概要
乾癬は、T細胞の異常活性化に伴う自己免疫性炎症疾患であり、皮膚に紅斑、浸潤、落屑を呈する慢性疾患です。日本の有病率は約0.1~0.3%と推定されています。軽症から中等症までは外用療法(ビタミンD3、ステロイド)が第一選択ですが、中等症以上や難治例には全身療法が導入されます。TNFα阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬などの生物学的製剤が、ここ10年で急速に普及し、治療成績を大きく改善させました。本辞典では、外用薬から全身療法までの医薬品を薬学的観点から体系的に解説します。
治療の基本方針
軽症~中等症の治療戦略
軽症(体表面積5%未満)は外用療法が基本です。第一選択はビタミンD3外用(カルシポトリオール、マキサカルシトール)またはステロイド外用(強力ステロイド)です。これらの効果が不十分な場合、両剤の併用療法を検討します。
中等症(体表面積5~10%、または顔面・四肢など機能領域に病変がある)では、外用療法の強化から始まります。広範囲の場合や外用療法で奏効不十分な場合は、第二選択として紫外線療法(NB-UVB療法)や全身療法の導入を検討します。
中等症以上~重症の治療戦略
中等症以上(体表面積10%以上、または関節症状を伴う)や難治例では、全身療法が必須となります。第一選択は生物学的製剤です。
- TNFα阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)
- IL-17阻害薬(セキュキヌマブ)
- IL-23阻害薬(グアゼラッシ、リサノキザブなど)
これらの中から、患者の背景(感染症既往、結核スクリーニング、腎機能、妊娠希望など)を勘案し、医師が選択します。生物学的製剤が奏効しない場合や禁忌がある場合は、従来型の全身療法(メトトレキサート、シクロスポリン、アシトレチン)を検討します。
薬効群別の一覧
乾癬治療薬を6つの薬効群に分類し、代表薬、機序、適応、副作用を表形式で示します。
1. ビタミンD3外用薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | カルシポトリオール(ドボベット軟膏・ローションなど) マキサカルシトール(ボーベック軟膏など) タカルシトール(オキサロール軟膏など) |
| 作用機序 | ビタミンD受容体(VDR)を介し、角化細胞の分化促進・T細胞増殖抑制を誘導。炎症性サイトカイン(IL-2、TNFα等)の産生を低下させる |
| 適応の位置付け | 軽症~中等症の第一選択外用薬。ステロイド外用との併用療法も推奨される |
| 主な副作用 | 局所刺激感、皮膚萎縮(長期使用時)、高カルシウム血症(稀だが血清カルシウム監視が必要) |
| 禁忌・注意 | カルシウム代謝異常・上皮小体機能亢進症患者では慎重。顔面・皮膚萎縮リスク部位への過度な使用は避ける |
| 使用形態 | 軟膏、ローション、ゲル。1日1~2回外用。血清カルシウム値の定期確認推奨 |
2. ステロイド外用薬
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | 強力ステロイド(Ⅱ~Ⅲ群): クロベタソールプロピオン酸塩(ダイアコート軟膏など) ベタメタゾンジプロピオン酸塩(リンデロンDP軟膏など) フルオシノロンアセトニド(フルコート軟膏など) |
| 作用機序 | グルココルチコイド受容体を介し、NF-κB経路を抑制。T細胞浸潤・炎症性サイトカイン産生の急速な低下。血管拡張抑制 |
| 適応の位置付け | 軽症~中等症の第一選択。急性増悪期の緊急対応薬。ビタミンD3外用との併用療法も標準的 |
| 主な副作用 | 皮膚萎縮、毛細血管拡張、接触皮膚炎、反跳現象(中断時の急激な悪化) |
| 禁忌・注意 | 長期連続使用(特に顔面・間擦部)は皮膚萎縮リスク。徐々に減量して中止すべき。ウイルス感染合併部位は避ける |
| 使用形態 | 軟膏、クリーム、ローション。1日1~2回外用。症状改善後は段階的に弱いランクへの転換推奨 |
3. TNFα阻害薬(生物学的製剤)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | インフリキシマブ(レミケード、アバスチン併用) エタネルセプト(エンブレル) アダリムマブ(ヒュミラ) セルトリズマブペゴル(シムジア) |
| 作用機序 | TNFα(腫瘍壊死因子α)に対する中和抗体またはTNF受容体融合蛋白。T細胞活性化・炎症応答を根本的に遮断 |
| 適応の位置付け | 中等症以上・難治例の第一選択。特にアダリムマブは皮下注射で自己管理が容易。乾癬関節炎にも有効 |
| 主な副作用 | 感染症(結核、日和見感染)、造血器障害(血球減少)、自己抗体産生(抗核抗体陽転化)、心不全悪化 |
| 禁忌・注意 | 結核スクリーニング必須(Mantoux検査、IGRA、胸部X線)。活動性感染症・結核患者は禁忌。B型肝炎キャリアは慎重投与 |
| 使用形態 | インフリキシマブ:点滴静注(2~8週ごと) エタネルセプト:皮下注射週2回 アダリムマブ:皮下注射2週ごと セルトリズマブペゴル:皮下注射2週ごと |
4. IL-17阻害薬(生物学的製剤)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | セキュキヌマブ(コセンティクス) イキセキズマブ(トルツ) ブロダルマブ(ルミセフ) |
| 作用機序 | IL-17(インターロイキン-17)またはIL-17受容体を標的化。乾癬の病態形成に中心的役割を果たすIL-17軸を直接遮断 |
| 適応の位置付け | 中等症以上・難治例。TNFα阻害薬と並ぶ第一選択。特に膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症の適応が広い |
| 主な副作用 | 感染症(特に粘膜カンジダ症)、好中球増加、クローン病の悪化または誘発(慎重投与) |
| 禁忌・注意 | 活動性結核・感染症は禁忌。クローン病・潰瘍性大腸炎患者は厳密に評価。妊娠中の安全性データは限定的 |
| 使用形態 | セキュキヌマブ・イキセキズマブ:皮下注射4週ごと(初期導入あり) ブロダルマブ:皮下注射2週ごと |
5. IL-23阻害薬(生物学的製剤)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | グアゼラッシ(スキリージ) リサノキザブ(スキボラッシ) テミリムマブ(ウルトミス) |
| 作用機序 | IL-23(インターロイキン-23)のp19サブユニットまたはp40サブユニットを標的化。乾癬を形成するIL-23/Th17軸を遮断。IL-12への影響は少ない |
| 適応の位置付け | 中等症以上・難治例の第一選択。TNFα、IL-17阻害薬と並ぶ選択肢。感染症リスクが相対的に低い |
| 主な副作用 | 感染症(TNFα阻害薬より少ない傾向)、血球減少、肝機能障害 |
| 禁忌・注意 | 活動性感染症・結核は禁忌。肝機能低下患者では用量調整を検討。妊娠期の使用経験は限定的 |
| 使用形態 | グアゼラッシ・リサノキザブ:皮下注射4週ごと(初期導入あり) テミリムマブ:皮下注射4週ごと |
6. 従来型全身療法
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 代表薬 | メトトレキサート(MTX、リウマトレックスなど) シクロスポリン(ネオーラル、サンディミュン) アシトレチン(チガソン) |
| 作用機序 | MTX:葉酸拮抗薬。細胞増殖抑制とT細胞活性化低下 シクロスポリン:カルシニューリン阻害薬。T細胞活性化とサイトカイン産生抑制 アシトレチン:レチノイド。角化異常と炎症応答の改善 |
| 適応の位置付け | 生物学的製剤が禁忌・奏効不十分時の代替療法。高齢者や感染症リスク高患者でも検討可 |
| 主な副作用 | MTX:骨髄抑制、肝硬変、腎障害、感染症 シクロスポリン:腎毒性、高血圧、神経毒性、感染症 アシトレチン:催奇形性(妊娠中厳禁、中止後3年間は避妊必須)、脂質異常症、肝機能障害 |
| 禁忌・注意 | MTX:葉酸補充必須、定期的な肝・腎・血球検査 シクロスポリン:腎機能・血圧の厳密監視 アシトレチン:女性では極めて限定的、肝機能・脂質定期検査 |
| 使用形態 | MTX:内服週1回(7.5~25mg) シクロスポリン:内服1日2回(2~5mg/kg) アシトレチン:内服1日1回(25~50mg) |
選択のポイント——患者背景別の使い分け
高齢患者(70歳以上)
- 推奨:ビタミンD3外用またはステロイド外用による段階的外用療法。生物学的製剤は相対的禁忌ではないが、感染症スクリーニングと日常的な感染監視が必須。
- 避けるべき:シクロスポリンは腎毒性リスクが高いため慎重。アシトレチンは転倒・神経障害リスク。
- 推奨製剤:IL-23阻害薬(感染症リスク相対的に低い)>IL-17阻害薬。
腎機能低下患者(eGFR<60 mL/min/1.73m²)
- 避けるべき:シクロスポリン(腎毒性直接作用)、MTXの高用量(腎排出が減少し毒性増加)、ビタミンD3外用の過度な使用(高カルシウム血症リスク)。
- 推奨:生物学的製剤(TNFα、IL-17、IL-23阻害薬)は用量調整不要な場合が多く、腎機能低下患者でも相対的に安全。ただし感染症監視は厳密に。
B型肝炎キャリア
- 避けるべき:TNFα阻害薬(B型肝炎ウイルスの再活性化リスク)、MTXの高用量。
- 推奨:IL-17阻害薬、IL-23阻害薬(B型肝炎再活性化リスク低い)。生物学的製剤導入前にはHBsAg、HBcAb検査、および抗ウイルス薬による予防投与を検討。
妊娠希望女性
- 絶対禁忌:アシトレチン(催奇形性、中止後3年間避妊必須)。
- 相対的安全性高い:TNFα阻害薬(特にアダリムマブ、エタネルセプト;妊娠中も継続可との報告)、IL-17阻害薬(使用経験限定的だが推定される安全性は高い)。
- 推奨:妊娠前から生物学的製剤による強い寛解維持が理想的。主治医と妊娠計画を綿密に相談。
活動性感染症またはTB既往
- 絶対禁忌:TNFα阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬。
- 推奨:外用療法、MTX(用量調整)、シクロスポリン(腎機能良好な場合)。結核既往がある場合は生物学的製剤の禁忌ではないが、結核専門医と協調管理が必須。
併用療法・順序——単剤失効時の追加・切替戦略
段階的治療の流れ
ステップ1: 外用療法(軽症~中等症初期)
ビタミンD3外用 + ステロイド外用(併用療法)を4~8週間実施。
- 奏効:継続
- 部分奏効:紫外線療法(NB-UVB週2~3回)を追加
- 不奏効:ステップ2へ
ステップ2: 外用療法 + 紫外線療法(中等症)
NB-UVB週2~3回、12~16週間実施。
- 奏効:維持療法
- 部分奏効:全身療法導入を検討
- 不奏効:ステップ3へ
ステップ3: 全身療法(中等症以上・難治例)
第一選択薬から1剤開始:
- IL-23阻害薬(グアゼラッシ、リサノキザブ)
- IL-17阻害薬(セキュキヌマブ、イキセキズマブ)
- TNFα阻害薬(アダリムマブ、エタネルセプト)
各薬を8~12週間で効果判定。
ステップ4: 生物学的製剤の切替・併用
同一クラス内の薬剤に切替(例:セキュキヌマブ → ブロダルマブ)、または異なるクラスへの切替を検討。
- TNFα阻害薬が奏効不十分 → IL-17またはIL-23阻害薬に切替
- IL-17阻害薬が不奏効 → IL-23阻害薬へ切替(その逆も同様)
併用療法:生物学的製剤と外用療法、または生物学的製剤+紫外線療法は推奨される。生物学的製剤+MTX併用は感染症リスク増加のため、通常は行わない。
ステップ5: 従来型全身療法への移行
生物学的製剤が禁忌または奏効不十分で、かつ他の生物学的製剤も試行済みの場合:
- MTX(7.5~20mg/週)
- シクロスポリン(3~5mg/kg/日、腎機能良好な場合に限定)
寛解維持戦略
長期寛解達成後:
- 生物学的製剤の減量(投与間隔の延長、例:4週ごと → 6週ごと)を段階的に実施し、維持用量を決定
- 外用療法は継続(再燃予防)
- 定期的な皮膚科受診(3~6ヶ月ごと)で寛解状態の監視
非薬物療法
紫外線療法(光線療法)
NB-UVB療法(狭域紫外線B波)
- 適応:軽症~中等症、薬物療法への補助療法
- 頻度:週2~3回、12~16週間
- 機序:Th1/Th17細胞の減少、制御性T細胞(Treg)の誘導
- 効果:外用療法単独より優れ、生物学的製剤導入前の選択肢として推奨
PUVA療法(ソラレン + UVA)
- 効果:NB-UVBと同等~やや劣る
- 副作用:NB-UVBより多い(白内障リスク、皮膚がん)
- 用途:限局性病変への部分照射
生活指導・食事療法
- ストレス軽減:瞑想、運動、心理カウンセリング。ストレスは乾癬の増悪因子として知られている
- 喫煙・飲酒の制限:喫煙者は非喫煙者より重症度が高く、飲酒も増悪因子
- 皮膚保湿:毎日の入浴後、保湿剤(ヘパリン類似物質、セラミド配合品)を塗布。乾燥肌は病変を悪化させる
- 感染症予防:扁桃炎やA群溶連菌感染症は乾癬の増悪・誘発因子。うがい、手洗いの徹底
- 食事療法:特定の食物制限の有効性は証明されていないが、抗炎症食(オメガ3脂肪酸、フラボノイド豊富な食品)が推奨される報告もある
外科的治療
- 手術:乾癬に対する根治的手術はない。ただし、爪乾癬が日常生活に大きく支障をきたす場合、爪母の部分的な焼灼や摘出を検討する施設もある(限定的)
参考文献
日本のガイドライン・指針
-
日本皮膚科学会 乾癬ガイドライン(2023年版改訂)
- URL: https://www.dermatology.or.jp/
- 診断・治療の標準的フローを示唆
-
日本臨床皮膚科医会 乾癬診療ガイドライン
- 薬物療法の段階的アプローチを記載
-
日本リウマチ学会 生物学的製剤使用ガイドライン
- TNFα阻害薬等の投与基準、結核スクリーニング、感染症対策を記述
PMDA承認情報・添付文書
- インフリキシマブ(レミケード):PMDA医薬品情報
- アダリムマブ(ヒュミラ):PMDA医薬品情報
- セキュキヌマブ(コセンティクス):PMDA医薬品情報
- グアゼラッシ(スキリージ):PMDA医薬品情報
国際ガイドライン
- European Academy of Dermatology and Venereology (EADV) Psoriasis Guideline 2021
- 国際的な証拠に基づく治療標準
免責事項
本記事は教育・情報提供を目的とした薬学解説です。診断、治療の判断、処方変更は医師の権限です。患者さんは主治医・薬剤師に相談の上、指示に従ってください。本記事の内容を根拠とした自己治療・投薬変更は危険です。また、医薬品情報は公開情報に基づいており、記事執筆時点での正確性を努めていますが、最新の臨床知見や製品情報の変化に対応しきれない場合があります。必ずPMDA添付文書、最新の学会ガイドラインを確認の上、ご判断ください。
監修: 薬剤師(博士(薬学))