TL;DR
- 目薬は 1滴で十分。結膜嚢(けつまくのう)に溜まる液量は約25μLしかなく、市販点眼薬1滴(30〜50μL)でとっくに満杯になります
- 2種類差すなら 5分以上の間隔 を空ける(先に差した成分が流されるため)
- 点眼後は 目をパチパチさせず、目頭を1分押さえる(鼻涙管圧迫法)が正解
- ソフトコンタクトレンズ装着中は、防腐剤ベンザルコニウム塩化物(BAK)配合品はNG
- 血管収縮剤入り目薬の連用は リバウンド充血 を招くので頓用のみに
- 開封後は原則 1か月 で破棄
「目薬くらい誰でも差せる」と思われがちですが、薬局カウンターで聞き取りをすると、ほぼ全員が何かしら間違っています。今日はその"あるある"を、博士(薬学)視点でゆるっと解説します。
目薬の薬物動態(基礎知識):なぜ点眼は「難しい」のか
5つの間違いを解説する前に、目薬が体の中でどう動くかを整理しておきます。ここを知っておくと、各ルールの「理由」がすっきり腑に落ちます。
点眼後の薬の運命
点眼した薬液は、結膜嚢という「まぶたの裏と眼球の間にあるポケット状のスペース」に一時的に保持されます。しかしこの貯留スペースは非常に小さく、また常に涙液が産生・排出されているため、薬液は時間とともに以下の3つの経路で消失していきます。
- 角膜・結膜からの吸収(眼内への取り込み)
- 鼻涙管を経た全身吸収(のどへ流れる経路)
- 涙液による希釈・蒸発
この中で目に薬効をもたらすのは①だけです。しかし②の全身吸収は副作用の温床にもなります。たとえば血管収縮剤(ナファゾリン塩酸塩など)が鼻涙管経由で全身に吸収されると、全身の血圧や心拍数に影響する可能性があります。β遮断薬の点眼剤(緑内障治療薬)が気管支喘息患者で禁忌とされるのも、全身吸収によって気管支収縮が引き起こされるリスクがあるからです。OTC目薬においても、全身吸収を最小化することが安全使用の基本となります。
眼の解剖学的バリア
角膜は最外層から「上皮→前弾力層→実質→後弾力層→内皮」の5層構造です。最も外側の角膜上皮は脂溶性物質の透過性が高く、水溶性物質は通りにくいという特性があります。逆に角膜実質は水溶性に富むため、両親媒性(脂溶性と水溶性の中間)の薬物が角膜を最も透過しやすいとされています。これが点眼薬の製剤設計(pH・粘度・基剤の選択)が重要な理由です。また、涙液にはリゾチームやIgAなどの抗菌因子が含まれており、異物(細菌・薬液過剰)を排除しようとする自然な防御機構も働いています。
点眼薬の吸収に影響する主な因子
| 因子 | 吸収を高める方向 | 吸収を下げる方向 |
|---|---|---|
| 接触時間 | 長い(鼻涙管圧迫で延長可) | 短い(すぐ瞬きする) |
| 製剤粘度 | 高粘度(ゲル状) | 低粘度(水性) |
| 薬物の脂溶性 | 両親媒性〜脂溶性寄り | 強親水性 |
| 点眼量 | 1滴(溢れない量) | 2滴以上(溢れて流出) |
| 点眼後の行動 | 静かに目を閉じる | パチパチ瞬きする |
この表を頭に入れた上で、5つの間違いを見ていきましょう。
間違い①:「1回2〜3滴ジャブジャブ」差している
これがいちばん多い誤解です。
ヒトの 結膜嚢の容量は約25〜30μL とされています。一方、市販点眼薬の1滴は容器設計上 約30〜50μL。つまり 1滴差した時点ですでに溢れている わけです。
| 項目 | 容量の目安 |
|---|---|
| 結膜嚢の貯留量 | 約25μL |
| 点眼薬1滴 | 約30〜50μL |
| 涙液(常時) | 約7μL |
2滴目を追加しても、ほぼすべて頬を伝って流れ落ちるか、鼻涙管から喉に抜けるだけ。有効成分量は1滴も2滴も大差ありません。むしろ容器の先端が目に触れて雑菌汚染するリスクのほうが現実的なデメリットです。
なぜ「入った感じがしない」のか
多くの人が「1滴では足りない気がする」と感じる背景には、点眼操作の困難さがあります。下まぶたを引かずに目を大きく開けるだけで差そうとすると、液滴がまつ毛や上まぶたに当たって角膜に届かないことが多々あります。その失敗体験が「1滴では足りない」という誤信念を作り上げています。
正しい手技(後述の「あっかんべー法」)で確実に1滴を結膜嚢に届けるだけで、「足りない」という感覚はほぼ解消します。逆に2〜3滴差す習慣は、薬液の無駄遣い・容器の汚染・全身吸収量の増加という三重のデメリットがあります。
薬剤師メモ:「2滴差したい」気持ちは、1滴目が瞼に弾かれて入った気がしないからですよね。下まぶたを軽く引いて"あっかんべー"の状態を作り、点眼瓶を1〜2cm離して落とす方法(あっかんべー法)に変えると、1滴の命中率がぐっと上がります。高齢の方や手が震えやすい方は、ドラッグストアで販売されている「点眼補助具」を活用すると安定して差せます。
小児・高齢者の注意点
小児では結膜嚢の容量がさらに小さく(約15〜20μL程度)、全身体重に対する薬液の割合が成人より高くなります。小児への点眼では、全身副作用のリスクが相対的に高まるため、必ず1滴厳守・鼻涙管圧迫を行ってください。高齢者では涙液分泌が低下しているため、点眼後の不快感(しみる感覚)が生じやすい傾向があります。防腐剤フリー製品に変更することで改善することがあります。
間違い②:違う目薬を「連続でパッパッ」差す
ドライアイ用の人工涙液と、抗アレルギー目薬を併用している方は多いはず。このとき 間隔ゼロで連続点眼 すると、後から差した薬が前の薬を 物理的に洗い流して しまいます。
- 1剤目を点眼 → 結膜嚢が満タン(25μL)
- すぐ2剤目 → 1剤目が押し出されて流出
- 2剤目もまた1剤目に薄められる
→ 結果、両方とも添付文書通りの濃度で接触できない、という事態に。
5分以上空ける のが原則です。順番は一般に「水溶性 → 懸濁性(白く濁ったタイプ) → 軟膏」の順が無難とされます。
点眼間隔の薬物動態的根拠
なぜ「5分」なのか。点眼後の薬液が結膜嚢に最大濃度で存在できる時間は、涙液の産生速度(通常約1〜2μL/分)と結膜嚢容量から計算すると、完全な置換には数分かかります。5分間隔を置くことで、1剤目が角膜上皮・結膜上皮に十分接触・吸収される時間を確保できます。眼軟膏はさらに滞留時間が長く粘度も高いため、最後に使用するのが合理的です。
| 点眼剤の剤形 | 推奨する使用順 | 推奨間隔 |
|---|---|---|
| 水性点眼液 | ① | 5分以上 |
| 懸濁性点眼液(白濁タイプ) | ② | 5分以上 |
| ゲル状点眼液(高粘度タイプ) | ③ | 5分以上 |
| 眼軟膏 | ④(最後) | 5分以上 |
複数点眼の「順番」はどう決める?
医師から複数の処方点眼を受けている場合、**「効果持続時間が短い薬を先に」**差す考え方が一般的です。OTC製品同士の場合、特に指定がなければ「症状への直接効果を持つ薬(抗アレルギー・抗充血)→ 補助的な薬(人工涙液・ビタミン系)」の順が目安になります。ただし複数種の薬を使う場合は、薬剤師または眼科医に順番を確認するのが最も安全です。
間違い③:コンタクトつけたまま、なんでも差す
「ソフトコンタクトレンズ装用中は使用しないでください」という注意書き、ちゃんと意味があります。
理由の核心は 防腐剤のベンザルコニウム塩化物(BAK)。これは陽イオン界面活性剤で、ソフトコンタクトの含水素材(特にイオン性レンズ)に吸着・蓄積し、角膜上皮障害のリスクを高める可能性が指摘されています。
| 防腐剤 | ソフトCL併用 |
|---|---|
| ベンザルコニウム塩化物(BAK) | 添付文書上、避けるよう記載される製品が多い |
| クロロブタノール、パラベン類 | 製品により記載が異なる |
| 防腐剤フリー(PF) | 一般に併用しやすい設計 |
ハードコンタクトや使い捨てソフト(1day)であれば、外して点眼 → 5分以上待ってから装着 が安全策です。
BAKが角膜上皮に与えるメカニズム
BAKは界面活性剤としての特性から、細胞膜の脂質二重層を攪乱します。具体的には、角膜上皮細胞の表面にある微絨毛(ミクロビリ)を破壊し、涙液の安定性(tear break-up time:BUT)を低下させます。さらにBAKは**ソフトコンタクトレンズの素材、とりわけ含水率の高いイオン性素材(FDA分類のGroupIIやGroupIV)**に強く吸着し、洗浄しても完全に除去できません。蓄積したBAKが角膜に持続的に接触することで、角膜上皮のマイクロダメージが蓄積していきます。
この問題は1回きりでは症状が出にくいことが多く、「今まで使ってたけど問題なかった」という誤認につながります。しかし長期的に使い続けた場合、**点状表層角膜症(SPK)**と呼ばれる角膜表面の微細な傷が蓄積し、目のかすみや異物感、重症の場合は視力低下につながる可能性があります。
コンタクトレンズの種類別の注意事項
| コンタクトの種類 | BAK配合品使用の可否 | 推奨対応 |
|---|---|---|
| ソフトコンタクト(1day) | 避ける | 外して点眼後5〜15分待って装着 |
| ソフトコンタクト(2week/1month) | 避ける | 外して点眼後5〜15分待って装着 |
| ハードコンタクト | 製品による | 添付文書を確認 |
| カラーコンタクト | 避ける | ソフトコンタクトと同様 |
「コンタクトを外すのが面倒」という理由でBAK配合品を装用したまま差し続けることは、長期的な角膜へのダメージリスクを積み上げる行為です。防腐剤フリー製品への切り替えを強く検討してください。
間違い④:「防腐剤フリーは高いから普通ので十分」
確かに防腐剤フリー(PF:Preservative-Free)は1本あたり高価です。しかし以下に該当する人は、コスパ以上の意味があります。
- ドライアイで1日4回以上点眼する
- ソフトコンタクト常用
- 点眼歴が長い(角膜上皮が薄くなっている可能性)
- 目に染みる感覚が以前より強い
防腐剤フリーは多くが 使い切りタイプ(1回〜1日使い切り) か、逆止弁付き容器 で雑菌混入を防ぐ設計になっています。「開封したら使い切りタイプは当日中、容器タイプは添付文書の指示に従う」が基本ルール。常温で持ち歩く場合は直射日光と高温車内を避けてください。
防腐剤フリー製剤の技術的背景
防腐剤はなぜ必要なのでしょうか。それは点眼薬が基本的に水性液体であり、繰り返し開封・使用することで雑菌汚染のリスクが生じるからです。BAKは強力な殺菌力を持ち、これが長らく最もポピュラーな点眼防腐剤として使われてきた理由でもあります。
防腐剤フリーを実現するための技術は大きく2つに分かれます。
①容器設計による無菌維持:逆止弁(逆流防止弁)付き容器は、点眼時に空気が入らない構造になっており、外部からの雑菌侵入を物理的に防ぎます。この場合、複数回使用でも一定期間(製品により異なる)無菌性を保つことができます。
②使い切り設計:1回分または1日分ずつ個別包装されたアンプルタイプです。開封するたびに新鮮な薬液を使うため、防腐剤が不要になります。1日使い切りタイプは、朝開封して夜まで使用できる設計のものが多いですが、「使い切り」と書かれていても翌日への持ち越しは推奨されません。
防腐剤フリー vs 防腐剤配合:選択の目安
| 状況 | 防腐剤配合で可 | 防腐剤フリー推奨 |
|---|---|---|
| 1日1〜2回・短期使用 | ○ | △(過剰かもしれない) |
| 1日3〜4回以上・長期使用 | △ | ○ |
| ソフトコンタクト使用中 | ✕ | ○ |
| 角膜に既往症あり | △(医師判断) | ○ |
| コスト優先(短期使用) | ○ | △ |
間違い⑤:充血用目薬を毎日使い続ける
スッと白目になる、いわゆる「キラキラ系」充血除去目薬。これらの多くには テトラヒドロゾリン塩酸塩 や ナファゾリン塩酸塩 といった血管収縮剤(α交感神経刺激薬)が入っています。
仕組みはシンプルで、結膜の血管を物理的に細くして赤みを目立たなくしているだけ。炎症を治しているわけではありません。
連用すると何が起きるか:
- 血管が常に収縮させられる
- → 薬が切れると反動で より太く拡張(リバウンド充血)
- → また差す → さらにひどくなる
この悪循環は薬理学で rebound hyperemia と呼ばれ、点鼻薬の血管収縮剤連用で起こる「点鼻薬性鼻炎」と同じ現象です。勝負の前日や写真撮影など"ここぞ"の頓用 にとどめるのが賢明です。慢性的な充血の原因は別(ドライアイ、アレルギー、感染、眼精疲労)にあることが多いので、繰り返すなら眼科受診を。
α受容体刺激薬の薬理メカニズムと依存性
テトラヒドロゾリン塩酸塩やナファゾリン塩酸塩はどちらもα1・α2受容体アゴニストです。結膜の血管平滑筋にあるα受容体が刺激されると、平滑筋が収縮して血管が細くなり(血管収縮)、結果として充血が目立たなくなります。
問題は、連続使用による受容体のダウンレギュレーションです。同じα受容体刺激を繰り返し受けると、血管平滑筋細胞がその刺激に慣れてしまい(脱感作)、薬が切れたときに「普通の状態」ではなく「過剰拡張状態」に振れるようになります。これがリバウンド充血の正体です。
さらに深刻なのは、この依存性が数日〜1週間の連用でも生じる可能性がある点です。「毎日使っていたら前よりひどい充血が起きるようになった」という訴えは、薬局でも珍しくありません。
充血の原因別・対処法の目安
| 充血の疑われる原因 | 特徴 | 一般的な対処の方向性 |
|---|---|---|
| ドライアイ | 夕方に悪化、乾燥感あり | 人工涙液・ドライアイ専用品 |
| アレルギー性結膜炎 | かゆみ・目やに・季節性 | 抗アレルギー点眼 |
| 眼精疲労 | PC・スマホ使用後に悪化 | 休養・ビタミンB12配合品 |
| 感染性結膜炎 | 目やにが多い・痛み | 眼科受診(抗菌薬適応の可能性) |
| 慢性疾患(緑内障等) | その他の自覚症状 | 眼科受診必須 |
血管収縮剤配合の充血除去目薬は、上記のいずれの原因も「治療」しません。一時的な見た目改善のみです。2週間以上続く充血は眼科受診を強くお勧めします。
ボーナス①:抗アレルギー点眼の使い分け
花粉症シーズンに迷うのがコレ。OTCで入手できる主な成分を整理します。
| 成分 | 分類 | 特徴(添付文書ベース) |
|---|---|---|
| クロモグリク酸ナトリウム | メディエーター遊離抑制 | 予防的に継続使用するタイプ |
| ケトチフェンフマル酸塩 | 抗ヒスタミン+遊離抑制 | 即効性と予防の両面記載 |
| 第1世代抗ヒスタミン(クロルフェニラミン等) | 抗ヒスタミン | 痒みの頓用向き |
症状が出る前から使うか、出てから使うか で選ぶ成分が変わるイメージです。コンタクト装用との相性、年齢制限、他の点眼薬との併用などは個別判断が必要なので、購入時に薬剤師へ相談を。
花粉症シーズンの点眼戦略
花粉症による目のアレルギー(アレルギー性結膜炎)には、「症状が出てから止める」対症療法と「症状を出させない」予防療法の2戦略があります。
クロモグリク酸ナトリウムは、マスト細胞からのヒスタミン・ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターの遊離を抑制する「遊離抑制薬」です。すでに遊離されたヒスタミンへの拮抗作用はないため、症状が出る前(花粉飛散2週間前など)から開始し、シーズン中継続使用するのが適した使い方です。
ケトチフェンフマル酸塩は抗ヒスタミン作用(H1受容体拮抗)とメディエーター遊離抑制の両方を持ちます。すでに症状が出ている状態でも一定の効果が期待できます。
抗ヒスタミン薬の点眼は全身投与(内服)と比較して眠気などの全身副作用が少ないメリットがありますが、BAKを含む製品が多いため、コンタクト装用者は防腐剤フリー品の選択肢があるか確認してください。
ボーナス②:ドライアイと人工涙液の選び方
ドライアイの目薬は大きく「涙液補充型」と「粘液補充型」に分かれます。
涙液補充型の代表成分はヒアルロン酸ナトリウム(OTCでは規格が処方薬より低いものが多い)や塩化ナトリウム系の人工涙液です。涙液の水分層を補い、眼表面を潤します。
粘液(ムチン)補充・保護型はカルボキシメチルセルロース(CMC)やヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの高分子ポリマーを使い、眼表面への薬液の滞留時間を延ばす設計になっています。
| 成分 | 主な役割 | 特徴 |
|---|---|---|
| ヒアルロン酸ナトリウム | 水分保持・潤滑 | 高い保水性、粘度適切 |
| カルボキシメチルセルロース(CMC) | 粘性付与・保護 | 眼表面滞留性が高い |
| ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC) | 粘性付与・潤滑 | 長時間の保湿 |
| 塩化ナトリウム・塩化カリウム | 涙液補充 | 生理食塩水に近い組成 |
「ドライアイ」と一口に言っても、涙の量が少ない「水分不足型」と、涙の質が悪い(蒸発が早い)「蒸発亢進型」があり、後者には脂質層を補う製品がより適することがあります。症状が続く場合は眼科でのシルマーテストやフルオレセイン染色検査などでタイプを確認してもらうことを勧めます。
正しい点眼フロー(保存版)
- ① 手を石けんで洗う
- ② 容器の先端は 絶対にまつ毛・眼球に触れさせない
- ③ 下まぶたを引いて"あっかんべー"
- ④ 1滴落とす
- ⑤ 静かに目を閉じる(パチパチ瞬きしない)
- ⑥ 目頭(鼻側)を人差し指で1分間軽く押さえる(鼻涙管圧迫法)
- ⑦ 溢れた液はティッシュで拭う
- ⑧ 2剤目があれば5分待ってから繰り返す
「瞬きすると薬が広がる」と思っている方、実は 逆効果。瞬きすると涙液ポンプが働き、薬液が鼻涙管へ排出されてしまいます。鼻涙管をふさいでじっとしているほうが、結膜嚢に薬が留まる時間が延びる、というのが薬物動態的な正解です。
鼻涙管圧迫法(ナソラクリマル・オクルージョン)の効果
目頭の内側、鼻の付け根に近い部分に「涙点(るいてん)」と呼ばれる穴があり、ここから涙液・薬液が鼻涙管を通って鼻・咽頭へと排出されます。この涙点を指で優しく押さえることで排出を物理的に遅らせ、薬液が眼表面に留まる時間を延長できます。
研究によれば、鼻涙管圧迫法を行うことで、眼局所での薬物濃度が維持されるとともに、鼻涙管経由の全身吸収量が減少するとされています。特に血管収縮剤や他のα作動薬を含む点眼薬では、全身副作用(動悸、血圧上昇など)を軽減するためにも有用です。
「あっかんべー法」の手技ポイント
下まぶたを引いて「下穹窿(かきゅうりゅう)部」という結膜嚢のポケットを作り、そこに点眼するのが「あっかんべー法」です。
- 指を当てる位置:下まぶたの縁(まつ毛のすぐ下の皮膚)を指で軽く引き下げる
- 容器との距離:点眼瓶の先端を眼から1〜2cm程度離す(近すぎると触れる、遠すぎると液滴が散る)
- 視線:やや上を向くと角膜が上にずれ、液滴が直接角膜に当たりにくくなる
- 息を吐いて:点眼の瞬間は息を止めず、自然な状態で行う
開封後の使用期限と保管
- 未開封:箱に印字された使用期限まで
- 開封後:一般的に 約1か月 が目安(製品の添付文書を必ず確認)
- 保管:直射日光・高温多湿を避ける。冷蔵指示がある製品(一部の抗菌点眼など)は冷蔵庫へ
- 見た目の変化:濁り、変色、浮遊物が出たら期限内でも破棄
なぜ開封後1か月なのか
開封後の点眼薬は、使用のたびに外気・環境・手指に触れるリスクが生じます。防腐剤配合品でも、防腐剤の濃度が時間とともに低下したり、薬液自体が空気中の酸素・光・熱によって酸化・分解されたりします。特にビタミンB12(シアノコバラミン)配合品のピンク〜赤色が薄くなってきたら、分解が進んでいるサインです。
保管場所として「引き出しの中・洗面台下の棚」を選ぶ方が多いですが、浴室近くは高温多湿になりやすく不適切です。室温(1〜30℃程度)、直射日光を避けた場所が基本です。
薬剤師メモ:開封日を本体にマジックで書く習慣をつけておくと、家族で共用していてもトラブルが減ります。なお目薬は 個人専用。家族間で貸し借りしないでください(感染症のキャッチボールになります)。
旅行・外出時の携帯保管
夏季の車内(特にダッシュボードや窓際)は60〜70℃に達することがあり、点眼薬の変質が急速に進みます。クーラーボックスへの保管や遮光ポーチの使用を推奨します。防腐剤フリーの使い切りタイプは、個別の包装がそのまま保護になるため携帯に有利です。
海外旅行中に現地で目薬が必要になった場合は、成分名(一般名)を英語で伝えるのが確実です。たとえばケトチフェンはketotifen、クロモグリク酸はcromoglicic acid(またはcromolyn sodium)として世界的に通用します。
市販目薬の成分早見表(OTCでよく見る有効成分)
| 目的 | 代表的な有効成分(一般名) | 主な薬理作用 | 注意事項 |
|---|---|---|---|
| 充血除去 | テトラヒドロゾリン塩酸塩、ナファゾリン塩酸塩 | α受容体刺激→血管収縮 | 連用禁止・リバウンドあり |
| 抗アレルギー | ケトチフェンフマル酸塩 | H1受容体拮抗+遊離抑制 | コンタクト併用は製品による |
| 抗アレルギー(予防型) | クロモグリク酸ナトリウム | マスト細胞安定化 | 症状前から継続使用 |
| ドライアイ・潤滑 | ヒアルロン酸ナトリウム、CMC、HPMC | 水分保持・潤滑 | PF製品推奨(頻回使用時) |
| 眼疲労・ビタミン | シアノコバラミン(ビタミンB12)、塩酸ピリドキシン(B6) | 眼筋機能補助 | 着色するため注意 |
| 抗炎症(軽度) | グリチルリチン酸二カリウム | 抗炎症 | 補助的作用 |
| 収れん(軽度炎症) | 硫酸亜鉛 | タンパク変性による収れん | 過剰使用は刺激 |
こんなときは眼科へ:OTC目薬では対処できないサイン
最後に、市販目薬で様子を見てよい症状と、眼科受診が必要な症状の目安を整理します。
OTC目薬で経過観察が考えられる症状(目安)
- 軽度の痒み・充血(原因が明らかなアレルギー・疲労)
- 軽度のドライアイ感(乾燥した環境・PC作業後)
- 2週間未満の軽度な不快感
以下に該当する場合は速やかに眼科受診を推奨します
- 2週間以上続く充血・目やに・不快感
- 強い痛み・異物感
- 視力の低下・かすみ・光がまぶしい
- 目やにが大量・黄緑色(細菌感染の疑い)
- 外傷・異物混入
- 目のまわりの腫れ・発赤
- コンタクトレンズ装用中の急な充血や痛み
特にコンタクトレンズ関連の眼トラブルは、放置によって角膜潰瘍や失明リスクに発展するケースがあるため、迷わず眼科受診してください。
まとめ
目薬は「1滴・5分・1分押さえる」が3つの合言葉。安いからと充血用を毎日差し続けたり、コンタクトの上から防腐剤入りを差したりするのは、長期的には目にとってマイナス方向に働く可能性があります。症状が2週間以上続く、視力低下や強い痛みを伴う場合は、市販薬で粘らず眼科を受診してください。具体的な製品選びは、購入店舗の薬剤師・登録販売者、または眼科医にご相談を。
一見シンプルな目薬も、結膜嚢の容量・防腐剤の化学・α受容体の薬理・鼻涙管の解剖という複数の科学が絡み合っています。正しい知識で使えば、市販品でも十分に目のコンディションを守ることができます。
参考文献
-
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「添付文書の読み方・使い方」一般用医薬品に関する情報 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/0001.html
-
厚生労働省「セルフメディケーション推進のための環境整備に向けた一般用医薬品等に関する調査事業報告書」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/topics/tp150121-1.html
-
公益財団法人 日本眼科学会「目の病気」ドライアイ・アレルギー性結膜炎 https://www.nichigan.or.jp/public/disease/
-
公益社団法人 日本薬学会「目薬の正しい使い方」くすりの適正使用協議会 https://www.rad-ar.or.jp/use/use_02.html
-
日本医療機能評価機構 くすりの適正使用協議会「点眼剤の取り扱いに関する情報」 https://www.rad-ar.or.jp/
-
FDA (U.S. Food & Drug Administration), "Eye Drops and Ointments," Drug Safety and Availability. https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability
-
厚生労働省「コンタクトレンズの安全使用について」(薬事・食品衛生審議会資料) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/contact/index.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))