【ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)】バクタの機序・副作用・相互作用を薬剤師が解説

概要

ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は、スルホンアミド系抗菌薬とジアミノピリミジン系抗菌薬の複合製剤です。両成分は葉酸合成経路の異なるステップを阻害し、相乗作用により幅広い細菌・原虫に対する抗菌活性を示します。尿路感染症、呼吸器感染症、カリニ肺炎予防など多様な感染症治療に用いられます。


機序(作用機序)

葉酸代謝阻害による協調的抗菌作用

スルファメトキサゾールトリメトプリムは、細菌の葉酸合成経路の異なる2段階を阻害することにより相乗作用を発揮します。

スルファメトキサゾールの機序

スルファメトキサゾールはジヒドロ葉酸合成酵素(DHFS)を阻害します。細菌の葉酸合成経路では、パラアミノ安息香酸(PABA)がジヒドロ葉酸に変換されます。スルファメトキサゾール分子はPABA構造に類似しており、基質競争阻害によってDHFSに結合し、ジヒドロ葉酸の生成を阻止します。その結果、核酸(プリン・ピリミジン)合成に必須の補酵素である**テトラヒドロ葉酸(THF)**が低下し、DNA合成が抑制されます。

トリメトプリムの機序

トリメトプリムはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を阻害します。DHFR酵素は、ジヒドロ葉酸からTHFへの還元反応を触媒します。トリメトプリムはジヒドロ葉酸の構造類似体として作用し、DHFR活性部位に高い親和性で結合し、還元反応を阻害します。これにより、たとえスルファメトキサゾール単独では若干の菌が残存しても、トリメトプリムによるDHFR阻害でそれらも排除されます。

相乗作用の根拠

この組み合わせは逐次的二重ブロック(sequential double blockade)と称され、葉酸合成の上流(スルファ薬)と下流(トリメトプリム)を同時に遮断することで、単剤使用時より 低い濃度でも高い抗菌効果を発揮します。また、この相互補完的な阻害により耐性菌の出現も抑制される傾向にあります。

活性スペクトラム

グラム陽性菌(肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌)、グラム陰性菌(大腸菌、プロテウス、シゲラ)、及びニューモシスチス・カリニなどの原虫に有効です。


薬物動態

項目 スルファメトキサゾール トリメトプリム
吸収 経口投与で85~90%腸管吸収
食事による影響は軽微
経口投与で4060%吸収
ピーク血中濃度(Tmax): 1
4時間
分布 Vd: 0.30.4 L/kg
血清タンパク質結合: 50
70%
組織移行性中等度
Vd: 0.81.8 L/kg
血清タンパク質結合: 40
70%
肺・腎・前立腺への移行良好
半減期 7~12時間 8~15時間
代謝 肝臓でのアセチル化(主要)、ハイドロキシル化(CYP3A4関与)
N-アセチルスルファメトキサゾールなどの不活性代謝物が主体
代謝型はアセチル化速度の遺伝的多型を受ける
肝臓での酸化および還元代謝(CYP2C8, CYP3A4, CYP4F系)
ハイドロキシ化体、アミン化体などが生成
30~50%は未変化体として存在
排泄 尿中排泄: 40~60%(一部は有機酸分泌で排出)
便・胆汁: 微量
腎不全時に代謝物蓄積のリスク
尿中排泄: 50~80%(一部未変化体)
代謝物も活性を保有し、尿路感染症に有利
糸球体濾過と能動分泌で排泄
重要な相互作用対象 CYP2C9, CYP3A4誘導・阻害薬 CYP2C8, CYP3A4阻害薬
有機アニオン輸送体(OAT)阻害薬

代謝・排泄の臨床的意義

腎機能低下患者(eGFR<30 mL/min)ではトリメトプリム特に蓄積しやすく、用量調整が必須です。肝機能障害患者でもスルファメトキサゾール代謝物が蓄積する可能性があり、注意が必要と考えられます。


適応

日本の保険適応(バクタ/バクトラミン)

  • 尿路感染症(急性膀胱炎、腎盂腎炎など)
  • 呼吸器感染症(急性気管支炎、肺炎など)
  • 胆道感染症
  • 腸管感染症(赤痢、チフスなど)
  • ニューモシスチス・カリニ肺炎の治療および予防
  • 中耳炎、副鼻腔炎

海外の代表的適応

米国(FDA承認)

  • Uncomplicated urinary tract infection (UTI)
  • Acute otitis media
  • Acute exacerbation of chronic bronchitis
  • **Pneumocystis jirovecii pneumonia (PCP)**治療・予防(特にHIV患者)
  • Toxoplasmosis 予防(HIV患者)
  • Certain Gram-negative and Gram-positive bacterial infections

EU

  • 尿路感染症、呼吸器感染症(上記と類似)
  • PCP予防が特に重要な適応
  • 一部国では入院患者の用途に限定される場合あり

豪州・その他先進国

  • 蜂窩織炎、膿皮症などの皮膚感染症への適応も広い傾向

実臨床での使用上の注意

日本では近年、スペクトラムの広い新規抗菌薬が登場したため、ST合剤の使用頻度は相対的に低下しています。特にPCP予防はHIV患者で重要ですが、日本でのHIV流行規模を考慮すると処方場面は限定的です。


禁忌

絶対禁忌

  • スルファメトキサゾール、トリメトプリム、またはスルホンアミド系薬剤に対する過去の過敏反応
    • アナフィラキシス、Stevens-Johnson症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TENS)の既往者は絶対禁忌
  • 重篤な肝機能障害
    • 肝硬変、劇症肝炎など
  • 重篤な腎機能障害(eGFR<15 mL/min、透析患者)
    • 薬物蓄積により重篤な毒性リスク
  • 葉酸欠乏症またはmegaloblastic anemiaの既往
    • さらなる葉酸産生抑制により造血系が危機的になるリスク

慎重投与(相対的禁忌)

  • 中等度の肝機能障害(AST/ALT > 2倍正常値, Total bilirubin > 2 mg/dL)
  • 中等度の腎機能障害(eGFR 15~60 mL/min)
    • 用量調整が必須
  • 高齢者(特に75歳以上)
    • 薬物動態変化、併用薬増加、脱水リスク
  • 葉酸欠乏のリスク因子
    • 栄養不良、アルコール多飲、他の葉酸拮抗薬併用
    • 妊娠中(特に第1, 3トリメスター)
  • 電解質異常(低ナトリウム血症の素因)
  • G6PD欠損症
    • スルファ薬による溶血性貧血のリスク
  • ポルフィリアの既往

主な相互作用

主要な相互作用成分と機序

1. メトトレキサート(MTX)

  • 機序: 両者ともDHFR阻害により葉酸代謝を抑制。相加作用で骨髄抑制、肝毒性が増強
  • 臨床的対応: 併用禁忌。MTX治療中の患者には原則として避ける
  • モニタリング: 必要時はCBC, LFT厳密監視

2. ワルファリン(クマリン系経口抗凝固薬)

  • 機症: スルファ薬がワルファリンの血清タンパク質結合を競争的に置換、また腸内細菌由来のビタミンK合成阻害によりプロトロンビン時間(PT-INR)延長
  • リスク: 出血リスク増加(特に初期)
  • 対応: PT-INR を治療開始3~5日後に測定し、用量調整。連携必須

3. ACE阻害薬(エナラプリル、リシノプリル等)

  • 機症: ST合剤によるアルドステロン分泌抑制 + ACE阻害による相加作用でカリウム再吸収抑制が増強
  • リスク: 高カリウム血症、特に腎不全患者で危険
  • 対応: 血清K値、Cr 監視。腎機能低下者では併用を回避

4. メトホルミン

  • 機序: トリメトプリムが有機カチオン輸送体(OCT2)を阻害し、メトホルミン尿細管分泌を抑制
  • リスク: メトホルミン蓄積 → 乳酸アシドーシス(特に腎不全患者)
  • 対応: eGFR<60 mL/min では確認が必要

5. シクロスポリン

  • 機序: スルファ薬がシクロスポリン代謝を競争的に阻害(CYP3A4)
  • リスク: シクロスポリン血中濃度上昇 → 腎毒性, 免疫抑制過剰
  • 対応: 血中濃度監視(Trough濃度100~200 ng/mL), 用量調整検討

6. ジゴキシン

  • 機症: トリメトプリムが有機カチオン輸送体(OCT1/2)阻害によりジゴキシン尿細管分泌を抑制
  • リスク: ジゴキシン毒性(不整脈, 嘔気)
  • 対応: ジゴキシン血中濃度監視(治療範囲 0.5~2.0 ng/mL)

7. プロベネシド(尿酸低下薬)

  • 機症: ST合剤の尿細管分泌を低下させ、血中濃度上昇
  • リスク: 薬効増強・副作用増加、結晶尿
  • 対応: 併用時は用量や投与間隔調整の検討

8. フェニトイン

  • 機症: スルファ薬がフェニトイン代謝を競争的阻害(CYP2C9)、逆にフェニトイン誘導系酵素がスルファ代謝を亢進
  • リスク: フェニトイン血中濃度上昇 → 神経毒性;スルファ代謝物蓄積
  • 対応: フェニトイン濃度監視(治療範囲 10~20 μg/mL), 用量調整

9. ピリメサミン(抗マラリア・トキソプラズマ薬)

  • 機症: 両者ともDHFR阻害により葉酸代謝を二重に抑制
  • リスク: 骨髄抑制(白血球減少), megaloblastic anemia
  • 対応: 併用時はfolinic acid(ロイコボリン) 5~10 mg/日 併用で葉酸補給必須

10. NSAIDs(特にインドメタシン)

  • 機症: NSAIDが腎血流低下 → ST合剤の腎排泄低下;また血清タンパク結合競争
  • リスク: 急性腎不全, 高カリウム血症
  • 対応: 併用は慎重に。腎機能・電解質監視

副作用

頻発(1~10%)

  • 悪心・嘔吐: 消化管刺激。食事摂取で軽減可能性
  • 頭痛: 一般的で多くは軽度、継続で消失傾向
  • 食欲不振
  • 下痢: 腸内菌叢変化による。C. difficile 関連下痢(CDAD)リスク

時々(0.1~1%)

  • 皮疹(斑状丘疹性)
    • スルファアレルギーが背景。初期対応で中止検討
  • 頭のくらみ・ふらつき: 脱水や電解質異常が関連
  • アレルギー性関節痛: HLA-B*5801関連、特にアジア系で稀ではない
  • 結晶尿: 特に高用量・脱水時。尿量を増やすことで予防
  • 肝酵素上昇(AST/ALT が軽度上昇): 薬物性肝炎前駆症状と考えられる
  • 軽度の貧血: 葉酸消費増加が関与

まれ(0.01~0.1%)

  • Stevens-Johnson症候群(SJS)
    • スルホンアミド系薬剤の中でも比較的リスク高い
    • 初期症状: 皮疹(口腔粘膜を含む), 発熱, 眼充血
    • 発生時期: 投与後1~6週間が典型的
  • 中毒性表皮壊死融解症(TENS)
    • SJS の重症型。致死率 10~30%
  • 急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
    • 膿疱性発疹が急速に出現、38℃以上の発熱を伴う
  • 薬剤起因性肝炎
    • 劇症型は稀だが、AST/ALT > 10倍, T. bilirubin > 5 mg/dL で即中止
  • 造血系抑制
    • White blood cell (WBC)< 2500 /μL
    • Platelet< 50,000 /μL
    • Hemoglobin < 7.0 g/dL
    • 機序: 葉酸消費による megaloblastic anemia, 直接骨髄抑制
  • 溶血性貧血
    • G6PD欠損患者で特にリスク

重篤(0.001~0.01%, または報告数ベース)

  • アナフィラキシス
    • 初回投与後数分〜数時間以内に呼吸困難, 血管浮腫, 喉頭浮腫
  • 急性腎不全
    • 急速な尿量低下, Cr 急上昇, 結晶尿形成が前駆症状と考えられる
    • 特に脱水, 既存腎疾患患者で危険
  • 高カリウム血症(K > 6.5 mEq/L)
    • 心電図異常(T波高鋭化, QRS延長)まで進展可能
    • ACE/ARB併用患者で高リスク
  • 低ナトリウム血症(SIADH)
    • 血清Na < 125 mEq/L で意識障害, けいれん
  • 肺炎型薬物性肺障害
    • 咳嗽, 呼吸困難, 胸部X線で浸潤影
    • 特にPCP治療中に報告例あり

重篤副作用の初期信号

  • 皮疹(特に顔面・躯幹, 口腔粘膜を含む)
  • 発熱 > 38.5°C
  • 黄疸(T. bilirubin > 2.5 mg/dL)
  • 高度な倦怠感
  • 咽頭痛
  • 眼充血

これらが出現した場合、即座に医療機関に連絡し、投薬継続の判断を求めることが重要です。


妊娠・授乳区分

FDA分類(旧カテゴリ)

  • スルファメトキサゾール: Category C(トリメトプリム含有製剤のため第1, 3トリメスター), Category D(第3トリメスター)
    • 根拠: 胎仔への葉酸合成抑制による催奇形性の理論的リスク、及び新生児の高ビリルビン血症リスク
  • トリメトプリム: Category C

実臨床での使用

日本の添付文書区分: 妊婦には投与しないこと(禁忌)

  • 理由: 動物試験で胎仔毒性報告、及び大規模ヒト試験での催奇形性データ不足
  • ただし、やむを得ない場合は第2トリメスターでの短期使用が考慮される(医学的必要性と危険性のバランス判断)

授乳

  • スルファメトキサゾール: 母乳移行率 40~60%, 新生児への暴露リスク(黄疸, 溶血性貧血)
    • 新生児(特に< 1ヶ月)は授乳中止を検討
    • 1ヶ月以上の乳児: 相対的安全性は高いが、G6PD欠損の家族歴がある場合は慎重
  • トリメトプリム: 母乳移行率 50~80%
    • 新生児への蓄積リスク
    • やはり新生児では授乳中止推奨

PLLR (Poisons List, Level, Rating) / L値

  • 日本ではPLLRの概念は採用されていないため、L値も適用外
  • 代わりに、医学的に必要があれば産科医・薬剤師の判断で検討

WHO / 国際ガイドライン

  • WHO: 妊婦への使用は第1, 3トリメスターで避ける。第2トリメスターのみ検討
  • ILAE(国際てんかん学会): 妊婦に抗菌薬が必須な場合、ST合剤は第2選択肢(β-ラクタム系が第一選択)

世界規制サマリ

国・地域 入手可否 処方箋要否 販売形態 備考
日本 ○ (医療用のみ) 医療用医薬品
(バクタ, バクトラミン他)
保険適応あり。OTC販売なし
米国(FDA) ○ (Rx) Bactrim, Septra 他
複数ジェネリック
FDA承認品あり
PCP予防での使用多い
カナダ ○ (Rx) Bactrim, Apo-Sulfatrim他 同等のアクセス
EU(UK, ドイツ他) ○ (Rx) PharmaSwiss Septrin他 医療制度によりアクセス差あり
豪州 ○ (Rx) Bactrim, Trimethoprim他 PBS(Pharmaceutical Benefits Scheme)適応
一定条件で患者負担軽減
インド △ (地域差) 複数ジェネリック 医療用・OTC混在
規制が緩く入手容易
タイ △ (地域差) Bactrim, Septrin他 薬局での処方箋なし販売多い
品質管理が国によって差あり
シンガポール ○ (Rx) Bactrim他 医療制度が充実
フィリピン △ (地域差) 複数ジェネリック 規制が比較的緩く入手容易
中東(UAE, SA等) ○ (一部Rx, 薬局販売も) 複数ブランド・ジェネリック UAE では医療制度により異なる
中国 TMP-SMX製品多数 医療制度内では入手可
ジェネリック豊富
ロシア/CIS Bactrim他ローカル名 アクセス比較的良好

規制の補足

  • 米国: PrEP(HIV exposure prevention)や特定の感染症予防でST合剤の処方が一般的
  • EU: 医療保険制度が国により大きく異なるため、処方可能でも患者負担に差
  • インド・タイ・フィリピン: 医療規制が先進国より緩く、薬局での直接販売が可能な地域も存在。ただし医療の質にばらつき
  • 中東: 日本円換算で高額になることもあり、旅行中の用意には注意

類似成分・代替

同一機序(二重葉酸合成阻害)

  • なし(ST合剤の組み合わせは唯一)

同カテゴリ(広域抗菌薬)

1. キノロン系(例: レボフロキサシン, シプロフロキサイン)

  • 機序: DNA gyrase/topoisomerase IV 阻害
  • 利点: 経口吸収優秀, 肺・腎移行性良好, 耐性菌が比較的少ない(現時点)
  • 欠点: テンドン障害, QT延長, 光感作性

2. 第3世代セファロスポリン(例: セフトリアキソン, セフィキシム)

  • 機序: ペプチドグリカン合成阻害(β-ラクタマーゼ耐性)
  • 利点: スペクトラム広い, アレルギー反応少ない
  • 欠点: 静脈/筋肉注射が必要なものが多い, 経口は限定的

3. β-ラクタマーゼ阻害薬配合製剤(例: アモキシシリン・クラブラン酸)

  • 機序: ペプチドグリカン合成阻害
  • 利点: ST合剤より初期感染症治療での一般的選択肢
  • 欠点: 嫌気性菌や原虫(PCP)には無効

4. テトラサイクリン系(例: ドキシサイクリン, ミノサイクリン)

  • 機序: リボソーム30S亜単位阻害
  • 利点: 経口吸収良, 肺移行性優秀(PCP予防代替薬)
  • 欠点: 光感作性, 食道潰瘍リスク, 妊娠中禁忌

5. ペンタミジン(PCP代替)

  • 用法: ネブライザー吸入, または静脈注射
  • 利点: ST合剤不耐性患者に選択肢
  • 欠点: 腎毒性, 低血糖リスク, 専門的投与環境が必要

渡航時の注意

日本からの海外持ち込み

医療先進国(米国, EU, 豪州, シンガポール等)

  • ビザ・税関:
    • 通常、医療用医薬品として処方箋付きなら 3ヶ月分程度の持ち込みは可能
    • ただし国により異なるため、事前に在外公館(大使館・領事館)に確認推奨
  • **英文書

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