【アトピー性皮膚炎】の薬一覧——薬剤師が種類・機序・使い分けを解説

概要

アトピー性皮膚炎(AD)は、Th2優位の免疫異常と皮膚バリア機能低下を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患です。日本人口の5~10%が罹患し、かゆみと湿疹が反復する経過をたどります。薬物治療は段階的アプローチに従い、軽症~中等症ではステロイド外用やタクロリムス外用が第一選択;重症例や難治性では生物学的製剤(デュピルマブ)やJAK阻害薬外用(デルゴシチニブ)が追加されます。基礎治療(保湿・スキンケア)と併用で寛解導入・維持を目指します。


治療の基本方針

日本皮膚科学会ガイドラインに基づく薬物治療は、段階的エスカレーション原則に従います。

軽症

ステロイド外用(ウィークな効力:ⅣまたはⅤ群)と保湿剤が中心です。多くの患者がこの段階で寛解导入可能です。タクロリムス外用も選択肢となり、ステロイド塗布部位の萎縮リスク軽減に利用されます。

中等症

第一選択:ミディアムからストロングなステロイド外用(Ⅲ~Ⅱ群)に保湿剤を併用。効果不十分時はタクロリムス外用を追加。顔・頸部などステロイド使用に躊躇する部位ではタクロリムスの早期導入を検討します。デルゴシチニブ外用も軽~中等症で有効性が報告され、近年選択肢の一つとなっています。

重症

第一選択:ストロイド全身投与(短期間)と外用治療の併用、または生物学的製剤デュピルマブの導入。デュピルマブは2種類のサイトカイン受容体を阻害し、IL-4/IL-13シグナルを遮断することで高い有効性を示します。JAK阻害薬内服(バルシチニブなど)も難治性重症例の選択肢として検討されます。外用JAK阻害薬(デルゴシチニブ)の重症使用も増加しています。


薬効群別一覧

1. ステロイド外用薬

項目 内容
代表薬 フルオシノロンアセトニド(アルデシン®など)、トリアムシノロンアセトニド(レダコート®など)、プロピオン酸クロベタゾール(ダーモベート®など)
効力分類 Ⅰ群(最強)~Ⅴ群(弱)の5段階。軽症はⅣ~Ⅴ、中等症はⅡ~Ⅲ、重症はⅠ~Ⅱが標準
機序 グルココルチコイド受容体を介した転写因子NF-κB抑制、Th2サイトカイン(IL-4、IL-5)産生低下、好酸球浸潤減少
適応の位置付け 第一選択薬。軽・中等症の標準療法。短期集中使用で寛解導入が可能
主な副作用 皮膚萎縮、毛嚢炎、接触性皮膚炎。顔・頸部・皮膚皺襞の長期使用は避ける
禁忌・注意 感染症部位への使用禁止(感染悪化)。妊娠中は胎児への影響を考慮し、医師指示下に限定

2. タクロリムス外用薬

項目 内容
代表薬 タクロリムス水和物(プロトピック®):0.03%軟膏(小児)、0.1%軟膏(成人)
機序 カルシニューリン阻害薬。T細胞活性化を抑制し、IL-2、IFN-γなどの炎症サイトカイン産生を低下
適応の位置付け ステロイド併用・ステロイド効果不十分時の追加薬。顔・頸部など皮膚萎縮リスク部位の第一選択
主な副作用 使用部位の灼熱感・刺激感(初期に頻発)、局所感染症リスク増加。全身吸収は少ないが、長期大量使用時は免疫抑制に注意
禁忌・注意 感染症合併部位は避ける。妊娠中の安全性データが限定的なため医師相談必須。2歳未満への使用は禁忌

3. デルゴシチニブ外用薬

項目 内容
代表薬 デルゴシチニブ(オルミエント®):0.5%軟膏
機序 JAK1/JAK2阻害薬。Th2分化に関与するSTAT6リン酸化を抑制。IL-4/IL-13シグナル遮断
適応の位置付け 中等症~重症例の外用オプション。タクロリムスやステロイド非反応例での使用。比較的新規(2022年承認)
主な副作用 使用部位の刺激感。全身JAK阻害による帯状疱疹や感染症リスク(外用では限定的だが長期大量使用は注意)
禁忌・注意 2歳未満への使用は禁忌。ウイルス感染(特に帯状疱疹)既往のある患者は医師相談必須

4. 生物学的製剤(デュピルマブ)

項目 内容
代表薬 デュピルマブ(デュピクセント®):ペン型自己注射、300mg/0.6mL2週間ごと皮下注射
機序 IL-4受容体α(IL-4Rα)に結合しIL-4/IL-13シグナルを阻害。Th2分化と好酸球遊走を強力に抑制
適応の位置付け 重症・難治性ADおよび中等症で外用療法無効例。生物学的製剤として健康保険適用。中~長期療法に適す
主な副作用 結膜炎(10~20%で報告、多くは軽症)、頭痛、上気道感染。帯状疱疹や結膜ヘルペスのリスク増加報告
禁忌・注意 活動性感染症合併時は延期。妊娠中・授乳中の使用は現在のエビデンス不足で慎重投与。ワクチン(特に生ワクチン)は併用に注意

5. JAK阻害薬(内服)

項目 内容
代表薬 バルシチニブ(オルミエント®内服):2mg 1日1回。他にウパダシチニブ(保険収載予定)など
機序 JAK1/JAK2を阻害し、Th1/Th2サイトカイン(IL-4、IL-13、TNF-α、IFN-γ)の細胞内シグナルを遮断
適応の位置付け 重症・難治性AD、デュピルマブ無効例。外用療法で制御不可能な広範な皮疹に適用
主な副作用 帯状疱疹(5~10%で報告)、感染症リスク増加、クレアチニン上昇、LDL-C上昇。血栓症リスク報告あり(高齢患者で要注意)
禁忌・注意 活動性結核・重篤感染症合併は禁忌。65歳以上、心血管疾患・血栓症既往、喫煙者は医師による慎重評価必須。定期的な血液検査(感染症マーカー、脂質)

6. 非ステロイド抗炎症外用薬

項目 内容
代表薬 イクスモピ(コレクチム®):0.1%軟膏(PDE-4阻害薬)
機序 PDE-4(ホスホジエステラーゼ-4)阻害。cAMP増加により、マクロファージとT細胞からのIL-2、TNF-α産生を抑制
適応の位置付け 軽~中等症の外用オプション。タクロリムス同様、ステロイド非使用で顔部位への使用に有用
主な副作用 使用部位の灼熱感・刺激感。吸収は少ないが、全身の副作用は比較的少ない
禁忌・注意 ウイルス感染部位は避ける。妊娠中のデータ限定的。2歳未満の使用は禁忌

7. 保湿・スキンケア製品(薬学的位置付け)

項目 内容
代表薬 ワセリン、セラミド配合保湿乳液、尿素配合クリーム等
機序 角層の水分保持、バリア機能補強。経皮水分喪失(TEWL)低下
適応の位置付け 全患者に推奨される基礎治療。医学的治療の基盤;外用薬効果を高める
主な副作用 ごく稀に接触性皮膚炎。一般的に安全性は高い
禁忌・注意 塗布タイミング:入浴直後の湿潤状態への塗布で吸収効率が高い。油脂成分へのアレルギー既往者は成分確認

選択のポイント:患者背景別使い分け

高齢者(65歳以上)

ステロイド外用:一般的に安全。ただし皮膚萎縮リスク増加のため、顔部位では効力を1段階下げる検討。

タクロリムス外用:刺激感が強い傾向なため初期評価は慎重に。感染症リスク増加のため定期的な皮膚科診察を推奨。

JAK阻害薬内服(バルシチニブ):帯状疱疹リスク高、血栓症既往がある場合は禁忌候補。65歳以上の患者では月1回以上の定期検査、VZV抗体価確認後の使用判断が必須。

デュピルマブ:高齢者への安全性データは比較的良好ですが、結膜炎併発時の眼科診察体制を確保。

腎機能低下患者

ステロイド外用・タクロリムス外用:局所治療のため腎機能の影響は最小限。ただし内服併用時の全身吸収を考慮。

JAK阻害薬内服:腎排泄の寄与度がバルシチニブで約50%。eGFR <30 mL/min の場合は用量調整が必須(通常2mgから1mgへ減量)。

デュピルマブ:腎排泄は最小限(モノクローナル抗体)。腎機能による用量調整不要。

妊娠・授乳中患者

ステロイド外用(軽~中効力):妊娠中の使用は一般的に安全性が高い。ただし長期大量使用は回避。

タクロリムス外用:妊娠中のデータが限定的。医師と患者間での十分なインフォームドコンセント後、使用判断。

デルゴシチニブ外用:データ不足のため、妊娠中は原則避ける。代替として外用ステロイドまたはタクロリムスを検討。

デュピルマブ:IgG抗体であり胎盤通過するが、現時点で重大な奇形報告なし。ただし妊娠前からの継続使用が推奨(中断による疾患悪化リスク回避)。医師判断下で継続検討。

JAK阻害薬内服:妊娠中の使用は禁忌。催奇形性リスクが完全には除外されていません。計画妊娠時は医師と事前相談が必須。

授乳中:デュピルマブは母乳中への移行は極少(タンパク質)。JAK阻害薬は母乳移行データ不足で慎重投与。ステロイド外用・タクロリムス外用は授乳への影響極小。

感染症合併患者

ステロイド外用:細菌感染(膿痂疹)合併時は感染部位への直接塗布は禁忌。感染の沈静化後に使用再開。

タクロリムス外用:感染症リスク増加が報告されているため、活動性感染時は延期推奨。

デルゴシチニブ・JAK阻害薬:帯状疱疹既往のある患者、活動性結核合併患者は使用禁忌または要医師判断。VZV(水痘帯状疱疹ウイルス)再活性化リスク。

デュピルマブ:生ワクチンは併用禁忌。不活化ワクチンは原則可。ただし感染症の臨床症状がある場合は治療後に延期。


併用療法・順序:単剤失効時の追加・切替戦略

Step 1:軽症(外用療法のみ)

初期選択

  • ステロイド外用(Ⅳ~Ⅴ群)+ 保湿剤
  • または タクロリムス外用 + 保湿剤(顔・頸部重視症例)

効果判定:2~3週間

失効時の次段階:ステロイド効力を1段階上げる(Ⅲ群へ)、または部位によってはタクロリムスに切替


Step 2:中等症

初期選択

  • ステロイド外用(Ⅱ~Ⅲ群)+ 保湿剤
  • または ステロイド + タクロリムス併用(顔部位にはタクロリムス優先)

効果判定4週間

部分奏効時

  • ステロイド外用継続しつつ、デルゴシチニブ外用を追加
  • または タクロリムス併用を強化

失効時

  • デュピルマブ導入検討(中等症でも外用療法抵抗性ならば対象)
  • または 短期間のステロイド全身投与(プレドニゾロン換算0.5~1 mg/kg/日、2週間)を併用

Step 3:重症・難治性

初期選択

  • デュピルマブ + ステロイド外用 ± ステロイド全身投与(短期)
    • 導入時スタート:デュピルマブ600mg(体重32kg以上)、その後300mg 2週間ごと
    • ステロイド外用は同時併用し、疾患改善に伴い段階的に減量

不応答時(4~8週後)

  • JAK阻害薬内服(バルシチニブ 2mg 1日1回)に切替または追加
  • または 外用JAK阻害薬(デルゴシチニブ)を外用強化療法に追加

デュピルマブ + バルシチニブ併用

  • 極めて重症・多剤抵抗例では併用も検討対象(ただし感染症リスク増加に伴う定期検査が必須)

寛解維持療法

導入治療で改善後

  • ステロイド外用を段階的に減量
  • 保湿剤は継続(中止は寛解後も)
  • デュピルマブは通常300mg 2週間ごと継続(中断により再発リスク)
  • JAK阻害薬も寛解維持用量(通常1~2mg)での長期管理

再燃時

  • 導入時の治療レジメンに復帰、またはそれ以上を追加

非薬物療法:生活指導・食事・運動・手術の位置付け

スキンケア・保湿(最優先)

入浴

  • ぬるま湯(37~40℃)で1日1~2回、10~15分
  • 洗浄は低刺激性の石けん・ボディソープを少量使用
  • 入浴直後(3分以内)に保湿剤を全身に塗布(吸収効率が最大)

保湿製品

  • セラミド3成分、ヒアルロン酸配合クリーム
  • ワセリン(顔部位以外で厚塗り可)
  • 尿素配合クリーム(角化が強い部位)

洗濯・衣類

  • 綿100%の吸水性衣類を選択
  • 化学繊維(ポリエステル等)は避ける
  • 洗剤は低刺激性・香料フリー製品
  • すすぎを3回以上施行し洗剤残留を最小化

食事・栄養管理

エビデンス限定的:栄養学的に特定の食事療法が有効性を示すエビデンスは限定的です。

推奨アプローチ

  • 患者が特定の食品(鶏卵、乳製品、落花生等)で症状悪化を自覚する場合、医師指導下で除去食トライアル
  • ただし栄養不良を避けるため、栄養士相談を推奨
  • 腸内フローラとADの関連性が研究中(プロバイオティクス、プレバイオティクス)だが、治療の第一線にはなっていない

喫煙・受動喫煙回避

  • 喫煙は皮膚バリア機能をさらに低下させ、AD悪化のリスク

ストレス管理・睡眠

心理社会的因子

  • ストレスはコルチゾール低下を通じて免疫Th2シフトを促進
  • 睡眠不足も同様に悪化因子
  • 認知行動療法、リラクゼーション療法の導入

推奨

  • 十分な睡眠(7時間以上)
  • マインドフルネス・瞑想
  • 定期的な軽い運動(週3回程度のウォーキング)

運動・温熱療法

一般的な運動

  • 軽~中強度の有酸素運動は免疫バランス改善に有利
  • ただし大量発汗後は迅速なシャワーと保湿を推奨(汗の刺激回避)

温熱療法

  • 温泉・銭湯は一般的に推奨されるが、塩分濃度の高い温泉や高温(>42℃)は避ける
  • 常温プールでの運動後は脱塩素シャワー+保湿剤

手術・物理療法(位置付け)

NB-UVB(ナローバンドUVB)療法

  • 中等~重症の外用療法抵抗例に有効
  • 医療機関での管理下治療:週2~3回、3~4ヶ月継続
  • 保険適用あり

フォトセラピー(PUVA等)

  • より古い療法。NB-UVBが優先

手術

  • 通常のADでは手術適応はない
  • ただし難治性部位(例:肘部の厚い苔癬化皮膚)に対しては、皮膚科と形成外科の相談で選択肢に

参考文献

日本のガイドライン

  1. 日本皮膚科学会/日本アレルギー学会編「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2023年版」

  2. 厚生労働省 医薬品医療機器総合機構(PMDA)

国際ガイドライン(参考)

  1. American Academy of Dermatology, "Atopic Dermatitis: A Systematic Review and Evidence-Based Clinical Practice Guideline" (2014 update)

  2. European Academy of Dermatology and Venereology (EADV), "Atopic Dermatitis: Management and Treatment" (2023)

文献データベース


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