症、血清クレアチニン上昇、血管浮腫(0.1〜0.2%)。禁忌:妊娠、両側腎動脈狭窄。咳が主な理由でARBへの切替が多い

3. カルシウム拮抗薬

ジヒドロピリジン系

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) アムロジピン/ノルバスク、ニフェジピン(徐放性)/アダラート CR・LA、ニカルジピン/ペルジピン、フェロジピン/スプレンディル、マニジピン/カルスロット、シルニジピン/アテノーム
機序の要約 Lカルシウムチャネルをブロック。血管平滑筋の脱分極を抑制、血管拡張により降圧。心筋収縮性への影響は少ない
適応の位置付け 第一選択薬。降圧効果が強く、腎機能低下患者でも安全。狭心症合併時にも有効。高齢者に好適
主な副作用と禁忌 頭痛、顔面紅潮、足首浮腫(血管性)、反射性頻脈(短時間作用型)。禁忌:房室ブロック(非ジヒドロピリジン系と混同しないこと)、重篤な洞機能不全

ベンゾジアゼピン系(非ジヒドロピリジン系)

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) ベラパミル/ワソラン、ジルチアゼム/ヘルベッサー
機序の要約 Lカルシウムチャネルをブロック(ジヒドロピリジン系より心筋・房室結節に選択的)。房室伝導を遅延
適応の位置付け 第二選択的。特に頻脈を伴う高血圧、または心房細動合併時に有用。単独使用より他剤との併用が多い
主な副作用と禁忌 徐脈、房室ブロック、便秘(ベラパミル)、心不全悪化。禁忌:高度の徐脈、房室ブロック、心不全患者

4. サイアザイド系利尿薬

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) ヒドロクロロチアジド/フルイトラン、クロルタリドン/ハイグロトン、インダパミド(非チアジド系但し同等作用)/ナトリックス
機序の要約 遠位尿細管の塩化物共輸送体(NaCl cotransporter)をブロック。ナトリウム排泄増加→体液量減少→降圧。軽度の利尿作用と直接血管拡張作用も関与
適応の位置付け 第一選択薬。特に単独世帯高齢者、体液過剰状態、心不全合併時に有効。ただし代謝系副作用(高血糖、高尿酸血症)に留意
主な副作用と禁忌 低カリウム血症、高尿酸血症(痛風発作誘発)、高血糖(糖尿病悪化)、性的機能障害。禁忌:痛風既往、重篤な電解質異常。糖尿病患者では慎重投与

5. β遮断薬

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) アテノロール/テノーミン、プロプラノロール/インデラル、メトプロロール/ロプレッソール、ビソプロロール/メインテート、カルベジロール/アーチスト、ラベタロール/トランデート(α・β遮断薬)
機序の要約 β1受容体(心臓)およびβ2受容体(血管・気管支)をブロック。心拍出量低下と周辺血管抵抗増加により降圧。交感神経活動抑制
適応の位置付け 第一選択ではなく、第二選択的。心筋梗塞既往、狭心症、心不全(カルベジロール等の選択的β遮断薬)、頻脈、甲状腺機能亢進症に有用
主な副作用と禁忌 徐脈、疲労感、抑うつ症状、性的機能障害、脂質代謝異常。禁忌:喘息・COPD、高度な徐脈、房室ブロック。糖尿病患者では低血糖警告症状がマスクされる可能性

6. α遮断薬

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) ドキサゾシン/カルデナリン、テラゾシン/ハイトラシン、ブナゾシン/デタントール
機序の要約 α1受容体をブロック。血管平滑筋の収縮を抑制→血管拡張→降圧。前立腺平滑筋も弛緩(前立腺肥大症改善)
適応の位置付け 第二選択薬。第一選択薬の追加療法に用いる。特に前立腺肥大症を伴う高血圧男性に適応
主な副作用と禁忌 起立性低血圧、めまい、疲労感、頻脈、心悸亢進。禁忌:重篤な起立性低血圧の既往。初回投与時や増量時は一過性の血圧低下に注意

7. 中枢作用性降圧薬

項目 内容
代表薬(一般名/商品名) メチルドパ/アルドメット、クロニジン/カタプレス
機序の要約 中枢神経のα2受容体アゴニスト。交感神経活動を抑制→末梢血管抵抗低下→降圧
適応の位置付け 第三選択薬。難治性高血圧、または他剤が禁忌/不耐容の場合に限定。妊娠高血圧症候群ではメチルドパが伝統的に使用
主な副作用と禁忌 眠気、口渇、徐脈、抑うつ症状、クロニジン中止後の反跳性高血圧。禁忌:抑うつ症状既往、徐脈。急な中止は危険

選択のポイント:患者背景別使い分け

高齢者(≥65歳)

第一選択:ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ARB

  • 腎機能低下があってもカルシウム拮抗薬とARBの用量調整は軽微
  • サイアザイド低用量併用も良好な選択肢

避けるべき薬:β遮断薬(除外適応がない限り)、中枢作用性降圧薬

  • β遮断薬は転倒リスク、認知機能低下の懸念
  • 中枢作用薬は薬物相互作用と認知機能への影響

腎機能低下患者(eGFR < 60 mL/min/1.73m²)

第一選択:ARB、ACE阻害薬(腎保護効果)、カルシウム拮抗薬

  • ARB/ACE阻害薬は糖尿病性腎症進行を遅延
  • 血清クレアチニン軽度上昇(20〜30%)は許容範囲

慎重投与:サイアザイド利尿薬(eGFR<30では効果減弱)、高カリウム血症リスク時のARB/ACE併用

禁忌:両側腎動脈狭窄合併時のARB/ACE阻害薬単独

糖尿病患者

第一選択:ARB、ACE阻害薬

  • 腎症進行抑制、アルブミン尿低減エビデンスあり
  • 目標血圧:130/80 mmHg未満推奨

第二選択:カルシウム拮抗薬

避けるべき薬:利尿薬単独(血糖コントロール悪化、高尿酸血症誘発)、ただし他剤と併用の低用量は可

心不全患者

第一選択:ACE阻害薬、ARB(収縮期不全)、カルベジロール等の心選択的β遮断薬

追加療法:アルドステロン受容体拮抗薬(スピロノラクトン等、但し主要薬効群外)と併用

禁忌:非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(左室機能悪化リスク)

妊娠・授乳中

第一選択:メチルドパ(妊娠中の伝統的第一選択)、ラベタロール(第2・3三半期)

第二選択:非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)

禁忌:ARB、ACE阻害薬(奇形、胎児・新生児腎機能障害)、サイアザイド(胎児への電解質異常)、β遮団薬(胎児徐脈、低血糖)

喘息・COPD患者

第一選択:ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、α遮断薬

禁忌:β遮断薬(気道収縮、喘息発作誘発)、ただし心筋梗塞既往など絶対適応がある場合は心選択的β遮断薬の最小用量使用を検討

痛風・高尿酸血症患者

第一選択:ARB(特にロサルタン)、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬

避けるべき薬:サイアザイド利尿薬(尿酸排泄低下、痛風誘発)

併用療法・順序

単剤失効時の追加戦略

  1. 診断評価の再確認

    • 服薬アドヒアランスの確認(特に1日複数回投与例)
    • 二次性高血圧(腎動脈狭窄、褐色細胞腫等)の精査
    • 白衣現象・仮面高血圧の鑑別
  2. 2剤併用の推奨組み合わせ

    初期薬 追加薬 相乗効果・コメント
    ARB 利尿薬(サイアザイド) 降圧相乗、ARB/利尿薬配合製剤あり
    ARB カルシウム拮抗薬 相乗効果、耐薬性低い、配合製剤あり
    ACE阻害薬 カルシウム拮抗薬 心保護効果増強、配合製剤あり
    カルシウム拮抗薬 サイアザイド 相乗効果、電解質異常チェック必要
    β遮断薬 利尿薬 β1作用+降圧、但し糖代謝注意
  3. 3剤以上併用時

    • 難治性高血圧の定義:3剤以上で目標未達
    • スクリーニング検査:腎動脈狭窄(CT/MR血管造影)、原発性アルドステロン症(ARB/ACE+利尿薬でも高血圧)、睡眠時無呼吸症候群
    • 第4選択薬の追加:アルドステロン受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)

切替戦略

ACE阻害薬→ARB

  • 理由:ACE阻害薬の咳が問題の場合
  • 切替方法:同時作用の異なる薬への直接切替可(washout不要)

短時間作用型ニフェジピン→徐放型

  • 理由:頭痛・顔面紅潮軽減、服薬回数削減
  • 切替方法:累積作用なし、直接切替可

β遮断薬→他の降圧薬へ

  • 理由:疲労、勃起不全等の有害事象
  • 切替方法:急な中止は反跳性高血圧リスク→2〜4週間かけて漸減し、並行して代替薬を導入

非薬物療法

生活習慣改善(全患者に推奨)

  1. 食塩制限

    • 目標:1日6g未満(高血圧既存者は3〜6g)
    • 機序:ナトリウム制限で体液量低下→血圧低下
    • 実践:加工食品・外食の減少、調味料使用抑制
  2. 体重減量

    • 目標:BMI 25未満
    • エビデンス:1kg減量で約1 mmHg低下
    • 特に肥満(BMI≥30)患者で降圧効果顕著
  3. 運動

    • 推奨:有酸素運動150分/週以上(中等度強度)
    • 例:ウォーキング、水中運動
    • 効果:3〜5 mmHg低下
  4. 飲酒制限

    • 目標:男性20〜30mL/日(純アルコール)、女性10〜20mL/日未満
    • 機序:過量飲酒は交感神経亢進、血圧上昇
  5. ストレス軽減・睡眠改善

    • 瞑想、ヨガ、認知行動療法
    • 睡眠時間7〜8時間/日確保

食事(DASH食推奨)

  • 野菜・果実・全粒穀類・低脂肪乳製品・魚類豊富
  • 飽和脂肪酸・砂糖制限
  • カリウム(野菜・果実)、マグネシウム(ナッツ・穀類)、食物繊維摂取

手術・デバイス介入(薬物治療失効時)

  • 腎交感神経焼灼術(Renal Denervation):難治性高血圧に対する低侵襲治療、但し日本では限定的保険適用
  • バロレフレックス激活療法:頸動脈圧受容体刺激デバイス(同上、限定的)

参考文献

日本のガイドライン

  1. 日本高血圧学会編『高血圧治療ガイドライン2019』(JSH 2019)

  2. 日本腎臓学会『CKD診療ガイド2018』

  3. 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2023』

    • 内容:糖尿病患者における降圧薬戦略(ARB優先等)

主要医薬品情報

国際ガイドライン(参考)

  • ESC/ESH 高血圧ガイドライン(2021)
  • ACC/AHA 高血圧ガイドライン(2017改訂版)

免責事項

本記事は薬学的知識提供を目的とした情報であり、診断・医学的判断・治療方針決定は医師の専権事項です。患者個別の治療薬選択、用

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