【PMS/PMDD】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

月経前症候群(PMS: Premenstrual Syndrome) は月経3〜10日前から始まる身体的・精神的症状で、月経開始後に軽減する。月経前不快気分障害(PMDD: Premenstrual Dysphoric Disorder)はPMSの重症型で、抑うつ・不安・気分変化が顕著である。薬物治療は症状の種類と重症度に応じて選択される。軽症ではNSAIDs、中等症ではSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)や低用量経口避妊薬(OCP)が第一選択であり、重症例ではダナゾールなどのホルモン療法が用いられる。非薬物療法と組み合わせることで治療効果を高める。


治療の基本方針

診断と重症度分類

PMS/PMDDの診断は症状の記録(2か月以上の経過観察)に基づく。国際診断基準では、PMDDは月経周期の後期に5つ以上の症状を示し、社会・職業機能を著しく障害するものと定義される。日本産科婦人科学会ガイドラインでは症状の強度と生活への影響度で軽症・中等症・重症に分類する。

第一選択治療

軽症(身体症状が中心)

  • NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセンなど)
  • 医学的根拠が高く、月経痛や浮腫感に効果的
  • 月経予想日の3日前から開始し、月経開始まで継続

中等症(精神神経症状を含む)

  • SSRI(ルボキセチン、セルトラリン、パロキセチン塩酸塩水和物)
    • 第一選択薬
    • 月経前14日から月経開始まで投与する間欠投与が標準(継続投与も選択肢)
  • 低用量OCP(ヤーズ、ヤーズフレックス)
    • ドロスピレノンとエチニルエストラジオール含有
    • ホルモン変動を平坦化し、月経周期を調整
    • 避妊効果も併せ持つ

重症(PMDD相当、社会機能障害)

  • 前述のSSRI・OCPを優先
  • 奏効不十分時はダナゾール(非ステロイド同化ステロイド、月経前のみ投与)
  • 難治例は低用量OCPとSSRIの併用、またはホルモン療法の強化

治療ステップアップ

  1. 初期治療(4〜8週間): NSAIDs または SSRIの間欠投与
  2. 効果不十分時(4〜12週):
    • SSRI継続投与への変更、または用量増加
    • OCPの導入(避妊希望者は優先)
  3. 難治例(12週以上継続): SSRIとOCP併用、ダナゾール検討、GnRH作動薬(偽閉経誘導)

薬効群別の一覧

1. SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)

項目 内容
代表薬 セルトラリン(ジェイゾロフト®), パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル®), ルボキセチン(デプロメール®/ルボックス®)
機序 セロトニン再取込を阻害し、シナプス間のセロトニン濃度を上昇。脳内セロトニン不足が関与するとされるPMDDの精神神経症状(抑うつ・不安・易怒性)を改善
適応の位置付け 中等症〜重症の第一選択。精神神経症状が中心の患者に有効。身体症状だけの軽症には NSAIDSを優先
投与方法 月経予想日の14日前から月経開始まで(間欠投与)、または通年継続投与。用量はセルトラリン50mg、パロキセチン10mg等が標準
主な副作用 悪心、頭痛、性機能障害(特にパロキセチン)、睡眠障害、体重増加。間欠投与で副作用軽減
禁忌・相互作用 MAO阻害薬との併用禁止。セロトニン症候群のリスク(他のセロトニン作動薬との併用時)。CYP3A4阻害により薬物相互作用が生じやすい
備考 効果判定に3〜4か月要する場合もあり、患者説明で継続投与の重要性を伝える

2. 低用量経口避妊薬(OCP)

項目 内容
代表薬 ドロスピレノン/エチニルエストラジオール配合(ヤーズ®, ヤーズフレックス®), レボノルウェーストレル/エチニルエストラジオール配合(トリキュラー®, アンジュ®など)
機序 低用量エストロゲン・プロゲスチンの配合により、視床下部-下垂体-卵巣軸のホルモン分泌を抑制。ホルモン変動の平坦化で月経周期を安定化させ、症状軽減。ドロスピレノン含有製剤は抗ミネラロコルチコイド作用で浮腫改善
適応の位置付け 中等症の第一選択(避妊希望者)、身体症状を伴う PMDD、寛解困難な場合の二次選択。24日投与・4日休薬の標準周期、または24日投与・4日プラセボの設計
投与方法 月経初日から開始、毎日同時刻投与。ヤーズフレックスは月経前の症状軽減を目的に黄体期を延長する可変用量製剤
主な副作用 悪心、頭痛、乳房痛、不正出血(初期)、体重増加、血栓症(稀だが重篤)。低用量 OCP は副作用が従来型より軽減
禁忌・相互作用 年齢35歳以上で喫煙(特に15本/日以上)、血栓症既往、片頭痛(閃輝暗点あり)、血圧 160/100 mmHg以上。St. John's Wort 等の酵素誘導薬で効果減弱
備考 避妊効果を兼ねるため、避妊希望患者では第一選択となる。月経周期の正常化が PMS症状改善に寄与

3. 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)

項目 内容
代表薬 イブプロフェン(ユニプロン®など), ナプロキセンナトリウム(ナイキサン®), メフェナム酸(ポンタール®)
機序 プロスタグランジン(PG)合成阻害により、月経前に上昇する PG による下腹部痛・腰痛・浮腫感・頭痛を軽減。NSAIDsは身体症状に対して特に有効
適応の位置付け 軽症・身体症状中心の第一選択。月経痛、浮腫、頭痛が主訴の患者に推奨。精神神経症状が顕著な場合は SSRIへの切替を検討
投与方法 月経予想日の3日前から月経開始まで、1日2〜3回分割投与。食後投与で胃腸障害を軽減
主な副作用 消化器症状(腹痛、便秘、下痢)、頭痛、眠気、皮疹。長期使用で胃潰瘍、腎機能低下のリスク
禁忌・相ativeな注意 アスピリン喘息、重症腎障害、肝障害、NSAIDs起因性消化性潰瘍既往、妊娠中(特に第3トリメスタ)。高齢者は出血・腎機能低下リスク増加
備考 OTC医薬品として市販されているものも多く、患者が容易にアクセス可能。月経周期に合わせた予防的投与が効果的

4. ダナゾール(同化ステロイド)

項目 内容
代表薬 ダナゾール(ボンゾール®)
機序 弱い男性ホルモン作用を有する合成ステロイド。LH/FSH分泌を抑制して排卵を抑制し、エストロゲン・プロゲスチン変動を減弱。また下垂体に直接作用して黄体形成ホルモン低下を誘導。月経周期を短縮・軽減し PMS症状を緩和
適応の位置付け 重症 PMDD または難治性 PMS の第二選択。SSRIと OCPで効果不十分な場合、または急速な症状改善が必要な場合に限定使用
投与方法 月経予想日の7〜10日前から月経開始まで、50〜100mg/日分割投与。連続投与は避け、月経周期に合わせた間欠投与が標準
主な副作用 アンドロゲン効果:ざ瘡・多毛症・脱毛・声の低下・クリトリス拡大(可逆性)。その他:体重増加、頭痛、肝機能異常、血中脂質上昇
禁忌・相互作用 妊娠・授乳、活動性肝疾患、重症腎障害、ポルフィリア。他の同化ステロイドとの併用禁止。長期使用は肝毒性リスク
備考 高い奏効率(60〜80%)だが、アンドロゲン副作用が懸念されるため、他剤で効果不十分な重症例に限定。最短期間(通常3〜6か月)の使用を原則

5. 漢方薬

項目 内容
代表薬 加味逍遙散(かみしょうようさん), 女神散(にょしんさん), 温経湯(うんけいとう), 桃紅四物湯(とうこうしぶつとう)
機序 気(き)・血(けつ)・水(すい)の巡行を改善し、月経周期のホルモン変動に伴う不調を緩和。各方剤により作用異なる。加味逍遙散は抑うつ・不安、女神散は頭重感・浮腫、温経湯は冷え性に特に有効
適応の位置付け 補助療法としての位置付け または 西洋医学薬への忍容性不良時の代替選択肢。単独では軽症に限定。中等症以上では SSRI/OCP と併用検討
投与方法 通常 1日2〜3回分割投与、食前または食間に湯剤または錠剤。月経周期通年投与が標準
主な副作用 消化器症状(腹部不快感、便秘・下痢)、アレルギー反応(稀)。成分による肝障害(甘草含有製剤で偽アルドステロン症)、長期使用での体質変化
禁忌・相互作用 妊娠中は医師判断で限定使用。甘草含有製剤は利尿薬・糖質コルチコイドとの併用で低カリウム血症リスク増加。西洋医学薬との相互作用報告は少ないが、個別確認が必要
備考 日本では健康保険診療内で処方可能。症状改善に時間を要する(4〜8週)ため、患者の忍耐が必要。証(しょう)の診断が効果を左右

6. ブロモクリプチン(プロラクチン阻害薬)

項目 内容
代表薬 ブロモクリプチン(パーロデル®)
機則 下垂体前葉のプロラクチン分泌を抑制。高プロラクチン血症を伴う患者の乳房痛・乳房腫脹の改善に有効。月経前プロラクチン上昇による症状軽減
適応の位置付け 乳房痛・乳房腫脹が顕著で、プロラクチン軽度上昇を示す患者の第二選択。通常は SSRI/OCP 後の追加選択肢
投与方法 月経予想日の14日前から月経開始まで、1.25〜2.5mg/日分割投与。通年投与も可
主な副作用 悪心・嘔吐、起立性低血圧、頭痛、めまい、便秘。長期使用で肺線維症(稀)。初期に忍容性不良が多い
禁忌・相互作用 高血圧症(特に重症)、冠動脈疾患、脳卒中既往。メトクロプラミド等のドーパミン拮抗薬との併用で効果減弱
備考 PMS/PMDD の主流治療ではなく、補助的位置付け。忍容性不良で中止率が高い

7. GnRH作動薬(偽閉経誘導)

項目 内容
代表薬 ナファレリン酢酸塩(シナレル®鼻スプレー), リュープロリン酢酸塩(リュープリン®筋注)
機序 下垂体 GnRH受容体に作用し、初期は LH/FSH 分泌亢進(フレアアップ)、その後受容体ダウンレギュレーション により LH/FSH 低下。エストロゲン・プロゲスチン分泌の完全抑制(偽閉経状態)により月経周期廃止 → PMS症状完全消失
適応の位置付け 超重症・難治性 PMDD または社会機能著しく障害される症例の最終手段。他剤 6か月以上の無効例、または急速・確実な症状改善が不可欠な場合(例: 試験・重要業務)
投与方法 ナファレリン: 1日2回鼻スプレー(通年投与)。リュープリン: 3.75mg 筋注を 1か月ごと。月経周期に合わせた周期投与は通常しない
主な副作用 初期フレアアップ(症状悪化 1〜2週間)、ホットフラッシュ・発汗・腟乾燥(偽閉経症状)、骨密度低下(長期使用 6か月以上)、頭痛、筋肉痛。女性ホルモン低下に伴う症状が顕著
禁忌・相互作用 妊娠・授乳、骨粗鬆症既往、長期使用による骨密度低下リスク。ホルモン補充療法(HRT)との考慮が必要。腹腔内子宮内膜症合併時は相談の上で使用
備考 保険診療では 6か月が通常上限。長期使用時は アドバック療法(低用量エストロゲン・プロゲスチン併用で骨密度低下軽減)を検討。高額医療・社会復帰の厳密な適応判定が必須

選択のポイント: 患者背景別の使い分け

避妊希望者

第一選択: 低用量 OCP(ヤーズなど)

  • 避妊効果と PMS治療を両立
  • ドロスピレノン含有製剤は抗ミネラロコルチコイド作用で浮腫改善が強い
  • 月経周期の安定化も同時獲得

代替案: SSRIの間欠投与 + 他の避妊法(コンドーム・IUD等)

高齢者(35歳以上)

OCP使用の制限あり

  • 血栓症リスク増加、喫煙者はさらにリスク↑
  • 推奨: SSRI の間欠投与 または NSAIDs(身体症状のみ)
  • 合併症(高血圧・糖尿病)を併せ持つ場合、相互作用確認必須

腎機能低下患者

NSAIDs は禁忌・厳格に制限

  • 腎血流低下 → 急性腎障害リスク
  • 代替案: SSRI(腎排泄少なく、用量調整不要) または OCP または 漢方

SSRI(セルトラリン・ルボキセチン): 肝代謝主体で、腎排泄が少ないため腎機能低下でも用量調整通常不要

肝機能低下患者

SSRIは慎重に

  • セルトラリン・パロキセチン: 肝代謝を受け、肝障害時に蓄積リスク
  • 推奨: NSAID(軽症、肝代謝負荷少ない) または OCP(一般的に肝疾患で禁忌) は避け、ダナゾール (肝毒性リスク高いため避け)

代替案: 漢方(特に甘草含有製剤は肝障害患者で低カリウム血症リスク)

喫煙者

低用量 OCP は血栓症リスク著増

  • 年齢 35歳未満・15本/日未満: 相対的禁忌(慎重投与)
  • 年齢 35歳以上 または 15本/日以上: 絶対禁忌

推奨: SSRI の間欠投与 または NSAIDs または ダナゾール(限定的)

片頭痛(特に閃輝暗点あり)

OCP は脳卒中リスク増加

  • 低用量 OCPでもリスク残存(特に閃輝暗点を伴う片頭痛)
  • 推奨: SSRI または NSAIDs または 漢方

妊娠希望者

OCP・ダナゾール は中止(催奇形性なし報告多いが、念のため中止)

推奨: SSRI の間欠投与(月経前 14日のみ) → 妊娠成立後は中止

  • NSAIDs: 妊娠初期・中期は相対的に安全だが、第 3トリメスター は禁忌

重要: 妊娠計画時は医師・薬剤師に相談

消化性潰瘍既往者

NSAIDs は絶対禁忌 (再発・穿孔リスク)

推奨: SSRI または OCP(出血性潰瘍リスク低い) または 漢方 または ダナゾール(忍容性が課題)


併用療法・順序——単剤失効時の追加・切替戦略

ステップ 1: 初期治療(4〜8週間)

軽症(身体症状主体)

  • NSAIDs 月経前投与 (ibuprofenイブプロフェン 400mg × 2回/日など)
  • 奏効率: 60〜70%
  • 判定時期: 2〜3周期観察

中等症(精神神経症状あり)

  • SSRI 間欠投与(セルトラリン 50mg/日 × 月経予想日 14日前から月経開始まで) または
  • 低用量 OCP(ヤーズなど、避妊希望者優先)
  • 奏効率: 60〜75%
  • 判定時期: 4〜12週間(SSRIは作用遅延あり)

重症(PMDD、社会機能障害)

  • 初期から SSRI継続投与(セルトラリン 100mg/日など) または
  • OCP + SSRI間欠投与の併用
  • 奏効率: 70〜80%

ステップ 2: 効果不十分時の切替・追加(12週時点)

2-1. NSAID 単剤無効 → ステップアップ

現在 次の選択肢 理由
NSAIDs のみ SSRI 追加:月経前 SSRI 50mg × 14日 + NSAIDs 継続 身体症状(NSAID対応)+ 精神神経症状(SSRI対応)の混合型
NSAIDs のみ OCP 導入:月経初日から開始、NSAIDs 継続 月経周期安定化 + 避妊希望あれば優先
NSAIDs のみ NSAIDs → SSRI へ切替 精神神経症状が顕著な場合、SSRI 優先で再評価

2-2. SSRI 間欠投与無効 → ステップアップ

現在 次の選択肢 理由・用量
SSRI 間欠投与(50mg/日

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