フィリピン渡航者のための医療ガイド:現地で体調を崩したときの対処法
フィリピンへの渡航は、美しい海岸線と文化的な魅力に満ちた素晴らしい経験です。しかし、熱帯気候・異なる衛生環境・水質の違いなどから、体調を崩すリスクは他国より高くなります。本記事では、薬剤師の視点からフィリピン現地での医療事情・緊急時の対処法・病院選びのポイント・保険活用法を網羅的に解説します。渡航前の準備と現地でのトラブル対応を知ることで、安心して滞在できます。
この記事でわかること
- フィリピンの医療施設の種類と選び方
- 症状の重さ別・段階的な対処フロー
- 現地薬局(Botika)で買える医薬品と薬学的注意点
- デング熱・マラリアなど主要感染症の薬剤師解説
- 海外旅行保険のキャッシュレス診療の実務手順
- 渡航前に日本で揃えるべき医薬品リスト
フィリピンの医療事情:渡航者が知るべき基本情報
医療水準の地域差と医療施設の分類
フィリピンの医療水準は、首都マニラなどの大都市と地方都市で大きく異なります。マニラ・セブ・ダバオの主要都市には国際基準の私立病院がありますが、離島や農村部では医療施設が限定的です。特にフィリピンは7,000以上の島から成る群島国家であるため、離島滞在中に急病になった場合は本島への移送に時間がかかることを事前に想定しておく必要があります。
フィリピン保健省(DOH)は医療施設をレベル1〜4に分類しており、レベル4が最も高度な三次医療機関です。渡航者が利用しやすいのは、英語対応が整った私立病院やクリニックです。
| 施設の種類 | 特徴 | 適している症状 |
|---|---|---|
| 私立国際病院 | 英語対応、先進医療機器、高額 | 深刻な感染症、外傷、手術が必要な場合 |
| 政府系公立病院 | 安価だが混雑、待機時間長い | 緊急時の応急処置(費用が払えない場合の最終手段) |
| クリニック/診療所 | 町中に多数、料金安い | 軽度の感染症、風邪、下痢 |
| 薬局(Botika) | 医師の処方箋なしで多くの薬購入可 | 一般医薬品の購入・簡単な相談 |
Botika(ボティカ)とは何か? 「Botika」はフィリピンの言葉(タガログ語)で薬局を意味します。町中に数多く点在しており、Mercury Drug・Rose Pharmacy・Generika Drugstoreといった大手チェーンのほか、個人経営の小規模な薬局も存在します。日本の薬局と異なり、薬剤師が常駐していない店舗もあるため、薬の選択には注意が必要です。
主な感染症リスク
フィリピンは熱帯性感染症の流行地域です。渡航前にリスク認識と基本的な予防策を把握しておくことが必須です。
| 感染症 | 流行地域 | 予防法 | 代表的な症状 |
|---|---|---|---|
| デング熱 | 全土(特に雨季) | 蚊対策(DEET含む虫除け) | 高熱、頭痛、筋肉痛、発疹、眼窩痛 |
| マラリア | ミンダナオ島など一部地域 | 蚊帳、虫除け、必要に応じて予防薬 | 周期的な高熱、悪寒、倦怠感 |
| 腸チフス | 衛生状態の悪い地域 | ワクチン接種、安全な水と食事 | 持続的な高熱、腹痛、徐脈 |
| A型肝炎 | 全土 | ワクチン接種、衛生管理 | 黄疸、疲労、嘔吐、食欲不振 |
| 狂犬病 | 全土(野犬・コウモリに注意) | 渡航前ワクチン、咬傷後の迅速な受診 | 咬傷後の発熱、水恐怖症(発症後致死的) |
| 破傷風 | 全土 | ワクチン接種(追加接種)、傷の適切な処置 | 筋肉硬直、開口障害、痙攣 |
| レプトスピラ症 | 洪水・水害後の水域 | 素足での水たまり接触を避ける | 高熱、黄疸、腎障害 |
→ 外務省の海外安全情報および国立感染症研究所の最新情報を確認し、必要なワクチンは渡航前2〜4週間以上を目安に接種を完了してください。
デング熱の薬学的ポイント
デング熱は現在のところ特異的な抗ウイルス薬が存在しません。治療の柱は対症療法です。ここで渡航者として重要な薬学知識が一点あります。**デング熱が疑われる場合、アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用は禁忌です。**デング熱は血小板減少と血管透過性亢進を引き起こすため、NSAIDsの抗血小板作用が出血傾向を著しく悪化させる可能性があります。解熱にはアセトアミノフェンを使用するのが標準的です。なお、デング熱の発疹は解熱後に出現することが多く、「熱が下がったのに発疹が出た」という経過はデング熱を強く示唆します。このような場合は速やかに医療機関を受診してください。
現地で体調を崩したときの段階別対処法
体調不良への対応は「症状の重さ」に応じて段階的に行うことが重要です。以下のフローを参考にしてください。
軽度(風邪・軽い下痢)
↓ 24〜48時間改善なし
中程度(高熱・激しい下痢・嘔吐)
↓ クリニック受診
重篤(高熱3日以上・血便・意識障害・強い腹痛)
↓ 私立国際病院へ即時搬送
軽度の症状(風邪、軽度の下痢)
ステップ1:自己対処と様子観察
渡航前に準備した日本の市販薬を活用します。現地調達より日本からの持参が安心です。
薬学的解説:旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)について
旅行者下痢症は、フィリピン渡航者が最も経験しやすいトラブルの一つです。原因の約80%は細菌感染(腸管毒素産生性大腸菌、カンピロバクターなど)で、残りはウイルス・原虫によります。自然軽快することが多い一方、細菌性の場合は適切な抗菌薬治療が必要です。
下痢止め薬(ロペラミド配合のOTC薬)の使用判断が重要: ロペラミド塩酸塩は腸管のμオピオイド受容体に作用して腸管蠕動を抑制し、下痢を止める薬です。腸管吸収を促進することで体への吸収率を高める効果がある一方、細菌性下痢や血便を伴う場合は使用を避けてください。病原体や毒素を腸内に留めてしまい、症状が悪化する可能性があります。血便・高熱・激しい腹痛を伴う下痢では使用せず、医師の診察を受けることが重要です。
推奨医薬品(渡航前に日本から準備):
- 解熱鎮痛薬:アセトアミノフェン配合製剤( タイレノールA 🛒)。デング熱の可能性を考慮し、イブプロフェン・アスピリン系NSAIDsは第一選択から外すことを薬剤師は推奨します。
- 整腸薬:ビフィズス菌・乳酸菌配合の整腸薬( ビオフェルミンS錠 🛒など)。腸内フローラを整え、下痢・軟便の回復を補助します。
- ロペラミド塩酸塩配合の下痢止め:血便・高熱がない場合のみ使用。製品名より成分名で確認する習慣をつけてください。
- 経口補水液(ORS):下痢・嘔吐時の脱水補正に最も重要な対処法です。市販のOS-1などを携帯するか、フィリピン現地でもドラッグストアで入手可能です。WHO推奨ORSの成分比(ナトリウム75mmol/L、ブドウ糖75mmol/L)を基準に選ぶと良いでしょう。
- 胃粘膜保護薬:ファモチジン( ガスター10 🛒)などのH2受容体拮抗薬。胃酸分泌抑制により、胃炎・胃潰瘍症状の軽減に有効です。
ステップ2:現地薬局(Botika)での購入
症状が改善しない場合、薬局スタッフに症状を英語で説明します。フィリピンは英語が公用語の一つであるため、基本的な英語で対応可能です。
薬局での英語フレーズ集:
-
I have a stomachache and diarrhea.(アイ ハヴ ア ストマックエイク アンド ダイアリア)(胃痛と下痢があります) -
I have a fever of 38 degrees.(アイ ハヴ ア フィーバー オブ サーティーエイト ディグリーズ)(38度の熱があります) -
Do I need to see a doctor?(ドゥ アイ ニード トゥ スィー ア ドクター?)(医師の診察が必要ですか?) -
Is this safe to take with my medication?(イズ ディス セーフ トゥ テイク ウィズ マイ メディケーション?)(今飲んでいる薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?) -
Do you have oral rehydration salts?(ドゥ ユー ハヴ オーラル リハイドレーション ソルツ?)(経口補水塩はありますか?)
現地で入手しやすい医薬品(成分名ベース):
| 成分名(一般名) | 用途 | 薬学的解説 | 価格帯(目安) |
|---|---|---|---|
| パラセタモール(アセトアミノフェン)500mg | 解熱鎮痛 | COX阻害を介さない中枢性解熱鎮痛作用。胃腸への刺激が少なく、デング熱疑いにも使用可能 | 15〜50PHP |
| オメプラゾール20mg | 胃酸抑制 | プロトンポンプ阻害薬(PPI)。H2拮抗薬より強力な胃酸分泌抑制。食前投与で効果的 | 20〜60PHP |
| ロペラミド塩酸塩2mg | 下痢止め | μオピオイド受容体作動薬。腸管蠕動抑制・腸液分泌抑制。細菌性下痢・血便時は禁忌 | 30〜50PHP |
| アモキシシリン500mg | 細菌感染 | β-ラクタム系抗生物質。自己判断服用は耐性菌リスクあり。必ず医師処方のもとで使用 | 50〜100PHP |
| 経口補水塩(ORS粉末) | 脱水補正 | WHO処方に準拠したナトリウム・グルコース配合。下痢・嘔吐時の第一選択 | 20〜40PHP |
中程度の症状(高熱、激しい下痢、嘔吐)→ クリニック受診
受診の準備
医療機関を受診する前に以下を準備しておくと、診察がスムーズになります。
- 保険証や海外旅行保険の書類(クレジットカード付帯保険の場合はカード番号と緊急連絡先)
- 症状のメモ(いつから、何度の熱、何回の下痢、血便の有無、旅行先での食事内容など)
- 服用中の薬があれば実物または写真を持参(薬の相互作用確認のため)
- パスポート(身分証明と医療記録の照合用)
クリニック受診の流れ
- 受付(Registration):名前・パスポート番号・症状・既往歴を記入。英語フォームがほとんど。
- バイタル測定:体温・血圧・脈拍・酸素飽和度を測定。看護師が対応。
- 医師診察:通常15〜30分待機。「Since when?(いつから?)」「Any blood in stool?(血便は?)」など英語で質問されます。
- 検査(必要に応じて):血液検査でデング熱NS1抗原・CBC(完全血球計算)・肝機能などを確認。尿検査・便培養が行われることも。
- 処方と会計:診察料+検査料で通常1,500〜5,000PHP(目安)。海外旅行保険適用の場合は後述の手続きを。
受診時に使える英語フレーズ:
-
I have had a high fever for 2 days.(アイ ハヴ ハド ア ハイ フィーバー フォー トゥー デイズ)(2日間高熱が続いています) -
I'm allergic to penicillin.(アイム アレルジック トゥ ペニシリン)(ペニシリンアレルギーがあります) -
I'm currently taking this medication.(アイム カレントリー テイキング ディス メディケーション)(現在この薬を服用中です)
処方されやすい医薬品と薬学的解説
フィリピンの医師が処方する一般的な医薬品を薬学的視点で解説します。
| 成分名 | 分類 | 薬学的メモ | 代表的な用法(目安) |
|---|---|---|---|
| アモキシシリン | ペニシリン系抗菌薬 | 細菌性胃腸炎・上気道炎に使用。食事に関わらず服用可。ペニシリンアレルギーに注意 | 500mg 1日3回 7日間(目安) |
| メトロニダゾール | ニトロイミダゾール系 | 嫌気性菌・原虫(ジアルジア・アメーバ)感染に有効。アルコール摂取は厳禁(ジスルフィラム様反応) | 500mg 1日3回(目安) |
| メトクロプラミド | 制吐薬 | ドパミンD2受容体拮抗薬。嘔吐・悪心を抑制。錐体外路症状(手足の震えなど)が副作用として出ることあり | 10mg 食前(目安) |
| ロペラミド塩酸塩 | 下痢止め | 前述の通り、細菌性・血便を伴う下痢では使用禁忌。医師が処方する場合は適応を確認済みとみなして良い | 2〜4mg 症状時(目安) |
| パラセタモール | 解熱鎮痛薬 | 最大用量は1回1,000mg、1日4,000mg。肝障害のある方・アルコール多飲者は減量が必要 | 500〜1,000mg 6〜8時間毎(目安) |
| プロバイオティクス製剤(乳酸菌・ビフィズス菌) | 整腸薬 | 抗菌薬投与後の腸内フローラ回復を補助。抗菌薬とは時間をずらして服用すると効果的 | 1日2〜3回(製品による) |
重篤な症状(激しい腹痛、高熱が3日以上続く、血便、意識障害)→ 病院受診・入院
以下の症状が一つでも当てはまる場合、直ちに国際基準の私立病院へ搬送してください。自力での移動が困難な場合は救急車(117番)を呼ぶか、タクシー・Grabで最寄りの私立病院へ向かいましょう。
即時受診が必要なレッドフラッグ症状:
- 38.5℃以上の高熱が3日以上持続
- 血便・黒色便(メレナ)
- 意識の混濁・混乱
- 皮膚の黄染(黄疸)
- 激しい腹痛(特に右上腹部・右下腹部)
- 呼吸困難・胸痛
- 脱水症状(口の渇き・尿量減少・皮膚の弾力低下)が改善しない
マニラの主要私立病院:
| 病院名 | 特徴 | 電話番号(目安) |
|---|---|---|
| Makati Medical Center | 首都圏最高水準、外国人対応窓口あり | +63-2-8888-8999(要確認) |
| St. Luke's Medical Center(BGC院) | 広域ネットワーク、英語対応充実 | +63-2-8789-7700(要確認) |
| The Medical City | パシッグ市、JCI認定取得 | +63-2-8988-1000(要確認) |
セブの主要病院:
| 病院名 | 特徴 | 電話番号(目安) |
|---|---|---|
| Cebu Doctors' University Hospital | セブ有数の私立病院 | +63-32-255-5555(要確認) |
| Chong Hua Hospital | セブ市内、100年超の歴史を持つ | +63-32-255-8000(要確認) |
※電話番号は変更される場合があります。在フィリピン日本大使館または保険会社の緊急連絡先で最新情報を必ずご確認ください。
医療保険と支払い方法
海外旅行保険の活用
フィリピン渡航時の海外旅行保険加入は「あると便利」ではなく必須と考えてください。私立病院での治療費は1日入院するだけで数十万円に達することがあります。
| 保険会社 | 特徴 | キャッシュレス対応 |
|---|---|---|
| 損保ジャパン | 提携病院多数、現地サポートデスク | マニラ・セブ等主要都市で対応 |
| 三井住友海上 | 24時間日本語サポート | 全国対応 |
| 東京海上日動 | グローバルアシスタンス充実 | 主要都市対応 |
| AIG損保 | 高額保障オプション、長期滞在向けプランも | グローバル対応 |
クレジットカード付帯の保険との違い: 多くのクレジットカードには海外旅行傷害保険が付帯しますが、疾病治療費用が低額・除外されているカードも多いです。出発前にカード会社に電話して補償内容(特に「疾病治療費用」「救援者費用」の上限額)を確認してください。補償が不十分な場合は別途保険に加入することを強く推奨します。
キャッシュレス診療の流れ
キャッシュレス診療とは、被保険者が医療機関で費用を立て替えることなく、保険会社が直接医療機関に支払う仕組みです。
- 事前連絡(必須):病院に行く前に保険会社の24時間緊急デスクに電話し、「フィリピンで病院に行きたい」と伝える。
- 保険会社から指示:提携病院の案内、または承認番号(Guarantee of Payment番号)の発行。
- 病院窓口での書類提示:保険証・承認番号・パスポートを提示。
- 医師診察・治療:通常通り受診。
- 退院時の確認:保険会社が直接病院に支払い。患者は免責金額のみ自己負担。
保険対象外・上限超過時の支払い方法
- クレジットカード決済:Visa・Mastercard はほぼ全ての私立病院で対応
- 現金(フィリピンペソ PHP):小規模クリニックや薬局では現金のみの場合も
- 医療費立替え後に保険請求(償還払い):領収書・診断書・処方箋を保管し、帰国後に請求
→ 大使館での緊急支援も可能な場合があります: 在フィリピン日本大使館
予防策:渡航前後の具体的な対策
渡航前の準備(出発2ヶ月前〜2週間前)
ワクチン接種スケジュール
渡航前ワクチンは、かかりつけ医またはトラベルクリニックで相談してください。複数回接種が必要なワクチンもあるため、出発の2ヶ月前を目安に相談を開始することが理想です。
| ワクチン | 接種回数 | 最終接種タイミング(目安) | 推奨度 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 2回(6ヶ月間隔) | 出発2週間前までに1回目 | 高 |
| 腸チフス(不活化) | 1回 | 出発2週間前まで | 中〜高 |
| 日本脳炎 | 2回(1ヶ月間隔) | 出発1ヶ月前まで | 農村部・長期滞在は高 |
| 破傷風・ジフテリア | 追加接種(10年毎) | 出発2週間前まで | 高 |
| 狂犬病(暴露前) | 3回(0・7・21日) | 出発1ヶ月前に開始 | 長期滞在・野外活動は高 |
| A型+B型肝炎(混合) | 3回(0・1・6ヶ月) | 余裕を持って | 中 |
医学的判断はトラベルクリニックの医師に委ねてください。上記はあくまで目安です。
医薬品の準備リスト(薬剤師推奨)
渡航先でも入手できますが、品質・用量・成分の確認が難しいため、主要医薬品は日本から持参することを推奨します。
| カテゴリ | 成分名(製品例) | 薬学的ポイント |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン配合製剤 | NSAIDsよりデング熱疑い時に安全。最大用量を守ること |
| 下痢止め | ロペラミド塩酸塩配合製剤 | 血便・高熱時は使用禁止。整腸薬との併用を検討 |
| 整腸薬 | ビフィズス菌・乳酸菌・酪酸菌配合製剤(ビオフェルミンS錠など) | 腸内フローラ維持。抗菌薬服用中も継続可(ただし時間をずらす) |
| 経口補水液 | ORS(OS-1など) | 脱水補正の第一選択。糖類入りスポーツ飲料とは組成が異なる |
| 胃腸薬 | ファモチジン配合製剤(ガスター10など) | H2受容体拮抗薬。食べ過ぎ・胃炎・胃もたれに対応 |
| 抗ヒスタミン薬 | セチリジン・フェキソフェナジン配合製剤(アレグラFXなど) | 虫刺され・アレルギー性鼻炎に。眠気の少ない第2世代を選択 |
| 外用抗ヒスタミン薬 | ジフェンヒドラミン塩酸塩配合のかゆみ止めクリーム(液体ムヒなど) | 虫刺されの局所かゆみに。目の周囲・粘膜への使用不可 |
| 虫除けスプレー | DEET(ジエチルトルアミド)20〜30%配合製剤 | デング熱・マラリア予防の最重要対策。衣類にも使用可 |
| 日焼け止め | SPF50以上・PA++++ | 熱帯の紫外線は非常に強い。2〜3時間毎に塗り直し |
| 創傷処置セット | 消毒液・ガーゼ・絆創膏 | 破傷風予防のため傷口は即座に処置。サンゴ礁での傷に要注意 |
| 常用処方薬 | 患者様各自の薬 | 英文処方箋(英語のお薬手帳)と合わせて持参。TSAロック付きケースに保管 |
英文お薬手帳の重要性: 常用薬がある方は、かかりつけ薬局または医師に英文の薬剤情報シートを作成してもらうことを推奨します。現地の医師に薬剤名・用量・使用理由を正確に伝えることで、薬物相互作用による事故を防ぐことができます。
現地での日常予防
感染症の多くは適切な行動で予防できます。
食事・水の注意:
- 飲料水はペットボトルまたは煮沸した水のみ使用。水道水は飲まない。
- 氷(Ice)も水道水から作られることが多いため、信頼できるレストラン以外では避ける。
- 生野菜・生ものは食中毒リスクあり。加熱済みの食事を選ぶ。
- 路上屋台(Street food)は魅力的ですが、衛生管理が不明確な場合は注意。
蚊対策(デング熱・マラリア予防の最重要手段):
- DEET 20〜30%配合の虫除けを肌露出部に毎日塗布(2〜4時間毎に再塗布)。
- 日没前後は特に蚊の活動が活発。長袖・長ズボンを着用。
- エアコンのない宿では蚊帳(Mosquito net)を使用。
- デング熱を媒介するネッタイシマカ(Aedes aegypti)は昼間に活動するため、日中も蚊対策が必要です(夜間だけ対策するのは不十分)。
手指衛生:
- 外出後・食事前・トイレ後に石鹸と流水で20秒以上の手洗い。
- 水がない場合はアルコール含有量60%以上の手指消毒剤を使用。
動物との接触(狂犬病予防): フィリピンは狂犬病常在国です。犬・猫・コウモリなどに咬まれた・引っ掻かれた場合は、直ちに流水で15分以上傷口を洗浄し、最寄りの医療機関でワクチン接種(曝露後予防:PEP)を受けてください。渡航前ワクチン(曝露前予防)接種者でもPEPは必要ですが、接種回数が減少します。狂犬病は発症後の致死率がほぼ100%であるため、動物咬傷を軽視しないことが極めて重要です。
狂犬病曝露後対処の薬学的解説(重要)
狂犬病は、フィリピン渡航者が軽視しがちながら、対応が遅れると致死的になる感染症です。以下に薬剤師として重要な薬学的情報をまとめます。
曝露後予防(PEP: Post-Exposure Prophylaxis)の構成:
- 傷口の洗浄(最も重要):石鹸と流水で傷口を15分以上丁寧に洗い流す。これだけでウイルス量を大幅に減少できます。
- 狂犬病ワクチン接種:曝露前ワクチン未接種の場合は0・3・7・14・28日目の5回接種。接種前ワクチン済みの場合は0・3日目の2回。
- 狂犬病免疫グロブリン(RIG):曝露前ワクチン未接種の場合は、可能な限り初回ワクチン接種日に傷口周囲に浸潤投与。
トラブル時の連絡先と最終手段
緊急連絡先まとめ
| 機関 | 連絡先 | 用途 |
|---|---|---|
| 在フィリピン日本大使館(マニラ) | +63-2-8888-0300(代表)/+63-921-256-1010(24時間緊急) | 国民保護、医療・法律相談 |
| 在セブ日本総領事館 | +63-32-231-7321(代表) | セブ・ビサヤ地域での領事支援 |
| フィリピン警察・救急(共通) | 911 または 117 | 警察・救急・消防すべてに繋がる |
| フィリピン赤十字(救急) | 143 | 救急搬送 |
| 保険会社緊急デスク | 保険証記載の番号 | キャッシュレス診療・搬送手配 |
フィリピンの救急番号は911と117の両方が使われています。応答が遅い場合はもう一方を試してください。タクシー・Grabでの自力搬送が早い場合も多いのが現状です。
医療費が払えない場合の最終手段
万が一、手持ちの現金・クレジットカードが使えない状況になった場合:
- 保険会社に連絡:キャッシュレス対応でなくても立替払い+後日請求が可能な場合あり。
- 在フィリピン日本大使館に相談:緊急の場合、日本からの送金仲介などの支援が得られる場合があります(注:費用を代替払いするわけではない)。
- 公立病院への転院:フィリピンの公立病院はフィリピン国民向けに低コストで医療を提供しますが、外国人でも緊急時は受け入れます。医療水準は私立病院より低い場合があります。
帰国後に注意すべき症状
フィリピンから帰国後、2〜4週間以内に以下の症状が出た場合は、渡航歴を医師に必ず伝えてください。
| 症状 | 疑われる疾患 | 潜伏期間(目安) |
|---|---|---|
| 高熱・頭痛・筋肉痛・発疹 | デング熱 | 3〜14日 |
| 周期的な高熱・悪寒 | マラリア | 7〜30日(種により異なる) |
| 持続する高熱・腹痛 | 腸チフス | 7〜21日 |
| 黄疸・食欲不振・嘔吐 | A型肝炎 | 15〜50日 |
| 下痢・腹痛・粘血便 | 赤痢・アメーバ赤痢 | 1〜7日(アメーバは2〜4週間) |
渡航歴を告げずに受診した場合、熱帯病が見落とされるリスクがあります。「2週間前にフィリピンに行きました」の一言が診断の大きな助けになります。帰国後の発熱は感染症内科または熱帯病専門外来への受診が推奨されます。
関連記事
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参考文献
-
WHO | Dengue and severe dengue – Fact sheet
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue -
CDC | Travelers' Health – Philippines
https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/philippines -
国立感染症研究所 | デング熱とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/386-dengue-intro.html -
厚生労働省 | 海外渡航と感染症
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html -
外務省 | 海外安全情報 – フィリピン
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_104.html -
WHO | Rabies – Post-exposure prophylaxis
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/rabies -
厚生労働省検疫所 FORTH | フィリピン感染症情報
https://www.forth.go.jp/destination/asia/philippines.html
監修: 薬剤師(博士(薬学))