スペイン渡航者向け予防接種ガイド:必要な接種と事前準備
スペインはEU加盟国で医療基盤が整備されており、特別な感染症流行地ではありません。しかし、渡航前の予防接種は「備え」として重要です。本記事では薬剤師として、スペイン渡航に際して検討すべき予防接種、接種スケジュール、費用について実用的に解説します。
スペインはバルセロナ・マドリード・セビリアなど観光・留学・長期就労のいずれの目的でも渡航者が多い国です。2024年の日本からスペインへの渡航者数は年間20万人を超えており、短期旅行から数年単位の滞在まで多様なニーズが存在します。渡航目的・期間・健康状態によって必要なワクチンは異なるため、本記事では薬学的な機序も交えながら、「誰に・なぜ・いつ・どのように」接種するべきかを体系的に解説します。
薬剤師メモ スペイン渡航は他のアフリカ・南米諸国と異なり、黄熱病予防接種は公式には不要です。ただしスペイン経由で他国へ向かう場合は要確認。
スペイン渡航時に推奨される予防接種
1. 必ず確認すべき定期予防接種
スペイン渡航前に、日本の定期予防接種歴を確認しましょう。以下は特に重要です。
| 予防接種 | 必要性 | 推奨時期 | 回数 |
|---|---|---|---|
| 麻疹(はしか) | ★★★ 推奨 | 渡航1ヶ月前 | 2回(1回のみ未接種の場合) |
| 風疹 | ★★★ 推奨 | 渡航1ヶ月前 | 2回(未接種の場合) |
| ジフテリア・破傷風・百日咳 | ★★ 確認 | 10年以内の接種を確認 | 追加接種1回(必要時) |
| ポリオ | ★★ 確認 | 過去の接種歴を確認 | 追加接種1回(必要時) |
| MMR(麻疹・風疹・おたふく) | ★★★ 推奨 | 渡航1ヶ月前 | 用量は年齢による |
麻疹と風疹について:スペイン国内でも定期的に小規模な流行が報告されています。1980年以後生まれで1回のみの接種、または未接種の場合は、2回接種の完成を強く推奨します。
麻疹ワクチンの薬学的解説
麻疹ワクチン(生ウイルスワクチン)は、弱毒化した麻疹ウイルスを抗原として使用します。接種後、自然感染に類似した免疫応答が誘導され、液性免疫(中和抗体産生)と細胞性免疫(T細胞応答)の双方が賦活されます。1回接種後の麻疹に対する防御効果は約90〜95%、2回接種完了後は97〜99%とされており、WHO・CDCともに2回接種完了を推奨しています。
抗体は接種後10〜14日で検出可能となり、2〜4週間でピーク値に達します。この免疫獲得のタイムラグがあるため、「渡航1ヶ月前」という推奨時期が設けられています。生ワクチンであるため、免疫不全者や妊婦への接種は禁忌です。また、接種後2ヶ月間は妊娠を避けるよう指導されています(胎児への理論的リスクのため)。
ポリオとジフテリア・破傷風・百日咳の確認ポイント
ポリオワクチン(不活化ポリオワクチン、IPV)は日本では2012年以降に定期接種化されています。1990年代以前生まれの方は経口生ポリオワクチン(OPV)で接種を完了している場合が多く、免疫持続期間は長いとされていますが、長期海外滞在の際は接種歴を確認することを推奨します。
ジフテリア・破傷風(DT)ワクチンは、トキソイド(毒素を無毒化したもの)を抗原とした不活化ワクチンです。抗体価は経年的に低下するため、最終接種から10年以上経過している場合は追加接種(ブースター)を検討します。百日咳成分を含むTdapワクチンは医療機関で相談のうえ接種可能です。
薬剤師メモ 日本の予防接種スケジュールは国際基準と異なる時代もありました。母子健康手帳が最も確実な接種歴の証拠。紛失時は自治体保健センターで照会可能です。
2. 渡航者向け推奨予防接種
スペイン滞在期間や活動内容に応じて以下を検討してください。
| 予防接種 | 対象者・状況 | 接種時期 | 効果継続期間 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 全渡航者推奨(衛生環境が不明な食事の機会がある場合) | 渡航4週間前 | 15〜20年以上 |
| B型肝炎 | 医療従事者、長期滞在(6ヶ月以上)、不測の医療が必要な場合 | 0日・28日・6ヶ月スケジュール | 30年以上 |
| B型肝炎(急速スケジュール) | 渡航直前での対応 | 0日・7日・21日スケジュール | 初回防御は確認必須 |
| 髄膜炎菌感染症 | 学生寮滞在、年間2週間以上の長期滞在 | 渡航2週間前 | 5〜10年 |
A型肝炎について:スペインは清潔な先進国ですが、地域によっては貝類の生食や衛生管理が不十分な屋台食の利用が予想される場合は接種を推奨します。
A型肝炎ワクチンの薬学的解説
A型肝炎ウイルス(HAV)は主として糞口経路で感染し、汚染された食品・水から摂取されます。スペインでは国全体の衛生水準は高いものの、生牡蠣・貝類・屋外フェスティバルでの飲食など感染機会が皆無ではありません。CDCの渡航者向けガイドラインでもスペインを含む多くの先進国への渡航においてA型肝炎ワクチン接種を推奨しています。
A型肝炎ワクチンは不活化ワクチンであり、接種後2〜4週間で防御的な抗体価(抗HAV-IgG)が得られます。1回接種後の短期防御率は95%以上、2回接種完了(初回から6〜12ヶ月後)で15〜20年以上の免疫持続が見込まれます。不活化ワクチンのため、免疫不全者にも接種可能という利点があります。
B型肝炎ワクチン:急速免疫スケジュールの意義
通常の3回接種スケジュール(0・1・6ヶ月法)に対し、渡航直前の急速スケジュール(0・7・21日法)は短期間での基礎免疫を得るための代替法です。ただし、急速スケジュールでは3回目接種後の抗体価が通常スケジュールより低くなる場合があり、接種から1〜2ヶ月後に抗体価の確認検査を行うことが望ましいとされています。また、4回目として12ヶ月後に追加接種(ブースター)を行うことで長期免疫を確保できます。医師に相談のうえ最適なスケジュールを選択してください。
髄膜炎菌ワクチンの適応と薬学的背景
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は飛沫感染で伝播し、集団生活環境(大学寮・シェアハウスなど)で感染リスクが高まります。スペイン留学中に大学寮や共同生活をする方は特に注意が必要です。現在利用可能な4価髄膜炎菌ワクチン(MenACWY)は血清型A・C・W・Y由来の莢膜多糖類と担体タンパク質を結合させた結合型ワクチンであり、T細胞依存性の免疫応答を誘導するため、免疫記憶が長期にわたって維持されます。
接種スケジュールの実践的プラン
パターン①:渡航まで3ヶ月以上ある場合
最も理想的なスケジュールです。複数回接種が必要な予防接種も完成させられます。
【推奨スケジュール】
┌─ 3ヶ月前 ─┬─ 1.5ヶ月前 ─┬─ 1ヶ月前 ─┬─ 出発 ─┐
│ 初回相談 │ A型肝炎① │ MMR │ 確認 │
│ 麻疹/風疹① │ B型肝炎① │ 髄膜炎菌 │ │
└───────┴──────────┴───────┴───────┘
|同時接種可
└→ 麻疹/風疹②(4週後)
└→ A型肝炎②(2週~4週後)
具体例:4月15日出発の場合
- 1月15日:初診相談、麻疹/風疹①、A型肝炎①、B型肝炎①
- 2月12日:麻疹/風疹②、A型肝炎②
- 3月15日:MMR追加確認、髄膜炎菌、ジフテリア・破傷風確認
- 4月15日:出発
3ヶ月前スケジュールの薬学的根拠
生ワクチン(MRワクチン・MMRワクチン)と不活化ワクチン(A型肝炎・B型肝炎・破傷風トキソイド・髄膜炎菌)は異なる免疫誘導メカニズムを持つため、同時接種に関するルールが異なります。生ワクチン同士を同日に接種しない場合は、少なくとも27日(4週間)の間隔が必要です。これは、先行接種した生ワクチンによるインターフェロン産生が後続ワクチンの抗原複製を抑制する可能性があるためです。一方、不活化ワクチンは同日複数接種が可能であり、生ワクチンと不活化ワクチンの組み合わせも同日接種が許容されています。
3ヶ月前スケジュールでは、この「27日ルール」を守りながら複数ワクチンを段階的に完成させることができ、出発時点でほぼすべてのワクチンが有効な抗体価に達した状態を実現できます。
パターン②:渡航まで1〜2ヶ月しかない場合
優先順位を付けて接種計画を立てます。
| 優先度 | 予防接種 | 実施時期 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 最高★★★ | MMR(麻疹/風疹) | 即座(1回でも効果) | スペイン国内での流行リスク |
| 高★★ | A型肝炎① | 今すぐ | 不測の感染に備える;2回目は渡航後でも可 |
| 中★ | ジフテリア/破傷風 | 近日中 | 定期接種の追加確認 |
| 低 | B型肝炎、髄膜炎菌 | 滞在延長時に検討 | 短期滞在ならリスク低い |
薬剤師メモ MMR(麻疹・風疹・おたふくかぜ)は1回接種でも麻疹は90〜95%、風疹は99%の効果が期待できます。完璧な2回接種完成より、渡航前に1回でも受けることを優先しましょう。
「渡航後2回目接種」の実践的注意点
A型肝炎ワクチンの2回目をスペイン現地で受けることは不可能ではありませんが、以下の点を事前に把握しておく必要があります。スペインの公立医療(セントロ・デ・サルード)では旅行者向けの任意接種を担当しない場合があり、プライベートクリニックでの受診が現実的です。ワクチンの製品(ブランド)が日本のものと異なっても、同一抗原成分(HAV不活化ウイルス)であれば互換性が認められているため、問題ありません。ただし接種記録の継続性を保つため、日本での接種証明書を携帯することを推奨します。
パターン③:渡航まで2週間以内(緊急対応)
医師や薬剤師に相談し、実施可能な接種に限定します。
- できる対応:麻疹/風疹(不完全でも1回接種)、ジフテリア/破傷風追加接種(可能なら)
- 困難な対応:A型肝炎、B型肝炎、髄膜炎菌(効果発現まで2週間程度必要)
緊急時の優先的な行動指針
2週間以内でも麻疹/風疹ワクチンは接種する価値があります。接種から7〜10日程度で部分的な防御が始まると考えられており、出発直前の接種でも「まったく意味がない」とはなりません。一方、A型肝炎や髄膜炎菌ワクチンは一般的に接種後2週間以上でピーク抗体価に達するため、渡航後の感染予防行動(手指衛生の徹底、生牡蠣・加熱不十分な貝類の回避、密集環境での換気確認など)で補完することが重要です。
また、渡航後も継続して接種スケジュールを完成させる意識を持つことが重要で、帰国後や長期滞在中のブースター接種計画を渡航前に医師と確認しておくことを推奨します。
予防接種費用の目安
日本国内での接種費用
| 予防接種 | 接種数 | 単価(目安) | 総額(目安) |
|---|---|---|---|
| 麻疹/風疹混合(MR) | 2回 | 6,000〜9,000円/回 | 12,000〜18,000円 |
| A型肝炎 | 2回 | 7,000〜9,000円/回 | 14,000〜18,000円 |
| B型肝炎 | 3回 | 5,000〜7,000円/回 | 15,000〜21,000円 |
| 髄膜炎菌(MenACWY) | 1回 | 12,000〜15,000円 | 12,000〜15,000円 |
| ジフテリア/破傷風(DT) | 1回 | 3,000〜4,000円 | 3,000〜4,000円 |
合計費用(基本セット):麻疹/風疹2回+A型肝炎2回 = 約26,000〜36,000円(目安)
薬剤師メモ 費用は医療機関によって異なります。大学病院の渡航医学外来や旅行外来は統一的な価格設定をしている傾向です。複数施設での見積もり比較をお勧めします。
費用を抑えるためのポイント
一部自治体では、就学前児童・妊婦・特定年齢層を対象に風疹・麻疹ワクチンの公費助成制度を設けています。特に1962〜1979年生まれの男性(風疹抗体保有率が低い世代)を対象とした無料接種事業が一定期間実施されてきた経緯があります。渡航前に居住する市区町村の保健センターへ問い合わせ、公費対象となるかを確認することで費用を大幅に軽減できる可能性があります。
また、B型肝炎ワクチンについては、職域での集団接種(医療機関勤務者等)で公費負担が認められているケースもあるため、勤務先の産業医・職場担当者に確認してみましょう。
ワクチンの副作用と管理
主なワクチン別副作用プロファイル
渡航ワクチンを接種する際は、各ワクチンの副作用プロファイルを理解したうえで適切に管理することが重要です。
| ワクチン | 主な局所反応 | 主な全身反応 | 重篤な副反応(頻度は低) |
|---|---|---|---|
| MR/MMR(麻疹・風疹) | 発赤・腫脹(軽度) | 発熱(接種5〜12日後)・発疹 | アナフィラキシー、血小板減少性紫斑病(非常にまれ) |
| A型肝炎 | 注射部位の疼痛・硬結 | 倦怠感・頭痛(軽度) | アナフィラキシー(非常にまれ) |
| B型肝炎 | 注射部位の疼痛・発赤 | 疲労感・頭痛 | アナフィラキシー(非常にまれ) |
| 髄膜炎菌(MenACWY) | 疼痛・腫脹・発赤 | 発熱・倦怠感・筋肉痛 | アナフィラキシー(非常にまれ) |
| DT(ジフテリア・破傷風) | 注射部位の疼痛・硬結 | 発熱・倦怠感(軽度) | 過敏反応(まれ) |
生ワクチン(MR/MMR)では、接種後5〜12日目ごろに弱毒化ウイルスの複製に伴う軽度の発熱・発疹が現れることがあります。これは「ワクチン接種後反応」であり、接種後3日以内の反応とは区別されます。MMR接種後に風疹様症状や軽度の耳下腺腫脹(おたふくかぜ様)が生じることもありますが、いずれも自然軽快します。
アナフィラキシーはすべてのワクチン共通の重篤なリスクですが、発生頻度は100万回接種に対して数件程度と非常にまれです。このため、接種後15〜30分間は医療機関内で経過観察することが推奨されています。
接種時の重要な注意点
ワクチン同時接種について複数のワクチンは同日の異なる部位で接種可能です。逆にスケジュール効率が向上します。
- 生ワクチン(麻疹、風疹、MMR、おたふく):同日実施可、または27日以上の間隔
- 不活化ワクチン(A肝、B肝、髄膜炎菌、破傷風):同日実施可、間隔不要
例:初診日にMMR+A型肝炎①+破傷風を同時接種し、27日後にMMR②+A型肝炎②を実施可能
特定の基礎疾患を持つ方への注意
免疫抑制剤・ステロイド使用中の方:生ワクチン(MR/MMR)は接種禁忌となる場合があります。免疫抑制の程度・期間により判断が異なるため、主治医と渡航医学専門医の双方に相談が必要です。
卵アレルギーのある方:MMRワクチンは鶏卵を培養基に使用して製造されますが、現在のワクチンに含まれる卵タンパク量は極めて微量です。日本アレルギー学会および米国CDC・AAP(米国小児科学会)のガイドラインでは、卵アレルギー(アナフィラキシー歴を含む)があっても、適切な観察体制のもとでMRワクチン接種が可能とされています。ただし、過去にワクチン成分(ゼラチン・ネオマイシン等)でアナフィラキシーを経験した方は禁忌となるため、詳細を医師に申告してください。
妊娠中・妊娠可能性のある方:生ワクチン(MR/MMR)は妊娠中禁忌です。接種後2ヶ月間の避妊が必要です。不活化ワクチン(A型肝炎・B型肝炎・破傷風トキソイド)は妊娠中でも接種可能とされていますが、必ず産婦人科医との相談のうえで判断してください。
スペイン入国時の予防接種証明
スペイン単独の入国には特別な予防接種証明書は不要です。ただし以下の場合は確認が必要です。
- EU内移動:予防接種パスポートの概念がある(特にCOVID-19流行中)
- 乗継地が西アフリカ等:黄熱病ワクチン必須地域を経由する場合は「国際予防接種証明書(黄熱病)」が必須
- 医療機関への就職/実習:施設によってB型肝炎証明を求められる場合あり
最新情報は外務省や滞在先機関に確認してください。
国際予防接種証明書(イエローカード)について
黄熱病流行地域を経由・滞在する渡航の場合、WHO認定の国際予防接種証明書(通称「イエローカード」)が必要となります。スペイン自体は非流行国ですが、アフリカ・中南米経由のルートを取る場合、乗継地の規定によって証明書の提示が求められます。イエローカードは検疫所もしくは指定の医療機関でのみ発行可能です。発行には手数料(目安)が発生するため、渡航ルートが確定した段階で早めに確認してください。
スペインの大学・研究機関・語学学校への長期留学の場合、入学時または寮入居時に接種証明書の提出を求められることがあります(特にMMR・B型肝炎)。留学先の機関から送付される書類を精読し、要求される接種種類と証明書の形式を事前に把握しておくことを強く推奨します。
予防接種後の注意
| 時期 | 注意事項 |
|---|---|
| 接種直後(15〜30分) | 医療機関で経過観察;アナフィラキシー対応のため直後の外出は避ける |
| 当日 | 激しい運動、入浴(注射部位を強くこする行為)、飲酒は避ける(局所反応悪化の可能性) |
| 数日間 | 発熱、軽度の倦怠感が生ワクチン後1〜2週間起こることは正常 |
| 生ワクチン後 | 他の生ワクチンは27日間隔、妊娠予定者は接種後2ヶ月の避妊 |
入浴については、注射部位を清潔に保つことが重要であり、軽いシャワーは接種当日でも問題ないとされています。ただし、長時間の湯船浸かりや注射部位を強くこすることは避けてください。NSAIDs(イブプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬)の使用については、理論上ワクチン応答を減弱させる可能性が動物実験レベルで示唆されていますが、ヒトでの臨床的影響については現時点でコンセンサスが得られていません。接種後の軽度の発熱・疼痛に対して解熱鎮痛薬を使用する場合は、医師・薬剤師に相談のうえ判断してください。
スペイン渡航前の医療相談の流れ
ステップ1:渡航前医学相談の受診(目安:出発3ヶ月前)
相談先:
- 国立感染症研究所 関連の渡航医学情報提供機関
- 大学病院の旅行外来・渡航医学外来
- 日本検疫衛生協会 登録医療機関(検疫所での渡航者向け相談窓口)
用意するもの:
- 母子健康手帳(予防接種歴確認)
- パスポート(渡航期間・滞在地確認)
- 既往歴メモ(アレルギー、免疫不全、妊娠の可能性、常用薬など)
渡航医学外来での相談内容の目安
| 相談項目 | 内容 |
|---|---|
| 渡航目的・期間 | 観光1週間 vs 語学留学1年では推奨ワクチンが異なる |
| 予定地域 | マドリード・バルセロナなど都市部 vs 農村部・離島 |
| 活動内容 | 観光・ビジネス vs 医療ボランティア・農業実習 |
| 健康状態 | 免疫抑制剤使用中・妊娠中・乳幼児同伴等 |
| 接種歴 | 母子健康手帳をもとに未接種・不完全接種を特定 |
ステップ2:接種計画の立案
医師・薬剤師と協力して、渡航日までのスケジュールを確定させます。この際、各ワクチンの接種間隔ルール(特に生ワクチン同士の27日間隔)と、効果発現に要する期間(概ね2〜4週間)を考慮したうえで、実現可能なスケジュールを組んでください。
ステップ3:接種実施と記録
接種済み証を必ず保管してください(スペイン滞在中の予期しない医療対応で有用)。
接種記録は日本語の接種証明書に加えて、英語版の接種証明書(英文予防接種証明書)を発行してもらうことを強く推奨します。英文証明書は渡航先の医療機関・大学・職場に提示する際に必要となることがあり、市区町村の保健センターまたは医療機関で発行可能です。また、デジタルコピーをスマートフォンやクラウドに保存しておくと、原本紛失時のリスクヘッジとなります。
よくある質問と回答
Q1:スペインはEU先進国だし、予防接種は本当に必要?
A:スペインは医療水準が高く、重篤な感染症リスクは低いです。ただし麻疹は小規模な流行が報告されており、国際渡航者は接種完成状態を推奨します。また、日本はかつて麻疹・風疹の接種機会が不均一であった時期があり、成人の免疫保有率が国際標準を下回っているケースが一定数存在します。渡航は自身の免疫状態を見直す好機でもあります。
Q2:出発1週間前に気づいた。何ができる?
A:医師に相談し、麻疹/風疹1回接種をお勧めします。1回でも感染リスクは大幅低下。A型肝炎は効果発現まで14日程度必要なため、渡航後の感染予防行動(手指衛生の徹底・生食回避など)に注力してください。
Q3:スペイン現地での予防接種は可能?
A:可能ですが、医療従事者とのコミュニケーション(スペイン語または英語)、ワクチン品質の保証の観点から、渡航前の日本での接種を推奨します。やむを得ず現地で接種する場合は、スペイン語で「Quiero vacunarme contra la hepatitis A.(キエロ バクナルメ コントラ ラ エパティティス ア。)」(A型肝炎の予防接種を受けたい)などと伝えるとスムーズです。
Q4:渡航後に体調を崩した場合、スペインの医療はどう使う?
A:スペインにはSistema Nacional de Salud(国民健康保険制度)があり、EU市民はほぼ無料で医療サービスを受けられます。日本人渡航者は原則として自費(または海外旅行保険適用)となります。渡航前に民間の海外旅行保険に加入し、保険証書を携帯することが重要です。発熱・下痢・皮疹などの症状が出た場合は、早めに現地医療機関を受診し、渡航前に接種したワクチンの種類と日付を医師に伝えてください。
Q5:子どもを連れて渡航する場合、特別な注意点は?
A:乳幼児は定期予防接種のスケジュールが日本の月齢基準で定められているため、月齢によって接種可能なワクチンが制限されます。特に麻疹ワクチンは日本の定期接種では1歳からですが、渡航前緊急接種として生後6ヶ月以上の乳児への接種が認められる場合があります(ただし定期接種とは別扱いとなり、1歳時の定期接種も必要)。小児科医・渡航医学専門医との事前相談が必須です。
渡航先スペインで気をつけるべき感染症(ワクチン以外)
ワクチンで予防できない感染症についても基本的な知識を持つことが渡航安全につながります。
食品・水由来感染症
スペインでは水道水は基本的に飲料可能な地域が多いですが、南部地域や島嶼部(カナリア諸島・バレアレス諸島)では水道水の塩素濃度が高く、胃腸が敏感な方は市販のミネラルウォーターを推奨します。生の貝類(特にムール貝・牡蠣)は腸炎ビブリオやノロウイルス感染のリスクがあり、免疫力が低下している方や高齢者は注意が必要です。
旅行者下痢症(Traveler's Diarrhea)
スペインはリスクの低い国ですが、旅行者下痢症は発生しうる最も一般的な健康問題のひとつです。主な起因菌は腸管毒素産生性大腸菌(ETEC)、カンピロバクター、サルモネラ属菌などです。予防の基本は手指衛生(食前・トイレ後の石けん手洗い)と加熱食品の摂取です。下痢症状が持続する場合や、発熱・血便を伴う場合は速やかに医療機関を受診してください。
西ナイル熱(West Nile Fever)
スペイン南部(アンダルシア地方など)では蚊媒介性の西ナイルウイルス感染が散発的に報告されています。ワクチンは現在存在しないため、虫除けスプレー(DEET含有製品など)の使用と長袖着用による蚊刺防止が唯一の予防手段です。
まとめ
- 最優先:麻疹/風疹(MR)の2回接種完成。1980年以後生まれで1回のみ、または未接種の場合は必須
- 推奨:A型肝炎(全渡航者)、ジフテリア/破傷風の確認・追加接種
- 検討:B型肝炎(医療従事者・長期滞在)、髄膜炎菌(学生・密集環境)
- スケジュール:渡航予定の3ヶ月前に医療機関で渡航医学相談を受け、個別計画を立案
- 費用目安:基本的な麻疹/風疹+A型肝炎で約26,000〜36,000円(目安)
- 記録管理:予防接種済み証(英文含む)を必ず保管し、滞在中の医療対応に備える
- 最新情報:渡航直前に外務省・大使館の現地情報を確認、入国要件変更に対応
- 副作用管理:接種後15〜30分は医療機関で経過観察、生ワクチン後は妊娠に注意
スペイン渡航は感染症リスク低めの先進国ですが、予防接種は「備え」の基本です。余裕ある渡航計画のなかで、渡航3ヶ月前を目安に医療機関への相談を開始することが、最も安心できる準備となります。
関連記事もあわせてご参照ください:
- [[europe-travel-health]](ヨーロッパ渡航全般の健康管理)
- [[travel-vaccine-schedule]](渡航ワクチン接種スケジュールの基礎)
- [[hepatitis-a-vaccine-guide]](A型肝炎ワクチン詳細解説)
参考文献
-
CDC(米国疾病予防管理センター)Travelers' Health – Spain https://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/traveler/none/spain
-
WHO(世界保健機関)International travel and health – Vaccines https://www.who.int/ith/vaccines/en/
-
外務省 海外安全情報 スペイン https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_159.html
-
国立感染症研究所 麻疹ワクチンに関する情報 https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrtpc.html
-
厚生労働省 予防接種情報(定期・任意) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
-
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)ワクチン添付文書情報 https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
監修:薬剤師(博士(薬学))