【月経痛(生理痛)】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

月経痛(生理痛)は月経に伴う下腹部痛・腰痛・頭痛などの症状であり、多くの場合はプロスタグランジン(PG)の過剰産生に由来する一次性月経困難症です。薬物治療は症状の強度に応じ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が第一選択となります。軽症はアセトアミノフェン、中等度以上はイブプロフェンやナプロキセンなどのNSAIDsで対応し、月経が規則的でない場合や症状が強い場合は低用量経口避妊薬の長期使用も検討されます。さらに漢方薬(当帰芍薬散など)も補助的役割を果たし、患者背景に応じた個別化治療が重要です。


治療の基本方針

重症度別治療戦略

月経痛の治療は症状の強度と患者の背景因子によって層別化されます。

軽症(日常生活への影響が限定的)

  • 第一選択: アセトアミノフェン400mg または 市販NSAIDs(イブプロフェン)の頓用
  • 対症療法: 温熱療法、運動、栄養管理の併用
  • 月経開始時から定期的服用は通常不要

中等症(日常生活に支障を来たす)

  • 第一選択: NSAIDs(イブプロフェン200400mg、ナプロキセンナトリウム220mg)の**月経開始予定日の12日前から定期内服**(予防的投与)
  • 月経期間中の継続内服が有効
  • 月経前症候群(PMS)を伴う場合はSSRI(セルトラリン等)の追加も考慮

重症(月経中の活動不可、医療機関への受診歴あり)

  • 第一選択: NSAIDs(高用量)の定期内服 + 低用量経口避妊薬(OCP)の長期使用
  • OCPは月経周期を規則化し、月経血量及びPG産生を抑制することで60~90%の症状軽減効果が期待できる
  • 3ヶ月以上の治療効果判定期間を要する
  • 必要に応じ漢方薬を補助療法として併用

初期対応の流れ

  1. 診断確認: 医師により器質的疾患(子宮内膜症・子宮筋腫・骨盤腔感染など)の除外
  2. 重症度評価: 月経困難症スコア(通常は医師が実施)による層別化
  3. 薬剤選択: 患者背景(年齢、妊娠希望、腎・肝機能、他剤との相互作用)を考慮
  4. 効果判定: 2~3周期の試行後、治療継続または変更を判断

薬効群別の一覧

1. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

項目 詳細
代表薬 イブプロフェン(200mg/錠)、ナプロキセンナトリウム(220mg/錠)、メフェナム酸(250mg/錠)、イナプシン(アセトアミノフェン + イブプロフェン配合)
作用機序 シクロオキシゲナーゼ(COX-1/2)阻害によるプロスタグランジン合成抑制 → 子宮平滑筋収縮及び炎症軽減
適応の位置付け 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会ガイドラインで推奨度A → 第一選択薬
投与法(推奨) 月経開始12日前から開始し、月経期間中は定期内服(1日23回、食事後)。必要に応じ月経終了まで継続
主な副作用 胃部不快感、消化性潰瘍(長期使用時)、アレルギー反応(稀)
禁忌・慎重投与 アスピリン喘息、活動性消化性潰瘍、重篤な肝・腎機能障害、妊娠後期(特に妊娠28週以降)
備考 短期(月経期間のみ)使用であれば胃潰瘍リスクは低い。市販医薬品としても入手可能

2. アセトアミノフェン

項目 詳細
代表薬 アセトアミノフェン(400~500mg/錠)、タイレノール(400mg)
作用機序 中枢神経のプロスタグランジン産生抑制、末梢での炎症物質産生抑制(機序は完全には解明されていない)
適応の位置付け 軽症月経痛、NSAIDs不耐容(消化器疾患既往など)患者の代替選択肢
投与法 頓用: 400~500mg 1回、1日最大1500mg以下。NSAIDs予防投与ほど有効性は高くない
主な副作用 肝機能障害(過量投与時)、皮膚反応(稀)
禁忌・慎重投与 肝硬変、アルコール多飲、妊娠第1・2三半期は安全性が確立(推奨)、第3三半期は相対的禁忌
備考 NSAIDsより効果は劣るが、消化器系耐性が良好。妊娠中(第1・2三半期)の使用が許容される数少ない選択肢

3. 低用量経口避妊薬(OCP)・ホルモン製剤

項目 詳細
代表薬 レボノルウェーストレル/エチニルエストラジオール(ルナベル、ヤーズなど)、ノルエチステロン/メストラノール(オーソ シリーズ)
作用機序 下垂体からのゴナドトロピン放出抑制 → 卵巣ホルモン分泌抑制 → 子宮内膜増殖抑制・月経血量低下・プロスタグランジン産生減少
適応の位置付け 中~重症月経困難症、月経周期不規則、月経前症候群併存、避妊希望患者
投与法 連続投与(通常21日間投与7日休薬)または拡張周期投与。3ヶ月以上継続で効果判定
主な副作用 血栓塞栓症(VTE:静脈血栓塞栓症、リスク1/3000~1/5000)、乳房圧痛、悪心、頭痛、不正出血
禁忌・絶対禁忌 喫煙女性(特に35歳以上)、偏頭痛+前兆、血栓性素因既往、長期不動化予定、深部静脈血栓症既往、脳卒中既往、心筋梗塞既往
備考 60~90%の月経困難症改善効果。避妊効果も同時に得られるため、避妊希望者に特に推奨。定期的な血栓症スクリーニング・血圧測定が必要

4. 漢方薬

項目 詳細
代表薬 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、温経湯(ウンケイトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
作用機序 当帰芍薬散: 補血・活血・利水による気血水の循環改善 / 温経湯: 温陽活血・寒を温める / 桂枝茯苓丸: 血液循環改善・瘀血除去
適応の位置付け NSAIDs不耐容、慢性的な冷え・疲労・月経不順を伴う月経痛。補助療法
投与法 顆粒剤: 1日2包(朝夕食前または食間)、通常2~4週間以上の継続で効果判定
主な副作用 消化器症状(腹部不快感、下痢)、アレルギー反応(稀)
禁忌・慎重投与 妊娠中(医師指導下)、腎機能障害(甘草含有の場合は偽アルドステロン症リスク)
備考 西洋医学的エビデンスはNSAIDsに劣るが、体質改善志向の患者や長期症状緩和に選択されることが多い。NSAIDs+漢方の併用も容認される

5. セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

項目 詳細
代表薬 セルトラリン(50100mg/日)、パロキセチン(2030mg/日)
作用機序 セロトニン再取り込み阻害による気分・痛覚閾値改善 → 月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)の関連症状軽減
適応の位置付け 月経困難症 + 月経前症候群(PMS)を併存する患者、特にうつ症状・不安症状が顕著な場合
投与法 連続投与または黄体期(月経14日前から月経開始まで)のみの周期投与。通常2~3周期で効果判定
主な副作用 初期の悪心、性機能障害、睡眠障害、体重増加(長期使用時)
禁忌・慎重投与 双極性障害(躁転リスク)、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬同時使用、セロトニン症候群リスク
備考 月経困難症単独には第一選択ではなく、PMSの関連症状がある場合に限定される。NSAIDs+SSRIの併用で相乗効果

6. 子宮弛緩薬(筋弛緩薬)

項目 詳細
代表薬 塩酸チザニジン(1~2mg/回)、アルファ2アドレナリン作動薬系
作用機序 α2アドレナリン受容体刺激による脊髄レベルでの抑制性神経活動増強 → 骨格筋弛緩・疼痛緩和
適応の位置付け NSAIDs不応性、特に腰痛・背部痛が顕著な月経困難症
投与法 月経中の頓用(通常12mg 1日12回)
主な副作用 眠気、口渇、低血圧、めまい
禁忌・慎重投与 肝機能障害、腎機能障害(クレアチニンクリアランス<25mL/min)、低血圧
備考 NSAIDsの補助療法として位置付けられることが多く、単独第一選択ではない

7. プロスタグランジン受容体拮抗薬

項目 詳細
代表薬 アスピリン低用量(血小板凝集抑制の独立効果)、オナプリストン(実験段階、日本ではまだ未承認)
作用機序 プロスタグランジンF2α(PGF2α)受容体FP阻害によるPG媒介性子宮収縮抑制
適応の位置付け 基礎研究・臨床試験段階。日本では実用化医薬品が限定的
投与法 —(未承認薬のため記載不適切)
主な副作用 —(臨床試験段階)
禁忌・慎重投与 —(臨床試験段階)
備考 将来の治療選択肢として期待されているが、現時点では基礎研究段階。NSAIDsの次世代型として注視

選択のポイント:患者背景別の使い分け

高齢患者(45歳以上、更年期以降)

  • 第一選択: 低用量OCP終了 → NSAIDs(短期間) + ホルモン補充療法(HRT)検討
  • 背景: 更年期症状との混在、卵巣機能低下による月経不規則化
  • 注意: NSAID長期使用による消化器負担リスク上昇。胃粘膜保護薬(プロトンポンプ阻害薬)の併用を考慮

腎機能低下患者(eGFR 30~60mL/min)

  • 第一選択: アセトアミノフェン(推奨)、市販NSAIDs(最小限の頓用)
  • 避けるべき: NSAIDs定期内服(腎血流低下リスク、急性腎損傷の可能性)
  • 相対禁忌: 低用量OCP(血栓形成リスク上昇と腎機能への複合リスク)

肝機能低下患者(AST/ALT > 100 U/L、プロトロンビン時間延長)

  • 第一選択: 漢方薬(当帰芍薬散)、アセトアミノフェン(減量・短期)
  • 避けるべき: NSAIDs(肝毒性・腸肝循環負荷)、低用量OCP(メタボリズム負荷)

妊娠希望患者

  • 月経困難症が重症の場合:
    1. NSAIDs(月経中のみの頓用)
    2. 妊娠予定月の3ヶ月前から中止 → 妊娠計画実行
  • 避けるべき: 低用量OCP(避妊効果と相反する意思)、セルトラリンなどのSSRI(妊娠初期の奇形リスク論争)
  • 推奨: 不妊治療の並行相談

消化器疾患既往者(消化性潰瘍、炎症性腸疾患IBD)

  • 第一選択: アセトアミノフェン、低用量OCP、漢方薬(当帰芍薬散)
  • 相対禁忌: NSAIDs全般(粘膜障害悪化リスク)
  • NSAIDs使用の場合: 胃粘膜保護薬(プロトンポンプ阻害薬:オメプラゾール20mg 1日1回)の必須併用

血栓症既往・血栓リスク患者(喫煙35歳以上など)

  • 第一選択: NSAIDs、アセトアミノフェン、漢方薬
  • 絶対禁忌: 低用量OCP(VTE再発リスク著増)
  • 代替案: 子宮内避妊器(IUD)への変更を医師と相談

併用療法・順序

単剤失効時の追加・切替戦略

ステップ1: 初期対応(軽~中等症)

NSAIDs(イブプロフェン200~400mg) × 月経2~3周期
    ↓
有効 → 継続
無効 → ステップ2へ

ステップ2: 強化療法(中~重症)

①NSAIDs(高用量) + 低用量OCP の併用開始(3ヶ月以上継続)
②NSAIDs + 当帰芍薬散 の漢方併用
③NSAIDs + セルトラリン(PMDS併存時のみ)
    ↓
有効 → 継続
無効 → ステップ3へ

ステップ3: 再評価(重症・器質的疾患の可能性)

医師により:
・MRI/超音波検査で子宮内膜症・子宮筋腫再精査
・低用量OCP継続vs中用量OCP変更
・ジエノゲスト(黄体ホルモン製剤)への変更検討
・子宮内膜症診断時は GnRHアゴニスト + add-back療法

併用注意パターン

併用組み合わせ リスク 対処
NSAIDs + 低用量OCP 相互作用なし、相乗効果あり 問題なし。むしろ推奨される併用
NSAIDs + セルトラリン セロトニン症候群(稀)、出血リスク微増 定期的な精神症状評価。出血徴候の説明
NSAIDs + 胃粘膜保護薬 相互作用なし 消化器既往者には必須。朝夕分けて投与
NSAIDs + 利尿薬 腎血流低下・電解質異常リスク 腎機能・電解質定期監視
低用量OCP + アスピリン低用量 出血リスク微増 医師との相談下で容認。月経血量増加なら中止

非薬物療法

生活指導・運動療法

温熱療法

  • 月経開始前から月経中の継続的な腹部温熱(湯たんぽ、温シップ)
  • 機序: 局所血流増加による疼痛物質(PG)の拡散促進
  • エビデンス: 軽~中等症で薬物療法と同等の効果報告あり

運動療法

  • 月経期間を除く時期の週3回以上、中程度の有酸素運動(ジョギング、ウォーキング、ヨガ)
  • 機序: β-エンドルフィン産生増加、月経周期全体の子宮血流改善
  • エビデンス: 3ヶ月継続で月経困難症スコア改善(日本産科婦人科学会推奨)

食事療法

  • オメガ3系多価不飽和脂肪酸(魚類、亜麻仁、ナッツ)の積極摂取
    • 機序: 炎症性プロスタグランジン産生抑制
  • 鉄分・ビタミンB群・マグネシウム充足(月経血液喪失に伴う貧血予防)
  • 月経中のカフェイン・アルコール制限(血流悪化・症状悪化の報告)

心理社会的介入

  • 月経困難症による学業・労働への支障を認識させ、医学的正当性を保証
  • 月経休暇(医学的根拠に基づく)の活用
  • 必要に応じ心理士・カウンセラーの紹介

検査・診断的介入

超音波検査(経腟・経腹)

  • 目的: 子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣嚢胞、先天奇形の検出
  • タイミング: 初診時、ないしは薬物療法3ヶ月無効時の再精査
  • 必要性: 器質的疾患の除外診断は薬物選択の必須ステップ

MRI検査

  • 適応: 超音波で確定診断困難、子宮内膜症の深部浸潤疑い時
  • 費用・被曝リスク考慮から初期選択検査ではない

手術的介干渉

腹腔鏡下子宮内膜症焼灼術

  • 適応: 薬物療法3ヶ月以上無効、器質的疾患(特に子宮内膜症)確定診断時
  • 位置付け: 薬物療法の補助的役割。単独解決策ではなく、術後も薬物療法継続が多い

子宮動脈塞栓術(UAE)

  • 適応: 子宮筋腫が月経困難症の主要因で、妊娠希望なし、手術拒否時(限定的)
  • 位置付け: 最後の手段。日本での実施施設は限定的

参考文献・ガイドライン

日本の主要ガイドライン

  1. 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会「月経困難症・月経前症候群・月経前不快気分障害の診断と治療」(2018年改訂版)

    • 推奨グレード: NSAIDs = A、低用量OCP = B、漢方薬 = C
    • URL: https://www.jsog.or.jp/ (学会公式サイト)
  2. 日本産科婦人科学会「子宮内膜症診療ガイドライン」(2021年版)

  3. 厚生労働省「医療用医薬品添付文書」データベース(PMDA)

国際ガイドライン

  1. American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG) Committee Opinion No. 760: Dysmenorrhea and Endometriosis in the Adolescent(2018)

    • NSAIDs第一選択、OCP併用の国際的推奨根拠
  2. **European Society of

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