フィリピン渡航者向け予防接種ガイド:必須ワクチン・スケジュール・費用完全解説
フィリピンは温暖な気候と豊かな観光資源が魅力的な渡航先です。しかし感染症のリスクは日本より高く、適切な予防接種は健康で安全な滞在の基本です。本記事では、薬剤師視点から「渡航前に何を接種すべきか」「いつまでに準備するか」「費用はいくらか」を実用的に解説します。
フィリピンはASEAN諸国の中でも、狂犬病・デング熱・腸チフスなど複数の感染症が同時に流行する「多重感染症リスク地域」として知られています。WHOおよびCDCは、短期観光客から長期在留者まで幅広く複数のワクチン接種を推奨しており、渡航者自身が接種スケジュールを正確に把握することが重要です。薬学的視点では、各ワクチンの「作用機序」「免疫誘導に要する日数」「他ワクチンとの相互作用」を理解することで、限られた渡航前の時間を最大限に活用できます。
フィリピン渡航前の予防接種:必須・推奨一覧
必ず接種すべき予防接種
フィリピンでの感染リスクと日本の予防接種率を考慮すると、以下のワクチンは渡航前4〜6週間のうちに接種完了することを強く推奨します。
| ワクチン名 | 対象疾患 | 推奨度 | 接種回数 | 間隔 |
|---|---|---|---|---|
| 黄熱病 | 黄熱病(蚊媒介) | 必須 | 1回 | 1回のみ |
| A型肝炎 | A型肝炎(飲食物感染) | 必須 | 2回 | 0日、6〜12か月後 |
| B型肝炎 | B型肝炎(血液・体液感染) | 推奨 | 3回 | 0日、1か月、6か月 |
| 腸チフス | 腸チフス(飲食物感染) | 推奨 | 1回 | 不要 |
| 日本脳炎 | 日本脳炎(蚊媒介) | 推奨※1 | 2回 | 1〜4週間後 |
| 狂犬病 | 狂犬病(動物咬傷) | 推奨※2 | 3回 | 0日、7日、21日 |
※1 長期滞在(1か月以上)・農村部滞在の場合、またはマニラなど都市部でも蚊への露出が多い季節
※2 動物との接触機会がある場合
薬剤師メモ フィリピンはWHO黄色熱地域に指定されており、マニラ到着時に黄熱病予防接種証明書(イエローカード)の提示を求められることがあります。ただし実際の提示要求は渡航ルートによります。重要なのは、他国経由でフィリピンに入国する場合、その経由国によっては黄熱予防接種証明書が必須になることです。たとえばアフリカや中南米の黄熱病流行国を経由して入国する際は、フィリピン側も証明書を要求します。事前に外務省の感染症危険情報および各航空会社の規定を確認してください。
ワクチンの種類と免疫誘導の仕組み
渡航者向けワクチンを薬学的に分類すると、大きく「生(弱毒化)ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」の3種類に分かれます。この分類は、接種間隔ルールや禁忌の根拠に直結するため理解が重要です。
| 分類 | 例 | 特徴 | 接種間隔の制限 |
|---|---|---|---|
| 生(弱毒化)ワクチン | 黄熱病、麻疹・風疹・水痘 | 生きたウイルスを弱毒化して投与。1回接種で強い細胞性免疫 | 他の生ワクチンとの同時接種不可(原則27日以上の間隔) |
| 不活化ワクチン | A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフス(注射)、日本脳炎 | 死滅・不活化した病原体や成分を投与。複数回接種で抗体価上昇 | 他ワクチンとの間隔制限なし(同日異部位接種可) |
| トキソイド | 破傷風 | 毒素を無毒化して投与 | 不活化ワクチンと同様 |
この分類を踏まえることで、「なぜ黄熱病ワクチンを接種してから27日経たないと他の生ワクチンを打てないのか」が明確になります。生ウイルスが体内で複製・増殖している期間中に別の生ワクチンを接種すると、免疫干渉(interference)が生じて双方の免疫誘導が低下するリスクがあるためです。
各ワクチンの詳細:感染症リスクと接種情報
黄熱病ワクチン
感染リスク: フィリピン全域で蚊媒介リスク有。特にミンダナオ島南部で高い
- 有効性: 1回接種で約95%の有効性、ほぼ生涯免疫獲得
- 副反応: 軽度の発熱・倦怠感(1〜2日で回復)
- 費用: 8,000〜12,000円(目安)
- 接種可能施設: 検疫所併設の予防接種実施機関のみ(全国約50施設)
薬学的解説:黄熱病ワクチンの作用機序
黄熱病ワクチン(17D株)は生弱毒化ワクチンです。投与後、弱毒化された生ウイルスが体内で限定的に複製し、ウイルスに対するCD4陽性・CD8陽性T細胞(細胞性免疫)と中和抗体(液性免疫)の両方を誘導します。接種後10日前後で防御的な抗体価に達し、1回接種でほぼ終生免疫が成立することが特徴です。WHOは2016年に「1回接種で生涯有効」と改訂しており、かつて10年ごとの追加接種が推奨されていた方針は廃止されています。
なお、黄熱病ワクチンは「卵アレルギー」がある方には禁忌または要注意であり、接種前に必ず申告が必要です。また免疫抑制状態(HIV感染、ステロイド長期投与など)の方も禁忌に準じます。
薬剤師メモ 黄熱病ワクチンは「生ワクチン」のため、他の生ワクチン(麻疹・風疹・水痘など)との同時接種は不可。接種から27日以上の間隔を空ける必要があります。逆に不活化ワクチン(A型肝炎、腸チフスなど)とは同日接種が可能です。
A型肝炎ワクチン
感染リスク: 水道整備の不十分な地域での飲食物感染が多発。バックパッカーや農村部滞在者は特に注意
A型肝炎ウイルス(HAV)は経口感染(糞口感染)する一本鎖RNAウイルスです。フィリピンでは上下水道の整備状況にばらつきがあり、汚染された水や食品を介した感染が発生しています。日本はHAV流行の少ない国であるため、成人の多くが抗体を持っておらず、渡航者に特にリスクが高い感染症の一つです。
| 成分名(一般名) | 接種回数 | 費用目安(1回) |
|---|---|---|
| A型肝炎ワクチン(不活化) | 2回(6〜12か月間隔) | 4,000〜6,000円 |
- 推奨スケジュール: 初回接種→6〜12か月後に2回目
- 渡航が急な場合: 初回→2〜4週間後に2回目接種で短期的な免疫形成は可能(ただし長期免疫確立には帰国後の追加接種を推奨)
- 有効性: 2回接種で99%以上の長期免疫(15〜30年以上と推定)
薬学的解説:A型肝炎ワクチンの免疫動態
不活化ワクチンの特性として、接種後に樹状細胞が抗原を取り込んでMHCクラスII経路でCD4陽性T細胞に提示し、B細胞を活性化してIgG抗体産生を誘導します。初回接種後は免疫記憶(メモリーB細胞)が形成されるため、2回目接種(ブースター)により抗体価が急激かつ持続的に上昇します。この「初回感作+ブースター」の仕組みにより、2回接種後は数十年にわたる防御免疫が維持されます。
B型肝炎ワクチン
感染リスク: 医療機関での針刺し事故、不衛生な入れ墨・ピアス施設での感染リスク
B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスであり、血液・体液感染が主な感染経路です。フィリピンはHBV感染の中等度流行国であり、日本の成人で免疫を持たない方は渡航前接種が推奨されます。長期滞在者、医療従事者、現地パートナーのいる方では特に優先度が高い。
- 標準スケジュール: 0日、1か月、6か月(計3回)
- 迅速スケジュール: 0日、7日、21日、12か月後(Engerix-Bの4回接種法)
- 費用: 1回あたり4,000〜5,500円(合計12,000〜16,500円)(目安)
- 有効性: 3回接種で約95%の長期免疫(少なくとも30年と推定)
薬学的解説:組換えタンパク質ワクチンの特性
現在使用されているB型肝炎ワクチンは「組換えHBs抗原ワクチン」です。酵母(Saccharomyces cerevisiae)にHBV表面抗原(HBsAg)をコードする遺伝子を導入し、産生したタンパク質を精製・不活化して製造します。接種後に産生される抗HBs抗体(抗HBs)が防御の主体であり、抗体価が10 mIU/mL以上を「ワクチン応答あり(responder)」と判定します。免疫応答は個人差が大きく、肥満・喫煙・高齢・免疫抑制状態などで応答率が低下することが知られています。
腸チフスワクチン
感染リスク: 水道水の衛生管理が不十分な地域での飲食物感染
腸チフスはSalmonella entericaセロタイプTyphi(チフス菌)による細菌感染症です。経口感染後、消化管から全身に播種し、高熱・比較的徐脈・バラ疹を特徴とする重篤な疾患を引き起こします。フィリピンでは農村部だけでなく都市周辺部でも散発的な感染報告があります。
| 製品タイプ | 有効性 | 主な副反応 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 不活化ワクチン(注射、Vi多糖体ワクチン) | 50〜80% | 局所発赤・腫脹、軽度発熱 | 5,500〜8,000円 |
| 経口生ワクチン(Ty21a株) | 50〜80% | 軽度の消化器症状 | 施設により異なる |
- 接種時期: 渡航3週間前まで(免疫形成に2週間要する)
- 再接種: 3年ごと(長期滞在者向け)
薬学的解説:Vi多糖体ワクチンの免疫応答
Vi多糖体ワクチンは、チフス菌の莢膜多糖(Vi抗原)を精製して製造した不活化ワクチンです。Vi抗原が体内でT細胞非依存性の抗原として働き、IgM→IgGへのクラススイッチを経て抗Vi IgGが産生されます。免疫記憶の持続が不活化たんぱく質ワクチンより短いとされ、3年ごとの追加接種が推奨される根拠はこの免疫学的特性にあります。経口のTy21a生ワクチンは消化管粘膜免疫(IgA)を誘導できる点でVi多糖体ワクチンと異なりますが、管理に冷蔵保存が必要であり取り扱い施設が限られます。
薬剤師メモ 腸チフスワクチンの有効性は他のワクチンと比べて50〜80%と低めです。ワクチン接種と同時に以下の衛生対策を徹底することが不可欠です:生水・氷入り飲料を避ける、生野菜・生の貝類を避ける、加熱調理済みの食事を選択する、食前・排泄後の手指衛生を徹底する。ワクチンはあくまで補助的な予防手段です。
日本脳炎ワクチン
感染リスク: マニラ等都市部は比較的低リスク。セブ島、ダバオなど農村部・郊外で蚊媒介リスク有
日本脳炎ウイルス(JEV)はコガタアカイエカによって媒介され、感染後の脳炎移行率は低いものの発症時の致命率・後遺症率が高い疾患です。フィリピン全土に常在しており、特に雨季(6〜11月)に感染リスクが高まります。
- 対象: 1か月以上の滞在者、農業従事者、屋外活動が多い方
- スケジュール: 初回→1〜4週間後に2回目
- 費用: 1回あたり3,000〜4,500円(目安)
- 有効性: 2回接種で約90〜98%(国内承認製品の臨床試験データより)
日本への帰国後の接種歴確認: 多くの方が小児期に定期接種(2〜4回)を受けています。過去の接種歴を母子手帳で確認し、10年以上経過している場合や接種記録が不明な場合は医師に相談してください。
薬学的解説:Vero細胞培養不活化ワクチンの特性
現在国内で使用されている日本脳炎ワクチン(SA14-14-2株を除く)はVero細胞を用いた不活化ワクチンです。従来のマウス脳組織由来ワクチンと比べ、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)などの不純物混入リスクが大幅に低減され、重篤な副反応(ADEM:急性散在性脳脊髄炎)のリスクが低下しています。2回の基礎免疫後に中和抗体が誘導され、数年後の追加接種(ブースター)により長期防御が維持されます。
狂犬病ワクチン
感染リスク: フィリピンは狂犬病高流行国。野犬・野生動物との接触機会がある場合、渡航前暴露前予防接種(PrEP)を強く推奨
狂犬病はLyssavirusによる疾患であり、発症後の致命率はほぼ100%です。フィリピンでは毎年数百人規模の死者が報告されており(フィリピン保健省データ)、犬による咬傷・引っかき傷が主な感染原因です。農村部や離島では咬傷後の治療を迅速に受けられない状況もあり、暴露前ワクチン接種(PrEP)の意義は極めて大きい。
暴露前予防接種(PrEP)スケジュール
| 日程 | 接種内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 0日目 | 狂犬病ワクチン1回目 | 初回感作 |
| 7日目 | 狂犬病ワクチン2回目 | 追加感作 |
| 21日目(または28日目) | 狂犬病ワクチン3回目 | 免疫確立 |
- 費用: 1回あたり6,000〜9,000円(目安)、3回で18,000〜27,000円(目安)
暴露後の対応(PEP:Post-Exposure Prophylaxis)
PrEP(暴露前接種)済みの方が咬傷を受けた場合、0日・3日の2回のワクチン追加接種のみで対応可能であり、狂犬病免疫グロブリン(RIG)の投与は不要になります。PrEPを受けていない場合は、咬傷後にワクチン5回(0日・3日・7日・14日・28日)+RIG投与が必要であり、RIGはフィリピン国内でも入手が難しい地域があります。これがPrEP接種の最大のメリットです。
薬学的解説:狂犬病ワクチンの作用機序と免疫グロブリンとの違い
狂犬病ワクチンは不活化ウイルスを含む製剤であり、接種後に液性免疫(中和抗体産生)と細胞性免疫の両方を誘導します。一方、狂犬病免疫グロブリン(RIG)はすでに作られた抗体を直接補充する「受動免疫」です。ワクチン(能動免疫)は免疫形成に1〜2週間を要しますが、RIGは即効性があります。このため、PrEPを受けていない方が咬傷直後にPEPを受ける場合、ウイルスが神経を逆行性に上行する時間を「RIGが橋渡しする」役割を担います。RIGの投与量は体重に基づいて計算(20 IU/kg)され、可能な限り咬傷部位周囲に浸潤注射します。
薬剤師メモ 狂犬病ワクチンは「不活化ワクチン」のため、他の生ワクチンとの接種間隔制限はありません。黄熱病ワクチン(生ワクチン)と同日接種も可能ですが、注射は必ず異なる部位(左右の腕など)に行います。
デング熱:ワクチンと薬学的注意点
デング熱ワクチンの現状
デング熱はネッタイシマカが媒介するフラビウイルス感染症であり、フィリピンでは年間を通じて流行しています。デングウイルスには血清型が4型(DENV-1〜4)あり、1型に感染して回復した後に2型に感染すると、ADE(Antibody-Dependent Enhancement:抗体依存性感染増強)により重症化リスクが高まることが知られています。
現在、一般渡航者向けの汎用的なデング熱ワクチン接種は日本では標準的な渡航前接種には位置づけられていません(2025年時点)。フィリピン国内ではCYD-TDV(デングバクシア)が使用されていますが、血清陰性者(過去にデング熱未感染)への接種が重症化リスクを高める可能性が示されており、事前の血清学的確認が推奨されています。日本から渡航する方については、ワクチンよりも以下の蚊刺咬防止策を徹底することが最も合理的な予防法です。
デング熱の蚊刺咬対策:薬学的推奨
| 対策 | 推奨成分・方法 | 備考 |
|---|---|---|
| 防虫剤 | DEET(ジエチルトルアミド)25〜30%配合製品 | 子ども(2歳以上)にも使用可。粘膜・傷口への使用は避ける |
| 防虫剤(代替) | イカリジン(ピカリジン)20%配合製品 | DEETより肌への刺激が少ない。子どもへの年齢制限が緩やか |
| 衣類への使用 | ペルメトリン配合スプレー | 衣類に噴霧後乾燥させ使用。直接皮膚には使用しない |
| 時間帯管理 | 特に夜明け前後・夕方は屋外活動を避ける | ネッタイシマカは昼間活動型だが、多種の蚊に対して有効 |
薬剤師メモ DEET製品は日本国内でも市販されています。濃度が高いほど効果持続時間が延長しますが、30%を超える濃度での追加的な有効性向上は限定的とされます(CDC推奨)。乳幼児(2か月未満)への使用は禁忌です。
予防接種スケジュール:渡航までの準備タイムライン
渡航まで8週間以上ある場合(最適シナリオ)
Week 1:医師に相談、接種計画立案
→ 黄熱病ワクチンの接種施設・日時予約(検疫所確認)
Week 2〜3:黄熱病ワクチン接種
※生ワクチンのため、以後27日間は他の生ワクチン接種不可
Week 4:A型肝炎ワクチン1回目、腸チフスワクチン、日本脳炎ワクチン1回目を同日接種
※いずれも不活化ワクチンのため同日接種可
Week 5〜6:A型肝炎ワクチン2回目(短期スケジュール)、日本脳炎ワクチン2回目接種
B型肝炎ワクチン1回目(時間があれば)
Week 7〜8:最終確認、渡航
渡航まで4〜6週間の場合(短期準備シナリオ)
Week 1:医師に相談
黄熱病ワクチン接種(検疫所にて)
狂犬病ワクチン1回目(不活化ワクチンのため黄熱病と同日可)
Week 2:A型肝炎1回目、腸チフス、日本脳炎1回目を同日接種
狂犬病ワクチン2回目(7日後)
Week 3:A型肝炎2回目、日本脳炎2回目を同日接種
狂犬病ワクチン3回目(21日目)
Week 4〜6:渡航
薬剤師メモ B型肝炎ワクチンの標準スケジュール(0日、1か月、6か月)は短期出発に間に合いません。初回接種のみでも約30〜40%の保護効果が期待されますが、完全な長期免疫には後日追加接種が必要です。帰国後、6か月以内に2回目、その1か月後に3回目を接種することを推奨します。一部の製品では「0日、7日、21日(計3回)+12か月後の追加1回」という迅速スケジュールも認められており、渡航前に3回を完了できます。担当医師に相談してください。
同時接種のルールまとめ
渡航前の限られた時間を有効活用するために、同時接種の可否を把握することは重要です。
| 組み合わせ | 同時接種の可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 黄熱病+A型肝炎 | ○(異なる部位) | 黄熱病(生)+A型肝炎(不活化)は可 |
| 黄熱病+狂犬病 | ○(異なる部位) | 黄熱病(生)+狂犬病(不活化)は可 |
| 黄熱病+麻疹・風疹(MR) | △(同日可または27日間隔) | 生ワクチン同士。同日接種は可能だが、異なる日に接種する場合は27日以上の間隔が必要 |
| A型肝炎+腸チフス+日本脳炎 | ○(すべて不活化) | 不活化ワクチン同士は同日異部位接種可 |
| B型肝炎+狂犬病 | ○(異なる部位) | 両者とも不活化ワクチン |
予防接種の費用目安と施設選択
総費用シミュレーション
渡航目的・期間・活動内容に応じた費用目安を以下に示します。いずれも目安であり、施設・地域によって異なります。
| パターン | 含まれるワクチン | 総費用(目安) |
|---|---|---|
| 最小限セット(短期観光) | 黄熱病+A型肝炎2回 | 16,000〜24,000円 |
| 標準セット(1〜3か月) | 上記+腸チフス+日本脳炎2回 | 30,000〜40,000円 |
| 充実セット(長期在留・農村部) | 上記+B型肝炎3回+狂犬病3回 | 60,000〜85,000円 |
旅行者健康保険(海外旅行保険)はワクチン費用をカバーしないケースが多いため、渡航前接種費用は自己負担が基本です。健康投資として計画的に予算を確保することを推奨します。
接種施設の選択
検疫所・検疫所併設施設(黄熱病ワクチン専門)
- 全国約50施設(厚生労働省検疫所FORTH掲載施設リストを参照)
- 予約制(事前電話・Web確認必須)
- 黄熱病以外は一般の予防接種外来で接種
トラベルクリニック・国際医療施設(推奨)
- 渡航者感染症のエキスパートが在籍し、個別相談・複数ワクチンの同時接種計画に対応
- 主要都市の大学病院・国立病院機構・医療法人系クリニックに設置されていることが多い
- 受診の際は「渡航先・期間・目的・過去の接種歴(母子手帳持参)」を準備する
一般の予防接種外来(かかりつけ医・内科・小児科)
- 地域の内科・小児科で対応可能な施設も多い
- ただしワクチン在庫に限りがある(特に腸チフス・狂犬病ワクチンは取り寄せが必要な場合がある)
- 事前に「フィリピン渡航前の予防接種相談」と明示して予約することを推奨
フィリピン渡航時の注意事項:ワクチン以外の感染症対策
蚊媒介感染症の対策
| 疾患 | 主な媒介蚊 | 活動時間帯 | 対策 |
|---|---|---|---|
| デング熱 | ネッタイシマカ | 昼間(夜明け・夕方に活発) | DEET/イカリジン配合防虫剤、長袖・長ズボン着用 |
| マラリア | ハマダラカ | 夜間 | ミンダナオ島南部など流行地では蚊帳使用、抗マラリア薬(医師処方) |
| チクングニア熱 | ネッタイシマカ | 昼間 | デング熱対策と同様 |
| 日本脳炎 | コガタアカイエカ | 夜間(特に農村部) | 防虫剤、ワクチン接種 |
マラリアについては、ミンダナオ島南部(パラワン島なども含む一部地域)が流行地域とされています。マラリア予防薬(抗マラリア薬)の服用が推奨される地域では、渡航前に医師の診察・処方が必要です。薬剤耐性マラリアの存在地域によって使用する薬剤が異なるため、渡航先の詳細を確認の上、専門医に相談してください。
飲食物感染症の対策
- 避けるべき飲食物: 生水(水道水)、氷(製氷時の汚染リスク)、生野菜・生の貝類・路上の露店食
- 推奨: 密封ペットボトルの水、十分に加熱調理された食事
- 手指衛生: 外出からの帰宅後、食事前、排泄後のアルコール系手指消毒剤(エタノール60%以上)使用
薬剤師メモ フィリピンでの旅行者下痢症は細菌性(特に毒素原性大腸菌:ETEC)が多数派です。渡航前に消化器内科または渡航外来を受診し、整腸剤(ビフィズス菌・乳酸菌製剤)や経口補水塩(ORS)の持参を検討してください。抗菌薬の予防的自己投与は薬剤耐性菌の問題から一般的には推奨されませんが、症状出現時の対応薬として渡航外来で処方してもらうことは合理的な選択肢です。担当医師とリスク・ベネフィットを相談した上で判断してください。
よくある質問:予防接種について
Q1. 予防接種を受けていないのに出発してしまった場合は?
A. フィリピン到着後も一部の国際医療施設で接種可能な場合があります。ただし時間に余裕がなく、免疫形成が間に合わない可能性が高い。渡航後は特に飲食物衛生と防虫対策を徹底し、咬傷・外傷の際は速やかに現地の医療機関を受診してください。現地で受けるワクチンの品質・流通管理の確実性は、日本国内で接種するものと比較して確認が難しい場合があるため、可能な限り渡航前の接種を推奨します。
Q2. 妊娠中でも接種できるワクチンは?
A. 生ワクチン(黄熱病、水痘、麻疹・風疹など)は妊娠中は原則禁忌です。不活化ワクチン(A型肝炎、B型肝炎、腸チフス注射型)は産婦人科医・感染症専門医との相談の上で接種の可否を判断します。狂犬病ワクチンは暴露後(咬傷後)の緊急性が高い場合に限り、妊娠中でも接種が認められる場合があります。いずれも自己判断せず、必ず担当医師に相談してください。
Q3. 子どもを連れてフィリピンに行く場合の注意点は?
A. 小児への渡航前ワクチンの推奨は基本的に成人と同様ですが、年齢・体重・既往の定期接種歴によって接種できるワクチンと接種量が異なります。特に黄熱病ワクチンは6か月未満の乳児には禁忌です。9か月〜2歳未満では接種可能ですが、脳炎のリスクがやや高まるとの報告があり、渡航の必要性と慎重に比較検討してください。小児の渡航前ワクチンは小児科専門医または小児感染症専門医に相談することを強く推奨します。
Q4. 花粉症・食物アレルギーがある場合はワクチン接種に問題がありますか?
A. 花粉症(アレルギー性鼻炎)単独ではワクチン接種の禁忌にはなりません。問題となるのは「ワクチン成分へのアレルギー」です。たとえば黄熱病ワクチンは卵(鶏卵)アレルギーのある方では慎重投与または禁忌になります(製造過程で発育鶏卵を使用するため)。接種前の問診票に必ずアレルギー歴を正確に記載し、医師に確認してください。アナフィラキシーの既往がある方は接種後30分間の経過観察が推奨されます。
渡航時に携行すべき健康関連書類
| 書類 | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 黄熱病予防接種国際証明書(イエローカード) | 接種日・施設・ワクチンロット番号 | 入国時・他国経由時の提示 |
| 接種記録(予防接種手帳・母子手帳のコピー) | 全ての接種歴 | 現地医療機関受診時・追加接種判断に使用 |
| 海外旅行保険証書 | 保険会社・保険証番号・緊急連絡先 | 現地医療機関受診時の費用負担確認 |
| かかりつけ医の英文診断書・処方箋(薬持参の場合) | 病名・薬剤名・投与量 | 税関・薬局での説明 |
参考文献
-
WHO. "Vaccines and vaccination against yellow fever: WHO position paper." Weekly Epidemiological Record, 2013. https://www.who.int/wer/2013/wer8827.pdf
-
CDC. "Philippines - Traveler's Health." Centers for Disease Control and Prevention. https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/philippines
-
厚生労働省検疫所FORTH. 「フィリピン 感染症危険情報・予防接種情報」. https://www.forth.go.jp/destination/asia/philippines.html
-
WHO. "Rabies vaccines: WHO position paper." Weekly Epidemiological Record, 2018. https://www.who.int/wer/2018/wer9316.pdf
-
厚生労働省. 「予防接種に関するQ&A集」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
-
CDC. "Typhoid Fever and Paratyphoid Fever - For Clinicians." https://www.cdc.gov/typhoid-fever/hcp/index.html
-
PMDA(医薬品医療機器総合機構). 「ワクチン製品情報」. https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/vaccines/0001.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))