TL;DR(先に結論)
- プールや海の後に耳が痛い・かゆい・詰まる → 多くは「外耳道炎(スイマーズイヤー / Swimmer's ear)」。原因菌は緑膿菌・黄色ブドウ球菌が中心と報告されています(CDC, Acute Otitis Externa)。
- 綿棒でのグリグリは厳禁。耳垢の防御層を壊し、外耳道の皮膚に微小な傷をつけて細菌感染を招きます。
- 市販薬でできることは限定的。痛みが強い・膿が出る・聞こえが落ちる・発熱があれば耳鼻科へ。
- 予防の基本は「綿棒を使わない・自然乾燥・必要なら低温ドライヤー」。
本記事では外耳道炎の病態から、薬学的な機序・処方薬の作用・市販薬の限界、そして受診の目安まで、博士(薬学)の視点で体系的に解説します。なお、発熱を伴う耳痛の解熱鎮痛薬の選び方は [[summer-fever-otc-guide]] も参照してください。
外耳道は「自浄作用のあるトンネル」
耳の穴(外耳道)は約2.5〜3cmの行き止まりの管で、奥に鼓膜があります。表面は薄い皮膚で覆われ、その上を**耳垢(じこう)**が薄く覆っています。
耳垢は単なる「汚れ」ではなく、
- 弱酸性(pH 4〜5前後)で細菌・真菌の増殖を抑える
- 疎水性で水を弾き、皮膚を守る
- 顎の動きで自然に外へ押し出される(外耳道上皮の遊走)
という、れっきとしたバリア機能を持っています(米国耳鼻咽喉科学会 AAO-HNS の Cerumen Impaction ガイドライン参照)。
外耳道上皮の遊走(マイグレーション)という仕組みは、鼓膜から外耳道入口方向へ皮膚細胞が継続的に移動する現象で、古い耳垢や異物を自然に排除する生理的清掃機構です。これが正常に機能している限り、健康な耳は意図的に掃除しなくても清潔に保たれます。
薬剤師メモ: 「耳垢を取らないと不潔」というイメージは誤解です。AAO-HNSは「症状がない耳垢は除去不要」と明記しています。掃除のしすぎが外耳道炎・耳垢栓塞の引き金になります。耳垢には抗菌ペプチド(リゾチームなど)も含まれており、これを洗い流してしまうことも感染リスクを高めます。
なぜプール・海で外耳道炎になるのか
防御層の破綻 → 細菌増殖
プール後の外耳道炎は、次の流れで起こります。
- 水が入る → 外耳道に水が滞留
- 皮膚がふやけ、耳垢のpHが中性〜アルカリ性に傾く(酸性バリアの消失)
- 防御力が落ちたところを 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)・黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) が増殖
- 加えて 綿棒で擦る → 皮膚に微小な傷 → 感染が一気に成立
CDCは「Swimmer's earの最大のリスク因子は水の貯留と外耳道の皮膚損傷」と明示しています。実際、米国では年間約230万件の外来受診がSwimmer's earによるものとされており(CDC推計)、夏季に集中します。
プール水と海水の違い
プールと海ではリスクの性質が微妙に異なります。
| 環境 | 特徴 | 主な病原体 |
|---|---|---|
| プール(塩素処理あり) | 水が長時間滞留しやすい・塩素で皮膚刺激 | 緑膿菌(塩素耐性株あり)、黄色ブドウ球菌 |
| 海水浴 | 塩分で浸透圧変化・砂が外耳道に入りやすい | 黄色ブドウ球菌、海洋由来グラム陰性菌 |
| 温泉・ジャグジー | 高温多湿・ろ過不十分なことも | 緑膿菌(レジオネラも注意) |
塩素はある程度の殺菌効果を持ちますが、緑膿菌は塩素に比較的耐性があり、プール環境でも生存します。また塩素自体が外耳道皮膚の脂質バリアを溶かすため、皮膚防御力が落ちやすいというデメリットもあります。
主な症状と重症度のめやす
| 症状 | 特徴 | 重症度の目安 |
|---|---|---|
| 耳のかゆみ | 初期に多い、外耳道入口部 | 軽症 |
| 耳の痛み | 耳介を引っ張る・耳珠を押すと増強(外耳道炎の典型) | 軽〜中等症 |
| 耳閉感 | 水が抜けない感覚、こもる | 軽〜中等症 |
| 耳漏(じろう) | 黄色〜緑色の膿、悪臭を伴うことも | 中等症〜 |
| 聴力低下 | 腫れや膿で外耳道が塞がる | 中等症〜 |
| 耳前・頸部リンパ節腫脹 | 炎症の波及を示す | 重症 |
| 顔面神経麻痺・激痛 | 頭蓋底への波及を示唆 | 最重症・緊急 |
中耳炎との見分け方
「耳が痛い=中耳炎」と思われがちですが、水泳後の痛みは外耳道炎が多いです。鑑別の目安:
| 項目 | 外耳道炎 | 急性中耳炎 |
|---|---|---|
| きっかけ | プール・海・耳掃除 | 風邪・鼻づまり・上気道炎 |
| 耳介を引っ張る・耳珠を押す | 強く痛む | あまり痛まない |
| 鼻症状・発熱 | 軽度 | 強い(特に小児) |
| 耳漏 | 多い(外耳道から) | 鼓膜穿孔時のみ |
| 好発年齢 | 全年齢、夏に多い | 乳幼児〜小児に多い |
| 痛みの性状 | 表在性・触ると増悪 | 深部の鈍痛・拍動性 |
| 聴力低下 | 外耳道閉塞による伝音難聴 | 滲出液貯留による伝音難聴 |
また、外耳道炎と混同されやすい疾患として**耳帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)**があります。外耳道に水疱が生じ、強い耳痛と顔面神経麻痺を伴う場合はウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が原因であり、抗ウイルス薬が必要になります。水泳歴がなくても耳の痛みが強い場合は鑑別の一つとして念頭に置いてください。
薬剤師メモ: 自己判断は難しいため、痛みが続くなら耳鼻科で鼓膜の状態を確認してもらうのが確実です。鼓膜に穴があると使える点耳薬が変わります(後述)。
やってはいけない応急処置
以下の行為はいずれも症状を悪化させるリスクがあります。理由とともに整理します。
| やってはいけない行為 | 理由 |
|---|---|
| ❌ 綿棒で水を吸い取ろうとする | 外耳道皮膚(厚さ0.1mm未満)を傷つけ、耳垢を奥へ押し込む。感染の直接的なきっかけになる |
| ❌ 耳かきで奥をいじる | 外耳道の皮膚は薄く、容易に出血。傷口が感染巣になる |
| ❌ 市販の消毒液(過酸化水素水等)を勝手に注ぐ | 鼓膜に穴があると内耳に流入し、内耳障害(感音難聴・めまい)のリスク |
| ❌ 指で耳の中をかく | 爪で傷をつけ、常在菌が侵入しやすくなる |
| ❌ 痛みを我慢して水泳継続 | 浸水が繰り返され、感染が深部へ拡大する |
| ❌ 温めて血行促進しようとする | 炎症部位への加温は菌の増殖を促進する場合がある |
特に「消毒すれば治る」という誤解は根強く残っています。外耳道の皮膚は非常に繊細で、過酸化水素水やアルコール系消毒薬は正常な皮膚細胞を傷害するだけでなく、鼓膜の状態によっては重篤な合併症をもたらします。
正しい応急処置フロー
水が入ったときの対処(ステップ別)
STEP 1: 自然排水を試みる
- 水が入った耳を下にして頭を傾ける
- 足踏みや軽いジャンプを数回行う
- 重力と外耳道上皮の自浄作用を活用する
STEP 2: 耳の入口のみ水気を取る
- 清潔なタオルやティッシュを耳の入口(外耳道入口部1cm以内)に軽く当てて吸水する
- 外耳道の奥に押し込まない
STEP 3: 抜けない場合はドライヤー(低温・遠め)
- ドライヤーの最低温度設定で、耳から30cm以上離して数十秒当てる
- 熱すぎると火傷の危険があるため、必ず低温設定を確認してから使用
STEP 4: 症状に応じた判断
かゆい・軽い違和感のみ → 様子見(1〜2日)、綿棒は使わない
痛い・膿が出る・聞こえが悪い → 耳鼻科受診
発熱・強い痛み・顔面症状 → 当日〜翌日中に受診
薬剤師メモ: 水泳後に耳閉感が残っても、多くは数時間〜1日以内に自然に解消します。急いで綿棒で対処しようとするより「待つ」ことが最善策の場合が多いです。
市販薬でできること・できないこと
日本における外耳道炎OTCの現状
外耳道炎に対するOTC(市販薬)の選択肢は限定的です。日本では外耳道感染に対して使用できる抗菌成分配合の点耳型OTC薬は基本的に存在しません。これは、点耳抗菌薬が医療用医薬品として分類されていること、鼓膜穿孔の有無を確認せずに使用するリスクがあることなどが背景にあります。
| 製品カテゴリ | 主な成分例 | 用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 耳介用の抗炎症外用薬(軟膏・クリーム) | ヒドロコルチゾン(低力価)、グリチルリチン酸 | 耳の外側(耳介)の軽いかゆみ・湿疹 | 外耳道の奥に注入しない |
| 解熱鎮痛薬(内服) | アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェン | 痛みの一時緩和 | 原因治療ではない。胃への影響(NSAIDs)に注意 |
| 抗ヒスタミン外用薬 | ジフェンヒドラミン塩酸塩 | かゆみ(アレルギー性)のみ | 感染が疑われる場合は不適。炎症を隠す可能性 |
| 耳洗浄液(耳垢除去用) | 重炭酸ナトリウム溶液など | 耳垢の軟化・除去 | 感染中は使用不可、穿孔がある場合は禁忌 |
解熱鎮痛薬の選択と薬学的ポイント
外耳道炎の痛みに対して内服する解熱鎮痛薬を選ぶ際、以下の点を考慮します。
アセトアミノフェン(一般名)
- シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害よりも中枢性の鎮痛・解熱作用が主体とされます
- 胃腸障害が少なく、小児・妊婦・高齢者にも使いやすい
- 成人の通常用量は1回500mgを目安とし(製品により異なります)、1日最大量を超えないよう注意
- アルコールとの併用は肝毒性リスクを高めるため避けること
イブプロフェン(一般名)
- COX-1・COX-2を非選択的に阻害するNSAIDsで、抗炎症作用も期待できる
- 空腹時服用で胃粘膜障害のリスクがあるため、食後服用が望ましい
- 腎機能低下者・消化性潰瘍の既往がある方は慎重に
ロキソプロフェンナトリウム水和物(一般名)
- プロドラッグ型NSAIDsで、吸収後に活性体に変換される
- 鎮痛効果は比較的速やかに発現する
- 胃腸障害のリスクはNSAIDs全般に共通するため、制酸薬との組み合わせを薬剤師に相談するのも一案
薬剤師メモ: 「点耳タイプの市販抗菌薬」は日本ではほぼ流通しておらず、感染が疑われる時点で耳鼻科処方が原則です。OTCで粘ると悪化させがちです。「とりあえず市販薬で様子をみる」が許容できる期間は、症状出現から1〜2日間が目安と考えてください。
耳鼻科で処方される主な薬(薬学的解説)
点耳抗菌薬の特徴と使い方
点耳薬は外耳道に直接薬剤を届けるため、内服薬と比べて局所濃度が非常に高いという利点があります。一方で、正しい使い方をしないと効果が半減します。
オフロキサシン耳科用液(一般名: オフロキサシン)
- 分類: ニューキノロン系抗菌薬
- 作用機序: 細菌のDNAジャイレース(トポイソメラーゼII)およびトポイソメラーゼIVを阻害し、DNAの複製・修復を妨げることで殺菌的に作用する
- 抗菌スペクトル: 緑膿菌・黄色ブドウ球菌・その他グラム陰性菌・グラム陽性菌に広く有効(添付文書より)
- 薬物動態: 点耳後の全身吸収は極めて少ない。局所濃度はMIC(最小発育阻止濃度)を大きく上回ることが多い
- 使用法: 通常1日2回、数滴を外耳道に滴下。滴下後5〜10分は耳を上にした横向き姿勢を保つ
- 注意点: 鼓膜穿孔がある場合は使用できる製剤と使用できない製剤があるため、必ず処方時に確認
レボフロキサシン点耳液(一般名: レボフロキサシン水和物)
- 分類: ニューキノロン系抗菌薬(オフロキサシンのS体光学異性体)
- 作用機序: オフロキサシンと同様にDNAジャイレースを阻害するが、S体のみのため抗菌活性はオフロキサシンの約2倍とされる
- 特徴: 緑膿菌への有効性も確保されており、耐性菌が増えた際の選択肢として処方されることがある
ピマリシン点耳液(一般名: ナタマイシン)
- 分類: ポリエン系抗真菌薬
- 適応: 真菌性外耳道炎(Aspergillus属、Candida属など)に使用
- 作用機序: 真菌細胞膜のエルゴステロールに結合し、膜の透過性を変化させて細胞死を誘導する
- 注意: 真菌感染は外観上、細菌感染と区別しにくい。外耳道に「白い綿状物」や「黒い粉状の付着物」が見られる場合は真菌が疑われ、抗菌薬点耳では改善しない
点耳薬の正しい使い方(患者向けチェックリスト)
点耳薬の使い方を誤ると、薬剤が鼓膜まで届かなかったり、めまいを引き起こしたりすることがあります。
- 使用前に手をよく洗う
- 薬液を体温に近づける: 冷蔵庫保存の場合は手のひらで1〜2分温める(冷たい薬液が内耳を刺激してめまいを起こすことがある)
- 患耳(悪い耳)を上にして横になる
- 外耳道が広がるよう、耳介を後上方に軽く引っ張る
- 所定の滴数を滴下し、耳珠を数回軽く押して薬液を広げる
- 5〜10分は横になったまま待つ
- 起き上がった後、耳の入口の余分な薬液はティッシュで軽く拭く
経口抗菌薬が使われるケース
外耳道炎は基本的に点耳薬で対応できますが、以下の場合は内服抗菌薬が追加されることがあります。
| 状況 | 選択される薬剤クラスの例 |
|---|---|
| 耳介周囲の蜂窩織炎合併 | セフェム系・ペニシリン系(細菌に応じて) |
| 頸部リンパ節腫脹を伴う中等症以上 | アモキシシリン/クラブラン酸、フルオロキノロン系など |
| 緑膿菌が疑われる難治例 | シプロフロキサシン(経口)など |
| 悪性外耳道炎(壊死性外耳道炎) | 静脈内抗菌薬(入院管理) |
薬剤師メモ: 抗菌薬は医師の処方なしに使用してはいけません。点耳薬もセルフメディケーションでは使える薬剤が極めて限られており、「感染症には抗菌薬」という安易な考えは耐性菌を増やす原因にもなります。
ステロイド含有複合製剤について
処方薬の中には、抗菌薬とステロイドを合わせた複合点耳薬も存在します。ステロイドは炎症を抑え、外耳道の浮腫や痛みを早期に軽減する効果がありますが、感染が制御されていない状態での単独使用は感染を悪化させる可能性があります。必ず処方医の指示のもとで使用してください。
こんな症状はすぐ受診を
受診の目安(重症度別)
| 症状 | 対応の目安 |
|---|---|
| 軽いかゆみ・耳閉感のみ | 1〜2日様子見可。悪化すれば受診 |
| 耳の痛みがある | 当日〜翌日中の受診を推奨 |
| 黄色〜緑色の耳漏、悪臭 | 当日受診 |
| 聴力が明らかに落ちた | 当日受診 |
| 38℃以上の発熱 | 当日受診 |
| 強い拍動性の耳の痛み | 当日受診(中等症以上の外耳道炎または中耳炎を考慮) |
| 顔面の動かしにくさ・強いめまい | 緊急受診(顔面神経麻痺・内耳波及を考慮) |
| 糖尿病・免疫抑制状態の方の耳痛 | 当日受診(悪性外耳道炎を考慮) |
高齢者・糖尿病の方の警告サイン:「悪性外耳道炎」
悪性外耳道炎(壊死性外耳道炎 / Necrotizing otitis externa) は、緑膿菌が外耳道から側頭骨・頭蓋底へ波及する重篤な感染症です。「悪性」という名称は悪性腫瘍を意味するのではなく、感染の経過が非常に重篤であることを指します。
リスクが高い患者層:
- 高齢者(特に70歳以上)
- 糖尿病患者(特に血糖コントロール不良の場合)
- HIV感染者・免疫抑制剤使用中の方
- 抗がん剤治療中の方
代表的な症状:
- 鎮痛薬が効かない夜間の激痛
- 長引く耳漏(3〜4週間以上)
- 外耳道底部に肉芽組織形成
- 顔面神経麻痺(口角が下がる、眼が閉じにくい)
- 複数の脳神経麻痺(舌咽・迷走神経麻痺など)
治療の概要(薬学情報): 入院のうえ、シプロフロキサシン(経口または静注)やセフタジジム(静注)など緑膿菌に有効な抗菌薬を**長期間(4〜8週間以上)**継続します。場合によっては外科的デブリードマンも必要です。早期診断・早期治療が予後を大きく左右するため、「ただの外耳炎」と放置しないでください(参考: UpToDate, Malignant otitis externa)。
再発させない予防策
水泳後の耳ケア(日常実践チェックリスト)
- 水泳後は頭を傾けて水を出す → 自然乾燥を基本とする
- 抜けにくい人は ドライヤーを低温で30cm以上離して数十秒
- シリコン製の水泳用耳栓を使う(繰り返す外耳道炎の既往がある場合は特に有用)
- 中耳炎・鼓膜チューブ留置歴がある人は耳鼻科で相談してから水泳開始
- 耳掃除は外耳道入口の1cm以内のみ、月1〜2回で十分
- 綿棒より 柔らかいティッシュやガーゼで入口を拭く ほうが安全
- 競技水泳選手やダイバーは定期的な耳鼻科チェックを検討
水泳用耳栓の選び方
水泳用耳栓にはいくつかの種類があります。外耳道炎を繰り返す場合は、耳鼻科医に相談してカスタムモールドタイプの耳栓(個人の耳型に合わせて作製)を検討することも有用です。
| タイプ | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| シリコン粘着タイプ | 入口に貼り付けるタイプ。外耳道に挿入しない | 外耳道炎の既往が多い方、小児 |
| フランジ型(市販品) | 複数のヒダで遮水。着脱が容易 | 一般的なプール使用 |
| カスタムモールド | 個人の耳型で作製。遮水性が高い | 競技水泳選手、繰り返す外耳道炎 |
薬剤師メモ: 「耳掃除が気持ちいい」のは迷走神経刺激によるもので、頻度を増やす理由にはなりません。外耳道の皮膚を刺激し続けると、耳垢腺の分泌が亢進してかえって耳垢が増えることが知られています。「気持ちいいから毎日」は健康上のリスクと理解してください。
点耳薬によるセルフ予防(「予防的点耳」について)
水泳後に2%酢酸溶液(酢酸・アルコール溶液)を使用して外耳道のpHを下げる方法が、一部の海外ガイドラインで外耳道炎の予防として紹介されています。ただしこの方法は、鼓膜穿孔・中耳炎の既往・外耳道の傷がある場合は絶対に使用できず、日本国内では医師の指示なしに実施するのは推奨されません。繰り返す方は必ず耳鼻科で相談してください。
渡航先・旅行中に外耳道炎になったときの対処
海外旅行中にスイマーズイヤーを発症した場合、現地での対処が必要になることがあります。海外旅行時の医薬品持参については [[travel-medicine-carry-on]] も参考にしてください。
旅行前の準備
- 処方抗菌薬の点耳薬を携行: 外耳道炎を繰り返す方や長期の水辺滞在が予定される場合、あらかじめ耳鼻科を受診して点耳薬を処方してもらうことを検討する
- アセトアミノフェン配合の鎮痛薬を常備する(NSAIDsが使えない方も含め、幅広い状況に対応しやすい)
- 旅行保険に加入し、現地受診に備える
現地で医師・薬剤師に伝えるフレーズ
英語が必要な状況では、以下のフレーズが役立ちます:
-
I have pain in my ear after swimming.(アイ ハヴ ペイン イン マイ イヤー アフター スイミング) -
I think I have swimmer's ear.(アイ シンク アイ ハヴ スイマーズ イヤー) -
Can I see an ENT doctor?(キャン アイ シー アン イー エヌ ティー ドクター?) ※ ENT = Ear, Nose and Throat(耳鼻咽喉科) -
Do you have ear drops for otitis externa?(ドゥ ユー ハヴ イヤー ドロップス フォー オータイティス エクスターナ?)
現地のドラッグストアで入手できる点耳薬の成分は国によって異なります。特に一部の国では抗菌薬配合の点耳薬がOTCで販売されている場合がありますが、成分・濃度・鼓膜穿孔への安全性を必ず確認してから使用してください。不明な点は現地の薬剤師に相談することが最善です。
暑い時期の旅行中に起こりやすい他の体調不良については [[summer-travel-health-tips]] も参照してください。
小児・妊婦・授乳中の方への注意点
小児の場合
小児は外耳道が成人より短く、角度が異なるため点耳薬の滴下角度が変わります。また小児は「耳が痛い」と適切に表現できず、機嫌の悪さ・耳を触る行動・発熱で発見されることがあります。
- 小児への解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンが第一選択(体重あたり用量は製品の指示に従う)
- イブプロフェンは6カ月未満の乳児には使用不可
- アスピリン(アセチルサリチル酸)は小児・10代の発熱にはライ症候群のリスクから使用しない
- 点耳薬は必ず医師の処方・指示に従う
妊婦・授乳中の方の場合
- 解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンが最も安全性が高いとされているが、用量を最小限に留める
- NSAIDs(イブプロフェン・ロキソプロフェンなど)は妊娠後期(28週以降)には胎児の動脈管収縮リスクがあるため原則禁忌
- 点耳抗菌薬の全身吸収は少ないが、妊娠中・授乳中の薬剤使用は必ず医師・薬剤師に相談を
まとめ
- プール耳の正体は外耳道の感染症。原因菌は緑膿菌・黄色ブドウ球菌が中心。
- 耳垢は生理的バリアであり、綿棒による除去がむしろ感染のきっかけになる。
- 軽症は乾燥と安静で改善するが、痛み・膿・難聴・発熱があれば耳鼻科へ。
- 点耳抗菌薬(ニューキノロン系など)は体温に近づけてから使用し、滴下後5〜10分横向きで保つのが基本。
- 市販薬で「治す」のは難しく、鎮痛薬で繋ぎつつ受診が現実的な対処法。
- 糖尿病・高齢者の長引く耳痛は悪性外耳道炎を念頭に置き、早期受診を徹底する。
- 予防は「綿棒を捨てる」「自然乾燥」「必要なら耳栓」の三本柱。
個別の症状や薬の使用については、必ず医師・薬剤師にご相談ください。特に小児・妊娠中・授乳中・基礎疾患のある方の耳痛は自己判断を避け、早めの受診をおすすめします。
参考文献
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). "Swimmer's Ear (Otitis Externa)." https://www.cdc.gov/healthywater/swimming/swimmers/rwi/ear-infections.html (2024年参照)
- Rosenfeld RM, et al. "Clinical practice guideline: acute otitis externa." Otolaryngology–Head and Neck Surgery. 2014;150(1 Suppl):S1-S24. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24491310
- American Academy of Otolaryngology–Head and Neck Surgery (AAO-HNS). "Clinical Practice Guideline: Cerumen Impaction." https://www.entnet.org/quality-practice/quality-products-and-resources/clinical-practice-guidelines/cerumen-impaction/
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). オフロキサシン耳科用液 添付文書情報. https://www.pmda.go.jp/
- World Health Organization (WHO). "Antimicrobial Resistance Global Action Plan." https://www.who.int/publications/i/item/9789241509763
- Hui CP; Canadian Paediatric Society, Infectious Diseases and Immunization Committee. "Acute otitis externa." Paediatrics & Child Health. 2013;18(2):96-98. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3567906/
- Hobson CE, Moy JD, Byers KE, et al. "Malignant Otitis Externa: Evolving Pathogens and Implications for Diagnosis and Treatment." Otolaryngology–Head and Neck Surgery. 2014;151(1):112-116. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24719420
監修: 薬剤師(博士(薬学))