【消化性潰瘍】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

消化性潰瘍は、胃酸と胃粘膜防御機構のバランスの破綻により、胃および十二指腸粘膜に生じる欠損性病変です。主な原因はヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)感染(60~70%)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用(20~30%)です。薬物治療は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)またはP-CAB(カリウム競合型酸ブロッカー)による胃酸分泌抑制が第一選択で、H.pylori陽性例には除菌療法を併用します。NSAID関連潰瘍ではNSAIDSの中止とPPI/P-CABによる治癒促進が原則です。

治療の基本方針

第一選択

H.pylori陽性の消化性潰瘍

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI) または P-CAB を用いた酸分泌抑制療法
  • H.pylori除菌療法の3者併用(PPI/P-CAB + アモキシシリン + クラリスロマイシンまたはメトロニダゾール)を実施
  • 除菌成功までの間、PPI/P-CABで症状緩和と潰瘍治癒を促進
  • 除菌成功確認後、維持療法は通常不要

NSAID関連の消化性潰瘍

  • NSAID中止が必須(継続は潰瘍再発の高リスク)
  • 中止できない場合はPPI/P-CABNSAIDの併用継続
  • プロスタグランジン製剤(ミソプロストール)の追加も検討

NSAID非使用・H.pylori陰性潰瘍(約5~10%)

  • PPI/P-CABによる酸分泌抑制を継続
  • Zollinger-Ellison症候群等の二次性潰瘍を除外

第二選択

  • H2受容体拮抗薬(H2RA):PPI/P-CABが禁忌・使用不可の場合、または高齢者で薬物相互作用が懸念される場合
  • ムスカリン受容体拮抗薬:現在は日本でほぼ使用されず

重症度別戦略

重症度 臨床特徴 推奨薬物療法
軽症 上腹部症状のみ、出血なし PPI/P-CAB標準量 + H.pylori除菌
中等症 軽度出血(Hb低下<2g/dL) PPI/P-CAB標準量 + 輸血検討 + 除菌
重症 大量出血(Hb低下>2g/dL)、穿孔兆候 高用量PPI(e.g.オメプラゾール40mg/日) + 内視鏡止血 + 手術準備

高用量・高頻度投与(1日2回以上)は穿孔や難治例に限定されます。


薬効群別一覧

1. プロトンポンプ阻害薬(PPI)

項目 内容
代表薬 オメプラゾール(オメプラール®)、ランソプラゾール(タケプロン®)、パントプラゾール(パリエット®)、エソメプラゾール(ネクシウム®)
機序 H+/K+-ATPase(プロトンポンプ)の不可逆的阻害、胃酸分泌を75~90%低下させる
適応の位置付け 第一選択:消化性潰瘍、H.pylori除菌補助、NSAID関連潰瘍予防・治療
用量・用法 通常20~40mg/日1回(朝食前)、難治例は40mg/日1~2回分割
主な副作用 便秘、下痢、頭痛、クロストリジウム・ディフィシル感染リスク、長期使用で骨密度低下・B12欠乏・低Mg血症
禁忌・注意 重篤な肝障害、妊娠中の使用は第一選択ではない(ただし必要に応じて使用可)

2. P-CAB(カリウム競合型酸ブロッカー)

項目 内容
代表薬 ボノプラザン(タケキャブ®)
機序 H+/K+-ATPaseのカリウム結合部位を競合的に阻害、PPIより速効性・強力(胃酸分泌90%以上低下)
適応の位置付け 第一選択に準ずる:消化性潰瘍、H.pylori除菌補助、PPI耐性例や難治例
用量・用法 通常20mg/日1回(朝食前)、必要に応じて40mg/日に増量可
主な副作用 下痢、便秘、頭痛、γ-GTP軽度上昇、PPI同様の長期使用リスク
禁忌・注意 PPI不応性・不耐性例では有効性が高い、妊娠中の安全性情報はPPIより限定的

3. H2受容体拮抗薬(H2RA)

項目 内容
代表薬 ファモチジン(ガスター®)、ラニチジン(※日本では販売中止)、ニザチジン(アシノン®)
機序 壁細胞のH2受容体に競合的に結合、ヒスタミン誘発の胃酸分泌を抑制(抑制率60~70%)
適応の位置付け 第二選択:PPI/P-CAB使用不可、高齢者、腎機能低下例
用量・用法 ファモチジン:20~40mg/日1~2回分割
主な副作用 頻度低い、稀に頭痛・下痢・肝酵素上昇、腎機能低下時に高い血中濃度
禁忌・注意 腎不全で用量調整が必須、PPI比で効果は弱い(現在は主流ではない)

4. H.pylori除菌療法レジメン

項目 内容
標準レジメン PPI(またはP-CAB) + アモキシシリン + クラリスロマイシン(3者併用、14日)
代替レジメン PPI + アモキシシリン + メトロニダゾール(クラリス耐性例)
機序 PPI/P-CABが胃内pH低下でアモキシシリン効果を高める、3剤の相乗作用でH.pyloriを根絶
除菌成功率 標準レジメン:90~95%、耐性株増加で低下傾向
主な副作用 下痢(30~40%)、味覚異常、肝酵素上昇、偽膜性大腸炎(稀)
禁忌・注意 ペニシリンアレルギーで要慎重、妊娠中の使用は医師判断

5. NSAID/アスピリン中止

項目 内容
対象 NSAID関連潰瘍の全症例
機序 NSAIDs中止で、プロスタグランジン産生が回復し粘膜血流・粘液分泌が改善
適応の位置付け 必須:NSAID関連潰瘍の治癒確認まで中止、継続は潰瘍再発率30~50%
代替薬 アセトアミノフェン、選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ)を検討(医師指示)
臨床上の課題 心血管疾患・痛風患者でのNSAID継続の必要性を医師と検討
PPI併用継続 NSAID継続が不可避な場合、PPI標準量以上をNSAID使用期間中継続

6. ムスカリン受容体拮抗薬

項目 内容
代表薬 ピレンゼピン(ガストロゼピン®)
機序 壁細胞のムスカリンM3受容体を拮抗、迷走神経経由の胃酸分泌を抑制
適応の位置付け ほぼ使用されない:PPI/P-CABの登場で役割縮小、特殊例のみ(単独では効果不十分)
用量・用法 1~2mg/日(分割投与)
主な副作用 口渇、散瞳、尿閉傾向、緑内障患者で禁忌
禁忌・注意 前立腺肥大症、緑内障、心タンポナーデ

7. 粘膜保護薬・制酸薬

項目 内容
代表薬 水酸化マグネシウム・水酸化アルミニウム配合制酸薬、スクラルファート(ウルサルファート®)
機序 制酸薬:酸中和、スクラルファート:潰瘍底に被膜形成+粘膜保護+プロスタグランジン産生促進
適応の位置付け 補助的:PPI/P-CABの効果不十分時、主に制酸薬は症状緩和目的
用量・用法 スクラルファート:1g×4回/日(食前・就寝前)、制酸薬は症状時
主な副作用 スクラルファート:便秘、アルミニウム吸収(慢性腎不全で蓄積);制酸薬:便秘・下痢は含有物に依存
禁忌・注意 スクラルファート:腎機能低下で長期使用は避ける、制酸薬の過量使用は電解質異常

選択のポイント:患者背景別の使い分け

高齢者(≥75歳)

  • 第一選択:PPI(オメプラゾール20mg/日)またはP-CAB(ボノプラザン20mg/日)
    • 薬物相互作用が少ない、腎排泄が少ないため用量調整不要
  • 注意点:長期PPI使用で低Mg血症・骨粗鬆症リスクが高い → 定期的にMg値・骨密度モニタリング
  • 腸内細菌叢への影響:高齢者で便秘・偽膜性大腸炎リスク増加 → 必要最小限の期間・用量に

腎機能低下患者(CKD Stage 3b以上、eGFR <45)

腎機能 PPI P-CAB H2RA 備考
Stage 3b(eGFR 30-44) 通常量 通常量 用量調整(-50%) PPIは腎排泄<1%のため影響小
Stage 4(eGFR 15-29) 通常量 通常量 用量調整(-75%) P-CAbも安全性高い
Stage 5(eGFR <15) 通常量 通常量 透析日に投与 スクラルファート:アルミニウム蓄積で避ける

推奨:腎機能低下ではPPI/P-CABが安全。H2RAは用量調整が複雑なため非推奨。

肝機能低下患者

  • 軽度肝障害(Child-Pugh A):PPI/P-CAB通常量
  • 中等度肝障害(Child-Pugh B):PPI/P-CAB用量半減(例:オメプラゾール10mg/日)、P-CAB20mg/日は安全性情報が限定的
  • 重度肝障害(Child-Pugh C):専門家相談、可能な限り避ける

妊娠・授乳中

薬剤 妊娠中 授乳中 備考
PPI Category C→相対的安全性高い(必要に応じて使用可) 安全(乳汁移行<1%) オメプラゾール・ランソプラゾール推奨
P-CAB 安全性情報限定的(控えるが禁忌でない) データ不十分 必要性が明確なら医師指示下で
H2RA Category B(最も安全) 安全 ファモチジン推奨
H.pylori除菌 妊娠中は除菌延期が標準(授乳後実施) 除菌中は授乳中止(最大14日) ペニシリンアレルギー確認必須

併存疾患

心血管疾患(MI既往・狭心症)

  • NSAID中止が望ましいが、必要な場合は高用量PPI(オメプラゾール40mg/日)と併用
  • 選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ)をNSAID代替として医師と検討
  • アスピリン低用量継続例:PPI/P-CABで潰瘍予防

感染症既往(Clostridioides difficile感染)

  • PPI長期使用の回避、必要最小限の期間・用量に
  • 代替案:H2RA(腎機能許容範囲)、スクラルファート(アルミニウム蓄積に注意)

骨粗鬆症

  • 長期PPI使用(>1年)で骨密度低下リスク増加
  • 可能なら治療期間を短縮(H.pylori除菌成功後は中止検討)
  • ビタミンD・カルシウムサプリメント併用を医師と相談

併用療法・順序:単剤失効時の追加・切替戦略

シナリオ1:H.pylori陽性潰瘍で標準レジメン失敗(除菌失敗)

  1. 第1選択:PPI(オメプラゾール40mg/日1回) + アモキシシリン + クラリスロマイシン(14日)
  2. 失敗時(4~8週後確認)
    • 第2選択レジメン:PPI(オメプラゾール20mg/日2回) + アモキシシリン + メトロニダゾール(14日)
  3. 再失敗時
    • 第3選択:P-CAB(ボノプラザン20mg/日) + アモキシシリン + メトロニダゾール、または専門家紹介(多剤耐性株の可能性)

シナリオ2:NSAID関連潰瘍が治癒遅延

  1. **PPI標準量(オメプラゾール20mg/日)**で8週治療 → 内視鏡で治癒確認
  2. 治癒不全の場合:
    • 高用量PPI(オメプラゾール40mg/日1~2回分割)に増量 → 4週追加
    • または P-CAB(ボノプラザン20mg/日)に切替
  3. NSAID継続が不可避:PPI高用量(40mg/日)をNSAID使用期間中継続 + H2RA併用検討(強度を上げる場合のみ)

シナリオ3:H.pylori陰性で酸分泌抑制が不十分

  1. PPI標準量で4週 → 症状・内視鏡で評価
  2. 改善不十分
    • P-CAB(ボノプラザン20mg/日)に切替(PPIより強力)
    • または PPI高用量(オメプラゾール40mg/日)に増量 + 二次性潰瘍(Zollinger-Ellison等)を除外
  3. 特殊例:胃酸過剰分泌症候群(ZES)の診断後、PPI超高用量(80mg/日以上分割投与)の医師指示下での使用

併用時の投与間隔・相互作用に注意すべき薬剤

薬剤群 PPI/P-CAB併用時の注意 推奨間隔
アスピリン(低用量) 潰瘍リスク低下、併用OK 特に制限なし
クロピドグレル PPI(特にオメプラゾール)がCYP2C19阻害 → 効果減弱 異なる時間に投与(相互作用軽微化)
カリウム保持性利尿薬 P-CABで高K血症リスク 定期的にK値モニタリング
抗菌薬(アモキシシリン等) PPIで胃内pH↑ → アモキシシリン吸収率低下(影響は臨床的に軽微) 相互作用弱い

非薬物療法

生活指導

項目 推奨内容
食事 刺激物(香辛料、コーヒー、アルコール)の制限(症状誘発時);3食規則正しく、就寝2時間前の食事回避
喫煙 禁煙推奨(喫煙は潰瘍再発率2倍、治癒遅延);禁煙補助薬(ニコチン置換療法)を医師と相談
ストレス 心身ストレス軽減(瞑想、軽い運動、十分な睡眠);過度なストレスで胃酸分泌増加
運動 軽度運動(ウォーキング等)は症状緩和に寄与、激しい運動は直後の飲食を避ける
飲酒 潰瘍治癒中は禁酒、治癒後も少量に制限(1日25g以下)

内視鏡治療

  • 出血性潰瘍:内視鏡的止血法(クリップ、レーザー、高周波メス)が薬物療法と併用
  • 穿孔:穿孔部位によっては内視鏡的クリップ止血、多くは外科手術

外科手術

  • 現在の手術適応(PPI/P-CAB時代に著減):
    • 穿孔(穿孔性潰瘍 > 48時間経過、または保存的治療で改善なし)
    • 難治性潰瘍で薬物療法・内視鏡治療無効の場合
    • 幽門狭窄(内視鏡的ステント・バルーン拡張無効)

参考文献・ガイドライン

日本のガイドライン

  1. 日本ヘリコバクター学会 (2019年改訂)
    『H.pylori感染診断と除菌・胃がん予防ガイドライン』
    http://www.jshr.jp/guideline/

  2. 日本消化器病学会 (2015年)
    『消化性潰瘍診療ガイドライン』
    http://www.jsge.or.jp/guideline/

  3. 厚生労働省PMDA添付文書

国際ガイドライン(参考)

  • American College of Gastroenterology (ACG) Peptic Ulcer Disease Guidelines (2020)
  • European Helicobacter and Microbiota Study Group (EHMSG)

医学中央雑誌・文献検索

  • 「消化性潰瘍」「H.pylori除菌」「PPI」のキーワードで、日本医学中央雑誌(日中)で最新論文を検索

免責事項

本稿は薬学的知識に基づいた一般情報提供を目的としており、医学的診断・治療方針の決定は医師の領域です。消化性潰瘍の診断、薬剤選択、用量調整は患者個別の病態・背景を踏まえて医師・薬剤師が判断してください。本稿の情報をもとに医療従事者の指示なく自己判断で医療行為を行うことは避けてください。


監修: 薬剤師(博士(薬学))

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